情報監視審査会(特定秘密保護法)の審査報告書について [2016年公文書管理問題]
2016年3月30日、特定秘密保護法運用の監視を行う国会の情報監視審査会が、今年度の報告書を提出しました。
衆議院情報監視審査会報告書http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/jyouhoukanshihoukokusyo.htm
参議院情報監視審査会報告書
http://www.sangiin.go.jp/japanese/ugoki/h28/160330.html
概要の紹介と簡単なコメントをしておきます。
報告書を比較します。
衆議院は各行政機関からのヒヤリング結果をかなり詳細に資料として付けています。
内容はどういった情報を特定秘密に指定しているのか(いないのか)という運用の概略について、ひたすらに情報収集を行っているという印象です。
また、どうやってこの審査会を機能させるのかという制度論の部分の議論も多いです。それに関連して、政府に対して「意見」を6項目付けています。
参議院は資料があまり充実しておらず、意見も特に付けていません。
野党が開催を要求できる人数を満たしている(3分の1以上)ため、衆議院の倍近く開催し、特定秘密を実際に提出させて議論するなど、衆議院より特定秘密の「内容」に関わる問題を議論していました。
なので議論の内容自体は面白いです。
衆議院が付けているような具体的なヒヤリングの結果を、参議院の報告書にも載せてほしかったというのが率直なところです。
報告書を読んでの感想ですが、所属した議員は頑張って職務に取り組んでいたとは言えると思います。
秘密保護法や安保法の反対運動のプレッシャーなどもあったでしょうが、自分達がきちんとこの審査会を軌道に乗せなければならないという意識は強くあったのではないでしょうか。
ただ、官僚からきちんと資料が出てこないことが多かったようです。
衆議院の報告書に次のような部分があります(12頁)。
情報監視審査会において、特定秘密そのものではない事項についても、政府は「答弁を差し控える」旨の答弁をすることが多かった。情報が開示されないと審査会の任務である特定秘密の指定が適正かどうかの調査ができないとの発言が委員からなされているところである。
〔中略〕
額賀福志郎会長から、審査会は特定秘密に関する国民と行政との接点にあるとの観点から、国益と国民の利益をよく勘案し、より良い方向性を作っていけるように関係者が努力する必要がある旨の指摘が幾度もされているところである。
与党自民党の委員長が「幾度も」指摘をしているというところから見てもわかるように、漏洩に対する罰則まで用意している審査会においてすら、答弁を拒否されたり、情報が出てこなかったりしたことが多かったのでしょう。
与党が圧倒的多数の衆議院の側が、「意見」をつけて文句を言いたくなるのだから、よほどのことだと思います。
衆議院側が出した意見は6つあります。
(1)特定秘密の内容を示す名称(特定秘密指定管理簿の「指定に係る特定秘密の概要」及び特定秘密指定書の「対象情報」の記載)は、特定秘密として取り扱われる文書等の範囲が限定され、かつ、具体的にどのような内容の文書が含まれているかがある程度想起されるような記述となるように、政府として総点検を行い、早急に改めること。
その上で、各行政機関が特定秘密の内容を示す名称の付け方に関し、各行政機関の間でばらつきが出ないよう、横断的な事項について政府としてある程度統一した方針を策定し、公表すること。
特定秘密の「名称」や「概要」があまりに曖昧すぎて、「審査することは極めて困難であり、不適切」(報告書10頁)な状況であるとのこと。
内容がある程度わかるように具体的に書けということです。
行政文書のファイル管理簿ですら、文書名の曖昧さ(検索して特定されないように、わざと曖昧な名称にする)は問題になっており、特定秘密でも同様の問題が起きているということでしょう。
(2)特定秘密を保有する行政機関の長は、指定された特定秘密ごとに特定秘密が記録された文書等の名称の一覧(特定秘密文書等管理簿)を、特定秘密ごとの文書等の件数とともに当審査会に提出すること。文書等の名称からその内容が推察しにくい場合は、文書等の内容を示す名称をもって説明すること。
内閣府独立公文書管理監は、特定秘密文書等管理簿を提出させ、それを基に文書等の内容を示す名称となっているか否かを審査し、不適切と思料するものについては改めること及びこれらの経過につき当審査会に報告することについて検討すること。
(1)に関連して、「特定秘密文書等管理簿」を提出せよという意見。
審査会には「指定」管理簿は提出されますが、「文書」管理簿は提出されません。
「指定」管理簿は「こういった情報類型を特定秘密にします」という管理簿であるにすぎません。実際に管理しているのは「文書」管理簿です。
こちらを出さないと監視ができないと主張しています。
後半部分は、文書管理簿を見ることができる独立公文書管理監(内閣府で特定秘密保護法の監視を担う)が、審査会に報告をすることを検討せよということです。
これは(6)とも関係しますが、国会の審査会と内閣府の独立公文書管理監との関係は現在何も考えられていないため、そこを繋いで国会への報告義務を課そうとしています。
この(2)の部分はかなり重要な意味を持つと考えます。
国会が監視するとしても、全ての文書をフラットに監視できるわけではありません。
リストなどを用いて問題のある書類をピックアップして検証するという作業になる以上、まともなリストが提出されていない限り、機能は制限されることになります。
(3)特定秘密を指定する行政機関において、特定秘密を含む文書等の保存期間は、当該特定秘密の指定期間に合わせることも考慮した上で、それ以前の保存期間を設定する場合や特定秘密の指定期間満了前に当該特定秘密を含む文書等を廃棄する場合には、内閣府独立公文書管理監に合理的な説明を行うこととし、独立公文書管理監は、上記の運営状況について、定期的に当審査会に対し報告することとする制度を構築するよう検討すること。
また、1年間に廃棄した文書等及び今後1年以内に廃棄予定の文書等(特定秘密の指定期間が切れる場合を含む。)について、その件数と、文書等の名称(名称から文書等の内容が推察しにくい場合はその内容)を当審査会に報告すること。
さらっと間に挟まっているが、かなり重要な事実が明らかになっています。
以前から私はブログでこの危惧を書いていましたが、文書の保存期間が満了した時に「特定秘密」の指定期間が残っていた場合、特定秘密を解除せずに廃棄することを、この法律は排除していません。
行政文書は、公文書管理法に基づいて、移管して国立公文書館等で永久に保存するか、廃棄するかの選択をしなければなりません。
廃棄をする際には「内閣総理大臣」と「協議」し「同意」を得る必要があります。
現在は、内閣府公文書管理課が審査し、国立公文書館が助言をしているという形で運用されています。
この(3)では、特定秘密のまま文書が廃棄されることを前提として話が進められており、さらに「内閣総理大臣」との「協議」「同意」の相手を、独立公文書管理監にしようとしています。
しかも「合理的な説明」としか書いていないので、事実上各行政機関の意志を追認するだけとして独立公文書管理監を位置づけようとしています。
監視機関をむしろ「合法的に捨てる隠れ蓑」にしようとしているようにも見えます。
特定秘密の廃棄はあくまでも緊急事態(戦地などで相手に文書が奪われそうになった時)に留めるべきであり、通常の廃棄をする際には、一度特定秘密は解除するか、公文書管理課や国立公文書館の担当職員に適性検査を受けさせて特定秘密を扱えるようにして、いま行われている方法で審査するべきだと思います。
(4)政府においては、当審査会への説明に際し、特定秘密以外の秘密等不開示情報の解除など事前に十分な準備を行ってから審査会に出席し、答弁すること。特に、国会に対する説明責任と審査会に対する情報提供の在り方について改めて検討すること。
これは、審査会の場で官僚側が、特定秘密でないことすら答弁拒否を続けたことに対する、審査会側の不満がストレートに反映されているところです。
答弁拒否をせずにきちんと説明せよということでしょう。
(5)特定秘密指定管理簿及び特定秘密指定書の内容について、不開示部分とされている部分を除き、各行政機関の長が積極的に公表すること及び内閣情報調査室は、これらの公表結果を取りまとめ、特定秘密全体の指定件数とともに総括的な閲覧を可能とすることについて検討を行うこと。また、特定秘密指定管理簿の特定秘密の概要の記載について、他省庁と同様の記述となっているものについては、審査会においてそれぞれの相違点を明確に答弁すること。
公開できる情報は自ら積極的に公開するべきという主張です。
こういった地道な情報開示は重要だと思います。
(6)内閣府独立公文書管理監の活動・機能等について当審査会として重大な関心を持っていることから、審査会に定期的に活動状況報告を行うこととする運用基準の改正等を検討すること。
独立公文書管理監を国会が監視するという仕組みを作りたいということです。
監視機関を監視するということですね。
さて、この6項目ですが、(3)は保留しますが、それ以外は「勧告」として行うべきものだったと思います。
「意見」はあくまでも「参考」にすぎません。
ただ、「勧告」であったならば、勧告に対してどのように対処したかの報告を求めることができます。
つまり、応答義務が各行政機関に発生します。
衆議院の提案は、実際に監視をきちんと行おうとするための基本的なインフラにあたる部分です。
これが整備されることは、監視のための大前提です。
勧告という強制力が働く方法で出すべき主張だったと思います。
1年目ということで、まずは仕組みを整えるところが議論の中心になったのはやむを得ないことかもしれません。
ただ、限界はあるにせよ、少しでも監視機能が有効的に使える仕組みを整え、特定秘密の歯止めのない拡大を阻止することが必要だと思います。
他に気づいたことがあれば、別途追加して書こうと思います。
衆議院情報監視審査会報告書http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/jyouhoukanshihoukokusyo.htm
参議院情報監視審査会報告書
http://www.sangiin.go.jp/japanese/ugoki/h28/160330.html
概要の紹介と簡単なコメントをしておきます。
報告書を比較します。
衆議院は各行政機関からのヒヤリング結果をかなり詳細に資料として付けています。
内容はどういった情報を特定秘密に指定しているのか(いないのか)という運用の概略について、ひたすらに情報収集を行っているという印象です。
また、どうやってこの審査会を機能させるのかという制度論の部分の議論も多いです。それに関連して、政府に対して「意見」を6項目付けています。
参議院は資料があまり充実しておらず、意見も特に付けていません。
野党が開催を要求できる人数を満たしている(3分の1以上)ため、衆議院の倍近く開催し、特定秘密を実際に提出させて議論するなど、衆議院より特定秘密の「内容」に関わる問題を議論していました。
なので議論の内容自体は面白いです。
衆議院が付けているような具体的なヒヤリングの結果を、参議院の報告書にも載せてほしかったというのが率直なところです。
報告書を読んでの感想ですが、所属した議員は頑張って職務に取り組んでいたとは言えると思います。
秘密保護法や安保法の反対運動のプレッシャーなどもあったでしょうが、自分達がきちんとこの審査会を軌道に乗せなければならないという意識は強くあったのではないでしょうか。
ただ、官僚からきちんと資料が出てこないことが多かったようです。
衆議院の報告書に次のような部分があります(12頁)。
情報監視審査会において、特定秘密そのものではない事項についても、政府は「答弁を差し控える」旨の答弁をすることが多かった。情報が開示されないと審査会の任務である特定秘密の指定が適正かどうかの調査ができないとの発言が委員からなされているところである。
〔中略〕
額賀福志郎会長から、審査会は特定秘密に関する国民と行政との接点にあるとの観点から、国益と国民の利益をよく勘案し、より良い方向性を作っていけるように関係者が努力する必要がある旨の指摘が幾度もされているところである。
与党自民党の委員長が「幾度も」指摘をしているというところから見てもわかるように、漏洩に対する罰則まで用意している審査会においてすら、答弁を拒否されたり、情報が出てこなかったりしたことが多かったのでしょう。
与党が圧倒的多数の衆議院の側が、「意見」をつけて文句を言いたくなるのだから、よほどのことだと思います。
衆議院側が出した意見は6つあります。
(1)特定秘密の内容を示す名称(特定秘密指定管理簿の「指定に係る特定秘密の概要」及び特定秘密指定書の「対象情報」の記載)は、特定秘密として取り扱われる文書等の範囲が限定され、かつ、具体的にどのような内容の文書が含まれているかがある程度想起されるような記述となるように、政府として総点検を行い、早急に改めること。
その上で、各行政機関が特定秘密の内容を示す名称の付け方に関し、各行政機関の間でばらつきが出ないよう、横断的な事項について政府としてある程度統一した方針を策定し、公表すること。
特定秘密の「名称」や「概要」があまりに曖昧すぎて、「審査することは極めて困難であり、不適切」(報告書10頁)な状況であるとのこと。
内容がある程度わかるように具体的に書けということです。
行政文書のファイル管理簿ですら、文書名の曖昧さ(検索して特定されないように、わざと曖昧な名称にする)は問題になっており、特定秘密でも同様の問題が起きているということでしょう。
(2)特定秘密を保有する行政機関の長は、指定された特定秘密ごとに特定秘密が記録された文書等の名称の一覧(特定秘密文書等管理簿)を、特定秘密ごとの文書等の件数とともに当審査会に提出すること。文書等の名称からその内容が推察しにくい場合は、文書等の内容を示す名称をもって説明すること。
内閣府独立公文書管理監は、特定秘密文書等管理簿を提出させ、それを基に文書等の内容を示す名称となっているか否かを審査し、不適切と思料するものについては改めること及びこれらの経過につき当審査会に報告することについて検討すること。
(1)に関連して、「特定秘密文書等管理簿」を提出せよという意見。
審査会には「指定」管理簿は提出されますが、「文書」管理簿は提出されません。
「指定」管理簿は「こういった情報類型を特定秘密にします」という管理簿であるにすぎません。実際に管理しているのは「文書」管理簿です。
こちらを出さないと監視ができないと主張しています。
後半部分は、文書管理簿を見ることができる独立公文書管理監(内閣府で特定秘密保護法の監視を担う)が、審査会に報告をすることを検討せよということです。
これは(6)とも関係しますが、国会の審査会と内閣府の独立公文書管理監との関係は現在何も考えられていないため、そこを繋いで国会への報告義務を課そうとしています。
この(2)の部分はかなり重要な意味を持つと考えます。
国会が監視するとしても、全ての文書をフラットに監視できるわけではありません。
リストなどを用いて問題のある書類をピックアップして検証するという作業になる以上、まともなリストが提出されていない限り、機能は制限されることになります。
(3)特定秘密を指定する行政機関において、特定秘密を含む文書等の保存期間は、当該特定秘密の指定期間に合わせることも考慮した上で、それ以前の保存期間を設定する場合や特定秘密の指定期間満了前に当該特定秘密を含む文書等を廃棄する場合には、内閣府独立公文書管理監に合理的な説明を行うこととし、独立公文書管理監は、上記の運営状況について、定期的に当審査会に対し報告することとする制度を構築するよう検討すること。
また、1年間に廃棄した文書等及び今後1年以内に廃棄予定の文書等(特定秘密の指定期間が切れる場合を含む。)について、その件数と、文書等の名称(名称から文書等の内容が推察しにくい場合はその内容)を当審査会に報告すること。
さらっと間に挟まっているが、かなり重要な事実が明らかになっています。
以前から私はブログでこの危惧を書いていましたが、文書の保存期間が満了した時に「特定秘密」の指定期間が残っていた場合、特定秘密を解除せずに廃棄することを、この法律は排除していません。
行政文書は、公文書管理法に基づいて、移管して国立公文書館等で永久に保存するか、廃棄するかの選択をしなければなりません。
廃棄をする際には「内閣総理大臣」と「協議」し「同意」を得る必要があります。
現在は、内閣府公文書管理課が審査し、国立公文書館が助言をしているという形で運用されています。
この(3)では、特定秘密のまま文書が廃棄されることを前提として話が進められており、さらに「内閣総理大臣」との「協議」「同意」の相手を、独立公文書管理監にしようとしています。
しかも「合理的な説明」としか書いていないので、事実上各行政機関の意志を追認するだけとして独立公文書管理監を位置づけようとしています。
監視機関をむしろ「合法的に捨てる隠れ蓑」にしようとしているようにも見えます。
特定秘密の廃棄はあくまでも緊急事態(戦地などで相手に文書が奪われそうになった時)に留めるべきであり、通常の廃棄をする際には、一度特定秘密は解除するか、公文書管理課や国立公文書館の担当職員に適性検査を受けさせて特定秘密を扱えるようにして、いま行われている方法で審査するべきだと思います。
(4)政府においては、当審査会への説明に際し、特定秘密以外の秘密等不開示情報の解除など事前に十分な準備を行ってから審査会に出席し、答弁すること。特に、国会に対する説明責任と審査会に対する情報提供の在り方について改めて検討すること。
これは、審査会の場で官僚側が、特定秘密でないことすら答弁拒否を続けたことに対する、審査会側の不満がストレートに反映されているところです。
答弁拒否をせずにきちんと説明せよということでしょう。
(5)特定秘密指定管理簿及び特定秘密指定書の内容について、不開示部分とされている部分を除き、各行政機関の長が積極的に公表すること及び内閣情報調査室は、これらの公表結果を取りまとめ、特定秘密全体の指定件数とともに総括的な閲覧を可能とすることについて検討を行うこと。また、特定秘密指定管理簿の特定秘密の概要の記載について、他省庁と同様の記述となっているものについては、審査会においてそれぞれの相違点を明確に答弁すること。
公開できる情報は自ら積極的に公開するべきという主張です。
こういった地道な情報開示は重要だと思います。
(6)内閣府独立公文書管理監の活動・機能等について当審査会として重大な関心を持っていることから、審査会に定期的に活動状況報告を行うこととする運用基準の改正等を検討すること。
独立公文書管理監を国会が監視するという仕組みを作りたいということです。
監視機関を監視するということですね。
さて、この6項目ですが、(3)は保留しますが、それ以外は「勧告」として行うべきものだったと思います。
「意見」はあくまでも「参考」にすぎません。
ただ、「勧告」であったならば、勧告に対してどのように対処したかの報告を求めることができます。
つまり、応答義務が各行政機関に発生します。
衆議院の提案は、実際に監視をきちんと行おうとするための基本的なインフラにあたる部分です。
これが整備されることは、監視のための大前提です。
勧告という強制力が働く方法で出すべき主張だったと思います。
1年目ということで、まずは仕組みを整えるところが議論の中心になったのはやむを得ないことかもしれません。
ただ、限界はあるにせよ、少しでも監視機能が有効的に使える仕組みを整え、特定秘密の歯止めのない拡大を阻止することが必要だと思います。
他に気づいたことがあれば、別途追加して書こうと思います。
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