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特定秘密保護法案を考える 第2回 なぜいまこの法案が [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
安倍政権は11月上旬に審議に入り、成立を目指す方針です。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

そこで、特定秘密保護法案の何が問題なのか、私なりの分析をしていきます。
第1回はこちら
逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

第2回 なぜいまこの法案が

そもそもこの法案はどういう経緯で出てきたのだろうか。
民主党政権下の2010年の尖閣ビデオ流出事件からという見方をする方もいるようであるが、2000年前後あたりに話はさかのぼる。

注記;『世界』2013年11月号で山田健太氏の「秘密保護法の何が、なぜ、問題なのか」が、それ以前からの経緯もかなり具体的に論じられているので、それを参照のこと。
本ブログでは、2000年前後から具体策が採られるようになってきたと考え、そこから話を組み立てる。

1.前提
A:アーミテージ・レポート(2000年)

そもそも秘密保護法制は、米国の要請によって作られようとしていることは疑いない(このあたりは安倍首相や石破幹事長なども明言している)。
これ以前からも米国からの要求はおそらくあったであろうが、日本の防衛・外交政策に大きな影響を与えたとされるこのレポートから話を始めてみる。

これは、アーミテージやジョセフ・ナイなどの知日派のメンバーが出したシンクタンクの報告書。
アーミテージは後にブッシュ政権の国務次官となり、イラク戦争の時に自衛隊の出動を要請する際に「Boots on the ground」と言ったことで知られる人である。知日派の国防族。

この報告書の「諜報」(Intelligence)の部分に、日米の諜報協力の話が書かれている。
そして日米協力を緊密にするためには、日本政府は秘密保護の法律を作るための支持を国民や政治家から得る必要があるということが記載されている(5ページの真ん中の段の下の方)。→翻訳している人がいるのでこちらも参照


B:ボガチョンコフ事件(2000年)

ロシアのスパイに海上自衛隊の幹部が情報を流出していた事件。
この事件を受けて、「防衛庁・秘密保全等対策委員会」が「秘密保全体制の見直し・強化について」(2000年10月27日)を報告書として作成した(上記リンクは2006年の政策評価のもの)。

この文書によると、それまでの「秘密」指定は「訓令」によって基準が決められていたようである。また罰則は国家公務員法と同様で懲役1年以下か3万円以下の罰金であった。
つまり、もともと「秘密」は存在していたわけだ。

そこには、システム面の改善だけでなく、罰則の強化をすることを検討すると書かれていた。
それが9.11事件後に法制度として整備される。


2.自民党政権下での動き(2001~2009年)

A:テロ対策特措法(2001年11月)

米国の世界貿易センタービルへの航空機突入事件などの9.11事件が起きると、日本でもこの対応としてテロ対策特措法が作られた。
この際に、自衛隊法の改正が行われ、そこで情報保全隊新設や「防衛秘密」制度が作られた(施行は2002年11月)。

この当時にどのような議論が国会で行われたかはまだ調べていないが、いずれにしろここで「防衛秘密」が作られたのが今回の関連としては重要。
この時に自衛隊法第96条の2が新設され、新たに罰則が強化された(懲役5年以下)。

今回の特定秘密保護法案には、この「防衛秘密」がそっくりそのまま含まれている。
よって、「防衛秘密」がこれまでどのように扱われてきたのかを考えれば、特定秘密保護法の下で何が行われるのかはおおよそ予測がつくことになる。

2001年4月に情報公開法が施行されていたが、元々防衛関係については、情報公開法第5条第3号で「国の安全が害されるおそれ」のある場合は非公開にできたので、いずれにしろ「防衛秘密」ができる以前から、これらの情報は市民には公開されなかっただろう。


B:「政府機関の情報セキュリティ対策の強化に関する基本方針」及び「政府機関の情報セキュリティ対策における統一基準の策定と運用等に関する指針」(2005年9月)

インターネットの普及による情報セキュリティ対策として、各省庁横断的に対策を取ろうとした方針。
情報漏えい対策という意味合いが強い。
詳しい経緯は、内閣官房情報セキュリティセンターが書いているのでそちらを参照。


C:「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年8月)

政府の「カウンターインテリジェンス推進会議」によって出された基本方針。第1次安倍政権の時に作られた。
安倍政権が一貫して秘密保全法制に関心を持っていたことがうかがえる。
なお基本方針の「概要」しかネット上には上がっていない(どうやら全文は公開されていないとのこと)。

「カウンターインテリジェンス」とは、大辞泉によると「外国の敵意ある情報活動を無効にするための防諜活動。敵国の破壊・怠業活動などの謀略活動から、人・物資・施設を防護するための諸活動を含んでいう。」とのこと。
つまりスパイ活動への対抗といったところか。

この時に「特別管理秘密」という制度が新たに作られた。
「特別管理秘密」の定義は、「国の行政機関が保有する国の安全、外交上の秘密その他の国の重大な利益に関する事項であって、公になっていないもののうち、特に秘匿することが必要なものとして当該機関の長が指定したもの」とのことである。
なお、「特別管理秘密」を扱う人を限定するために、「秘密取扱者適格性確認制度」がこの時に作られている。

共産党の塩川鉄也議員が2012年10月から11月にこれに関連する質問主意書を提出しており、その答弁が出ている。(質問主意書答弁→さらに質問主意書答弁
これによれば、「秘密取扱者」は64,361人(ほとんどが防衛省)。件数も内閣官房で274,191件など、様々な行政機関で「特別管理秘密」の指定がすでに行われている。

職員の「適性評価」がここで事実上行われていること、防衛秘密などが「特定管理秘密」に指定されているなど、今回の秘密保護法案の原案のようなものが、すでに「政府の基本方針」という形で運用されていることが分かる。


D:「官邸における情報機能の強化の方針」(2008年2月)
:
内閣に設置された「情報機能強化検討会議」によって作られた方針。
「国家安全保障に関し、官邸司令塔機能の強化が図られる中、官邸における情報機能の強化が急務」として、官邸の情報収集機能をどう改善するかについて作られた方針。
この中で、「セキュリティクリアランス制度(秘密取扱者適格性確認制度)」の整備や「秘密保全に関する法制」を作成して罰則を強化することが書かれている。


E:「秘密保全法制の在り方に関する基本的な考え方について(案)」(2008年4月)

Dを受けて2008年4月に設置された「秘密保全法制の在り方に関する検討チーム」によって作られた基本方針案。
どうやら、秘密保全法制(秘密保護法)を作ろうとして、関係官僚を集めて方針を考えたようである。

しかし、ほぼ資料が公開されていないし、とりまとめた基本方針も公開されていない。
また、これを情報公開請求した情報公開クリアリングハウスがその文書を公開しているが、墨塗りだらけで何を検討しているのかさっぱりわからない。

その後、基本方針案を議論してもらうために、2009年4月から有識者を呼んで「情報保全の在り方に関する有識者会議」が作られた。
しかし、政権交代により2回で中断。

なお、この有識者会議、ネット上で公開されている資料と、実際に配布されている資料が異なることが、情報公開クリアリングハウスの調査でわかっている。
配付資料は墨塗りだらけで何もわからないが。


3.民主党政権下での動き(2009~2012年)

A:「国際テロ捜査情報流出事件」(2010年10月)と「尖閣衝突ビデオ流出問題」(2010年11月)

民主党に政権交代して秘密保全法制の動きはストップしていたが、それがリバイバルされたのはこの2つの事件がきっかけ。

前者は、警視庁公安部が持っていたテロ捜査情報が、ファイル交換ソフトWinnyによって流出した事件。
在日イスラム教徒の協力者や監視対象者の情報が流出したことで知られる。

後者は中国船と海上保安庁の監視船が衝突したときの映像を、海上保安官がYoutubeにアップロードした事件。
野党が全ての映像の公開を求めており、政府はそれを拒んでいたいたさなかにおきた事件であり、大きな注目を集めた。

この両方は、情報セキュリティが不徹底であることから起きたと政府は認識した。


B:「政府における情報保全に関する検討委員会」設置(2010年12月)

Aを受けて設置された。ここから自民党政権の置き土産である秘密保全法制の再検討が動き出した。
この委員会を受けて、「法制」と「システム」の双方から検討を加える有識者会議として、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」と「情報保全システムに関する有識者会議」が設置された。

発想としては、「法制」は「人」を規制するもの、「システム」は「仕組み」で規制するものと言えるだろうか。


C:「特に機密性の高い情報を取り扱う政府機関の情報保全システムに関し必要と考えられる措置について(報告書公表版)」(2011年7月1日)

「情報保全システムに関する有識者会議」報告書
内容は情報を漏らさないためのシステムの改善に関するもの。正直素人目に見てもたいしたことが書いているとも思えない。

ただ、「公表版」と書いてあるので、別にもっと詳しい報告書があるものと思われる。
システムの具体的な話が書いてあるから公表できなかったのだろうか?


D:「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(2011年8月8日)

「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」による報告書

この報告書が、現在出ている法案の原案にあたるものと考えて良い。関連資料も充実しているので、興味がある方は目を通しておくと良いと思う。
ちなみに、こういう報告書が公表されていることを考えると、やはり民主党の方が情報公開の姿勢は自民党よりはるかにマシだと思える(上記2のE参照)。

少々長いが、なぜ秘密保全法制が必要なのかという目的が書かれているので、全文引用してみる。

 我が国では、外国情報機関等の情報収集活動により、情報が漏えいし、又はそのおそれが生じた事案が従来から発生している。加えて、IT技術やネットワーク社会の進展に伴い、政府の保有する情報がネットワーク上に流出し、極めて短期間に世界規模で広がる事案が発生している。
 我が国の利益を守り、国民の安全を確保するためには、政府が保有する重要な情報の漏えいを防止する制度を整備する必要がある。
 また、政府の政策判断が適切に行われるためには、政府部内や外国との間での相互信頼に基づく情報共有の促進が不可欠であり、そのためには、秘密保全に関する制度を法的基盤に基づく確固たるものとすることが重要である。
 しかし、秘密保全に関する我が国の現行法令をみると、防衛の分野では、自衛隊法上の防衛秘密や、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(以下「MDA 秘密保護法」という。)上の特別防衛秘密に関する保全制度があるが、必ずしも包括的なものではない上、防衛以外の分野ではそのような法律上の制度がない。また、国家公務員法等において一般的な守秘義務が定められているが、秘密の漏えいを防止するための管理に関する規定がない上、守秘義務規定に係る罰則の懲役刑が1年以下とされており、その抑止力も十分とはいえない。
 以上のことを踏まえると、国の利益や国民の安全を確保するとともに、政府の秘密保全体制に対する信頼を確保する観点から、政府が保有する特に秘匿を要する情報の漏えいを防止することを目的として、秘密保全法制を早急に整備すべきである。


これを見ると、インターネットの普及に対応できていない状況への対策が主眼であり(だから外国から信頼されない)、漏えいを防止するためには罰則強化をするという方針が明確である。

ただし、これ以上は話が進まず。法制化は棚上げに。
東日本大震災があったこともあり、国民から反発を確実に食うであろう政策を進める状況にもなかったのだろう。

そして、これを引き継いだのが第2次安倍内閣ということになる。
引き継いだというより、自分たちで検討していたものの続きをやっているということの方が正確であろうが。


さて、ここまでまとめてみたが、正直うんざりしている。というか疲れた。
おそらく我慢してここまで読まれた人も「長いよ」と思ったのではないか。

ただ、これを見るとわかるように、特定秘密保護法案はいきなり最近現れた話ではないということだ。
そもそもは諜報機関の情報交流をどうするかというアーミテージレポートから始まり、インターネットの急速な普及により諜報情報が漏れる危険性が高まる中で、その対策をあの手この手で政府はやってきた積み重ねの集大成がこの法案なのだ。

その意味で、この法律が防衛省や外務省で無く「内閣情報調査室」が担当していることが、その本質を示唆している。
「集団的自衛権行使」との関係で論じられることが多いので、安倍首相の個人的なパーソナリティや尖閣問題などの東アジア情勢の悪化からこの法案が生まれているように見えるが、実際には諜報(インテリジェンス)の問題がメインであることが、この流れで見ていると分かる。
そうなると、特定秘密保護法案とセットで議論されている日本版国家安全保障会議(NSC)のねらいも、むしろ公安問題が中心なのだなということが見えてくる。

よって、以後の回で述べることになる監視機能が特定秘密保護法案に無いことが相当にまずいということは、この経緯からうかがえるだろう。

経緯についてはここまで。次回は法案の話を。
第3回はこちら


追記12/11

他の方が書いていることで気づいたが、2のC「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年8月9日)の翌日に、米国との間に「秘密軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(一般的には「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA))が結ばれている。
よって、このCの基本方針は、GSOMIAを結ぶために決められたというつながりなのかもしれない。

参考
山口響「特定秘密保護法案になぜ反対するか」
http://www.peoples-plan.org/jp/modules/article/index.php?content_id=158

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