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特定秘密保護法案を考える 第4回 監視・検証のしくみ [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
安倍政権は11月上旬に審議に入り、成立を目指す方針です。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

そこで、特定秘密保護法案の何が問題なのか、私なりの分析をしていきます。
第1回はこちら。第2回はこちら。第3回はこちら
逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

第4回 監視・検証のしくみ

前回のブログで、「秘密」に対する監視や検証のしくみが法案には存在しないということを指摘した。
この機能は「特定秘密」をコントロールするためには絶対に必要な仕組みである。

そもそも「秘密」というものは過剰に設定されるものである。一つを秘密にすれば、関連情報も秘密にしたくなり、次第にふくれあがっていく。
なので、それが過剰に設定されないように監視することが必要である。
また、「こんなものを秘密に指定していたのか」という検証も必要である。

さらに言えば、「秘密」の管理は「無料ではない」。
管理するための特別なシステムや人が必要であり、増えれば増えるほどその管理のコストは膨大にかかっていく。
そして秘密指定文書が多くなればなるほど、管理が末端まで行き届かなくなり、結果的に漏えい事件へとつながりやすくなる(米国のスノーデン事件はそういった末端が極秘文書に触れることが可能であったことも一因)。

よって、監視と検証という機能があって、はじめて「秘密」というものはコントロール可能なのだ。

さて、特定秘密保護法案の条文からこの点について確認すると

・「秘密指定」は「行政機関の長」が行う(第3条第1項)
・「秘密指定」の期間は5年以内。延長可(第4条第1、2項)


「秘密指定」は「行政機関の長」のみで指定が可能で、延長はいくらでもできるということになる。
つまり、監視や検証が保証されていない。
これによって恣意的に秘密指定が拡大し、隠される(捨てられる)のではないかとの批判が出た。

こういった批判に対し、政府はいくつかの反論をしている。

A:政権交代があるのだから、政権が代われば「行政機関の長」が指定を見直すこともありうる(安倍首相、10/24参院予算委)

B:30年を経過した後にまで「特定秘密」を続けたい場合は、内閣の承認を得る必要がある(第4条第3項)。政府がどうせ判断するから変わらないとか言われるが、一定の基準を元に内閣官房としっかり協議するから、行政機関の恣意的な判断にはならない(礒崎信輔首相補佐官、10月28日ブログ

C:「特定秘密」を指定・解除の基準を定めるために、「第三者機関」である有識者会議を首相か官房長官の下に置いて意見を聞く(10月9日の公明党プロジェクトチームで官房が説明→第18条第2項に加わる)。

D:廃棄する前には「特定秘密」を解除して、公文書管理法のプロセスに乗せて移管・廃棄を決めることになる(礒崎信輔首相補佐官が10月1日のブログ


こういった保証があるから、恣意的な運用は避けられるというのが政府の主張である。

これは国会で実際に首相や担当相に答弁をさせてみないとわからないことも多いが、一つ一つに懸念を示しておきたい。

まずA。
確かに政権交代はありうる。民主党政権になった際に、外務省で密約問題の調査が行われて関連文書が公開されたようなことはたしかにある。
だが、「特定秘密」に指定される文書は数万件単位で存在する。その一つ一つを政治家がチェックして再指定をするというのは現実的に考えてもありえないだろう。
米国のように政治任用の幅が広く、政権交代で官僚がガラッと変わるならまだしも、大臣・副大臣・政務官+αぐらいしか政治任用されない日本においては機能するとは思えない。

次にB。
内閣が承認するというのは、公文書管理法における廃棄の際に承認を得る手続きに近いということになるだろうか。
ただ、これを機能させるためには「手続き」がどのようなものになるのかが必要。
たとえば、一覧表が提出されて、閣議でサックリ決まるというレベルの話なら、ほぼノーチェックになる。

機能させるには、最低限次の仕組みは必要だと考える。

・最長30年で「秘密指定」は自動解除させる。
・延長する文書の類型を限定する(暗号などに限る)
・延長する際の審査を行う機関を内閣官房とは別に作る。


まず原則解除であることは明確にするべき。
あくまでも「延長」が例外であるという規定にしなければならない。
また、延長できる書類の類型を限定するべきだろう(読売新聞11月1日夕方ぐらいのニュースでは政府関係者が類型を限定することを検討と報道されていたが)。
さらに、審査をする機関をできる限り政府外に置くべき。これはなかなか簡単には行かないだろうが、国立公文書館の拡充化なども図りながら、審査をできる機関自体を作っていくことが必要だろう。

Cについて。
指定や解除の手続きをきちんと定めるのは当然必要だが、この「第三者機関」がくせ者。
はっきり言うと、政府が言うような「第三者機関」は「無意味」

「第三者機関」であれば何でもいいというものではない。
そもそも、第18条第2項には「我が国の安全保障に関する情報の保護、行政機関等の保有する情報の公開、公文書等の管理等に関し優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない」とあるが、そもそも「聴く」だけなので、「ご意見頂戴」のみでいい。
これはなんら抑止力になってない。

監視するための第三者機関を作るのであれば、最低限、公文書管理法における公文書管理委員会レベルの権限は必要
委員会を法定で置く。法律で権限を決める。
たとえば、監査や国民からの不服申立の審査などの権限を与える。法律・ガイドラインなどを変える際には「諮問」しなければならないとし、事実上の「承認」が必要にする。委員は内閣総理大臣の直接指名ないしは国会同意人事にするなど。

もちろんこれで監視しきれるのかと言えば疑問がある(数人の有識者でどうにかなるものでもないだろう)。
本来は、米国のような強力な監視機関(大統領直轄の国立公文書館情報保全監察局)のようなものを作らないといけない。
だが、すぐには作れないだろうから、最低限、第三者機関である有識者会議を常設することが必要だろう。

こういった監視機能も法定で付けて、始めて「第三者機関」というのは意味があるのであって、政府が好きな人を選んで「ご意見頂戴」する第三者機関なんてほぼ存在価値がない。
政府のやっていることにお墨付きを与えるだけだ。

Dについて。
これは、「特定秘密」の元ネタになっている「防衛秘密」が、公文書管理法の枠外に置かれて廃棄されていたことへの回答という形になっている。
もちろん、「すべて」が公文書管理法に基づいて移管・廃棄の判断をされるというのであれば、それは現在の制度では最善だと思う。

ただ、そもそも公文書管理法から外れている「特定秘密」に指定されている間に、こっそり捨てられたりしないのか。
ちなみに、内閣情報調査室の橋場健参事官は「廃棄されたことは公表しません」と10月21日の野党議員への説明で明言している(毎日新聞10/28朝刊)。つまり、こっそり捨てる気満々である。
つまり、礒崎補佐官の言っていることにはなんら根拠が存在しない。

Cでも述べたように、「特定秘密」に指定されている間に、その文書管理を監視する機関がどこかになければ、闇から闇へ葬られても誰も気づけない。
「特定秘密」を解除しましたと言われても、それが「すべて」であるかは外部の人には誰もわからないのだ。
「特定秘密」に指定したことが「秘密」なのだから。

管理するルールが透明化されていなければ、官僚組織は組織防衛のために必ず文書を捨てる。先輩達が責められないように。
また、重要かどうかは「その機関にとって必要か否か」で判断され、不要と思われた文書は悪意とは関係なく機械的に捨てられる。

そのような文化で日本の官僚組織はずっと動いてきた。
その文化を変えようとして作られた公文書管理法は、まだ施行されて2年半しか経っておらず、文化を変えるには時間が足りてない。

国民のために文書をきちんと作成して残す。いずれは公開して検証に資するという考え方は、「監視」とセットでない限り、絶対に機能しない。
監視機能があるというだけで、少なくともにらみを利かせることができるのだ。


以上、政府のAからDの「大丈夫」と言うところの根拠に全て反論してきた。
つまり、政府の言っていることでは、「特定秘密」を監視し、いずれは検証するということは全く保証できていない。
首相や担当相に保証させる答弁を求めることは必要だが、これだけでは拘束力は存在しない。
法制度として組み込まない限り、監視や検証は機能しない。

強力で独立した第三者機関による監視、「特定秘密」の自動解除、「特定秘密に指定されていた」ことを明示した上での移管・廃棄の審査を行える仕組み(他の文書と混ぜられるとわからなくなる)。
このあたりは法律に最低限組み込んでほしいと思う。


公文書管理制度との関係はこれでおおよそ語り尽くしたと思います。
あと1回で民主党が提出した情報公開法改正案について論じて、とりあえず連載を終えます。

追記
本文中にうまくはめ込めなかったので、一つだけ。

政府関係者だけでなく、この法案に反対している人も、「特定秘密」が解除されたら「即座に全て情報が公開される」と思いこんでいる人が多いような気がしてならない。
「特定秘密」が解除されたからといって、それが「即公開」になるとは限らない。
例えば、ある種の個人情報(情報提供の協力者の名前など)のたぐいなどはこれにあたるだろう。

「特定秘密」を解除されても、当分の間は「非公開」になる情報はたくさんある。
原則は30年公開であっても、センシティブな問題は、たとえば50年とか70年とかといった閲覧制限をかけることはありうる(これは米国など他国でも当然行っている)。

だけれども、永久に非公開になることがない、というのが「検証」という制度の意味である。
いずれは公開されて歴史研究者などによる一次資料として使われるようになるということなのだ。

「国立公文書館に移管したらすぐに全て公開される(する)」と勘違いされてないだろうか。
それが、文書の大量廃棄などにつながっているように思える。

この認識を変えさせることも重要なことだと改めて感じている。
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