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「行政透明化検討チームとりまとめ」解説(下) 第5~9 [2010年公文書管理問題]

「行政透明化検討チームとりまとめ」解説(上) 第1、2
「行政透明化検討チームとりまとめ」解説(中) 第3、4
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前回の続き。

8月24日に行政透明化検討チームの会合の最終回がありました。
そこで出された大臣案「行政透明化検討チームとりまとめ(案)」についての解説をしてみたいと思います。

赤字の部分が、「とりまとめ」からの引用部分です。
一応、一番最初の枝野大臣案が出たときの解説はこちら。間違っている箇所もあるけど、おおよその解説は合っていると思う。

今回は、第5~9の部分。

第5 情報公開訴訟に関する改正
 訴訟による事後救済を確実に行うため、いわゆる「ヴォーン・インデックス」の作成・提出に関する手続(下記2)を創設するとともに、いわゆる「インカメラ審理」(下記3)を導入する。制度の詳細については、法案立案過程において調整することとする。また、原告の訴訟にかかる負担に配慮し、各地の地方裁判所でも訴訟ができるようにする。具体的には以下のとおり。

1 訴訟の管轄(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法関係《新設》)
 開示決定等又はこれに係る不服申立てに対する裁決・決定に係る抗告訴訟(以下「情報公開訴訟」という。)は、行政事件訴訟法第12条に定める裁判所のほか、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができる。訴訟の移送の特例規定(行政機関情報公開法第21条、独立行政法人等情報公開法第21条)は、この場合にも適用される。


いままで情報公開訴訟は、高裁がある地方裁判所でしか行うことができなかった。
これを、各県の地方裁判所で起こせることに変更するというものである。

行政事件訴訟法の第12条第4号によれば、そもそも国相手の行政訴訟は高裁所在地の地裁でしかできないことになっている。
これは行政訴訟自体が専門的な知識が必要となるため、まとめて処理するためと思われる。

ただ今までは、例えば鹿児島の人とか、訴訟を起こすだけで福岡まで行かなくてはならないなど、訴訟を起こす側の経済的な負担が半端ではなかった。
今回これを各地裁でできるようにしたのは、情報公開法は「民主主義の基本インフラ」であるという原則を取ったということになる。
つまり、行政や司法側の都合で高裁所在地でやっていたものを、国民の側に合わせることにしたということになる。

確かにこれによって行政・司法側のコストは上がるだろうが、利便性を考えたときには各地の地裁で行えた方が良いに決まっているだろう。


2 不開示決定に係る行政文書の標目等を記載した書面の提出(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法関係《新設》)
 情報公開訴訟においては、裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため必要があると認めるときは、行政機関の長・独立行政法人等に対し、当該開示決定等に係る行政文書・法人文書の標目、その開示しない部分についてこれを特定するに足りる事項、その内容の要旨及びこれを開示しない理由その他必要な事項を、その裁判所の定める方式により分類又は整理して記載した書面の作成・提出を求めることができる。


これはいわゆる「ヴォーンインデックス提出命令」のことを言っている。
簡単に説明すると、裁判所が行政機関側に、不開示にしている理由を全て分類整理して、それぞれの不開示理由がわかるように解説した文書を提出させることができるというものである。
つまり、争点を明確化するための情報を、行政機関側に提出させるということである。
この提出されたものは、もちろん原告側にも提供され、それに基づいて裁判を進めることになる。


3 審理の特例(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法関係《新設》)
(1)情報公開訴訟においては、申立てがあった場合には、裁判所は、裁判官の全員一致により、審理の状況及び当事者の訴訟遂行の状況その他の事情を考慮して、不開示事由の有無等につき、当該行政文書・法人文書の提出を受けなければ公正な判断をすることができないと認めるときは、当事者(当該行政文書・法人文書を保有する行政機関の長・独立行政法人等を除く。)の同意を得た上で、決定により、当該行政文書・法人文書を保有する行政機関の長・独立行政法人等に対し、当該行政文書・法人文書の提出を命ずることができる。この場合においては、何人も、裁判所に対し、提出された行政文書・法人文書の開示を求めることができない。
(2)裁判所は、(1)の決定をするに当たっては、あらかじめ、当事者の意見を聴かなければならない。
(3)裁判所は、(1)の決定をしたときは、行政機関の長・独立行政法人等に対し、2の書面の作成・提出を求めなければならない。ただし、当該書面が既に提出されている場合は、この限りではない。
(4)(1)の決定に対しては、即時抗告をすることができる。


これはいわゆる「インカメラ審理手続」のことを言っている。
これまで、情報公開訴訟では、裁判官がその「不開示になっている部分」を見ることができなかった。
なぜならば、裁判が「双方審尋主義」(証拠は原告被告双方が見ることが可能でなければならない)で行われるという憲法第82条第1項に書かれている大原則があったからである。
つまり、裁判官が不開示部分を自分の目で見て判断したくても、それを判決に利用する場合は、見た内容について原告に解説する必要が出てきてしまうのだ。

「インカメラ審理」とは、この点をクリアするために編み出された方法である。
これは、裁判官だけが訴訟の対象となる文書を見て「検証」することができる制度である。
原告は、このインカメラ手続を認める以上、その文書を裁判で見る権利を放棄するということになる。
このあたりは、憲法解釈や民事訴訟法などもクリアできるようである。

「ヴォーンインデックス」と「インカメラ審理」はセットで考えた方がよい。
そもそも「インカメラ」を行うためには、「ヴォーンインデックス」で論点を整理する必要がある。

この2つは、情報公開訴訟が盛んであるアメリカで「発明」された制度である。
これまでの情報公開訴訟は、この2つが無かったが故に、裁判官が対象となる文書を見れなかったため、被告側の行政機関の説明を鵜呑みにする傾向が強かった(というか鵜呑みにするしか仕方がなかった)。
原告側が「なぜその文書が不開示か」を立証できるわけがないからだ。

この制度の導入によって、やっと「まともな」情報公開訴訟が行われることになる。
何が問題になっているのかを裁判官がしっかりと把握した上で、不開示が合理的な判断なのかが判断されることになる。

なお、この2つについては、やはり警察防衛外務からは、「裁判官の守秘義務」や「自分たちの専門的な説明を裁判官が理解できるのか」といったような強い懸念が示されていた。つまり「自分たちの決定を裁判所が覆すことに対するおそれ」である。
だが、この点についても、各委員が「司法でひっくり返ることを否定するわけではないよね?」みたいな尋問がきちんとなされていたので、大臣案から後退することはなかった。
もちろん、公務員が「裁判所(最高裁)」の判断に逆らうことを明言することなど不可能なわけだから。

この2つについては、導入の方向性はチームで議論されたものの、具体的な制度設計については法改正に持ち越された。
おそらく「施行令」にまで持ち越される可能性もありうるので、この制度設計については、国会できちんと議論される必要があるだろう。


第6 情報の提供に関する改正(行政機関情報公開法第25条、独立行政法人等情報公開法第22条関係)
 開示請求者の利便性の向上及び行政コスト削減の観点から、以下のとおり行政機関の長・独立行政法人等による情報提供制度を改正する。
(1)行政機関情報公開法において、行政組織・制度等に関する基礎的情報、行政活動の現状等に関する情報等を、情報提供の対象とする。
(2)複数回開示請求がなされ、これに対する開示決定がなされたものは、情報提供の対象とする。
(3)開示請求に対する「開示の実施」の方法の一つとして、ホームページ上の該当情報の教示などの簡易な方法を、請求者が選択できることとする。


この項目、実はあまりチームで議論をされていない。
委員側の最終報告の「論点整理」でも、この項目すら存在しない。
実は最終回の蓮舫大臣の趣旨説明でも、この項目はさっくり飛ばして説明していた。

ただ、だからといって問題のある箇所ではない。むしろ歓迎すべきことが書かれている。

(1)は組織制度に関するものは、わざわざ情報公開手続きを使わせず、自発的に情報を提供しなさいということである。

(2)は複数回同じ文書を請求してくる場合、いちいち手続きを取らずにその場で見せればよいということである。
なお、最終回の会合で、この手続きを取るのは「全面開示」の文書のみということが確認された。
おそらく、不開示部分が含まれる場合は、時間の経過など状況によって不開示部分が変わることがあるからだと思われる。

(3)は請求されたものがホームページに載っている情報だったら、それを提示するのでも良いよ(ただし請求者がOKならば)というものである。

いずれも、利用する方にとってはありがたい制度であると思う。


第7 適用対象の範囲等に関する改正
 現行の情報公開制度の対象を、国民の知る権利を保障する観点から、以下のとおり拡充する。
1 国会関係
 衆参両院の事務局・法制局、国会図書館等の保有する立法行政事務に係る文書の公開の在り方について、行政機関情報公開法と同等の開示制度導入の検討を促す。
2 裁判所関係
 最高裁判所事務総局等の保有する司法行政事務に係る文書の公開の在り方について、行政機関情報公開法と同等の開示制度導入の検討を促す。
3 政府周辺法人関係(独立行政法人等情報公開法第2条第1項・第22条関係)
 国からの出資、国から交付される補助金等が年間収入に占める割合、業務内容の公共性等の視点から、「独立行政法人等」に含まれる対象法人の拡大を検討する。
 また、情報の提供に関する施策(行政機関情報公開法第25条、独立行政法人等情報公開法第22条)をより充実させ、法人の保有する情報等を記録した文書、図画又は電磁的記録を取得し、適時に、かつ、国民が利用しやすい方法により提供する。


1、2は、立法、司法で情報公開法を作ることを「促す」ということである。三権分立なので「作れ」とは言えないので。

3は独法などが自発的に情報提供をもっと行うべきだという規程である。
文章を読んでいてもわかりにくいのだが、要するに「事業仕分け」で、特殊法人などの幹部が高額報酬を受け取っていたりしたことが次々に明るみに出たことことから、自発的な情報公開をもっと積極的に行わせる手段を講じるということのようである。
これは、おそらく蓮舫大臣の興味関心と重なる部分でもあるだろう。


第8 行政機関情報公開法等の所管に関する改正(行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法、内閣府設置法、総務省設置法関係)
 行政機関情報公開法及び独立行政法人等情報公開法の所管を総務省から内閣府に移管する。


今までは、情報公開法が総務省(行政管理局)、公文書管理法が内閣府(公文書管理検討室)と分かれていた。
だが、一体的な運用をするためにも、この二つを合併することは不可欠であった。
特に、情報公開や公文書管理は全行政機関に関わるので、内閣府に集中させるのがふさわしいだろう。
実際に人事面では、すでに総務省行政管理局の方が、兼任で公文書管理検討室に配属されているようだ。

もしできるのであれば、この移管の際に、合併+αの人員の配置を期待したいと思う。
これから司令塔になる部署なのだから、100人ぐらいいたって本来よいはずなのだ。
せっかく分担管理をいじるのだから、人員のこともうまく配置してほしいと思う。


第9 情報公開条例の扱い(行政機関情報公開法《新設》)
 第5の2及び3は、情報公開条例(地方公共団体又は地方独立行政法人の保有する情報の公開を請求する住民等の権利について定める当該地方公共団体の条例をいう。)の規定による、開示決定等に相当する処分又はこれに係る不服申立てにおける裁決・決定に対する抗告訴訟においても利用できるよう検討する。


これは、地方公共団体等での情報公開訴訟でも、同様にヴォーンインデックスやインカメラを使えるようにするということである。
重要なことなので、まとめて検討してほしいと思う。


以上で解説は終わりです。

全体的には向かっている改革の方向性は問題ないと思っています。
ただ、法律の文章にしたときに、検討チームの意思がどこまで反映されたものになるかはきちんと監視する必要があると思います。

ただ、この検討チームの議論は、前へ進んだとはいえ、委員の三木さんがおっしゃっていたように、初めから大臣案という「枠」が決められており、その枠内でしか議論を行えなかったという側面があります。
私自身もパブコメで、「時の経過」の話など色々と書きましたが、当然の如くスルーされました。

会合の回数も時間も少なかったので、やむを得ない部分はあったと思いますが、この案がまだまだ検討の余地のあるものだということは頭の片隅に置いておく必要があると思います。
そして、場合によっては、ねじれ状態になった国会での再修正という、公文書管理法の時のような再現を狙うということもありうるでしょう。

この「とりまとめ」が出されたから、これでおしまいということにしてはいけないでしょう。
まだまだ民間の側からも、色々な意見を出しながら議論に参加していくことが必要だと思います。
それこそ、蓮舫大臣の言う「参加型行政」の姿だと思いますので。

今後もこの問題については注視していきたいと思います。
相変わらず「印刷しないと読めねえよ」とか言われそうな長さと文体ですが、そこはどうかご勘弁を。
長々とお読みいただきありがとうございました。
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