源清流清 ―瀬畑源ブログ―
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自分の研究(象徴天皇制)と深入りしてしまった公文書管理問題について思いついたことを書いています。拙著『公文書をつかう―公文書管理制度と歴史研究』(青弓社)刊行しました。
瀬畑 源(せばた はじめ)
2021-12-07T00:00:32+09:00
ja
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公文書等の管理に関する法律施行令、行政文書の管理に関するガイドライン改正案へのパブコメ
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2021-12-07
1年に1回ぐらいしか更新できていません。久しぶりの更新です。2021年12月8日締切で、「公文書等の管理に関する法律施行令」と「行政文書の管理に関するガイドライン改正案」のパブリックコメントの募集がなされています。https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095211180&Mode=0https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095211210&Mode=0(おそらく12月8日でリンク先がなくなるかと思います)参考までに、下記に私の送ったパブコメを貼っておきます。今回は「電子文書」がメインであり、今後、色々と問題が起きそうな分野でもあろうかと思います。**************************************「公文書等の管理に関する法律施行令及び内閣府本府組織令の一部を改正する政令案」に対する意見提出・施行令第9条第2項 保存期間の延長の総理大臣報告を不要とする改正はすべきではない。 「令和元年度における公文書等の管理等の状況について」の表4(12ページ)によれば、延長件数は225,228(7.9%)となっており、実際に総理大臣報告が行われていてもチェックがなにもできていないことは確かであろう。だが、これは安易な延長手続きが取られていることにすぎず、その「安易さ」を追認するような改正は本末転倒であり、安易な延長を許さない仕組みを考えるべきである。 また、今回の第8条第2項の改正で、別表第1について、各行政機関の実態に合わせた保存期間に変更することができることになる以上、適正な保存期間を設定し、延長を減らすということが目指されるべきではないのか。保存期間が満了した際には、原則廃棄か移管の選択をすべきである。 特に満了後移管とされる文書については、ガイドライン案36ページ⑰の規定を利用し、保存期間満了時に延長を許さず、正本を国立公文書館等に移管した上で、電子媒体への変換したデータを保存するようにすべきである。****************************************「行政文書の管理に関するガイドラインの改正案」に対する意見提出・全体を通して 「課長通知」に多く..
2021年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2021-12-07T00:00:32+09:00
2021年12月8日締切で、「公文書等の管理に関する法律施行令」と「行政文書の管理に関するガイドライン改正案」のパブリックコメントの募集がなされています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095211180&Mode=0
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095211210&Mode=0
(おそらく12月8日でリンク先がなくなるかと思います)
参考までに、下記に私の送ったパブコメを貼っておきます。
今回は「電子文書」がメインであり、今後、色々と問題が起きそうな分野でもあろうかと思います。
**************************************
「公文書等の管理に関する法律施行令及び内閣府本府組織令の一部を改正する政令案」に対する意見提出
・施行令第9条第2項
保存期間の延長の総理大臣報告を不要とする改正はすべきではない。
「令和元年度における公文書等の管理等の状況について」の表4(12ページ)によれば、延長件数は225,228(7.9%)となっており、実際に総理大臣報告が行われていてもチェックがなにもできていないことは確かであろう。だが、これは安易な延長手続きが取られていることにすぎず、その「安易さ」を追認するような改正は本末転倒であり、安易な延長を許さない仕組みを考えるべきである。
また、今回の第8条第2項の改正で、別表第1について、各行政機関の実態に合わせた保存期間に変更することができることになる以上、適正な保存期間を設定し、延長を減らすということが目指されるべきではないのか。保存期間が満了した際には、原則廃棄か移管の選択をすべきである。
特に満了後移管とされる文書については、ガイドライン案36ページ⑰の規定を利用し、保存期間満了時に延長を許さず、正本を国立公文書館等に移管した上で、電子媒体への変換したデータを保存するようにすべきである。
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「行政文書の管理に関するガイドラインの改正案」に対する意見提出
・全体を通して
「課長通知」に多くの事項を落とすことになっているが、課長通知はガイドラインとならべてわかるような形でウェブ公開をするべきである。
また、課長通知についても、これまでガイドラインに記載があったものである以上、公文書管理委員会の意見を聴取するべきである。
・「第3 作成~第5 保存」までについて
電子文書の定義や保存期間の設定方法についての原理原則は、課長通知ではなく、ガイドラインに書くべきである。
たとえば、SNSによる広報を行っていた場合、これらは政府広報の重要な文書であり、一定の年数の保存が望ましいと考えるが、このSNSの書き込みはいつ作成(取得)したものであり、保存期間は何年であるのか、行政文書ファイル管理簿にはどのように記載するのか、保存媒体はどのような形式で行うのか(twitterなどの民間サービスの仕様に依存しており、これをどのような形で保存するのか)などを考える必要がある。twitterのようなSNSの場合、双方向性に意味がある媒体であるため、「いいね」やリツイートの回数、リプライの内容などを保存するのか否かにも、基本的なルールが必要となる。また、「炎上」して削除したツイートがあった場合、その削除したデータも行政文書であるはずであるが、どのように保存するのか(炎上への対応は行政の職務であり、なかったことにはできない)。しかし、現在のところ、これらの基本的なルールについて、あまり考えられていないように思われる。
また、近年は行政機関内でLINEなどのSNSのツールによって、部局で政策が練られるといったことがなされている。新型コロナウイルス感染症の流行によってテレワーク化も進んでおり、情報共有ツールをどこまで行政文書として取り扱うかの基本的なルールが必要である。また、業務上の連絡を個人のSNSやメールなどで行っていれば、情報流出のおそれがあってセキュリティー上危険であるだけでなく、「個人メモ」扱いとして行政文書化逃れを許すことになる。情報共有ツールの利用は各行政機関が契約しているものに限定するなど、作成にルールが必要である。
グループLINEで政策の計画立案をしていれば、当然それは「組織的に共用」された情報であり、行政文書に該当するものも少なからずあると思われる。政策決定過程を保存するという公文書管理法第4条の規定から考えれば、LINEをどこまで行政文書として取り扱うかは重要な問題である。
電子文書が今後原則となることが政策として決定している以上、紙をベースとして考えていたガイドラインの各規定を、電子文書に合わせた規定に変えていく必要がある。メールの作成(取得)、保存期間の設定など、電子文書をどのような形で作成、取得、整理、保存、移管、廃棄をするかの基本的なルールは、課長通知レベルではなく、ガイドラインのレベルで規定し、各行政機関の行政文書管理規則に反映されるべきである。
・「第3 保存」について
「取得」の定義をガイドラインにきちんと書き込むべきである。
WORDなどのソフトで文書を作成した場合、意図せずにアクセスログなどが取得されているはずであるが、現在はアクセスログは行政文書として扱われていないとのことである。
電子文書は、改ざん防止のためにログを残すことは必須であり、それが真正性を担保するものとなる以上、「取得」は意図的に取得した情報だけが対象となるという考え方では対応できない。「第3」の部分の考え方は、「起案」が行われるような「作成した」文書しか対応できていない。
「取得」についても項目を立て、基本的なルールを明確にするべきである。
・「第3 作成」の<文書の作成等>⑦、10ページ
現在のガイドラインにある「法第1条の目的の達成に資するため」という公文書管理法の大原則は記載すべきである。
これを削除することは、審議会等などの「議事の記録」の作成を軽視することにつながりかねない。現在のガイドラインにある文言を加えるべきである。
・「第4 整理」3 保存期間(6)②、13ページ
「日程表」は削除するべきである。
首相や大臣の日程表といった、閣僚の行動がわかる記録が1日で廃棄されていることが、新聞報道などでも明らかになっているが、それはこの記述が根拠となっている。本来、閣僚の毎日の日程表は、行政の活動において重要な意味を持つものであり、1年以上の保存期間が定められるべきである。よって、「日程表」は削除するべきである。
・「第4 整理」<保存期間>⑦、17ページ
「規則においてガイドライン別表第1に定める期間を超える保存期間を定めることができる」について、上限を30年とするべきである。
この書き方だと100年保存など、際限なく保存期間を増やすことができかねない。「常用(無期限)」がもし多用された場合、いつまでも国立公文書館等への移管が進まないことも考えられる。
行政文書管理規則は、確かに公文書管理委員会での審議を経る必要があり、問題のある提案については撤回させることが可能であるが、少なくとも、保存期間は、最長30年しかできないといった上限を設けるべきである。
・「第4 整理」<保存期間>⑯、19ページ
「過去に作成した行政文書の保存期間の変更」のうち「短縮」する場合、その保存期間の満了日は年度末にするべきである。
短縮することで保存期間満了日を変更時点以後の日(当日も可)にできるとあるが、政治的に問題になった文書の保存期間を短縮して廃棄することを正当化することに繋がりかねない。そのような疑念を持たせないためにも、保存期間を短縮した場合でも、満了日は年度末にするべきであり、年度の途中で突然廃棄が可能となるようなルールを設定すべきではない。
・「第5 保存」<引継手続>24ページ
「府省の枠を超えたプロジェクトチームの文書」の引き継ぎは明確にするべきであり、ガイドラインに残すべきである。
組織の新設、改正、廃止については、26ページに記載があるが、プロジェクトチームは組織の新設、改正、廃止とは別のものである。きちんと文書が残すための責任を明確にするためにも、従来の規定は残すべきである。
・「第5 保存」<保存>27ページ
紙媒体の文書を電子媒体に変換した際に、正本を1年未満の保存期間と設定できることになっているが、「真正性を担保されたのち」といった内容の文面を挿入するべきである。
電子媒体にして保存し、正本を廃棄することはやむをえないと思われるが、その際に、正本が改ざんされていないことや、電子化されたデータのページに飛びがないかなどといった「真正性」を担保することは必須である。また、電子化した後に改ざんが行われないかといった、ファイルへのアクセスログも保存する必要がある。
電子媒体に変換した際の作業記録やアクセスログを残すことなど、どのように「真正性」を担保するのかをルール化するべきである。電子媒体への変換や正本との照合を複数人で行うことや、総括文書管理者などが責任をもって管理するなど、「真正性」が損なわれないような仕組みが必要である。
・「第5 保存」<保存期間の延長>35~36ページ
別表第2で国立公文書館等に移管となっている文書の保存期間の延長は、原則認めないことにする項目を追加するべきである。
施行令第9条第2項の改正で、延長が安易に行われる可能性がより高くなる。少なくとも国立公文書館等への移管が定められている文書については、閲覧の利便性を考慮し、延長をさせずに国立公文書館等に移管するべきである。もし文書を各行政機関が引き続き保存したい場合は、36ページの⑰を利用して電子媒体に変換したデータを保存するようにすべきである。
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すべてを解説する時間はないのですが、特に強く主張したい点は
・電子文書の定義、取得の定義をガイドラインで明確化する
・紙を電子媒体に変換し、紙の正本を廃棄できる場合は、真正性を担保することができた場合に限る。
・保存期間満了時に国立公文書館等へ移管が決まっている文書は、延長を禁止する。各行政機関で保存を継続したい場合は、電子媒体に変換して保存する。
の3点でしょうか。
今回のガイドラインなどの改正で、電子文書化の推進が強く図られることになります。
ただ、電子文書の定義など、紙とは想定が異なる点について、まだ十分に練られていないという印象があります。
紙文書は電子に媒体変換したら廃棄できることや、国立公文書館等に移管後も、コピーは各行政機関で持つことが可能になるなどが提案されています。
内閣府公文書管理課から「紙媒体を電子媒体に変換する場合の扱い、行政文書ファイルが紙媒体と電子媒体で混在する場合の管理の手順等」が2021年3月25日に出ていますが、スキャンのやり方が書かれているだけで、どのようにして「真正性」を担保するのか、配慮がないように思います。
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/hourei/conversion.pdf
原本とスキャンしたデータが同じものであるという保証をどうやって確保するのか。そのルールを明確にする必要があるのではと考えます。
以上です。
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「議事の記録」と「議事録」
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2020-06-09
新型コロナウイルス感染症に関連する会議の議事録が作成されていないことが大きな問題となっている。現在焦点が当たっているのが、新型コロナウイルス感染症対策本部の決定によって立ち上げられた専門家会議の議事録がないこと(発言者がわからない議事概要と速記録が存在)、対策本部の会合の前に意見調整を閣僚や官僚などが行っている「連絡会議」の議事の記録が全くないこと(概要すらない)である。当初、菅義偉官房長官などは、これらを作らない理由を、公文書管理法の「行政文書の管理に関するガイドライン」の「歴史的緊急事態」に基づいて説明を行ってきた。「歴史的緊急事態」における記録の作成についてのルールは、「政策の決定又は了解を行う会議等」(A)は「開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録」の作成義務があるが、「政策の決定又は了解を行わない会議等」(B)はその義務は書かれていない。対策本部はAであるので「議事の記録」を残すが、専門家会議や連絡会議はBであるため、議事の記録は不要だと。これに対しては、情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長が、歴史的緊急事態から説明をしているのはおかしい、と繰り返し言い続けることによって、潮目が変わってきた。わかりやすいのは↓「コロナ危機で再露呈…全国民が知るべき「公文書管理のヤバい実態」」2020年6月6日、現代ビジネスhttps://gendai.ismedia.jp/articles/-/73026三木さんが立て直した論点は、そもそもこういった会議は普段からも議事の記録は作られなければならないというものである。行政文書の管理に関するガイドラインによれば(12-13頁)○ なお、審議会等や懇談会等については、法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成するものとする。<国務大臣を構成員とする会議又は省議における議事の記録の作成>○ 国務大臣を構成員とする会議又は省議については、法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、開催日時、開催場所、出席者、議..
2020年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2020-06-09T21:37:38+09:00
現在焦点が当たっているのが、新型コロナウイルス感染症対策本部の決定によって立ち上げられた専門家会議の議事録がないこと(発言者がわからない議事概要と速記録が存在)、対策本部の会合の前に意見調整を閣僚や官僚などが行っている「連絡会議」の議事の記録が全くないこと(概要すらない)である。
当初、菅義偉官房長官などは、これらを作らない理由を、公文書管理法の「行政文書の管理に関するガイドライン」の「歴史的緊急事態」に基づいて説明を行ってきた。
「歴史的緊急事態」における記録の作成についてのルールは、「政策の決定又は了解を行う会議等」(A)は「開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録」の作成義務があるが、「政策の決定又は了解を行わない会議等」(B)はその義務は書かれていない。
対策本部はAであるので「議事の記録」を残すが、専門家会議や連絡会議はBであるため、議事の記録は不要だと。
これに対しては、情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長が、歴史的緊急事態から説明をしているのはおかしい、と繰り返し言い続けることによって、潮目が変わってきた。
わかりやすいのは↓
「コロナ危機で再露呈…全国民が知るべき「公文書管理のヤバい実態」」2020年6月6日、現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73026
三木さんが立て直した論点は、そもそもこういった会議は普段からも議事の記録は作られなければならないというものである。
行政文書の管理に関するガイドラインによれば(12-13頁)
○ なお、審議会等や懇談会等については、法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成するものとする。
<国務大臣を構成員とする会議又は省議における議事の記録の作成>
○ 国務大臣を構成員とする会議又は省議については、法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成するものとする。
専門家会議は「懇談会等」であり、連絡会議は「国務大臣を構成員とする会議」であることは明らかだと思われる(ただし後者は政府は認めていない(非公式会議との認識))。
専門家会議が「懇談会等」であることは菅官房長官も記者会見で認めざるをえなくなっている。
しかし、一方で「議事録」の作成は不要だと言い続けている(6月9日現在)。
私はこの一連の議論を見ながら、6年前のガイドライン改正のことを思い出していた。
結局、あの時の懸念が今まさに問題になっているのだろうと。
下記の議論は誤解を生むかもしれないので、あらかじめ私の立場を述べておくと、専門家会議も連絡会議も逐語の議事録を作成すべきであり、それは公文書管理法第1条の「現在及び将来の国民に説明する責務が全うされる」ために必要なことである。
6年前の議論を振り返ってみようと思ったのは、結局現在の政府への追及を「ガイドライン違反」であるとして追及することには限界があると考えるからである。
というのは、そもそも「議事の記録」という曖昧な言葉を使うようになったのは、2014年のガイドライン改正であり、その時の政権は他でもない安倍政権だからである。
つまり、彼らこそがわざわざ「曖昧な」言葉にした張本人であり、その土俵で戦うことには自ずと限界があるということなのだ。
2014年のガイドライン改正は、特定秘密保護法を通すバーターとして、公明党が閣議等の議事録を作成して公表することを求めたために行われた。
この問題は、元々は民主党政権下で起きた原子力災害対策本部の議事録未作成問題(2012年)をきっかけとして、岡田克也副総理兼行政刷新相が取り組んだ課題で、大臣などが参加する会議の議事録問題などに話を拡張させたことに始まる。
ただ、途中で民主党が選挙で敗れたため、いくつかの提言を残したまま、制度の改正が放置されていた。
公明党からすると、野党になった民主党が推進していた政策を自民党に飲ませたという結果が欲しかったのだろう。
この改革自体の評価は、良かった点と悪かった点があるが、その評価は今回は述べない。
では今回問題になっていた点は、どのように変わったのだろうか。
まず「国務大臣」の部分は新設された。これはルールが明確で無かったから、当時からも「入って良かった」という評価がなされていたように思う。
「審議会等と懇談会等」については、
なお、審議会等や懇談会等の議事録については、法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、発言者名を記載した議事録を作成する必要がある。
が元々の文章である。
ここで問題となったのは「議事録」の定義である。
「発言者名を記載した」としか書かれていなかったため、逐語の議事録ではなかったり、発言者名と発言内容がリンクしていないものを「議事録」とされているケースがあった。
そのため、「発言者名を記載した議事録を作成する必要がある」が「開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成するものとする」になった。
内容が列記された部分は、三木さんからも評価されていた。
https://clearing-house.org/?p=890
ただ、当時の私が気になったのは「議事録」が「議事の記録」に直された所である。
当時私は「「議事の記録」と「議事録」は同じではない」というブログ記事を書いている(2014年6月3日)。
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2014-06-03
私は「議事の記録」は、必ずしも議事録を指さないことは明白であり、「議事録」としないと議事概要でお茶を濁されるようになると主張し、これはパブリックコメントでも書いた。
これに対する内閣府の公文書管理課の答えは、公文書管理委員会の資料で掲載されている。
「行政文書の管理に関するガイドライン」の一部改正案に対する国民からの御意見募集の結果と考え方
https://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20140626/20140626haifu1-4.pdf
→これの「1」が私の意見。
この答えを見ても、「議事の記録」は「議事録」に限定していないことは明白である。
ただ、当時は発言者と発言内容が紐付けられるはずだという認識は共通見解であったと思われる。
2014年5月29日、6月26日の公文書管理委員会においては、「議事の記録」について、歴史研究者の加藤陽子さんや弁護士の三宅弘さんなどが、現在より状態が後退しないかという点などをかなり突っ込んで質問をしている。
例えば加藤さんは、「議事録や議事概要という今までの概念から考えたときに、全て「議事の記録」といったようにトーンダウンさせてしまって大丈夫か」と指摘しているが、これに対し、当時の公文書管理課の笹川課長は次のように述べている。
たとえ「議事録」と言おうと「議事概要」と言おうと「会議の記録」と言おうと、6項目を盛り込んで、かつ、公文書管理法第1条、第4条の趣旨を踏まえて、後々、意思決定の過程なり、事務事業の実績を跡付け検証できるようなものを作っていただく。そういう意味では決して後退ということではなくて、むしろマストのミニマムというか、厳しいルールといいますか、共通の基準をはっきり設けたという趣旨でございます。
公文書管理委員会第36回議事録(2014年5月29日)3頁
https://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20140529/20140529gijiroku.pdf
また、6月26日の会議では、当時担当大臣であった稲田朋美規制改革相が、笹川課長と次のやりとりをしている。
○稲田大臣 この議事の記録の開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者までは客観的に何かというの分かるんですけれども、この発言内容の中身というのはどこかに書いてあるんですか。
○笹川課長 発言内容はまさに発言内容でございまして、それをどのくらい。
○稲田大臣 結論だけではなくて、なぜそうなったかという過程が分かるような内容ということですか。
○笹川課長 最終的にそれぞれの会議で作るので一般論として言いにくい部分があるのですが、基本的にはおっしゃるとおりで、結論だけ書くのではなくて途中の議論の過程、この人がこう言って、それで結果としてこうなりましたということが分かるような形で書いてもらうということです。
ただ、その作り方がどのようになるかは各会議でそれぞれあろうかと思います。
○稲田大臣 今までの議事録と議事の記録とは同じものなのかどうなのかというのも、各会議で決まってくるということですか。
○笹川課長 議事録、議事概要という定義自体、明確にございませんでしたので、一般的な口語的な意味合いでは確かに議事録というのはどちらかというと詳しい逐語的なもので、議事概要というのがどちらかというと要点をまとめたものという感じだと思います。それで、実際にその2つが重なり合っているような部分もあるので、なかなかどちらがどちらだと申し上げにくいのですけれども、今回はいずれにしても6項目を入れて議論の過程を追えるように作っていっていただきたいということで、もちろんなるべく詳しく作ってくださいという話ではあるんですが、最終的にどのようなものになるかについては、そこはそれぞれ責任を持ってやっていただくということでございます。
公文書管理委員会第37回議事録、2014年6月26日(5頁)
https://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20140626/20140626gijiroku.pdf
この2つのやりとりを見ると、次のことがわかる。
・「議事の記録」は「議事録」だけではなく「議事概要」などを含む。どれを選択するかは会議が責任を持って行う。
・今回の改正は「議論の過程」を追えるようにすることが目的である。少なくとも概要であっても、発言者と発言内容の紐付けは意識されていた可能性が高い(「この人がこう言って、それで結果としてこうなりました」と説明されている)。
さて、これを踏まえて今回の事態である。
政府の当初からの対応は、笹川課長が説明していた「マストのミニマム」(最低限)にすらたどり着いていなかったことは明白である。
発言者と発言内容の紐付けがない「議事の記録」は、ガイドラインを守っているとはさすがに言い切れない。
よって、専門家会議について、菅官房長官の談話は日々後退して行っている。
また、西村康稔経済再生担当相は「発言者名を入れた議事概要」を作ると言い始めている(6月7日記者会見)。
やっとここで「マストのミニマム」までたどり着いたという印象である。
官房長官は「ガイドラインに沿って適切に記録を作成している」と言っているが、ガイドラインを元にしていれば、逐語の議事録がないのは「非合法」ではない。
6項目を揃えている「議事概要」であれば、ガイドラインだと「最低限」は満たすのだ。
そのように読めるガイドラインに元々しているのだから、その解釈は当然導き出せるのだ。
では、安倍政権の対応はこれでいいのだろうか?
「合法」だから問題ないのだろうか。
確かに「合法」ではあるだろう。
だが、「議事の記録」が「議事録」か「議事概要」かは、その会議の重要度に応じて決まるはずであり、それは政治の判断である。
このガイドラインはあくまでも「マストのミニマム」(最低限)であり、議事録を作ってはいけないとは一言も書いていない。
新型コロナウイルス感染症という未曾有の事態に直面しているとき、「マストのミニマム」でなぜ説明責任が果たせると言えるのだろうか。
公文書管理法は「性善説」にたって運用されており、重要な記録は自発的に残すことを期待されているのだ。
ガイドラインの懇談会等などの「議事の記録」の作成は、「法第1条の目的の達成に資するため」と書いてある。
公文書管理法第1条は次のように書いてある。
この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。
「現在及び将来の国民に説明する責務」を果たすのに、発言者と発言内容が逐語で記録されていない議事録を作らないという選択肢はありえるのか。
新型コロナウイルス感染症という重大な出来事を詳細に記録することは、現在の国民への説明責任を果たすためである。
だからこそ、記録をきちんと作成し、できる限り公開の手続きを取ることで、国民からの信頼をえようとすべきである。
また、詳細な記録は、のちの国民に多くの教訓を残せるはずである。
ガイドラインに違反するか否かという論争を超え、ガイドラインにある公文書管理法の精神に従い、安倍政権は「議事録をすべて残し、自分たちのしてきたことを国民に理解してもらい、信をえる」と宣言すべきなのではないか。
安倍政権にその気概が無いことは、本当に残念と言わざるをえない。
そして、今の政権だと、たとえ発言者と内容がリンクした「議事概要」を作るようになったとしても、別の非公式の会議とかを使って実質的な議論をしそうである。
この数年、どれだけ公文書管理制度が傷ついてしまったのか。あらためてその状況に慨嘆せざるをえない。
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『国家と記録 政府はなぜ公文書を隠すのか?』刊行
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2019-10-17
2019年10月17日、集英社新書から『国家と記録 政府はなぜ公文書を隠すのか?』が刊行されました。 2018年2月に刊行した『公文書問題 日本の「闇」の核心』の続編にあたります。 前著に引き続き、『時の法令』の連載「公文書管理と日本人」の後半部(2019年3月まで)の部分を収録し、口語体に直した上で、内容をアップデートしたものです。目次は以下の通りです。はじめに序章 新自由主義時代の情報公開と公文書管理制度第一部 公文書の危機 第一章 森友学園問題の再燃 第二章 文書「改竄」と民主主義の危機 第三章 政策決定過程の文書を残すことの意義 第四章 イラク日報問題に見る公文書管理の歪み 第五章 加計問題に見る公文書公開のあり方 第六章 愛媛県公文書管理条例の問題点第二部 公文書管理をどうすべきか 第七章 皇室会議の議事録、昭和天皇「独白録」 第八章 宮内庁宮内公文書館 第九章 行政文書の管理に関するガイドライン改正 第一〇章 電子メールは行政文書か 第一一章 政府の公文書管理適正化の取組をどう考えるか第三部 未来と公文書 第一二章 行政文書の定義から外れる「歴史的文書」をどう保存するか 第一三章 安曇野市文書館の開館 第一四章 地方公共団体の公文書管理問題を考える 第一五章 アジア歴史資料センター第四部 対談 情報公開と公文書管理の制度をどう機能させるか 三木由希子(特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長)序章で公文書管理問題の歴史を、新自由主義という点から振り返ります。第一部では、森友問題の公文書改竄、加計学園問題(愛媛県関係)、イラク日報などの、政治問題化した話の続編(これ以前の部分は前著を参照)。第二部では、私の専門の天皇と公文書の話や、電子メール問題など、公文書管理の方法についての話です。第三部は、歴史研究者の視点から、公文書の閲覧、利用や保存のあり方について論じました。第四部には、情報公開問題の第一人者といっても良い、NPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんとの対談(実質は私によるインタビュー)が収録されています。三木さんがなぜ情報公開に取り組むことになったのか、いまどのようなことを考えて情報公開運動を行っているのかを、かなり突っ込んで話を聞けたように思っています。三木さんは多くの媒体でインタビューを受けておられますが、かなりディープなところに切り込めているかなとは個人的..
2019年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2019-10-17T01:13:27+09:00
『国家と記録 政府はなぜ公文書を隠すのか?』が刊行されました。
2018年2月に刊行した『公文書問題 日本の「闇」の核心』の続編にあたります。
前著に引き続き、『時の法令』の連載「公文書管理と日本人」の後半部(2019年3月まで)の部分を収録し、口語体に直した上で、内容をアップデートしたものです。
目次は以下の通りです。
はじめに
序章 新自由主義時代の情報公開と公文書管理制度
第一部 公文書の危機
第一章 森友学園問題の再燃
第二章 文書「改竄」と民主主義の危機
第三章 政策決定過程の文書を残すことの意義
第四章 イラク日報問題に見る公文書管理の歪み
第五章 加計問題に見る公文書公開のあり方
第六章 愛媛県公文書管理条例の問題点
第二部 公文書管理をどうすべきか
第七章 皇室会議の議事録、昭和天皇「独白録」
第八章 宮内庁宮内公文書館
第九章 行政文書の管理に関するガイドライン改正
第一〇章 電子メールは行政文書か
第一一章 政府の公文書管理適正化の取組をどう考えるか
第三部 未来と公文書
第一二章 行政文書の定義から外れる「歴史的文書」をどう保存するか
第一三章 安曇野市文書館の開館
第一四章 地方公共団体の公文書管理問題を考える
第一五章 アジア歴史資料センター
第四部 対談 情報公開と公文書管理の制度をどう機能させるか
三木由希子(特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長)
序章で公文書管理問題の歴史を、新自由主義という点から振り返ります。
第一部では、森友問題の公文書改竄、加計学園問題(愛媛県関係)、イラク日報などの、政治問題化した話の続編(これ以前の部分は前著を参照)。
第二部では、私の専門の天皇と公文書の話や、電子メール問題など、公文書管理の方法についての話です。
第三部は、歴史研究者の視点から、公文書の閲覧、利用や保存のあり方について論じました。
第四部には、情報公開問題の第一人者といっても良い、NPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんとの対談(実質は私によるインタビュー)が収録されています。
三木さんがなぜ情報公開に取り組むことになったのか、いまどのようなことを考えて情報公開運動を行っているのかを、かなり突っ込んで話を聞けたように思っています。
三木さんは多くの媒体でインタビューを受けておられますが、かなりディープなところに切り込めているかなとは個人的には思っています。
三木さんファンの方も是非お読みいただければと思います。
公文書管理の問題は、安倍政権固有の問題ではなく、日本社会に根づいたさまざまな考え方に問題の原因があります。
この本を通じて、少しでもこの問題に関心を持っていただければ著者冥利に尽きます。
よろしければ、お手にとっていただければと思います。
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『公文書管理と民主主義―なぜ、公文書は残されなければならないのか―』刊行
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2019-05-08
2019年5月8日、岩波書店から、『公文書管理と民主主義―なぜ、公文書は残されなければならないのか―』が刊行されました。 この本は、2018年7月19日に公益財団法人政治経済研究所で行った講演に、加筆修正を加えたものです。講演前に、岩波の編集者から、公文書管理問題でブックレットを作りたいので講演を元にしたいとの依頼があり、研究所の許可をいただきました。よって、意識的に網羅的な論点を含む講演にしています。目次は以下の通りになります。はじめに1 隠蔽された公文書2 情報公開制度はなぜ必要か3 情報公開法と公文書管理法4 公文書管理はどのように行われるのか5 歴史の検証のためにおわりに――市民社会の力を〈巻末資料〉公文書等の管理に関する法律(抄)今まで、『国家と秘密 隠される公文書』や『公文書問題 日本の「闇」の核心』(集英社新書)で論じてきたようなテーマを、改めてわかりやすく簡潔にまとめたものになります(内容もアップデートしています)。内容は、1章は最近の安倍政権の公文書管理に関わる不祥事の解説。2章が一番長くて、公文書管理制度の歴史的経緯。3、4章は法律の簡単な説明。5章とおわりにが、今後の展望の話になります。文字も大きく、ページ数も64頁、561円(税込)ですので、お手に取りやすいものだと思います。どうかよろしくお願いします。
2019年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2019-05-08T02:46:43+09:00
『公文書管理と民主主義―なぜ、公文書は残されなければならないのか―』が刊行されました。
この本は、2018年7月19日に公益財団法人政治経済研究所で行った講演に、加筆修正を加えたものです。
講演前に、岩波の編集者から、公文書管理問題でブックレットを作りたいので講演を元にしたいとの依頼があり、研究所の許可をいただきました。
よって、意識的に網羅的な論点を含む講演にしています。
目次は以下の通りになります。
はじめに
1 隠蔽された公文書
2 情報公開制度はなぜ必要か
3 情報公開法と公文書管理法
4 公文書管理はどのように行われるのか
5 歴史の検証のために
おわりに――市民社会の力を
〈巻末資料〉公文書等の管理に関する法律(抄)
今まで、『国家と秘密 隠される公文書』や『公文書問題 日本の「闇」の核心』(集英社新書)で論じてきたようなテーマを、改めてわかりやすく簡潔にまとめたものになります(内容もアップデートしています)。
内容は、1章は最近の安倍政権の公文書管理に関わる不祥事の解説。
2章が一番長くて、公文書管理制度の歴史的経緯。
3、4章は法律の簡単な説明。
5章とおわりにが、今後の展望の話になります。
文字も大きく、ページ数も64頁、561円(税込)ですので、お手に取りやすいものだと思います。
どうかよろしくお願いします。
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愛媛県 「公文書の管理に関する条例(案)」パブコメを考える
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2018-05-17
加計学園問題において、愛媛県の担当者が作成した「獣医師養成系大学の設置に係る内閣府藤原次長・柳瀬首相秘書官との面談結果について」という文書が朝日新聞にスクープされたのは今年(2018年)4月10日のことです。これによれば、2015年4月2日に柳瀬唯夫首相秘書官が首相官邸で愛媛県の担当者などと面会し、「首相案件」であると言われたことなどが記載されていました。https://www.asahi.com/articles/ASL4B5R7XL4BUTIL03H.html愛媛県の中村時広知事は、その日のうちに記者会見を開き、「その担当職員が出席した会議の口頭説明のための備忘録として書いた文書である」と明言しました。https://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/sonota300410.html柳瀬氏は、当初は面会した記憶は無いと主張していましたが、後に会ったことは認めました。さて、中村知事はその翌日の会見で、愛媛県の公文書管理について条例化を検討すると自ら述べ、「速攻でやります」と言い切りました。https://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/kaiken300411.htmlそして、5月15日に「「公文書の管理に関する条例(案)」に対する意見の募集について」というパブリックコメントを募集し始めました。https://www.pref.ehime.jp/comment/30-04-09kankyou/sigakubunsyo.htmlこれだけを見ると、「中村知事は即断即決でやるな」みたいに見えるでしょう。ですが、長年、公文書管理問題の分析をしている私から見ると、「小池百合子東京都知事と同じことをしようとしている」ように見えてしまいます。小池都知事は、豊洲市場問題で公文書がきちんと残っていなかったことを問題視し、公文書管理条例を作ることを目指しました。そして、2016年7月の都議会選挙に間に合わせるために、急いで条例の骨子だけを出したパブリックコメントを4月に行い、審議をろくにしないままに6月に条例を可決したのです。この条例が、国の公文書管理法を参考にしたとも思えないレベルの、スカスカなものであったということは、拙著『公文書問題 日本の「闇」の核心』(集英社新書、2018年2月)で論じました。 この時に東京都は、公文書管理条例案を公表せずにパブ..
2018年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2018-05-17T02:33:54+09:00
これによれば、2015年4月2日に柳瀬唯夫首相秘書官が首相官邸で愛媛県の担当者などと面会し、「首相案件」であると言われたことなどが記載されていました。
https://www.asahi.com/articles/ASL4B5R7XL4BUTIL03H.html
愛媛県の中村時広知事は、その日のうちに記者会見を開き、「その担当職員が出席した会議の口頭説明のための備忘録として書いた文書である」と明言しました。
https://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/sonota300410.html
柳瀬氏は、当初は面会した記憶は無いと主張していましたが、後に会ったことは認めました。
さて、中村知事はその翌日の会見で、愛媛県の公文書管理について条例化を検討すると自ら述べ、「速攻でやります」と言い切りました。
https://www.pref.ehime.jp/governor/teirei/kaiken300411.html
そして、5月15日に「「公文書の管理に関する条例(案)」に対する意見の募集について」というパブリックコメントを募集し始めました。
https://www.pref.ehime.jp/comment/30-04-09kankyou/sigakubunsyo.html
これだけを見ると、「中村知事は即断即決でやるな」みたいに見えるでしょう。
ですが、長年、公文書管理問題の分析をしている私から見ると、「小池百合子東京都知事と同じことをしようとしている」ように見えてしまいます。
小池都知事は、豊洲市場問題で公文書がきちんと残っていなかったことを問題視し、公文書管理条例を作ることを目指しました。
そして、2016年7月の都議会選挙に間に合わせるために、急いで条例の骨子だけを出したパブリックコメントを4月に行い、審議をろくにしないままに6月に条例を可決したのです。
この条例が、国の公文書管理法を参考にしたとも思えないレベルの、スカスカなものであったということは、拙著『公文書問題 日本の「闇」の核心』(集英社新書、2018年2月)で論じました。
この時に東京都は、公文書管理条例案を公表せずにパブコメを行い、情報公開請求で案を入手しようとした情報公開クリアリングハウスの請求に対して「不開示」として案を見せませんでした。
「事前公表したら批判が起きる」ことを怖れたとしか思えません。
小池都知事は「条例を作った」という「事実」が欲しかっただけで、公文書管理をきちんとしようということを真剣に考えていなかったと思わざるをえませんでした。
結果的に、東京都は公文書管理条例を作った意味はあまり無かったと言えます。
私が中村知事の行動が小池都知事に被ると思うのは、このパブコメの行い方です。
パブコメでは条例案の概要が書かれています。
以下、全文を引用します。
https://www.pref.ehime.jp/comment/30_5_15shigaku/bunsyokanri.html
1 条例制定の趣旨
・本県においては、文書管理規程等の内部規程に基づき適正に公文書の管理を行っているところですが、現在、国において公文書の管理が問題となっています。
・また、公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)では、地方公共団体にも、同法の趣旨にのっとり、文書の適正な管理に必要な施策を策定・実施する努力義務が定められています。
・そうした状況を受け、公文書の管理に関する基本的事項について、議会の議決を経て条例に規定することにより、公文書に対する県民の信頼を高めるとともに、職員の意識向上の契機とし、県民への説明責任の徹底を図るものです。
2 条例に規定する主な内容
(1) 公文書の適正な管理を図り、県政が適正かつ効率的に運営されるようにすることを目的とする予定です。
(2) 知事部局に加え、議会・公営企業・教育委員会なども対象とし、公文書の作成・整理・保存・廃棄などの基本的な事項を規定することとする予定です。
(3) 「公文書」の定義は、国の公文書管理法や本県の情報公開条例を踏まえ、「職員が職務上作成・取得した文書であって、組織的に用いるものとして県が保有しているもの」とする予定です。
(4) 公文書の作成に当たっては、軽微なものである場合を除き、本県における意思決定に至る過程や県の事務・事業の実績を合理的に跡付け、検証することができるようにしなければならないこととする予定です。
(5) 公文書の検索に必要な資料を作成し、県民の利用に供することとする予定です。
(6) 毎年、公文書の管理状況を公表することとする予定です。
(7) 職員に対し、公文書の適正・効果的な管理のために必要な知識・技能の習得・向上のための研修を行うこととする予定です。
以上
・・・これは、何をコメントしろというのですかね。
余りにも漠然としているし、何をしようとしているのか、具体的な所が全く分かりません。
国の公文書管理法をベースにしていることぐらいはわかりますが・・・
愛媛県では条例を作る時にパブコメをしなければならないようなので、6月の定例議会で条例を作るためにやらざるをえないのでしょう。
結局中村知事も「条例を作った」という実績が欲しいだけなのでは?と勘ぐってしまいます。
もちろん、公文書管理条例を作ろうという意欲は私は素晴らしいと思います。
愛媛県の公文書は「愛媛県文書管理規程」によって管理されています(情報公開条例に公文書の定義はある→国と基本的には同じ)。
「規程」ですから、あくまでも知事に対する責任として文書管理はなされています。
「条例」は議会を通しますので、「県民に対する責任」という意義づけに変わります。
それは、非常に意味のあることです。
ただ、条例はできればいいというものではありません。
当然、愛媛県民に対する説明責任がきちんと果たせるようにならなければなりません。
機能させるための仕組みや、予算や人員も必要になります。
しかし、これだけのスピードで条例を作っているということは、これまでの原則を変えないということを基本としていることは間違いありません。
ですが、本当にこれまで愛媛県は、県民に対する説明責任を果たせるような公文書管理ができていたのでしょうか。
私は中村知事の最初の会見から、一つの違和感をずっと持っていました。
それは、朝日がスクープした文書を、「当時この会議に出席した職員が、まさにその口頭報告のために作ったメモというものが、この文書の実態でございまして、この文書というものは保管義務がありませんから、今日の担当部局の調査でも、文書そのものは愛媛県庁内には、この段階では確認できていません」と4月10日の記者会見で説明しているのです。
つまり、この文書を「行政文書」(公文書)だと知事は認めていません。
5月11日の記者会見では、「省庁に配っていたりとか、左上に報告・伺と書かれていたりとか、組織的に用いられたのではないかとみられる部分もあると思うが」という記者からの質問に対し、行政文書ではないことを言い切っています。
私は当初から「報告・伺」と文書の左上に四角で囲って書かれている以上、それは上司に目を通してもらうための文書であり、組織的に共有されている公文書であるはずだと考えていました。
中村知事は「口頭説明用」と話していますが、それならば「報告・伺」と書く理由がありません。
「伺」というのは上司に見せるための表現です。
口頭用であれば、そのような書き方をする必要があるとは思えません。
むしろ文科省から以前に流出した、加計学園関係のいわゆる「怪文書」の方が、上司への口頭説明資料と言われて納得できます。
あの文書には作成者の名前も期日も書いていませんでした。
今回の文書は部署名と日付が入っています。
それは「誰かに見せる」ための文書である証拠です。
どうやら、首相秘書官と会ったときの報告書が、愛媛県では「公文書ではない」し、さらに他の関連する文書も公文書としては存在しないということなのでしょう。
なぜこういうことになっているのかを推測すると、文書管理規程にヒントがあるように思います。
愛媛県の文書管理規程を見ると、第3条の2に「文書システムが導入された課所(以下「文書システム導入課所」という。)における文書事務は、文書システムを利用しなければならない。」と書かれています。
ここでいう「文書システム」は「文書管理・電子決裁システム」のことを指します。
そして、文書の起案などは文書システムを使わなければならないとなっています(第20条)。
ということは、ひょっとすると、愛媛県ではこの「文書システム」を通ったものしか、「組織的に共用」された文書として見なされていないのではないかという疑問が沸いてきます。
そう推測すると、中村知事がこの文書を「公文書では無い」という論理はわかりやすいです。
つまり、文書システムをこの文書は通っていない。だから「公文書では無い」のではないかとの疑いです。
愛媛県の条例の概要案には、「公文書の作成に当たっては、軽微なものである場合を除き、本県における意思決定に至る過程や県の事務・事業の実績を合理的に跡付け、検証することができるようにしなければならないこととする予定」とは書かれているので、公文書管理法に準じた作成義務ができる可能性はあります。
ですが、そもそも今回の文書が公文書にならないという状況では、東京都と同じようなスカスカな条例ができる可能性はありえるような気がしています。
本来ならば、現在の愛媛県の文書管理のあり方をきちんと分析をした上で、県民に対する説明責任を果たすためにどのような条例にしたら良いのかを、有識者会議などを作って議論したり、県民の意見を聞いたりと、より実効性のある条例にどうやってしていくかを考える手続きが必要なのではないでしょうか。
また、もしそれが時間がかかるというのであれば、せめて条例案を提示して、パブリックコメントを行うのが、県民に対する説明責任を果たすというものではないでしょうか。
今回の愛媛県の条例化の動きは、条例化の動き自体は歓迎するものの、本当にきちんとした条例ができるのか、また、条例を機能させるような仕組みが構築されるのかが心配です。
なお、愛媛県は、数少ない「県立の公文書館を持たない県」です。
公文書管理条例が作られていく中で、歴史的な公文書もきちんと残る仕組みができるところまで繋がっていけばいいなとは思っていますが・・・
今後も動きを注視していきたいです。
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『公文書問題 日本の「闇」の核心』刊行
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2018-02-16
2018年2月16日に、拙著『公文書管理問題 日本の「闇」の核心』が集英社新書から発売されます。『時の法令』の2016年4月から2017年12月までに月一回(下旬号)連載されたものを、口語体にして情報を更新したものです。この本の出版を集英社から持ちかけられたのは、昨年7月のことです。久保亨先生と出した『国家と秘密 隠される公文書』が増版されたので、そのお祝いに飲んだときに、編集の方に依頼をされました。 この本を出したのは2014年10月で、特定秘密保護法の施行を間近に踏まえた時でした。ただ、編集の方からは、この本を更新するものを出したいという話はちらちらとされてはいました。それで、連載を本にするということになり、『時の法令』の編集をしている雅粒社の方にも許可をいただき、出版することになりました。書き下ろしとなると時間が取れなかったですが、連載をしていると自然と原稿が溜まっていくのだなというのが発見でした。現在では、以前は繁雑に更新していたこのブログの代わりに、『時の法令』で連載をしているという状況になっており、その時々の備忘録としての役割を連載が担っていました。『時の法令』の連載は来年度も続くことが決定しています。こちらも合わせてよろしく御願いします。公文書管理については、注目されないぐらい上手くいっていることが理想ではあります。ただ、現状はまだまだ道半ばであり、問題点を広く知らせる本には社会的な意味があるのではないかと思います。公文書管理問題は、民主主義の運用に関わる問題です。少しでもこの問題に関心を持ってくれる方が増えてくださると著者冥利に尽きます。 内容紹介◆推薦◆青木理氏(ジャーナリスト)「私たちは無知に追いやられていないか。無知に追いやられ、都合よく支配されようとしていないか。本書で著者が書く通り、これは〈民主主義のあり方自体の問題〉なのである」望月衣塑子氏(東京新聞記者)「時の権力者への検証と、歴史の過ちを繰り返させないためには、公文書が不可欠なツールであることを本書は教えてくれる」◆内容◆海外に派遣された自衛隊員の現地での活動記録や豊洲市場、森友、加計学園等をめぐる巨額の税金の使途、国是の大転換を伴う決定のプロセスが記された公文書が相次いで破棄、あるいは未作成とされ、隠蔽される事態が行政の中枢で常態化しています。公文書を軽んじ、秘密が横行することは国民の「知る権利」を著しく傷つけるもので..
2018年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2018-02-16T00:00:00+09:00
拙著『公文書管理問題 日本の「闇」の核心』が集英社新書から発売されます。
『時の法令』の2016年4月から2017年12月までに月一回(下旬号)連載されたものを、口語体にして情報を更新したものです。
この本の出版を集英社から持ちかけられたのは、昨年7月のことです。
久保亨先生と出した『国家と秘密 隠される公文書』が増版されたので、そのお祝いに飲んだときに、編集の方に依頼をされました。
この本を出したのは2014年10月で、特定秘密保護法の施行を間近に踏まえた時でした。
ただ、編集の方からは、この本を更新するものを出したいという話はちらちらとされてはいました。
それで、連載を本にするということになり、『時の法令』の編集をしている雅粒社の方にも許可をいただき、出版することになりました。
書き下ろしとなると時間が取れなかったですが、連載をしていると自然と原稿が溜まっていくのだなというのが発見でした。
現在では、以前は繁雑に更新していたこのブログの代わりに、『時の法令』で連載をしているという状況になっており、その時々の備忘録としての役割を連載が担っていました。
『時の法令』の連載は来年度も続くことが決定しています。
こちらも合わせてよろしく御願いします。
公文書管理については、注目されないぐらい上手くいっていることが理想ではあります。
ただ、現状はまだまだ道半ばであり、問題点を広く知らせる本には社会的な意味があるのではないかと思います。
公文書管理問題は、民主主義の運用に関わる問題です。
少しでもこの問題に関心を持ってくれる方が増えてくださると著者冥利に尽きます。
内容紹介
◆推薦◆
青木理氏(ジャーナリスト)
「私たちは無知に追いやられていないか。
無知に追いやられ、都合よく支配されようとしていないか。
本書で著者が書く通り、
これは〈民主主義のあり方自体の問題〉なのである」
望月衣塑子氏(東京新聞記者)
「時の権力者への検証と、
歴史の過ちを繰り返させないためには、
公文書が不可欠なツールであることを
本書は教えてくれる」
◆内容◆
海外に派遣された自衛隊員の現地での活動記録や豊洲市場、森友、加計学園等をめぐる巨額の税金の使途、国是の大転換を伴う決定のプロセスが記された公文書が相次いで破棄、あるいは未作成とされ、隠蔽される事態が行政の中枢で常態化しています。
公文書を軽んじ、秘密が横行することは国民の「知る権利」を著しく傷つけるものです。本来公文書は、適切な施政が行われたのであれば、それを証明する記録となります。にもかかわらず、公的な情報を隠し続けて責任を曖昧にする理由は何でしょうか。この「無責任の体系」の背後にある情報公開と公文書管理体制の不備とその弊害を、最新情報を交え、第一人者が明快に解説します。
◆目次◆
はじめに 行ったことの検証を疎かにすることは、同じ過ちをくり返すこと
◆第一部 情報公開と公文書管理はなぜ重要か
第一章 記録を作らない「法の番人」
第二章 情報公開がなぜ必要か
第三章 公文書を残さなければ国益を損なう――TPP文書 外交文書公開をめぐる議論
第四章 外交文書を公開する意義
◆第二部 特定秘密という公共の情報を考える
第五章 特定秘密の運用上の問題
第六章 会計検査院と特定秘密
第七章 特定秘密をどう監視するか
◆第三部 公文書管理は日本の諸問題の核心
第八章 豊洲市場問題からみる公文書管理条例の必要性
第九章 南スーダンPKO文書公開問題
第一〇章 特別防衛秘密の闇
第一一章 森友学園関係公文書廃棄問題
第一二章 「私的メモ」と行政文書
◆第四部 展望:公文書と日本人
第一三章 国立公文書館の新館建設問題
第一四章 公文書館と家系調査
第一五章 立法文書の保存と公開
第一六章 東京都公文書管理条例の制定
第一七章 公文書管理法改正を考える
第一八章 公文書の正確性とは何か?
おわりに
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行政文書の管理に関するガイドライン改正案へのパブコメ
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2017-12-02
現在、公文書管理法に基づく「行政文書の管理に関するガイドライン」の改正案が提示され、パブリックコメントが行われています。2017年12月10日(日)まで。http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/index/iken.htmlこのガイドラインの改正は、森友、加計問題などへの対応として行われているものです。内容を具体的に解説をしている時間的な余裕がないので、それをブログに書けませんが、パブコメは作成して送付したので、参考までに下記に貼っておきます。「第1」という記述は、ガイドラインの「第1」のことです。http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/index/pdf/shinkyu.pdfこの改正案については、毎日新聞11月9日朝刊や12月1日朝刊の記事などを参考にしてください。https://mainichi.jp/articles/20171109/ddm/003/010/105000chttps://mainichi.jp/articles/20171201/ddm/004/010/024000c行政文書の管理に関するガイドライン改正案に対する意見瀬畑 源 1.第1、「行政文書」の該当性について 「どのような文書が「組織的に用いるもの」として行政文書に該当するか」は「総合的に考慮して実質的に判断する必要」とされているが、「総合的」「実質的」が何であるかは明確ではない。複数人が閲覧した文書は「組織的に用いるもの」と自動的になるべきものであり、その「実質的」な判断が、公務員の恣意的なものであってはならない。 よって、この項目に「原則複数人が閲覧した文書については、「組織的に用いるもの」とされる」といった内容の記述を加えるべきである。2.第3の3、適切・効率的な文書作成について(1)文書の正確性を確保するために、文書管理者が確認するとあるが、これは課長級の文書管理者が、行政文書であるか否かを決める権限を持つということに他ならない。公文書管理法の行政文書の定義は、①職員が職務上作成・取得、②組織的に用いる、③当該行政機関が保有している、の3点を満たすものである。つまり、職員の意思ではなく、外形的にこの3点を満たすものが行政文書であると定義されている。 しかし、今回のガイドラインの改定は、行政文書にするかどうか(特に②について)の判断を課長級の文書管理者が行うこと..
2017年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2017-12-02T18:07:11+09:00
http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/index/iken.html
このガイドラインの改正は、森友、加計問題などへの対応として行われているものです。
内容を具体的に解説をしている時間的な余裕がないので、それをブログに書けませんが、パブコメは作成して送付したので、参考までに下記に貼っておきます。
「第1」という記述は、ガイドラインの「第1」のことです。
http://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/index/pdf/shinkyu.pdf
この改正案については、毎日新聞11月9日朝刊や12月1日朝刊の記事などを参考にしてください。
https://mainichi.jp/articles/20171109/ddm/003/010/105000c
https://mainichi.jp/articles/20171201/ddm/004/010/024000c
行政文書の管理に関するガイドライン改正案に対する意見
瀬畑 源
1.第1、「行政文書」の該当性について
「どのような文書が「組織的に用いるもの」として行政文書に該当するか」は「総合的に考慮して実質的に判断する必要」とされているが、「総合的」「実質的」が何であるかは明確ではない。複数人が閲覧した文書は「組織的に用いるもの」と自動的になるべきものであり、その「実質的」な判断が、公務員の恣意的なものであってはならない。
よって、この項目に「原則複数人が閲覧した文書については、「組織的に用いるもの」とされる」といった内容の記述を加えるべきである。
2.第3の3、適切・効率的な文書作成について
(1)文書の正確性を確保するために、文書管理者が確認するとあるが、これは課長級の文書管理者が、行政文書であるか否かを決める権限を持つということに他ならない。公文書管理法の行政文書の定義は、①職員が職務上作成・取得、②組織的に用いる、③当該行政機関が保有している、の3点を満たすものである。つまり、職員の意思ではなく、外形的にこの3点を満たすものが行政文書であると定義されている。
しかし、今回のガイドラインの改定は、行政文書にするかどうか(特に②について)の判断を課長級の文書管理者が行うことになっており、本来ならば行政文書として定義されるべき文書を意図的に排除することが可能になる。これは公文書管理法の趣旨をねじ曲げるものである。
あくまでも文書が作成・取得された後、複数の職員によって共有される状態(会議に提出される、メールで回覧される、上司に報告するなど)になったときには、行政文書になることを徹底すべきである。文書の作成者が誰であり、どの使用状況(会議資料など)で出された文書であるのかを明確にする仕組みがあれば十分である。
よって、3(1)にあたる「正確性の確保」に関する記述は削除し、文書の作成者と使用状況がきちんと文書に明記されることを挿入すべきである。
(2)外部との打合せ等記録の作成の際に、相手方の確認を取るとの記載があるが、この義務化には懸念を表する。
相手方の確認を求めることは極めて煩雑なやりとりが必要になる。さらに、公務員以外の外部とのやりとりまで確認をすることが義務づけられており、現場がその時間とコストを負担せざるをえなくなる。その結果、時間とコストの削減のために、差し障りのない情報しか記載されない文書を作成するインセンティブが働くことになる。双方の意見が割れているような情報は、修正が煩雑になるため、文書として残らなくなる可能性が高まるだろう。
「相手方の発言部分等について記録を確定し難い場合は、その旨を判別できるように記載する」との記述によって、煩雑な場合は確認を省略できるような書き方になっている。それを許すのであれば、最初から外部への確認を義務づける必要はない。そもそもとして、打合せ後には「業務に必要な」記録を自分たちで作るはずであり、それに基づいて業務が行われる以上、当該行政機関が自分たちで記録を作れば、「正確性」は担保できるはずである(虚偽の文書をわざわざ作成して業務を行う機関はありえない)。
外部との記録の確認は「必要に応じて行う」こととし、各行政機関が打合せ等の記録をきちんと作成することを義務づければ十分である。なにか問題が起きれば、双方の文書を公開して確認すれば十分であろう。
よって、3(2)の外部の確認の記述は削除し、「打合せ等の正確性を期するために、各行政機関がおのおの記録を作成することを義務づける」ことに変更するべきである。
3.第4の3(6)1年未満文書の類型について
(1)②から、政務三役(大臣、副大臣、政務官)の日程表については除外をするべきである。大臣などの日程や面会記録などは、職務の中立性に関わる重要な文書である。1年未満で廃棄されるのはおかしいと思われる。
(2)⑥の「意思決定の途中段階で作成したもので、当該意思決定に与える影響が極めて小さく、長期間の保存を要しないと判断される文書」については、「影響が極めて小さい」ことの具体的な例を挙げて、定義を限定するべきである。
これまでも政策決定過程を残さなければならないと公文書管理法第4条があるにも関わらず、決裁文書のみを政策決定過程とみなすことが煩雑に起きていたことが、森友学園問題などの原因となった。「極めて小さい」の定義を、形式的な字句の訂正に限るなど、具体例を挙げるべきである。
4.第5の「○○省行政文書ファイル保存要領(例)」について
要領(例)の2の「電子文書の保存場所・方法」において、「文書管理者による確認」が必要とされている。共有の保存場所に保存する文書を「行政文書」とみなすのであれば、課長級の文書管理者による確認は必要なく、複数人で共有されたときに各職員が共有フォルダにファイルを入れればよい。
文書管理者の確認を必要とするという書き方は、課長級が行政文書であるかどうかを恣意的に判断できることに繋がる。よって、「文書管理者による確認の上」という記述は削除されるべきである。
5.第9 研修に関して
公文書管理制度がより良く運用されるには、現場の職員への趣旨の徹底が不可欠である。しかし、施行6年が経ったにもかかわらず、公文書管理をめぐる不祥事は絶えない。これは、研修が必ずしも上手くいっていないという証拠であると思われる。各行政機関でどのような研修を行っているかは、外部からは実態がほぼ把握できない。
よって、各行政機関が研修の具体的な内容を公表することを義務づける記述を挿入するべきである。また、内閣府が作成中のe-ラーニングについても、その内容の公表を義務づけ、具体的な公文書管理の方法について、国民に情報を開示するべきである。
研修の内容を公表し、よりよい研修のあり方について、公文書管理委員会や外部有識者からの意見を求めるべきである。
6.別表第2 保存期間満了時の措置の設定基準について
留意事項として具体的な文書類型を提示したことは評価できる。しかし、これまでの国立公文書館等への移管状況を鑑みるとき、「外交」「防衛」「公安」についての文書が、きちんと移管されていないことに気づく(外交については、外務省以外の経済産業省などが特に移管されていない)。
よって、留意事項のⅠに、「外交」「防衛」「公安」の重要な文書が移管対象であることを明記するべきである。
以上
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衆議院選挙公約における公文書管理制度改革
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2017-10-10
ものすごく久しぶりのブログ更新です。今回は、2017年10月22日投票の衆議院議員選挙における、各党のマニフェストの比較をします。私の関心は、森友・加計・南スーダンPKO文書などの様々な問題で採り上げられた「公文書管理法」に関する記述がどのように書かれているかです。まずは与党から。□自民党https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/manifest/20171010_manifest.pdfⅣ. 国の基本 政治・行政改革・国民への情報公開、説明責任を全うするため、行政文書の適正な管理に努めます。(37ページ)【コメント】特に重点的な政策として取り上げられていない。また、一般論的なことしか書かれておらず、あまり熱心さは伝わらない。□公明党https://www.komei.or.jp/campaign/shuin2017/manifesto/manifesto2017.pdf⑥政治改革と行財政改革 ⑶ 行政サービスの向上と効率化●公文書管理のガイドラインを改正し、国の行政機関等の公文書管理を厳格化し、国民への適切な情報公開体制の整備を図ります。(21ページ(最後))【コメント】マニフェストの最後の最後に書いてあった。自民党と比べると、ガイドラインの改正に言及し、「国民への適切な情報公開体制の整備」という所に踏み込んでいるので、より積極性はうかがえるが、重点政策には取り上げられていない。次に野党。□希望の党https://kibounotou.jp/pdf/policy.pdf公約 8 憲法改正憲法9条をふくめ憲法改正論議をすすめます。国民の知る権利、地方自治の分権を明記します。自衛隊の存在を含め、時代に合った憲法のあり方を議論します。たとえば、国民の知る権利を憲法に明確に定め、国や自治体の情報公開を進めること。地方自治の「分権」の考え方を憲法に明記し、「課税自主権」、「財政自主権」についても規定すること。これらを含む憲法全体の見直しを、与野党の協議によって進めていきます。〔具体的な記述〕8.憲法に希望を ~地方自治、国民の知る権利など幅広く憲法改正に取り組む~•国民の知る権利を憲法に明確に定め、国や地方公共団体の情報公開を抜本的に進める。(15ページ)【コメント】公約8のページに大きく記載があり、「知る権利」や「情報公開」を重点的な政策として置いていることがわかる。「知る権利」の憲法への明記は..
2017年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2017-10-10T18:25:29+09:00
今回は、2017年10月22日投票の衆議院議員選挙における、各党のマニフェストの比較をします。
私の関心は、森友・加計・南スーダンPKO文書などの様々な問題で採り上げられた「公文書管理法」に関する記述がどのように書かれているかです。
まずは与党から。
□自民党
https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/manifest/20171010_manifest.pdf
Ⅳ. 国の基本 政治・行政改革
・国民への情報公開、説明責任を全うするため、行政文書の適正な管理に努めます。
(37ページ)
【コメント】特に重点的な政策として取り上げられていない。また、一般論的なことしか書かれておらず、あまり熱心さは伝わらない。
□公明党
https://www.komei.or.jp/campaign/shuin2017/manifesto/manifesto2017.pdf
⑥政治改革と行財政改革 ⑶ 行政サービスの向上と効率化
●公文書管理のガイドラインを改正し、国の行政機関等の公文書管理を厳格化し、国民への適切な情報公開体制の整備を図ります。
(21ページ(最後))
【コメント】マニフェストの最後の最後に書いてあった。自民党と比べると、ガイドラインの改正に言及し、「国民への適切な情報公開体制の整備」という所に踏み込んでいるので、より積極性はうかがえるが、重点政策には取り上げられていない。
次に野党。
□希望の党
https://kibounotou.jp/pdf/policy.pdf
公約 8 憲法改正
憲法9条をふくめ憲法改正論議をすすめます。
国民の知る権利、地方自治の分権を明記します。
自衛隊の存在を含め、時代に合った憲法のあり方を議論します。
たとえば、国民の知る権利を憲法に明確に定め、
国や自治体の情報公開を進めること。
地方自治の「分権」の考え方を憲法に明記し、
「課税自主権」、「財政自主権」についても規定すること。
これらを含む憲法全体の見直しを、
与野党の協議によって進めていきます。
〔具体的な記述〕
8.憲法に希望を ~地方自治、国民の知る権利など幅広く憲法改正に取り組む~
•国民の知る権利を憲法に明確に定め、国や地方公共団体の情報公開を抜本的に進める。
(15ページ)
【コメント】公約8のページに大きく記載があり、「知る権利」や「情報公開」を重点的な政策として置いていることがわかる。「知る権利」の憲法への明記は、かなり踏み込んだ主張。
憲法改正の中に情報公開を位置づけるというのは、保守の側からの情報公開への取り組みとして、興味深い考え方に見える。
□日本共産党
http://www.jcp.or.jp/web_policy/2017/10/2017-senkyo-seisaku.html
重点政策
1、森友・加計疑惑を徹底究明し、国政の私物化を許しません
安倍首相の昭恵夫人が名誉校長だった森友学園に、国有地が8億円も値引きされてタダ同然で払い下げられていました。安倍首相の「腹心の友」という加計孝太郎氏が長年にわたって要望してきた獣医学部新設が、安倍首相が議長の国家戦略特区会議で唯一例外的に認められました。安倍首相夫妻の「お友達」に、行政が歪められて特別の便宜が図られたという、重大な国政の私物化疑惑です。
国民の7~8割が安倍首相の説明に「納得できない」と言っています。「資料は捨てた」「記憶にない」を繰り返しながら「手続きは適正」と開き直る、批判をする者は「悪者」扱いして権力を使って潰そうとする、都合の悪い事実が明らかになると「私は知らない」「秘書官や役人が勝手にやった」と部下に責任をおしつける――こんな説明に国民が納得できないのは当然です。
真相究明の最大の障害になっているのは、安倍昭恵夫人、加計孝太郎氏という二人のキーパーソンが口をつぐんで何も語ろうとしないことです。日本の行政を法治国家としてまともな姿にするためにも疑惑の徹底究明は不可欠です。
――安倍昭恵氏、加計孝太郎氏ら、関係者の証人喚問をはじめ、国会の強力な国政調査権を使った真相究明を求めます。
――「国民の知る権利」の立場にたって、公文書管理と情報公開のあり方を根本からあらため、公正・公平な行政を確立します。
――内閣人事局を廃止し、「全体の奉仕者」としての公務員にふさわしい人事制度を確立します。
【コメント】森友・加計問題への徹底追求からの、公文書管理、情報公開の改革という主張。ただ、公文書管理制度改革が疑惑追及の手段のみに止まっているようには見える。
□立憲民主党
http://cdp-japan.jp/teaser/pdf/pamphlet.pdf
4 徹底して行政の情報を公開します
知ること、議論すること、そして声を上げること。それは民主主義の根本です。しかし、2012年に安倍政権が誕生してから、政治は一部の権力者に私物化され、大切な情報が隠蔽されてきました。私たちは、現在の政治に違和感や怒り、不満を持つ人たちの声を、しっかりと受け止めます。適切なルールにもとづいて情報を公開し、オープンでクリーンな政治を実現します。
1 政府の情報隠ぺい阻止、特定秘密保護法の廃止、情報公開法改正による行政の透明化
2 議員定数削減、企業団体献金の禁止と個人献金の促進
3 中間支援組織やNPO団体などを支援する「新しい公共」の推進
4 公務員の労働基本権の回復、天下り規制法案の成立
5 取り調べの可視化をはじめ、国民から信頼される司法制度の確立
【コメント】情報公開が民主主義にとって重要という、情報公開の根本から理念を打ち立てていると言う意味で、他の政党と一線を画している。情報公開の前提となる公文書管理法に触れていないのはやや残念。
□日本維新の会
https://o-ishin.jp/election/shuin2017/common/pdf/manifest.pdf
記述なし
【コメント】うーん・・・。森友問題で大阪府から全く文書が出てこなかったことからしても、維新が公文書管理や情報公開に関心がないことはわかっていたが、記述が一切無いとは…。
自民党すら最低限の記述はあるのに。
全くこの問題に意識のないことがわかる。
□社民党
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2017/commitment.htm
政治 変えます
10 「モリカケ」疑惑の徹底究明、権力の私物化を許さず、国民優先のクリーンな政治
○政治と行政を私物化した森友学園・加計学園疑惑を徹底究明します。
○国民の知る権利の観点で情報公開制度と公文書管理のあり方を見直し、透明で公正な行政をめざします。
(以下略)
【コメント】共産党とスタンスはほぼ同じ。森友・加計問題への徹底追求からの、公文書管理、情報公開の改革という主張。
以上を見ていると、与党側はとりあえずマニフェストには入れておいたという対応です。
野党側は、希望の党は知る権利の憲法明記を打ち出し、立憲民主党が情報公開の理念から踏み込んでいる所を見ると、旧民進党の公文書管理や情報公開に詳しい議員が、マニフェストの記述に関与した可能性があります。
立憲民主党は、公文書管理法の作成に関与した議員(枝野幸男氏や西村智奈美氏など)が流れ込んでおり、踏み込み方が一番強いという印象です。
共産や社民は森友・加計問題への対応で、公文書管理法や情報公開法の強化を要求しています。
維新はこれでいいのかと言いたくなります。
私は与野党通じて、この問題に関心がある議員には、何とか国会に戻ってきてほしいと願っています。
公文書管理制度の改革は、与党か野党かは関係なく、行政の効率化や透明化に必要不可欠なものですが、なかなか理解して下さる議員の方は少ないのが現状です。
公文書管理法の骨抜きの改革が政府によって進められてきている現状、なんとか少しでもこの問題に関心がある人が生き残って欲しいと心から願ってやみません。
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公文書管理法5年後見直しの報告書について
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2016-03-31
公文書管理法が施行されてから5年が経過し、附則に定められた見直しが公文書管理委員会で検討され、報告書が2016年3月23日に出されました。公文書管理法施行5年後見直しに関する検討報告書(案)→そのまま変更無しhttp://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2015/20160323/20160323haifu1-2.pdfこの報告書についてコメントしてみたいと思います。そもそも、関係者から洩れ伝わる話として、所轄の内閣府公文書管理課があまり見直しに乗り気ではないということは聞いていました。結果として、非常に抽象的であいまいな報告書がでてきたというのが率直な感想です。まず「基本的な考え方」として、公文書管理法の評価が書いてありますが、以前より「改善」という評価が強く、問題点として指摘されたのは、「(1)現用文書と非現用文書をつなぐ評価選別の在り方、(2)特定歴史公文書等、(3)地方公共団体における文書管理」の3点に絞られました。そこであげられた「見直しの方向」は、概要によると以下の通り(下線も本文の通り)。(1) 現用文書と非現用文書をつなぐ評価選別の在り方について○ 研究者の知見・協力を活用した評価選別の在り方を向上させる仕組み○ 専門職員の育成・配置等、各行政機関における 文書管理業務を支援する仕組み○ 学識経験者の知見・協力を活用した文書管理に関する評価・検証を行う試み○ 電子文書の適切な保存・移管のための電子中間書庫の検討、文書管理システムの改善○ Web・サテライト研修等の多様な研修の実施、コンテンツの充実(2)特定歴史公文書等について○ 利用者の声も踏まえ、専門職員の増員等、利用サービスの更なる充実○ 「時の経過」を踏まえた利用決定を行っている国立公文書館等の現状や運営体制、諸外国における判断ルール、個人情報の取扱に関する議論の状況等に配慮した 利用審査事務・不服審査事務の効率化○ 国立公文書館等の指定に当たって指針となる 「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン 」について、独立行政法人等の視点を踏まえた見直し(3)地方公共団体における文書管理について○ 地方公共団体の参考となる取組の情報収集・提供や、実務的な課題の支援等、国や国立公文書館が地方公共団体を積極的に支援し、普及・啓発を実施する取組具体策が概要からは見えないと思って本文を見ても、..
2016年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2016-03-31T17:49:36+09:00
公文書管理法施行5年後見直しに関する検討報告書(案)→そのまま変更無し
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2015/20160323/20160323haifu1-2.pdf
この報告書についてコメントしてみたいと思います。
そもそも、関係者から洩れ伝わる話として、所轄の内閣府公文書管理課があまり見直しに乗り気ではないということは聞いていました。
結果として、非常に抽象的であいまいな報告書がでてきたというのが率直な感想です。
まず「基本的な考え方」として、公文書管理法の評価が書いてありますが、以前より「改善」という評価が強く、問題点として指摘されたのは、「(1)現用文書と非現用文書をつなぐ評価選別の在り方、(2)特定歴史公文書等、(3)地方公共団体における文書管理」の3点に絞られました。
そこであげられた「見直しの方向」は、概要によると以下の通り(下線も本文の通り)。
(1) 現用文書と非現用文書をつなぐ評価選別の在り方について
○ 研究者の知見・協力を活用した評価選別の在り方を向上させる仕組み
○ 専門職員の育成・配置等、各行政機関における 文書管理業務を支援する仕組み
○ 学識経験者の知見・協力を活用した文書管理に関する評価・検証を行う試み
○ 電子文書の適切な保存・移管のための電子中間書庫の検討、文書管理システムの改善
○ Web・サテライト研修等の多様な研修の実施、コンテンツの充実
(2)特定歴史公文書等について
○ 利用者の声も踏まえ、専門職員の増員等、利用サービスの更なる充実
○ 「時の経過」を踏まえた利用決定を行っている国立公文書館等の現状や運営体制、諸外国における判断ルール、個人情報の取扱に関する議論の状況等に配慮した 利用審査事務・不服審査事務の効率化
○ 国立公文書館等の指定に当たって指針となる 「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン 」について、独立行政法人等の視点を踏まえた見直し
(3)地方公共団体における文書管理について
○ 地方公共団体の参考となる取組の情報収集・提供や、実務的な課題の支援等、国や国立公文書館が地方公共団体を積極的に支援し、普及・啓発を実施する取組
具体策が概要からは見えないと思って本文を見ても、ほぼこの内容に尽きています。
「どう具体的に改善するのか」が書かれる必要があるのに書かれていません。
どれもが改善する必要があることはたしかですが。
それもそのはずで、報告書は「見直しの方向性」というまとめ方をしており、すべてが「検討すべきである」という語尾になっています。
要するに「別のところで検討し直して具体策を立てましょう」としか読めません。
比較対象として、情報公開法の4年見直しの時を見ますと、直すべきところは「改善措置等」として「○○する必要がある」というまとめ方になっていました。
その結果、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律及び独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の趣旨の徹底等について」(総務省行政管理局長通知)が出されたりするなど、法改正には繋がらなかったですが、いくつかの点では改善された部分もありました。
(総務省のウェブサイトに「検討会報告等」「改善措置」として情報がまとめてあります。)
今回の「検討すべき」として挙げられた問題は、いったいどうやって検討を続けることになるのでしょうか。
その点が委員会で議論されていたかは、傍聴していなかったので良くわかりません。
法改正は今の政権から考えて難しいとしても、ガイドラインの改善など、すべきことは色々とあると思います。
なぜこんな中途半端なことになってしまったのかを考えてみると、公文書管理や情報公開、秘密保護、歴史的文書の管理など、それをまとめて構想する司令塔がいないということに原因がある様に見えます。
公文書管理は内閣府ですが、情報公開や文書の電子化は総務省、秘密保護は法務省ですし、国立公文書館は未だに独立行政法人と、制度に関係する機関がバラバラで、司令塔を欠いています。
そのため、自分の管轄以外の改善案が出てきません。
省庁を横断するには政治家のリーダーシップが必要だとは思いますが、この問題に関心のある人がそもそも少ないです。
ただ、それを言っては元も子もないというところでしょうから、結局は現場現場で改善を積み重ねていくしかないのでしょう。
今回の報告書をもとに、具体的な改善にどうやって繋げていけるのかを考えていく必要があると思います。
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情報監視審査会(特定秘密保護法)の審査報告書について
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2016-03-30
2016年3月30日、特定秘密保護法運用の監視を行う国会の情報監視審査会が、今年度の報告書を提出しました。衆議院情報監視審査会報告書http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/jyouhoukanshihoukokusyo.htm参議院情報監視審査会報告書http://www.sangiin.go.jp/japanese/ugoki/h28/160330.html概要の紹介と簡単なコメントをしておきます。報告書を比較します。衆議院は各行政機関からのヒヤリング結果をかなり詳細に資料として付けています。内容はどういった情報を特定秘密に指定しているのか(いないのか)という運用の概略について、ひたすらに情報収集を行っているという印象です。また、どうやってこの審査会を機能させるのかという制度論の部分の議論も多いです。それに関連して、政府に対して「意見」を6項目付けています。参議院は資料があまり充実しておらず、意見も特に付けていません。野党が開催を要求できる人数を満たしている(3分の1以上)ため、衆議院の倍近く開催し、特定秘密を実際に提出させて議論するなど、衆議院より特定秘密の「内容」に関わる問題を議論していました。なので議論の内容自体は面白いです。衆議院が付けているような具体的なヒヤリングの結果を、参議院の報告書にも載せてほしかったというのが率直なところです。報告書を読んでの感想ですが、所属した議員は頑張って職務に取り組んでいたとは言えると思います。秘密保護法や安保法の反対運動のプレッシャーなどもあったでしょうが、自分達がきちんとこの審査会を軌道に乗せなければならないという意識は強くあったのではないでしょうか。ただ、官僚からきちんと資料が出てこないことが多かったようです。衆議院の報告書に次のような部分があります(12頁)。情報監視審査会において、特定秘密そのものではない事項についても、政府は「答弁を差し控える」旨の答弁をすることが多かった。情報が開示されないと審査会の任務である特定秘密の指定が適正かどうかの調査ができないとの発言が委員からなされているところである。〔中略〕額賀福志郎会長から、審査会は特定秘密に関する国民と行政との接点にあるとの観点から、国益と国民の利益をよく勘案し、より良い方向性を作っていけるように関係者が努力する..
2016年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2016-03-30T23:07:48+09:00
衆議院情報監視審査会報告書http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/jyouhoukanshihoukokusyo.htm
参議院情報監視審査会報告書
http://www.sangiin.go.jp/japanese/ugoki/h28/160330.html
概要の紹介と簡単なコメントをしておきます。
報告書を比較します。
衆議院は各行政機関からのヒヤリング結果をかなり詳細に資料として付けています。
内容はどういった情報を特定秘密に指定しているのか(いないのか)という運用の概略について、ひたすらに情報収集を行っているという印象です。
また、どうやってこの審査会を機能させるのかという制度論の部分の議論も多いです。それに関連して、政府に対して「意見」を6項目付けています。
参議院は資料があまり充実しておらず、意見も特に付けていません。
野党が開催を要求できる人数を満たしている(3分の1以上)ため、衆議院の倍近く開催し、特定秘密を実際に提出させて議論するなど、衆議院より特定秘密の「内容」に関わる問題を議論していました。
なので議論の内容自体は面白いです。
衆議院が付けているような具体的なヒヤリングの結果を、参議院の報告書にも載せてほしかったというのが率直なところです。
報告書を読んでの感想ですが、所属した議員は頑張って職務に取り組んでいたとは言えると思います。
秘密保護法や安保法の反対運動のプレッシャーなどもあったでしょうが、自分達がきちんとこの審査会を軌道に乗せなければならないという意識は強くあったのではないでしょうか。
ただ、官僚からきちんと資料が出てこないことが多かったようです。
衆議院の報告書に次のような部分があります(12頁)。
情報監視審査会において、特定秘密そのものではない事項についても、政府は「答弁を差し控える」旨の答弁をすることが多かった。情報が開示されないと審査会の任務である特定秘密の指定が適正かどうかの調査ができないとの発言が委員からなされているところである。
〔中略〕
額賀福志郎会長から、審査会は特定秘密に関する国民と行政との接点にあるとの観点から、国益と国民の利益をよく勘案し、より良い方向性を作っていけるように関係者が努力する必要がある旨の指摘が幾度もされているところである。
与党自民党の委員長が「幾度も」指摘をしているというところから見てもわかるように、漏洩に対する罰則まで用意している審査会においてすら、答弁を拒否されたり、情報が出てこなかったりしたことが多かったのでしょう。
与党が圧倒的多数の衆議院の側が、「意見」をつけて文句を言いたくなるのだから、よほどのことだと思います。
衆議院側が出した意見は6つあります。
(1)特定秘密の内容を示す名称(特定秘密指定管理簿の「指定に係る特定秘密の概要」及び特定秘密指定書の「対象情報」の記載)は、特定秘密として取り扱われる文書等の範囲が限定され、かつ、具体的にどのような内容の文書が含まれているかがある程度想起されるような記述となるように、政府として総点検を行い、早急に改めること。
その上で、各行政機関が特定秘密の内容を示す名称の付け方に関し、各行政機関の間でばらつきが出ないよう、横断的な事項について政府としてある程度統一した方針を策定し、公表すること。
特定秘密の「名称」や「概要」があまりに曖昧すぎて、「審査することは極めて困難であり、不適切」(報告書10頁)な状況であるとのこと。
内容がある程度わかるように具体的に書けということです。
行政文書のファイル管理簿ですら、文書名の曖昧さ(検索して特定されないように、わざと曖昧な名称にする)は問題になっており、特定秘密でも同様の問題が起きているということでしょう。
(2)特定秘密を保有する行政機関の長は、指定された特定秘密ごとに特定秘密が記録された文書等の名称の一覧(特定秘密文書等管理簿)を、特定秘密ごとの文書等の件数とともに当審査会に提出すること。文書等の名称からその内容が推察しにくい場合は、文書等の内容を示す名称をもって説明すること。
内閣府独立公文書管理監は、特定秘密文書等管理簿を提出させ、それを基に文書等の内容を示す名称となっているか否かを審査し、不適切と思料するものについては改めること及びこれらの経過につき当審査会に報告することについて検討すること。
(1)に関連して、「特定秘密文書等管理簿」を提出せよという意見。
審査会には「指定」管理簿は提出されますが、「文書」管理簿は提出されません。
「指定」管理簿は「こういった情報類型を特定秘密にします」という管理簿であるにすぎません。実際に管理しているのは「文書」管理簿です。
こちらを出さないと監視ができないと主張しています。
後半部分は、文書管理簿を見ることができる独立公文書管理監(内閣府で特定秘密保護法の監視を担う)が、審査会に報告をすることを検討せよということです。
これは(6)とも関係しますが、国会の審査会と内閣府の独立公文書管理監との関係は現在何も考えられていないため、そこを繋いで国会への報告義務を課そうとしています。
この(2)の部分はかなり重要な意味を持つと考えます。
国会が監視するとしても、全ての文書をフラットに監視できるわけではありません。
リストなどを用いて問題のある書類をピックアップして検証するという作業になる以上、まともなリストが提出されていない限り、機能は制限されることになります。
(3)特定秘密を指定する行政機関において、特定秘密を含む文書等の保存期間は、当該特定秘密の指定期間に合わせることも考慮した上で、それ以前の保存期間を設定する場合や特定秘密の指定期間満了前に当該特定秘密を含む文書等を廃棄する場合には、内閣府独立公文書管理監に合理的な説明を行うこととし、独立公文書管理監は、上記の運営状況について、定期的に当審査会に対し報告することとする制度を構築するよう検討すること。
また、1年間に廃棄した文書等及び今後1年以内に廃棄予定の文書等(特定秘密の指定期間が切れる場合を含む。)について、その件数と、文書等の名称(名称から文書等の内容が推察しにくい場合はその内容)を当審査会に報告すること。
さらっと間に挟まっているが、かなり重要な事実が明らかになっています。
以前から私はブログでこの危惧を書いていましたが、文書の保存期間が満了した時に「特定秘密」の指定期間が残っていた場合、特定秘密を解除せずに廃棄することを、この法律は排除していません。
行政文書は、公文書管理法に基づいて、移管して国立公文書館等で永久に保存するか、廃棄するかの選択をしなければなりません。
廃棄をする際には「内閣総理大臣」と「協議」し「同意」を得る必要があります。
現在は、内閣府公文書管理課が審査し、国立公文書館が助言をしているという形で運用されています。
この(3)では、特定秘密のまま文書が廃棄されることを前提として話が進められており、さらに「内閣総理大臣」との「協議」「同意」の相手を、独立公文書管理監にしようとしています。
しかも「合理的な説明」としか書いていないので、事実上各行政機関の意志を追認するだけとして独立公文書管理監を位置づけようとしています。
監視機関をむしろ「合法的に捨てる隠れ蓑」にしようとしているようにも見えます。
特定秘密の廃棄はあくまでも緊急事態(戦地などで相手に文書が奪われそうになった時)に留めるべきであり、通常の廃棄をする際には、一度特定秘密は解除するか、公文書管理課や国立公文書館の担当職員に適性検査を受けさせて特定秘密を扱えるようにして、いま行われている方法で審査するべきだと思います。
(4)政府においては、当審査会への説明に際し、特定秘密以外の秘密等不開示情報の解除など事前に十分な準備を行ってから審査会に出席し、答弁すること。特に、国会に対する説明責任と審査会に対する情報提供の在り方について改めて検討すること。
これは、審査会の場で官僚側が、特定秘密でないことすら答弁拒否を続けたことに対する、審査会側の不満がストレートに反映されているところです。
答弁拒否をせずにきちんと説明せよということでしょう。
(5)特定秘密指定管理簿及び特定秘密指定書の内容について、不開示部分とされている部分を除き、各行政機関の長が積極的に公表すること及び内閣情報調査室は、これらの公表結果を取りまとめ、特定秘密全体の指定件数とともに総括的な閲覧を可能とすることについて検討を行うこと。また、特定秘密指定管理簿の特定秘密の概要の記載について、他省庁と同様の記述となっているものについては、審査会においてそれぞれの相違点を明確に答弁すること。
公開できる情報は自ら積極的に公開するべきという主張です。
こういった地道な情報開示は重要だと思います。
(6)内閣府独立公文書管理監の活動・機能等について当審査会として重大な関心を持っていることから、審査会に定期的に活動状況報告を行うこととする運用基準の改正等を検討すること。
独立公文書管理監を国会が監視するという仕組みを作りたいということです。
監視機関を監視するということですね。
さて、この6項目ですが、(3)は保留しますが、それ以外は「勧告」として行うべきものだったと思います。
「意見」はあくまでも「参考」にすぎません。
ただ、「勧告」であったならば、勧告に対してどのように対処したかの報告を求めることができます。
つまり、応答義務が各行政機関に発生します。
衆議院の提案は、実際に監視をきちんと行おうとするための基本的なインフラにあたる部分です。
これが整備されることは、監視のための大前提です。
勧告という強制力が働く方法で出すべき主張だったと思います。
1年目ということで、まずは仕組みを整えるところが議論の中心になったのはやむを得ないことかもしれません。
ただ、限界はあるにせよ、少しでも監視機能が有効的に使える仕組みを整え、特定秘密の歯止めのない拡大を阻止することが必要だと思います。
他に気づいたことがあれば、別途追加して書こうと思います。
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立法府(国会など)と公文書管理・情報公開制度
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2016-03-08
先日某所で立法府(国会など)の公文書管理制度や情報公開制度について話す機会がありました。せっかくなので、覚えているうちにまとめておきます。「立法府では「公文書管理法」や「情報公開法」がない!」こういう書き方をすると、「議事録は整備されて公開されてるよね?」と返されることがあります。確かに、立法府が作る公文書には、作成や公開されることが義務づけられているものもあります。代表的なものとしては、憲法57条で定められている本会議の議事録が挙げられるでしょう。他にも慣例で、委員会の議事録や議事日程、法律案、質問主意書・答弁書などが公開されています。特にインターネットが普及し始めてから、これらの情報へのアクセスはしやすくなりました。私が院生になった頃には、国会のインターネットでの会議録検索が無かったため、委員会の議事録は国会図書館の議会官庁資料室に行かないと見ることができなくて苦労した思い出があります(都道府県図書館に部分的には入っていたりしたが)。その時代から比べると隔世の感です。ただ、これらは立法府側が自発的に提供している「広報」の類です。立法府が所有している「公文書」=立法文書は当然これに止まりません。立法府の公文書は大きく分けると、①補佐・附属機関の文書、②会派・議員事務所の文書、の2つに分けることができます。後者については、情報公開などになかなか馴染みにくい話ですので、とりあえず今回は脇に置いておきます(議員活動の自由があるので)。①についてですが、以下のように分類できます。1.事務局文書 A:議院行政文書(参議院は「事務局文書」)→情報公開対象 B:立法及び調査に係る文書(立法調査文書) C:その他(衆議院憲政記念館、参議院議会史料室にある歴史文書)→公開?2.法制局文書3.国立国会図書館文書 A:事務文書→情報公開対象 B:図書館資料(憲政資料なども含む)→公開 C:立法及び立法に関する調査文書(国会図書館法第15条第1~3号)4.裁判所訴追委員会文書5.裁判官弾劾裁判所文書1,2は衆議院と参議院とそれぞれに存在します。2,4,5については、情報公開制度が無いので、内部でどのように文書を分類しているかわかりません。1,3については、それぞれのAに情報公開制度が作られていますので、文書管理の規程を見ました。1の事務局文書を説明すればおおよそ残りも説明がつくので、ここを中心に説明します。4,5については私もよくわか..
2016年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2016-03-08T20:49:49+09:00
立法府(国会など)の公文書管理制度や情報公開制度について話す機会がありました。
せっかくなので、覚えているうちにまとめておきます。
「立法府では「公文書管理法」や「情報公開法」がない!」
こういう書き方をすると、「議事録は整備されて公開されてるよね?」と返されることがあります。
確かに、立法府が作る公文書には、作成や公開されることが義務づけられているものもあります。
代表的なものとしては、憲法57条で定められている本会議の議事録が挙げられるでしょう。
他にも慣例で、委員会の議事録や議事日程、法律案、質問主意書・答弁書などが公開されています。
特にインターネットが普及し始めてから、これらの情報へのアクセスはしやすくなりました。
私が院生になった頃には、国会のインターネットでの会議録検索が無かったため、委員会の議事録は国会図書館の議会官庁資料室に行かないと見ることができなくて苦労した思い出があります(都道府県図書館に部分的には入っていたりしたが)。
その時代から比べると隔世の感です。
ただ、これらは立法府側が自発的に提供している「広報」の類です。
立法府が所有している「公文書」=立法文書は当然これに止まりません。
立法府の公文書は大きく分けると、①補佐・附属機関の文書、②会派・議員事務所の文書、の2つに分けることができます。
後者については、情報公開などになかなか馴染みにくい話ですので、とりあえず今回は脇に置いておきます(議員活動の自由があるので)。
①についてですが、以下のように分類できます。
1.事務局文書
A:議院行政文書(参議院は「事務局文書」)→情報公開対象
B:立法及び調査に係る文書(立法調査文書)
C:その他(衆議院憲政記念館、参議院議会史料室にある歴史文書)→公開?
2.法制局文書
3.国立国会図書館文書
A:事務文書→情報公開対象
B:図書館資料(憲政資料なども含む)→公開
C:立法及び立法に関する調査文書(国会図書館法第15条第1~3号)
4.裁判所訴追委員会文書
5.裁判官弾劾裁判所文書
1,2は衆議院と参議院とそれぞれに存在します。
2,4,5については、情報公開制度が無いので、内部でどのように文書を分類しているかわかりません。
1,3については、それぞれのAに情報公開制度が作られていますので、文書管理の規程を見ました。
1の事務局文書を説明すればおおよそ残りも説明がつくので、ここを中心に説明します。
4,5については私もよくわからないので飛ばします(判例は公開されているようですが)。
事務局の事務に関する文書(A)は、情報公開請求の対象となっています。
衆議院事務局
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/osirase/jyouhoukoukai.htm
参議院事務局
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/johokoukai/seido.html
ただし、立法府には情報公開法が存在しませんので、行政に対する情報公開請求と違って法的拘束力がありません。
そのため、行政の方では義務化されているファイル管理簿の公開がウェブにアップされていません。事務局に出向けば見ることはできます(国会図書館も同じく管理簿がアップされていない)。
5年ほど前に両院の事務局で管理簿のウェブ上公開をなぜしないのかを聞いたことがあるのですが、「予定はない」との答えでした。
事務局文書で大きいのは、Bの「立法調査文書」が公開されていないことです。
2の法制局文書、3のCの国会図書館が議員から依頼されて調査しているものも非公開となっており、議員が調査を求めた文書については一切公開されないこととなっています。
この「立法調査文書」は、国会における政策決定過程を解明するためには非常に重要な資料です。
また、普段から国会議員がどのような活動をしているのかを明らかにすることにも繋がります。
特に、行政の側に資料が残りにくい議員立法の政策立案関連の文書は、法制局などに残っている可能性は十分にありえます。
しかし、これらの文書は、情報公開の対象でないどころか、何年経っても公開されない(廃棄されている可能性も十分にありうる)文書となっています。
関係者から聞いた話だと、「議員活動の自由を侵害することを事務局が勝手に公開することはできない」という論理のようです。政治的中立性が問われる立場ですので、そのようにしか運用できないのでしょう。
確かに、例えば原発反対についての法律などの調査を法制局や国会図書館に依頼していたことが、情報公開請求で公開されてしまえば、原発賛成派からの圧力をかけられることも十分にありえます。
また、根回し中の政策の情報収集を依頼している可能性もあり、公開に慎重になるのはわからなくはないです。
ただ、依頼した本人が国会議員で無くなってから10年経過した後、とか、本人が亡くなった後、などに公開をするなど、本人の議員活動に影響が出ない形での公開方法を整備することは可能に思います。
このあたりは事務局の一存ではどうしようも無い部分ですので、国会議員が自ら法制度を作らないと公開されることはないでしょう。
では、この「立法調査文書」が非公開になっている状況はこれで良いのかということです。
おそらく国会議員がこの公開制度を整備しないというのは、関心が無いこともあるけれども、「作りたくない」というところもあるのでしょう。
何を調べていたのかを知られたくない、知られたときに批判されるかもと怖れているかもしれません。
私はここまでの文面を見てわかるように、「公開制度を整備すべき」という立場です。
そのために「立法公文書管理法」「立法情報公開法」を制定する必要があると考えています。
すでに行政府には公文書管理法と情報公開法が存在しており、公文書をどのように作成し、保存するか、公開の基準はどうするかなどの制度が法制化されています。
これは、現在だけでなく未来の国民に対する「説明責任」のためだと規定されています(公文書管理法第1条)。
立法府の「説明責任」を果たすために、どのような文書を作成しなければならないか、公開制度をどうするか、など、ルールをきちんと作る必要があると思います。
上記の立法調査文書だけでなく、法案の修正の経緯がわかる文書を作成することを義務化する(現在は密室の政党間協議で行われるから理由が分からない)とか、公開されていない委員会の理事会の記録作成なども必要でしょう。
すぐには公開できなくても、いずれは公開して検証の対象とすることで説明責任を果たすことができます。
そして、歴史的に重要な文書を永久保存して公開する仕組み(公文書館)を作ることも大切です。
歴史的に重要な文書を保存・公開する機関として、上記の1のCに衆議院憲政記念館などが位置づけられていますが、実際にはほとんど文書は移管されていません。
また、参議院議会史料室にある貴族院時代の文書も、目録が未整備でなかなか公開されないという話も聞きます。
国立公文書館に文書を移管することは法的には可能ですが、一切なされていません。
日本近代史の第一人者である加藤陽子東京大学大学院教授は、「国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」の第10回(2015年10月19日)において、建設予定の新しい「国立公文書館」構想への提言をされているなかで、次のようなことを話されています。
○ 国民の目に映ずる国の文書
国民にとって国の文書といった場合、立法、司法、行政のそれぞれが作成した記録といった目では見ていないはず。国家として一体的になされた政策決定過程を、現在及び将来の国民にしっかりと残し、「この国のかたち」として見て貰う施設。
つまり、「国の文書」というのは、立法、司法、行政のすべての文書が一括して管理・保存される必要があるということです。
今現在、行政は法律ができました。司法は最高裁によって一定のルールが作られています。
立法だけが何も対応していないのです。
この状況は変えていく必要があるのではないでしょうか。
行政の公文書管理法の附則第13条第2項には、「国会及び裁判所の文書の管理の在り方については、この法律の趣旨、国会及び裁判所の地位及び権能等を踏まえ、検討が行われるものとする」と書かれています。
自分達で決めた法律に書かれているのですから、そこは検討してほしいと思っています。
最後に、この立法府の公文書管理や情報公開問題は、2001年の情報公開法施行前あたりには、法学者などが活発に議論をしていたのですが、その後はあまりされていないようです。
自由人権協会が2001年に国会の情報公開法案を作っていますが、その後はあまり要求も出ていないように思います。
立法府の公文書管理や情報公開を考えることは、国会議員の活動を国民により「見える」ようにする仕組みを考えることでもあると思います。
「何をやっているかよくわからない」から「税金の無駄だから減らせ」と言われがちな議員達が、どのような仕事をしているのかを、もっと国民の目に見えるようにしていくための制度として、これらを位置づけてはどうでしょうか。
もっと国民の側から必要性を訴えていかなければならないと考えます。
○参考文献
・山田敏之「国会の情報公開と欧米の議会文書館制度」『調査と情報』319号、1999年6月
→国会の情報公開制度をコンパクトにまとめたもの。やや古くなったが、今でも参照にされる。
・大山礼子「国会情報」、浦田一郎・只野雅人編『議会の役割と憲法原理』信山社、2008年
→大山先生は国会制度の第一人者。岩波新書の『日本の国会――審議する立法府へ』もおすすめ。
・大蔵綾子「わが国の立法府における情報公開の新展開」『レコード・マネジメント』57号、2009年5月
→大蔵さんは当時筑波の院生。その後、国立公文書館にも勤務されていた。アーキビストからの立法文書問題への切り口は非常にユニーク。私が本で立法文書問題を取り上げた際は、彼女の論文を手がかりにして調査をしました。
・奈良岡聰智・上田健介「イギリス議会文書館・図書館の概要」『RESEARCH BUREAU論究』11号、2014年12月、30-40頁
・曽雌裕一「ドイツ連邦議会における議会公文書の管理状況―ドイツ連邦議会公文書館と公文書館規則を中心に」『レファレンス』66巻1号、2016年1月
→この2本は、近年の他国の議会文書館を紹介したもの。こういった事例紹介がもっと積み重なっていくと、日本がどうするべきかを考える手がかりになると思います。
・瀬畑源『公文書をつかう―公文書管理制度と歴史研究』青弓社、2011年
→拙稿。立法文書問題については、今後の課題という所で詳しくまとめています。
・立法府の情報公開の現状(2011年5月7日)
→上記の本を書くときの調査記録をブログに書いたもの。この頃から何も変わっていない・・・
・「衆議院事務局文書取扱規程」「参議院事務局文書管理規程」
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/report.html
ウェブに上がっていなかったので。2011年に情報公開請求で入手したもの。リンク先の一番下の所に貼りました。
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特定秘密が会計検査院の検査に提出されない可能性について
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2015-12-27
ずいぶんと時間が空いてしまいましたが、この問題は自分なりにきちんと考えたいと思ったので取り上げてみます。毎日新聞の2015年12月8日のスクープ。特定秘密保護法 会計検査院「憲法上、問題」指摘毎日新聞 2015年12月8日 08時30分http://mainichi.jp/articles/20151208/k00/00m/040/176000c「すべてを検査とする憲法の規定上、問題」 特定秘密保護法案の閣議決定を控えた2013年9月、法が成立すれば秘密指定書類が会計検査に提出されない恐れがあるとして、会計検査院が「すべてを検査するとしている憲法の規定上、問題」と内閣官房に指摘していたことが分かった。検査院は条文修正を求めたが、受け入れられないまま特定秘密保護法は成立。内閣官房は修正しない代わりに、施行後も従来通り会計検査に応じるよう各省庁に通達すると約束したが、法成立後2年たっても通達を出していない。【青島顕】 毎日新聞が情報公開請求で内閣官房や検査院から入手した法案検討過程の文書で判明した。10日で施行1年を迎える特定秘密保護法の10条1項は、秘密を指定した行政機関が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」と判断すれば、国会などから求められても秘密の提示を拒むことができるとしている。 開示された文書によると13年9月、同法の政府原案の提示を受けた検査院は、「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」がある場合、特定秘密を含む文書の提供を検査対象の省庁から受けられない事態がありうるとして、内閣官房に配慮を求めた。憲法90条は、国の収入支出の決算をすべて毎年、検査院が検査すると定めているためだ。 ところが、内閣官房は「検査院と行政機関で調整すれば(文書の)提供を受けることは可能」などと修正に応じなかった。検査院側も譲らず、同年10月上旬まで少なくともさらに2回、憲法上問題だと法案の修正を文書で繰り返し求めた。 結局、検査院と内閣官房の幹部同士の話し合いを経て同年10月10日、条文の修正をしない代わりに「秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた場合、提供する取り扱いに変更を加えない」とする文書を内閣官房が各省庁に通達することで合意した。約2週間後の10月25日に法案は閣議決定され、国会に提出されて同年12月に成立した。 それから2年たつが7日までに通達は出ていない。会計検査院法規課は取材に「今..
2015年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2015-12-27T22:45:35+09:00
毎日新聞の2015年12月8日のスクープ。
特定秘密保護法 会計検査院「憲法上、問題」指摘
毎日新聞 2015年12月8日 08時30分
http://mainichi.jp/articles/20151208/k00/00m/040/176000c
「すべてを検査とする憲法の規定上、問題」
特定秘密保護法案の閣議決定を控えた2013年9月、法が成立すれば秘密指定書類が会計検査に提出されない恐れがあるとして、会計検査院が「すべてを検査するとしている憲法の規定上、問題」と内閣官房に指摘していたことが分かった。検査院は条文修正を求めたが、受け入れられないまま特定秘密保護法は成立。内閣官房は修正しない代わりに、施行後も従来通り会計検査に応じるよう各省庁に通達すると約束したが、法成立後2年たっても通達を出していない。【青島顕】
毎日新聞が情報公開請求で内閣官房や検査院から入手した法案検討過程の文書で判明した。10日で施行1年を迎える特定秘密保護法の10条1項は、秘密を指定した行政機関が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」と判断すれば、国会などから求められても秘密の提示を拒むことができるとしている。
開示された文書によると13年9月、同法の政府原案の提示を受けた検査院は、「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」がある場合、特定秘密を含む文書の提供を検査対象の省庁から受けられない事態がありうるとして、内閣官房に配慮を求めた。憲法90条は、国の収入支出の決算をすべて毎年、検査院が検査すると定めているためだ。
ところが、内閣官房は「検査院と行政機関で調整すれば(文書の)提供を受けることは可能」などと修正に応じなかった。検査院側も譲らず、同年10月上旬まで少なくともさらに2回、憲法上問題だと法案の修正を文書で繰り返し求めた。
結局、検査院と内閣官房の幹部同士の話し合いを経て同年10月10日、条文の修正をしない代わりに「秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた場合、提供する取り扱いに変更を加えない」とする文書を内閣官房が各省庁に通達することで合意した。約2週間後の10月25日に法案は閣議決定され、国会に提出されて同年12月に成立した。
それから2年たつが7日までに通達は出ていない。会計検査院法規課は取材に「今のところ、特定秘密を含む文書が検査対象になったという報告は受けていない」とした上で「我々は憲法に基づいてやっており、情報が確実に取れることが重要。内閣官房には通達を出してもらわないといけない。(条文の修正を求めるかどうかは)運用状況を見てのことになる」と話した。
内閣官房内閣情報調査室は取材に「憲法上の問題があるとは認識していない。会計検査において特段の問題が生じているとは承知していない」と答えた。通達については「適切な時期に出すことを考えている」としている。
〔中略〕
情報隠し 危険はらむ
会計検査院にとって、大日本帝国憲法下では軍事関係予算の検査に限界があった。政府・軍の機密費が会計検査の対象外だったため、膨れ上がった軍関係予算の多くがブラックボックスに入った。「会計検査院百年史」は、軍事上の秘密漏えいを処罰する軍機保護法(1937年改正)によって「会計検査はかなり制約を受けた」と記す。
現行憲法90条はこうした反省から「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院が検査する」と規定する。検査院は内閣から独立している。これまでも自衛隊法の規定する防衛秘密について検査院への提供を制限する規定はなかった。
特定秘密には防衛や外交などの予算措置に関する文書が含まれる。
秘密保護法10条1項について、元会計検査院局長の有川博・日本大教授(公共政策)は「検査を受ける側が(提出文書を)選別できるなら、憲法90条に抵触すると言わざるを得ない」と指摘する。
国の重要な秘密の漏えいや不正な取得に重罰を科す秘密保護法は、運用次第で深刻な情報隠しにつながりかねない危険をはらむ。疑念を解消する努力が政府に求められる。【青島顕】
(引用終)
『毎日新聞』社会部の情報公開制度を利用した調査報道は群を抜いている。
先日の内閣法制局が集団的自衛権を認める閣議決定に関する文書を持っていなかった件も『毎日新聞』のスクープであった。
さて、内容について分析したい。
会計検査院は憲法90条に基づいて置かれる機関である。
憲法90条1項を見てみると
国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
とある。
キーワードは「すべて」「毎年」「次の年度」「国会に提出」である。
予算は必ず「毎年」締めて、会計検査を受けなければならない(「すべて」であり例外は無い)。
そして内閣はそれを翌年度内に国会に報告する義務を負っている。
「すべて」とある以上、特定秘密に指定されている予算もその対象となる。
当然だが、その検査を行うためには特定秘密を見る必要も出てくる可能性が高い。
それが行えなくなる可能性があるということが、この記事の指摘した点である。
これは非常に大きな問題である。
ただ、この問題を理解するためには、戦前からの会計検査院の歴史について考える必要がある。
会計検査院が作成した『会計検査院百年史』(1980年)を参考にすると、以下の通りである。
戦前の会計検査院は、天皇の下に置かれていたため、帝国議会との関係が無かった。
また、軍などの検査に、大きな制約を科されていた。
帝国憲法に基づいて会計検査院法が制定されたのは1889年であるが、この23条には、「機密費」は「検査ヲ行フ限リニ在ラス」とされており、軍だけでなく、外務省なども含めた「機密費」について、会計検査院は一切手を出せなかった。
また、翌年に「陸海軍出師準備ニ属スル物品検査ノ件」が法制化され、軍の「出師」(出兵)の準備のための物品費用については、検査を受けなくても良くなった。
そして「出師準備品」に何を指定するかは陸海軍に任された。
陸軍は当初から、さまざまな物品を「出師準備品」として会計検査を受けないようにし(海軍は1941年から拡大)、会計検査院の検査から逃れようとした。
会計検査院は何度も抗議をしたようだが、全く相手にされなかったらしい。
また、1899年には軍機保護法が制定され、軍の機密に関わる文書を入手しづらくなり、会計検査がさらにやりづらくなった。
特に1937年の大改正の後には、たとえ検査のために軍事機密を見せてもらえたとしても、その報告をする際に情報を利用することができず、会社名はA社とかいった形で、ぼかして報告せざるをえなかった。
さらに、日清戦争の際に「臨時軍事費特別会計」が置かれることになった。
これは、作戦行動に必要な経費を、細目を付けずにざっくりと陸海軍に渡し、戦争が終わって会計を閉じるときに検査を受けさせるという仕組みである。
予算が足りないときには追加予算を申請するが、その細目も議会で説明する必要が無い。
この会計は軍に重宝された。この「特別会計」は、戦争が終わるまでを一つの年度と考え、途中に検査が行われない。
また、検査には制約もあったので、軍はかなり自由にこの予算を使っていた。
この「臨時軍事費特別会計」は、のちに日露戦争、第一次世界大戦、アジア・太平洋戦争において設置された。
第一次世界大戦の臨時軍事費は、シベリア出兵にまで流用された。
のちに田中義一陸軍大将が持参金300万を持って立憲政友会総裁になった際の資金の出所として、この臨時軍事費の流用が疑われたこともある(陸軍機密費事件)。
アジア・太平洋戦争時の臨時軍事費は、元々「支那事変」対象のものだったが、陸海軍が対英米戦の準備に大量に流用し、そのまま「大東亜戦争」対象へと繋がっていった。
また、選挙対策などにも流用されたとされており、検査が戦争終結まで来ないことをいいことに、目的外利用が繁雑に行われていた。
この「臨時軍事費特別会計」は、敗戦後の1946年に停止になるが、会計検査院の検査の結果、全体で約1554億円の支出のうち、陸軍は約64億、海軍は約62億が「戦災などによる証明書類消失」のため、「検査したことにする」として処理された(当時の物価は今よりかなり安いので、相当な額だと思われる)。
もちろん、本当に消失したものもあっただろうが、使途不明金などがまとめて処理されたということだろう。
ちなみに会計検査院によれば、1945年の国家予算は7割近くが臨時軍事費で占めていたとのことであり、その金額の大きさがうかがえる。
戦後の会計検査院は、この反省を活かして作られた。
軍が「暴走」できたのは、当然「予算」の裏付けがあったからこそである。
臨時軍事費は打ち出の小槌のように予算を吐き出すシステムだったのだ(歳入のほとんどは公債)。
だからこそ、きちんとチェックをする体制を作らなければならなかったのだ。
そこで、臨時軍事費特別会計のような複数年度にわたって検査を受けない予算は作れなくした。
国家機密であろうとも、それを検査できるようにした。防衛省や自衛隊の予算でも例外は無い。
ここまでを踏まえると、今回の記事の何が論点になっているかがわかるだろう。
つまり、特定秘密に関する予算がきちんと検査できなくなれば、戦前の軍機保護法の下での検査に類似する状況になるという恐れである。
特定秘密に関わる予算であろうと、憲法90条を考えれば会計検査の対象となる。
適切な使用法かを判断するには特定秘密を見なければならない可能性もある。
報告書にはぼかして書かざるをえないかもしれないが、少なくともチェックする会計検査院側の仕事に制限がつくようなことがあってはならない。
少なくとも法律を作る際に、会計検査院と「秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた場合、提供する取り扱いに変更を加えない」とする文書を出すと決めたのであれば、それは速やかに実行されるべきであろう。
追記、というより、むしろこっちも重要。
なお、この問題を考える際に、もう一つ考えなければならないのは、「内閣官房機密費」(報償費)の問題である。
本来この機密費は会計検査院の検査対象であるが、どうも「別のやり方」でスルーしているらしい。
この件は情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんが、この報道を受けてのブログで書かれているが、どうやら「原則として国の機関は会計検査院には支出証拠の原本を提出することになっているが、内閣官房機密費、外務省機密費、警察庁機密費などは例外的に別の方法で支出の証明をすればよいことになっている」とのことである。
おそらく、特定秘密に関する予算については、この機密費と同様の検査で済ませたいというのが、内閣官房の方にはあるのではないだろうか。
だから、会計検査院との約束を無かったことにしようとしているのではないか。
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【連載】公文書管理法5年見直しにむけて 第2回 文書作成義務
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2015-10-20
公文書管理法が附則に決められた5年見直しの年度に入っている。そこで、この問題について考えを述べておきたい。第1回は前提となる話をしたので、ここからは具体論に入る。まずは公文書管理法施行後、注目され続けた文書の作成義務問題。公文書管理法第4条では、次のように文書の作成義務が課されている。第四条 行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。 一 法令の制定又は改廃及びその経緯 二 前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯 三 複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対して示す基準の設定及びその経緯 四 個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯 五 職員の人事に関する事項具体的な文書作成の注意が、内閣総理大臣決定として出された「行政文書の管理に関するガイドライン」に記載されている(第3 作成の部分)。これに基づいて、各行政機関の文書管理ルールが定められており、事実上ここに書かれていることを職員は守らなければならない。ガイドラインの説明は、細かい話なのでここではしないが、まず気になるのは、このガイドラインが果たして守られているのかどうかだ。「外部から事後的に検証できる」ことが法律の主旨である以上、検証できるように文書は作成されなければならない。なので、文書の作成状況について、実態調査をきちんと行って欲しいところだ。現場からの声を踏まえ、ルールが形骸化していないか、形骸化しているのであればどのように改善するかを考える必要がある。この点は外部の人間ではなかなかわからないところがあるので、是非とも行政側がきちんと検証をして欲しい。その上で、私が求める改正案は2つ。1.閣僚など行政機関の長が主催する会議(審議会、懇談会など)の議事録の作成義務の明記2.「意思決定」に関わる文書の作成の注意事項を更に詳細にする1については、民主党が、2013年に出した公文書管理法の改正案の第4条第2項に、次の文章を入れることを提案していた。2 前項第二号に規定するもののほか、閣議及..
2015年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2015-10-20T00:00:00+09:00
そこで、この問題について考えを述べておきたい。
第1回は前提となる話をしたので、ここからは具体論に入る。
まずは公文書管理法施行後、注目され続けた文書の作成義務問題。
公文書管理法第4条では、次のように文書の作成義務が課されている。
第四条 行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
一 法令の制定又は改廃及びその経緯
二 前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
三 複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対して示す基準の設定及びその経緯
四 個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯
五 職員の人事に関する事項
具体的な文書作成の注意が、内閣総理大臣決定として出された「行政文書の管理に関するガイドライン」に記載されている(第3 作成の部分)。
これに基づいて、各行政機関の文書管理ルールが定められており、事実上ここに書かれていることを職員は守らなければならない。
ガイドラインの説明は、細かい話なのでここではしないが、まず気になるのは、このガイドラインが果たして守られているのかどうかだ。
「外部から事後的に検証できる」ことが法律の主旨である以上、検証できるように文書は作成されなければならない。
なので、文書の作成状況について、実態調査をきちんと行って欲しいところだ。
現場からの声を踏まえ、ルールが形骸化していないか、形骸化しているのであればどのように改善するかを考える必要がある。
この点は外部の人間ではなかなかわからないところがあるので、是非とも行政側がきちんと検証をして欲しい。
その上で、私が求める改正案は2つ。
1.閣僚など行政機関の長が主催する会議(審議会、懇談会など)の議事録の作成義務の明記
2.「意思決定」に関わる文書の作成の注意事項を更に詳細にする
1については、民主党が、2013年に出した公文書管理法の改正案の第4条第2項に、次の文章を入れることを提案していた。
2 前項第二号に規定するもののほか、閣議及び関係行政機関の長で構成される会議(これに準ずるものを含む。)の議事については、議事録を作成しなければならない。
これが法律に組み込まれれば、審議会の議事録の有無をめぐる不毛な論争を止めることができるだろう。
この主張をすると、「逐語の議事録を残すと、自由闊達な議論ができなくなるから、発言者がわからないように議事概要にする」という反論が必ず政府関係からは出てくる。
しかし、すぐには公開できないとしても、いずれ公開されて検証するためには、逐語の議事録が必要なのは言うまでもない。
議事録が残るから意見が言えないという「専門家」は審議会の委員になるべきでない。
専門家として責任を持って堂々と発言すれば良いだけの話である。
「記録を残す」ことと「公開する」ことは別に考えれば良いのだ。
ただ、法改正が難しい状況なので、その場合はガイドラインの「第3 作成」の所にある、「審議会等や懇談会等」の「議事の記録」を作成するという部分を「議事録」を作成するに改正することでも構わない。
議事概要で済ませられるように、抜け道として「議事の記録」としてある部分を塞げばよい。それだけでも効果があるだろう。
※この問題は過去にブログを書いたことがある。
「議事の記録」と「議事録」は同じではない
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-06-03
2については、「意思決定に関する文書作成」という公文書管理法の主旨を、決裁文書だけ残せば良いとか、他省庁に意見を聞かれた場合は「意志決定者ではない」から作らなくてよい、と考えている人が未だに後を絶たないことへの対応が必要ということだ。
「外部から事後的に検証できる」ために、必要な文書は職員の役職問わず作る必要があることや、公式非公式の会議を問わないことも具体的に書き込む必要がある。
すでにそのような主旨については書かれている部分もあるのだが、「作る必要があるとは思わなかった」という言い訳の可能性をできる限り潰しておくために、より明確な記述をすることが重要である。
もちろん、書けば書くほどまた抜け道ができる可能性はあるが、その都度抜け道を塞げばよいだけの話である。
「作成義務」については、ガイドラインの見直しを重点的に行うべきだと思う。
特定秘密関連については後でまとめて論じます。
次回は国立公文書館等の特定歴史公文書問題。
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【連載】公文書管理法5年見直しにむけて 第1回 総論
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2015-10-19
公文書管理法が2011年4月に施行されてから今年度で5年目に入っている。公文書管理法の附則第13条第1項には以下の文面がある。政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況を勘案しつつ、行政文書及び法人文書の範囲その他の事項について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。そのため、2015年9月28日の公文書管理委員会において、この見直しの手続きに入ることが表明され、年度内に報告書をまとめることとなった。公文書管理法は重要な法律ではあるが地味であるため、あまり普段は意識されることがない。公文書管理法は、公文書の作成から保存・廃棄に至るまでの「文書のライフサイクル」全てのルールを定めたものである。現在までに、公文書の作成義務(第4条)に違反する行為がたびたび表面化したため、法律自体の認知度は徐々に上がってはきている(原子力災害対策本部の議事録未作成から、最近の内閣法制局の集団的自衛権容認に至る過程の文書をほぼ未作成だった件まで)。特定秘密保護法も、秘密文書をどう管理するかという点では公文書管理制度の一つである。そのため、この5年見直しで、少しでも公文書管理制度が改善されることが、政府にとっても国民にとっても望ましいと言えるだろう。委員会の資料に基づけば、見直しの流れは以下の通り。● 9月28日 第44回公文書管理委員会● 10月~ 公文書管理委員会を複数回開催 ・各検討事項(「資料 1-2」参照)についての議論 ・海外事例調査 ・行政機関からのヒアリング 等を実施● 2月~ 取りまとめに向けた作業を開始資料1-2を見る限り、見直すのはあくまでも公文書管理法の範囲に留まる。個人的には情報公開法も含めた、公文書管理制度全体を考え直して欲しいのだが、主旨も管轄も(情報公開法は総務省、公文書管理法は内閣府)違うのでそうはいかないだろう。なお、海外事例調査やヒアリングと書いてあるが、2013年~14年度に行政管理研究センターに委託事業で調査をさせているので、それを使うのではないかと推測される(2013年度、2014年度)。見直しの報告書が出ても、今の安倍政権の姿勢を考えると、国会を通さなければならない法改正のハードルはかなり高そうである(担当大臣が河野太郎氏と思われるので、安倍政権の中では一番理解はありそうだが・・・)。ただ、そうであったとしても、この段階できちん..
2015年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2015-10-19T13:21:30+09:00
公文書管理法の附則第13条第1項には以下の文面がある。
政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況を勘案しつつ、行政文書及び法人文書の範囲その他の事項について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
そのため、2015年9月28日の公文書管理委員会において、この見直しの手続きに入ることが表明され、年度内に報告書をまとめることとなった。
公文書管理法は重要な法律ではあるが地味であるため、あまり普段は意識されることがない。
公文書管理法は、公文書の作成から保存・廃棄に至るまでの「文書のライフサイクル」全てのルールを定めたものである。
現在までに、公文書の作成義務(第4条)に違反する行為がたびたび表面化したため、法律自体の認知度は徐々に上がってはきている(原子力災害対策本部の議事録未作成から、最近の内閣法制局の集団的自衛権容認に至る過程の文書をほぼ未作成だった件まで)。
特定秘密保護法も、秘密文書をどう管理するかという点では公文書管理制度の一つである。
そのため、この5年見直しで、少しでも公文書管理制度が改善されることが、政府にとっても国民にとっても望ましいと言えるだろう。
委員会の資料に基づけば、見直しの流れは以下の通り。
● 9月28日 第44回公文書管理委員会
● 10月~ 公文書管理委員会を複数回開催
・各検討事項(「資料 1-2」参照)についての議論
・海外事例調査
・行政機関からのヒアリング 等を実施
● 2月~ 取りまとめに向けた作業を開始
資料1-2を見る限り、見直すのはあくまでも公文書管理法の範囲に留まる。
個人的には情報公開法も含めた、公文書管理制度全体を考え直して欲しいのだが、主旨も管轄も(情報公開法は総務省、公文書管理法は内閣府)違うのでそうはいかないだろう。
なお、海外事例調査やヒアリングと書いてあるが、2013年~14年度に行政管理研究センターに委託事業で調査をさせているので、それを使うのではないかと推測される(2013年度、2014年度)。
見直しの報告書が出ても、今の安倍政権の姿勢を考えると、国会を通さなければならない法改正のハードルはかなり高そうである(担当大臣が河野太郎氏と思われるので、安倍政権の中では一番理解はありそうだが・・・)。
ただ、そうであったとしても、この段階できちんと問題点を洗い出し、法改正の必要無い施行令やガイドラインはきちんと見直すなどは十分可能だと思われる。
そのためにも、公文書管理法のルールが現場でどこまできちんと守られているのかをきちんと調査し、現場からの改善案もすくい上げられるようにしてほしいと思う。
ここから何回かに分けて、私なりの分析を重ねていきたい。
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内閣法制局の公文書管理法理解のおかしさ
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2015-10-16
内閣法制局が、2014年の集団的自衛権行使容認の閣議決定に関する内部での検討過程文書をほとんど残していなかったことが問題となっている。毎日新聞が9月28日にスクープしてから、どんどんと問題の掘り下げが進んでいる。私もこの件については、ブログの記事として取り上げた。内閣法制局が憲法解釈変更の公文書を残さないことhttp://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2015-09-3010月16日の毎日新聞の報道によれば、当時の担当参事官であった黒川淳一氏(現農林水産省官房参事官)が取材に応じ、その経緯について弁明を行っている。<法制局>記録は決裁文書1枚 憲法解釈変更でhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151016-00000006-mai-soci<法制局>黒川淳一・前内閣法制局参事官との主なやりとりhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151016-00000000-maiall-soci公文書管理法との関係で黒川氏の発言内容に注目したい。引用します。--どうして検討の過程を記録に残さないのか。 成案があって、それに意見を述べるという形ではなかったので、従来の国会答弁をおさらいするようなことが多かった。記録を取るような性質の議論では、そもそもなかった。「頭の整理」というのが正直なところだ。結局、法制局は「何をどこまでやるか」という議論をするわけではなく、ある意味受け身でしかない。「大丈夫でしょうか」という問い合わせに「その考え方なら、憲法はじめ各種の法律に基づいて、まあ大丈夫じゃないか」と言うだけなので。--普通の意見事務(法解釈について意見を述べる業務)では、意見を求めてきた省庁側の担当者と時間をかけて文書でのやり取りを積み上げると聞いたが。 ケース・バイ・ケースとしか言いようがない。紙でやり取りする時もあれば、そうでない時もある。方針が固まってから持ち込んで来られるケースもある。--公文書管理法はあまり意識しなかったのか。 当然、意識はしていた。公文書管理法は意思決定過程をしっかり残せという趣旨だが、今回は特に我々のほうで意思を決定するという作業をしたわけではないので、特に文書を残す性格のものではなかった。ただ、今回は重要な案件なので、起案をして、うかがいを立てた形でしっかり残した。まあ、逆に「これしかないのか」となってし..
2015年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2015-10-16T13:15:29+09:00
毎日新聞が9月28日にスクープしてから、どんどんと問題の掘り下げが進んでいる。
私もこの件については、ブログの記事として取り上げた。
内閣法制局が憲法解釈変更の公文書を残さないこと
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2015-09-30
10月16日の毎日新聞の報道によれば、当時の担当参事官であった黒川淳一氏(現農林水産省官房参事官)が取材に応じ、その経緯について弁明を行っている。
<法制局>記録は決裁文書1枚 憲法解釈変更で
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151016-00000006-mai-soci
<法制局>黒川淳一・前内閣法制局参事官との主なやりとり
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151016-00000000-maiall-soci
公文書管理法との関係で黒川氏の発言内容に注目したい。引用します。
--どうして検討の過程を記録に残さないのか。
成案があって、それに意見を述べるという形ではなかったので、従来の国会答弁をおさらいするようなことが多かった。記録を取るような性質の議論では、そもそもなかった。「頭の整理」というのが正直なところだ。結局、法制局は「何をどこまでやるか」という議論をするわけではなく、ある意味受け身でしかない。「大丈夫でしょうか」という問い合わせに「その考え方なら、憲法はじめ各種の法律に基づいて、まあ大丈夫じゃないか」と言うだけなので。
--普通の意見事務(法解釈について意見を述べる業務)では、意見を求めてきた省庁側の担当者と時間をかけて文書でのやり取りを積み上げると聞いたが。
ケース・バイ・ケースとしか言いようがない。紙でやり取りする時もあれば、そうでない時もある。方針が固まってから持ち込んで来られるケースもある。
--公文書管理法はあまり意識しなかったのか。
当然、意識はしていた。公文書管理法は意思決定過程をしっかり残せという趣旨だが、今回は特に我々のほうで意思を決定するという作業をしたわけではないので、特に文書を残す性格のものではなかった。ただ、今回は重要な案件なので、起案をして、うかがいを立てた形でしっかり残した。まあ、逆に「これしかないのか」となってしまうのは分かるのだが。
(引用終)
黒川氏の発言の中で、公文書管理法に関連して指摘しておきたいことは次の3点。
1.検討過程を「頭の整理」として、「私的メモ=行政文書ではない」という判断で記録を残していない。
2.意見事務の際に、文書を作らないケースがある。
3.法制局が「意思決定の主体」で無い場合は、「意思決定過程」の文書を残さなくて良い。
1は、情報公開法制定時から今までずっと問題視されている「抜け道」を使っている。
公文書管理法によれば、「行政文書」は以下の3つを満たすもののみが該当する。
①職員が職務上作成・取得したもの
②組織的に用いるもの
③その機関が保有しているもの
「職務上作成・取得」とは、仕事のために作ったり、他から受け取ること。
「組織的に用いる」は、部局内で共有されていること(回覧されたり、会議で使われたりしたもの)
「保有」はその機関内に保存されていること。
黒川氏は「頭の整理」なので、②に該当しないから行政文書ではないと主張したいのだろう。
黒川氏はインタビューの中で、次のように話している。
--誰が検討していたのか。
主に私、そして第1部長と次長、長官ということになるが、一堂に会して会議をするという感じではなかった。例えば、過去の国会で「こんな答弁があったはずだ」とか、第1部長との間で議論したりとか。幹部は幹部でいろいろやっていたと思う。
(引用終)
第一部長や次長、長官と「公式に集まって」議論していないので②に該当しない。
実際にそうであるならば、公文書管理法を理解した上で、「途中過程の行政文書を作らなくて済むように仕事をしている」可能性がある。
「幹部は幹部でいろいろやっていた」と話しており、「いろいろ」の中身が長官などの「意見交換」であったならば②は満たされる。
ただ、あえてその時に文書を持っていかないで話せば、「作成していない」ので①を満たさないと言える余地が残る。
次に2であるが、「意見交換」を「非公式」なものとみなし「私的な会合」と称して文書を作成していないか、その場で取った記録は自分用に取った「私的なメモ」であり、②に該当しないから行政文書ではないというどちらかの解釈を取っている可能性がある。
1,2から透けて見えるのは、公文書管理法の主旨を理解していないということだ。
公文書管理法は政策決定過程の検証をするための文書を、きちんと作成し保存しなければならないという法律である。
なので、「非公式だから」とか「私的なメモだから」ではなく、「政策決定過程の文書は行政文書として作成しなければならない」のが筋なのだ。
そこで3の話になるが、「意思決定過程の主体」でないから文書を残さなくてよいという解釈も、公文書管理法の主旨を理解していないということの証左になる。
意思決定をする部署であるかどうかは関係が無い。
「検証」のために文書を残すのであるから、参考意見を話したということであっても文書を作らなければならないのだ。
もし「意思決定機関でないから文書は作らない」が許されるのであれば、複数の省庁で意見交換を行った際、「意思決定を行う機関」以外の省庁は一切文書を残さなくて良いということになる。
それで、どのようにして政策の「検証」を行うことが可能となるのだろうか。
行政文書の定義にあてはまらないから文書を残さないのではなく、「あてはまるように文書を作らなければならない」というのが公文書管理法の主旨である。
今回の問題は、黒川氏個人の問題ということではなく、法制局自体の体質の問題に見える。
なぜこのようなことになったのか、さらなる検証が必要だと思う。
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内閣法制局が憲法解釈変更の公文書を残さないこと
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2015-09-30
最近全くブログを書いていなかったのですが、さすがにこれは書き残しておこうと思ったので。毎日新聞のスクープ記事です。私も事前に取材を受けていて、引用部分とは別の所でコメントが使われています。引用します。<憲法解釈変更>法制局、経緯公文書残さず毎日新聞 9月28日(月)9時30分配信http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150928-00000013-mai-pol 政府が昨年7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認に必要な憲法9条の解釈変更について、内閣法制局が内部での検討過程を公文書として残していないことが分かった。法制局によると、同6月30日に閣議決定案文の審査を依頼され、翌日「意見なし」と回答した。意思決定過程の記録を行政機関に義務づける公文書管理法の趣旨に反するとの指摘が専門家から出ている。◇審査依頼の翌日回答 他国を攻撃した敵への武力行使を認める集団的自衛権の行使容認は、今月成立した安全保障関連法の土台だが、法制局はこれまで40年以上もこれを違憲と判断し、政府の憲法解釈として定着してきた。 法制局によると、解釈変更を巡り閣議前日の昨年6月30日、内閣官房の国家安全保障局から審査のために閣議決定案文を受領。閣議当日の翌7月1日には憲法解釈を担当する第1部の担当参事官が「意見はない」と国家安全保障局の担当者に電話で伝えた。 横畠裕介長官は今年6月の参院外交防衛委員会で、解釈変更を「法制局内で議論した」と答弁。衆院平和安全法制特別委では「局内に反対意見はなかったか」と問われ「ありません」と答弁した。法制局によると今回の件で文書として保存しているのは、安倍晋三首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の資料▽安保法制に関する与党協議会の資料▽閣議決定の案文--の3種類のみで、横畠氏の答弁を裏付ける記録はない。 「集団的自衛権行使は憲法上許されない」とする1972年の政府見解では、少なくとも長官以下幹部の決裁を経て決定されたことを示す文書が局内に残る。法制局が審査を行う場合、原則としてまず法制局参事官が内閣や省庁の担当者と直接協議し、文書を残すという。しかし、今回の場合、72年政府見解のケースのように参事官レベルから時間をかけて審査したことを示す文書はない。 公文書管理法(2011年4月施行)は「(行政機関は)意思決定に至る過程や実績を検証できる..
2015年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2015-09-30T00:23:15+09:00
毎日新聞のスクープ記事です。私も事前に取材を受けていて、引用部分とは別の所でコメントが使われています。
引用します。
<憲法解釈変更>法制局、経緯公文書残さず
毎日新聞 9月28日(月)9時30分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150928-00000013-mai-pol
政府が昨年7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認に必要な憲法9条の解釈変更について、内閣法制局が内部での検討過程を公文書として残していないことが分かった。法制局によると、同6月30日に閣議決定案文の審査を依頼され、翌日「意見なし」と回答した。意思決定過程の記録を行政機関に義務づける公文書管理法の趣旨に反するとの指摘が専門家から出ている。
◇審査依頼の翌日回答
他国を攻撃した敵への武力行使を認める集団的自衛権の行使容認は、今月成立した安全保障関連法の土台だが、法制局はこれまで40年以上もこれを違憲と判断し、政府の憲法解釈として定着してきた。
法制局によると、解釈変更を巡り閣議前日の昨年6月30日、内閣官房の国家安全保障局から審査のために閣議決定案文を受領。閣議当日の翌7月1日には憲法解釈を担当する第1部の担当参事官が「意見はない」と国家安全保障局の担当者に電話で伝えた。
横畠裕介長官は今年6月の参院外交防衛委員会で、解釈変更を「法制局内で議論した」と答弁。衆院平和安全法制特別委では「局内に反対意見はなかったか」と問われ「ありません」と答弁した。法制局によると今回の件で文書として保存しているのは、安倍晋三首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の資料▽安保法制に関する与党協議会の資料▽閣議決定の案文--の3種類のみで、横畠氏の答弁を裏付ける記録はない。
「集団的自衛権行使は憲法上許されない」とする1972年の政府見解では、少なくとも長官以下幹部の決裁を経て決定されたことを示す文書が局内に残る。法制局が審査を行う場合、原則としてまず法制局参事官が内閣や省庁の担当者と直接協議し、文書を残すという。しかし、今回の場合、72年政府見解のケースのように参事官レベルから時間をかけて審査したことを示す文書はない。
公文書管理法(2011年4月施行)は「(行政機関は)意思決定に至る過程や実績を検証できるよう、文書を作成しなければならない」(第4条)とする。
解釈変更を巡る経緯について、富岡秀男総務課長は取材に「必要に応じて記録を残す場合もあれば、ない場合もある。今回は必要なかったということ。意図的に記録しなかったわけではない」と説明。公文書管理法の趣旨に反するとの指摘には「法にのっとって文書は適正に作成・管理し、不十分との指摘は当たらない」と答えた。横畠氏にも取材を申し込んだが、総務課を通じて「その内容の取材には応じない」と回答した。【日下部聡、樋岡徹也】
◇「民主主義の原点」…記録なし、識者批判
内閣法制局に関する本や論文を多数執筆している明治大の西川伸一教授(政治学)は「戦後の安全保障政策の大転換であるにもかかわらず、たった一晩で通すなど、あまりにも早すぎる。白紙委任に近い。従来の法制局ならあり得ないことだ」と指摘する。さらに、検討の過程を公文書として残していないことについても、「記録を残さないのは疑問。国民によるチェックや後世の人々の参考のため、記録を残すのは民主主義の原点だ。政府は閣議の議事録を公開するようになり、公文書管理法も制定された。その趣旨にのっとって、きちんと記録を残すべきだ」と話す。
〔引用終)
憲法9条の下での集団的自衛権の行使容認は、自民党政権の下で「不可能」として解釈されてきたものである。
これを変える以上、内閣法制局がどのような議論を行った末に解釈の変更を容認したのかということは重要な意味を持つ。
ところが、法制局曰く、「安保法制懇」と「与党協議会」の資料と閣議決定の案文しか、関連文書として保存していないとのことである。
ちなみに安保法制懇の資料はウェブ上で公開されている。
与党協議会の記録は、NPO法人情報公開クリアリングハウスが情報公開請求をして入手しており、その一部を公開している。
こう言っては何だが「法制局の職員で無くても容易に手に入る文書」である。
つまり、法制局は「誰でも手に入る」資料を、解釈変更を行った際の「意思決定過程の資料」の「すべて」だと主張しているのである。
常識的に考えて「そんなバカな」としか言いようがない。
もし法制局の主張が「本当」だとしたら、内部で「何一つ考えなかった=仕事をしなかった」と堂々と自ら主張していることになる。
「翌日伝えた」という速度については、事前調整の後の結果なのでまだわかるにしても、「電話で」というのもずさんにもほどがある。文書で渡して説明すべきものでしょう。
しかし、横畠裕介長官は「法制局内で議論した」と答弁もしているし、こちらの記事では、高村正彦・自民党副総裁や北側一雄・公明党副代表と長官は非公式に何度も会っており、具体的な調整を行っていたことが明らかになっている。
つまり、「検討している過程を行政文書として意図的に残さなかった」(「非公式」会談はあくまでも「私的に行っている」のであって「業務上」行っていない)ということでおそらく間違いがないだろう。
ではそもそも論として、こういった文書をきちんと残さないのは、法的にどのような問題があるのだろうか。
記事でも紹介されているが、「公文書管理法」の第4条への違反行為である。
第四条 行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
〔一は略〕
二 前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
〔以下略〕
公文書管理法第4条には、「経緯も含めた意思決定に至る過程」の文書を、検証のために作成しなければならないという義務が書かれており、「閣議決定やその経緯」について作成する義務が明確に法文に書かれている。
つまり「経緯」がわかるような文書を作成しなければならない以上、「公式」「非公式」の会談を問わず、長官が与党の関係者と閣議決定の案文の調整をしていれば、当然行政文書は作って記録を取らなければならない。
それを怠っているとすれば、重大な法律違反だと思われる。
おそらく法制局は、法の整合性を判断してきたというプライドから、「別の解釈があり得た」という記録はできるかぎり作りたくないという所もあるのだろう(情報公開請求されるのを嫌がって文書を作らない→作らなければ請求されても「存在しない」で跳ね返せる)。
また、今回の場合は長官と担当の参事官のみが関わり、記録をきちんと付けるような部下がいなかった可能性もあるだろう(それなら長官や参事官が自分で作らなければならない)。
ただ、法制局が今回の記事にどのような言い訳を付けようとも、公文書管理法が「検証」のために存在することは間違いないわけで、国民に対する説明責任を放棄したと言わざるをえない。
正直、解釈変更を認めたのであれば、むしろ堂々とどのような経緯で変更したのかをきちんと記録し、自分達の正当化を図る方が賢明だと私には思えるのだが・・・
この問題はきちんと批判を行っていく必要があると思われる。
安保法制に関わる決定過程も、果たしてきちんと残されているのかの検証も必要だろう。
続報がまたあれば、続きを書きたいと思います。
追記
今回の記事はラジオで話したことを文章にしたようなものです(荻上チキ・Session-22、TBSラジオ、2015年9月28日)。
ウェブ上に切り貼りして上げている人がいたので、紹介をしておきます。ご参考までに。
https://www.youtube.com/watch?v=qNS28lCT-8Q
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特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (4)改正
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2015-02-08
2014年12月末に行われたパブリックコメントを受け、2015年1月21日に公文書管理委員会が開かれ、「行政文書の管理に関するガイドライン」が改正されました。公文書管理委員会(第39回)配付資料http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20150121haifu.htmlこのガイドラインは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成を目的としています。12月末までに3回にわたって、その改正案について書いてきました。そこに書いた文章をもう一度載せておきます。この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもあります。濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要なのです。秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能となります。特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまいます。すでに改正案の内容については、第1回と第2回で述べていますが、簡単にまとめておくと、・特定秘密以外の秘密を、「極秘文書」と「秘文書」に原則整理する。・「極秘」は5年以内・延長可、「秘」は期限は無い(文書の保存期間内)。・「極秘」は部局長、「秘」は課長が指定。・秘密文書専用の管理簿で管理する。・管理状況は毎年大臣に報告する。・管理の規則を作る。となります。これまで、秘密文書の基準はほぼ50年前に作られたザックリとした規定しかなかったため、整備されることは良いことだと思います。以下、パブコメを受けてどう変わったのかを書いてきます。パブコメを受けて変わったところは、文字の微調整を除くと2ヵ所。一つ目は、秘密指定の期間が満了した場合は、自動的に解除されることが明記された(対照表9頁(4))。パブコメへの返答13を見ると、自動解除させるつもりだったが言葉が足りていなかったという書き方をしているので、基準を明確にしたということでしょう。これはパブコメで私も指摘していたところ。なので、きちんと書かれて良かったと思います。二つ目は、指定した秘密文書のうち、「程度等に応じて必要と認める場合」に大臣に報告するとなっていたところを、「特に重要なものについては」に変更された(対照表11頁)。これは、あいまいな書き方をしていた所を、「重..
2015年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2015-02-08T21:37:55+09:00
公文書管理委員会(第39回)配付資料
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20150121haifu.html
このガイドラインは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成を目的としています。
12月末までに3回にわたって、その改正案について書いてきました。
そこに書いた文章をもう一度載せておきます。
この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもあります。
濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要なのです。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能となります。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまいます。
すでに改正案の内容については、第1回と第2回で述べていますが、簡単にまとめておくと、
・特定秘密以外の秘密を、「極秘文書」と「秘文書」に原則整理する。
・「極秘」は5年以内・延長可、「秘」は期限は無い(文書の保存期間内)。
・「極秘」は部局長、「秘」は課長が指定。
・秘密文書専用の管理簿で管理する。
・管理状況は毎年大臣に報告する。
・管理の規則を作る。
となります。
これまで、秘密文書の基準はほぼ50年前に作られたザックリとした規定しかなかったため、整備されることは良いことだと思います。
以下、パブコメを受けてどう変わったのかを書いてきます。
パブコメを受けて変わったところは、文字の微調整を除くと2ヵ所。
一つ目は、秘密指定の期間が満了した場合は、自動的に解除されることが明記された(対照表9頁(4))。
パブコメへの返答13を見ると、自動解除させるつもりだったが言葉が足りていなかったという書き方をしているので、基準を明確にしたということでしょう。
これはパブコメで私も指摘していたところ。なので、きちんと書かれて良かったと思います。
二つ目は、指定した秘密文書のうち、「程度等に応じて必要と認める場合」に大臣に報告するとなっていたところを、「特に重要なものについては」に変更された(対照表11頁)。
これは、あいまいな書き方をしていた所を、「重要なもの」と明記したということでしょう。
変えて良くなったと思いますが、どこまで実効性があるかは未知数でしょうか。
これ以外の所は実質的には変更がありませんでした。もっと改善点はあったかと思いますが・・・
他に主なパブコメに対する答えがなされています。
私が注目したものは以下の通り。
・「極秘」「秘」以外のカテゴリーが置けることへの批判(3,4)
→置く場合は、行政文書管理規則に載せる必要があるので、公文書管理委員会に諮問される。
(コメント)
情報公開クリアリングハウスの調査によれば、「TPP秘密文書」(内閣府、農水省)、「NATO秘密文書」(防衛省)など、個別の秘密文書類型が存在している。
内閣府の説明から考えると、この類型は残るが、その管理方法などは公文書管理委員会で審査を受けるということのようだ。
・「極秘」「秘」の定義が曖昧であるという批判(5)
→各機関が業務内容や組織体制を踏まえて判断
(コメント)
この部分が曖昧だと、結局は秘密が広がることになると思われる。なので、各行政機関に投げっぱなしはまずいと思う。
そうなると、制限の多い「特定秘密」制度を使うよりも、漏洩の罰則は緩いけど使いやすい「極秘」制度が多用されるのではないかというおそれがある。
・「秘」に期間の上限がないのはおかしい(11,12)
→「極秘」に5年という期限があるのは、定期的に管理状況を確認するためにすぎない。「秘」はそれに該当しないので、保存期間を超えない(ガイドラインにも「極秘」の確認の話は追記された、対照表11頁)。
(コメント)
どうやら「極秘」を5年以内と制限を切ったのは、内部事情ということらしい。あまり国民の側を向いているようにも見えないが・・・
しかし、「秘」の管理状況は確認しなくて良いのか。
・秘密文書の管理に関する内部通報の仕組みを別立てで整備すべき(27,28)
→特に別に作る必要はない。通報者の不利益にならないようにする。
(コメント)
確かに特定秘密ではないので、普通の窓口でも良いのかもしれないが・・・
・1年以内に秘密文書を管理できるようにすべき(31)
→3年としたのは、公文書管理法施行時に、それ以前からある文書への適用は3年以内を目途に作業を終えるとしたことを参考にした。
(コメント)
公文書管理法施行時に文書を整理したのに、なぜまた3年が必要なのか。
ただ、秘密文書の管理状況はカオスなのだなと推測はできるので止むなしか。
・各行政機関で作成されることになる秘密文書管理要領を公表すべき(32,33)
→各機関で判断するもの
(コメント)
管理要領が作られた後に、各機関に情報公開請求をしてみないとわからないということになりそう。
新聞などに追及してほしいところ。
・行政文書ファイル管理簿に秘密文書の存在の有無などの欄を設けるべき(36)
→行政文書ファイル管理簿は「行政文書の適切な管理及び行政機関における行政文書ファイル等の保有状況を国民に明らかにすることを目的とするものであり、秘密文書の指定の有無を記載しなくとも、当該目的は達成されるもの」である。
(コメント)
行政文書ファイル管理簿の定義を狭く見すぎているのではないか?
「適切な管理」になぜ秘密文書の指定の有無が入らないのか?
説明になっていない。
ただ、管理簿の改訂を頑なに内閣府が拒む理由は見えてきた。
どうやら、ここを修正するには、ガイドラインを直すというよりは、公文書管理法第7条の管理簿についての条文や、関連する施行令の条文を直さないと解決しない問題のようだ。
その条文に秘密文書の管理についての項目を入れないと、内閣府は変える気がないということがわかった。
以上が細部についてのコメントです。
総合的に考えると、これまでのたいした基準が無かった時よりは改善されるのではないでしょうか。
その意味では整備されることは良かったと思います。
気になるのは、他の方も指摘をされていると思うが、「特定秘密」と「極秘」「秘」を各行政機関がどう使い分けていくかでしょうか。
「特定秘密」は管理が厳密で、他省庁との情報交換も容易ではなくなるので、漏洩時の罰則が緩くなるのを覚悟で「極秘」扱いにしていくということも考えられそう。
「特定秘密」「極秘」「秘」の運用を比較しながら、秘密全体をどう減らしていくかを考えていく必要があると思います。
どうやって監視するかがなかなか難しいですが、知恵を絞っていくしかないと思います。
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特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (3)私のパブコメ
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2014-12-26
2014年12月17日、政府は「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始しました。締切は翌年1月6日です。今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成となります。なお繰り返しになりますが、この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもあります。濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要なのです。秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能となります。特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまいます。第1回で、現在の「特定秘密以外の秘密文書」の管理について述べました。第2回は、その改正案の解説をしました。今回は最後に私が書いたパブリックコメントを挙げておきます。具体的にはすでに前回のブログで解説をしていますので、細かくは説明しません。読みやすさを考慮してレイアウトを変更してあります。文中の「改正案」はこれです。http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000121224「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についてのパブリックコメント2014年12月25日瀬畑 源・ガイドラインの「第6 行政文書ファイル管理簿」の改訂を行い、秘密文書(特定秘密も含む)の存在の有無、秘密の指定期限などを記載する欄を設けるべきである。 改正案7頁の「第10 2(5)」において、「秘密文書は、秘密文書を管理するための簿冊において管理するもの」とされ、秘密文書管理簿を別に作成して、秘密指定はそこで管理をするとされている。しかし、行政文書ファイル管理簿との事実上の二重帳簿になっており、前者を見てもその文書に秘密文書が含まれていたかどうかはわからない。なお、特定秘密も同様の仕組みになっている。 よって、「秘密文書(特定秘密も含む)の存在の有無」などの欄を行政文書ファイル管理簿に設け、秘密指定解除後に検証を行いやすくするべきである。なお、秘密指定中ならば、この欄を情報公開法に基づいて非開示にすることが可能であり、欄があること自体に問題はない。また、保存期間の満了の際の移管・廃棄の判断を行..
2014年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2014-12-26T00:05:33+09:00
「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始しました。
締切は翌年1月6日です。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成となります。
なお繰り返しになりますが、この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもあります。
濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要なのです。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能となります。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまいます。
第1回で、現在の「特定秘密以外の秘密文書」の管理について述べました。
第2回は、その改正案の解説をしました。
今回は最後に私が書いたパブリックコメントを挙げておきます。
具体的にはすでに前回のブログで解説をしていますので、細かくは説明しません。
読みやすさを考慮してレイアウトを変更してあります。
文中の「改正案」はこれです。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000121224
「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についてのパブリックコメント
2014年12月25日
瀬畑 源
・ガイドラインの「第6 行政文書ファイル管理簿」の改訂を行い、秘密文書(特定秘密も含む)の存在の有無、秘密の指定期限などを記載する欄を設けるべきである。
改正案7頁の「第10 2(5)」において、「秘密文書は、秘密文書を管理するための簿冊において管理するもの」とされ、秘密文書管理簿を別に作成して、秘密指定はそこで管理をするとされている。しかし、行政文書ファイル管理簿との事実上の二重帳簿になっており、前者を見てもその文書に秘密文書が含まれていたかどうかはわからない。なお、特定秘密も同様の仕組みになっている。
よって、「秘密文書(特定秘密も含む)の存在の有無」などの欄を行政文書ファイル管理簿に設け、秘密指定解除後に検証を行いやすくするべきである。なお、秘密指定中ならば、この欄を情報公開法に基づいて非開示にすることが可能であり、欄があること自体に問題はない。また、保存期間の満了の際の移管・廃棄の判断を行う際に、誤って「歴史公文書等」にあたるものの誤廃棄を防ぐためにも重要である。
・ガイドラインの「第8 点検・監査及び管理状況の報告等」のそれぞれの項に、秘密文書の点検・監査・報告を重点的に行うことを明記するべきである。
秘密文書の適切な管理は、国民に対する責務というだけではなく、内部統制のためにも必要なはずである。よって、管理を徹底化するための点検や監査などの仕組みを、より厳密にすることをガイドラインに明記するべきである。
〔注:上記の2つは、今回の改正案に入っていなかった箇所に「追加すべき」ものとして挙げました。〕
・「第10 2(1)」解説部分(8頁)にある、「原則として、極秘文書及び秘文書の2つに区分し指定する」のうち、「原則として」は削除するべきである。
今回のガイドライン改正は、これまで各行政機関に任されてきた秘密指定を統一化するために行われるものである。そこに「例外」を作ることは、現在の各行政機関独自の秘密指定制度を残すことに繋がるため、今回の改正自体を無意味にする可能性が高い。よって、「極秘」「秘」の2つの分類に、全ての秘密文書を合わせるべきである。
ただ、どうしても「原則として」を残さざるをえないとするのであれば、例外にあたる秘密文書は「極秘文書と同様の文書管理を行うこと」(秘密指定期間など)をガイドラインに明記するべきである。また、例外規定を作成する場合は、公文書管理委員会の同意が必要であることを明記し、規定の公開を義務づけるべきである。
秘密指定制度自体への国民の不信感の大きさは、特定秘密保護法への反対運動の大きさからもうかがえる。そのために、透明性のある仕組みの構築をするべきである。
・「第10 2(1)」の「極秘」「秘」文書の定義が曖昧であるため、特定秘密保護法における「別表」(特定秘密に指定できる情報の限定)と同様の規定を、各行政機関で作成される規定の中に、この作成義務を盛り込むべきである。
特定秘密保護法において、「別表」が存在していても、指定範囲が広がることへの懸念が表明されていた。今回の「極秘」「秘」については、その「別表」にあたるものすらも、作成義務を各行政機関は負っていない。このため、無制限に指定範囲が広がる危険性がある。
秘密指定を最小限に抑えることは、秘密文書を各行政機関がきちんと管理するためにも必要な措置である。よって、各行政機関に対して、秘密指定の可能な情報類型を規定に組み込なければならないという義務を、ガイドラインに入れるべきである。
・「第10 2(2)」の「秘文書」も、秘密指定の期間を「5年を超えない」と限定する。また、秘密指定の期限が満了した際に延長手続きが取られなかった場合、秘密を「自動解除」するようにするべきである。
「極秘文書」は特定秘密に準じた期間設定をしているが、「秘文書」については全く限定がなく、無制限に指定が可能となっている。これも同様に「5年を超えない」といったような期間の限定を行い、満了時に指定の見直しを行うことを可能にするべきである。また、「秘文書」の場合、件数が多い可能性も高く、見直しが繁雑になることも想定されるので、延長手続きが取られなかった秘密指定は、自動的に解除される規定をガイドラインに入れるべきである。
・「第10 2(7)」の「管理状況」への大臣への報告義務についての解説部分(9頁)にある「秘密文書の管理状況については、第8-3-(1)の管理状況の報告事項とすることを予定している」の「ことを予定している」を削除すること。
秘密文書の管理も、公文書管理法に基づいて行われる以上、管理状況の報告は管理法上の義務である。報告内容は、「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」の34-35頁に準じるものとするよう、報告の項目をガイドラインに列挙するべきである。
・改正案13頁「平成29年度末を目途に必要な措置を完了するよう努めるもの」とあるが、これを平成27年度末にするべきである。
すでに公文書管理法が施行されて4年近くが経過しており、秘密文書の管理が徹底されるまでに3年かかるというのは、明らかに過剰な期間設定と考える。少なくとも1年以内には完了すべきである。
・改正案19頁「モデル要領」の「第13 秘密文書の管理の適正に関する通報」に関連する規定は、ガイドラインに新たな項目を立て、特定秘密における内部通報制度と同等の仕組みを構築するべきである。
モデル要領のこの部分は、他に一切の説明が無い。公益通報者保護法に則って置かれているのならば、保護法自体が犯罪行為(刑罰規定に違反する行為)にあたるものしか保護していないため、ここで規定されている「秘密文書の管理が本要領に従って行われていないと思料した者は、○○(例:法令遵守対応窓口等)に通報できる」に適用されるのか疑問である。
また、秘密指定の不正を通報した場合、具体的に対応する仕組みが全く述べられていない。よって、この規定は形式的に置かれているにすぎず、機能させることを意識しているとは思えない。
秘密指定制度の適正な運用を担保するためには、公益通報制度は重要な役割を担っている。よって、最低限、特定秘密保護法における内部通報制度に準ずる統一的な仕組みをきちんと構築するべきである。
以上
連載はこれで終わりです。なにか御質問などがあればtwitterなどでご連絡下さい。
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特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (2)ガイドライン改正案
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2014-12-25
2014年12月17日、政府は「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始した。締切は翌年1月6日である。今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。前回の記事で、現在の「特定秘密以外の秘密文書」の管理について述べた。今回は解説の第2回。なお、この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもある。濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要である。秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能になるのだ。特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまうので注意が必要である。今回の記事は相変わらず長いですが、気長におつきあい下さい。しかも技術的な話なのでわかりづらいかもしれません。かみ砕いて説明しているつもりではありますが・・・。(2)ガイドライン改正案「特定秘密以外の秘密文書」(以後「秘密文書」)の統一基準を決めるために、「行政文書の管理に関するガイドライン」の改正案が政府から提示されている。このガイドラインは公文書管理法に基づくものであり、行政文書の管理はすべてこれに基づいて行われることを原則としている。なので、ガイドラインに基準が書き込まれれば、必然的に各行政機関はこれに従う義務が発生することになる。改正案は新旧対照表が見やすいので、こちらの方が分かりやすいかもしれない。今回の改正案は、ガイドラインに「第10」を新設して、秘密文書に関する規定を付け足す形になっている。1項目ずつ見ていきたい。第10 公表しないこととされている情報が記録された行政文書の管理1 特定秘密である情報を記録する行政文書の管理 特定秘密(特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)第3条第1項に規定する特定秘密をいう。以下同じ。)である情報を記録する行政文書については、この訓令に定めるもののほか、同法、特定秘密の保護に関する法律施行令(平成26年政令第336号)、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(平成26年10月14日閣議決定)及び同令第12条第1項の規定に基づき定められた○○省特定秘密保護規程に基づき管..
2014年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2014-12-25T01:29:52+09:00
「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始した。
締切は翌年1月6日である。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。
前回の記事で、現在の「特定秘密以外の秘密文書」の管理について述べた。
今回は解説の第2回。
なお、この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもある。
濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要である。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能になるのだ。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまうので注意が必要である。
今回の記事は相変わらず長いですが、気長におつきあい下さい。
しかも技術的な話なのでわかりづらいかもしれません。かみ砕いて説明しているつもりではありますが・・・。
(2)ガイドライン改正案
「特定秘密以外の秘密文書」(以後「秘密文書」)の統一基準を決めるために、「行政文書の管理に関するガイドライン」の改正案が政府から提示されている。
このガイドラインは公文書管理法に基づくものであり、行政文書の管理はすべてこれに基づいて行われることを原則としている。
なので、ガイドラインに基準が書き込まれれば、必然的に各行政機関はこれに従う義務が発生することになる。
改正案は新旧対照表が見やすいので、こちらの方が分かりやすいかもしれない。
今回の改正案は、ガイドラインに「第10」を新設して、秘密文書に関する規定を付け足す形になっている。
1項目ずつ見ていきたい。
第10 公表しないこととされている情報が記録された行政文書の管理
1 特定秘密である情報を記録する行政文書の管理
特定秘密(特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)第3条第1項に規定する特定秘密をいう。以下同じ。)である情報を記録する行政文書については、この訓令に定めるもののほか、同法、特定秘密の保護に関する法律施行令(平成26年政令第336号)、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(平成26年10月14日閣議決定)及び同令第12条第1項の規定に基づき定められた○○省特定秘密保護規程に基づき管理するものとする。
まず、1では「特定秘密」に関する規定も、ついでとばかりに放り込まれている。
要するに、特定秘密保護法やその運用基準で細かいことは決めたからそちらを見ろということである。
(5)でも書くが、事実上の「二重帳簿」になっていることが大きな問題である。
これについては、すでに以前にブログに書いたことがある。
特定秘密保護法関連のパブコメについて(4)特定秘密指定管理簿
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-07
「特定秘密」も公文書管理法の適用を受けるので、すべての行政文書が登載される「行政文書ファイル管理簿」に情報が記載される。
ただし、今の行政文書ファイル管理簿の仕組みでは、特定秘密であるかどうかはわからない。
以前から私は、行政文書ファイル管理簿に「特定秘密であるか否か(過去も含む)」の欄を作ること、特定秘密の期間はファイル名自体を非公開にしてもかまわないこと(情報公開法上可能)、特定秘密の指定が解除された際には過去に特定秘密であったことが外部から分かるようにすること(検証のため)、を主張している。
ただ、最近公文書管理委員会の議事録を見て気づいたのだが、どうやら内閣情報調査室は「特定秘密」が含まれる文書を「ファイル名を曖昧にして行政文書ファイル管理簿に載せる」ように指導しているようなのだ(公文書管理委員会第38回議事録、2014年8月1日、8頁)。
これは、「特定秘密隠し」を指導しているとしか思えない。
つまり「ファイル名を公開している」と見せかけて、名称を曖昧にすることで内容をわからなくさせ(特定秘密が解除された後も)、廃棄のチェックをすり抜けることも容易にさせようとしている(チェックする側がファイル名から重要度が分からない)。
せめて、過去に特定秘密であったことがわかるような記載欄があれば良いが、それが存在しない以上、簡単に他の文書に紛れ込ませて特定秘密を廃棄することが可能になってしまう。
つくづく思うのだが、特定秘密保護法にしろ、今回の秘密文書統一規定にしろ、現行の「行政文書ファイル管理簿」を蔑ろにし、二重帳簿で管理して最終的な廃棄をやりやすくさせようとする制度設計をしているようにしか見えない。
秘密制度の導入を正当化するなら、きちんと残して公開する仕組みを担保しなければならないのだが、そこに対する意識の低さには唖然とするところがある。
次からが今回の本題。
2 特定秘密以外の公表しないこととされている情報が記録された行政文書のうち秘密保全を要する行政文書(特定秘密である情報を記録する行政文書を除く。以下「秘密文書」という。)の管理
(1) 秘密文書は、次の種類に区分し、指定する。
極秘文書 秘密保全の必要が高く、その漏えいが国の安全、利益に損害を与えるおそれ
のある情報を含む行政文書
秘文書 極秘文書に次ぐ程度の秘密であって、関係者以外には知らせてならない情報を
含む極秘文書以外の行政文書
秘密文書は「極秘」と「秘」の2つで統一する。これまでの「機密」が無くなった。
ただ、この解説にあたる部分で、「原則として、極秘文書及び秘文書の2つに区分し・・・」(改正案8頁)と記載されており、「原則として」という不穏な言葉が入っている。
この言葉が存在すると、これまで各行政機関が勝手に作ってきた秘密文書カテゴリーを容認する余地を残すことに繋がってしまう。
今回は基準の統一化が目的である以上、この2つのカテゴリーに全てを当てはめさせるべきである。
なので、「原則として」は外させる必要があるだろう。
また、ここに書かれている「極秘」と「秘」の違いはかなり曖昧である。
各行政機関によって事情が異なるので、統一基準での限定は難しいだろう。
ただ、ほおっておくと曖昧に拡大するので、各行政機関ごとに「特定秘密」の別表のような、具体的な情報類型の設定を行うことの義務化は求めてよいと思われる。
(2) 秘密文書の指定は、極秘文書については各部局長が、秘文書については各課長が期間(極秘文書については5年を超えない範囲内の期間とする。(3)において同じ。)を定めてそれぞれ行うものとし(以下これらの指定をする者を「指定者」という。)、その指定は必要最小限にとどめるものとする。
(3) 指定者は、秘密文書の指定期間(この規定により延長した指定期間を含む。)が満了する時において、満了後も引き続き秘密文書として管理を要すると認めるときは、期間を定めてその指定期間を延長するものとする。また、指定期間は、通じて当該行政文書の保存期間を超えることができないものとする。
「極秘文書」は「特定秘密」と同様に5年以内の期限を切って(2)、満了時に延長するかを見直す(3)ことになる。
また、文書自体の保存年限を超えて秘密指定を行うことができなくなっている。
これは、「特定秘密」とのバランスを考えたということになるだろう。
ただ、なぜ「秘文書」には期限が何も書かれていないのかが理解に苦しむ。
極秘よりも短くても大丈夫なはずなのだから、例えば5年以内で原則延長不可みたいな制度にするべきではないのか。
なお、情報公開クリアリングハウスの調査によれば、各行政機関においては、秘密文書の「指定期間」の設定を義務づけているケースがほとんどのようである(4頁)。
なので、こういった年限制度自体は受容される可能性が高いように思われる。
ただ、期限満了後に自動的に指定解除になる仕組みは半分程度しか導入されていなかったとのこと。
つまり、期限満了した後も、秘密が指定されたまま放置されているケースが認められてしまっている。
なので、「延長手続き」が採られなかった文書については、「自動秘密解除」の仕組みが必要不可欠だと思われる。
(4) 指定者は、秘密文書の管理について責任を負うものを秘密文書管理責任者として指名するものとする。
「極秘」は官房長・局長クラス、「秘」は課長クラスが指定する。
1965年の規定にも似たようなものがあるが、今回は「責任者」であることが明記されたことであろうか。
この項目は特に問題はないだろう。
(5) 秘密文書は、秘密文書を管理するための簿冊において管理するものとする。
この「簿冊」というのは、「秘密文書管理簿」のことを指す。
「特定秘密」と同様に、二重帳簿を作って秘密の指定や解除はそちらで管理をするということである。
すでに、上記の「特定秘密」の所で述べたので繰り返さないが、「行政文書ファイル管理簿」上で秘密指定も管理するべきだと思う。
(6) 秘密文書には、秘密文書と確認できる表示を付すものとする。
これも「特定秘密」と同様の仕組み。これまでも当然存在している(ハンコを押したりする)。
(7) 総括文書管理者は、秘密文書の管理状況について、毎年度、○○大臣に報告するものとする。
これは新しい仕組みであり、かつ重要な部分。
前回の記事でも紹介したが、おそらく各行政機関では、自分達がどのくらい秘密文書を持っているかを把握できていない(各部局でも把握できているか怪しい)。
管理状況を報告する義務が発生すれば、当然件数などは報告対象になる。
また、この数字は公文書管理法上の「管理状況の報告」に含まれる「予定」と解説で述べているので、「特定秘密」と同様に公表されることになるのだろう(改正案9頁)。
どこまでが報告対象になるのかがわからないが、公文書管理法上の報告になるので、おかしな点があれば公文書管理委員会が説明を求めることも可能なので、最低限の濫用の歯止めにはなるかもしれない。
(8) 他の行政機関に秘密文書を提供する場合には、あらかじめ当該秘密文書の管理について提供先の行政機関と協議した上で行うものとする。
これも「特定秘密」と同様の措置。
解説の部分を見ると、国会に対しても同様の対応を要求するとのこと。
「国会の秘密文書に係る保護措置等を踏まえ、適切な対応を行う」(改正案9頁)との言い回しなので、国会に必ず提供するとは限らないというようには読める。
このあたりは、国会側の規定次第ということになるのだろうか。
(9) 総括文書管理者は、この訓令の定めを踏まえ、秘密文書の管理に関し必要な事項の細則を規定する秘密文書の管理に関する要領を定めるものとする。
このガイドラインに基づいて、秘密文書に関連する規則を各行政機関は作らなければならないということである。
なお、このための「モデル要領」(改正案10頁以降)が記載されている。
ほとんどはこれまで述べてきたことを、具体的に規則に落としたものであるが、いくつか重要なことが追加されている。
一つ目は「廃棄」の問題。
モデル要領には次のように書かれている。
第10 秘密文書の廃棄
1 秘密文書の廃棄に当たっては、歴史公文書等を廃棄することのないよう留意すること。
2 秘密文書の廃棄は、焼却、粉砕、細断、溶解、破壊等の復元不可能な方法により確実に
行わなければならない。
文書の保存期間が満了して、国立公文書館等に移管して永久保存するか廃棄するかを決める時に、秘密指定が解除されていない。
つまり、秘密文書のまま、移管・廃棄の判断がされるということである。
これは、必ず解除される「特定秘密」との大きな違いになる。
1の「歴史公文書等を廃棄することのないよう留意」はスローガンとしては必要ではあるが、これをどうやって担保するのかが重要。
制度設計をしている内調は、「特定秘密」や「極秘」を設定したかどうかは、原則として永久保存するかの判断基準では無いという態度を取り続けている。
つまりガイドラインの別表第2で移管と決まっている情報を移管するということである。
これは、一見すると制度を忠実に守っているように見えるが、逆に言えば、制度を守ることで特定秘密や極秘などの文書を他の文書に紛れ込ませようとしているようにも見える。
ここのズレをどうやって埋めるのかは、管理簿の問題も含めて重要だと考えている。
もう一つ「モデル要領」で気になるのは、内部通報者制度が組み込まれていることだ。
第13 秘密文書の管理の適正に関する通報
1 秘密文書の管理が本要領に従って行われていないと思料した者は、○○(例:法令遵守対応
窓口等)に通報できる。
2 ○○に通報又は相談をしたことを理由として、通報者又は相談者に対し不利益な取扱いを
してはならない。
「特定秘密」に合わせたのだと思うが、他の部分に一切解説も無く、唐突に「モデル要領」の中に現れるので、どう判断して良いのか困る。
制度をきちんと整備するならば、別に項目を立てて「特定秘密」の運用基準並みの解説はするべきだ。
これだけだと、行政機関の側だって戸惑うだろう。
あと気になる所は、解説の部分に、この規程は「平成29年度末を目途に必要な措置を完了するよう努めるもの」(改正案10頁)とすると書かれている。
このガイドラインの改正は、2015(平成27)年4月から適用されると思われるので、3年間の猶予が各行政機関に与えられるということになる。
正直長いと思う半面、このぐらい時間をかけないと、カオスな状態になっている秘密文書のコントロールを各行政機関自体が取り戻すことが不可能だと考えられているのだろうと推測せざるをえない。
もっと早くするべきという主張はパブコメでするとは思うが、現在の秘密文書の管理状況は相当に末期的なのかもしれない。
まとめると、結局、公文書管理法の改正を行わず、現在の仕組みを変えることなく、これに秘密保護制度を接ぎ木しようとしていることに問題があるように思われる。
今後の公文書管理法の見直しと合わせて、この秘密保護制度を全体としてどうコントロールしていくかを考えていく必要があると思われる。
長くなりましたが以上です。次回は私の書いたパブコメを載せます。
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特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (1)現在の制度
https://h-sebata.blog.ss-blog.jp/2014-12-24
2014年12月17日、政府は「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始した。締切は翌年1月6日である。今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。特定秘密保護法でよく勘違いをされるのだが、「特定秘密」はあくまでも外交や防衛、テロ対策などに該当する秘密文書を指定して罰則を強化したものであり、それ以外にも秘密文書は腐るほど存在する。特定秘密はむしろ「氷山の一角」に過ぎない。これまで、秘密文書の取扱いは各行政機関に丸投げされてきた。そのため、指定も管理もずさんきわまりない状態が続いている。この制度に詳しい情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんからうかがった話だと、おそらく各行政機関は秘密文書をどのくらい持っているのか自分達で把握できていないとのことだ。なので、統一基準ができること自体には私は賛成である。また、統一基準を作ることは、政府の側にとっても必要なことだったと思われる。特定秘密以外の秘密文書をきちんとコントロールすることは、秘密漏洩の防止などに繋がるので、基準を作らないとさすがにまずいと考えたのだろう。さて、この統一基準だが、当然無条件で政府案に賛同できるものでないことは確かである。特定秘密保護法案の審議を見るだけでもわかるとおり、官僚の側はできるかぎり秘密を広げようとする傾向がある。よって、この機会に、過剰に秘密が設定されないような仕組みを構築し、重要な文書はきちんと保存されて公開されるような仕組みをきちんと整備する必要があるだろう。今回の連載では、まず現在の制度の解説から始め、次にガイドラインの改正案の解説、最後に自分のパブコメを公開するという流れで書いていきたい。(1)現在の制度特定秘密以外の秘密指定は、そもそも何を根拠にして行われているのか。実は、今からほぼ50年近く前に出された、1965年4月15日の「秘密文書等の取扱いについて」(事務次官等会議申合せ)に基づいて行われている。「秘密文書等の取扱いについて」(1965年4月15日事務次官等会議申合せ) http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20140801/20140801haifu3-1.pdfこの規定は、1965年に自衛隊で行われていた有事想定演習(いわゆる「三..
2014年公文書管理問題
瀬畑 源(せばた はじめ)
2014-12-24T22:47:40+09:00
「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始した。
締切は翌年1月6日である。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。
特定秘密保護法でよく勘違いをされるのだが、「特定秘密」はあくまでも外交や防衛、テロ対策などに該当する秘密文書を指定して罰則を強化したものであり、それ以外にも秘密文書は腐るほど存在する。
特定秘密はむしろ「氷山の一角」に過ぎない。
これまで、秘密文書の取扱いは各行政機関に丸投げされてきた。そのため、指定も管理もずさんきわまりない状態が続いている。
この制度に詳しい情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんからうかがった話だと、おそらく各行政機関は秘密文書をどのくらい持っているのか自分達で把握できていないとのことだ。
なので、統一基準ができること自体には私は賛成である。
また、統一基準を作ることは、政府の側にとっても必要なことだったと思われる。
特定秘密以外の秘密文書をきちんとコントロールすることは、秘密漏洩の防止などに繋がるので、基準を作らないとさすがにまずいと考えたのだろう。
さて、この統一基準だが、当然無条件で政府案に賛同できるものでないことは確かである。
特定秘密保護法案の審議を見るだけでもわかるとおり、官僚の側はできるかぎり秘密を広げようとする傾向がある。
よって、この機会に、過剰に秘密が設定されないような仕組みを構築し、重要な文書はきちんと保存されて公開されるような仕組みをきちんと整備する必要があるだろう。
今回の連載では、まず現在の制度の解説から始め、次にガイドラインの改正案の解説、最後に自分のパブコメを公開するという流れで書いていきたい。
(1)現在の制度
特定秘密以外の秘密指定は、そもそも何を根拠にして行われているのか。
実は、今からほぼ50年近く前に出された、1965年4月15日の「秘密文書等の取扱いについて」(事務次官等会議申合せ)に基づいて行われている。
「秘密文書等の取扱いについて」(1965年4月15日事務次官等会議申合せ)
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20140801/20140801haifu3-1.pdf
この規定は、1965年に自衛隊で行われていた有事想定演習(いわゆる「三矢研究」)が社会党の議員によって暴露されて大問題となった事件をきっかけに、各行政機関の事務次官等による申合せによって整備されたものである(1953年に元になった申合せがあり、それを改訂したもの)。
これによれば、
2 秘密文書は、原則として次の種類に区分すること。
極秘 秘密保全の必要が高く、その漏えいが国の安全、利益に損害を与えるおそれのあるもの。
ただし、「極秘」のうちその秘密保全の必要度がきわめて高度のものを「機密」とすることが
できるものとすること。
秘 極秘につぐ程度の秘密であって、関係者以外には知らせてならないもの。
とされ、「機密」「極秘」「秘」という分け方がされているということがわかる。他に管理の仕方などが書かれている。
なお、この文書には、「不要の秘密文書は、必ず焼却する等復元できない方法により処分すること」という規定があり、政府全体の方針として秘密文書を廃棄処分して後世に残さないことが決められている。
「防衛秘密」が粛々と廃棄されていたのは、防衛省の体質という問題だけではなく、こういった日本の行政機関全体に存在する「秘密は捨てる」という文化に影響されているということだろう。
ただ、この申合せは原文を見てもらえればわかるが、かなりザックリとしたことしか書かれていない。
その理由は、私が色々なところで書いてきたが、公文書管理が各行政機関に任されてきたからである。
つまり、ザックリとルールは作るから、あとは各機関できちんとやってねということである。
これで50年間もこの申合せは使われてきたのである。
ただ、いくらなんでも、このザックリとした基準では、秘密文書の管理はきちんと行えなかった。
特に2000年代に入って、ネットからの情報漏洩などが本格化する中で、「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」(2005年から。最新は2014年版)や「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年作成、2009年から施行)などを作成し、上からかぶせるようにセキュリティーを強化する方針を取ってきた。
内閣府が作った現在の「秘密情報等を記録する行政文書の相互関係」の図が下記のリンクにある(「情報の管理の在り方に関する検討チーム」第2回資料1、2014年7月18日)。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/joho_kanri/dai2/siryou1.pdf
(注はリンク先で)
この図の記述は
「機密性1、2、3情報」・・・「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」
「機密」「極秘」「秘」・・・「秘密文書等の取扱いについて」
「特別管理秘密」・・・「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」
「特定秘密」・・・特定秘密保護法
で根拠が分かれている。
また、「機密性2」より内側の情報は、情報公開法上の「不開示情報」と書かれており、この内側は請求しても墨塗りされて公開されない部分だと言える。
具体的に説明は省略するが、要するに「複層化していてなんだかよくわからない」ということだけ分かってもらえれば良いと思う。
しかも、この図は最も単純な分け方であり、秘密文書の区分けは、各行政機関独自のものが他にも様々な形で存在している。
ただ、根本的な管理方法自体にメスを入れずに、上から色々なものをかぶせても限界はある。
なお、「特定秘密」制度は、管理方法にメスを入れられないから、罰則を強化することで漏洩を防ごうとする発想で作られている(だから、秘密指定の範囲の限定が甘くなっている)。
本来ならば、特定秘密保護法を作る前に、この統一基準を整備して秘密文書の管理を徹底し、その上で、必要ならば特定秘密保護法を作るというのが筋論だったはずである。
脱線したので戻す。
そこで、この相互関係をスッキリさせようというのが、今回の統一基準の作成ということになるのだろう。
ただ、すでに「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」はそのまま運用すると官僚側は決定しており(情報管理の在り方に関する検討チーム第2回会合議事概要、2014年7月18日)、これ(機密性1,2,3情報)と特定秘密以外の秘密指定に関する部分をできる限り統一化しようということのようだ。
次回からは、では政府はどういう提案をしてきているのかについて解説してみたい。
なお、今回の記事の参考として次の二つを挙げておく。
一つは、私が書いたものだが、「日本における秘密保護法制の歴史」『歴史評論』2014年11月号で、戦後の秘密保護制度の変遷については簡単に述べておいた。興味がある方はぜひ。
もう一つは、情報公開クリアリングハウスが作成した「政府の秘密指定・保護制度に関する調査結果」(2014年11月7日)。
各行政機関における秘密指定に関係する規則を片っ端から情報公開請求して公開させた調査結果。
これを見ると、「秘密文書等の取扱いについて」にあるような「機密」「極秘」「秘」だけでなく、別のカテゴリーの秘密指定文書が様々な行政機関に存在することがよくわかる。
非常に参考になるので、是非とも御覧いただければと思う。
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