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レコードマネージャーとはなにか [情報公開・文書管理]

ARMA東京支部が主催した「公文書管理法:運用面での課題と方策」というシンポに行ってきた。
講演者はマイケル・L・ミラー氏(ロッキードマーチン社コンサルタント)。元アメリカ国立公文書館のディレクターとして連邦政府全体の記録管理プログラムの監督・試演に携わるなど、アメリカの公文書の記録管理の現場に精通した方とのことである。

今回の講演は、私が良く聞きに行っている「アーカイブズ」の問題と言うよりも、実際に現場で公文書をどのように作成・保存するかといった点に焦点を当てられていたものである。
私としては、公文書管理法が機能するには、結局現場でどう公文書がきちんと作成されるかというところにかかっていると思っているので、興味深く聞かせてもらった。

内容は多岐にわたるので簡単に紹介できないが、気になるところを。

まず、米国国立公文書館記録管理局(NARA)は、基本的にはアーカイブズの方を中心とした組織であり、現用記録をどう作らせるかと行ったレコードマネジメント(記録管理)の部分については、実は人員も予算も権限も不足をしているということである。
そして、あくまでも、NARAは「支援者」であり「監査人」ではない。記録管理は各省庁の責任で行われるもので、NARAは大まかな基準作成や教育支援などは行うが、それ以上はできないという。
またNARAは議会に各省庁の記録管理の状況を報告(改善の勧告?)することができるが、それもほとんど行われていないらしい。

そのため、各省庁で文書管理を行うレコードマネージャーの資質によって、記録管理のレベルが変わってくるという、人的な問題におおきなウェイトがかかってしまっているという。
よって、レコードマネージャーをどう育てるかがカギになる。そして、その働きを担保するような支持者をどこまで各省庁内に作り、記録管理自体の仕事の重要性を認識させることができるかということも必要なのだという。

しかし、職員が約2500人いるNARAなのに、人員も予算も足りていないとは・・・。
日本の42人(+内閣府10人)で一体どうせいというのだ。やはり大量の予算を早急に投入してもらわないと、公文書管理法の実効性は極めて厳しいものになるなと改めて感じた。

なおこういうことを書くと、「なんだアメリカでもひどいではないか」というように取れるかもしれないが、あくまでもこういうところもあるというレベルの話で、基本的にはきちんとシステムは機能しているようだ。
そして、不断の見直しや、監視システムによって、常に改善が図られるような仕組みは担保されているとのこと。
おそらく、日本で最善のシステムが作られるために、アメリカで問題になっていることを積極的に話したという事なのだと思う。

ミラー氏がなんども繰り返していたが、アメリカで公文書管理法は約50年前にできたが、今でも不断の見直しを行って実効性を高める努力が続けられており、日本でも根気よくこの問題に取り組んでいくことが必要だということである。

この講演はARMA東京支部の季刊誌(Records & information management journal)に載るそうだが、面白かったので、後半部分「米国国立公文書館と各省庁における記録管理の主要な課題」のパワーポイントで表示されていたデータを下に打ちこんでおきます。
非常によくまとまった報告だったので、それだけで内容がわかると思います。私がぐだぐだ書くよりも、その方が意味がありそうです。(一応、全体の内容の半分以下ってことで、主催関係の方はどうか御容赦の程を。)


タイトルを太字にしてあります。

「米国国立公文書館と各省庁における記録管理の主要な課題」

記録と記録管理の重要性を伝えること
○次のような情報源について、市民に記録の価値を伝えなければならない
 ・家族の歴史
 ・政府の説明責任を維持する
 ・透明性
○典型的な連邦政府職員の考え方
 ・私は記録なんて持っていない
 ・記録管理は私の仕事ではない
 ・文書はサインされた場合にのみ記録となる
 ・電子メールは記録ではない
○正しいメッセージを見出すこと

われわれが伝えたいこと
○ISO15489は多くの記録管理の利点を挙げている
○あなたの組織とあなたの歴史的記録
○良い記録管理はあなたの仕事をし易くする
○良い記録管理は組織に恩恵をもたらす
○最終的な文書だけが記録ではない(ドラフトも含む)
○正しい記録を作成することが重要である
○記録管理は余分なものではない
○記録管理を、仕事を行う際の重要な部分にしなければならない

伝えることは仕事である
○コミュニケーションは不断の仕事でなければならない
○伝える内容は一貫性がなければならない
○スタッフ教育
○コミュニケーション・ツール
 ・パンフレット、ポスター、ウェブサイト等はすべて良いが時間と財源が要る。
 ・ブログ、ウィッキ、ニュースレター、教育、eメールアラート
○相手の居場所へ近づく

電子記録への対応
○最も大きな問題は、職員が電子文書を組織に属する記録と考えていないことだ。それゆえ、彼らには記録管理ルールに従って電子文書を管理する理由が見当たらないのである。
○多くの米国の記録管理の考え方は、記録が電子的に作成され利用されているにも拘わらず、依然としてペーパーベースである。
○記録管理の能力を新しいシステムへ組みこむことが不可欠である。

エンドユーザーの役割
○殆どの記録を作成し、管理している
○但し、それらを記録として考えていない
○彼ら自身の利益のために記録を管理する
○要求事項に合せ電子文書を管理することに多くの時間と努力を費やしていない
○記録を管理する使いやすいソフトウェアが見つからない

保存
○電子記録の長期保存は必要だが、簡単ではない
○保存の問題は、記録が5-7年以上維持される必要が生じた時から始まる
○真正性、信頼性、完全性、利用性を維持するには管理と投資が必要になる
○各省庁と国立公文書館では違ったアプローチが必要

保存に対するアプローチ
○マイグレーション―文書をあるソフトウェアのプラットホームから別のものに移行することで、文書に対する何らかの質の低下と(または)変化を伴う。
○エミュレーション―新型コンピュータに旧型の働きをさせること。古い文書を、それが作成された同タイプのプラットフォーム上で走らせる。
○デジタルの対象を、検索・利用のために必要なメタデータを添付し、ハード、ソフトから独立した対象として作成する。
○完璧なソリューションはない―"許容できるもの"があるに過ぎない

電子メールを管理する
○電子メールは当初、別な形の紙記録と見られていた
○紙のように扱われた―うまく行かなかったが
○新しいアプローチ
 ・"大きなバケツ"的記録のスケジュール
 ・使われるままに電子メールを扱う―主題ではなくユーザーによる取り扱う
○どのようなソリューションも自動的な形で実行可能なものでなければならない

ライフサイクル管理
○伝統的にNARAは記録の作成よりも処分に重点を置いてきた
○レコードマネジャーを記録作成のプロセスに関与させることは困難である
○記録と記録維持管理が変化するため、不断の更新をしなければならない

要求事項の精度
○高次元の目標と具体的な実践の要求事項のバランスを取る
○NARAは伝統的に、記録の管理、保存、処分については非常に具体的な要求事項を掲げてきた
○NARAの規則と指導は、他の分野においては高次元のレベルだった
○今では柔軟性があり過ぎるか?
○最低限の要求事項が必要

歴史的な記録の移管
○定期的な移管を保証する記録スケジュールを持つ必要がある
○記録のスケジュールは移管の問題を確実に進める方法を提供する
○記録の質の変化を見守る
○NARAは30年以上経過の記録を引き取る権限を有する
 ・これに従わない省庁もある
 ・提携アーカイブズは一つの成り行き

記録管理の資金作り
○財源のない権限―記録管理を行わなければならないが財源がない
○誰もが重要だと思っていない
○レコードマネジャーへの影響
 ・資格認定の受験が魅力ないものに
 ・パートタイムの仕事に
 ・不人気な仕事に―高い転職率
 ・空いた地位を埋める最低限の基準がない
 ・職務内容の概要を記す標準的な職務記述書がない

規則の運用
○NARAの限られたスタッフ
 ・25-50人のスタッフ
 ・300以上の連邦政府機関
○NARAは行政管理予算局(OMB)と連携しなければならない―政治的な被任命者
○NARAは伝統的に、監査人ではなく支援者として働いてきた
○NARAは各省庁のことを議会に報告できるが、殆どしたことはない
○評価されなくても、それは問題ではない

いくつかの間違い
○記録の定義に集中
○もっぱら歴史的記録に焦点を置く
○レコードマネジャーの基準がない
○記録管理プログラムの評価にあまり重点を置かない
○機関に価値を付与するよりも、規則の遵守にこだわりすぎた
○紙記録と電子記録の違いを認識するのが遅い

成功したこと
○記録は国民のもの
○多くの歴史的に重要な記録を保存できた
○記録管理は価値を付与しなければならない
○電子記録についてのリーダーシップ
○国際的な協力
○政府への統合

まとめ
○たった18ヶ月で記録管理プログラムを適切に整備することは大きな挑戦である
○それには集中的な努力が必要となる。あなた方はそれだけ真剣か?
○直ちに記録管理のスタッフを決定し、教育を始める必要がある
○記録管理ポリシー、保存期間、ファイリングシステム等を開発する際に利用するテンプレートを作成する
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