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陵墓公開運動の現在 [天皇関係雑感]

11月23日に、陵墓関係16学協会主催のシンポジウム「陵墓公開運動30年の総括と展望」を聞きにいった。
私は諸々事情があって、半年前ぐらい前からちょくちょくこういった話の末席にこっそりと参加している。
ちなみに「陵墓」とは、簡単に言うと宮内庁が管理している天皇・皇族のお墓のことである。

「陵墓関係16学協会」というのは、日本考古学協会をはじめとした考古学や古代史に関係する16の学会の集合体である。
この16学協会がそろって宮内庁書陵部陵墓課と交渉することで、これまでさまざまな立ち入り調査(ただし宮内庁が指定したルートからは外れられない)などが行われてきた。
その陵墓公開の第1回があったのが30年前であり、その後毎年何らかの形で続いているそうだ。

私はこういった会合に集まる人というのは、先入観として、「陵墓が発掘されないのは古代史にとって大きな損失だから、天皇の墓であろうと掘れ!」みたいなことを言っている集団なんだと思っていた。
だが、行ってみるとどうやら全く雰囲気が違う。
今回のシンポでも改めて思ったが、学協会の主張していることは大まかに次のような感じになっている。(細かくは差異があるが)

・発掘は求めない。
・皇室祭祀に対して配慮を行う。


その上で

・立ち入り調査をさせてほしい。
→私にはよくわからないのだが、考古学の人だと地形とか植えてある木とかでいろいろなことがわかったりするものらしい。

・研究者だけでなく一般の人も入れるような機会を設けてほしい。
→そのためには文化財保護法の適用(一般公開が基本的に義務付けられる)を考慮してほしい。

・陵墓の修復はきちんと調査をした上で行ってほしい。
→現在宮内庁が指定している陵墓の区域よりも、実は大きい古墳というのもあるらしい(そういった周りの部分が住宅地となって破壊されたりしていることがあるみたい)。また、江戸時代の修復が原状とは違う直し方をしてしまっているものもあるらしい。

しかも、どうやら各地の陵墓はかなり自然崩壊してきていたりして、補修が必要なところがたくさんあるとのこと。(もともと陵墓の周りの堀の部分は水が入っていない空堀だったという学説も有力視されているようで、水の浸食が陵墓保存の大きな問題になっているらしい。)
でも、宮内庁には予算人員が足りなく、修理が追いついていないのだそうな。
そこまで意図があるのかはわからないが、文化財保護法の適用というのもこういった予算面の強化ということも含めたことなのだと思う。

なんというか意外だったのだが、宮内庁と学協会自体がずいぶんと仲が良い感じなのだ。
お互いにとって利益になるような共通点を探っているというか、そんな感じに見えた。

それに、そういった対応をしているので、皇室祭祀が古代から連続しているという説を普通に受容している人が多いように見えた。(もちろん連続しているものもあるが、明治以降に祭祀の再編が行われているというのは、パネリストだった高木博志氏を初めとして近現代史の方では主張する人が多いのだが・・・)

こう見ると、かなり保守派のほうからも受け入れられやすい方針に転じているのだなということがわかる。
ただ、いかんせんそういう政策をとっていることがあまり知られていないので、「掘るのはけしからん」みたいな反発を食うことが多いらしい。

この問題についてはいくら私が天皇制研究者でも、どうすべきなのかという点についてはまだあまりきちんとした見解を持ち合わせているわけではない。
ただ、こういった動きになってるんだなあということが興味深かったので、ちょっと書いてみました。
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コメント 3

ダグラスリーフ

「明治以降に祭祀の再編が行われている」を読んでいたら、何となく、「伝統の創造」という言葉を連想しました。
by ダグラスリーフ (2011-06-04 02:07) 

瀬畑 源(せばた はじめ)

> ダグラスリーフさま

そうだと思います。
ただ「創造」というのは無から有を作るのではなく、ある材料を再編して作り上げるということだと思いますが。
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2011-06-04 15:09) 

ダグラスリーフ

「伝統の創造」、たしかに考えてみると、変な表現だと思いました。
現代国語例解辞典(小学館)で創造を見てみたら、①新しいものを初めてつくり出すこと。②神が宇宙、万物をつくること。と、書いてありました。
たしかにおかしいです。
「伝統の再構築」又は「伝統の再編」等にすべきだったと、今、反省です。
瀬畑さん、ごめんなさい。
by ダグラスリーフ (2011-06-04 23:47) 

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