札幌での講演記録の論文化 [情報公開・文書管理]
昨年10月に札幌市文化資料室で行った講演の記録が文字化されました。
瀬畑源「札幌市公文書館への希望と課題」『札幌市文化資料室研究紀要-公文書館への道-』第3号、2011年3月。
http://www.city.sapporo.jp/bunkashiryo/publication/index.html
ウェブ上で公開されています。上記のリンクからPDFファイルを見ることができます。当日のレジュメも上げてあります。
内容は札幌市に公文書館を作る場合、どういうことに注意してほしいかということを、公文書管理法に関連づけながら話したものです。
よろしければごらん下さい。
瀬畑源「札幌市公文書館への希望と課題」『札幌市文化資料室研究紀要-公文書館への道-』第3号、2011年3月。
http://www.city.sapporo.jp/bunkashiryo/publication/index.html
ウェブ上で公開されています。上記のリンクからPDFファイルを見ることができます。当日のレジュメも上げてあります。
内容は札幌市に公文書館を作る場合、どういうことに注意してほしいかということを、公文書管理法に関連づけながら話したものです。
よろしければごらん下さい。
全史料協2010年大会の感想(下) 個別報告その2とまとめ [情報公開・文書管理]
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)の2010年大会が11月24,25日に京都で行われました。
http://www.jsai.jp/taikai/kyoto/index.html
感想の(上)はこちら。
感想の(中)はこちら。
感想の続き。個別報告の最後。まとめと合わせて記載。
○早川和宏・冨永一也「公文書館機能の自己点検・評価指標(試論)」
この報告は、全史料協の「調査・研究委員会」による、「自己点検・評価指標」試案の提示である。
だが、実際には「公文書館とはどうあるべきか?」を考える素材を提示したものであったと言えると思う。
全国の自治体には、公文書館を持っていなくても、自治体の中に「公文書館機能」を持っているところが一定数存在する(例えば、重要な歴史資料を選別して永年保存するようなこと)。
公文書管理法が来年4月に施行されるが、実際に「ハコモノ」としての「館」の建設が難しい自治体が多いので、実質的な「公文書館機能」をどのように整備するかという点を見越しての提案だったのだと思う。
そこで、「ミニマムモデル」と「ゴールドモデル」の2つが提示された。
この内容、表現も含めて、なかなか興味深いので、せっかくなので全部打ち込んでみる。
「ミニマムモデル」
【1 基本事項】
1.1 歴史資料として重要な公文書等の管理に関する一連の業務が組織法(条例・規則・規程・要綱等その形式は問わない)上、規定されている。
1.2 歴史資料として重要な公文書等に関する業務状況が何らかのかたちで一般に公表されている。
【2 保存・管理】
2.1 当該自治体の情報公開条例に規定された実施機関のうち、50%以上の機関の歴史資料として重要な公文書等を収集(移管)の対象としている。
2.2 歴史資料として重要な公文書等の収集方針、評価選別基準(これらに相当するもの)等を明文化し、公表している。
2.3 文書管理等の規程上、歴史資料として重要な公文書等の保存場所を規定し、現用文書の保管場所とは異なる専用の場所で管理している。
【3 公開・調査研究】
3.1 自らが管理している歴史資料として重要な公文書等の目録を作成し、それが一般に公表されている。
3.2 閲覧を制限する場合の基準を持ち、一般に公開している。また、その基準に該当するものを除いて、一般利用の制限が行われていない。
3.3 標準的な資料複写料金が、当該自治体の情報公開制度による「写しの交付に要する費用」と同等かそれ以下となっている。
3.4 歴史資料として重要な公文書等の収集・保存・閲覧等に関する調査研究を行い、その成果を毎年度公表している。
「ゴールドモデル」
【1 基本事項】
1.1 条例に基づき公文書館機能を設置・管理している。
1.2 公文書館機能の運営の基本理念や方針を策定し、公表している。
1.3 公文書館機能の中長期的経営目標を策定し、公表している。
1.4 公文書館機能の事業について自己評価を行っている。
1.5 公文書館機能の事業について外部評価を行っている。
1.6 全史料協・日本アーカイブズ学会・企業史料協等、アーカイブズの専門職団体で、公文書館機能の設置・管理・運営に関する報告・執筆等を行っている職員を配置している。
1.7 5年以上継続して運営に携わっている職員がいる。
1.8 ライフサイクルに配慮した公文書管理を条例で定めている。
1.9 公文書館機能の一連の業務が複数の職員で情報共有されている。
1.10 管内市町村に対して、歴史資料として重要な公文書等の保存・公開業務の支援、情報提供等を行っている。[都道府県公文書館限定事項]
【2 保存・管理】
2.1 文書の作成・管理のプロセスに業務支援等何らかの形で関与している。
2.2 歴史資料として重要な公文書等の収集(移管)決定権を公文書館機能が有している。
2.3 設置団体が単年度で作成する資料全体の80%以上を選別の対象としている。
2.4 収集(移管)及び選別作業についての記録を全て保存している。
2.5 廃棄した資料のリストを保存し、公開できるようにしている。
2.6 電子文書・情報の移管・保存を行っている。
2.7 利用頻度が高いと予想される史料の代替化措置を行っている。
2.8 IPM(総合的害虫管理)による保存環境の整備や防災上の配慮等、長期的に資料が保存出来るような処置を取っている。
【3 公開】
3.1 Webを活用して資料へのアクセスを容易にしている。
3.2 利用可能な全ての資料に関する情報がWeb上で公表されている。
3.3 非公開資料の所蔵情報を何らかの形で公表している。
【4 調査研究】
4.1 所蔵資料に関連する資料について、その所蔵先に関係なく幅広く紹介できている。
4.2 設置団体の職員に対して所蔵資料等の積極的な情報提供を行っている。
4.3 講演会・講習会・展示等所蔵資料の利用促進をはかる事業を単年度あたり4回以上催行している。
4.4 一年以内に全史料協、国立公文書館。国文学研究資料館等の主催する研修や講座を受講した職員が運営に携わっている。
4.5 同じ設置団体に属する類縁機関等(公文書館を含む)と地域資料(主に歴史的私文書等)の収集保存について役割分担等の連携が行われている。
内容的に言うと、2.2を守れていない館があることは、先述した竹永報告についての私のコメントを参照すればわかる。
つまり「ミニマム」ですら、まだ達成できていない公文書館が、かなりあるということだ。
なお、良く見ると、「ミニマムモデル」には「公文書館機能」という言葉が使われていない。
また、「ゴールドモデル」では「公文書館機能」という言葉はあるが、「公文書館」という言葉が単独で使われていない。
この二つが、このモデルの意味をものすごく強く表しているように感じる。
つまり、「館」としての建物は本質的には「+α」の部分に属し、「機能」を重視するという考え方である。
ただ、ゴールドモデルについては「公文書館機能」という言葉の使い方をすることで、そこまでの機能を目指す以上は「館」は必要ではないかという工夫があるように見える。
もちろん、委員会側がどこまで意図的にそういう言葉の使い方をしているのかはわからない。
ただ、この議論は究極的には「公文書館」の意義の問い直しを迫っている。
なお、会場からの質問でここでいう自己点検の対象は、公文書を受け入れる「公文書館」限定かという質問が出ていて、報告者はそれに同意をしていた。
質問者はそれで納得していいんかなあ?
確かに、この「モデル」は「公文書館」限定ではある。
「文書館」という言葉ではないので、基本的には「限定」がかかっているんだろう。
でも、議論したいところはそこだけではない。
もっと広がりを持っている話だと思う。
少し漠然とした書き方になるけど、ここからまとめ。
一日目の鈴江英一報告(解説は略)における、公文書館の設置理由の変化の話(歴史資料保存→行政検証、効率化)、竹永報告の利用者の意見を取り入れた公文書館のあり方、井上報告の図書館がアーカイブズ機能を持ちうる話、そしてそれを受けた早川・冨永報告の「自己点検・評価指標」。
大会に掲げられたテーマをもう一度振り返る。
「わたくしたちのアーカイブズ―めざすべき姿―」
その「めざすべき姿」には、ひょっとすると「文書館」という「ハコ」は必要ないのかもというところまで考え得る話になっている。
何をもって「館」でなければならないのか。
専門職員のレファレンス→専門職員を役所に置けば解決!
専用の書庫→やはり役所に専用の書庫を置けば解決!
資料をきちんと保存します→デジタル化すれば解決!
・・・・・・・・・・・(-_-;)
質問だったかで、「結局利用者からすれば、資料が「見れれば」よいのであって、それは情報公開窓口だろうとアーカイブズだろうと関係ない」ということを発言されていた人がいた。
そうだろうと思う。
でも、私は「館」は必要だと考えている。その理由は自分なりに考えがあるが、ここではあえて書かない。
別にもったいぶるようなたいそうな理由ではない。
書かないのは、要するにこれがこの大会において個々に「持って帰るべき課題」であったのではないかと思うからだ。
私は、「めざすべき姿」のさまざまな可能性を、特に二日目の報告は見せてくれていたと考えている。
最後に、感想めいたことを。
おそらく「何を偉そうに言ってやがる」と怒り出す人がいると思うけれども、あえて「外」の人から見えた感想を書いておきたい。
全体的に、文書館に所属していない人の発言は明瞭で、所属している人の発言が非常に不明瞭であったように思う。
特に、前者である早川氏と後者である冨永氏の共同報告は、その特徴をものすごく示していたように思う。
こればもちろん、冨永氏個人の問題ということを言いたいのではない。(誤解の無いように書いておくが、冨永氏とは色々とお話しをさせていただくことがあり、ご本人の公文書問題に対する真摯さを疑ったことはない。)
ただ、後者に属する人たちは「発言の自由が無い」のだなと思ったのだ。
つまり、文書館員の多くは「公務員の一人」として「文書館」に勤務している。よって、発言に所属機関や立場を背負ってしまっており、そこから自由になれないのではないか?
だから、交流会の時に、どなたかが「この交流会こそが大会で最も重要な場」と冗談めかした話をされていたが、まさしくそれは「真実」なんだなと思った。
つまり、酒が入って所属機関や立場を「忘れた」瞬間から、議論が活発になっているということだ。
飲み会の盛り上がり方を見ていて、個人的にそう感じざるを得なかった。
だが、その「制約」の中で発言をする人の中に、二つの種類の方がいるなと思った。
制約はあるけれども、そこから少しでも前に進むために踏み込んだ発言をしようとする人。
制約に不満はあるけれども、結局愚痴で終わって、現状に甘んじた発言をする人。
私は、その前者の人が少数でなく、一定の層で存在することを見れたので、全史料協の可能性を見れたように思う。
全史料協が、そういった前に進もうとする人たちに、より力を発揮させることができるような組織であってほしいと願っています。
この2日間、さまざまなことを考えた。
正直、色々なことを考えすぎて、なかなか寝れずに困ったぐらい。
感想を書くことで少し整理できたが、まだ考えられていない課題も多い。これから折を見て考えていきたいと思う。
知的好奇心を刺激される2日間だった。
主催者のみなさまにはこのような機会を与えてくださったことに感謝を申し上げたい。
また、ここまでの感想を読んでいただきありがとうございました。
私としては、きついことは書いているけれども、後ろ向きではなく建設的なことを書いているつもりです。
そこを読み取っていただければ幸いです。
http://www.jsai.jp/taikai/kyoto/index.html
感想の(上)はこちら。
感想の(中)はこちら。
感想の続き。個別報告の最後。まとめと合わせて記載。
○早川和宏・冨永一也「公文書館機能の自己点検・評価指標(試論)」
この報告は、全史料協の「調査・研究委員会」による、「自己点検・評価指標」試案の提示である。
だが、実際には「公文書館とはどうあるべきか?」を考える素材を提示したものであったと言えると思う。
全国の自治体には、公文書館を持っていなくても、自治体の中に「公文書館機能」を持っているところが一定数存在する(例えば、重要な歴史資料を選別して永年保存するようなこと)。
公文書管理法が来年4月に施行されるが、実際に「ハコモノ」としての「館」の建設が難しい自治体が多いので、実質的な「公文書館機能」をどのように整備するかという点を見越しての提案だったのだと思う。
そこで、「ミニマムモデル」と「ゴールドモデル」の2つが提示された。
この内容、表現も含めて、なかなか興味深いので、せっかくなので全部打ち込んでみる。
「ミニマムモデル」
【1 基本事項】
1.1 歴史資料として重要な公文書等の管理に関する一連の業務が組織法(条例・規則・規程・要綱等その形式は問わない)上、規定されている。
1.2 歴史資料として重要な公文書等に関する業務状況が何らかのかたちで一般に公表されている。
【2 保存・管理】
2.1 当該自治体の情報公開条例に規定された実施機関のうち、50%以上の機関の歴史資料として重要な公文書等を収集(移管)の対象としている。
2.2 歴史資料として重要な公文書等の収集方針、評価選別基準(これらに相当するもの)等を明文化し、公表している。
2.3 文書管理等の規程上、歴史資料として重要な公文書等の保存場所を規定し、現用文書の保管場所とは異なる専用の場所で管理している。
【3 公開・調査研究】
3.1 自らが管理している歴史資料として重要な公文書等の目録を作成し、それが一般に公表されている。
3.2 閲覧を制限する場合の基準を持ち、一般に公開している。また、その基準に該当するものを除いて、一般利用の制限が行われていない。
3.3 標準的な資料複写料金が、当該自治体の情報公開制度による「写しの交付に要する費用」と同等かそれ以下となっている。
3.4 歴史資料として重要な公文書等の収集・保存・閲覧等に関する調査研究を行い、その成果を毎年度公表している。
「ゴールドモデル」
【1 基本事項】
1.1 条例に基づき公文書館機能を設置・管理している。
1.2 公文書館機能の運営の基本理念や方針を策定し、公表している。
1.3 公文書館機能の中長期的経営目標を策定し、公表している。
1.4 公文書館機能の事業について自己評価を行っている。
1.5 公文書館機能の事業について外部評価を行っている。
1.6 全史料協・日本アーカイブズ学会・企業史料協等、アーカイブズの専門職団体で、公文書館機能の設置・管理・運営に関する報告・執筆等を行っている職員を配置している。
1.7 5年以上継続して運営に携わっている職員がいる。
1.8 ライフサイクルに配慮した公文書管理を条例で定めている。
1.9 公文書館機能の一連の業務が複数の職員で情報共有されている。
1.10 管内市町村に対して、歴史資料として重要な公文書等の保存・公開業務の支援、情報提供等を行っている。[都道府県公文書館限定事項]
【2 保存・管理】
2.1 文書の作成・管理のプロセスに業務支援等何らかの形で関与している。
2.2 歴史資料として重要な公文書等の収集(移管)決定権を公文書館機能が有している。
2.3 設置団体が単年度で作成する資料全体の80%以上を選別の対象としている。
2.4 収集(移管)及び選別作業についての記録を全て保存している。
2.5 廃棄した資料のリストを保存し、公開できるようにしている。
2.6 電子文書・情報の移管・保存を行っている。
2.7 利用頻度が高いと予想される史料の代替化措置を行っている。
2.8 IPM(総合的害虫管理)による保存環境の整備や防災上の配慮等、長期的に資料が保存出来るような処置を取っている。
【3 公開】
3.1 Webを活用して資料へのアクセスを容易にしている。
3.2 利用可能な全ての資料に関する情報がWeb上で公表されている。
3.3 非公開資料の所蔵情報を何らかの形で公表している。
【4 調査研究】
4.1 所蔵資料に関連する資料について、その所蔵先に関係なく幅広く紹介できている。
4.2 設置団体の職員に対して所蔵資料等の積極的な情報提供を行っている。
4.3 講演会・講習会・展示等所蔵資料の利用促進をはかる事業を単年度あたり4回以上催行している。
4.4 一年以内に全史料協、国立公文書館。国文学研究資料館等の主催する研修や講座を受講した職員が運営に携わっている。
4.5 同じ設置団体に属する類縁機関等(公文書館を含む)と地域資料(主に歴史的私文書等)の収集保存について役割分担等の連携が行われている。
内容的に言うと、2.2を守れていない館があることは、先述した竹永報告についての私のコメントを参照すればわかる。
つまり「ミニマム」ですら、まだ達成できていない公文書館が、かなりあるということだ。
なお、良く見ると、「ミニマムモデル」には「公文書館機能」という言葉が使われていない。
また、「ゴールドモデル」では「公文書館機能」という言葉はあるが、「公文書館」という言葉が単独で使われていない。
この二つが、このモデルの意味をものすごく強く表しているように感じる。
つまり、「館」としての建物は本質的には「+α」の部分に属し、「機能」を重視するという考え方である。
ただ、ゴールドモデルについては「公文書館機能」という言葉の使い方をすることで、そこまでの機能を目指す以上は「館」は必要ではないかという工夫があるように見える。
もちろん、委員会側がどこまで意図的にそういう言葉の使い方をしているのかはわからない。
ただ、この議論は究極的には「公文書館」の意義の問い直しを迫っている。
なお、会場からの質問でここでいう自己点検の対象は、公文書を受け入れる「公文書館」限定かという質問が出ていて、報告者はそれに同意をしていた。
質問者はそれで納得していいんかなあ?
確かに、この「モデル」は「公文書館」限定ではある。
「文書館」という言葉ではないので、基本的には「限定」がかかっているんだろう。
でも、議論したいところはそこだけではない。
もっと広がりを持っている話だと思う。
少し漠然とした書き方になるけど、ここからまとめ。
一日目の鈴江英一報告(解説は略)における、公文書館の設置理由の変化の話(歴史資料保存→行政検証、効率化)、竹永報告の利用者の意見を取り入れた公文書館のあり方、井上報告の図書館がアーカイブズ機能を持ちうる話、そしてそれを受けた早川・冨永報告の「自己点検・評価指標」。
大会に掲げられたテーマをもう一度振り返る。
「わたくしたちのアーカイブズ―めざすべき姿―」
その「めざすべき姿」には、ひょっとすると「文書館」という「ハコ」は必要ないのかもというところまで考え得る話になっている。
何をもって「館」でなければならないのか。
専門職員のレファレンス→専門職員を役所に置けば解決!
専用の書庫→やはり役所に専用の書庫を置けば解決!
資料をきちんと保存します→デジタル化すれば解決!
・・・・・・・・・・・(-_-;)
質問だったかで、「結局利用者からすれば、資料が「見れれば」よいのであって、それは情報公開窓口だろうとアーカイブズだろうと関係ない」ということを発言されていた人がいた。
そうだろうと思う。
でも、私は「館」は必要だと考えている。その理由は自分なりに考えがあるが、ここではあえて書かない。
別にもったいぶるようなたいそうな理由ではない。
書かないのは、要するにこれがこの大会において個々に「持って帰るべき課題」であったのではないかと思うからだ。
私は、「めざすべき姿」のさまざまな可能性を、特に二日目の報告は見せてくれていたと考えている。
最後に、感想めいたことを。
おそらく「何を偉そうに言ってやがる」と怒り出す人がいると思うけれども、あえて「外」の人から見えた感想を書いておきたい。
全体的に、文書館に所属していない人の発言は明瞭で、所属している人の発言が非常に不明瞭であったように思う。
特に、前者である早川氏と後者である冨永氏の共同報告は、その特徴をものすごく示していたように思う。
こればもちろん、冨永氏個人の問題ということを言いたいのではない。(誤解の無いように書いておくが、冨永氏とは色々とお話しをさせていただくことがあり、ご本人の公文書問題に対する真摯さを疑ったことはない。)
ただ、後者に属する人たちは「発言の自由が無い」のだなと思ったのだ。
つまり、文書館員の多くは「公務員の一人」として「文書館」に勤務している。よって、発言に所属機関や立場を背負ってしまっており、そこから自由になれないのではないか?
だから、交流会の時に、どなたかが「この交流会こそが大会で最も重要な場」と冗談めかした話をされていたが、まさしくそれは「真実」なんだなと思った。
つまり、酒が入って所属機関や立場を「忘れた」瞬間から、議論が活発になっているということだ。
飲み会の盛り上がり方を見ていて、個人的にそう感じざるを得なかった。
だが、その「制約」の中で発言をする人の中に、二つの種類の方がいるなと思った。
制約はあるけれども、そこから少しでも前に進むために踏み込んだ発言をしようとする人。
制約に不満はあるけれども、結局愚痴で終わって、現状に甘んじた発言をする人。
私は、その前者の人が少数でなく、一定の層で存在することを見れたので、全史料協の可能性を見れたように思う。
全史料協が、そういった前に進もうとする人たちに、より力を発揮させることができるような組織であってほしいと願っています。
この2日間、さまざまなことを考えた。
正直、色々なことを考えすぎて、なかなか寝れずに困ったぐらい。
感想を書くことで少し整理できたが、まだ考えられていない課題も多い。これから折を見て考えていきたいと思う。
知的好奇心を刺激される2日間だった。
主催者のみなさまにはこのような機会を与えてくださったことに感謝を申し上げたい。
また、ここまでの感想を読んでいただきありがとうございました。
私としては、きついことは書いているけれども、後ろ向きではなく建設的なことを書いているつもりです。
そこを読み取っていただければ幸いです。
全史料協2010年大会の感想(中) 個別報告その1 [情報公開・文書管理]
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)の2010年大会が11月24,25日に京都で行われました。
http://www.jsai.jp/taikai/kyoto/index.html
感想の(上)はこちら。
感想の続き。今回は個別報告。
○竹永三男「近現代史研究と文書館―利用者の立場からの一つの文書館論―」
竹永氏は日本近代史研究者。部落問題から始まって、各地の行き倒れる人(行旅病人)などの研究をされている。
そのために、各地方文書館のヘビーユーザーでもある。
利用者の立場からアーカイブズ問題にきちんと発言のできる数少ない研究者の一人だと思う。
私と同じく、利用者から発言をされている方だけれども、私は国(特に宮内庁)に限定されているのに対し、竹永氏は各地の文書館での経験をお持ちなので、どのような話をされるのか非常に楽しみにしていた。
今回の報告は、竹永氏本人が行った全国の都道府県立の文書館(+それに類する機関)計37館にとったアンケートの結果報告と、それに基づくコメントであった。
この内容はなかなか刺激的であった。
例えば、文書の「公開制限に関する明文規程の有無(公開の有無も)」を聞いた設問では、37館のうち12館が規程を「非公表」としており、公表している館でもウェブ上に載せているのは17館に留まっていた。
また、非公開文書の場合、目録にすら載せていないという館が9館あった。
他にも色々とあったのだが、全ては紹介しきれないので略します。
この竹永氏の報告のすごさは、上記したデータを館名を隠さずに全て一覧として公表したことにある。
つまり、どの館が公開制限の理由を公表していないのかが、一目でわかってしまうのだ。
おそらく、この回答をした館側も、こういった比較表として使われるとは思ってなかったのではないか。
さて、竹永氏はこの表を用いながら、いくつかの提言を行った。私なりにまとめてみると
・文書館側が利用者(住民)に「説明責任」を果たしているのか?非公開理由などの明確化などをきちんとするべき。
・「見せてはいけないものを選別する」から「どうしたら見せられるか」を、利用者と文書館が対話しながら模索していくべき。
・公開した際のリスク(人権侵害など)は文書館側だけが責任を負うのではなく、利用者も負うような仕組みを考える必要。
・館を超えた横断検索システムを推進するべき。研究者だけでなく行政利用としても有用では。
・アーカイブズの情報をもっと「資源化」していくことが必要。出張講座や地元大学との連携などを強化していくべき。
これらは、私の主張にもかぶるところが大きい。
たぶん私が壇上にいても同じようなことを言っただろうと思うぐらい、意見がかぶっている。
やはり、利用者として携わっていると、こういうところが気になるよなという基本的なところが押さえられていたと思う。
また、部落問題などを研究されていることもあり、人権侵害などの問題についてもきちんと考えられている。
ただ、この竹永報告に対する会場の反応は「いまいち」であったと思わざるを得ない。
質疑応答を聞いていても、あまり建設的な反応がないなあと思って、正直私としては欲求不満がたまった。
私は近年、昭和天皇の戦後巡幸(敗戦直後の全国旅行)の研究をしているため、全都道府県の文書館の有無も含めた情報をウェブで集めたことがある。
その時に、ウェブで目録を検索できないところが多いというシステム的な問題以前として、「利用規則が公開されていない」「複写料金の表示がない」「利用制限規程があるのかすらわからない」などといった、利用する際の基本的な事項すらも載っていないウェブサイトが非常に多かったということに気づいて愕然となったことを覚えている。
その後、文書館の関係者の方に、「なぜ利用制限規程、というかそもそも公開するか否かの「審査基準」を公開していないのか?」ということを、何人かの人に聞いたことがあるが、一様に「わかるんだけどね・・・」といって困った顔を返されるというのが常であった。文書館の属する部署の上層部がいい顔をしないみたいなことも言われたことがある。
でも、これは都道府県立の文書館なら「しなければならない」ことであるはずだ。
文書館の関係者の方は、よく「住民から必要性を理解されない」と言う。
だが、そもそも自分たちの機関とは何であり、どのような業務をしているのかという説明責任を尽くさない機関が、住民に理解されるということは「ありえない」とは思わないだろうか。
そして、こういった規則を「公表する」ということは、ただ単に「自分の館に来てもらえれば見せます」「ウェブに規則は載せてあります」というレベルでは済まない。
そもそも、よほど文書館制度に詳しい人でない限り、「規則」をそのまま載せただけで、その内容を十全に理解されることは基本的に無理だと思う。
もし「理解してほしい」ならば、「公表の仕方」というのも重要になるはずだ。わかりやすく規則を説明するようなことも必要だろう。
なお、よく歴史研究者が、非公開の文書を「見せろ」と要求してきて困るみたいなことも聞く。
これは、歴史研究者の文書館業務に対する無理解という問題もあるが、その一方で、その無茶を言う人たちに「わかってもらう」努力を文書館の側が尽くしてきたのだろうか。(もちろん歴史研究者の側の責任を転嫁する意図はない。)
こういうことを書くと、「外部の事情もわからん奴が何を言うか。私たちは多忙な中で頑張ってるんだ」みたいなことを思う人もいるだろう。実際に竹永氏にそういう反発をしていた人がいた。
だが、竹永氏は「だから対話をしよう」と言っておられたのだ。そこは汲み取るべきだと思う。
理解者をまわりに増やしていくことは、究極的には文書館の社会的な立場の向上につながっていくはずだ。
その点に手間をかけることを惜しむのは本末転倒だと思う。
なお、全史料協は、この竹永報告で使われていたアンケートの結果を、会誌にすべて余さず載せて、会員間の問題の共有化を図るべきだと思う。
こういったことは隠してはいけない。
この竹永氏の報告を元に、状況がより良い方向に進むことを期待したい。
○井上真琴「目撃せよ!紙片が宝に変わる瞬間(とき)―図書館員のアーカイブ資料探検」
井上報告については、「図書館史勉強会@関西」のブログで詳細に紹介されていますのでそちらを参考にしてください。
ただ、視点が私とは少し違うので、違う部分について補足。
井上氏は、同志社大学図書館に勤務されている方である(正確には企画部所属)。
そして、報告では、図書館の中に保存されていた「アーカイブ資料」(竹林熊彦(図書館史研究者)資料など)を整理した体験について述べておられた。
基本的に、アーカイブ資料の整理の仕方と、図書館司書の資料整理の仕方は大きく異なるので、多くの図書館ではアーカイブズ資料をもてあまして放置する傾向がある。
井上氏がとりあげた竹林の資料も、40年近く図書館に放置されていたものだった。
しかし、この竹林の文書には、研究時に集めたと思われる田中稲城初代帝国図書館長の私文書が大量に含まれていた。そのため、以前から資料を見に来る人がいたようである。
井上氏は、図書館史としても重要な資料であると考え、「これは整理する必要がある」と感じ、外国の大学アーカイブズについての実地調査を行った。
その結果、井上氏は、とにかく「イニシャル・インベントリー」(Initial Inventory、初期目録)を整備することを最優先にするという考え方を取るに至った。
そのために、「研究」に深入りしないことや、あとで専門のアーキビストを置かないので、Finding Aids(利用マニュアル)をしっかりと作るということを意識的に行ったという。
私は、東京に帰ってきてから、実際の竹林文庫の目録を少し使ってみたが、「アーキビスト注記」の欄に、資料の内容についての情報がそれなりに書かれているので、それほどわかりにくいという感じではない。
もちろん、もっと充実していれば良いのにと思わないわけでもないが、十分に使用に耐えるのではと思う。
もっとも、量も3000点ぐらいなので、歴史研究者で本人に興味があれば、検索を使わず、隅から隅まで目録は見るだろう。
なお、全国各地の図書館には、館内に放置されたアーカイブ資料はけっこうあると思う。
図書と違うからどのように整理するかわからず、場合によっては捨てられていることもあると聞く。
私の大学の図書館でも、「ある先生が持ち込んだんだけど、どうしようか困ってとりあえず置きっぱなしにしてある」という資料の固まりを見たことがある。
コンサルタントを雇うという手法も含め、他の図書館にどこまで応用できるかわからないが、井上氏の試みは非常に面白いと思う。
会場で意見をおっしゃる方がいたが、図書館もiPadなどの電子書籍の導入で、機能が大きく変わっていく可能性がある。その中で、アーカイブズ資料の保存というのも、担う対象として認識されていく可能性があるのかもしれない。
それに、昨今では「MLA連携」(博物館、図書館、文書館連携)という言葉が飛び交うことが多くなってきている。
その意味でも、井上氏の報告は、さまざまな「可能性」を考えさせるものであった。
あと、余談ではあるが、井上氏は「マネジメント能力が高い人だな」という印象を持った。
例えば、「整理のための予算の取り方」について質問されたときに、「本当に予算がほしければ5年ぐらい前から案だけは出しておいて、そこまで毎年言ってくるなら仕方ねえなあと思わせられればOK」みたいな答え方をしていたのが印象的。
とりあえず思いついたら予算案を提出しておき、数年経ったら本気で狙いにいくみたいな話だけど、要するに「戦略的」であれと言っている。
こういったマネジメント能力を持った人をどう育てるのかということも、アーカイブズ業界は少し考えた方がよいように思う。
「専門家」を育てると、どうしても「専門技術の習得」ばかりに眼が行きがちな所がある。
でも、もっと全体のバランスを考えながら、どのように施設を運営していくのかという能力は、専門家には結構重要なのではないかなあと思うのだ。
マネジメントは、別にそれを専門とする人がやればという意見もあるだろうが、現場の人間にその知見があるだけでも、運営に大きな差が出てくると思う。
もちろん「どう育てるのか」というのは私にも答えがあるわけではないが、頭の隅に置いていても良いことのような気がする。
(下)に続く。
早川・冨永報告については、まとめと共に(下)にて記載する。
http://www.jsai.jp/taikai/kyoto/index.html
感想の(上)はこちら。
感想の続き。今回は個別報告。
○竹永三男「近現代史研究と文書館―利用者の立場からの一つの文書館論―」
竹永氏は日本近代史研究者。部落問題から始まって、各地の行き倒れる人(行旅病人)などの研究をされている。
そのために、各地方文書館のヘビーユーザーでもある。
利用者の立場からアーカイブズ問題にきちんと発言のできる数少ない研究者の一人だと思う。
私と同じく、利用者から発言をされている方だけれども、私は国(特に宮内庁)に限定されているのに対し、竹永氏は各地の文書館での経験をお持ちなので、どのような話をされるのか非常に楽しみにしていた。
今回の報告は、竹永氏本人が行った全国の都道府県立の文書館(+それに類する機関)計37館にとったアンケートの結果報告と、それに基づくコメントであった。
この内容はなかなか刺激的であった。
例えば、文書の「公開制限に関する明文規程の有無(公開の有無も)」を聞いた設問では、37館のうち12館が規程を「非公表」としており、公表している館でもウェブ上に載せているのは17館に留まっていた。
また、非公開文書の場合、目録にすら載せていないという館が9館あった。
他にも色々とあったのだが、全ては紹介しきれないので略します。
この竹永氏の報告のすごさは、上記したデータを館名を隠さずに全て一覧として公表したことにある。
つまり、どの館が公開制限の理由を公表していないのかが、一目でわかってしまうのだ。
おそらく、この回答をした館側も、こういった比較表として使われるとは思ってなかったのではないか。
さて、竹永氏はこの表を用いながら、いくつかの提言を行った。私なりにまとめてみると
・文書館側が利用者(住民)に「説明責任」を果たしているのか?非公開理由などの明確化などをきちんとするべき。
・「見せてはいけないものを選別する」から「どうしたら見せられるか」を、利用者と文書館が対話しながら模索していくべき。
・公開した際のリスク(人権侵害など)は文書館側だけが責任を負うのではなく、利用者も負うような仕組みを考える必要。
・館を超えた横断検索システムを推進するべき。研究者だけでなく行政利用としても有用では。
・アーカイブズの情報をもっと「資源化」していくことが必要。出張講座や地元大学との連携などを強化していくべき。
これらは、私の主張にもかぶるところが大きい。
たぶん私が壇上にいても同じようなことを言っただろうと思うぐらい、意見がかぶっている。
やはり、利用者として携わっていると、こういうところが気になるよなという基本的なところが押さえられていたと思う。
また、部落問題などを研究されていることもあり、人権侵害などの問題についてもきちんと考えられている。
ただ、この竹永報告に対する会場の反応は「いまいち」であったと思わざるを得ない。
質疑応答を聞いていても、あまり建設的な反応がないなあと思って、正直私としては欲求不満がたまった。
私は近年、昭和天皇の戦後巡幸(敗戦直後の全国旅行)の研究をしているため、全都道府県の文書館の有無も含めた情報をウェブで集めたことがある。
その時に、ウェブで目録を検索できないところが多いというシステム的な問題以前として、「利用規則が公開されていない」「複写料金の表示がない」「利用制限規程があるのかすらわからない」などといった、利用する際の基本的な事項すらも載っていないウェブサイトが非常に多かったということに気づいて愕然となったことを覚えている。
その後、文書館の関係者の方に、「なぜ利用制限規程、というかそもそも公開するか否かの「審査基準」を公開していないのか?」ということを、何人かの人に聞いたことがあるが、一様に「わかるんだけどね・・・」といって困った顔を返されるというのが常であった。文書館の属する部署の上層部がいい顔をしないみたいなことも言われたことがある。
でも、これは都道府県立の文書館なら「しなければならない」ことであるはずだ。
文書館の関係者の方は、よく「住民から必要性を理解されない」と言う。
だが、そもそも自分たちの機関とは何であり、どのような業務をしているのかという説明責任を尽くさない機関が、住民に理解されるということは「ありえない」とは思わないだろうか。
そして、こういった規則を「公表する」ということは、ただ単に「自分の館に来てもらえれば見せます」「ウェブに規則は載せてあります」というレベルでは済まない。
そもそも、よほど文書館制度に詳しい人でない限り、「規則」をそのまま載せただけで、その内容を十全に理解されることは基本的に無理だと思う。
もし「理解してほしい」ならば、「公表の仕方」というのも重要になるはずだ。わかりやすく規則を説明するようなことも必要だろう。
なお、よく歴史研究者が、非公開の文書を「見せろ」と要求してきて困るみたいなことも聞く。
これは、歴史研究者の文書館業務に対する無理解という問題もあるが、その一方で、その無茶を言う人たちに「わかってもらう」努力を文書館の側が尽くしてきたのだろうか。(もちろん歴史研究者の側の責任を転嫁する意図はない。)
こういうことを書くと、「外部の事情もわからん奴が何を言うか。私たちは多忙な中で頑張ってるんだ」みたいなことを思う人もいるだろう。実際に竹永氏にそういう反発をしていた人がいた。
だが、竹永氏は「だから対話をしよう」と言っておられたのだ。そこは汲み取るべきだと思う。
理解者をまわりに増やしていくことは、究極的には文書館の社会的な立場の向上につながっていくはずだ。
その点に手間をかけることを惜しむのは本末転倒だと思う。
なお、全史料協は、この竹永報告で使われていたアンケートの結果を、会誌にすべて余さず載せて、会員間の問題の共有化を図るべきだと思う。
こういったことは隠してはいけない。
この竹永氏の報告を元に、状況がより良い方向に進むことを期待したい。
○井上真琴「目撃せよ!紙片が宝に変わる瞬間(とき)―図書館員のアーカイブ資料探検」
井上報告については、「図書館史勉強会@関西」のブログで詳細に紹介されていますのでそちらを参考にしてください。
ただ、視点が私とは少し違うので、違う部分について補足。
井上氏は、同志社大学図書館に勤務されている方である(正確には企画部所属)。
そして、報告では、図書館の中に保存されていた「アーカイブ資料」(竹林熊彦(図書館史研究者)資料など)を整理した体験について述べておられた。
基本的に、アーカイブ資料の整理の仕方と、図書館司書の資料整理の仕方は大きく異なるので、多くの図書館ではアーカイブズ資料をもてあまして放置する傾向がある。
井上氏がとりあげた竹林の資料も、40年近く図書館に放置されていたものだった。
しかし、この竹林の文書には、研究時に集めたと思われる田中稲城初代帝国図書館長の私文書が大量に含まれていた。そのため、以前から資料を見に来る人がいたようである。
井上氏は、図書館史としても重要な資料であると考え、「これは整理する必要がある」と感じ、外国の大学アーカイブズについての実地調査を行った。
その結果、井上氏は、とにかく「イニシャル・インベントリー」(Initial Inventory、初期目録)を整備することを最優先にするという考え方を取るに至った。
そのために、「研究」に深入りしないことや、あとで専門のアーキビストを置かないので、Finding Aids(利用マニュアル)をしっかりと作るということを意識的に行ったという。
私は、東京に帰ってきてから、実際の竹林文庫の目録を少し使ってみたが、「アーキビスト注記」の欄に、資料の内容についての情報がそれなりに書かれているので、それほどわかりにくいという感じではない。
もちろん、もっと充実していれば良いのにと思わないわけでもないが、十分に使用に耐えるのではと思う。
もっとも、量も3000点ぐらいなので、歴史研究者で本人に興味があれば、検索を使わず、隅から隅まで目録は見るだろう。
なお、全国各地の図書館には、館内に放置されたアーカイブ資料はけっこうあると思う。
図書と違うからどのように整理するかわからず、場合によっては捨てられていることもあると聞く。
私の大学の図書館でも、「ある先生が持ち込んだんだけど、どうしようか困ってとりあえず置きっぱなしにしてある」という資料の固まりを見たことがある。
コンサルタントを雇うという手法も含め、他の図書館にどこまで応用できるかわからないが、井上氏の試みは非常に面白いと思う。
会場で意見をおっしゃる方がいたが、図書館もiPadなどの電子書籍の導入で、機能が大きく変わっていく可能性がある。その中で、アーカイブズ資料の保存というのも、担う対象として認識されていく可能性があるのかもしれない。
それに、昨今では「MLA連携」(博物館、図書館、文書館連携)という言葉が飛び交うことが多くなってきている。
その意味でも、井上氏の報告は、さまざまな「可能性」を考えさせるものであった。
あと、余談ではあるが、井上氏は「マネジメント能力が高い人だな」という印象を持った。
例えば、「整理のための予算の取り方」について質問されたときに、「本当に予算がほしければ5年ぐらい前から案だけは出しておいて、そこまで毎年言ってくるなら仕方ねえなあと思わせられればOK」みたいな答え方をしていたのが印象的。
とりあえず思いついたら予算案を提出しておき、数年経ったら本気で狙いにいくみたいな話だけど、要するに「戦略的」であれと言っている。
こういったマネジメント能力を持った人をどう育てるのかということも、アーカイブズ業界は少し考えた方がよいように思う。
「専門家」を育てると、どうしても「専門技術の習得」ばかりに眼が行きがちな所がある。
でも、もっと全体のバランスを考えながら、どのように施設を運営していくのかという能力は、専門家には結構重要なのではないかなあと思うのだ。
マネジメントは、別にそれを専門とする人がやればという意見もあるだろうが、現場の人間にその知見があるだけでも、運営に大きな差が出てくると思う。
もちろん「どう育てるのか」というのは私にも答えがあるわけではないが、頭の隅に置いていても良いことのような気がする。
(下)に続く。
早川・冨永報告については、まとめと共に(下)にて記載する。
全史料協2010年大会の感想(上) ポスターセッションと資料保存ワークショップ [情報公開・文書管理]
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)の2010年大会が11月24,25日に京都で行われました。
大会内容についてはこちらを↓
http://www.jsai.jp/taikai/kyoto/index.html
全史料協は、文書記録を中心とする記録史料を保存するアーカイブズや、それに携わる人たちなどで構成される団体。
日本のアーカイブズ業界における一番大きな団体組織と言ってよいと思う。
私はこれまで大会に参加したことはなかったが、友人に誘われたのと、自分自身も興味のあるテーマだったこともあり、参加をしてきた。
以下で感想を述べていきたいと思います。
なお、私は「非会員」という立場で参加していた数少ない人物だと思うので、関係者の人がなかなか言いづらいようなこともきちんと書いておきたいと思います。
もちろん、書いた内容は「個人的な感想」です。
1日目の研修会と記念講演については略します。
○ポスターセッションについて
今回から初めて導入されたとのこと。
あまり歴史の学会ではポスターセッションというのは行われないので、実は見たこと自体初めての体験だった。
この試みはなかなか良いと思う。
大会の講演自体がすべて主催者側の「企画」で成り立っているので、会員が主体的に参加できるセッションは重要だと思う。
大会において、会員が「お客様」にならないようにするためにも、この試みはもっと積極的に進めて良いと思う。
また、こういったセッションは、若手の顔やテーマの売り込みにもなるし、普段話せないような人からのコメントを受ける機会にもなる。
会全体で若手を育てていくためにも、こういった機会は必要不可欠だと思う。
個々のセッションについてのコメントはしないが、参考になるものが多かった。
なお、機関会員(各アーカイブズ)のポスターでは、「なにをポスターで訴えたかったの?」と首をひねらざるを得ないようなものが散見された。
自分の館の基本的な紹介だけをするのは、正直意味があまり無いように思う。大会自体、業界の中の人しかいないし。
個人会員の発表の方に、絶えず人だかりがあったことは、決して偶然ではない。
「何かを伝えたい」という思いの大きさが、その違いなのだと思う。
もちろん機関会員の中にも、テーマが明確であった所は盛況だったことも指摘しておきたい。
○資料保存ワークショップ
5団体による共同展示。
せっかくなので5団体の紹介。
元興寺文化財研究所
京都造形芸術大学日本庭園歴史遺産研究センター
国宝修理装潢師連盟
京都府立総合資料館歴史資料課
歴史資料ネットワーク
非常に興味深いワークショップだった。
どうしてもこういうワークショップがあると、「最新技術の展示会」みたいな感じになるという印象だったが、良い意味で裏切られた。
主催側に「できることからやっていこう」「保存修理の敷居を下げよう」という意図が明確に出ていたため、初心者にも非常に取っつきやすかったように思う。
個人的には、やはり歴史資料ネットワーク(史料ネット)の仕事が興味深かった。
史料ネットは私の所属している歴史学研究会との連携もあり、活動内容自体は知ってはいた。
しかし、その活動の一端を実際に見ることができて、色々と得心がいった。
史料ネットは阪神・淡路大震災の時に設立された。
活動内容は、簡単に述べると「災害時に破損した歴史資料(文化財)を緊急修復する」ということを目的としている。
詳しくは史料ネットのブログを見ていただくとわかるが、例えば昨年あった兵庫県佐用町での台風水害の際には、現地の民家などに所蔵されている泥まみれになった古文書などを救出した。
その救出の「やり方」というのが非常におもしろい。
あくまでも緊急処置だが、高価な機械をほとんど使わない。
キッチンペーパーと市販の消毒用エタノール、霧吹きや竹べらといったどこでも売ってそうなものばかり。
エタノールで消毒して、あとはひたすらキッチンペーパーで水分を吸い取っていくだけ。
これは、資料の多くが「和紙と墨」であるからできることのようだ。これらは濡れても文字が消えない。
なので、ざっくりとした言い方だが「水洗いできる」。
初めて作業の映像などを見たが、視覚的に見ると、活動がものすごくわかりやすい。
史料ネットは、今回配布したビラや映像を、どこかでまとめて見れるようにネット上に上げておいた方が良いのではないかと思う。
普段史料ネットは歴史系の学会に近いところで活動をしていることが多いように思うので、おそらくアーカイブズ関係者の人にとっても、その活動は興味深かったのではないだろうか。
個別報告については(中)以降で。
大会内容についてはこちらを↓
http://www.jsai.jp/taikai/kyoto/index.html
全史料協は、文書記録を中心とする記録史料を保存するアーカイブズや、それに携わる人たちなどで構成される団体。
日本のアーカイブズ業界における一番大きな団体組織と言ってよいと思う。
私はこれまで大会に参加したことはなかったが、友人に誘われたのと、自分自身も興味のあるテーマだったこともあり、参加をしてきた。
以下で感想を述べていきたいと思います。
なお、私は「非会員」という立場で参加していた数少ない人物だと思うので、関係者の人がなかなか言いづらいようなこともきちんと書いておきたいと思います。
もちろん、書いた内容は「個人的な感想」です。
1日目の研修会と記念講演については略します。
○ポスターセッションについて
今回から初めて導入されたとのこと。
あまり歴史の学会ではポスターセッションというのは行われないので、実は見たこと自体初めての体験だった。
この試みはなかなか良いと思う。
大会の講演自体がすべて主催者側の「企画」で成り立っているので、会員が主体的に参加できるセッションは重要だと思う。
大会において、会員が「お客様」にならないようにするためにも、この試みはもっと積極的に進めて良いと思う。
また、こういったセッションは、若手の顔やテーマの売り込みにもなるし、普段話せないような人からのコメントを受ける機会にもなる。
会全体で若手を育てていくためにも、こういった機会は必要不可欠だと思う。
個々のセッションについてのコメントはしないが、参考になるものが多かった。
なお、機関会員(各アーカイブズ)のポスターでは、「なにをポスターで訴えたかったの?」と首をひねらざるを得ないようなものが散見された。
自分の館の基本的な紹介だけをするのは、正直意味があまり無いように思う。大会自体、業界の中の人しかいないし。
個人会員の発表の方に、絶えず人だかりがあったことは、決して偶然ではない。
「何かを伝えたい」という思いの大きさが、その違いなのだと思う。
もちろん機関会員の中にも、テーマが明確であった所は盛況だったことも指摘しておきたい。
○資料保存ワークショップ
5団体による共同展示。
せっかくなので5団体の紹介。
元興寺文化財研究所
京都造形芸術大学日本庭園歴史遺産研究センター
国宝修理装潢師連盟
京都府立総合資料館歴史資料課
歴史資料ネットワーク
非常に興味深いワークショップだった。
どうしてもこういうワークショップがあると、「最新技術の展示会」みたいな感じになるという印象だったが、良い意味で裏切られた。
主催側に「できることからやっていこう」「保存修理の敷居を下げよう」という意図が明確に出ていたため、初心者にも非常に取っつきやすかったように思う。
個人的には、やはり歴史資料ネットワーク(史料ネット)の仕事が興味深かった。
史料ネットは私の所属している歴史学研究会との連携もあり、活動内容自体は知ってはいた。
しかし、その活動の一端を実際に見ることができて、色々と得心がいった。
史料ネットは阪神・淡路大震災の時に設立された。
活動内容は、簡単に述べると「災害時に破損した歴史資料(文化財)を緊急修復する」ということを目的としている。
詳しくは史料ネットのブログを見ていただくとわかるが、例えば昨年あった兵庫県佐用町での台風水害の際には、現地の民家などに所蔵されている泥まみれになった古文書などを救出した。
その救出の「やり方」というのが非常におもしろい。
あくまでも緊急処置だが、高価な機械をほとんど使わない。
キッチンペーパーと市販の消毒用エタノール、霧吹きや竹べらといったどこでも売ってそうなものばかり。
エタノールで消毒して、あとはひたすらキッチンペーパーで水分を吸い取っていくだけ。
これは、資料の多くが「和紙と墨」であるからできることのようだ。これらは濡れても文字が消えない。
なので、ざっくりとした言い方だが「水洗いできる」。
初めて作業の映像などを見たが、視覚的に見ると、活動がものすごくわかりやすい。
史料ネットは、今回配布したビラや映像を、どこかでまとめて見れるようにネット上に上げておいた方が良いのではないかと思う。
普段史料ネットは歴史系の学会に近いところで活動をしていることが多いように思うので、おそらくアーカイブズ関係者の人にとっても、その活動は興味深かったのではないだろうか。
個別報告については(中)以降で。
「10円収入印紙の壁」に共感する [情報公開・文書管理]
情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんが「10円収入印紙の壁」という話を書いていて、「おおおおっ、やっぱり同じこと考えている人がいたんだあ」と思って、思わず更新したくなった。
http://johokokai.exblog.jp/13711945/
詳しくは三木さんのブログを見ていただきたいとして、情報公開で請求した文書のコピーを送ってもらうときには、1920円とかいったような10円単位の収入印紙が必要になるんです。
その10円単位の収入印紙って、なかなか郵便局に置いてないんです。
たまたま私の場合、学校へ行く途中にある国分寺郵便局が売っているのでそこで何とかなっているのですが、最初の頃は窓口の人に「売ってないんですよ」「いや上の階(別の所に置いてある)にあるはずですから」っていうやりとりを何度もした記憶があります。最近では聞かれなくなったので、私が買いすぎて慣れてきたのかもとか思ってるぐらい。
ついでにもう一点付け加えておくと、情報公開の電子申請を行うと、請求にかかる費用が300円から200円に割引になるのですが、そのお金を払う方法が「収入印紙を郵送する」というやり方しかなくて、「何のための電子申請だよ!」ってツッコミたくなることこの上ないのです。
こういったものはネット上で手続きを全て完了できるようにシステムを組んでよと本当に思う。お金は振り込み制にするとか。
だから電子申請は使われずに事業仕分けの対象になったりするのさ・・・。
こういう細かい点で「イラッ」とくることが情報公開をやっているとちょくちょくあったりする。
もうちょっと制度設計する方は、利用者視点をもってほしいと切に思うのだ。
http://johokokai.exblog.jp/13711945/
詳しくは三木さんのブログを見ていただきたいとして、情報公開で請求した文書のコピーを送ってもらうときには、1920円とかいったような10円単位の収入印紙が必要になるんです。
その10円単位の収入印紙って、なかなか郵便局に置いてないんです。
たまたま私の場合、学校へ行く途中にある国分寺郵便局が売っているのでそこで何とかなっているのですが、最初の頃は窓口の人に「売ってないんですよ」「いや上の階(別の所に置いてある)にあるはずですから」っていうやりとりを何度もした記憶があります。最近では聞かれなくなったので、私が買いすぎて慣れてきたのかもとか思ってるぐらい。
ついでにもう一点付け加えておくと、情報公開の電子申請を行うと、請求にかかる費用が300円から200円に割引になるのですが、そのお金を払う方法が「収入印紙を郵送する」というやり方しかなくて、「何のための電子申請だよ!」ってツッコミたくなることこの上ないのです。
こういったものはネット上で手続きを全て完了できるようにシステムを組んでよと本当に思う。お金は振り込み制にするとか。
だから電子申請は使われずに事業仕分けの対象になったりするのさ・・・。
こういう細かい点で「イラッ」とくることが情報公開をやっているとちょくちょくあったりする。
もうちょっと制度設計する方は、利用者視点をもってほしいと切に思うのだ。
いろいろと情報を [情報公開・文書管理]
博論執筆専念中でなかなか更新とはいきません。しばらくは間隔が空くと思われます。
いくつか情報を。
1.日経新聞の松岡資明さんが公文書管理法の本を出すそうです。
松岡さんは公文書管理について日本で一番詳しい新聞記者だと思います。
公文書管理についての絶好の入門書になると思われます。
2.情報公開クリアリングハウスが「「開かれた政府」の実現を求める要望書」を提出。
http://homepage1.nifty.com/clearinghouse/opengovernment.pdf
公文書市民ネットでもご一緒させていただいた三木由希子さんがブログで色々と情報を発信されています。
外務省の外交記録公開制度の運用がどうなっているのかの話
http://johokokai.exblog.jp/13425727/
は、私もきちんとは知らなかったので非常に参考になりました。
要望書も全くもってその通りという感じです。
3.行政文書管理改善機構(ADMiC)が懸賞論文を募集中
http://www.npo-bunshokanri.jp/parts/ronbun%20bosyu%20youkou.pdf
「在るべき公文書等管理の姿とは-公文書管理法の公布を記念して-」という題で4月15日まで。
総務省、日経新聞が後援、富士ゼロックスが協賛。入選論文は冊子にして関係機関に配布するとのこと。
公文書管理についての意見を色々な人に伝えたいという方にはおすすめでは。
私は・・・。博論が・・・。でも何とか出してみたいとは思ってますが。
とりあえずはこんなところで。
追記
生年月日が二日しか違わない千代大海が「引退」したという報道を見て、ああこっちはまだ始まったばっかりだとか思って意外と心にダメージが・・・。
追記2
『日本史研究』に投稿していた論文がやっと採用決定。たまにこういうことがあると嬉しい。
いくつか情報を。
1.日経新聞の松岡資明さんが公文書管理法の本を出すそうです。
松岡さんは公文書管理について日本で一番詳しい新聞記者だと思います。
公文書管理についての絶好の入門書になると思われます。
2.情報公開クリアリングハウスが「「開かれた政府」の実現を求める要望書」を提出。
http://homepage1.nifty.com/clearinghouse/opengovernment.pdf
公文書市民ネットでもご一緒させていただいた三木由希子さんがブログで色々と情報を発信されています。
外務省の外交記録公開制度の運用がどうなっているのかの話
http://johokokai.exblog.jp/13425727/
は、私もきちんとは知らなかったので非常に参考になりました。
要望書も全くもってその通りという感じです。
3.行政文書管理改善機構(ADMiC)が懸賞論文を募集中
http://www.npo-bunshokanri.jp/parts/ronbun%20bosyu%20youkou.pdf
「在るべき公文書等管理の姿とは-公文書管理法の公布を記念して-」という題で4月15日まで。
総務省、日経新聞が後援、富士ゼロックスが協賛。入選論文は冊子にして関係機関に配布するとのこと。
公文書管理についての意見を色々な人に伝えたいという方にはおすすめでは。
私は・・・。博論が・・・。でも何とか出してみたいとは思ってますが。
とりあえずはこんなところで。
追記
生年月日が二日しか違わない千代大海が「引退」したという報道を見て、ああこっちはまだ始まったばっかりだとか思って意外と心にダメージが・・・。
追記2
『日本史研究』に投稿していた論文がやっと採用決定。たまにこういうことがあると嬉しい。
「アーカイブズ実務情報リンクバンク」について思う [情報公開・文書管理]
あけましておめでとうございます。
今年も本ブログをよろしく御願いします。
さて、新年1本目は、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)がウェブサイトで公開した「アーカイブズ実務情報リンクバンク」についてです。
先月に公開されたページで、「資料保存のマニュアル・手引き・ガイド」「公文書の評価・選別・移管・保存」「アーカイブズの構想・計画」という3つの項目に分けて、各公文書館へのリンクが張られている、いわゆるリンク集のたぐいである。
こういった情報の集積は重要なことだと思う。
ただ、正直言って、これだけしか各公文書館はネットに情報を発信していないのかという点を残念に思う。
前からずっと思っているのだが、アーカイブズ関係の人たちは、ネットでの情報発信を甘く見ていないだろうか?
デジタルアーカイブズに熱心なわりに、自分たちの公文書館自体の情報発信にあまりにも熱意の欠けるところが多いように思うのは私の気のせいなのだろうか。
公文書館によっては、利用規則や公開基準をネット上で公開していない所もある。
また、ページの更新がイベントがあるときだけで、自分から積極的にページの閲覧者を確保しようという意図が見られないところがほとんどであるように思う。
最低限、沖縄県公文書館がやっている「業務日誌」のようなブログの形で、自らの業務を積極的に紹介していくということが必要なのではないのか。
もちろん人員が不足していてそういった業務をしている時間がない等々の問題はあるだろう。
だが、自ら情報を発信して理解者を増やしていかなければジリ貧な状態は全く変わらない。
はっきりいってブログを作るのは、そんなに手間ではない。twitterのようなものも最近ではある。
やる気になれば何とでもやりようはあるのではないのか。
話を戻して「実務情報リンクバンク」に関して思うのは、「マニュアル」のリンクを作るだけでなく、アーカイブズ情報の集積を図るwikiのようなものを作ることはできないのだろうか。⇒参考:「大阪の公文書館問題を考えるwiki」
これは私の勝手な思いこみかもしれないが、各地のアーカイブズは、優秀なアーキビストの個人的な能力でもって何とか成り立っているところが多いように思う。
だが、その人達の知識はどこまでアーキビスト間で共有されているのか極めて疑問がある。
特に、「失敗の経験」をどこまで共有化できているのだろうか。
これは、マニュアルや論文のリンクを作ったところで解決し得ない問題である。
今後作られる(運営される)公文書館のために必要なのは、成功例のマニュアルだけではなく「何をしたらまずいのか」や「失敗したときのリカバリーのやり方」といったような他館の経験なのではないか。
全史料協のような大きな組織であれば、例えばコンピューターに詳しい図書館情報学の院生あたりを雇ってプラットフォームになるwikiの原型を作ってもらうことができるぐらいの資金力はあるのではないのか。
それに会員が書き込むことで充実させ、アーカイブズについて知りたいならここに来ればOKというようなものを作り上げてみたらどうだろうか。
新年初っ端から、暴言めいたことを吐いてみました。素人考えですが、何かご参考になれば。。。
今年もこんな感じで更新を続けてまいります。よろしく御願いいたします。
今年も本ブログをよろしく御願いします。
さて、新年1本目は、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)がウェブサイトで公開した「アーカイブズ実務情報リンクバンク」についてです。
先月に公開されたページで、「資料保存のマニュアル・手引き・ガイド」「公文書の評価・選別・移管・保存」「アーカイブズの構想・計画」という3つの項目に分けて、各公文書館へのリンクが張られている、いわゆるリンク集のたぐいである。
こういった情報の集積は重要なことだと思う。
ただ、正直言って、これだけしか各公文書館はネットに情報を発信していないのかという点を残念に思う。
前からずっと思っているのだが、アーカイブズ関係の人たちは、ネットでの情報発信を甘く見ていないだろうか?
デジタルアーカイブズに熱心なわりに、自分たちの公文書館自体の情報発信にあまりにも熱意の欠けるところが多いように思うのは私の気のせいなのだろうか。
公文書館によっては、利用規則や公開基準をネット上で公開していない所もある。
また、ページの更新がイベントがあるときだけで、自分から積極的にページの閲覧者を確保しようという意図が見られないところがほとんどであるように思う。
最低限、沖縄県公文書館がやっている「業務日誌」のようなブログの形で、自らの業務を積極的に紹介していくということが必要なのではないのか。
もちろん人員が不足していてそういった業務をしている時間がない等々の問題はあるだろう。
だが、自ら情報を発信して理解者を増やしていかなければジリ貧な状態は全く変わらない。
はっきりいってブログを作るのは、そんなに手間ではない。twitterのようなものも最近ではある。
やる気になれば何とでもやりようはあるのではないのか。
話を戻して「実務情報リンクバンク」に関して思うのは、「マニュアル」のリンクを作るだけでなく、アーカイブズ情報の集積を図るwikiのようなものを作ることはできないのだろうか。⇒参考:「大阪の公文書館問題を考えるwiki」
これは私の勝手な思いこみかもしれないが、各地のアーカイブズは、優秀なアーキビストの個人的な能力でもって何とか成り立っているところが多いように思う。
だが、その人達の知識はどこまでアーキビスト間で共有されているのか極めて疑問がある。
特に、「失敗の経験」をどこまで共有化できているのだろうか。
これは、マニュアルや論文のリンクを作ったところで解決し得ない問題である。
今後作られる(運営される)公文書館のために必要なのは、成功例のマニュアルだけではなく「何をしたらまずいのか」や「失敗したときのリカバリーのやり方」といったような他館の経験なのではないか。
全史料協のような大きな組織であれば、例えばコンピューターに詳しい図書館情報学の院生あたりを雇ってプラットフォームになるwikiの原型を作ってもらうことができるぐらいの資金力はあるのではないのか。
それに会員が書き込むことで充実させ、アーカイブズについて知りたいならここに来ればOKというようなものを作り上げてみたらどうだろうか。
新年初っ端から、暴言めいたことを吐いてみました。素人考えですが、何かご参考になれば。。。
今年もこんな感じで更新を続けてまいります。よろしく御願いいたします。
核密約文書の発見について思う [情報公開・文書管理]
本日の毎日新聞の記事。引用します。
核密約文書 佐藤元首相の遺族が保管 日米首脳署名
12月23日2時11分配信 毎日新聞
沖縄返還(1972年)の交渉過程で、当時の佐藤栄作首相とニクソン米大統領が69年11月に署名した、沖縄への有事の際の核持ち込みを認める密約文書を、佐藤氏の遺族が保管していたことが22日、明らかになった。草案などで密約の内容はすでに分かっていたが、両首脳の署名がある実物の存在が明らかになったのは初めて。
(中略)
この密約は現在、岡田克也外相が進めている密約調査でも対象になっており、調査では「外務省には保管されていない」という結論になっている。密約をめぐるやりとりは外務当局とは別に若泉氏の「密使」ルートで行われたため、外務省には保存されていないとみられる。しかし、両首脳の署名が残っており、米側は有効な公文書と見なしている可能性が高い。
佐藤氏の次男の佐藤信二元通産相によると、元首相から引き継ぎなどはなく、75年の元首相の死去後に、元首相が使用していた書斎机を整理した際に見つかった。机は首相在任時に首相公邸で使っていて、その後、東京・代沢の自宅に運ばれたもので、元首相が文書を保管してそのままになっていたとみられる。
佐藤元通産相によると、文書を発見した際に、密約が結ばれた69年当時駐米大使だった下田武三氏(故人)ら複数の外務省OBに「(外務省の)外交史料館で保管したい」と相談したが「公文書ではなく、私文書にあたる」と指摘されたという。佐藤元通産相は「資料として保管してほしいと思ったが、二元外交を否定しているのだと感じた」と話している。【中澤雄大】
(引用終)
この話を聞くにつれ思うのは、「首相在任時に作られた文書を公文書として保管し、国の責任できちんと公開するべきだ」ということだ。
日本の首相に関する文書は、実は内閣官房といった官僚組織を通したものしか「公文書」として認定されていない。→この点については以前書いた記事を参照。
首相秘書官は、普通は本人の政策秘書がそのまま横滑りすることが多い。
現在、議員が自分で作成した文書は、たとえ議員立法に関するものであったとしてもすべて「私文書」として扱われている。
そのため、首相秘書官になっても意識が変わらないので、、たとえば首相のスケジュールとか私的ブレーンに会った記録とかいったものは、首相を退任したときに、次に引き継ぐもの以外は自分の所に持って帰ってしまう(もしくは廃棄)。
また、そもそもとして、それを公文書と認定して保管したり、国立公文書館へ移管するといった制度自体が存在していない。
今回の密約文書を佐藤栄作首相が持って帰っていたのは、官僚組織を通さないで作成された文書であったことと、そして佐藤がおそらく次の首相に引き継ぎたくないと判断して持って帰ってしまったということなんだろう。
少なくとも、今回の文書は、写真を記事で見たが、左上に「TOP SECRET」(極秘)と書いてあるし、文書形式も私信とは明らかに言えないものである。
それでも、これは「私文書」になってしまう。
たとえば今、鳩山首相が普天間問題を巡って、同じような密約をこっそり作ってしまった場合、佐藤と同じようなことが起きうる。つまり、密約を勝手に結んで、その文書を自分の家に持って帰ってしまうということだ。
これは、国民に対する説明責任の放棄である。
またそもそも「公文書」と認定するか否かに恣意的な判断が加わることになり(外交史料館に寄贈しようとして拒否されたように)、歴史の改ざんにつながることになる。
アメリカの大統領が在任中に作成した文書は、たとえ電子メールであっても全て公文書として見なされて保管され、数十年後には公開されるような仕組みができあがっている。
日本でも首相在任時代に行った施策に関する文書は、全て「公文書」として保管して、いずれ時間がたったら公開する仕組みを作らなければならない。
そうしなければ、同じことは何度でも繰り返されるだろう。
ただ、佐藤栄作は、この文書を死ぬ前に捨てることができたのにしなかった。
彼もまた、この文書については、いずれは歴史的な検証を受けなければならないという覚悟はあったのではないかと思う。
そういう思いを持つ首相経験者は少なからずいるのではないか。
こういった人たちの文書を、是非とも保存公開できるような仕組みができることを望みたい。
核密約文書 佐藤元首相の遺族が保管 日米首脳署名
12月23日2時11分配信 毎日新聞
沖縄返還(1972年)の交渉過程で、当時の佐藤栄作首相とニクソン米大統領が69年11月に署名した、沖縄への有事の際の核持ち込みを認める密約文書を、佐藤氏の遺族が保管していたことが22日、明らかになった。草案などで密約の内容はすでに分かっていたが、両首脳の署名がある実物の存在が明らかになったのは初めて。
(中略)
この密約は現在、岡田克也外相が進めている密約調査でも対象になっており、調査では「外務省には保管されていない」という結論になっている。密約をめぐるやりとりは外務当局とは別に若泉氏の「密使」ルートで行われたため、外務省には保存されていないとみられる。しかし、両首脳の署名が残っており、米側は有効な公文書と見なしている可能性が高い。
佐藤氏の次男の佐藤信二元通産相によると、元首相から引き継ぎなどはなく、75年の元首相の死去後に、元首相が使用していた書斎机を整理した際に見つかった。机は首相在任時に首相公邸で使っていて、その後、東京・代沢の自宅に運ばれたもので、元首相が文書を保管してそのままになっていたとみられる。
佐藤元通産相によると、文書を発見した際に、密約が結ばれた69年当時駐米大使だった下田武三氏(故人)ら複数の外務省OBに「(外務省の)外交史料館で保管したい」と相談したが「公文書ではなく、私文書にあたる」と指摘されたという。佐藤元通産相は「資料として保管してほしいと思ったが、二元外交を否定しているのだと感じた」と話している。【中澤雄大】
(引用終)
この話を聞くにつれ思うのは、「首相在任時に作られた文書を公文書として保管し、国の責任できちんと公開するべきだ」ということだ。
日本の首相に関する文書は、実は内閣官房といった官僚組織を通したものしか「公文書」として認定されていない。→この点については以前書いた記事を参照。
首相秘書官は、普通は本人の政策秘書がそのまま横滑りすることが多い。
現在、議員が自分で作成した文書は、たとえ議員立法に関するものであったとしてもすべて「私文書」として扱われている。
そのため、首相秘書官になっても意識が変わらないので、、たとえば首相のスケジュールとか私的ブレーンに会った記録とかいったものは、首相を退任したときに、次に引き継ぐもの以外は自分の所に持って帰ってしまう(もしくは廃棄)。
また、そもそもとして、それを公文書と認定して保管したり、国立公文書館へ移管するといった制度自体が存在していない。
今回の密約文書を佐藤栄作首相が持って帰っていたのは、官僚組織を通さないで作成された文書であったことと、そして佐藤がおそらく次の首相に引き継ぎたくないと判断して持って帰ってしまったということなんだろう。
少なくとも、今回の文書は、写真を記事で見たが、左上に「TOP SECRET」(極秘)と書いてあるし、文書形式も私信とは明らかに言えないものである。
それでも、これは「私文書」になってしまう。
たとえば今、鳩山首相が普天間問題を巡って、同じような密約をこっそり作ってしまった場合、佐藤と同じようなことが起きうる。つまり、密約を勝手に結んで、その文書を自分の家に持って帰ってしまうということだ。
これは、国民に対する説明責任の放棄である。
またそもそも「公文書」と認定するか否かに恣意的な判断が加わることになり(外交史料館に寄贈しようとして拒否されたように)、歴史の改ざんにつながることになる。
アメリカの大統領が在任中に作成した文書は、たとえ電子メールであっても全て公文書として見なされて保管され、数十年後には公開されるような仕組みができあがっている。
日本でも首相在任時代に行った施策に関する文書は、全て「公文書」として保管して、いずれ時間がたったら公開する仕組みを作らなければならない。
そうしなければ、同じことは何度でも繰り返されるだろう。
ただ、佐藤栄作は、この文書を死ぬ前に捨てることができたのにしなかった。
彼もまた、この文書については、いずれは歴史的な検証を受けなければならないという覚悟はあったのではないかと思う。
そういう思いを持つ首相経験者は少なからずいるのではないか。
こういった人たちの文書を、是非とも保存公開できるような仕組みができることを望みたい。
大阪府公文書館の困難なる状況 [情報公開・文書管理]
先日、小奈辺古墳に行く前に、大阪府公文書館に資料を探しに行っていた。
1日ずっと資料を見たりコピーしたりしていたのだが、どうも対応などで色々と引っかかることがでてくる。
それを書くと問題になりそうなのでとりあえず書かないが、気になったので関係者に状況を聞いてみた。
どうやら、大阪府公文書館は縮小再編される方向で動いているらしいというのだ。
今のところの動きとしてあるのは、公文書館にある参考図書類を手放し、府立図書館に移管(移管されないものは破棄)するということだ。
しかも、その参考図書には大阪府内の市史なども含まれている。
どうも、話を聞くかぎりでは、公文書館理念をきちんと理解していない館長などが進めている政策の一環のようである。
いずれは、保存している公文書をスペースの関係で破棄するという可能性まであるとのこと。
橋下行革の一環みたいだが、情報公開を標榜している知事の下で、なんでそういうことをしているのかと思わざるを得ない。
まだ私もよくわかっていないことが多いので、具体的にどうかということは書きません。
下記のwikiを参考にしてください。
大阪の公文書館問題を考える
http://wiki.livedoor.jp/archives_osk/d/%a5%c8%a5%c3%a5%d7%a5%da%a1%bc%a5%b8
大阪府公文書館自体が、自らの首を絞めるのに手を貸している状況という極めておかしなことになっています。
公文書管理法という追い風があるにもかかわらず、自ら帆を畳んで沈んでいくというのはどういうことだと危惧を感じざるをえないので、紹介させてもらいました。
1日ずっと資料を見たりコピーしたりしていたのだが、どうも対応などで色々と引っかかることがでてくる。
それを書くと問題になりそうなのでとりあえず書かないが、気になったので関係者に状況を聞いてみた。
どうやら、大阪府公文書館は縮小再編される方向で動いているらしいというのだ。
今のところの動きとしてあるのは、公文書館にある参考図書類を手放し、府立図書館に移管(移管されないものは破棄)するということだ。
しかも、その参考図書には大阪府内の市史なども含まれている。
どうも、話を聞くかぎりでは、公文書館理念をきちんと理解していない館長などが進めている政策の一環のようである。
いずれは、保存している公文書をスペースの関係で破棄するという可能性まであるとのこと。
橋下行革の一環みたいだが、情報公開を標榜している知事の下で、なんでそういうことをしているのかと思わざるを得ない。
まだ私もよくわかっていないことが多いので、具体的にどうかということは書きません。
下記のwikiを参考にしてください。
大阪の公文書館問題を考える
http://wiki.livedoor.jp/archives_osk/d/%a5%c8%a5%c3%a5%d7%a5%da%a1%bc%a5%b8
大阪府公文書館自体が、自らの首を絞めるのに手を貸している状況という極めておかしなことになっています。
公文書管理法という追い風があるにもかかわらず、自ら帆を畳んで沈んでいくというのはどういうことだと危惧を感じざるをえないので、紹介させてもらいました。
レコードマネージャーとはなにか [情報公開・文書管理]
ARMA東京支部が主催した「公文書管理法:運用面での課題と方策」というシンポに行ってきた。
講演者はマイケル・L・ミラー氏(ロッキードマーチン社コンサルタント)。元アメリカ国立公文書館のディレクターとして連邦政府全体の記録管理プログラムの監督・試演に携わるなど、アメリカの公文書の記録管理の現場に精通した方とのことである。
今回の講演は、私が良く聞きに行っている「アーカイブズ」の問題と言うよりも、実際に現場で公文書をどのように作成・保存するかといった点に焦点を当てられていたものである。
私としては、公文書管理法が機能するには、結局現場でどう公文書がきちんと作成されるかというところにかかっていると思っているので、興味深く聞かせてもらった。
内容は多岐にわたるので簡単に紹介できないが、気になるところを。
まず、米国国立公文書館記録管理局(NARA)は、基本的にはアーカイブズの方を中心とした組織であり、現用記録をどう作らせるかと行ったレコードマネジメント(記録管理)の部分については、実は人員も予算も権限も不足をしているということである。
そして、あくまでも、NARAは「支援者」であり「監査人」ではない。記録管理は各省庁の責任で行われるもので、NARAは大まかな基準作成や教育支援などは行うが、それ以上はできないという。
またNARAは議会に各省庁の記録管理の状況を報告(改善の勧告?)することができるが、それもほとんど行われていないらしい。
そのため、各省庁で文書管理を行うレコードマネージャーの資質によって、記録管理のレベルが変わってくるという、人的な問題におおきなウェイトがかかってしまっているという。
よって、レコードマネージャーをどう育てるかがカギになる。そして、その働きを担保するような支持者をどこまで各省庁内に作り、記録管理自体の仕事の重要性を認識させることができるかということも必要なのだという。
しかし、職員が約2500人いるNARAなのに、人員も予算も足りていないとは・・・。
日本の42人(+内閣府10人)で一体どうせいというのだ。やはり大量の予算を早急に投入してもらわないと、公文書管理法の実効性は極めて厳しいものになるなと改めて感じた。
なおこういうことを書くと、「なんだアメリカでもひどいではないか」というように取れるかもしれないが、あくまでもこういうところもあるというレベルの話で、基本的にはきちんとシステムは機能しているようだ。
そして、不断の見直しや、監視システムによって、常に改善が図られるような仕組みは担保されているとのこと。
おそらく、日本で最善のシステムが作られるために、アメリカで問題になっていることを積極的に話したという事なのだと思う。
ミラー氏がなんども繰り返していたが、アメリカで公文書管理法は約50年前にできたが、今でも不断の見直しを行って実効性を高める努力が続けられており、日本でも根気よくこの問題に取り組んでいくことが必要だということである。
この講演はARMA東京支部の季刊誌(Records & information management journal)に載るそうだが、面白かったので、後半部分「米国国立公文書館と各省庁における記録管理の主要な課題」のパワーポイントで表示されていたデータを下に打ちこんでおきます。
非常によくまとまった報告だったので、それだけで内容がわかると思います。私がぐだぐだ書くよりも、その方が意味がありそうです。(一応、全体の内容の半分以下ってことで、主催関係の方はどうか御容赦の程を。)
タイトルを太字にしてあります。
「米国国立公文書館と各省庁における記録管理の主要な課題」
記録と記録管理の重要性を伝えること
○次のような情報源について、市民に記録の価値を伝えなければならない
・家族の歴史
・政府の説明責任を維持する
・透明性
○典型的な連邦政府職員の考え方
・私は記録なんて持っていない
・記録管理は私の仕事ではない
・文書はサインされた場合にのみ記録となる
・電子メールは記録ではない
○正しいメッセージを見出すこと
われわれが伝えたいこと
○ISO15489は多くの記録管理の利点を挙げている
○あなたの組織とあなたの歴史的記録
○良い記録管理はあなたの仕事をし易くする
○良い記録管理は組織に恩恵をもたらす
○最終的な文書だけが記録ではない(ドラフトも含む)
○正しい記録を作成することが重要である
○記録管理は余分なものではない
○記録管理を、仕事を行う際の重要な部分にしなければならない
伝えることは仕事である
○コミュニケーションは不断の仕事でなければならない
○伝える内容は一貫性がなければならない
○スタッフ教育
○コミュニケーション・ツール
・パンフレット、ポスター、ウェブサイト等はすべて良いが時間と財源が要る。
・ブログ、ウィッキ、ニュースレター、教育、eメールアラート
○相手の居場所へ近づく
電子記録への対応
○最も大きな問題は、職員が電子文書を組織に属する記録と考えていないことだ。それゆえ、彼らには記録管理ルールに従って電子文書を管理する理由が見当たらないのである。
○多くの米国の記録管理の考え方は、記録が電子的に作成され利用されているにも拘わらず、依然としてペーパーベースである。
○記録管理の能力を新しいシステムへ組みこむことが不可欠である。
エンドユーザーの役割
○殆どの記録を作成し、管理している
○但し、それらを記録として考えていない
○彼ら自身の利益のために記録を管理する
○要求事項に合せ電子文書を管理することに多くの時間と努力を費やしていない
○記録を管理する使いやすいソフトウェアが見つからない
保存
○電子記録の長期保存は必要だが、簡単ではない
○保存の問題は、記録が5-7年以上維持される必要が生じた時から始まる
○真正性、信頼性、完全性、利用性を維持するには管理と投資が必要になる
○各省庁と国立公文書館では違ったアプローチが必要
保存に対するアプローチ
○マイグレーション―文書をあるソフトウェアのプラットホームから別のものに移行することで、文書に対する何らかの質の低下と(または)変化を伴う。
○エミュレーション―新型コンピュータに旧型の働きをさせること。古い文書を、それが作成された同タイプのプラットフォーム上で走らせる。
○デジタルの対象を、検索・利用のために必要なメタデータを添付し、ハード、ソフトから独立した対象として作成する。
○完璧なソリューションはない―"許容できるもの"があるに過ぎない
電子メールを管理する
○電子メールは当初、別な形の紙記録と見られていた
○紙のように扱われた―うまく行かなかったが
○新しいアプローチ
・"大きなバケツ"的記録のスケジュール
・使われるままに電子メールを扱う―主題ではなくユーザーによる取り扱う
○どのようなソリューションも自動的な形で実行可能なものでなければならない
ライフサイクル管理
○伝統的にNARAは記録の作成よりも処分に重点を置いてきた
○レコードマネジャーを記録作成のプロセスに関与させることは困難である
○記録と記録維持管理が変化するため、不断の更新をしなければならない
要求事項の精度
○高次元の目標と具体的な実践の要求事項のバランスを取る
○NARAは伝統的に、記録の管理、保存、処分については非常に具体的な要求事項を掲げてきた
○NARAの規則と指導は、他の分野においては高次元のレベルだった
○今では柔軟性があり過ぎるか?
○最低限の要求事項が必要
歴史的な記録の移管
○定期的な移管を保証する記録スケジュールを持つ必要がある
○記録のスケジュールは移管の問題を確実に進める方法を提供する
○記録の質の変化を見守る
○NARAは30年以上経過の記録を引き取る権限を有する
・これに従わない省庁もある
・提携アーカイブズは一つの成り行き
記録管理の資金作り
○財源のない権限―記録管理を行わなければならないが財源がない
○誰もが重要だと思っていない
○レコードマネジャーへの影響
・資格認定の受験が魅力ないものに
・パートタイムの仕事に
・不人気な仕事に―高い転職率
・空いた地位を埋める最低限の基準がない
・職務内容の概要を記す標準的な職務記述書がない
規則の運用
○NARAの限られたスタッフ
・25-50人のスタッフ
・300以上の連邦政府機関
○NARAは行政管理予算局(OMB)と連携しなければならない―政治的な被任命者
○NARAは伝統的に、監査人ではなく支援者として働いてきた
○NARAは各省庁のことを議会に報告できるが、殆どしたことはない
○評価されなくても、それは問題ではない
いくつかの間違い
○記録の定義に集中
○もっぱら歴史的記録に焦点を置く
○レコードマネジャーの基準がない
○記録管理プログラムの評価にあまり重点を置かない
○機関に価値を付与するよりも、規則の遵守にこだわりすぎた
○紙記録と電子記録の違いを認識するのが遅い
成功したこと
○記録は国民のもの
○多くの歴史的に重要な記録を保存できた
○記録管理は価値を付与しなければならない
○電子記録についてのリーダーシップ
○国際的な協力
○政府への統合
まとめ
○たった18ヶ月で記録管理プログラムを適切に整備することは大きな挑戦である
○それには集中的な努力が必要となる。あなた方はそれだけ真剣か?
○直ちに記録管理のスタッフを決定し、教育を始める必要がある
○記録管理ポリシー、保存期間、ファイリングシステム等を開発する際に利用するテンプレートを作成する
講演者はマイケル・L・ミラー氏(ロッキードマーチン社コンサルタント)。元アメリカ国立公文書館のディレクターとして連邦政府全体の記録管理プログラムの監督・試演に携わるなど、アメリカの公文書の記録管理の現場に精通した方とのことである。
今回の講演は、私が良く聞きに行っている「アーカイブズ」の問題と言うよりも、実際に現場で公文書をどのように作成・保存するかといった点に焦点を当てられていたものである。
私としては、公文書管理法が機能するには、結局現場でどう公文書がきちんと作成されるかというところにかかっていると思っているので、興味深く聞かせてもらった。
内容は多岐にわたるので簡単に紹介できないが、気になるところを。
まず、米国国立公文書館記録管理局(NARA)は、基本的にはアーカイブズの方を中心とした組織であり、現用記録をどう作らせるかと行ったレコードマネジメント(記録管理)の部分については、実は人員も予算も権限も不足をしているということである。
そして、あくまでも、NARAは「支援者」であり「監査人」ではない。記録管理は各省庁の責任で行われるもので、NARAは大まかな基準作成や教育支援などは行うが、それ以上はできないという。
またNARAは議会に各省庁の記録管理の状況を報告(改善の勧告?)することができるが、それもほとんど行われていないらしい。
そのため、各省庁で文書管理を行うレコードマネージャーの資質によって、記録管理のレベルが変わってくるという、人的な問題におおきなウェイトがかかってしまっているという。
よって、レコードマネージャーをどう育てるかがカギになる。そして、その働きを担保するような支持者をどこまで各省庁内に作り、記録管理自体の仕事の重要性を認識させることができるかということも必要なのだという。
しかし、職員が約2500人いるNARAなのに、人員も予算も足りていないとは・・・。
日本の42人(+内閣府10人)で一体どうせいというのだ。やはり大量の予算を早急に投入してもらわないと、公文書管理法の実効性は極めて厳しいものになるなと改めて感じた。
なおこういうことを書くと、「なんだアメリカでもひどいではないか」というように取れるかもしれないが、あくまでもこういうところもあるというレベルの話で、基本的にはきちんとシステムは機能しているようだ。
そして、不断の見直しや、監視システムによって、常に改善が図られるような仕組みは担保されているとのこと。
おそらく、日本で最善のシステムが作られるために、アメリカで問題になっていることを積極的に話したという事なのだと思う。
ミラー氏がなんども繰り返していたが、アメリカで公文書管理法は約50年前にできたが、今でも不断の見直しを行って実効性を高める努力が続けられており、日本でも根気よくこの問題に取り組んでいくことが必要だということである。
この講演はARMA東京支部の季刊誌(Records & information management journal)に載るそうだが、面白かったので、後半部分「米国国立公文書館と各省庁における記録管理の主要な課題」のパワーポイントで表示されていたデータを下に打ちこんでおきます。
非常によくまとまった報告だったので、それだけで内容がわかると思います。私がぐだぐだ書くよりも、その方が意味がありそうです。(一応、全体の内容の半分以下ってことで、主催関係の方はどうか御容赦の程を。)
タイトルを太字にしてあります。
「米国国立公文書館と各省庁における記録管理の主要な課題」
記録と記録管理の重要性を伝えること
○次のような情報源について、市民に記録の価値を伝えなければならない
・家族の歴史
・政府の説明責任を維持する
・透明性
○典型的な連邦政府職員の考え方
・私は記録なんて持っていない
・記録管理は私の仕事ではない
・文書はサインされた場合にのみ記録となる
・電子メールは記録ではない
○正しいメッセージを見出すこと
われわれが伝えたいこと
○ISO15489は多くの記録管理の利点を挙げている
○あなたの組織とあなたの歴史的記録
○良い記録管理はあなたの仕事をし易くする
○良い記録管理は組織に恩恵をもたらす
○最終的な文書だけが記録ではない(ドラフトも含む)
○正しい記録を作成することが重要である
○記録管理は余分なものではない
○記録管理を、仕事を行う際の重要な部分にしなければならない
伝えることは仕事である
○コミュニケーションは不断の仕事でなければならない
○伝える内容は一貫性がなければならない
○スタッフ教育
○コミュニケーション・ツール
・パンフレット、ポスター、ウェブサイト等はすべて良いが時間と財源が要る。
・ブログ、ウィッキ、ニュースレター、教育、eメールアラート
○相手の居場所へ近づく
電子記録への対応
○最も大きな問題は、職員が電子文書を組織に属する記録と考えていないことだ。それゆえ、彼らには記録管理ルールに従って電子文書を管理する理由が見当たらないのである。
○多くの米国の記録管理の考え方は、記録が電子的に作成され利用されているにも拘わらず、依然としてペーパーベースである。
○記録管理の能力を新しいシステムへ組みこむことが不可欠である。
エンドユーザーの役割
○殆どの記録を作成し、管理している
○但し、それらを記録として考えていない
○彼ら自身の利益のために記録を管理する
○要求事項に合せ電子文書を管理することに多くの時間と努力を費やしていない
○記録を管理する使いやすいソフトウェアが見つからない
保存
○電子記録の長期保存は必要だが、簡単ではない
○保存の問題は、記録が5-7年以上維持される必要が生じた時から始まる
○真正性、信頼性、完全性、利用性を維持するには管理と投資が必要になる
○各省庁と国立公文書館では違ったアプローチが必要
保存に対するアプローチ
○マイグレーション―文書をあるソフトウェアのプラットホームから別のものに移行することで、文書に対する何らかの質の低下と(または)変化を伴う。
○エミュレーション―新型コンピュータに旧型の働きをさせること。古い文書を、それが作成された同タイプのプラットフォーム上で走らせる。
○デジタルの対象を、検索・利用のために必要なメタデータを添付し、ハード、ソフトから独立した対象として作成する。
○完璧なソリューションはない―"許容できるもの"があるに過ぎない
電子メールを管理する
○電子メールは当初、別な形の紙記録と見られていた
○紙のように扱われた―うまく行かなかったが
○新しいアプローチ
・"大きなバケツ"的記録のスケジュール
・使われるままに電子メールを扱う―主題ではなくユーザーによる取り扱う
○どのようなソリューションも自動的な形で実行可能なものでなければならない
ライフサイクル管理
○伝統的にNARAは記録の作成よりも処分に重点を置いてきた
○レコードマネジャーを記録作成のプロセスに関与させることは困難である
○記録と記録維持管理が変化するため、不断の更新をしなければならない
要求事項の精度
○高次元の目標と具体的な実践の要求事項のバランスを取る
○NARAは伝統的に、記録の管理、保存、処分については非常に具体的な要求事項を掲げてきた
○NARAの規則と指導は、他の分野においては高次元のレベルだった
○今では柔軟性があり過ぎるか?
○最低限の要求事項が必要
歴史的な記録の移管
○定期的な移管を保証する記録スケジュールを持つ必要がある
○記録のスケジュールは移管の問題を確実に進める方法を提供する
○記録の質の変化を見守る
○NARAは30年以上経過の記録を引き取る権限を有する
・これに従わない省庁もある
・提携アーカイブズは一つの成り行き
記録管理の資金作り
○財源のない権限―記録管理を行わなければならないが財源がない
○誰もが重要だと思っていない
○レコードマネジャーへの影響
・資格認定の受験が魅力ないものに
・パートタイムの仕事に
・不人気な仕事に―高い転職率
・空いた地位を埋める最低限の基準がない
・職務内容の概要を記す標準的な職務記述書がない
規則の運用
○NARAの限られたスタッフ
・25-50人のスタッフ
・300以上の連邦政府機関
○NARAは行政管理予算局(OMB)と連携しなければならない―政治的な被任命者
○NARAは伝統的に、監査人ではなく支援者として働いてきた
○NARAは各省庁のことを議会に報告できるが、殆どしたことはない
○評価されなくても、それは問題ではない
いくつかの間違い
○記録の定義に集中
○もっぱら歴史的記録に焦点を置く
○レコードマネジャーの基準がない
○記録管理プログラムの評価にあまり重点を置かない
○機関に価値を付与するよりも、規則の遵守にこだわりすぎた
○紙記録と電子記録の違いを認識するのが遅い
成功したこと
○記録は国民のもの
○多くの歴史的に重要な記録を保存できた
○記録管理は価値を付与しなければならない
○電子記録についてのリーダーシップ
○国際的な協力
○政府への統合
まとめ
○たった18ヶ月で記録管理プログラムを適切に整備することは大きな挑戦である
○それには集中的な努力が必要となる。あなた方はそれだけ真剣か?
○直ちに記録管理のスタッフを決定し、教育を始める必要がある
○記録管理ポリシー、保存期間、ファイリングシステム等を開発する際に利用するテンプレートを作成する