SSブログ

公文書管理法と専門職問題 [情報公開・文書管理]

昨日、学習院で行われた日本アーカイブズ学会の研究集会「公文書管理法と専門職問題」を聞いてきた。
報告者は以下の通りだった。(敬称略)

・岡本信一(内閣官房公文書管理検討室)
  「公文書管理『新時代』における専門的人材の育成に向けて
   ~米国情報大学院(i School)が新しい時代を切り拓く~」
・安藤福平(広島県立文書館)
  「アーカイブズ業務と専門職-広島県立文書館20年の体験から」
・針谷武志(別府大学文学部)
  「公文書管理法の成立と文書館専門職養成の役割」

私はアーカイブズ学の知識は素人同然であり、また特にこれからアーキビストをどう育てるのかということについて、歴史学から何がなしえるのかということを考えてみたいということもあって聞きに行ってみた。

お三方の話を簡単に要約すると、今後現場で役立つ人材を育てるためには「歴史学から自立したアーカイブズ学」ということは必須(むしろ図書館情報学との融合)であることの一方、現実として現場で求められている能力や大学でのアーキビスト養成方法はまだ歴史学の影響が色濃いというところであろうか。

内閣府の岡本氏は、これから必要な人材は情報系だと明確に言い切っていた。(iSchoolの紹介はあまり時間が無くてほとんど話されなかったのは残念だったが。)
アーキビスト資格制度についての質問をされたときにも、現場で必要な人材(データベース作成や一般向けの普及教育など)が集まれば良いという答え方をしており、むしろアーキビストという専門職が公文書館の中核を占めるというよりは、さまざまな必要な人材を適材適所で集めてこれば良いという考え方をしているという印象を受けた。

なんというか、官僚というよりは会社経営者の感覚だなと思う。
また、岡本氏は日本のアーカイブズ学に対して全体的に結構きついことを言っているなというように私には感じた。会場にいたアーカイブズ学関係者はどのように岡本氏の一連の発言を受け止めていたのか気になるところではあった。

一方、実際に文書館専門職養成に携わっている別府大の針谷氏の発言は、理想と現実のはざまにある様々な困難について非常に率直に語られていて興味深かった。
針谷氏にしてみると、もっと行政学や情報学、アーカイブズ学の授業を中心としたカリキュラムを組みたいらしいのだが、そもそも文学部史学科(正確には史学・文化財学科)の元に専門職課程が置かれていることから、授業の中心を史学にせざるをえないのだという(教員配置などの兼ね合い)。

それに、結局卒業生が公文書館で求められる技術は、第一には「いわゆる「古文書」」の読解能力だという。
「いわゆる」というのは一般的に言う中世近世の「古文書」ではなく、近代以降の手書きの文書のことだそうだ。

確かに、パソコン(ワープロ)が普及して、基本的に文書は全てデジタル文字で作られるようになったのはそれほど古い話ではない。
また、それ以前に使われていた日本語タイプライターは、英語と違って非常に打ちにくく、専門のタイピストがやらないと打つこと自体が不可能なものであり、重要な文書にしか使われていない。
さらに、戦後改革の中で、漢字を新字体に、かなづかいも変更してしまったが故に、それ以前の文書は現在の公務員からはさらに読みにくい物になっているのは確かだろう。

そして、針谷氏は、レコードマネジメントやいわゆる「古文書」読解といった技術だけでなく、倫理教育(アーキビストとは何であるか?)の部分をもっときちんと教える必要があるのではということを述べていた。心の問題なのでなかなか難しいがということも言っておられたが。


これらの話を聞いていて思ったのは、「結局アーキビストに必要な能力ってなに?」ということを論じるには、「公文書館とはどうあるべきか?」という公文書館機能の話をきちんと踏まえた上で論じなければならないということなのではないかと思う。
特に前者はよく論じられているのかもしれないが、後者を踏まえた上の議論はなされているのだろうか。私はあまりよくわからないが。
安藤氏の報告が、岡本氏と針谷氏の報告の前提となるものだとして聞いていたのだが、前者の話だけに終始していたのでやや気になった(報告テーマが専門職問題だったこともあるのだろうが)。

公文書館の存在意義をアピールする時に、どういった「形」のものを想定しているのか。これによっては、デジタル化に重きを置く、教育に重きを置く、行政のシンクタンク機能に重きを置くなど、さまざまな向かう先があるように思う(もちろん択一的な話ではないが)。
そして、その公文書館の形に沿った人材を育てるということが、アーカイブズ学の役割ということになるのではないか。(ひょっとすると、アーカイブズ学は公文書館業務の「一部」だけを担う人材を育てれば良いという考え方もあり得るかもしれないが。)

この公文書館の形のイメージが人によってずれている状況では、なかなかアーキビストに必要な能力とはという議論が噛み合ってこないかもしれないなとは思った。(少なくとも今回の壇上の3名は、そこの共通見解がないなと思った。)

さて、これに対して、歴史学はどうすればよいのだろう?
何というか、基本的にはアーカイブズ学の方は、歴史学と明らかに距離を置きたいように見える発言が多かったことは否定できない。
一方で、完全に切れてもいけないという感じもあった。「独立したい」というところだろうか。
やはり、この点を考える際も、結局は歴史学が公文書館に何を望むかということをきちんと考え直さなければわからないということなのかもしれないと思う。

最後に司会の安藤正人氏が、公文書管理法ができたので、具体的にどのようにアーキビスト養成をおこなうのかという「実行」の部分に問題は移行したということをおっしゃっていた。
実際にそういう時代がやってきたのだろう。

是非とも、こういった議論が深まることを願っている。

○参考
以前、私が書いたアーキビストに持っていて欲しい素養の記事↓
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2009-07-05
個人的な見解ですが参考までに。

あと、最近、事務分担管理原則の話をするために、内閣法や国家行政組織法といった行政法を勉強していたのですが、その時に、「やはり行政法の教育は必要だ」と改めて思いました。
上記の引用記事では行政法として情報公開法などしか触れていませんが、行政組織の置かれている状況をきちんと把握することはアーキビストには不可欠の知識になっていくように思います。今回の報告でも、そのようなことをおっしゃっている方は多かったように思います。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。