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特定秘密保護法案を考える 第5回 民主党情報公開法改正案は歯止めになるか [特定秘密保護法案]

2013年10月25日に特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法案)が閣議決定されました。
11月7日から衆議院で審議も始まりました。
法案はこちら。
http://www.cas.go.jp/jp/houan/185.html

そこで、特定秘密保護法案の何が問題なのか、私なりの分析をしていきます。
第1回はこちら。第2回はこちら。第3回はこちら
逐条解釈(私注)についてはすでにアップロードしているのでこちらを参照。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/secret_law.pdf

第5回 民主党情報公開法改正案は歯止めになるか

今回の特定秘密保護法案への対抗として、民主党は情報公開法の改正案を国会に提出した。

この改正案は、民主党政権時代の2011年4月に閣議決定されて、そのまま放置されて廃案になったものをコピペして再提出したものである。
この時の改正案の解説はすでにブログで詳細に述べたのでそちらを参照のこと(全6回、第1回へのリンク)。

この改正案を全体を通して考えると、不十分ではあるが評価に値するとの考え方は今も変わっていない。
ただ、これが「特定秘密保護法案」への対抗のために出てきたと考えた場合、看過できない問題がある。
それは「果たしてこの改正案で特定秘密保護法の歯止めになるのか」という問題である。

この改正案の提出者の中心である枝野幸男衆議院議員は、次のように語っている。

 今回の情報公開法改正で情報公開の対象を最大限大きく、逆に言えば公開しない範囲を必要最小限に小さくするという改正と、最終的には裁判手続きで公開請求の可否が判断されるわけだが、その際に裁判所における、いわゆるボーンインデックス(情報を審査会の指定する方法により分類、整理した資料)と最終的にはインカメラ審査(情報公開・個人情報保護審査会が当該非公開情報を入手し、公開するかどうかの妥当性を非公開で審査するもの)も可能にする改正内容になっている。インカメラは主に被告側の同意も必要な手続きになるが、逆にボーンインデックスの手続きその他と合わせれば、合理的な理由説明もなしにインカメラを否定すれば、裁判における事実認定に大きく影響を与えることになるので、インカメラの手続きが最終的にあり得るということは大きな効果を持つと思っている。また、最終的にこうした形で司法のチェックが入ることで行政の内部にも緊張感をもって過大な指定がなされないようにという抑止力が働くのではないかと期待している。(引用終)

ここで枝野議員は「ボーンインデックス」と「インカメラ審理」が裁判所で認められることが重要だと述べている。
つまるところ、この二つで「特定秘密」を監視することが可能と考えているように見える。
また、抑止効果もあるだろうとも話している。

ちなみにこの二つが書かれているのは、改正案の第23条と第24条。
文面を出すと逆にわかりにくい(文面を見て解説を読みたい方はこちら)ので、この二つを簡単に説明する。

「ボーンインデックス」とは、裁判所が行政機関側に、不開示にしている理由を全て分類整理して、それぞれの不開示理由がわかるように解説した文書を提出させるというものである。
つまり、争点を明確化するための情報を、行政機関側に提出させるということである。
この提出されたものは、もちろん原告側にも提供され、それに基づいて裁判を進めることになる。

文書の開示を求める情報公開訴訟の場合、そもそも「墨塗り」にされている個所が非常に多い文書を対象にするので、それぞれがどの理由で不開示になっているかわかりにくく、争点を整理するだけで苦労する。
そのため、最初に何が論点になっているのかを被告側の行政機関に整理させるのがボーンインデックスにあたる。

「インカメラ審理」とは、訴訟の対象となる文書を裁判官だけが見て「検証」することができる制度である(原告には見せない)。
現在の裁判では、裁判官が訴訟の対象文書を見たくても、行政機関に拒否されれば強制することはできない。
そのため、不開示部分を自分の目で判断できず、結局裁判官は推測で判決を書かざるをえなかった(当然行政機関に有利な判決が出やすい)。

インカメラ審理が認められると、裁判官には原則対象文書を見せなければならなくなる。
その意味では、情報公開訴訟に携わっている人には、この条項があるかないかで状況が大きく変わる。

ではこの二つが保証されているこの改正案が通れば、「特定秘密」を司法が監視できるのだろうか。
答えはNoである。

というのは、民主の改正案のインカメラ審理(第24条)の部分には次の文面が入っているからである。

2 前項の申立てがあったときは、被告は、当該行政文書を裁判所に提出し、又は提示することにより、国の防衛若しくは外交上の利益又は公共の安全と秩序の維持に重大な支障を及ぼす場合その他の国の重大な利益を害する場合を除き、同項の同意を拒むことができないものとする。

これは裁判所が行政機関にインカメラ審理を求めた際の規定を決めたもの。
原則行政機関は拒めないが、「国の防衛」などについては「拒否」できるのだ。

「特定秘密」が「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれ」がある情報である以上、どう見ても提出を拒否できる「例外」にあてはまるだろう。
よって、この改正案でインカメラ審理が裁判官に認められたとしても、「特定秘密」に関わる情報公開訴訟の際には、行政機関が「提出拒否」をされたらそこで終わりである。
つまり、「特定秘密」の監視にはほぼ間違いなく役に立たないのだ。

この例外規定のまずさについては、すでにこの改正案が出された2011年の段階で私も書いている
最近でも『毎日新聞』の11月4日朝刊の特集記事でこの件が書かれているし、情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんも同じ懸念をすでにブログで書かれている。
また、『東京新聞』11月4日朝刊では、この改正案は民主党の「世論意識のアリバイづくり」でしかないと厳しい批判を行っている。
正直歯止めになっていない以上、そう批判されてもやむをえない状況だろう。

よって、この情報公開法改正案がセットで通ったからといって、「特定秘密」が監視できると思ったら大間違いである。
「裁判所から提出命令を受けたら、どの文書であっても必ず提出しなければならない」という文面に変えてあれば効果があるかもしれないが・・・
一度は政権を取った民主党からしても、「提出義務は自分が政権を取ったときにきつい」と思ったのではないだろうかと邪推してしまう。

11月7日の各紙で、自民公明の両党が、秘密保護法案を通すために、この情報公開法改正案も民主党との協議の対象に考えていると報道されている。
なので、上記の点は強く主張しておきたい。


補論

なお、「特定秘密」は情報公開法の請求対象となるし、司法や情報公開・個人情報保護審査会(情報公開制度における不服申立の審査を行う)があるから監視機能は存在すると主張する政治家がいる。

典型が、11月3日のNHKの番組での中谷元・自民党副幹事長(元防衛相)の発言である。
民主党の情報公開法改正案について「公開できる情報は公開するべきだが、守るべき秘密も必要だ。判断に不服があれば司法などに訴えられ、すでに基本的ルールはできあがっている」と述べたと報じられた(『朝日新聞』11月4日朝刊など)。

中谷氏は元自衛官である。秘密の取扱いも当然行っていたはず。
そしてインカメラ審理が存在しない司法でどのような裁判が行われているかご存じのはずだろう。
「確信犯」的に誤った方向に世論を誘導しようとしているとしか思えない発言である。

「制度が存在する」と「制度が機能する」との間には大きな溝があることに注意しなければならない。

これは、情報公開・個人情報保護審査会についても言える。
確かに情報公開法に基づいて「特定秘密」にあたる文書も請求できる。
だが、防衛や公安情報は不開示にできるので、ほぼ100%公開されることはないだろう。
その際に審査会に不服申立をすることができる。

そして審査会には「インカメラ審理」がすでに認められている。
だが、審査会は「情報公開法」に基づいて審理を行うのである。「特定秘密」であることの妥当性を判断する機関ではない
また、たとえ審査会が「開示するべき」との答申を行った場合でも、行政機関側が答申に従う義務は制度上保証されていない(つまり不開示を貫いても法的に問題は無い)。

よって、この審査会も「特定秘密」の歯止めには役立たない。

繰り返すが、「制度が存在する」と「制度が機能する」との間には大きな溝があるのだ。
政治家が「前者」を言っているのか「後者」を言っているのかはきちんと見分けなければならない。


次回は補論として「特定防衛秘密」(米軍の装備品等の情報)について取り上げてみたい。
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