内閣法制局が憲法解釈変更の公文書を残さないこと [2015年公文書管理問題]
最近全くブログを書いていなかったのですが、さすがにこれは書き残しておこうと思ったので。
毎日新聞のスクープ記事です。私も事前に取材を受けていて、引用部分とは別の所でコメントが使われています。
引用します。
<憲法解釈変更>法制局、経緯公文書残さず
毎日新聞 9月28日(月)9時30分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150928-00000013-mai-pol
政府が昨年7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認に必要な憲法9条の解釈変更について、内閣法制局が内部での検討過程を公文書として残していないことが分かった。法制局によると、同6月30日に閣議決定案文の審査を依頼され、翌日「意見なし」と回答した。意思決定過程の記録を行政機関に義務づける公文書管理法の趣旨に反するとの指摘が専門家から出ている。
◇審査依頼の翌日回答
他国を攻撃した敵への武力行使を認める集団的自衛権の行使容認は、今月成立した安全保障関連法の土台だが、法制局はこれまで40年以上もこれを違憲と判断し、政府の憲法解釈として定着してきた。
法制局によると、解釈変更を巡り閣議前日の昨年6月30日、内閣官房の国家安全保障局から審査のために閣議決定案文を受領。閣議当日の翌7月1日には憲法解釈を担当する第1部の担当参事官が「意見はない」と国家安全保障局の担当者に電話で伝えた。
横畠裕介長官は今年6月の参院外交防衛委員会で、解釈変更を「法制局内で議論した」と答弁。衆院平和安全法制特別委では「局内に反対意見はなかったか」と問われ「ありません」と答弁した。法制局によると今回の件で文書として保存しているのは、安倍晋三首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の資料▽安保法制に関する与党協議会の資料▽閣議決定の案文--の3種類のみで、横畠氏の答弁を裏付ける記録はない。
「集団的自衛権行使は憲法上許されない」とする1972年の政府見解では、少なくとも長官以下幹部の決裁を経て決定されたことを示す文書が局内に残る。法制局が審査を行う場合、原則としてまず法制局参事官が内閣や省庁の担当者と直接協議し、文書を残すという。しかし、今回の場合、72年政府見解のケースのように参事官レベルから時間をかけて審査したことを示す文書はない。
公文書管理法(2011年4月施行)は「(行政機関は)意思決定に至る過程や実績を検証できるよう、文書を作成しなければならない」(第4条)とする。
解釈変更を巡る経緯について、富岡秀男総務課長は取材に「必要に応じて記録を残す場合もあれば、ない場合もある。今回は必要なかったということ。意図的に記録しなかったわけではない」と説明。公文書管理法の趣旨に反するとの指摘には「法にのっとって文書は適正に作成・管理し、不十分との指摘は当たらない」と答えた。横畠氏にも取材を申し込んだが、総務課を通じて「その内容の取材には応じない」と回答した。【日下部聡、樋岡徹也】
◇「民主主義の原点」…記録なし、識者批判
内閣法制局に関する本や論文を多数執筆している明治大の西川伸一教授(政治学)は「戦後の安全保障政策の大転換であるにもかかわらず、たった一晩で通すなど、あまりにも早すぎる。白紙委任に近い。従来の法制局ならあり得ないことだ」と指摘する。さらに、検討の過程を公文書として残していないことについても、「記録を残さないのは疑問。国民によるチェックや後世の人々の参考のため、記録を残すのは民主主義の原点だ。政府は閣議の議事録を公開するようになり、公文書管理法も制定された。その趣旨にのっとって、きちんと記録を残すべきだ」と話す。
〔引用終)
憲法9条の下での集団的自衛権の行使容認は、自民党政権の下で「不可能」として解釈されてきたものである。
これを変える以上、内閣法制局がどのような議論を行った末に解釈の変更を容認したのかということは重要な意味を持つ。
ところが、法制局曰く、「安保法制懇」と「与党協議会」の資料と閣議決定の案文しか、関連文書として保存していないとのことである。
ちなみに安保法制懇の資料はウェブ上で公開されている。
与党協議会の記録は、NPO法人情報公開クリアリングハウスが情報公開請求をして入手しており、その一部を公開している。
こう言っては何だが「法制局の職員で無くても容易に手に入る文書」である。
つまり、法制局は「誰でも手に入る」資料を、解釈変更を行った際の「意思決定過程の資料」の「すべて」だと主張しているのである。
常識的に考えて「そんなバカな」としか言いようがない。
もし法制局の主張が「本当」だとしたら、内部で「何一つ考えなかった=仕事をしなかった」と堂々と自ら主張していることになる。
「翌日伝えた」という速度については、事前調整の後の結果なのでまだわかるにしても、「電話で」というのもずさんにもほどがある。文書で渡して説明すべきものでしょう。
しかし、横畠裕介長官は「法制局内で議論した」と答弁もしているし、こちらの記事では、高村正彦・自民党副総裁や北側一雄・公明党副代表と長官は非公式に何度も会っており、具体的な調整を行っていたことが明らかになっている。
つまり、「検討している過程を行政文書として意図的に残さなかった」(「非公式」会談はあくまでも「私的に行っている」のであって「業務上」行っていない)ということでおそらく間違いがないだろう。
ではそもそも論として、こういった文書をきちんと残さないのは、法的にどのような問題があるのだろうか。
記事でも紹介されているが、「公文書管理法」の第4条への違反行為である。
第四条 行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
〔一は略〕
二 前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
〔以下略〕
公文書管理法第4条には、「経緯も含めた意思決定に至る過程」の文書を、検証のために作成しなければならないという義務が書かれており、「閣議決定やその経緯」について作成する義務が明確に法文に書かれている。
つまり「経緯」がわかるような文書を作成しなければならない以上、「公式」「非公式」の会談を問わず、長官が与党の関係者と閣議決定の案文の調整をしていれば、当然行政文書は作って記録を取らなければならない。
それを怠っているとすれば、重大な法律違反だと思われる。
おそらく法制局は、法の整合性を判断してきたというプライドから、「別の解釈があり得た」という記録はできるかぎり作りたくないという所もあるのだろう(情報公開請求されるのを嫌がって文書を作らない→作らなければ請求されても「存在しない」で跳ね返せる)。
また、今回の場合は長官と担当の参事官のみが関わり、記録をきちんと付けるような部下がいなかった可能性もあるだろう(それなら長官や参事官が自分で作らなければならない)。
ただ、法制局が今回の記事にどのような言い訳を付けようとも、公文書管理法が「検証」のために存在することは間違いないわけで、国民に対する説明責任を放棄したと言わざるをえない。
正直、解釈変更を認めたのであれば、むしろ堂々とどのような経緯で変更したのかをきちんと記録し、自分達の正当化を図る方が賢明だと私には思えるのだが・・・
この問題はきちんと批判を行っていく必要があると思われる。
安保法制に関わる決定過程も、果たしてきちんと残されているのかの検証も必要だろう。
続報がまたあれば、続きを書きたいと思います。
追記
今回の記事はラジオで話したことを文章にしたようなものです(荻上チキ・Session-22、TBSラジオ、2015年9月28日)。
ウェブ上に切り貼りして上げている人がいたので、紹介をしておきます。ご参考までに。
https://www.youtube.com/watch?v=qNS28lCT-8Q
毎日新聞のスクープ記事です。私も事前に取材を受けていて、引用部分とは別の所でコメントが使われています。
引用します。
<憲法解釈変更>法制局、経緯公文書残さず
毎日新聞 9月28日(月)9時30分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150928-00000013-mai-pol
政府が昨年7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認に必要な憲法9条の解釈変更について、内閣法制局が内部での検討過程を公文書として残していないことが分かった。法制局によると、同6月30日に閣議決定案文の審査を依頼され、翌日「意見なし」と回答した。意思決定過程の記録を行政機関に義務づける公文書管理法の趣旨に反するとの指摘が専門家から出ている。
◇審査依頼の翌日回答
他国を攻撃した敵への武力行使を認める集団的自衛権の行使容認は、今月成立した安全保障関連法の土台だが、法制局はこれまで40年以上もこれを違憲と判断し、政府の憲法解釈として定着してきた。
法制局によると、解釈変更を巡り閣議前日の昨年6月30日、内閣官房の国家安全保障局から審査のために閣議決定案文を受領。閣議当日の翌7月1日には憲法解釈を担当する第1部の担当参事官が「意見はない」と国家安全保障局の担当者に電話で伝えた。
横畠裕介長官は今年6月の参院外交防衛委員会で、解釈変更を「法制局内で議論した」と答弁。衆院平和安全法制特別委では「局内に反対意見はなかったか」と問われ「ありません」と答弁した。法制局によると今回の件で文書として保存しているのは、安倍晋三首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の資料▽安保法制に関する与党協議会の資料▽閣議決定の案文--の3種類のみで、横畠氏の答弁を裏付ける記録はない。
「集団的自衛権行使は憲法上許されない」とする1972年の政府見解では、少なくとも長官以下幹部の決裁を経て決定されたことを示す文書が局内に残る。法制局が審査を行う場合、原則としてまず法制局参事官が内閣や省庁の担当者と直接協議し、文書を残すという。しかし、今回の場合、72年政府見解のケースのように参事官レベルから時間をかけて審査したことを示す文書はない。
公文書管理法(2011年4月施行)は「(行政機関は)意思決定に至る過程や実績を検証できるよう、文書を作成しなければならない」(第4条)とする。
解釈変更を巡る経緯について、富岡秀男総務課長は取材に「必要に応じて記録を残す場合もあれば、ない場合もある。今回は必要なかったということ。意図的に記録しなかったわけではない」と説明。公文書管理法の趣旨に反するとの指摘には「法にのっとって文書は適正に作成・管理し、不十分との指摘は当たらない」と答えた。横畠氏にも取材を申し込んだが、総務課を通じて「その内容の取材には応じない」と回答した。【日下部聡、樋岡徹也】
◇「民主主義の原点」…記録なし、識者批判
内閣法制局に関する本や論文を多数執筆している明治大の西川伸一教授(政治学)は「戦後の安全保障政策の大転換であるにもかかわらず、たった一晩で通すなど、あまりにも早すぎる。白紙委任に近い。従来の法制局ならあり得ないことだ」と指摘する。さらに、検討の過程を公文書として残していないことについても、「記録を残さないのは疑問。国民によるチェックや後世の人々の参考のため、記録を残すのは民主主義の原点だ。政府は閣議の議事録を公開するようになり、公文書管理法も制定された。その趣旨にのっとって、きちんと記録を残すべきだ」と話す。
〔引用終)
憲法9条の下での集団的自衛権の行使容認は、自民党政権の下で「不可能」として解釈されてきたものである。
これを変える以上、内閣法制局がどのような議論を行った末に解釈の変更を容認したのかということは重要な意味を持つ。
ところが、法制局曰く、「安保法制懇」と「与党協議会」の資料と閣議決定の案文しか、関連文書として保存していないとのことである。
ちなみに安保法制懇の資料はウェブ上で公開されている。
与党協議会の記録は、NPO法人情報公開クリアリングハウスが情報公開請求をして入手しており、その一部を公開している。
こう言っては何だが「法制局の職員で無くても容易に手に入る文書」である。
つまり、法制局は「誰でも手に入る」資料を、解釈変更を行った際の「意思決定過程の資料」の「すべて」だと主張しているのである。
常識的に考えて「そんなバカな」としか言いようがない。
もし法制局の主張が「本当」だとしたら、内部で「何一つ考えなかった=仕事をしなかった」と堂々と自ら主張していることになる。
「翌日伝えた」という速度については、事前調整の後の結果なのでまだわかるにしても、「電話で」というのもずさんにもほどがある。文書で渡して説明すべきものでしょう。
しかし、横畠裕介長官は「法制局内で議論した」と答弁もしているし、こちらの記事では、高村正彦・自民党副総裁や北側一雄・公明党副代表と長官は非公式に何度も会っており、具体的な調整を行っていたことが明らかになっている。
つまり、「検討している過程を行政文書として意図的に残さなかった」(「非公式」会談はあくまでも「私的に行っている」のであって「業務上」行っていない)ということでおそらく間違いがないだろう。
ではそもそも論として、こういった文書をきちんと残さないのは、法的にどのような問題があるのだろうか。
記事でも紹介されているが、「公文書管理法」の第4条への違反行為である。
第四条 行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
〔一は略〕
二 前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
〔以下略〕
公文書管理法第4条には、「経緯も含めた意思決定に至る過程」の文書を、検証のために作成しなければならないという義務が書かれており、「閣議決定やその経緯」について作成する義務が明確に法文に書かれている。
つまり「経緯」がわかるような文書を作成しなければならない以上、「公式」「非公式」の会談を問わず、長官が与党の関係者と閣議決定の案文の調整をしていれば、当然行政文書は作って記録を取らなければならない。
それを怠っているとすれば、重大な法律違反だと思われる。
おそらく法制局は、法の整合性を判断してきたというプライドから、「別の解釈があり得た」という記録はできるかぎり作りたくないという所もあるのだろう(情報公開請求されるのを嫌がって文書を作らない→作らなければ請求されても「存在しない」で跳ね返せる)。
また、今回の場合は長官と担当の参事官のみが関わり、記録をきちんと付けるような部下がいなかった可能性もあるだろう(それなら長官や参事官が自分で作らなければならない)。
ただ、法制局が今回の記事にどのような言い訳を付けようとも、公文書管理法が「検証」のために存在することは間違いないわけで、国民に対する説明責任を放棄したと言わざるをえない。
正直、解釈変更を認めたのであれば、むしろ堂々とどのような経緯で変更したのかをきちんと記録し、自分達の正当化を図る方が賢明だと私には思えるのだが・・・
この問題はきちんと批判を行っていく必要があると思われる。
安保法制に関わる決定過程も、果たしてきちんと残されているのかの検証も必要だろう。
続報がまたあれば、続きを書きたいと思います。
追記
今回の記事はラジオで話したことを文章にしたようなものです(荻上チキ・Session-22、TBSラジオ、2015年9月28日)。
ウェブ上に切り貼りして上げている人がいたので、紹介をしておきます。ご参考までに。
https://www.youtube.com/watch?v=qNS28lCT-8Q
特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (4)改正 [2015年公文書管理問題]
2014年12月末に行われたパブリックコメントを受け、2015年1月21日に公文書管理委員会が開かれ、「行政文書の管理に関するガイドライン」が改正されました。
公文書管理委員会(第39回)配付資料
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20150121haifu.html
このガイドラインは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成を目的としています。
12月末までに3回にわたって、その改正案について書いてきました。
そこに書いた文章をもう一度載せておきます。
この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもあります。 濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要なのです。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能となります。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまいます。
すでに改正案の内容については、第1回と第2回で述べていますが、簡単にまとめておくと、
・特定秘密以外の秘密を、「極秘文書」と「秘文書」に原則整理する。
・「極秘」は5年以内・延長可、「秘」は期限は無い(文書の保存期間内)。
・「極秘」は部局長、「秘」は課長が指定。
・秘密文書専用の管理簿で管理する。
・管理状況は毎年大臣に報告する。
・管理の規則を作る。
となります。
これまで、秘密文書の基準はほぼ50年前に作られたザックリとした規定しかなかったため、整備されることは良いことだと思います。
以下、パブコメを受けてどう変わったのかを書いてきます。
パブコメを受けて変わったところは、文字の微調整を除くと2ヵ所。
一つ目は、秘密指定の期間が満了した場合は、自動的に解除されることが明記された(対照表9頁(4))。
パブコメへの返答13を見ると、自動解除させるつもりだったが言葉が足りていなかったという書き方をしているので、基準を明確にしたということでしょう。
これはパブコメで私も指摘していたところ。なので、きちんと書かれて良かったと思います。
二つ目は、指定した秘密文書のうち、「程度等に応じて必要と認める場合」に大臣に報告するとなっていたところを、「特に重要なものについては」に変更された(対照表11頁)。
これは、あいまいな書き方をしていた所を、「重要なもの」と明記したということでしょう。
変えて良くなったと思いますが、どこまで実効性があるかは未知数でしょうか。
これ以外の所は実質的には変更がありませんでした。もっと改善点はあったかと思いますが・・・
他に主なパブコメに対する答えがなされています。
私が注目したものは以下の通り。
・「極秘」「秘」以外のカテゴリーが置けることへの批判(3,4)
→置く場合は、行政文書管理規則に載せる必要があるので、公文書管理委員会に諮問される。
(コメント)
情報公開クリアリングハウスの調査によれば、「TPP秘密文書」(内閣府、農水省)、「NATO秘密文書」(防衛省)など、個別の秘密文書類型が存在している。
内閣府の説明から考えると、この類型は残るが、その管理方法などは公文書管理委員会で審査を受けるということのようだ。
・「極秘」「秘」の定義が曖昧であるという批判(5)
→各機関が業務内容や組織体制を踏まえて判断
(コメント)
この部分が曖昧だと、結局は秘密が広がることになると思われる。なので、各行政機関に投げっぱなしはまずいと思う。
そうなると、制限の多い「特定秘密」制度を使うよりも、漏洩の罰則は緩いけど使いやすい「極秘」制度が多用されるのではないかというおそれがある。
・「秘」に期間の上限がないのはおかしい(11,12)
→「極秘」に5年という期限があるのは、定期的に管理状況を確認するためにすぎない。「秘」はそれに該当しないので、保存期間を超えない(ガイドラインにも「極秘」の確認の話は追記された、対照表11頁)。
(コメント)
どうやら「極秘」を5年以内と制限を切ったのは、内部事情ということらしい。あまり国民の側を向いているようにも見えないが・・・
しかし、「秘」の管理状況は確認しなくて良いのか。
・秘密文書の管理に関する内部通報の仕組みを別立てで整備すべき(27,28)
→特に別に作る必要はない。通報者の不利益にならないようにする。
(コメント)
確かに特定秘密ではないので、普通の窓口でも良いのかもしれないが・・・
・1年以内に秘密文書を管理できるようにすべき(31)
→3年としたのは、公文書管理法施行時に、それ以前からある文書への適用は3年以内を目途に作業を終えるとしたことを参考にした。
(コメント)
公文書管理法施行時に文書を整理したのに、なぜまた3年が必要なのか。
ただ、秘密文書の管理状況はカオスなのだなと推測はできるので止むなしか。
・各行政機関で作成されることになる秘密文書管理要領を公表すべき(32,33)
→各機関で判断するもの
(コメント)
管理要領が作られた後に、各機関に情報公開請求をしてみないとわからないということになりそう。
新聞などに追及してほしいところ。
・行政文書ファイル管理簿に秘密文書の存在の有無などの欄を設けるべき(36)
→行政文書ファイル管理簿は「行政文書の適切な管理及び行政機関における行政文書ファイル等の保有状況を国民に明らかにすることを目的とするものであり、秘密文書の指定の有無を記載しなくとも、当該目的は達成されるもの」である。
(コメント)
行政文書ファイル管理簿の定義を狭く見すぎているのではないか?
「適切な管理」になぜ秘密文書の指定の有無が入らないのか?
説明になっていない。
ただ、管理簿の改訂を頑なに内閣府が拒む理由は見えてきた。
どうやら、ここを修正するには、ガイドラインを直すというよりは、公文書管理法第7条の管理簿についての条文や、関連する施行令の条文を直さないと解決しない問題のようだ。
その条文に秘密文書の管理についての項目を入れないと、内閣府は変える気がないということがわかった。
以上が細部についてのコメントです。
総合的に考えると、これまでのたいした基準が無かった時よりは改善されるのではないでしょうか。
その意味では整備されることは良かったと思います。
気になるのは、他の方も指摘をされていると思うが、「特定秘密」と「極秘」「秘」を各行政機関がどう使い分けていくかでしょうか。
「特定秘密」は管理が厳密で、他省庁との情報交換も容易ではなくなるので、漏洩時の罰則が緩くなるのを覚悟で「極秘」扱いにしていくということも考えられそう。
「特定秘密」「極秘」「秘」の運用を比較しながら、秘密全体をどう減らしていくかを考えていく必要があると思います。
どうやって監視するかがなかなか難しいですが、知恵を絞っていくしかないと思います。
公文書管理委員会(第39回)配付資料
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20150121haifu.html
このガイドラインは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成を目的としています。
12月末までに3回にわたって、その改正案について書いてきました。
そこに書いた文章をもう一度載せておきます。
この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもあります。 濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要なのです。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能となります。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまいます。
すでに改正案の内容については、第1回と第2回で述べていますが、簡単にまとめておくと、
・特定秘密以外の秘密を、「極秘文書」と「秘文書」に原則整理する。
・「極秘」は5年以内・延長可、「秘」は期限は無い(文書の保存期間内)。
・「極秘」は部局長、「秘」は課長が指定。
・秘密文書専用の管理簿で管理する。
・管理状況は毎年大臣に報告する。
・管理の規則を作る。
となります。
これまで、秘密文書の基準はほぼ50年前に作られたザックリとした規定しかなかったため、整備されることは良いことだと思います。
以下、パブコメを受けてどう変わったのかを書いてきます。
パブコメを受けて変わったところは、文字の微調整を除くと2ヵ所。
一つ目は、秘密指定の期間が満了した場合は、自動的に解除されることが明記された(対照表9頁(4))。
パブコメへの返答13を見ると、自動解除させるつもりだったが言葉が足りていなかったという書き方をしているので、基準を明確にしたということでしょう。
これはパブコメで私も指摘していたところ。なので、きちんと書かれて良かったと思います。
二つ目は、指定した秘密文書のうち、「程度等に応じて必要と認める場合」に大臣に報告するとなっていたところを、「特に重要なものについては」に変更された(対照表11頁)。
これは、あいまいな書き方をしていた所を、「重要なもの」と明記したということでしょう。
変えて良くなったと思いますが、どこまで実効性があるかは未知数でしょうか。
これ以外の所は実質的には変更がありませんでした。もっと改善点はあったかと思いますが・・・
他に主なパブコメに対する答えがなされています。
私が注目したものは以下の通り。
・「極秘」「秘」以外のカテゴリーが置けることへの批判(3,4)
→置く場合は、行政文書管理規則に載せる必要があるので、公文書管理委員会に諮問される。
(コメント)
情報公開クリアリングハウスの調査によれば、「TPP秘密文書」(内閣府、農水省)、「NATO秘密文書」(防衛省)など、個別の秘密文書類型が存在している。
内閣府の説明から考えると、この類型は残るが、その管理方法などは公文書管理委員会で審査を受けるということのようだ。
・「極秘」「秘」の定義が曖昧であるという批判(5)
→各機関が業務内容や組織体制を踏まえて判断
(コメント)
この部分が曖昧だと、結局は秘密が広がることになると思われる。なので、各行政機関に投げっぱなしはまずいと思う。
そうなると、制限の多い「特定秘密」制度を使うよりも、漏洩の罰則は緩いけど使いやすい「極秘」制度が多用されるのではないかというおそれがある。
・「秘」に期間の上限がないのはおかしい(11,12)
→「極秘」に5年という期限があるのは、定期的に管理状況を確認するためにすぎない。「秘」はそれに該当しないので、保存期間を超えない(ガイドラインにも「極秘」の確認の話は追記された、対照表11頁)。
(コメント)
どうやら「極秘」を5年以内と制限を切ったのは、内部事情ということらしい。あまり国民の側を向いているようにも見えないが・・・
しかし、「秘」の管理状況は確認しなくて良いのか。
・秘密文書の管理に関する内部通報の仕組みを別立てで整備すべき(27,28)
→特に別に作る必要はない。通報者の不利益にならないようにする。
(コメント)
確かに特定秘密ではないので、普通の窓口でも良いのかもしれないが・・・
・1年以内に秘密文書を管理できるようにすべき(31)
→3年としたのは、公文書管理法施行時に、それ以前からある文書への適用は3年以内を目途に作業を終えるとしたことを参考にした。
(コメント)
公文書管理法施行時に文書を整理したのに、なぜまた3年が必要なのか。
ただ、秘密文書の管理状況はカオスなのだなと推測はできるので止むなしか。
・各行政機関で作成されることになる秘密文書管理要領を公表すべき(32,33)
→各機関で判断するもの
(コメント)
管理要領が作られた後に、各機関に情報公開請求をしてみないとわからないということになりそう。
新聞などに追及してほしいところ。
・行政文書ファイル管理簿に秘密文書の存在の有無などの欄を設けるべき(36)
→行政文書ファイル管理簿は「行政文書の適切な管理及び行政機関における行政文書ファイル等の保有状況を国民に明らかにすることを目的とするものであり、秘密文書の指定の有無を記載しなくとも、当該目的は達成されるもの」である。
(コメント)
行政文書ファイル管理簿の定義を狭く見すぎているのではないか?
「適切な管理」になぜ秘密文書の指定の有無が入らないのか?
説明になっていない。
ただ、管理簿の改訂を頑なに内閣府が拒む理由は見えてきた。
どうやら、ここを修正するには、ガイドラインを直すというよりは、公文書管理法第7条の管理簿についての条文や、関連する施行令の条文を直さないと解決しない問題のようだ。
その条文に秘密文書の管理についての項目を入れないと、内閣府は変える気がないということがわかった。
以上が細部についてのコメントです。
総合的に考えると、これまでのたいした基準が無かった時よりは改善されるのではないでしょうか。
その意味では整備されることは良かったと思います。
気になるのは、他の方も指摘をされていると思うが、「特定秘密」と「極秘」「秘」を各行政機関がどう使い分けていくかでしょうか。
「特定秘密」は管理が厳密で、他省庁との情報交換も容易ではなくなるので、漏洩時の罰則が緩くなるのを覚悟で「極秘」扱いにしていくということも考えられそう。
「特定秘密」「極秘」「秘」の運用を比較しながら、秘密全体をどう減らしていくかを考えていく必要があると思います。
どうやって監視するかがなかなか難しいですが、知恵を絞っていくしかないと思います。
特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (3)私のパブコメ [2014年公文書管理問題]
2014年12月17日、政府は「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始しました。
締切は翌年1月6日です。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成となります。
なお繰り返しになりますが、この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもあります。
濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要なのです。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能となります。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまいます。
第1回で、現在の「特定秘密以外の秘密文書」の管理について述べました。
第2回は、その改正案の解説をしました。
今回は最後に私が書いたパブリックコメントを挙げておきます。
具体的にはすでに前回のブログで解説をしていますので、細かくは説明しません。
読みやすさを考慮してレイアウトを変更してあります。
文中の「改正案」はこれです。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000121224
「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についてのパブリックコメント
2014年12月25日
瀬畑 源
・ガイドラインの「第6 行政文書ファイル管理簿」の改訂を行い、秘密文書(特定秘密も含む)の存在の有無、秘密の指定期限などを記載する欄を設けるべきである。
改正案7頁の「第10 2(5)」において、「秘密文書は、秘密文書を管理するための簿冊において管理するもの」とされ、秘密文書管理簿を別に作成して、秘密指定はそこで管理をするとされている。しかし、行政文書ファイル管理簿との事実上の二重帳簿になっており、前者を見てもその文書に秘密文書が含まれていたかどうかはわからない。なお、特定秘密も同様の仕組みになっている。
よって、「秘密文書(特定秘密も含む)の存在の有無」などの欄を行政文書ファイル管理簿に設け、秘密指定解除後に検証を行いやすくするべきである。なお、秘密指定中ならば、この欄を情報公開法に基づいて非開示にすることが可能であり、欄があること自体に問題はない。また、保存期間の満了の際の移管・廃棄の判断を行う際に、誤って「歴史公文書等」にあたるものの誤廃棄を防ぐためにも重要である。
・ガイドラインの「第8 点検・監査及び管理状況の報告等」のそれぞれの項に、秘密文書の点検・監査・報告を重点的に行うことを明記するべきである。
秘密文書の適切な管理は、国民に対する責務というだけではなく、内部統制のためにも必要なはずである。よって、管理を徹底化するための点検や監査などの仕組みを、より厳密にすることをガイドラインに明記するべきである。
〔注:上記の2つは、今回の改正案に入っていなかった箇所に「追加すべき」ものとして挙げました。〕
・「第10 2(1)」解説部分(8頁)にある、「原則として、極秘文書及び秘文書の2つに区分し指定する」のうち、「原則として」は削除するべきである。
今回のガイドライン改正は、これまで各行政機関に任されてきた秘密指定を統一化するために行われるものである。そこに「例外」を作ることは、現在の各行政機関独自の秘密指定制度を残すことに繋がるため、今回の改正自体を無意味にする可能性が高い。よって、「極秘」「秘」の2つの分類に、全ての秘密文書を合わせるべきである。
ただ、どうしても「原則として」を残さざるをえないとするのであれば、例外にあたる秘密文書は「極秘文書と同様の文書管理を行うこと」(秘密指定期間など)をガイドラインに明記するべきである。また、例外規定を作成する場合は、公文書管理委員会の同意が必要であることを明記し、規定の公開を義務づけるべきである。
秘密指定制度自体への国民の不信感の大きさは、特定秘密保護法への反対運動の大きさからもうかがえる。そのために、透明性のある仕組みの構築をするべきである。
・「第10 2(1)」の「極秘」「秘」文書の定義が曖昧であるため、特定秘密保護法における「別表」(特定秘密に指定できる情報の限定)と同様の規定を、各行政機関で作成される規定の中に、この作成義務を盛り込むべきである。
特定秘密保護法において、「別表」が存在していても、指定範囲が広がることへの懸念が表明されていた。今回の「極秘」「秘」については、その「別表」にあたるものすらも、作成義務を各行政機関は負っていない。このため、無制限に指定範囲が広がる危険性がある。
秘密指定を最小限に抑えることは、秘密文書を各行政機関がきちんと管理するためにも必要な措置である。よって、各行政機関に対して、秘密指定の可能な情報類型を規定に組み込なければならないという義務を、ガイドラインに入れるべきである。
・「第10 2(2)」の「秘文書」も、秘密指定の期間を「5年を超えない」と限定する。また、秘密指定の期限が満了した際に延長手続きが取られなかった場合、秘密を「自動解除」するようにするべきである。
「極秘文書」は特定秘密に準じた期間設定をしているが、「秘文書」については全く限定がなく、無制限に指定が可能となっている。これも同様に「5年を超えない」といったような期間の限定を行い、満了時に指定の見直しを行うことを可能にするべきである。また、「秘文書」の場合、件数が多い可能性も高く、見直しが繁雑になることも想定されるので、延長手続きが取られなかった秘密指定は、自動的に解除される規定をガイドラインに入れるべきである。
・「第10 2(7)」の「管理状況」への大臣への報告義務についての解説部分(9頁)にある「秘密文書の管理状況については、第8-3-(1)の管理状況の報告事項とすることを予定している」の「ことを予定している」を削除すること。
秘密文書の管理も、公文書管理法に基づいて行われる以上、管理状況の報告は管理法上の義務である。報告内容は、「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」の34-35頁に準じるものとするよう、報告の項目をガイドラインに列挙するべきである。
・改正案13頁「平成29年度末を目途に必要な措置を完了するよう努めるもの」とあるが、これを平成27年度末にするべきである。
すでに公文書管理法が施行されて4年近くが経過しており、秘密文書の管理が徹底されるまでに3年かかるというのは、明らかに過剰な期間設定と考える。少なくとも1年以内には完了すべきである。
・改正案19頁「モデル要領」の「第13 秘密文書の管理の適正に関する通報」に関連する規定は、ガイドラインに新たな項目を立て、特定秘密における内部通報制度と同等の仕組みを構築するべきである。
モデル要領のこの部分は、他に一切の説明が無い。公益通報者保護法に則って置かれているのならば、保護法自体が犯罪行為(刑罰規定に違反する行為)にあたるものしか保護していないため、ここで規定されている「秘密文書の管理が本要領に従って行われていないと思料した者は、○○(例:法令遵守対応窓口等)に通報できる」に適用されるのか疑問である。
また、秘密指定の不正を通報した場合、具体的に対応する仕組みが全く述べられていない。よって、この規定は形式的に置かれているにすぎず、機能させることを意識しているとは思えない。
秘密指定制度の適正な運用を担保するためには、公益通報制度は重要な役割を担っている。よって、最低限、特定秘密保護法における内部通報制度に準ずる統一的な仕組みをきちんと構築するべきである。
以上
連載はこれで終わりです。なにか御質問などがあればtwitterなどでご連絡下さい。
締切は翌年1月6日です。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成となります。
なお繰り返しになりますが、この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもあります。
濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要なのです。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能となります。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまいます。
第1回で、現在の「特定秘密以外の秘密文書」の管理について述べました。
第2回は、その改正案の解説をしました。
今回は最後に私が書いたパブリックコメントを挙げておきます。
具体的にはすでに前回のブログで解説をしていますので、細かくは説明しません。
読みやすさを考慮してレイアウトを変更してあります。
文中の「改正案」はこれです。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000121224
「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についてのパブリックコメント
2014年12月25日
瀬畑 源
・ガイドラインの「第6 行政文書ファイル管理簿」の改訂を行い、秘密文書(特定秘密も含む)の存在の有無、秘密の指定期限などを記載する欄を設けるべきである。
改正案7頁の「第10 2(5)」において、「秘密文書は、秘密文書を管理するための簿冊において管理するもの」とされ、秘密文書管理簿を別に作成して、秘密指定はそこで管理をするとされている。しかし、行政文書ファイル管理簿との事実上の二重帳簿になっており、前者を見てもその文書に秘密文書が含まれていたかどうかはわからない。なお、特定秘密も同様の仕組みになっている。
よって、「秘密文書(特定秘密も含む)の存在の有無」などの欄を行政文書ファイル管理簿に設け、秘密指定解除後に検証を行いやすくするべきである。なお、秘密指定中ならば、この欄を情報公開法に基づいて非開示にすることが可能であり、欄があること自体に問題はない。また、保存期間の満了の際の移管・廃棄の判断を行う際に、誤って「歴史公文書等」にあたるものの誤廃棄を防ぐためにも重要である。
・ガイドラインの「第8 点検・監査及び管理状況の報告等」のそれぞれの項に、秘密文書の点検・監査・報告を重点的に行うことを明記するべきである。
秘密文書の適切な管理は、国民に対する責務というだけではなく、内部統制のためにも必要なはずである。よって、管理を徹底化するための点検や監査などの仕組みを、より厳密にすることをガイドラインに明記するべきである。
〔注:上記の2つは、今回の改正案に入っていなかった箇所に「追加すべき」ものとして挙げました。〕
・「第10 2(1)」解説部分(8頁)にある、「原則として、極秘文書及び秘文書の2つに区分し指定する」のうち、「原則として」は削除するべきである。
今回のガイドライン改正は、これまで各行政機関に任されてきた秘密指定を統一化するために行われるものである。そこに「例外」を作ることは、現在の各行政機関独自の秘密指定制度を残すことに繋がるため、今回の改正自体を無意味にする可能性が高い。よって、「極秘」「秘」の2つの分類に、全ての秘密文書を合わせるべきである。
ただ、どうしても「原則として」を残さざるをえないとするのであれば、例外にあたる秘密文書は「極秘文書と同様の文書管理を行うこと」(秘密指定期間など)をガイドラインに明記するべきである。また、例外規定を作成する場合は、公文書管理委員会の同意が必要であることを明記し、規定の公開を義務づけるべきである。
秘密指定制度自体への国民の不信感の大きさは、特定秘密保護法への反対運動の大きさからもうかがえる。そのために、透明性のある仕組みの構築をするべきである。
・「第10 2(1)」の「極秘」「秘」文書の定義が曖昧であるため、特定秘密保護法における「別表」(特定秘密に指定できる情報の限定)と同様の規定を、各行政機関で作成される規定の中に、この作成義務を盛り込むべきである。
特定秘密保護法において、「別表」が存在していても、指定範囲が広がることへの懸念が表明されていた。今回の「極秘」「秘」については、その「別表」にあたるものすらも、作成義務を各行政機関は負っていない。このため、無制限に指定範囲が広がる危険性がある。
秘密指定を最小限に抑えることは、秘密文書を各行政機関がきちんと管理するためにも必要な措置である。よって、各行政機関に対して、秘密指定の可能な情報類型を規定に組み込なければならないという義務を、ガイドラインに入れるべきである。
・「第10 2(2)」の「秘文書」も、秘密指定の期間を「5年を超えない」と限定する。また、秘密指定の期限が満了した際に延長手続きが取られなかった場合、秘密を「自動解除」するようにするべきである。
「極秘文書」は特定秘密に準じた期間設定をしているが、「秘文書」については全く限定がなく、無制限に指定が可能となっている。これも同様に「5年を超えない」といったような期間の限定を行い、満了時に指定の見直しを行うことを可能にするべきである。また、「秘文書」の場合、件数が多い可能性も高く、見直しが繁雑になることも想定されるので、延長手続きが取られなかった秘密指定は、自動的に解除される規定をガイドラインに入れるべきである。
・「第10 2(7)」の「管理状況」への大臣への報告義務についての解説部分(9頁)にある「秘密文書の管理状況については、第8-3-(1)の管理状況の報告事項とすることを予定している」の「ことを予定している」を削除すること。
秘密文書の管理も、公文書管理法に基づいて行われる以上、管理状況の報告は管理法上の義務である。報告内容は、「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」の34-35頁に準じるものとするよう、報告の項目をガイドラインに列挙するべきである。
・改正案13頁「平成29年度末を目途に必要な措置を完了するよう努めるもの」とあるが、これを平成27年度末にするべきである。
すでに公文書管理法が施行されて4年近くが経過しており、秘密文書の管理が徹底されるまでに3年かかるというのは、明らかに過剰な期間設定と考える。少なくとも1年以内には完了すべきである。
・改正案19頁「モデル要領」の「第13 秘密文書の管理の適正に関する通報」に関連する規定は、ガイドラインに新たな項目を立て、特定秘密における内部通報制度と同等の仕組みを構築するべきである。
モデル要領のこの部分は、他に一切の説明が無い。公益通報者保護法に則って置かれているのならば、保護法自体が犯罪行為(刑罰規定に違反する行為)にあたるものしか保護していないため、ここで規定されている「秘密文書の管理が本要領に従って行われていないと思料した者は、○○(例:法令遵守対応窓口等)に通報できる」に適用されるのか疑問である。
また、秘密指定の不正を通報した場合、具体的に対応する仕組みが全く述べられていない。よって、この規定は形式的に置かれているにすぎず、機能させることを意識しているとは思えない。
秘密指定制度の適正な運用を担保するためには、公益通報制度は重要な役割を担っている。よって、最低限、特定秘密保護法における内部通報制度に準ずる統一的な仕組みをきちんと構築するべきである。
以上
連載はこれで終わりです。なにか御質問などがあればtwitterなどでご連絡下さい。
特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (2)ガイドライン改正案 [2014年公文書管理問題]
2014年12月17日、政府は「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始した。
締切は翌年1月6日である。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。
前回の記事で、現在の「特定秘密以外の秘密文書」の管理について述べた。
今回は解説の第2回。
なお、この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもある。
濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要である。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能になるのだ。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまうので注意が必要である。
今回の記事は相変わらず長いですが、気長におつきあい下さい。
しかも技術的な話なのでわかりづらいかもしれません。かみ砕いて説明しているつもりではありますが・・・。
(2)ガイドライン改正案
「特定秘密以外の秘密文書」(以後「秘密文書」)の統一基準を決めるために、「行政文書の管理に関するガイドライン」の改正案が政府から提示されている。
このガイドラインは公文書管理法に基づくものであり、行政文書の管理はすべてこれに基づいて行われることを原則としている。
なので、ガイドラインに基準が書き込まれれば、必然的に各行政機関はこれに従う義務が発生することになる。
改正案は新旧対照表が見やすいので、こちらの方が分かりやすいかもしれない。
今回の改正案は、ガイドラインに「第10」を新設して、秘密文書に関する規定を付け足す形になっている。
1項目ずつ見ていきたい。
第10 公表しないこととされている情報が記録された行政文書の管理
1 特定秘密である情報を記録する行政文書の管理
特定秘密(特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)第3条第1項に規定する特定秘密をいう。以下同じ。)である情報を記録する行政文書については、この訓令に定めるもののほか、同法、特定秘密の保護に関する法律施行令(平成26年政令第336号)、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(平成26年10月14日閣議決定)及び同令第12条第1項の規定に基づき定められた○○省特定秘密保護規程に基づき管理するものとする。
まず、1では「特定秘密」に関する規定も、ついでとばかりに放り込まれている。
要するに、特定秘密保護法やその運用基準で細かいことは決めたからそちらを見ろということである。
(5)でも書くが、事実上の「二重帳簿」になっていることが大きな問題である。
これについては、すでに以前にブログに書いたことがある。
特定秘密保護法関連のパブコメについて(4)特定秘密指定管理簿
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-07
「特定秘密」も公文書管理法の適用を受けるので、すべての行政文書が登載される「行政文書ファイル管理簿」に情報が記載される。
ただし、今の行政文書ファイル管理簿の仕組みでは、特定秘密であるかどうかはわからない。
以前から私は、行政文書ファイル管理簿に「特定秘密であるか否か(過去も含む)」の欄を作ること、特定秘密の期間はファイル名自体を非公開にしてもかまわないこと(情報公開法上可能)、特定秘密の指定が解除された際には過去に特定秘密であったことが外部から分かるようにすること(検証のため)、を主張している。
ただ、最近公文書管理委員会の議事録を見て気づいたのだが、どうやら内閣情報調査室は「特定秘密」が含まれる文書を「ファイル名を曖昧にして行政文書ファイル管理簿に載せる」ように指導しているようなのだ(公文書管理委員会第38回議事録、2014年8月1日、8頁)。
これは、「特定秘密隠し」を指導しているとしか思えない。
つまり「ファイル名を公開している」と見せかけて、名称を曖昧にすることで内容をわからなくさせ(特定秘密が解除された後も)、廃棄のチェックをすり抜けることも容易にさせようとしている(チェックする側がファイル名から重要度が分からない)。
せめて、過去に特定秘密であったことがわかるような記載欄があれば良いが、それが存在しない以上、簡単に他の文書に紛れ込ませて特定秘密を廃棄することが可能になってしまう。
つくづく思うのだが、特定秘密保護法にしろ、今回の秘密文書統一規定にしろ、現行の「行政文書ファイル管理簿」を蔑ろにし、二重帳簿で管理して最終的な廃棄をやりやすくさせようとする制度設計をしているようにしか見えない。
秘密制度の導入を正当化するなら、きちんと残して公開する仕組みを担保しなければならないのだが、そこに対する意識の低さには唖然とするところがある。
次からが今回の本題。
2 特定秘密以外の公表しないこととされている情報が記録された行政文書のうち秘密保全を要する行政文書(特定秘密である情報を記録する行政文書を除く。以下「秘密文書」という。)の管理
(1) 秘密文書は、次の種類に区分し、指定する。
極秘文書 秘密保全の必要が高く、その漏えいが国の安全、利益に損害を与えるおそれ
のある情報を含む行政文書
秘文書 極秘文書に次ぐ程度の秘密であって、関係者以外には知らせてならない情報を
含む極秘文書以外の行政文書
秘密文書は「極秘」と「秘」の2つで統一する。これまでの「機密」が無くなった。
ただ、この解説にあたる部分で、「原則として、極秘文書及び秘文書の2つに区分し・・・」(改正案8頁)と記載されており、「原則として」という不穏な言葉が入っている。
この言葉が存在すると、これまで各行政機関が勝手に作ってきた秘密文書カテゴリーを容認する余地を残すことに繋がってしまう。
今回は基準の統一化が目的である以上、この2つのカテゴリーに全てを当てはめさせるべきである。
なので、「原則として」は外させる必要があるだろう。
また、ここに書かれている「極秘」と「秘」の違いはかなり曖昧である。
各行政機関によって事情が異なるので、統一基準での限定は難しいだろう。
ただ、ほおっておくと曖昧に拡大するので、各行政機関ごとに「特定秘密」の別表のような、具体的な情報類型の設定を行うことの義務化は求めてよいと思われる。
(2) 秘密文書の指定は、極秘文書については各部局長が、秘文書については各課長が期間(極秘文書については5年を超えない範囲内の期間とする。(3)において同じ。)を定めてそれぞれ行うものとし(以下これらの指定をする者を「指定者」という。)、その指定は必要最小限にとどめるものとする。
(3) 指定者は、秘密文書の指定期間(この規定により延長した指定期間を含む。)が満了する時において、満了後も引き続き秘密文書として管理を要すると認めるときは、期間を定めてその指定期間を延長するものとする。また、指定期間は、通じて当該行政文書の保存期間を超えることができないものとする。
「極秘文書」は「特定秘密」と同様に5年以内の期限を切って(2)、満了時に延長するかを見直す(3)ことになる。
また、文書自体の保存年限を超えて秘密指定を行うことができなくなっている。
これは、「特定秘密」とのバランスを考えたということになるだろう。
ただ、なぜ「秘文書」には期限が何も書かれていないのかが理解に苦しむ。
極秘よりも短くても大丈夫なはずなのだから、例えば5年以内で原則延長不可みたいな制度にするべきではないのか。
なお、情報公開クリアリングハウスの調査によれば、各行政機関においては、秘密文書の「指定期間」の設定を義務づけているケースがほとんどのようである(4頁)。
なので、こういった年限制度自体は受容される可能性が高いように思われる。
ただ、期限満了後に自動的に指定解除になる仕組みは半分程度しか導入されていなかったとのこと。
つまり、期限満了した後も、秘密が指定されたまま放置されているケースが認められてしまっている。
なので、「延長手続き」が採られなかった文書については、「自動秘密解除」の仕組みが必要不可欠だと思われる。
(4) 指定者は、秘密文書の管理について責任を負うものを秘密文書管理責任者として指名するものとする。
「極秘」は官房長・局長クラス、「秘」は課長クラスが指定する。
1965年の規定にも似たようなものがあるが、今回は「責任者」であることが明記されたことであろうか。
この項目は特に問題はないだろう。
(5) 秘密文書は、秘密文書を管理するための簿冊において管理するものとする。
この「簿冊」というのは、「秘密文書管理簿」のことを指す。
「特定秘密」と同様に、二重帳簿を作って秘密の指定や解除はそちらで管理をするということである。
すでに、上記の「特定秘密」の所で述べたので繰り返さないが、「行政文書ファイル管理簿」上で秘密指定も管理するべきだと思う。
(6) 秘密文書には、秘密文書と確認できる表示を付すものとする。
これも「特定秘密」と同様の仕組み。これまでも当然存在している(ハンコを押したりする)。
(7) 総括文書管理者は、秘密文書の管理状況について、毎年度、○○大臣に報告するものとする。
これは新しい仕組みであり、かつ重要な部分。
前回の記事でも紹介したが、おそらく各行政機関では、自分達がどのくらい秘密文書を持っているかを把握できていない(各部局でも把握できているか怪しい)。
管理状況を報告する義務が発生すれば、当然件数などは報告対象になる。
また、この数字は公文書管理法上の「管理状況の報告」に含まれる「予定」と解説で述べているので、「特定秘密」と同様に公表されることになるのだろう(改正案9頁)。
どこまでが報告対象になるのかがわからないが、公文書管理法上の報告になるので、おかしな点があれば公文書管理委員会が説明を求めることも可能なので、最低限の濫用の歯止めにはなるかもしれない。
(8) 他の行政機関に秘密文書を提供する場合には、あらかじめ当該秘密文書の管理について提供先の行政機関と協議した上で行うものとする。
これも「特定秘密」と同様の措置。
解説の部分を見ると、国会に対しても同様の対応を要求するとのこと。
「国会の秘密文書に係る保護措置等を踏まえ、適切な対応を行う」(改正案9頁)との言い回しなので、国会に必ず提供するとは限らないというようには読める。
このあたりは、国会側の規定次第ということになるのだろうか。
(9) 総括文書管理者は、この訓令の定めを踏まえ、秘密文書の管理に関し必要な事項の細則を規定する秘密文書の管理に関する要領を定めるものとする。
このガイドラインに基づいて、秘密文書に関連する規則を各行政機関は作らなければならないということである。
なお、このための「モデル要領」(改正案10頁以降)が記載されている。
ほとんどはこれまで述べてきたことを、具体的に規則に落としたものであるが、いくつか重要なことが追加されている。
一つ目は「廃棄」の問題。
モデル要領には次のように書かれている。
第10 秘密文書の廃棄
1 秘密文書の廃棄に当たっては、歴史公文書等を廃棄することのないよう留意すること。
2 秘密文書の廃棄は、焼却、粉砕、細断、溶解、破壊等の復元不可能な方法により確実に
行わなければならない。
文書の保存期間が満了して、国立公文書館等に移管して永久保存するか廃棄するかを決める時に、秘密指定が解除されていない。
つまり、秘密文書のまま、移管・廃棄の判断がされるということである。
これは、必ず解除される「特定秘密」との大きな違いになる。
1の「歴史公文書等を廃棄することのないよう留意」はスローガンとしては必要ではあるが、これをどうやって担保するのかが重要。
制度設計をしている内調は、「特定秘密」や「極秘」を設定したかどうかは、原則として永久保存するかの判断基準では無いという態度を取り続けている。
つまりガイドラインの別表第2で移管と決まっている情報を移管するということである。
これは、一見すると制度を忠実に守っているように見えるが、逆に言えば、制度を守ることで特定秘密や極秘などの文書を他の文書に紛れ込ませようとしているようにも見える。
ここのズレをどうやって埋めるのかは、管理簿の問題も含めて重要だと考えている。
もう一つ「モデル要領」で気になるのは、内部通報者制度が組み込まれていることだ。
第13 秘密文書の管理の適正に関する通報
1 秘密文書の管理が本要領に従って行われていないと思料した者は、○○(例:法令遵守対応 窓口等)に通報できる。
2 ○○に通報又は相談をしたことを理由として、通報者又は相談者に対し不利益な取扱いを してはならない。
「特定秘密」に合わせたのだと思うが、他の部分に一切解説も無く、唐突に「モデル要領」の中に現れるので、どう判断して良いのか困る。
制度をきちんと整備するならば、別に項目を立てて「特定秘密」の運用基準並みの解説はするべきだ。
これだけだと、行政機関の側だって戸惑うだろう。
あと気になる所は、解説の部分に、この規程は「平成29年度末を目途に必要な措置を完了するよう努めるもの」(改正案10頁)とすると書かれている。
このガイドラインの改正は、2015(平成27)年4月から適用されると思われるので、3年間の猶予が各行政機関に与えられるということになる。
正直長いと思う半面、このぐらい時間をかけないと、カオスな状態になっている秘密文書のコントロールを各行政機関自体が取り戻すことが不可能だと考えられているのだろうと推測せざるをえない。
もっと早くするべきという主張はパブコメでするとは思うが、現在の秘密文書の管理状況は相当に末期的なのかもしれない。
まとめると、結局、公文書管理法の改正を行わず、現在の仕組みを変えることなく、これに秘密保護制度を接ぎ木しようとしていることに問題があるように思われる。
今後の公文書管理法の見直しと合わせて、この秘密保護制度を全体としてどうコントロールしていくかを考えていく必要があると思われる。
長くなりましたが以上です。次回は私の書いたパブコメを載せます。
締切は翌年1月6日である。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。
前回の記事で、現在の「特定秘密以外の秘密文書」の管理について述べた。
今回は解説の第2回。
なお、この問題に注目するのは、特定秘密保護法の濫用を防ぐためでもある。
濫用を防ぐには、そもそもとして政府全体が所有している秘密文書を最小限に留めることや、いずれはきちんと公開されて検証できような仕組みの導入が必要である。
秘密文書全体の管理方法を厳密化することで、特定秘密指定自体も最小限に食い止めることが可能になるのだ。
特定秘密だけを見ていては、木を見て森を見ずとなってしまうので注意が必要である。
今回の記事は相変わらず長いですが、気長におつきあい下さい。
しかも技術的な話なのでわかりづらいかもしれません。かみ砕いて説明しているつもりではありますが・・・。
(2)ガイドライン改正案
「特定秘密以外の秘密文書」(以後「秘密文書」)の統一基準を決めるために、「行政文書の管理に関するガイドライン」の改正案が政府から提示されている。
このガイドラインは公文書管理法に基づくものであり、行政文書の管理はすべてこれに基づいて行われることを原則としている。
なので、ガイドラインに基準が書き込まれれば、必然的に各行政機関はこれに従う義務が発生することになる。
改正案は新旧対照表が見やすいので、こちらの方が分かりやすいかもしれない。
今回の改正案は、ガイドラインに「第10」を新設して、秘密文書に関する規定を付け足す形になっている。
1項目ずつ見ていきたい。
第10 公表しないこととされている情報が記録された行政文書の管理
1 特定秘密である情報を記録する行政文書の管理
特定秘密(特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)第3条第1項に規定する特定秘密をいう。以下同じ。)である情報を記録する行政文書については、この訓令に定めるもののほか、同法、特定秘密の保護に関する法律施行令(平成26年政令第336号)、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(平成26年10月14日閣議決定)及び同令第12条第1項の規定に基づき定められた○○省特定秘密保護規程に基づき管理するものとする。
まず、1では「特定秘密」に関する規定も、ついでとばかりに放り込まれている。
要するに、特定秘密保護法やその運用基準で細かいことは決めたからそちらを見ろということである。
(5)でも書くが、事実上の「二重帳簿」になっていることが大きな問題である。
これについては、すでに以前にブログに書いたことがある。
特定秘密保護法関連のパブコメについて(4)特定秘密指定管理簿
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-07
「特定秘密」も公文書管理法の適用を受けるので、すべての行政文書が登載される「行政文書ファイル管理簿」に情報が記載される。
ただし、今の行政文書ファイル管理簿の仕組みでは、特定秘密であるかどうかはわからない。
以前から私は、行政文書ファイル管理簿に「特定秘密であるか否か(過去も含む)」の欄を作ること、特定秘密の期間はファイル名自体を非公開にしてもかまわないこと(情報公開法上可能)、特定秘密の指定が解除された際には過去に特定秘密であったことが外部から分かるようにすること(検証のため)、を主張している。
ただ、最近公文書管理委員会の議事録を見て気づいたのだが、どうやら内閣情報調査室は「特定秘密」が含まれる文書を「ファイル名を曖昧にして行政文書ファイル管理簿に載せる」ように指導しているようなのだ(公文書管理委員会第38回議事録、2014年8月1日、8頁)。
これは、「特定秘密隠し」を指導しているとしか思えない。
つまり「ファイル名を公開している」と見せかけて、名称を曖昧にすることで内容をわからなくさせ(特定秘密が解除された後も)、廃棄のチェックをすり抜けることも容易にさせようとしている(チェックする側がファイル名から重要度が分からない)。
せめて、過去に特定秘密であったことがわかるような記載欄があれば良いが、それが存在しない以上、簡単に他の文書に紛れ込ませて特定秘密を廃棄することが可能になってしまう。
つくづく思うのだが、特定秘密保護法にしろ、今回の秘密文書統一規定にしろ、現行の「行政文書ファイル管理簿」を蔑ろにし、二重帳簿で管理して最終的な廃棄をやりやすくさせようとする制度設計をしているようにしか見えない。
秘密制度の導入を正当化するなら、きちんと残して公開する仕組みを担保しなければならないのだが、そこに対する意識の低さには唖然とするところがある。
次からが今回の本題。
2 特定秘密以外の公表しないこととされている情報が記録された行政文書のうち秘密保全を要する行政文書(特定秘密である情報を記録する行政文書を除く。以下「秘密文書」という。)の管理
(1) 秘密文書は、次の種類に区分し、指定する。
極秘文書 秘密保全の必要が高く、その漏えいが国の安全、利益に損害を与えるおそれ
のある情報を含む行政文書
秘文書 極秘文書に次ぐ程度の秘密であって、関係者以外には知らせてならない情報を
含む極秘文書以外の行政文書
秘密文書は「極秘」と「秘」の2つで統一する。これまでの「機密」が無くなった。
ただ、この解説にあたる部分で、「原則として、極秘文書及び秘文書の2つに区分し・・・」(改正案8頁)と記載されており、「原則として」という不穏な言葉が入っている。
この言葉が存在すると、これまで各行政機関が勝手に作ってきた秘密文書カテゴリーを容認する余地を残すことに繋がってしまう。
今回は基準の統一化が目的である以上、この2つのカテゴリーに全てを当てはめさせるべきである。
なので、「原則として」は外させる必要があるだろう。
また、ここに書かれている「極秘」と「秘」の違いはかなり曖昧である。
各行政機関によって事情が異なるので、統一基準での限定は難しいだろう。
ただ、ほおっておくと曖昧に拡大するので、各行政機関ごとに「特定秘密」の別表のような、具体的な情報類型の設定を行うことの義務化は求めてよいと思われる。
(2) 秘密文書の指定は、極秘文書については各部局長が、秘文書については各課長が期間(極秘文書については5年を超えない範囲内の期間とする。(3)において同じ。)を定めてそれぞれ行うものとし(以下これらの指定をする者を「指定者」という。)、その指定は必要最小限にとどめるものとする。
(3) 指定者は、秘密文書の指定期間(この規定により延長した指定期間を含む。)が満了する時において、満了後も引き続き秘密文書として管理を要すると認めるときは、期間を定めてその指定期間を延長するものとする。また、指定期間は、通じて当該行政文書の保存期間を超えることができないものとする。
「極秘文書」は「特定秘密」と同様に5年以内の期限を切って(2)、満了時に延長するかを見直す(3)ことになる。
また、文書自体の保存年限を超えて秘密指定を行うことができなくなっている。
これは、「特定秘密」とのバランスを考えたということになるだろう。
ただ、なぜ「秘文書」には期限が何も書かれていないのかが理解に苦しむ。
極秘よりも短くても大丈夫なはずなのだから、例えば5年以内で原則延長不可みたいな制度にするべきではないのか。
なお、情報公開クリアリングハウスの調査によれば、各行政機関においては、秘密文書の「指定期間」の設定を義務づけているケースがほとんどのようである(4頁)。
なので、こういった年限制度自体は受容される可能性が高いように思われる。
ただ、期限満了後に自動的に指定解除になる仕組みは半分程度しか導入されていなかったとのこと。
つまり、期限満了した後も、秘密が指定されたまま放置されているケースが認められてしまっている。
なので、「延長手続き」が採られなかった文書については、「自動秘密解除」の仕組みが必要不可欠だと思われる。
(4) 指定者は、秘密文書の管理について責任を負うものを秘密文書管理責任者として指名するものとする。
「極秘」は官房長・局長クラス、「秘」は課長クラスが指定する。
1965年の規定にも似たようなものがあるが、今回は「責任者」であることが明記されたことであろうか。
この項目は特に問題はないだろう。
(5) 秘密文書は、秘密文書を管理するための簿冊において管理するものとする。
この「簿冊」というのは、「秘密文書管理簿」のことを指す。
「特定秘密」と同様に、二重帳簿を作って秘密の指定や解除はそちらで管理をするということである。
すでに、上記の「特定秘密」の所で述べたので繰り返さないが、「行政文書ファイル管理簿」上で秘密指定も管理するべきだと思う。
(6) 秘密文書には、秘密文書と確認できる表示を付すものとする。
これも「特定秘密」と同様の仕組み。これまでも当然存在している(ハンコを押したりする)。
(7) 総括文書管理者は、秘密文書の管理状況について、毎年度、○○大臣に報告するものとする。
これは新しい仕組みであり、かつ重要な部分。
前回の記事でも紹介したが、おそらく各行政機関では、自分達がどのくらい秘密文書を持っているかを把握できていない(各部局でも把握できているか怪しい)。
管理状況を報告する義務が発生すれば、当然件数などは報告対象になる。
また、この数字は公文書管理法上の「管理状況の報告」に含まれる「予定」と解説で述べているので、「特定秘密」と同様に公表されることになるのだろう(改正案9頁)。
どこまでが報告対象になるのかがわからないが、公文書管理法上の報告になるので、おかしな点があれば公文書管理委員会が説明を求めることも可能なので、最低限の濫用の歯止めにはなるかもしれない。
(8) 他の行政機関に秘密文書を提供する場合には、あらかじめ当該秘密文書の管理について提供先の行政機関と協議した上で行うものとする。
これも「特定秘密」と同様の措置。
解説の部分を見ると、国会に対しても同様の対応を要求するとのこと。
「国会の秘密文書に係る保護措置等を踏まえ、適切な対応を行う」(改正案9頁)との言い回しなので、国会に必ず提供するとは限らないというようには読める。
このあたりは、国会側の規定次第ということになるのだろうか。
(9) 総括文書管理者は、この訓令の定めを踏まえ、秘密文書の管理に関し必要な事項の細則を規定する秘密文書の管理に関する要領を定めるものとする。
このガイドラインに基づいて、秘密文書に関連する規則を各行政機関は作らなければならないということである。
なお、このための「モデル要領」(改正案10頁以降)が記載されている。
ほとんどはこれまで述べてきたことを、具体的に規則に落としたものであるが、いくつか重要なことが追加されている。
一つ目は「廃棄」の問題。
モデル要領には次のように書かれている。
第10 秘密文書の廃棄
1 秘密文書の廃棄に当たっては、歴史公文書等を廃棄することのないよう留意すること。
2 秘密文書の廃棄は、焼却、粉砕、細断、溶解、破壊等の復元不可能な方法により確実に
行わなければならない。
文書の保存期間が満了して、国立公文書館等に移管して永久保存するか廃棄するかを決める時に、秘密指定が解除されていない。
つまり、秘密文書のまま、移管・廃棄の判断がされるということである。
これは、必ず解除される「特定秘密」との大きな違いになる。
1の「歴史公文書等を廃棄することのないよう留意」はスローガンとしては必要ではあるが、これをどうやって担保するのかが重要。
制度設計をしている内調は、「特定秘密」や「極秘」を設定したかどうかは、原則として永久保存するかの判断基準では無いという態度を取り続けている。
つまりガイドラインの別表第2で移管と決まっている情報を移管するということである。
これは、一見すると制度を忠実に守っているように見えるが、逆に言えば、制度を守ることで特定秘密や極秘などの文書を他の文書に紛れ込ませようとしているようにも見える。
ここのズレをどうやって埋めるのかは、管理簿の問題も含めて重要だと考えている。
もう一つ「モデル要領」で気になるのは、内部通報者制度が組み込まれていることだ。
第13 秘密文書の管理の適正に関する通報
1 秘密文書の管理が本要領に従って行われていないと思料した者は、○○(例:法令遵守対応 窓口等)に通報できる。
2 ○○に通報又は相談をしたことを理由として、通報者又は相談者に対し不利益な取扱いを してはならない。
「特定秘密」に合わせたのだと思うが、他の部分に一切解説も無く、唐突に「モデル要領」の中に現れるので、どう判断して良いのか困る。
制度をきちんと整備するならば、別に項目を立てて「特定秘密」の運用基準並みの解説はするべきだ。
これだけだと、行政機関の側だって戸惑うだろう。
あと気になる所は、解説の部分に、この規程は「平成29年度末を目途に必要な措置を完了するよう努めるもの」(改正案10頁)とすると書かれている。
このガイドラインの改正は、2015(平成27)年4月から適用されると思われるので、3年間の猶予が各行政機関に与えられるということになる。
正直長いと思う半面、このぐらい時間をかけないと、カオスな状態になっている秘密文書のコントロールを各行政機関自体が取り戻すことが不可能だと考えられているのだろうと推測せざるをえない。
もっと早くするべきという主張はパブコメでするとは思うが、現在の秘密文書の管理状況は相当に末期的なのかもしれない。
まとめると、結局、公文書管理法の改正を行わず、現在の仕組みを変えることなく、これに秘密保護制度を接ぎ木しようとしていることに問題があるように思われる。
今後の公文書管理法の見直しと合わせて、この秘密保護制度を全体としてどうコントロールしていくかを考えていく必要があると思われる。
長くなりましたが以上です。次回は私の書いたパブコメを載せます。
特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (1)現在の制度 [2014年公文書管理問題]
2014年12月17日、政府は「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始した。
締切は翌年1月6日である。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。
特定秘密保護法でよく勘違いをされるのだが、「特定秘密」はあくまでも外交や防衛、テロ対策などに該当する秘密文書を指定して罰則を強化したものであり、それ以外にも秘密文書は腐るほど存在する。
特定秘密はむしろ「氷山の一角」に過ぎない。
これまで、秘密文書の取扱いは各行政機関に丸投げされてきた。そのため、指定も管理もずさんきわまりない状態が続いている。
この制度に詳しい情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんからうかがった話だと、おそらく各行政機関は秘密文書をどのくらい持っているのか自分達で把握できていないとのことだ。
なので、統一基準ができること自体には私は賛成である。
また、統一基準を作ることは、政府の側にとっても必要なことだったと思われる。
特定秘密以外の秘密文書をきちんとコントロールすることは、秘密漏洩の防止などに繋がるので、基準を作らないとさすがにまずいと考えたのだろう。
さて、この統一基準だが、当然無条件で政府案に賛同できるものでないことは確かである。
特定秘密保護法案の審議を見るだけでもわかるとおり、官僚の側はできるかぎり秘密を広げようとする傾向がある。
よって、この機会に、過剰に秘密が設定されないような仕組みを構築し、重要な文書はきちんと保存されて公開されるような仕組みをきちんと整備する必要があるだろう。
今回の連載では、まず現在の制度の解説から始め、次にガイドラインの改正案の解説、最後に自分のパブコメを公開するという流れで書いていきたい。
(1)現在の制度
特定秘密以外の秘密指定は、そもそも何を根拠にして行われているのか。
実は、今からほぼ50年近く前に出された、1965年4月15日の「秘密文書等の取扱いについて」(事務次官等会議申合せ)に基づいて行われている。
「秘密文書等の取扱いについて」(1965年4月15日事務次官等会議申合せ)
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20140801/20140801haifu3-1.pdf
この規定は、1965年に自衛隊で行われていた有事想定演習(いわゆる「三矢研究」)が社会党の議員によって暴露されて大問題となった事件をきっかけに、各行政機関の事務次官等による申合せによって整備されたものである(1953年に元になった申合せがあり、それを改訂したもの)。
これによれば、
2 秘密文書は、原則として次の種類に区分すること。
極秘 秘密保全の必要が高く、その漏えいが国の安全、利益に損害を与えるおそれのあるもの。
ただし、「極秘」のうちその秘密保全の必要度がきわめて高度のものを「機密」とすることが
できるものとすること。
秘 極秘につぐ程度の秘密であって、関係者以外には知らせてならないもの。
とされ、「機密」「極秘」「秘」という分け方がされているということがわかる。他に管理の仕方などが書かれている。
なお、この文書には、「不要の秘密文書は、必ず焼却する等復元できない方法により処分すること」という規定があり、政府全体の方針として秘密文書を廃棄処分して後世に残さないことが決められている。
「防衛秘密」が粛々と廃棄されていたのは、防衛省の体質という問題だけではなく、こういった日本の行政機関全体に存在する「秘密は捨てる」という文化に影響されているということだろう。
ただ、この申合せは原文を見てもらえればわかるが、かなりザックリとしたことしか書かれていない。
その理由は、私が色々なところで書いてきたが、公文書管理が各行政機関に任されてきたからである。
つまり、ザックリとルールは作るから、あとは各機関できちんとやってねということである。
これで50年間もこの申合せは使われてきたのである。
ただ、いくらなんでも、このザックリとした基準では、秘密文書の管理はきちんと行えなかった。
特に2000年代に入って、ネットからの情報漏洩などが本格化する中で、「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」(2005年から。最新は2014年版)や「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年作成、2009年から施行)などを作成し、上からかぶせるようにセキュリティーを強化する方針を取ってきた。
内閣府が作った現在の「秘密情報等を記録する行政文書の相互関係」の図が下記のリンクにある(「情報の管理の在り方に関する検討チーム」第2回資料1、2014年7月18日)。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/joho_kanri/dai2/siryou1.pdf
(注はリンク先で)
この図の記述は
「機密性1、2、3情報」・・・「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」
「機密」「極秘」「秘」・・・「秘密文書等の取扱いについて」
「特別管理秘密」・・・「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」
「特定秘密」・・・特定秘密保護法
で根拠が分かれている。
また、「機密性2」より内側の情報は、情報公開法上の「不開示情報」と書かれており、この内側は請求しても墨塗りされて公開されない部分だと言える。
具体的に説明は省略するが、要するに「複層化していてなんだかよくわからない」ということだけ分かってもらえれば良いと思う。
しかも、この図は最も単純な分け方であり、秘密文書の区分けは、各行政機関独自のものが他にも様々な形で存在している。
ただ、根本的な管理方法自体にメスを入れずに、上から色々なものをかぶせても限界はある。
なお、「特定秘密」制度は、管理方法にメスを入れられないから、罰則を強化することで漏洩を防ごうとする発想で作られている(だから、秘密指定の範囲の限定が甘くなっている)。
本来ならば、特定秘密保護法を作る前に、この統一基準を整備して秘密文書の管理を徹底し、その上で、必要ならば特定秘密保護法を作るというのが筋論だったはずである。
脱線したので戻す。
そこで、この相互関係をスッキリさせようというのが、今回の統一基準の作成ということになるのだろう。
ただ、すでに「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」はそのまま運用すると官僚側は決定しており(情報管理の在り方に関する検討チーム第2回会合議事概要、2014年7月18日)、これ(機密性1,2,3情報)と特定秘密以外の秘密指定に関する部分をできる限り統一化しようということのようだ。
次回からは、では政府はどういう提案をしてきているのかについて解説してみたい。
なお、今回の記事の参考として次の二つを挙げておく。
一つは、私が書いたものだが、「日本における秘密保護法制の歴史」『歴史評論』2014年11月号で、戦後の秘密保護制度の変遷については簡単に述べておいた。興味がある方はぜひ。
もう一つは、情報公開クリアリングハウスが作成した「政府の秘密指定・保護制度に関する調査結果」(2014年11月7日)。
各行政機関における秘密指定に関係する規則を片っ端から情報公開請求して公開させた調査結果。
これを見ると、「秘密文書等の取扱いについて」にあるような「機密」「極秘」「秘」だけでなく、別のカテゴリーの秘密指定文書が様々な行政機関に存在することがよくわかる。
非常に参考になるので、是非とも御覧いただければと思う。
締切は翌年1月6日である。
今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。
特定秘密保護法でよく勘違いをされるのだが、「特定秘密」はあくまでも外交や防衛、テロ対策などに該当する秘密文書を指定して罰則を強化したものであり、それ以外にも秘密文書は腐るほど存在する。
特定秘密はむしろ「氷山の一角」に過ぎない。
これまで、秘密文書の取扱いは各行政機関に丸投げされてきた。そのため、指定も管理もずさんきわまりない状態が続いている。
この制度に詳しい情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんからうかがった話だと、おそらく各行政機関は秘密文書をどのくらい持っているのか自分達で把握できていないとのことだ。
なので、統一基準ができること自体には私は賛成である。
また、統一基準を作ることは、政府の側にとっても必要なことだったと思われる。
特定秘密以外の秘密文書をきちんとコントロールすることは、秘密漏洩の防止などに繋がるので、基準を作らないとさすがにまずいと考えたのだろう。
さて、この統一基準だが、当然無条件で政府案に賛同できるものでないことは確かである。
特定秘密保護法案の審議を見るだけでもわかるとおり、官僚の側はできるかぎり秘密を広げようとする傾向がある。
よって、この機会に、過剰に秘密が設定されないような仕組みを構築し、重要な文書はきちんと保存されて公開されるような仕組みをきちんと整備する必要があるだろう。
今回の連載では、まず現在の制度の解説から始め、次にガイドラインの改正案の解説、最後に自分のパブコメを公開するという流れで書いていきたい。
(1)現在の制度
特定秘密以外の秘密指定は、そもそも何を根拠にして行われているのか。
実は、今からほぼ50年近く前に出された、1965年4月15日の「秘密文書等の取扱いについて」(事務次官等会議申合せ)に基づいて行われている。
「秘密文書等の取扱いについて」(1965年4月15日事務次官等会議申合せ)
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20140801/20140801haifu3-1.pdf
この規定は、1965年に自衛隊で行われていた有事想定演習(いわゆる「三矢研究」)が社会党の議員によって暴露されて大問題となった事件をきっかけに、各行政機関の事務次官等による申合せによって整備されたものである(1953年に元になった申合せがあり、それを改訂したもの)。
これによれば、
2 秘密文書は、原則として次の種類に区分すること。
極秘 秘密保全の必要が高く、その漏えいが国の安全、利益に損害を与えるおそれのあるもの。
ただし、「極秘」のうちその秘密保全の必要度がきわめて高度のものを「機密」とすることが
できるものとすること。
秘 極秘につぐ程度の秘密であって、関係者以外には知らせてならないもの。
とされ、「機密」「極秘」「秘」という分け方がされているということがわかる。他に管理の仕方などが書かれている。
なお、この文書には、「不要の秘密文書は、必ず焼却する等復元できない方法により処分すること」という規定があり、政府全体の方針として秘密文書を廃棄処分して後世に残さないことが決められている。
「防衛秘密」が粛々と廃棄されていたのは、防衛省の体質という問題だけではなく、こういった日本の行政機関全体に存在する「秘密は捨てる」という文化に影響されているということだろう。
ただ、この申合せは原文を見てもらえればわかるが、かなりザックリとしたことしか書かれていない。
その理由は、私が色々なところで書いてきたが、公文書管理が各行政機関に任されてきたからである。
つまり、ザックリとルールは作るから、あとは各機関できちんとやってねということである。
これで50年間もこの申合せは使われてきたのである。
ただ、いくらなんでも、このザックリとした基準では、秘密文書の管理はきちんと行えなかった。
特に2000年代に入って、ネットからの情報漏洩などが本格化する中で、「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」(2005年から。最新は2014年版)や「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年作成、2009年から施行)などを作成し、上からかぶせるようにセキュリティーを強化する方針を取ってきた。
内閣府が作った現在の「秘密情報等を記録する行政文書の相互関係」の図が下記のリンクにある(「情報の管理の在り方に関する検討チーム」第2回資料1、2014年7月18日)。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/joho_kanri/dai2/siryou1.pdf
(注はリンク先で)
この図の記述は
「機密性1、2、3情報」・・・「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」
「機密」「極秘」「秘」・・・「秘密文書等の取扱いについて」
「特別管理秘密」・・・「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」
「特定秘密」・・・特定秘密保護法
で根拠が分かれている。
また、「機密性2」より内側の情報は、情報公開法上の「不開示情報」と書かれており、この内側は請求しても墨塗りされて公開されない部分だと言える。
具体的に説明は省略するが、要するに「複層化していてなんだかよくわからない」ということだけ分かってもらえれば良いと思う。
しかも、この図は最も単純な分け方であり、秘密文書の区分けは、各行政機関独自のものが他にも様々な形で存在している。
ただ、根本的な管理方法自体にメスを入れずに、上から色々なものをかぶせても限界はある。
なお、「特定秘密」制度は、管理方法にメスを入れられないから、罰則を強化することで漏洩を防ごうとする発想で作られている(だから、秘密指定の範囲の限定が甘くなっている)。
本来ならば、特定秘密保護法を作る前に、この統一基準を整備して秘密文書の管理を徹底し、その上で、必要ならば特定秘密保護法を作るというのが筋論だったはずである。
脱線したので戻す。
そこで、この相互関係をスッキリさせようというのが、今回の統一基準の作成ということになるのだろう。
ただ、すでに「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」はそのまま運用すると官僚側は決定しており(情報管理の在り方に関する検討チーム第2回会合議事概要、2014年7月18日)、これ(機密性1,2,3情報)と特定秘密以外の秘密指定に関する部分をできる限り統一化しようということのようだ。
次回からは、では政府はどういう提案をしてきているのかについて解説してみたい。
なお、今回の記事の参考として次の二つを挙げておく。
一つは、私が書いたものだが、「日本における秘密保護法制の歴史」『歴史評論』2014年11月号で、戦後の秘密保護制度の変遷については簡単に述べておいた。興味がある方はぜひ。
もう一つは、情報公開クリアリングハウスが作成した「政府の秘密指定・保護制度に関する調査結果」(2014年11月7日)。
各行政機関における秘密指定に関係する規則を片っ端から情報公開請求して公開させた調査結果。
これを見ると、「秘密文書等の取扱いについて」にあるような「機密」「極秘」「秘」だけでなく、別のカテゴリーの秘密指定文書が様々な行政機関に存在することがよくわかる。
非常に参考になるので、是非とも御覧いただければと思う。