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民主党の秘密保護法案対案を考える(上) 公文書管理法改正案 [特定秘密保護法案]

政府の特定秘密保護法案がみんなの党や維新と修正されていく中で、11月19日に民主党が対抗するために公文書管理法の改正案と情報適正管理3法案をぶつけてきました。
民主党はそれ以前にも情報公開法改正案を国会に提出しているので、これで5つの法案が提出されたことになります。(情報公開法改正案についてはすでに分析した。)

自民党の側はあまり相手にしないという雰囲気を醸していますが、とりあえず簡単な分析だけはしておきたいと思います。
ウェブ上に上がっているPDFが文字認識できずコピーできないので、要約で話を進めます。
(ささいなことだが、こういう配慮ができないのはどうかと思う。)

内容は完全に二つに分かれるので、まずは公文書管理法改正案から。

民主党の公文書管理法改正案の主な内容は、箇条書きにすると以下の通り。

閣議やそれに準じる会議の議事録作成の義務(4条2項)と国立公文書館で30年後に原則公開(23条2項)

②廃棄する際に公文書管理委員会への諮問が可能に(8条3項)

③すでに存在する「行政文書の管理に関するガイドライン」を内閣総理大臣が定める「行政文書管理指針」として法的根拠を明確に(9条の2)

④国立公文書館等に移管された際に、移管元の行政機関から公開をしないでほしいとの意見書が出された場合への「参酌義務」の削除(16条2項)

国立公文書館等に移管された文書は原則30年で公開(16条3項)

⑥公文書管理委員会の委員を、内閣総理大臣の任命だけでなく国会同意人事にすること(28条4項)。

現在公文書管理法の適用外になっている「防衛秘密」と「特別防衛秘密」を公文書管理法の下に組み込むこと(自衛隊法とMDA秘密保護法の改正)。


部分的に理解不能な条文もあるのだが、おおよそこの7点ということになるだろう。
以下具体的に。

①民主党政権時代に岡田克也副総理が主導して公文書管理委員会で議論されていたものを法案としたもの。
特定秘密保護法案の提出の際に、公明党が同じ内容を自民党に飲ませていた。
よって、本来は自民党も同意しなければいけない条文のはずだが・・・

②廃棄のチェックは内閣総理大臣(実質は内閣府の公文書管理課と国立公文書館)がやっていたのを、そこに公文書管理委員会も関与できる仕組みを作ったということ。
これは「特定秘密」(民主党案では「特別安全保障秘密」)を外された後の文書の廃棄について、委員会にチェックさせることを想定しているのだろうか。

③ガイドラインに権威を付けるだけなので、現状と変わらない。
ただ、各行政機関がガイドラインから外れたことはしにくくなるという効果はあるだろう。

④現在は移管元の行政機関が「公開しないで」と意見書を出した場合は参酌しなければならず、国立公文書館等の独自の判断を制限している。
これを削除して、国立公文書館等の第一義の判断を尊重するということ。

この規定は良いと思うが、そもそもそのように改正されても、意見書をいまの国立公文書館等が無視できるとも思えないので、すぐには実効性がないと思われる。
国立公文書館がもっと大きな組織になれば効果を発揮するかも。

⑤「30年公開原則」を前面に打ち出したもの。
実質的には現在と同様の審査があるので、今と同様に30年以上経過しても公開されない情報は残る。
じゃあ意味がないじゃないかと思われるかもしれないが、「原則30年で公開」という原則論を掲げるのは、国立公文書館等が文書の公開を積極的に決断しやすくなるという心理的な効果はあるだろう。

⑥公文書管理委員会の委員を、内閣総理大臣の恣意的な任命ではなく、国会の同意が必要にさせるということ。
ただ、国会同意人事になっている情報公開・個人情報保護審査会が、ただの官僚の天下り先になっていることからわかるように、同意人事を導入すれば恣意的で無くなるということでもない。

この委員会の条文は細かい規定が他にも作られていて、「秘密の漏えい禁止」や「政治運動の不可」などが新たに付け加えられている。
⑦との関係で、委員に色々と責任を負わせるということなのだろう。

⑦最近明らかになった「防衛秘密」と「特別防衛秘密」(米軍の装備品等の情報)の公文書管理法適用外を解消しようとするもの。
諸手を挙げて賛成するが、これは政府だけでなくアメリカが絡んでくるのでどうなるか。

①から⑦を見ると、基本的には同意できる内容だろう。
即効性という意味では①と⑦ぐらいしか効果は無いだろうが、この二つが非常に重要。
他の条文も今のうちにきちんと変えておくのは悪くないと思われる。
(⑥については保留。国会同意人事の場合、政争に巻き込まれることがあり、制度の主旨に沿わないのではという気もするので。)

特定秘密保護法案とは⑦が一番関係があるか。
ただ、民主党が「特定秘密」の代わりに作った「特別安全保障秘密」も公文書管理法の適用外にするように読めるので、結局公文書管理法の適用外の部分はできてしまうと思われる。

次回は残りの情報適正管理3法案について考えてみます。
下に続く↓
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2013-11-29
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「第三者機関」のあり方が問題(特定秘密保護法案) [特定秘密保護法案]

特定秘密保護法案、自民党と維新やみんなの党の修正協議が進んでおり、色々と観測気球のような報道がなされています。
そのうちの一つ。

「第三者的仕組み重要」 秘密保護法案で首相軟化
産経新聞 11月17日(日)7時55分配信

 安倍晋三首相は16日、特定秘密保護法案をめぐり、秘密指定の妥当性をチェックする第三者機関の設置に関し「第三者的な仕組みで適切な運用を確保する仕組みを作ることも重要な課題だ」と述べた。羽田空港で記者団に語った。第三者機関設置は日本維新の会が与党との修正協議で要求している。首相は柔軟姿勢を示すことで維新の協力を得たい考えだが、維新側は指定期間が30年を超えた特定秘密をすべて公開することも求めており、首相の発言では不十分との構えだ。

 今国会での法案成立を目指す政府・与党は、22日までに法案を衆院通過させたい考え。与党による「強行採決」のマイナスイメージを避けるため、維新やみんなの党の協力を得ようと修正協議を重ねている。

 ただ、第三者機関の設置は法案の根幹に関わる手直しになるため、政府・与党内には慎重論が根強い。首相も「重層的な仕組みで恣意(しい)的な指定がなされないようになっている」と述べ、有識者会議が統一基準を定め、指定状況を確認する仕組みが法案で担保されているとの考えを強調した。

 これとは別に政府内に何らかの監視組織を設置する可能性はあるが、首相が第三者機関設置の法案明記を言及したわけではない。

 このため、維新の松野頼久国会議員団幹事長は16日、都内で記者団に「維新案を丸のみするぐらいの修正でなければ賛成できない」と明言した。与党と維新は18日も協議を行うが、その行方は不透明だ。
(引用終)

安倍首相に近い産経が書いている記事ということを考えても、政府の本音の部分をかなり的確に読み取っているように思われる。

最近の報道で、安倍首相は繰り返し「第三者的な仕組みで適切な運用を確保する仕組みを作ることも重要な課題だ」と言っているが、問題はその「第三者的な仕組み」が何を指しているのかだ。

ある種の監視機関を作るということだが、これまでの政府答弁では、上記の産経が述べているように、「有識者会議が統一基準を定め、指定状況を確認する仕組みが法案で担保されている」(つまり第18条第2項)として、私的諮問機関による基準作りで十分だと言っており、これのことを指している可能性も否定できない。

政府は「恣意的な運用が行える仕組みを作る」ということが大前提であり、そこを脅かす修正には応じないという 方針をずっと取ってきており、この部分に手を付けるとは思えない。
また、手を付けた場合、「監視機関」をどのようにするのかという「中身」を詰めなければならないので、それをあと数日で作り上げるというのは不可能である。

今のところ、維新がこういった安倍首相の口先介入に騙されないという意思を示しているのは救いだが、「第三者機関を作りますから」という口約束だけで同意しないことを切に願う。


なお、すでに「監視機関」についての話は、以前のブログの記事で書いているのだが、少しだけ追記を。

そもそも「監視機関」である「第三者機関」というのはどういうものになるのだろう。

まず「行政機関」「立法機関」「司法機関」のどこに置くか(民間や独立行政法人はどう考えてもありえないだろう)。

「立法」の場合は衆議院か参議院の下に置くことになるだろうが、すべての国会議員の下に置かれるという機関というのは仕組みがあまり想像できない。
議長の直轄にするにしても、衆参どっちに置くのかとかも問題になりそう。

「司法」の場合は最高裁の下に置くということになろうが、そうなると「憲法裁判所」みたいな発想に近くなる。
そもそも司法は法に基づいて裁く機関であり、常時監視する機関を作るのにふさわしいのかと言われると疑問。

となると「行政」に置くしかない。
森雅子担当相も「行政機関の内部に第三者的な機関」設置を「検討する」と国会で答弁している(朝日新聞11月17日朝刊)ようなので、置くとしても「行政機関」として置くということになるだろう。

問題は「行政機関」として置く場合、その独立性をどう担保するかということになるだろう。
政府はおそらく「行政機関」として置いたとしても、内閣官房に設置するなどして、実質的に政府が思い通りに動かせる機関としようとするだろう。
もしくは、私的諮問機関みたいな曖昧なものを作って「監視機関」と言い張るか。

少なくとも「独立性」を担保するのであれば、会計検査院か人事院のような、行政機関ではあるが政府からの独立性が高い機関というのが想定されるだろう。
憲法上に設置規程のある(第90条)会計検査院と同等は難しいが、人事院のように「内閣の所轄の下に」(国家公務員法第3条第1項)として内閣の指揮命令を受けない組織であることが、現状では最も可能な選択肢ということになるだろう。

しかし、当然人事院のような組織を作っても、誰が総裁を任命するのか、人員や予算がどのくらいになり、人事の独立性がどこまで担保されるのか(各省庁出向組が監視しているようでは意味が無い)、法的にどのような権限を有し、なにができるのか、審査の恣意性の排除をどこで担保するのか。
詰めるべきことはくさるほど出てくる。

前回のブログでも書いたが、もしこういう監視機関をきちんと作るなら、法案を取り下げて、半年ぐらいかけて他国の制度などを学び、仕組みを整えてから改めて法案を出すのが筋だ。
第三者機関の設置を「検討する」と言いながら、その脇で中谷元・副幹事長が「今週が時間的な限界」などと17日朝のテレビで語っているので、どこまで本気なのか極めて怪しいものと思われる。

政府が口でごまかそうとしていることに乗っていってはいけない。
「あとから作る」みたいなごまかしで逃げさせてはいけないのだ。


追記

こうなると、そもそも公文書管理を監視するための公文書管理庁(院)の設置案をぶつけて、秘密の管理も含めて公文書管理制度全体の監視機能の強化をめざすということもありえるのかなとも思う。
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「特定秘密」の範囲限定の困難さ [特定秘密保護法案]

特定秘密保護法案の衆議院での審議が続いている。
報道しか追えていないが、「何が特定秘密に入るのか否か」という点での議論が非常に多いように思われる。

また、修正協議に応じない民主党への牽制のために、政府は維新と修正協議をしようとしているとの報道もされている。
『朝日新聞』11月12日朝刊の記事では、「維新は特定秘密の範囲をより限定することを柱とする修正案を準備している」とあり、どうやら「特定秘密」の範囲を狭めることは自民も同意可能ということのようだ。

ただ、この一連の国会の議論を見ていると、「特定秘密の限定には限界がある」ということがきちんと認識されているのかが気にかかる。

もちろん「原発情報は入るのか否か」みたいな具体的な質問の方が、この法案の危険性についてアピールしやすいことは否定しない。
その点を追及して、「特定秘密」の範囲を狭めさせることも必要なことだろう。
だが、こういった論点の立て方には一定の効果しかない。

そもそも、私たちは今から10年、いや30年50年先に「特定秘密」になりそうな情報を、いまから想定することができるだろうか。
まだ原発自体が存在していなかったときに、「原発情報はテロの対象になるから公開しません」みたいな議論はそもそも起きえない。
つまり、新技術が開発されたり、全く想定しない安全保障問題が起きることはありうるのだ。
よって、いま私たちが思いつく話題をひたすら政府にぶつけても、それで「特定秘密」の範囲は限定できないのである。

結局この制度を「作る」とした場合には、監視検証するシステムをどう構築するかという論点は最も重要なものになっていくと思う。
ここを保証しない秘密保護システムは、確実にブラックボックスを各省庁に作り出し、そして闇から闇へと様々なものが消されていくことになる。
いくら首相が国立公文書館に行って「保存期間が満期を迎えたものは他の行政文書と同様に適切に取り扱われる」と言った(11月11日)ところで、「制度的な保証」が存在しない限り空手形にしかならないのだ。

この監視検証するシステムについては、民主党時代の「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」も含めて、今まできちんと政府の側は検討していない。
まずはこの法案を棚上げした上で、監視検証のシステムについて各国の状況、日本に適したあり方について、有識者や超党派の議員で議論を重ね、それを組み込んだ上で改めて法案を提出し直して審議するべきではないか。
その際に、公文書管理法をどうやって関わらせていくか(既存の公文書管理委員会を例えば「特定秘密」延長の際の監視機関としても利用するなど)も考える必要があるだろう。

少なくともこの法律が「必要」というなら、そこまでやらなければ批判は収まらないだろう。
来週には衆議院を通すと政府関係者は話しているようだが、このまま法案が通ったら、自民党すらも後悔することになるのではないか(自分たちが野党になる可能性を考慮していないのか?)。

もっと慎重な審議を願いたいと思う。
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特定秘密保護法案を考える 補論 「特別防衛秘密」の闇 [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
11月7日から衆議院で審議も始まりました。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

ここまで、特定秘密保護法案の何が問題なのか分析してきました。
第1回第2回第3回第4回第5回
逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

最後に補論として、「特別防衛秘密」の話を書いておきます。
調査時間が十分に取れないので、見切り発車で書きますが、どうやらこの「特別防衛秘密」が今回の法案の原点にあたるもののように思います。
脱線も多いですが、集めた情報を並べておきます。

補論 「特別防衛秘密」の闇

今回の「特定秘密保護法案」は、自衛隊法の「防衛秘密」がそのまま移されてきているため、モデルが自衛隊法にあるのは間違いないと思われる。
「防衛秘密」については、すでに第2回で書いたので省略。

そして、この「防衛秘密」が設定された2001年の自衛隊法改正の際に参考にされたのが、「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」(1954年制定)、いわゆる「MDA秘密保護法」(注1)である。

このMDA秘密保護法において「特別防衛秘密」(注2)が定義されている。
第1条の定義を見てみると

3  この法律において「特別防衛秘密」とは、左に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書、図画又は物件で、公になつていないものをいう。
一  日米相互防衛援助協定等に基き、アメリカ合衆国政府から供与された装備品等について左に掲げる事項
 イ 構造又は性能
 ロ 製作、保管又は修理に関する技術
 ハ 使用の方法
 ニ 品目及び数量
二  日米相互防衛援助協定等に基き、アメリカ合衆国政府から供与された情報で、装備品等に関する前号イからハまでに掲げる事項に関するもの


この情報の漏えいに対しては最高で懲役10年が課されており(第3条第1項)、また「特別防衛秘密を他人に漏らした者」も最高懲役5年(第3条第2項)となっており、たまたま秘密を入手して他人に話した民間人も刑罰の対象となっている。
この罰則の多くがそのまま「防衛秘密」→「特定秘密」と引き写されているのが今回の法案になる。

この「特別防衛秘密」は、1954年に米国との間に結ばれた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(MSA協定)に基づいて設定された。
MSA協定は、当時の保安隊への米国からの武器供与を定めた協定であり、これに基づいて事実上の「軍隊」である自衛隊が発足したことで知られる。
この「特別防衛秘密」で定義されたものは、要するに米軍から提供された武器に関する情報(武器そのものを含む)ということになる。

このMSA協定の第3条および附属書Bには次の文面が入っている。

第三条
1 各政府は,この協定に従つて他方の政府が供与する秘密の物件,役務又は情報についてその秘密の漏せつ又はその危険を防止するため,両政府の間で合意する秘密保持の措置を執るものとする。
2 各政府は,この協定に基く活動について公衆に周知させるため,秘密保持と矛盾しない適当な措置を執るものとする。

附属書B
 日本国政府が第三条1に従つて執ることに同意する秘密保持の措置においては,アメリカ合衆国において定められている秘密保護の等級と同等のものを確保するものとし,日本国が受領する秘密の物件,役務又は情報については,アメリカ合衆国政府の事前の同意を得ないで,日本国政府の職員又は委託を受けた者以外の者にその秘密を漏らしてはならない。


このため、日本側は秘密保護のための法律を作ることが義務付けられ、この結果できたのがMDA秘密保護法ということになる。
この法律を作る際に、保安庁(現在の防衛省)の内部で軍事機密を包括的にカバーできる秘密保護法が検討されていたようだが、内部の検討だけで終わったようだ(藤井治夫『日本の国家機密』現代評論社、1972年、3-4ページ)。

この法案をめぐって、当時の国会では「秘密の範囲」や「報道の自由」などが議論となったようである。
なにか既視感があるなあ・・・

ちなみに、在日米軍の機密情報漏えいへの罰則については、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法」(1952年制定)という長い名前の法律が定められており、第6条から8条にかけて、最高懲役10年という、MDA秘密保護法と同様の規定が存在している(こちらの方が前なので、むしろ秘密保護法の方がこの刑事特別法を参照しているというべきか)。

よって、米軍からの武器情報および米軍機密の漏えいについては、すでに1950年代に法律で厳しい罰則が科されていたのである。

なお余談になるが、自衛隊では同じような罰則を2001年まで法定化できなかった。
おそらく、戦前の軍機保護法や国防保安法といった機密漏えいへの罰則法が弾圧立法として使われたことや、自衛隊を「軍隊」とは呼べない日本国憲法との兼ね合いの問題などがあったのだろう。

このため、自衛隊内の秘密は「防衛秘密の保護に関する訓令」(1958年防衛訓令51)、「秘密保全に関する訓令」(1958年11月15日防衛訓令102)といった「訓令」によって、その規定が定められることになった。

(ただ藤井の上記の本によれば、次官会議申合せ「秘密文書等の取扱規程の制定について」(1953年4月30日)に基づいて、保安隊時代の1953年に「秘密保全に関する内訓」を作っているとされているので、これらの「訓令」以前にも秘密取扱いの規程のようなものはあったのではないか。前掲『日本の国家機密』4ページ。)

さらに情報を足すと、防衛庁が内部で行っていた「三矢研究」(第2次朝鮮戦争が起きたと仮定して作られた非常事態対応の計画文書)が社会党の岡田春夫衆議院議員によって暴露された直後に、事務次官等会議申合せ「秘密文書等の取扱いについて」(1965年4月15日)が作られ、この第10項に「不要の秘密文書は、必ず焼却する等復元できない方法により処分すること」が定められた(前掲『日本の国家機密』105-106ページ)。
つまり、当時の官僚達は「秘密文書は最後は闇に葬る」ことを事務次官会議で申し合わせていたようである。

この申合せがその後どうなったかはよくわからない。ご存じの方がいれば教えていただければ。

脱線しすぎた。戻ります。

さて、この「特別防衛秘密」。1954年にMDA秘密保護法が制定されてから内容は一切変わっていない。
しかも、今回の「特定秘密保護法案」の対象から「特別防衛秘密」は外されている。
つまり、「特別防衛秘密」だけは別の法律で規制するままの状態に保たれるということだ。

しかし、今回の特定秘密保護法案とMDA秘密保護法を比べてみると、この法体系を維持する理由はよくわかる。
MDA秘密保護法にも第7条には「拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあつてはならない」とは書いてあるが、今回の法案のように報道の自由などへの配慮規定は存在しない。
また、特定秘密保護法案は今回の国会を通ったとしても、議論の中でさまざまな制約を課されることになるだろうが、「特別防衛秘密」についてはこれまで通りの運用を続けることができる。
つまり、米軍から提供された武器に関する情報は、制約をかけられることなしにこれまで通り隠し通したいのだろう。

この「特別防衛秘密」にあたる文書が、秘密指定を解除されて国立公文書館に移管をされたケースを私は聞いたことがない。
おそらく「防衛秘密」ですら全廃棄している防衛省ならば、「特別防衛秘密」も当然のごとく保存年限が来たら全廃棄していることは目に見えている。

よって、すでにこの「特別防衛秘密」は闇に葬られているし、特定秘密保護法案が少しはマシなものに修正されたとしても、闇はまだ残るのだ。

法案には入っていないので国会で議論されることはないだろうが、この「特別防衛秘密」の存在は頭に残しておかないといけないと思う。

これにて連載は終了。
これからは国会審議で気になったことがある時に書いていこうかと思います。
公文書管理法制定の時は院生だったので委員会審議を全てチェックできましたが、さすがに映像を何時間もチェックしている余裕はもうないです。新聞報道に期待したいところです。


注1
「日米相互防衛援助協定」は通称MSA協定と呼ばれる。これは、この協定の基礎になった米国の法律(Mutual Security Act)によっている。
だが本来「相互防衛援助」はMutual Defense Assistanceと英語で書くため、MDA協定という方が正しい。
そのため防衛省では、この協定の秘密保護法を「MDA秘密保護法」という言い方をしている。

なお、歴史用語としてはMSA協定が根付いてしまったため、この秘密保護法も長らくMSA秘密保護法という言われ方をされていた。
この記事では、「MSA協定」「MDA秘密保護法」という今現在もっとも通っている名称で書くことにする。

注2
「特別防衛秘密」は、2001年の自衛隊法改正までは「防衛秘密」と呼ばれていた。この時の改正で「防衛秘密」が別に定義されたので「特別」が前についた。
この記事では紛らわしいので「特別防衛秘密」に表記を統一する。

参考文献
・藤井治夫『日本の国家機密』現代評論社、1972年
・藤井治夫『ここまで来ている国家秘密法体制』、日本評論社、1989年
→藤井氏は軍事評論家。防衛庁や自衛隊などに協力者がいたようで、内部の人しか見られない文書がたくさん引用されている。
こういった本は得てして感情的な批判が前面に出やすいが、理詰めで書かれていて、引用文も豊富であり、非常に参考になる。

・横浜弁護士会編『資料国家秘密法』花伝社、1987年
→中曽根政権時代のスパイ防止法案への反対運動の中でまとめられた資料集。
上記で触れた「刑事特別法」や「MDA秘密保護法」の制定過程などの細かい解説があり、参考になる。

・中村克明「戦後日本における国家秘密法制の展開」『関東学院大学文学部紀要』101号、2004年
http://ci.nii.ac.jp/naid/40006594800
→中村氏は図書館情報学が専門。だが、逆に法学者でないが故に、非常にコンパクトに情報がまとめられていて、戦後の防衛秘密関係の法令などを俯瞰的に見るにはわかりやすい。
なお「国家秘密保護法に関する図書目録」も作られているので、これも参考になる。両方ともウェブ上で見れます。
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特定秘密保護法案を考える 第5回 民主党情報公開法改正案は歯止めになるか [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
11月7日から衆議院で審議も始まりました。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

そこで、特定秘密保護法案の何が問題なのか、私なりの分析をしていきます。
第1回はこちら。第2回はこちら。第3回はこちら
逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

第5回 民主党情報公開法改正案は歯止めになるか

今回の特定秘密保護法案への対抗として、民主党は情報公開法の改正案を国会に提出した。

この改正案は、民主党政権時代の2011年4月に閣議決定されて、そのまま放置されて廃案になったものをコピペして再提出したものである。
この時の改正案の解説はすでにブログで詳細に述べたのでそちらを参照のこと(全6回、第1回へのリンク)。

この改正案を全体を通して考えると、不十分ではあるが評価に値するとの考え方は今も変わっていない。
ただ、これが「特定秘密保護法案」への対抗のために出てきたと考えた場合、看過できない問題がある。
それは「果たしてこの改正案で特定秘密保護法の歯止めになるのか」という問題である。

この改正案の提出者の中心である枝野幸男衆議院議員は、次のように語っている。

 今回の情報公開法改正で情報公開の対象を最大限大きく、逆に言えば公開しない範囲を必要最小限に小さくするという改正と、最終的には裁判手続きで公開請求の可否が判断されるわけだが、その際に裁判所における、いわゆるボーンインデックス(情報を審査会の指定する方法により分類、整理した資料)と最終的にはインカメラ審査(情報公開・個人情報保護審査会が当該非公開情報を入手し、公開するかどうかの妥当性を非公開で審査するもの)も可能にする改正内容になっている。インカメラは主に被告側の同意も必要な手続きになるが、逆にボーンインデックスの手続きその他と合わせれば、合理的な理由説明もなしにインカメラを否定すれば、裁判における事実認定に大きく影響を与えることになるので、インカメラの手続きが最終的にあり得るということは大きな効果を持つと思っている。また、最終的にこうした形で司法のチェックが入ることで行政の内部にも緊張感をもって過大な指定がなされないようにという抑止力が働くのではないかと期待している。(引用終)

ここで枝野議員は「ボーンインデックス」と「インカメラ審理」が裁判所で認められることが重要だと述べている。
つまるところ、この二つで「特定秘密」を監視することが可能と考えているように見える。
また、抑止効果もあるだろうとも話している。

ちなみにこの二つが書かれているのは、改正案の第23条と第24条。
文面を出すと逆にわかりにくい(文面を見て解説を読みたい方はこちら)ので、この二つを簡単に説明する。

「ボーンインデックス」とは、裁判所が行政機関側に、不開示にしている理由を全て分類整理して、それぞれの不開示理由がわかるように解説した文書を提出させるというものである。
つまり、争点を明確化するための情報を、行政機関側に提出させるということである。
この提出されたものは、もちろん原告側にも提供され、それに基づいて裁判を進めることになる。

文書の開示を求める情報公開訴訟の場合、そもそも「墨塗り」にされている個所が非常に多い文書を対象にするので、それぞれがどの理由で不開示になっているかわかりにくく、争点を整理するだけで苦労する。
そのため、最初に何が論点になっているのかを被告側の行政機関に整理させるのがボーンインデックスにあたる。

「インカメラ審理」とは、訴訟の対象となる文書を裁判官だけが見て「検証」することができる制度である(原告には見せない)。
現在の裁判では、裁判官が訴訟の対象文書を見たくても、行政機関に拒否されれば強制することはできない。
そのため、不開示部分を自分の目で判断できず、結局裁判官は推測で判決を書かざるをえなかった(当然行政機関に有利な判決が出やすい)。

インカメラ審理が認められると、裁判官には原則対象文書を見せなければならなくなる。
その意味では、情報公開訴訟に携わっている人には、この条項があるかないかで状況が大きく変わる。

ではこの二つが保証されているこの改正案が通れば、「特定秘密」を司法が監視できるのだろうか。
答えはNoである。

というのは、民主の改正案のインカメラ審理(第24条)の部分には次の文面が入っているからである。

2 前項の申立てがあったときは、被告は、当該行政文書を裁判所に提出し、又は提示することにより、国の防衛若しくは外交上の利益又は公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼす場合その他の国の重大な利益を害する場合を除き、同項の同意を拒むことができないものとする。

これは裁判所が行政機関にインカメラ審理を求めた際の規定を決めたもの。
原則行政機関は拒めないが、「国の防衛」などについては「拒否」できるのだ。

「特定秘密」が「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれ」がある情報である以上、どう見ても提出を拒否できる「例外」にあてはまるだろう。
よって、この改正案でインカメラ審理が裁判官に認められたとしても、「特定秘密」に関わる情報公開訴訟の際には、行政機関が「提出拒否」をされたらそこで終わりである。
つまり、「特定秘密」の監視にはほぼ間違いなく役に立たないのだ。

この例外規定のまずさについては、すでにこの改正案が出された2011年の段階で私も書いている
最近でも『毎日新聞』の11月4日朝刊の特集記事でこの件が書かれているし、情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんも同じ懸念をすでにブログで書かれている。
また、『東京新聞』11月4日朝刊では、この改正案は民主党の「世論意識のアリバイづくり」でしかないと厳しい批判を行っている。
正直歯止めになっていない以上、そう批判されてもやむをえない状況だろう。

よって、この情報公開法改正案がセットで通ったからといって、「特定秘密」が監視できると思ったら大間違いである。
「裁判所から提出命令を受けたら、どの文書であっても必ず提出しなければならない」という文面に変えてあれば効果があるかもしれないが・・・
一度は政権を取った民主党からしても、「提出義務は自分が政権を取ったときにきつい」と思ったのではないだろうかと邪推してしまう。

11月7日の各紙で、自民公明の両党が、秘密保護法案を通すために、この情報公開法改正案も民主党との協議の対象に考えていると報道されている。
なので、上記の点は強く主張しておきたい。


補論

なお、「特定秘密」は情報公開法の請求対象となるし、司法や情報公開・個人情報保護審査会(情報公開制度における不服申立の審査を行う)があるから監視機能は存在すると主張する政治家がいる。

典型が、11月3日のNHKの番組での中谷元・自民党副幹事長(元防衛相)の発言である。
民主党の情報公開法改正案について「公開できる情報は公開するべきだが、守るべき秘密も必要だ。判断に不服があれば司法などに訴えられ、すでに基本的ルールはできあがっている」と述べたと報じられた(『朝日新聞』11月4日朝刊など)。

中谷氏は元自衛官である。秘密の取扱いも当然行っていたはず。
そしてインカメラ審理が存在しない司法でどのような裁判が行われているかご存じのはずだろう。
「確信犯」的に誤った方向に世論を誘導しようとしているとしか思えない発言である。

「制度が存在する」と「制度が機能する」との間には大きな溝があることに注意しなければならない。

これは、情報公開・個人情報保護審査会についても言える。
確かに情報公開法に基づいて「特定秘密」にあたる文書も請求できる。
だが、防衛や公安情報は不開示にできるので、ほぼ100%公開されることはないだろう。
その際に審査会に不服申立をすることができる。

そして審査会には「インカメラ審理」がすでに認められている。
だが、審査会は「情報公開法」に基づいて審理を行うのである。「特定秘密」であることの妥当性を判断する機関ではない
また、たとえ審査会が「開示するべき」との答申を行った場合でも、行政機関側が答申に従う義務は制度上保証されていない(つまり不開示を貫いても法的に問題は無い)。

よって、この審査会も「特定秘密」の歯止めには役立たない。

繰り返すが、「制度が存在する」と「制度が機能する」との間には大きな溝があるのだ。
政治家が「前者」を言っているのか「後者」を言っているのかはきちんと見分けなければならない。


次回は補論として「特定防衛秘密」(米軍の装備品等の情報)について取り上げてみたい。
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「特定秘密」に公文書管理法は適用されるのか [特定秘密保護法案]

特定秘密保護法案が7日に衆議院で審議入りしました。
法案の解説を連載していましたが、先に書く必要があると思うので、この記事を挟みます。

公文書管理法との関係で誤った情報が飛んでいてずっと気になっている。
それは「特定秘密に指定されても公文書管理法が適用される」という話。

たとえば11月6日の毎日新聞の社説。

 特定秘密に指定される情報も、情報公開法や公文書管理法の対象になる見通しだ。ところが、国の安全が害される恐れがあるなどと行政側が判断すれば公開を拒否できるので、特定秘密は事実上開示されないことになる。公文書管理法も、各省庁で保存期間が満了した行政文書は国立公文書館などに移管するか、または首相の同意を得て廃棄することを認めており、廃棄される懸念は消えない。(引用終)

情報公開法の対象になるのは確かだが、公文書管理法の対象にはならない。
自民党が作成した「特定秘密の保護に関する法律案Q&A」を見ると、こう書かれている。

Q20.特定秘密と公文書管理法との関係はどうなっていますか?

 公文書管理法との関係については、他の行政文書と同様に、歴史公文書等は特定秘密の指定が解除された後に国立公文書館等に移管されることとなります。


きちんと細かいところまで読まないと騙される。
あくまでも「歴史公文書等は特定秘密の指定が解除された後に」と書いてあるように「解除された後」の話しかしていない。
「特定秘密」である間は公文書管理法に適用するとは一言も書いてないのだ。

官僚側のこれまでの公明党のプロジェクトチームなどへの説明を見ていても、「特定秘密」の指定の間に公文書管理法が適用されるとを言った官僚は存在しない。
よくわかっていない記者や政治家が「公文書管理法が適用される」と誤認識しているだけだ(そもそも森雅子担当大臣の答弁を見ていても、この法案についてどこまできちんとわかっているのか極めて怪しい)。

おそらく今の「防衛秘密」と同様に、「特定秘密」の間には監査が入る仕組みは保証されない。
そもそも公文書管理法が「特定秘密」に適用されたら、いま彼らが目指している「特定秘密」指定のあり方に反することがたくさん出てくるからだ。
これについてはすでに以前に示唆した記事を書いた

新聞記者の方でも、「官僚が公文書管理法が適用されると言っていた」と話される方がいるが、これは完全に騙されているので注意しなければならない。
「どこに適用すると言っていたか」が重要なのだ。

ここは国会審議で注意して見なければならない点の一つである。

注記(訂正 2014/1/5)

この記事を参考にしたのかはわからないが、11月15日の衆議院国家安全保障に関する特別委員会で、民主党の近藤昭一議員が、上記の疑問をストレートに政府に質問していた。
その結果、「公文書管理法は特定秘密に適用される」との答弁を、鈴木良之内閣官房審議官から得ており、森雅子大臣も同様の答弁をしていることがわかった。

改めてその前後の政府答弁を見ていると、この前までは、明らかに上記のブログで書いたとおり、廃棄するか永久保存するかの部分には適用するとしか話していない。
よって、この前後で政府見解を変えているようだ。

ただ、そうなると、公文書管理法との整合性の問題はずっと残ることになるのだが・・・(以前に、その点は軽く書いた

項を改めて再度考え直してみたい。
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特定秘密保護法案を考える 第4回 監視・検証のしくみ [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
安倍政権は11月上旬に審議に入り、成立を目指す方針です。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

そこで、特定秘密保護法案の何が問題なのか、私なりの分析をしていきます。
第1回はこちら。第2回はこちら。第3回はこちら
逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

第4回 監視・検証のしくみ

前回のブログで、「秘密」に対する監視や検証のしくみが法案には存在しないということを指摘した。
この機能は「特定秘密」をコントロールするためには絶対に必要な仕組みである。

そもそも「秘密」というものは過剰に設定されるものである。一つを秘密にすれば、関連情報も秘密にしたくなり、次第にふくれあがっていく。
なので、それが過剰に設定されないように監視することが必要である。
また、「こんなものを秘密に指定していたのか」という検証も必要である。

さらに言えば、「秘密」の管理は「無料ではない」。
管理するための特別なシステムや人が必要であり、増えれば増えるほどその管理のコストは膨大にかかっていく。
そして秘密指定文書が多くなればなるほど、管理が末端まで行き届かなくなり、結果的に漏えい事件へとつながりやすくなる(米国のスノーデン事件はそういった末端が極秘文書に触れることが可能であったことも一因)。

よって、監視と検証という機能があって、はじめて「秘密」というものはコントロール可能なのだ。

さて、特定秘密保護法案の条文からこの点について確認すると

・「秘密指定」は「行政機関の長」が行う(第3条第1項)
・「秘密指定」の期間は5年以内。延長可(第4条第1、2項)


「秘密指定」は「行政機関の長」のみで指定が可能で、延長はいくらでもできるということになる。
つまり、監視や検証が保証されていない。
これによって恣意的に秘密指定が拡大し、隠される(捨てられる)のではないかとの批判が出た。

こういった批判に対し、政府はいくつかの反論をしている。

A:政権交代があるのだから、政権が代われば「行政機関の長」が指定を見直すこともありうる(安倍首相、10/24参院予算委)

B:30年を経過した後にまで「特定秘密」を続けたい場合は、内閣の承認を得る必要がある(第4条第3項)。政府がどうせ判断するから変わらないとか言われるが、一定の基準を元に内閣官房としっかり協議するから、行政機関の恣意的な判断にはならない(礒崎信輔首相補佐官、10月28日ブログ

C:「特定秘密」を指定・解除の基準を定めるために、「第三者機関」である有識者会議を首相か官房長官の下に置いて意見を聞く(10月9日の公明党プロジェクトチームで官房が説明→第18条第2項に加わる)。

D:廃棄する前には「特定秘密」を解除して、公文書管理法のプロセスに乗せて移管・廃棄を決めることになる(礒崎信輔首相補佐官が10月1日のブログ


こういった保証があるから、恣意的な運用は避けられるというのが政府の主張である。

これは国会で実際に首相や担当相に答弁をさせてみないとわからないことも多いが、一つ一つに懸念を示しておきたい。

まずA。
確かに政権交代はありうる。民主党政権になった際に、外務省で密約問題の調査が行われて関連文書が公開されたようなことはたしかにある。
だが、「特定秘密」に指定される文書は数万件単位で存在する。その一つ一つを政治家がチェックして再指定をするというのは現実的に考えてもありえないだろう。
米国のように政治任用の幅が広く、政権交代で官僚がガラッと変わるならまだしも、大臣・副大臣・政務官+αぐらいしか政治任用されない日本においては機能するとは思えない。

次にB。
内閣が承認するというのは、公文書管理法における廃棄の際に承認を得る手続きに近いということになるだろうか。
ただ、これを機能させるためには「手続き」がどのようなものになるのかが必要。
たとえば、一覧表が提出されて、閣議でサックリ決まるというレベルの話なら、ほぼノーチェックになる。

機能させるには、最低限次の仕組みは必要だと考える。

・最長30年で「秘密指定」は自動解除させる。
・延長する文書の類型を限定する(暗号などに限る)
・延長する際の審査を行う機関を内閣官房とは別に作る。


まず原則解除であることは明確にするべき。
あくまでも「延長」が例外であるという規定にしなければならない。
また、延長できる書類の類型を限定するべきだろう(読売新聞11月1日夕方ぐらいのニュースでは政府関係者が類型を限定することを検討と報道されていたが)。
さらに、審査をする機関をできる限り政府外に置くべき。これはなかなか簡単には行かないだろうが、国立公文書館の拡充化なども図りながら、審査をできる機関自体を作っていくことが必要だろう。

Cについて。
指定や解除の手続きをきちんと定めるのは当然必要だが、この「第三者機関」がくせ者。
はっきり言うと、政府が言うような「第三者機関」は「無意味」

「第三者機関」であれば何でもいいというものではない。
そもそも、第18条第2項には「我が国の安全保障に関する情報の保護、行政機関等の保有する情報の公開、公文書等の管理等に関し優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない」とあるが、そもそも「聴く」だけなので、「ご意見頂戴」のみでいい。
これはなんら抑止力になってない。

監視するための第三者機関を作るのであれば、最低限、公文書管理法における公文書管理委員会レベルの権限は必要
委員会を法定で置く。法律で権限を決める。
たとえば、監査や国民からの不服申立の審査などの権限を与える。法律・ガイドラインなどを変える際には「諮問」しなければならないとし、事実上の「承認」が必要にする。委員は内閣総理大臣の直接指名ないしは国会同意人事にするなど。

もちろんこれで監視しきれるのかと言えば疑問がある(数人の有識者でどうにかなるものでもないだろう)。
本来は、米国のような強力な監視機関(大統領直轄の国立公文書館情報保全監察局)のようなものを作らないといけない。
だが、すぐには作れないだろうから、最低限、第三者機関である有識者会議を常設することが必要だろう。

こういった監視機能も法定で付けて、始めて「第三者機関」というのは意味があるのであって、政府が好きな人を選んで「ご意見頂戴」する第三者機関なんてほぼ存在価値がない。
政府のやっていることにお墨付きを与えるだけだ。

Dについて。
これは、「特定秘密」の元ネタになっている「防衛秘密」が、公文書管理法の枠外に置かれて廃棄されていたことへの回答という形になっている。
もちろん、「すべて」が公文書管理法に基づいて移管・廃棄の判断をされるというのであれば、それは現在の制度では最善だと思う。

ただ、そもそも公文書管理法から外れている「特定秘密」に指定されている間に、こっそり捨てられたりしないのか。
ちなみに、内閣情報調査室の橋場健参事官は「廃棄されたことは公表しません」と10月21日の野党議員への説明で明言している(毎日新聞10/28朝刊)。つまり、こっそり捨てる気満々である。
つまり、礒崎補佐官の言っていることにはなんら根拠が存在しない。

Cでも述べたように、「特定秘密」に指定されている間に、その文書管理を監視する機関がどこかになければ、闇から闇へ葬られても誰も気づけない。
「特定秘密」を解除しましたと言われても、それが「すべて」であるかは外部の人には誰もわからないのだ。
「特定秘密」に指定したことが「秘密」なのだから。

管理するルールが透明化されていなければ、官僚組織は組織防衛のために必ず文書を捨てる。先輩達が責められないように。
また、重要かどうかは「その機関にとって必要か否か」で判断され、不要と思われた文書は悪意とは関係なく機械的に捨てられる。

そのような文化で日本の官僚組織はずっと動いてきた。
その文化を変えようとして作られた公文書管理法は、まだ施行されて2年半しか経っておらず、文化を変えるには時間が足りてない。

国民のために文書をきちんと作成して残す。いずれは公開して検証に資するという考え方は、「監視」とセットでない限り、絶対に機能しない。
監視機能があるというだけで、少なくともにらみを利かせることができるのだ。


以上、政府のAからDの「大丈夫」と言うところの根拠に全て反論してきた。
つまり、政府の言っていることでは、「特定秘密」を監視し、いずれは検証するということは全く保証できていない。
首相や担当相に保証させる答弁を求めることは必要だが、これだけでは拘束力は存在しない。
法制度として組み込まない限り、監視や検証は機能しない。

強力で独立した第三者機関による監視、「特定秘密」の自動解除、「特定秘密に指定されていた」ことを明示した上での移管・廃棄の審査を行える仕組み(他の文書と混ぜられるとわからなくなる)。
このあたりは法律に最低限組み込んでほしいと思う。


公文書管理制度との関係はこれでおおよそ語り尽くしたと思います。
あと1回で民主党が提出した情報公開法改正案について論じて、とりあえず連載を終えます。

追記
本文中にうまくはめ込めなかったので、一つだけ。

政府関係者だけでなく、この法案に反対している人も、「特定秘密」が解除されたら「即座に全て情報が公開される」と思いこんでいる人が多いような気がしてならない。
「特定秘密」が解除されたからといって、それが「即公開」になるとは限らない。
例えば、ある種の個人情報(情報提供の協力者の名前など)のたぐいなどはこれにあたるだろう。

「特定秘密」を解除されても、当分の間は「非公開」になる情報はたくさんある。
原則は30年公開であっても、センシティブな問題は、たとえば50年とか70年とかといった閲覧制限をかけることはありうる(これは米国など他国でも当然行っている)。

だけれども、永久に非公開になることがない、というのが「検証」という制度の意味である。
いずれは公開されて歴史研究者などによる一次資料として使われるようになるということなのだ。

「国立公文書館に移管したらすぐに全て公開される(する)」と勘違いされてないだろうか。
それが、文書の大量廃棄などにつながっているように思える。

この認識を変えさせることも重要なことだと改めて感じている。
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特定秘密保護法案を考える 第3回 そもそも秘密はある [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
安倍政権は11月上旬に審議に入り、成立を目指す方針です。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

そこで、特定秘密保護法案の何が問題なのか、私なりの分析をしていきます。
第1回はこちら。第2回はこちら
逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

第3回 そもそも秘密はある

まず「そもそも秘密保護法案は必要なのか?」という問いを立てることができる。
今回、反対運動をされている方の中には、「こういった法案は必要ない」という立場の方もかなり多いと思う。

私の立場を述べると、「今回の法案」は内容が不適であるので「反対」
だが「秘密を統一的に管理するルール」としての法律の策定には「賛成」の立場を取る。
というのは、別に今回の法律ができなかったからといって「秘密が無くなる」わけではないからだ。

第2回で述べてきたように、すでに2000年以降でも、「防衛秘密」や「特別管理秘密」という制度が新たに作られている。
また、外務省外交史料館で外交文書、防衛省防衛研究所で旧帝国陸軍の文書を見たことがある人ならばすぐにわかるだろうが、「秘密」というものは各省庁で必ず定められるものである。
これには、「取扱いの制限」(極秘になれば限られた関係者しか見れない)という意味がある。

文書の重要性に軽重あるのはあたり前で、当然、安全保障上、少数の責任ある立場の人以外に扱わせるのに不適当な情報というのは存在する。
なので、「秘密」というのは、国家があり、官僚組織がある以上、必ず発生するものである。
よって、この「秘密」を「どう管理するか」という視点が重要になるのだ。

だから、「この法案を潰せばすべてOK」とか、「この法案を通したら戦前のような治安国家になる」みたいな議論は、あまりにもこの問題を単純化しすぎだと思う。

現在の秘密指定の最も大きな問題は「各行政機関でバラバラな基準」で運用されていることである。
また、その「基準」がほとんど表に出ておらず、各機関ごとにブラックボックスになっていることである。
特に「検証」というプロセスが欠けているのが致命的な欠陥である。

そもそも、日本の公文書管理は、明治以来の各行政機関の縦割り制度・意識により、各機関の内部でルールが決められていた。
統一的な管理基準は存在せず、また各機関内の文書管理もずさんであった。
これについては、すでに拙著でこの経緯については具体的に述べてきた。


2011年4月から公文書管理法が施行され、やっと各機関に共通の文書管理ルールが法定化されることになった。
文書の作成から保存・整理、そして最終的に永久保存して公開(国立公文書館等へ移管)するか廃棄(内閣総理大臣の承認が必要)するかという、文書のすべてのプロセスが統一的な基準で管理されることになったのである。

ただ、今回の特定秘密保護法案の検討の中で、まだまだ各機関に独自のルールが残っていることが明らかになってきた。
それが「秘密の管理」のあり方である。

たとえば、防衛省の「防衛秘密」について。
今回の法案をめぐる議論の中で、この「防衛秘密」が非常に問題のある管理が行われてきたことが次々と明らかになってきている。

まず、そもそもこの「防衛秘密」は、先述した公文書管理法の適用を受けていないことが情報公開クリアリングハウスの調査で今回明らかになった。
公文書管理法第3条には次の条文がある。

 公文書等の管理については、他の法律又はこれに基づく命令に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。

この条文は、法案が作成されたときには、刑事訴訟記録のようなすでに特別な管理規定が定められている場合は、管理法の適用外とされるという説明がなされており、「秘密」を管理から外すという説明は全くされていなかった。
(例えば、内閣官房の官僚が執筆した事実上公式の解説書(下記リンク)にもそのような説明がある。)


しかし、防衛省は自衛隊法施行令にある防衛秘密の管理を定めた規定(113条の2~14)を元に、「特別の定め」があるとして、「防衛秘密」をこっそりと公文書管理法の枠外に置いていた。

公文書管理法は文書管理のプロセスを透明化し、歴史的に重要な文書は最終的には国立公文書館等に移管をされて公開され、きちんと検証の対象とすることを意図したものである。
そのプロセスがきちんと行われているかを検証するために、年1回の内閣総理大臣への報告義務や内閣総理大臣の指令による実地調査などが可能とされている。
つまり、一義的には各行政機関の長が文書管理に責任は持つが、統一的な基準を適用することが義務づけられ、場合によっては内閣府や国立公文書館によって管理体制をチェックできるという仕組みになっており、恣意的な運用を行えないような歯止めをかけられているのだ。

公文書管理法は、それまでの文書管理の運用が、各行政機関に任せっきりであったために、恣意的な運用で、重要な文書が作られなかったり残されなかったりしたことへの反省から作られたものである。
「防衛秘密」がこのプロセスの枠外に置かれたということは、それ以前から行われていた恣意的な運用がそのまま行われ続けたということになる。

10月に入ってからNHKや毎日新聞などが次々と報じていったが、「防衛秘密」は、保存期限が切れた場合、省内で残したものを除き全て廃棄処分されていた。
例えば、2007年から2011年の間に、「防衛秘密」に指定されたのは約55,000件、廃棄されたのは約34,300件であり、解除されたのは1件のみ(しかも解除後廃棄)。
毎日新聞の10月14日朝刊の記事によれば、2002年に防衛秘密制度が施行されて以後、「防衛秘密」に適用された文書が国立公文書館に移管をされた件数はゼロであるとのこと。
つまり、「歴史的に重要か否か」の判断もされず、防衛官僚の判断のみで全てが廃棄されていたのであり、この流れは公文書管理法が施行されても変わらなかったということである。

なお、この「防衛秘密」の恣意的な運用がここまでバレて来なかったのは、これらの情報が情報公開法では突破できないという根本的な問題から来ている。
情報公開法には、請求をされても不開示規定にあてはまれば、墨塗りにしたりして見せなくてもよいという条文が存在する。
このうち、「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」(第5条第3号)に「防衛秘密」は当てはまるため、請求されてもほぼ無条件で非公開にされてきた。

監視の対象にもならず、検証するプロセスからも外された結果、それ以前の「省内の論理による文書管理」が貫徹され、「必要なくなったら捨てる」=「重要だから国民に公開せずに捨てる」という論理がまかり通ったのである。
そこに国民への「説明責任」という発想は全くない。

ちなみに、防衛省や公安調査庁などから国立公文書館に移管された文書の件数は非常に少ない。
防衛省からは1971年から2008年の間に移管されたのは6,844件。おそらく重要な情報はほとんど移管されていないと思われる。
公安調査庁に至っては、国立公文書館のデジタル目録を見る限りたったの33件。
なお、公安調査庁も情報公開法の不開示規定でほぼ全ての文書をカバーできるので、請求しても情報公開されず、公文書館に移管して検証も受けないという、完全なブラックボックス化している(情報公開を請求する人たちも端から諦めて請求をしないので、年間の請求件数が1桁の年もある)。

このように、すでに「秘密」は存在しているし、これらの文書の多くは「検証」の対象にならずに廃棄されているのだ。

今回の特定秘密保護法案では、「特定秘密」の指定を「行政機関の長」のみでできる仕組みとなっており、指定中は「公文書管理法」の適用外になると政府関係者は明言している。
一応、廃棄する前には「特定秘密」を解除して、公文書管理法のプロセスに乗せて移管・廃棄を決めるという話を礒崎信輔首相補佐官が10月1日のブログで記載をしているが、これも「全てが解除されるか」を監視することが不可能である以上、果たして機能するかは未知数と言える。

つまりこのままでは、いま防衛省で行われている「防衛秘密」の管理方法が、そのまま「特定秘密」にも適用されることになる。よって、今までの問題のある管理の仕方が法的に追認されることになるのだ。
監視も検証も法によって保証されない状態は、上記のことから考えて危険きわまりない。

よって、今回の法案を廃案に追い込めば全てが終わるわけではなく、むしろこういった防衛や公安関係で作られる秘密文書ですらも、きちんとプロセスを監視し、最終的には国立公文書館に移管され、いずれは検証の対象となるような仕組みを作り上げるきっかけにしないといけない。

そのためのルールをどう構築していくかという視点からの議論も必要だと思う。

次回では監視・検証の仕組みを考えてみます。
第4回
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特定秘密保護法案を考える 第2回 なぜいまこの法案が [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
安倍政権は11月上旬に審議に入り、成立を目指す方針です。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

そこで、特定秘密保護法案の何が問題なのか、私なりの分析をしていきます。
第1回はこちら
逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

第2回 なぜいまこの法案が

そもそもこの法案はどういう経緯で出てきたのだろうか。
民主党政権下の2010年の尖閣ビデオ流出事件からという見方をする方もいるようであるが、2000年前後あたりに話はさかのぼる。

注記;『世界』2013年11月号で山田健太氏の「秘密保護法の何が、なぜ、問題なのか」が、それ以前からの経緯もかなり具体的に論じられているので、それを参照のこと。
本ブログでは、2000年前後から具体策が採られるようになってきたと考え、そこから話を組み立てる。

1.前提
A:アーミテージ・レポート(2000年)

そもそも秘密保護法制は、米国の要請によって作られようとしていることは疑いない(このあたりは安倍首相や石破幹事長なども明言している)。
これ以前からも米国からの要求はおそらくあったであろうが、日本の防衛・外交政策に大きな影響を与えたとされるこのレポートから話を始めてみる。

これは、アーミテージやジョセフ・ナイなどの知日派のメンバーが出したシンクタンクの報告書。
アーミテージは後にブッシュ政権の国務次官となり、イラク戦争の時に自衛隊の出動を要請する際に「Boots on the ground」と言ったことで知られる人である。知日派の国防族。

この報告書の「諜報」(Intelligence)の部分に、日米の諜報協力の話が書かれている。
そして日米協力を緊密にするためには、日本政府は秘密保護の法律を作るための支持を国民や政治家から得る必要があるということが記載されている(5ページの真ん中の段の下の方)。→翻訳している人がいるのでこちらも参照


B:ボガチョンコフ事件(2000年)

ロシアのスパイに海上自衛隊の幹部が情報を流出していた事件。
この事件を受けて、「防衛庁・秘密保全等対策委員会」が「秘密保全体制の見直し・強化について」(2000年10月27日)を報告書として作成した(上記リンクは2006年の政策評価のもの)。

この文書によると、それまでの「秘密」指定は「訓令」によって基準が決められていたようである。また罰則は国家公務員法と同様で懲役1年以下か3万円以下の罰金であった。
つまり、もともと「秘密」は存在していたわけだ。

そこには、システム面の改善だけでなく、罰則の強化をすることを検討すると書かれていた。
それが9.11事件後に法制度として整備される。


2.自民党政権下での動き(2001~2009年)

A:テロ対策特措法(2001年11月)

米国の世界貿易センタービルへの航空機突入事件などの9.11事件が起きると、日本でもこの対応としてテロ対策特措法が作られた。
この際に、自衛隊法の改正が行われ、そこで情報保全隊新設や「防衛秘密」制度が作られた(施行は2002年11月)。

この当時にどのような議論が国会で行われたかはまだ調べていないが、いずれにしろここで「防衛秘密」が作られたのが今回の関連としては重要。
この時に自衛隊法第96条の2が新設され、新たに罰則が強化された(懲役5年以下)。

今回の特定秘密保護法案には、この「防衛秘密」がそっくりそのまま含まれている。
よって、「防衛秘密」がこれまでどのように扱われてきたのかを考えれば、特定秘密保護法の下で何が行われるのかはおおよそ予測がつくことになる。

2001年4月に情報公開法が施行されていたが、元々防衛関係については、情報公開法第5条第3号で「国の安全が害されるおそれ」のある場合は非公開にできたので、いずれにしろ「防衛秘密」ができる以前から、これらの情報は市民には公開されなかっただろう。


B:「政府機関の情報セキュリティ対策の強化に関する基本方針」及び「政府機関の情報セキュリティ対策における統一基準の策定と運用等に関する指針」(2005年9月)

インターネットの普及による情報セキュリティ対策として、各省庁横断的に対策を取ろうとした方針。
情報漏えい対策という意味合いが強い。
詳しい経緯は、内閣官房情報セキュリティセンターが書いているのでそちらを参照。


C:「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年8月)

政府の「カウンターインテリジェンス推進会議」によって出された基本方針。第1次安倍政権の時に作られた。
安倍政権が一貫して秘密保全法制に関心を持っていたことがうかがえる。
なお基本方針の「概要」しかネット上には上がっていない(どうやら全文は公開されていないとのこと)。

「カウンターインテリジェンス」とは、大辞泉によると「外国の敵意ある情報活動を無効にするための防諜活動。敵国の破壊・怠業活動などの謀略活動から、人・物資・施設を防護するための諸活動を含んでいう。」とのこと。
つまりスパイ活動への対抗といったところか。

この時に「特別管理秘密」という制度が新たに作られた。
「特別管理秘密」の定義は、「国の行政機関が保有する国の安全、外交上の秘密その他の国の重大な利益に関する事項であって、公になっていないもののうち、特に秘匿することが必要なものとして当該機関の長が指定したもの」とのことである。
なお、「特別管理秘密」を扱う人を限定するために、「秘密取扱者適格性確認制度」がこの時に作られている。

共産党の塩川鉄也議員が2012年10月から11月にこれに関連する質問主意書を提出しており、その答弁が出ている。(質問主意書答弁→さらに質問主意書答弁
これによれば、「秘密取扱者」は64,361人(ほとんどが防衛省)。件数も内閣官房で274,191件など、様々な行政機関で「特別管理秘密」の指定がすでに行われている。

職員の「適性評価」がここで事実上行われていること、防衛秘密などが「特定管理秘密」に指定されているなど、今回の秘密保護法案の原案のようなものが、すでに「政府の基本方針」という形で運用されていることが分かる。


D:「官邸における情報機能の強化の方針」(2008年2月)
:
内閣に設置された「情報機能強化検討会議」によって作られた方針。
「国家安全保障に関し、官邸司令塔機能の強化が図られる中、官邸における情報機能の強化が急務」として、官邸の情報収集機能をどう改善するかについて作られた方針。
この中で、「セキュリティクリアランス制度(秘密取扱者適格性確認制度)」の整備や「秘密保全に関する法制」を作成して罰則を強化することが書かれている。


E:「秘密保全法制の在り方に関する基本的な考え方について(案)」(2008年4月)

Dを受けて2008年4月に設置された「秘密保全法制の在り方に関する検討チーム」によって作られた基本方針案。
どうやら、秘密保全法制(秘密保護法)を作ろうとして、関係官僚を集めて方針を考えたようである。

しかし、ほぼ資料が公開されていないし、とりまとめた基本方針も公開されていない。
また、これを情報公開請求した情報公開クリアリングハウスがその文書を公開しているが、墨塗りだらけで何を検討しているのかさっぱりわからない。

その後、基本方針案を議論してもらうために、2009年4月から有識者を呼んで「情報保全の在り方に関する有識者会議」が作られた。
しかし、政権交代により2回で中断。

なお、この有識者会議、ネット上で公開されている資料と、実際に配布されている資料が異なることが、情報公開クリアリングハウスの調査でわかっている。
配付資料は墨塗りだらけで何もわからないが。


3.民主党政権下での動き(2009~2012年)

A:「国際テロ捜査情報流出事件」(2010年10月)と「尖閣衝突ビデオ流出問題」(2010年11月)

民主党に政権交代して秘密保全法制の動きはストップしていたが、それがリバイバルされたのはこの2つの事件がきっかけ。

前者は、警視庁公安部が持っていたテロ捜査情報が、ファイル交換ソフトWinnyによって流出した事件。
在日イスラム教徒の協力者や監視対象者の情報が流出したことで知られる。

後者は中国船と海上保安庁の監視船が衝突したときの映像を、海上保安官がYoutubeにアップロードした事件。
野党が全ての映像の公開を求めており、政府はそれを拒んでいたいたさなかにおきた事件であり、大きな注目を集めた。

この両方は、情報セキュリティが不徹底であることから起きたと政府は認識した。


B:「政府における情報保全に関する検討委員会」設置(2010年12月)

Aを受けて設置された。ここから自民党政権の置き土産である秘密保全法制の再検討が動き出した。
この委員会を受けて、「法制」と「システム」の双方から検討を加える有識者会議として、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」と「情報保全システムに関する有識者会議」が設置された。

発想としては、「法制」は「人」を規制するもの、「システム」は「仕組み」で規制するものと言えるだろうか。


C:「特に機密性の高い情報を取り扱う政府機関の情報保全システムに関し必要と考えられる措置について(報告書公表版)」(2011年7月1日)

「情報保全システムに関する有識者会議」報告書
内容は情報を漏らさないためのシステムの改善に関するもの。正直素人目に見てもたいしたことが書いているとも思えない。

ただ、「公表版」と書いてあるので、別にもっと詳しい報告書があるものと思われる。
システムの具体的な話が書いてあるから公表できなかったのだろうか?


D:「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(2011年8月8日)

「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」による報告書

この報告書が、現在出ている法案の原案にあたるものと考えて良い。関連資料も充実しているので、興味がある方は目を通しておくと良いと思う。
ちなみに、こういう報告書が公表されていることを考えると、やはり民主党の方が情報公開の姿勢は自民党よりはるかにマシだと思える(上記2のE参照)。

少々長いが、なぜ秘密保全法制が必要なのかという目的が書かれているので、全文引用してみる。

 我が国では、外国情報機関等の情報収集活動により、情報が漏えいし、又はそのおそれが生じた事案が従来から発生している。加えて、IT技術やネットワーク社会の進展に伴い、政府の保有する情報がネットワーク上に流出し、極めて短期間に世界規模で広がる事案が発生している。
 我が国の利益を守り、国民の安全を確保するためには、政府が保有する重要な情報の漏えいを防止する制度を整備する必要がある。
 また、政府の政策判断が適切に行われるためには、政府部内や外国との間での相互信頼に基づく情報共有の促進が不可欠であり、そのためには、秘密保全に関する制度を法的基盤に基づく確固たるものとすることが重要である。
 しかし、秘密保全に関する我が国の現行法令をみると、防衛の分野では、自衛隊法上の防衛秘密や、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(以下「MDA 秘密保護法」という。)上の特別防衛秘密に関する保全制度があるが、必ずしも包括的なものではない上、防衛以外の分野ではそのような法律上の制度がない。また、国家公務員法等において一般的な守秘義務が定められているが、秘密の漏えいを防止するための管理に関する規定がない上、守秘義務規定に係る罰則の懲役刑が1年以下とされており、その抑止力も十分とはいえない。
 以上のことを踏まえると、国の利益や国民の安全を確保するとともに、政府の秘密保全体制に対する信頼を確保する観点から、政府が保有する特に秘匿を要する情報の漏えいを防止することを目的として、秘密保全法制を早急に整備すべきである。


これを見ると、インターネットの普及に対応できていない状況への対策が主眼であり(だから外国から信頼されない)、漏えいを防止するためには罰則強化をするという方針が明確である。

ただし、これ以上は話が進まず。法制化は棚上げに。
東日本大震災があったこともあり、国民から反発を確実に食うであろう政策を進める状況にもなかったのだろう。

そして、これを引き継いだのが第2次安倍内閣ということになる。
引き継いだというより、自分たちで検討していたものの続きをやっているということの方が正確であろうが。


さて、ここまでまとめてみたが、正直うんざりしている。というか疲れた。
おそらく我慢してここまで読まれた人も「長いよ」と思ったのではないか。

ただ、これを見るとわかるように、特定秘密保護法案はいきなり最近現れた話ではないということだ。
そもそもは諜報機関の情報交流をどうするかというアーミテージレポートから始まり、インターネットの急速な普及により諜報情報が漏れる危険性が高まる中で、その対策をあの手この手で政府はやってきた積み重ねの集大成がこの法案なのだ。

その意味で、この法律が防衛省や外務省で無く「内閣情報調査室」が担当していることが、その本質を示唆している。
「集団的自衛権行使」との関係で論じられることが多いので、安倍首相の個人的なパーソナリティや尖閣問題などの東アジア情勢の悪化からこの法案が生まれているように見えるが、実際には諜報(インテリジェンス)の問題がメインであることが、この流れで見ていると分かる。
そうなると、特定秘密保護法案とセットで議論されている日本版国家安全保障会議(NSC)のねらいも、むしろ公安問題が中心なのだなということが見えてくる。

よって、以後の回で述べることになる監視機能が特定秘密保護法案に無いことが相当にまずいということは、この経緯からうかがえるだろう。

経緯についてはここまで。次回は法案の話を。
第3回はこちら


追記12/11

他の方が書いていることで気づいたが、2のC「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年8月9日)の翌日に、米国との間に「秘密軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(一般的には「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA))が結ばれている。
よって、このCの基本方針は、GSOMIAを結ぶために決められたというつながりなのかもしれない。

参考
山口響「特定秘密保護法案になぜ反対するか」
http://www.peoples-plan.org/jp/modules/article/index.php?content_id=158

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特定秘密保護法案を考える 第1回 概要 [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
安倍政権は11月上旬に審議に入り、成立を目指す方針です。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

本日より数回かけて、特定秘密保護法案の何が問題なのか、私なりの分析をしていきます。
私の専門に関わる話に限定しますので、歴史研究や公文書管理制度に関わる話に絞ります。報道の自由問題や人権規程との関係などは新聞などでも報じられていますし。

第1回 概要

まず、この法案の概要について簡単に整理しておきたい。
なお、逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

箇条書きで述べていくと

a) 漏えいすると安全保障上「著しい支障を与えるおそれ」のある重要な文書を「特定秘密」に指定できる。
b) 指定できる情報は、「防衛」「外交」「特定有害活動」(スパイ活動など)「テロリズム防止」。
c) 「特定秘密」は行政機関の長(大臣)のみの判断で指定。期間は5年で延長可。30年超えると内閣の承認が必要。
d) 「特定秘密」を扱える人は、「適性評価」を合格した者に限られる。対象は国の官僚、地方警察、関連する民間業者が中心。
e) 「適性評価」は本人だけでなく親子兄弟や同居人も対象となり、犯罪歴や飲酒の時の状態なども調査される。
f) 「特定秘密」を漏えいした人は理由を問わず刑事罰の対象。最高刑懲役10年。させた側も刑事罰の対象。
g) 「出版報道」などの取材の場合は刑事罰から外される(「法令違反又は著しく不当な方法」でなければ)。ちなみに漏らした側は刑事罰の対象。
h) 法案には書かれていないが、「特定秘密」に指定された文書は公文書管理法の対象外とのこと。


以上がおおまかな概要。
歴史研究や公文書管理制度の点から考えると、c、f&g、hが特に気になるところ。

まずc)は、「特定秘密」を「行政機関の長」のみの判断で指定できて、しかもその指定に対して監視する機関が一切無いということになる。
この場合、「特定秘密」に指定したことが「秘密」になるので、機関外の人はアクセスが一切できなくなる。
そうなれば、闇から闇へ葬られても誰も気づけない。内部告発した人は「特定秘密」の漏えいで逮捕されかねない。

f&g)については、例えば政治史の研究者が、官僚OBに聞き取りを行った際に、たまたま「特定秘密」に関わるような話を聞いてしまったときにどうなるのかが気になる。
「学問の自由」に関わる点が保証されていないので、研究を萎縮させる可能性がある。

h)については、公文書管理法の適用外とされることで、「特定秘密」文書がきちんと作成され、管理され、そして最終的に国立公文書館等に移管されor廃棄(内閣総理大臣の承認が必要)されるかまでの一連の流れに関するルールが不徹底になる。

公文書管理法は、公文書がきちんと作成されて保存され、重要な物はいずれ国立公文書館などで公開されて歴史の審判をあおぐことを定めた法律である。
この適用を外すということは、やはり闇から闇へが可能になってしまう。

以後の記事で、いま挙げた内容を中心に、考えたことを数回に分けて書いてみたい。
第2回へ
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