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「事業仕分け」による若手研究育成資金削減問題 [雑感]

最近話題の行政刷新会議のいわゆる「事業仕分け」。
その場で、11月13日に私にとっても深刻な予算が「予算要求の削減」という判断が下されました。
それは「競争的資金(若手研究育成)」です。
結果によれば、

結果:予算要求の縮減
・予算計上見送り 1名
・予算要求の縮減 10名
 a 半額 3名
 b 1/3縮減 3名
 c その他 4名(議事録を見ると1-2割程度縮減と書いた人達→なぜに「その他」!)
・予算要求通り 2名

とのこと。参考資料は↓

「第3WG評価コメント 事業番号3-21 競争的資金(若手研究育成)」
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov13kekka/3-21.pdf
「配布資料」(11の10ページ目と12のすべて、13の1ページ目)
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov13-pm-shiryo/11.pdf
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov13-pm-shiryo/12.pdf
http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/pdf/nov13-pm-shiryo/13.pdf

スパコンなどの削減の話題は新聞で目にしていたのですが、恥ずかしながら若手向けの予算が削減されていたことに数日前まで気づいていませんでした。友人からのメールで始めて気づいた次第。
理系とは異なり、文系は(というか私のいる歴史学などは特に)個別に研究していることが多いせいか、話題を耳にすることがありませんでした。やはりtwitterとか導入したほうがよいのかもしれません。

慌てて、ブログサーチで11月13日の記事まで遡って調べてみました。
また、議事録をアップしているサイトもあったので、それも見てみました。

「若手研究育成テキスト」
http://mercury.dbcls.jp/w/index.php?%BC%E3%BC%EA%B8%A6%B5%E6%B0%E9%C0%AE%A5%C6%A5%AD%A5%B9%A5%C8

そこでは、「減らされる!」ということは言及されていましたが、意外に「何が削減対象になったのか」ということをきちんと分析されていないものがほとんどでした。
そのあたりをきちんと説明しないと、たぶん一般の方から見ると「既得権を振り回しているだけ」みたいな解釈をされかねないのかなと思います。

私のブログは、「公文書管理」とか「眞子さま萌え」とかいった記事を書くからか、かなりアカデミックな世界以外からの読者も多いように思います。
よって、遅れてきた者としては、他の方との差別化も兼ねて、一体何が減らされようとしているのかという点をきちんと解説してみたいと思います。一般の方に読みやすいかはわかりませぬが・・・。
(なお、他にも科学関係予算は事業仕分けの対象になっていますが、若手研究の話に絞ります。)

******************(以下説明)**********************

まず、今回削減対象に上がっているのは以下の3つの事業。
1.科学技術振興調整費(若手研究者養成システム改革)
2.科学研究費補助金(若手研究(S)(A)(B)、特別研究員奨励費)
3.特別研究員事業

順番に説明します。

1.科学技術振興調整費(若手研究者養成システム改革)

文部科学省「科学技術振興調整費」
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/chousei/index.htm
独立行政法人科学技術振興機構「科学技術振興調整費」
http://www.jst.go.jp/shincho/
↑これがその説明のあるサイト。ぶっちゃけ、わかりにくくて、外部に説明する気があるように見えない・・・

まず「科学技術振興調整費」とは何かについて。
これは、内閣府によれば「総合科学技術会議が我が国全体の科学技術に関する施策を見渡した上で、機動的かつ戦略的に活用する資金」として設置されたものである。
まあ要するに、国の科学技術予算の中核を担っているものだと考えてよいと思う。
http://www8.cao.go.jp/cstp/webpage.html

そのなかで、「若手研究者養成システム改革」事業は、平成18年度(2006年度)から行われている。
この事業は二つの事業から成り立っている。
一つ目は、「若手研究者の自立的環境整備促進」事業。
二つ目は、「イノベーション創出若手研究人材養成」事業、である。
両方とも、毎年10件前後の大学が採用、5年間継続事業となっている。(後者は平成20年度から)

詳しくは下記のパンフを参照してほしいのだが、簡単に。
前者は「テニュア・トラック」制度という。
これは、各大学が博士号取得者を「特任准教授」か「特任講師」のような形で任期付で雇用し(国際公募を行わなければならない)、その間に自立した研究を行わせて育成し、どこかのテニュア(常勤教員)に就職させようというものである。
後者は「長期インターンシップ」制度のことである。
各大学が博士号取得者やもうすぐ取りそうな博士課程の学生を、数ヶ月という単位で企業などにインターンシップに行かせる制度である。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2009/08/03/1282747_003.pdf

両者とも基本的には博士号取得者の就職支援という形を取っている。

ちなみにこの両者はおおむね理系向け事業。
平成20年度の採択事業の発表資料を見たのだが、前者は9事業のうち7事業が理系のみ(岡山大と琉球大のものは一応文理総合の大学院が関係している)、後者は10事業のうち理系のみとわかるのが5、文系が確実にあるのが1(大阪府大に経済学)、他は不明といったところ。

なお、「事業仕分け」の結果では、前者のほうは存続との結論が出ている。

2.科学研究費補助金(若手研究(S)(A)(B)、特別研究員奨励費)

日本学術振興会「科学研究費補助金 公募要領・・・」
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/03_keikaku/download.html
公募要領がPDFである。

まず若手研究S、A、Bについて。
公募要領をみても長くてわかりにくいと思うので細かく説明を。

これらはざっと書くと次のようなものである。(詳しくは上記の公募要領に載っている。採用数は71ページ以降。)

・募集資格 
支給時39才以下(Sは42才以下)で研究機関に研究者として勤務(非常勤でもOK)

・もらえる金額
Sは年3000万~1億。5年間。約30件。ただし、今年は中止。
Aは年500~3000万。2~4年間。昨年は350件、採用率18.7%。
Bは年500万以下。2~4年間。昨年は6487件、採用率は27.8%。

計画書を書いて提出し、審査が行われる。この研究費は、主に非常勤クラスの若手研究者に重宝されている。(昔は常勤しか応募できなかった気が。)
多いと思うかもしれないが、理系ならたぶん微々たる物。文系でも調査に行ったり、行った先で大量にコピーしたり貴重書を買い集めたりするような分野だと、あっというまにお金がふっとんでいく。
ちなみに生活費には使えない

「特別研究員奨励費」については、3との関係のほうが説明しやすいのでそちらで。

3.特別研究員事業

日本学術振興会「特別研究員」
http://www.jsps.go.jp/j-pd/index.html

特別研究員は主に次の4つに分かれる。

DC1 博士課程1年から2年間。月20万。奨励費150万まで。平成21年度からの支給者779名(採用率29.3%)
DC2 博士課程2or3年から2年間。月20万。奨励費150万まで。平成21年度からの支給者1227名(採用率29.0%)
PD 基本的には博士号取得者対象。3年間。月36万4千。奨励費150万まで。平成21年度からの支給者322名(採用率9.2%)
RPD 出産・育児のため3ヶ月以上研究を中断した人対象。2年間。月36万4千。奨励費150万まで。平成20年度からの支給者38名(採用率19.0%)。男性でも取れる。
http://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_oubo.htm
http://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_saiyo.htm

なお、基本的には34才以下対象。RPDは年齢制限なし。
ちなみに採用率はここ数年でDC1,2は劇的に向上(平成15年度は両方とも12-13%)、代わりにPDは漸減して(平成15年度は約16%)いる。人数で考えてもDC1,2は倍増、PDは半減。
DCは院生時代にもらえるわけだから、これを見ても、特別研究員がポスドク(博士号取得者)の生活費うんぬんの議論はおかしい。
・・・改めて調べてみて、PDの採用人数が705人→322人に泣いた・・・

このお金は生活資金として使う。
特別研究員になると、大学の非常勤講師などを除けばアルバイトが禁止される。つまり、このお金は「研究に専念できるように」給付されるものである。
なお、奨励費は、研究のための特別な費用を出してくれる制度。海外調査などに使われる。これが2でとりあげられていた「特別研究員奨励費」のこと。この分はもちろん生活費には使えない。

ちなみに、3を取っている人は2には応募できない。つまり財務省が言うような重複は2と3の間にはない(もし奨励費と特別研究員のことを言っているのならば、奨励費を2に入れたこと自体が作為的)。

************************(説明終)****************************

さて、以上が今回「事業仕分け」で取り上げられた資金です。
ちなみに文科省の要求額は

1・・・125億
2・・・330億9千万
3・・・170億


です。

これを多いと思うかは人それぞれだと思います。生活保護をもらうような厳しい生活を強いられているかたからは「なんと恵まれた」と思うかもしれません。
ただ、こういった資金を取れる人は、本当に「優秀な」人たちです。ぶっちゃけ私は取れてません(泣)
そういった人たちに自由にお金を使わせて研究をさせることは、きっと日本国民にとって長期的にみて利益につながると私は思います。

「事業仕分け」の議論を見ていると、財務省や仕分け人の論理は「費用対効果」の議論が主になっています。
また、文科省の反論も、ほとんど1の事業の関係に引きずられ、「若手に金を与えて自由に研究をさせるということ」の本質を全く忘れた議論をしているように思えてなりません。
だいたい、就職支援が主の1と、研究支援が主の2,3を一緒に議論すること自体がおかしいでしょう。次元が違う話をしているのに。

私が思うに、若手研究者にお金を与えるということは、「君の研究は面白い!失敗してもいいからやってみなさい。お金なら安心せい!」というものではないのでしょうか。
つまり、短期的な利益などどうでもよくて、正直「捨て金」になったってしょうがないと思って出すものではないでしょうか。

なお、この事業仕分けについては、文科省が意見を公募しています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm
12月15日までとは書いてありますが、予算案策定まではもう日がないでしょう。意見のある方は早めに出したほうが良いと思います。

ただ、はっきり言って、この事業仕分けの若手研究育成における文科省の答弁は「ひどい」を通り越して「呆れる」レベルだったので、そもそも論として、もうちょっときちんと論理補強をしなおした上で財務省と戦ってほしいと願っています。

相変わらず長々と書きました。ご参考になれば幸いです。


参考:私がブログサーチで遡っていって、最も参考になった記事。リンクを貼らせていただきます。

「事業仕分けWS3 まとめウィキ」→第3ワーキンググループ関係の情報が集積。すごい情報量。
http://mercury.dbcls.jp/w/index.php?FrontPage

Cerebral secreta: 某科学史家の冒言録「いわゆる「事業仕分け」について(科学技術人材育成関係を中心に)」
http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/20091114/p1

U-runner's View「行政刷新会議「事業仕分け」に対するアカデミック研究者の反応」
http://yaplog.jp/ultgear_lasrun/archive/390

日々是科学「行政刷新会議に物申す」
http://ameblo.jp/ramen-science/entry-10387906175.html

大「脳」洋航海記「「事業仕分け」中間報告:若手支援は切り捨ての方向に向かい、最悪のシナリオが一歩現実味を帯びた(追記あり)」
http://www.mumumu.org/~viking/blog-wp/?p=3462

追記(12/7)
京都大学文化人類学若手研究者有志が、人文社会科学系の院生の署名を集めています。(12/10まで)
http://www.anth.jinkan.kyoto-u.ac.jp/shomeisho.htm
院生以外の署名も受け付けているとのことです。
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コメント 7

あんこ

はじめまして。
いつも読ませていただいています。

仕事柄、公文書管理について興味があって、こちらのブログにたどり着き、天皇制についても分かりやすく解説してあり、更新を楽しみにしております。

今回の事業仕分けですが、どんな事業も削減されて困る方は必ずいるのですが、こと、教育関連の事業については、削減どころか、増額しなければいけないと思っています。

資源のない国、日本では教育によって人を育て、国を発展させるしか方法がないのに、教育・研究関連にお金をかけているとは到底思えません。

ノーベル賞も、当時は何の役に立つか分からなかったような基礎研究に対して、後年、与えられることが多いように思います。

もっと、文部科学省の人達に理論的に反論してほしかったです。

思わず熱くなり、長文になりました。
by あんこ (2009-11-25 10:03) 

h-sebata

> あんこさま

コメントありがとうございました。お読みいただきありがとうございます。

本当に同感です。事業仕分けの場にいた方は、仕分け人にしろ官僚にしろ、「即効性で役に立つ」ことばかりを求めているような議論しかしていません。
でも、そうでなくても重要な学問というのはたくさんあると思うのです。そういったところにお金をきちんと投資することこそ、「文化国家」というものだと思うのです。

民主党は高校教育無料化を主張するなど、教育支援に熱心だと思っていたのですが。
なんだか目先の財政しか考えない財務官僚の思惑に乗っかっていってしまって、マニフェストの内容を忘れてしまっていたのではないかと思っています。

ただ、今回の事業仕分けというやり方自体は今でも悪いものではないとは思っています。もし自民党と同じやり方をしていたのであれば、政調会と官僚の間ですでに決まったものが出てきていたでしょうから。
議論のずさんさはあるにしても、公開でやったからこそ、反論の可能性もまたあるのだと思います。こちら側もまた覚悟が問われているのかもしれません。

こちらも熱くなり長くなりました(笑)
by h-sebata (2009-11-25 19:17) 

りゅう

はじめまして。
ブログ読ませていただきました。
理学部の友人たちから、「競争的資金をどうにかできないか?」と無茶な相談を受けて、早速事情を調べていました。大変参考になりました。

やはり短期的議論が目立ちます。目の前の生活のための科学ではないのに、事業仕分けでは「国民目線」になっており、未来の日本を見据えた議論になっていないと思います。

ただ、科学者が科学の必要性を訴えてこなかったのも事実。
事業仕分けの場で熱意を持って反論しなかった文科省の役人にも
いらだちました。

スーパーコンピュータの件とは違い、こちらは国家の科学を担う研究者の資金が直接かかっています。どちらも期限が迫っており、緊急に対応する必要があり、困っています。

h-sebataさん、一学生がこの資金を確保するためにできる、
短期的に効果のあることとはなんだと思いますか?
ぜひご意見聞かせてください。

思わず熱くなり、長文になりました。

by りゅう (2009-11-30 22:13) 

h-sebata

> りゅう さま

コメントありがとうございます。
お役に立てたのであれば幸いです。

> 一学生がこの資金を確保するためにできる、
短期的に効果のあることとはなんだと思いますか?

まず私が考えるのは、とにかく文科省に意見を送るのが第一でしょうか。また、自分の大学所在地や出身地の地元の国会議員にメールや手紙を送ってみるというのもあり得るかと思います。
それ以外には自分の先生を通じて学会で声明を作ってもらって文科省や事業仕分けに関わった議員に送るのもありかと思います。

いずれにしろ国の予算を作るのは国会議員です。(それにプラスして文科省と財務省の官僚でしょうか。)
そこに働きかけるというのが不可欠なのだと思います。

一人の学生でできることは限られていますが、あきらめずにまずは何かをやることが必要なのだと思います。お互いに頑張っていきましょう!
by h-sebata (2009-12-01 15:38) 

U-runner

 はじめまして。私のブログ記事にリンクを頂き、どうもありがとうございました。
 仕分けの議事録には、「『何が削減対象になったのか』ということをきちんと分析されていないものがほとんど。」「そのあたりをきちんと説明し(ながら予算の要求をし)ないと、たぶん一般の方から見ると「既得権を振り回しているだけ」みたいな解釈をされかねない」
 まさにその通りだと思います。ビジョンを説明し、予算を使った後で成果を適切に説明することなど、「説明すること」って大切なんですね。
by U-runner (2009-12-26 21:57) 

U-runner

PS. こちらの記事にリンクを追加させて頂きました。
http://yaplog.jp/ultgear_lasrun/archive/391

博士課程の研究、お互い頑張りましょうね!
by U-runner (2009-12-26 22:08) 

h-sebata

> U-runner さま

リンクも含めどうもありがとうございました。
結局予算編成でどうなったのかがやや気になっています。このあたり、きちんと公開がされるとありがたいのですが・・・。
お互いになかなか大変な立場ですが頑張りましょう!
by h-sebata (2009-12-27 13:30) 

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