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公文書管理法5年見直しについての合同研究集会 [2014年公文書管理問題]

2014年12月20日、日本アーカイブズ学会などが主催した「公文書管理法5年見直しについての合同研究集会」に聴衆として参加した。
この「5年見直し」の話は重要なことなので、シンポの内容を私の視点からではあるが紹介してみたい。

「公文書管理法」は2011年4月に施行された法律である。
公文書の作成、管理を初めとして、最終的に廃棄するか永久に残すかの方法などを統一的に定めた法律である。
この法律によって、日本ではやっと各省庁統一の文書の管理基準ができることになった(それまでは捨てるも残すも各省庁任せ)。

公文書管理法は、原子力災害対策本部の議事録未作成問題や、昨年の特定秘密保護法案の審議でなんども取り上げられた。
この法律がなければ、公文書の未作成や隠匿といったようなことも、法的には大きな問題とならなかったかもしれない。

さて、この公文書管理法は「附則」に次の文言がある。

第13条 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況を勘案しつつ、行政文書及び法人文書の範囲その他の事項について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
2  国会及び裁判所の文書の管理の在り方については、この法律の趣旨、国会及び裁判所の地位及び権能等を踏まえ、検討が行われるものとする。


施行後5年を目途として、法律のあり方を見直すということがうたわれている。
すでに、内閣府は予算を今年度から獲得して、内々では見直しの準備は行っているようである。

施行後5年は2016年3月末である以上、見直しの作業は来年度に行われることは間違いないだろう。
情報公開法の時にも同じような附則があり、有識者会議が開かれて報告書が作成された。ただし法改正には至らず、コピー代が下がるなどといった微修正のみで終わった。

そこで、日本アーカイブズ学会などの文書管理に詳しい各団体が、現在の公文書管理法をどうやってより良いものに変えていくのかを公開シンポで論議することになったのが今回の催しである。

内容を紹介してみたい。
もちろん私が聞き取ったまとめなので、御本人の意図とは異なる可能性があるので注意してください。


冒頭で講演を行ったのは高山正也・国立公文書館フェロー(前国立公文書館長)
内容は、

・立法府と司法府での公文書管理の問題は、司法府は最高裁長官と協議してそれなりに進んだが、立法府が全く進んでいない。衆議院と参議院のどちらが窓口になるのか、公文書管理に興味があると思われる国会図書館との関係をどうするのかなど、立法府側の体制がはっきりしない。国会議員の中から気運が高まれば良いが・・・

・公文書管理法制定時に、附帯決議が衆議院で15参議院で21も付いた。これだけ付いたということは、制定当時からまだまだ不完全なものだと考えられていた証拠。ただ、全てを現在直せるかというのは残念ながら厳しい(それをできる体制がない)。優先順位はどこなのか、基盤部分を直すとしたらどこなのかを考えていく必要がある。

公文書管理法が議論の前提・常識となるような社会(行政機関の職員だけでなく主権者の側も)を作っていくためにも、研修制度の充実化が課題。そこに金も人もかけていく仕組みをもっと整備しないといけない。

・アーキビスト関係の資格制度が乱立している状況があり、資格の基盤となる理論体系の不在が問題。つぶし合いではなく、共通した基盤を作っていくための話し合いは必要ではないか。

他にも様々な論点を挙げておられた。

次に、パネルディスカッションでの4名の発言を紹介してみる。

早川和宏・桐蔭横浜大学大学院教授(行政法)
・公文書管理法は「基本法」。「特別法」が別にできてしまうと骨抜きになってしまう(ちなみに特定秘密保護法は「特別法」ではない)。特別法がしっかりしていればいいのだが、そうでないと抜け道がいくらでもできてしまうのは注意したい。

独立行政法人に「国立公文書館等」(文書を移管できるアーカイブズ)がほとんど存在しないことをどうにかしなければならない。

「特定歴史公文書等」(国立公文書館等に移管された公文書)への利用請求権を明示化するべき(現在は機関側が利用させる義務を負っているのみ)。

・専門職員の配置や外部監査制度など、公文書管理がきちんと行われているかをチェックする制度を充実させる必要がある。


西川康男・ARMA International 東京支部会長
・「特定秘密」の国立公文書館への移管の義務化や、隠蔽するための廃棄への罰則などが必要。

・国立公文書館を米国の国立公文書館のような権限を持つ機関に拡充するべき。専門職の配置や施設の充実化も必要。

電子公文書の利用を原則とし、その保存や管理に関する施策をもっと充実させる必要。

・地方公共団体に公文書管理条例を広げていくために、自治法や行政法などとの関係を明確にしていく啓蒙活動が必要(報告書を作成中とのこと)。


小高哲茂・群馬県立文書館公文書係指導主事
・公文書管理法ができて、公文書管理条例や地方公文書館の設立が進んできたが、まだまだ不十分。公文書管理法を地方に適用することも、自治体それぞれの事情が多様であり難しい。また予算減や職員数減もあって体力が落ちている。

・国立大学法人に「国立公文書館等」を置く際に要求される施設などのハードルが高すぎることが問題。

・「国」として現場の声を拾って様々な検証を行ってほしい。実態の把握をすすめ、それに合わせた施策が必要。

・管理法の中に、定期的な公文書管理政策の作成を必要とする文言を入れ、見直しが常に行われ続けるようにする仕組みが必要。

・専門職員を「当分の間」置かなくてよいとされた「公文書館法」の改正も視野に入れながら、地方や国立大学法人などの公文書も残るような、全国的な公文書管理政策振興による底上げが不可欠。

・特定秘密保護法と公文書管理法の整合性も、十分検討されるべき。

・アーカイブズ関連団体の連携を軸とした、国への強力な陳情を行える状況の構築。


古賀崇・天理大学准教授(記録管理学)→レジュメを御本人がアップロードしています
・「情報法」の枠組みの中で、「情報の自由な流通原則」などの視点から、「特定歴史公文書等」の公開の際に考慮される「時の経過」を考える必要。

・国立大学法人におけるアーカイブズを作るための基準の見直し(現在は基準が厳しすぎる)。

公文書管理法を情報公開法や個人情報保護法などとセットで捉えた上で、どのように改正するかを考える必要があるのではないか。

「デジタルアーカイブズ」が政府によって推進されているが、これとの関係をどうやって整理するか。その推進の担い手である国立国会図書館との関係をどうやって整理するのか。


以上がパネリストの意見。

まず共通しているのは、独立行政法人(特に国立大学法人)における「国立公文書館等」の設置問題。

公文書管理法においては、独法の公文書(法人文書)は国立公文書館に移管することができるが、国立公文書館はスペースの問題などもあり、事実上これを拒否している。
そのため、独法の保存期限が満了した公文書のほとんどは廃棄処分されている。

本来は、各独法が「国立公文書館等」にあたる施設(アーカイブズ)を作って、そこで文書をきちんと管理して公開する仕組みができればいいのだが、国が定めたガイドラインにおける「国立公文書館等」の設置の要件が厳しい。
国の中央館たる国立公文書館と同等の施設を事実上要求しているため、当然資金や人員に余裕の無い独法は二の足を踏むことになった。
アーカイブズを持っている独法ですら「国立公文書館等」に「ならない」という選択をしたところも多かった。
ただ、「ならない」場合は、公文書の移管を受けることができないので、結局は捨てる以外の選択肢が無くなってしまう。

では具体的にどうするのかは特に提案は上がっていなかったが、私見を述べると

国の「国立公文書館等」と独法の「国立公文書館等」でガイドラインを分ける。
・分けた上で、独法の側は施設や一部の機能は「当分の間」は置かなくてよい、ということとし、全史料協が主張しているような「公文書館機能」をきちんと整備することで、国立公文書館等に代わるものと認定する。


ではどうだろうか。
後者は書き方を工夫しないと「機能」だけを整備すれば良いという話になりかねない。
ただ、管理法施行から4年近く経過して、独法での公文書館設置がほとんど進まなかったことを考えれば、「施設」などの過度な要求が設置を妨げたと言っても過言ではないだろう。
これらは一定程度緩和するしかないのではないか。

次に、現在の公文書管理には関心がなさそうな政権に対して、どうやってアピールしていけば良いのかということも議論に上がった。
古賀氏からは、NPO法人で子育て支援を行っている駒崎弘樹氏の論説の紹介があった。

「草の根ロビイング(1)~現場から政治を変える~」(読売新聞、2014年12月18日)
http://www.yomiuri.co.jp/job/entrepreneurship/komazaki/20141215-OYT8T50130.html

政治家や官僚、メディアにどこまでアピールしていくかは当然課題となるだろう。
そのためには、駒崎氏も書いているが、具体的な提案を現場から伝えるという姿勢が必要である。
つまり、「説得材料」を揃えるということである。

これはパネリストも私も共通している見解だったが、まずは現場から声を集めるということは大切だと思う。
できるなら内閣府が、各省庁などの職員に対して、公文書管理実務に関連するアンケート調査などをしてくれると大変ありがたいと思っている。

具体的に何が問題となっていて、どのような改定をすれば良いのか。
理念で訴えるのも必要だとは思うが、現場からの声を活かすということが、この公文書管理制度においては重要である。

よって、アーキビストの業界からも積極的に声を上げていってほしいと思う(特に国立公文書館等の職員のみなさま)。
声を公式に上げにくかったら、声の大きい人たちに伝えるのでも良いのだ。

他にシンポジウムの会場からいくつか意見があった中で、気になったことを1つだけ挙げておきたい。

それは「特定歴史公文書等」の「廃棄」を認めてほしいという意見である。
つまり、公文書館側で「二次選別」を行わせてほしいということである。

今の公文書管理法の仕組みだと、原課が「移管したい」と主張した場合、それを公文書館側が断ることは非常に難しい。そのため、受け入れざるを得ない仕組みになっている。
そして一度受け入れたものは、永久保存することが求められている。

ただ、専門のアーキビストの目から見ると「それは永久保存する必要は無いだろう」というものも存在する。
これを、公文書館側の権限で廃棄することを認めてほしいということである。

公文書管理法の第25条には、特定歴史公文書等の廃棄の規定が存在する(内閣総理大臣に協議し、その同意が必要)。
ただ、国会で議論された際に、隠蔽のために利用されるのではないかとの危惧があったため、廃棄できるのは「劣化が極限まで進展して判読及び修復が不可能で利用できなくなり、歴史資料として重要でなくなったと認める場合」ガイドライン37頁)に限られてしまった。
つまり、事実上「二次選別」の根拠としては使えなくなっている。

この意見は現場の方からの提言であったが、その方によれば、保存スペースが足りない上に捨てることができないため、重要な文書の受け入れを制限するという本末転倒なことになっているとのことである。

歴史研究者としては、誰がその資料を重要と思うのかわからないので、どのような資料であれ、残っているものはできれば捨ててほしくないと言いたくなるところではある。
しかし、現場からのこの意見は様々なところでうかがっているし、スペースを増やせば良いではないかとも簡単に言えるものでもない(それが簡単に手に入れば苦労しない)。
むやみに歴史研究者の論理を振り回すことは難しいとも思っている。

法文は存在するので、ガイドラインを変えるかどうかという問題になる。
ここは、歴史研究者も含めて(その説得も兼ねて)、もっとつっこんだ議論をする必要があると感じている。


今回の集会の主催者であった保坂裕興・学習院大学教授は、今後もこういった集会や個別の意見交換を積み重ねて提言を出せるようにしたいとの意気込みを語られていた。
私自身もブログなどを通して、公文書管理法見直し問題への提言はどんどんと出していこうと考えている。
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特定秘密保護法施行に思う [2014年公文書管理問題]

特定秘密保護法が、本日2014年12月10日に施行されました。

改めて確認をしておきたいのは、法律は施行されたら終わりではありません。

運用していくなかで、様々な不備や問題点が現れてくるでしょう。
その時に、一つ一つ、特定秘密を減らす仕組みを作っていく提案をする必要があります。

こちらが「きちんと見てるよ!」という姿勢を見せ続けることが、運用する側へのプレッシャーになります。
それが濫用を食い止める一つのカギになります。

特定秘密であろうとも、国民への説明責任は無くなりません。
秘密の範囲を限りなく限定すること、もし秘密にしたとしても必ずいつかは(できる限り早く)公開して検証を受けること。
こういった仕組みを、修正して組み込んでいく必要があるかと思います。

私は、公文書管理法の改正が必要だと考えます。
特定秘密に指定された情報に関する文書の作成義務や、簡単に廃棄できないような仕組みの構築など、公文書管理の視点から特定秘密をコントロールすることは可能だと考えます。

さらに、特定秘密以外にも存在する、各行政機関内の秘密文書のコントロールも、今後どうしていくかを考えていく必要があります(内閣府で検討はしているようですが・・・)。

また、情報公開法を改正して、安保公安関係の情報が公開される幅を拡大することも、監視を強める効果があるでしょう。

他国との関係がある以上、残念ながら特定秘密保護法が廃止されることは期待薄だと思います。
だからこそ、濫用を防ぐための制約をどうやって増やしていくか、具体的な提案を伴った活動が今後の課題になるかと思います。

今後も引き続き、この問題を追いかけていきたいと思います。
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沖縄県公文書館で講演します [2014年公文書管理問題]

今週末になりましたが、沖縄県公文書館で講演します。
沖縄に在住の方はよろしければお越し下さい。

平成26年度公文書講演会

日時:2014年11月22日(土)午後2時~4時
場所:沖縄県公文書館本館講堂
901-1105 沖縄県南風原町字新川148番地の3
http://www.archives.pref.okinawa.jp/riyou/guide/

入場無料、要電話申込み(098-888-3875 普及広報担当までどうぞ)

「公文書はだれのもの?公文書管理制度と歴史研究、民主主義」
講演者:瀬畑 源(長野県短期大学助教)

〔以下、公文書館からの紹介〕
講師の瀬畑源さんは「国家と秘密 隠される公文書」「戦後史の中の象徴天皇制」「公文書をつかう 公文書管理制度と歴史研究」等の著作で知られる気鋭の研究者。日本での公文書管理の現状、公開が進まない背景にあるもの、公文書館での公開が持つ重要な意義をみなさんとともに考えます。

http://www.archives.pref.okinawa.jp/publication/2014/10/26-2.html


今回は秘密保護法ではなく、公文書管理制度の話をメインに、沖縄県の公文書のあり方などにも触れる予定です。
講演後に参加者との茶話会を1時間ぐらい取るとも聞いておりますので、質問などありましたらぜひご参加下さい。
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『国家と秘密 隠される公文書』ほか刊行 [2014年公文書管理問題]

2014年10月17日(金)に集英社新書から『国家と秘密 隠される公文書』が発売されます。



内容は、公文書管理制度から見た秘密保護法制についてです(下記参照)。

久保さんと私で意気投合して書いた本です。
二人とも、特定秘密保護法案の昨年の議論を見ながら、賛成する側も反対する側も、あまりにも前提となる公文書管理制度の知識が欠けていることに不満を持っていました。

久保さんも私も、スタンスは特定秘密保護法に反対の立場ですが、本の趣旨としては、最低限この内容は踏まえた上でお互いに議論しようよということを書いたつもりです。
なので、特定秘密保護法に賛成される方にも手にとっていただけるといいなと思っています。

また、15日には、『歴史評論』2014年11月号が刊行され、「日本における秘密保護法制の歴史」という論文を書いています。。



秘密保護法制の歴史を、明治から現在までザックリと整理したものです。
上記の新書の補遺のような形になりますので、合わせてお読みになると制度への理解が深まるかと思います

よろしければお手にとって下さいませ。


久保 亨・瀬畑 源『国家と秘密 隠される公文書』集英社新書、2014年10月

内容紹介

情報公開の世界的な流れに逆行!

特定秘密保護法施行で
葬られる歴史と責任!

国民の「知る権利」を軽んじ、秘密が横行する権力は必ず暴走する――。
第二次世界大戦敗戦直後の軍部による戦争責任資料の焼却指令から福島第一原発事故にいたるまで変わらない、
情報を隠し続けて責任を曖昧にする国家の論理。この「無責任の体系」を可能にするものは何か?
本書はその原因が情報公開と公文書の管理体制の不備にあることをわかりやすく説明する。

そして、世界の情報公開の流れに完全に逆行した形で、2013年末に可決された特定秘密保護法の問題点と今後を展望する。
行政の責任を明確にし、歴史の真相を明らかにするための一冊。

「知識は無知を永遠に支配する」
ジェームズ・マディソン(米国第四代大統領)

〈目次〉
序章 もともと秘密だらけの公文書――情報公開の後進国日本 久保亨
第一章 捨てられる公文書――日本の公文書管理の歴史 瀬畑源
第二章 情報公開法と公文書管理法の制定 瀬畑源
第三章 現代日本の公文書管理の実態と問題点 瀬畑源
第四章 公文書館の国際比較 久保亨
第五章 特定秘密保護法と公文書管理 瀬畑源
あとがき 公文書と共に消されていく行政の責任と歴史の真相 久保亨/瀬畑源


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特定秘密保護法パブコメを受けて(後編) パブコメへの回答集 [2014年公文書管理問題]

2014年9月10日、第3回の情報保全諮問会議が開催され、パブリックコメントを受けて特定秘密保護法の施行令案と運用基準案の修正が行われた。
運用基準案改正の話は前編で既に述べた。

今回の諮問会議の配付資料で重要なのは、パブコメへの回答集である。

意見募集に対し寄せられた御意見の概要及び御意見に対する考え方(案)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jyouhouhozen/dai3/siryou2.pdf

細かいExcelの表が68頁にわたるもので、読むにも骨が折れるが、内閣官房がここまで回答集を作らなければならないところに追い込まれていたことも確かだろう。
パブコメへの回答方法にはフォーマットがあるわけではなく、中にはおざなりにしか回答しないケースもあるので。

この回答集を見ると、疑問に対してきちんと答えているケースもあるが、原則論に終始したり、ずらして答えたり、拒否したりするなど、ツッコミ所が満載である。
これ以上のツッコミ手段が一般市民からは限られているので、これを元に、疑問を国会で追及するといいのではと個人的には思う。

論点が多岐に亘るので、私の興味関心から、2つだけコメントしたい。

国民からの特定秘密解除請求の仕組み(米国に存在する)についてだが、内閣官房によれば、「情報公開法の手続きがある」から、新たに制度は不要であるという言い回しをしている(パブコメ回答3頁)。

特定秘密文書は行政文書であるので、情報公開請求の対象である。
よって請求を行うことはできるが、防衛公安関係の情報はもともと不開示なので、不服がある場合は情報公開・個人情報保護審査会に異議を申し立てることができる。

審査会は、特定秘密保護法の規定によって、実際にその文書自体を見て可否を判断できる(インカメラ審査)ので、「調査審議の過程で、特定秘密の指定の適否についてもチェックされ、特定秘密に係る部分を開示することとなれば、指定を解除する」とのことである。
よって「御指摘のMDR〔引用者注:米国の強制的機密指定解除審査請求〕による解除審査請求と類似の機能を情報公開法の開示請求が担うことができると考えます」と主張されている。

この説明はまやかしである。
米国の制度とは似て非なるものである。

まず、審査会が判断するのは、「情報公開法に基づいて」開示するか不開示にするかである。
よって、特定秘密の指定の是非を問題にする機関ではない。

また、そもそもとして審査会は「決定」する機関ではない。
あくまで「答申」を出すだけで、その答申に従うかは各機関に委ねられる。
開示せよとの答申が出ても、それを行政機関側は拒否できるのだ。

つまり、ここで内閣官房が言っているのは、情報公開法上「公開すべき」と判断した情報(「特定秘密に係る部分を開示することとなれば」)は、特定秘密であることはおかしいと言っているにすぎない。

そんなことは当たり前だ。
国民に即座に開示できるような文書を、特定秘密に指定していることがおかしいのだから。

そもそも情報公開法上の「不開示」基準と、特定秘密保護法上の特定秘密「指定」基準は異なる
特定秘密に指定できなくても、「不開示」になる情報など腐るほどある。
それこそ防衛公安情報は、情報公開法上、合法的に不開示にできる。特定秘密で無い文書ですらも。

ということは、防衛公安情報を審査会で争ったとしても、「不開示」は覆らない。
審査会が、「不開示」ではあるが「特定秘密指定はおかしい」という答申を行うことは不可能である(そのような機能は法的に存在しない)。
よって、審査会が特定秘密の適否についてチェックするなどということは、実質的には機能することはない。

「特定秘密も情報公開法で請求できるので、そこでチェックできるから大丈夫」と、諮問会議のある委員がテレビで話していたのを見たことがあるが、情報公開法の防衛公安情報の不開示基準の広さを無視した論であって、実態からかけはなれている。

本当にこの制度を機能させようとするのであれば、情報公開法を改正して、不開示の基準を狭める努力がなされる必要がある。
それとセットでないと意味が無い。


もう一つ気になったのは、特定秘密であった文書の廃棄について。
特定秘密に指定された文書が、いずれは解除され、公開されることは、検証のためには必要不可欠な制度である。

ただし、特定秘密をすべて残すかと言われると、兵器の部品を買った領収書のたぐいまですべて残せという話になり、そこまでする必要があるのかと言われると微妙な所でもある。
もちろんそれも含めて残せという主張はあり得るとは思うが、保存費用やスペースの問題からしても、あまり現実的とは思えない。
ただ、当然ではあるが、他の一般の文書よりは、永久に残す必要のある文書は多いはずである。

今回のパブコメへの回答を見ていると、「特定秘密である情報を記録する行政文書についても、公文書管理法に従って国立公文書館等への移管が行われる」(パブコメ回答7頁38)といったように、公文書管理法に丸投げするという書かれ方がされている。

公文書管理法に基づくならば、保存期間が満了した際に、各行政機関が国立公文書館等に移管して永久保存するか、廃棄するかを決定し、廃棄をする場合は内閣総理大臣の承認が必要(内閣府公文書管理課と国立公文書館がリストをチェック)となっている。

なお特定秘密保護法では、特例で、30年以上特定秘密に指定されていたものは、保存期間満了後にすべて国立公文書館等へ移管される(運用基準でもそこは明記)。
25年を超えるものは、運用基準案で「慎重に判断」すると書かれており、実質的には移管されるだろう。

そうすると、25年以下の文書は、「特別扱いせず、他の文書と同様の基準で判断をする」というのが内閣官房の方針のようである。
もちろん、特定秘密であった以上「重要」ではあるはずだが、国立公文書館等に移管して永久保存か廃棄を決める第一次的な判断をするのは各行政機関であるから、何食わぬ顔で他に紛れ込ませて廃棄する可能性はあるだろう。

これを防ぐためには、移管か廃棄するかを判断する際に使っていると思われる、公文書管理法上の行政文書ファイル管理簿に、当該文書が「特定秘密であった」との表示がなされる必要がある。
そうしておけば、内閣府公文書管理課や国立公文書館などが廃棄のチェックをする際に、厳重に審査できることになるだろう。
ただ、書いてきたような内容のパブコメに対して、内閣官房は回答をスルーしているため(パブコメ回答39頁38など)、そういったことをしたくない(つまり紛れ込ませて廃棄する手段は確保したい)という本音が透けて見えなくもない。

特定秘密であった時のチェック機能については、それなりに配慮が示されるようになってきたと思うが、特定秘密を外れた後の処置については、相当に不備が多いように思える。


さて、パブコメを振り返って考えたいのは、パブコメは果たして意味があったのかということだ。
結論から言うと、意味はあったとは思う。

総数は23,820通である。
法律が国会を通って1年近く経つのにこれだけ集まったのだから、色々な人々が監視をしているということをアピールできたので、十分なプレッシャーにはなっただろう。

法律はできたら終わりということではなく、執行のされ方が問題である。
常に監視されているというプレッシャーをかけ続けることが、法律の濫用を妨げることに繋がるのだ。

パブコメの意見を受けて、内容が大幅に修正される見込みは、募集の時期から考えてほぼありえなかった。
公布から施行まで1年というのは法律で決まっている以上、残り3ヵ月の段階で大幅な修正を加えることは不可能だったろう。

もしパブコメを官僚の側が本当に活かそうとするのであれば、もっと前の叩き台の段階を提示してパブコメを求めるべきである。
昨年の特定秘密保護法案の時は、まさしく叩き台を出してパブコメを募集したわけで、そういったことは制度上可能なはずである。
これは、パブコメをやる側の意識の問題でいかようにもなるのだ。

パブコメを真に意味のあるものにするのであれば、もう少しやり方を考える必要があるのでは無いかと思う。

今回の諮問会議で運用基準は固まり、あとは各行政機関の特定秘密の管理規則の策定がなされた上で施行されることになるだろう。

今後も分析は続けていきたいと考えている。
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