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天皇の魚類学 [天皇関係雑感]

青春18きっぷが使える間にということで、京都から帰ってきた当日に、東京海洋大学の水産資料館で行われていた(7月30日まで)「天皇陛下の魚類学ご研究」の展示を見てきた。
といっても、ハゼの研究を見たって、理系音痴の私にはさっぱりわからんのだが。
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↑天皇が実際に使っていた標本

展示室にいた海洋大の方から聞いた話によると、そもそも初めは「今年は天皇即位20年、結婚50年で、魚類研究者だから何か展示をするか」ぐらいのノリで、論文の展示でもしようかということだったらしい。
ところが、企画者の教授の師匠にその話をしたところ、それが天皇の所まで伝わり、「それは良い企画だから標本貸そうか」という話になり、大ごとになったらしい。

もともと標本自体は、海洋大の先生達が集めて天皇にあげたものらしく、瓶には「TUF」(海洋大の前身の東京水産大学のこと)との記載がある。
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ところで、「天皇の生物学研究って「世界的水準」って言われるけど本当か?」という質問をたまに受けることがある。
私は生物学の専門家でないので確たることは言えないのだが、むかし本で読んだ知識からすると、そもそも現天皇や昭和天皇が専門にしている「魚類分類学」という学問自体が、かなりマイナーな学問分野らしい
分類学はとにかくサンプルをかき集め、ひたすらそれを見続けて分類するという基礎科学なので、どうもあまり面白いものではないようで、研究者が参入してこないらしい。

例えば、昭和天皇はヒドロソアの研究をしていたわけだが、これは「誰もやっていない分野」を選ばされたということもあると聞く。戦前は天皇への批判はできなかったから、学問的に論争が激しいところでの論文発表は、もし間違ったことを発表すると学問の停滞を招くということが配慮されたらしい。
読売新聞の宮内記者だった小野昇によれば、

「”ヒドロソア”という動物とも植物ともつかない海底の微生物は、博士論文をとるための研究対象としては余りにも地味すぎ、また資料を蒐集するためにはばく大な費用と時間と、なみなみならぬ努力が必要なので、世界各国でもこれを専門に研究している学者は極めて少く、まったく陛下の独壇場だといわれている。」(小野昇「生物学者天皇」『国民科学』1947年8・9月号、10頁)

とのことだ。

現在の天皇はハゼの分類学の研究者であるが、おそらくあまりライバルのいない分野なのだと思う。
だから、ハゼについては世界的に見ても有数の研究者であるということはそれほど間違いでもないのではないか。
(ちなみに、ニッチな分野をやっているからといって否定的に見ているわけではない。こういった基礎科学へのこだわりは、「役に立つ学問」ばっかり求める最近の風潮に逆らっているようで、かえって好ましい。)


さて、海洋大の資料館の後に、皇居の三の丸尚蔵館で「両陛下―思い出の絆の品々」の展示を見てきた。
いままで見たことないものも結構並んでいて新鮮だった。
着袴の儀(1938年)の服とかは、モノクロの新聞写真しかみたことなかったから、色鮮やかでびっくりした。

これから展示を変えながら来年まで続けるらしい。ただ、もう一部屋ぐらい展示室があっても良いよなあと思う。一部屋だけの展示スペースは少ないなあと。

今年は即位20年、結婚50年なので、各所で展示会が続く。秋には東京国立博物館で「皇室の名宝」展もやるみたいだし。
色々と見て回ることが多くなりそうです。


おまけ

実はこの後に行った所は↓だったりする。
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実物大ガンダムすげー!
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コメント 3

行官士

 はじめまして。行官士と申します。とある役所で働いている男です。
また、廣田傳一郎先生が理事長を務める行政文書管理改善機構等が
主催する文書管理の講座を受講し、修了しました。講座修了後も廣田
先生とは、メール等で連絡をとっております。

 文書管理上での最大の問題は、「文書の所在場所は、自分さえわ
かればいい」等の「文書の私物化」があり、それを容認する「文書の
私物化容認意識」があることです(これは、廣田先生からもご指摘さ
れていることです。)。言い換えれば、必要なところに情報が流れて
いないことを意味し、このことは役所の業務にとってもマイナスになっ
ています。公文書管理法は、説明責任を果たすため、という観点から
述べられておりますが、私はこの法律が、文書管理の改善に役立って
ほしいと思っております。

 さて、ブログの内容ですが、天皇は政治・経済から距離を置く、という
観点からそういう分野の研究は行わない、と伺ったことがありますが、
いかがでしょうか?ニッチな分野の学問を研究されるのも、競合相手が
少なく、天皇の研究が批判にさらされるのを避けるためのような気がし
ます(ちなみに廣田先生は、「分類の手法さえマスターすれば、文書の
私物化容認意識は払拭できる。」とおっしゃっておられます。分類の重
要性は、文書管理に携わっているとよくわかりました。)。

 公文書管理法に対する瀬畑さんのご意見に対する私の意見は、
今後、必要に応じて申し上げさせていただきます。




 
by 行官士 (2009-08-02 06:23) 

h-sebata

> 行官士さん

コメントありがとうございました。
廣田先生の話は私も同感です。

天皇の研究が「政治経済」から距離を置くというのはある程度あたっているかと思います。
ただ、現天皇は政治学科出身です。本当は歴史をやりたかったのですが、政治的に危ないのでそれは止めさせられたようです。
しかし、教育を担当していた小泉信三は、政治の中での自分の立場や役割を考えさせるために、当時の皇太子に政治学を勉強させたようです。
その意味では、生涯の専門としては政治経済から距離を置いていますが、必ずしもそれは勉強しないということを意味しているわけではないというところでしょうか。

また、現皇太子は歴史を専攻してます。これは自分は止めさせられたという経験から、息子には自由にさせてやりたいと思ったからではないかと。
中世の交通史ですから、これについては、ライバルはそれなりにいるような気もします。おなじ歴史学でも中世のことはよくわかりませんが。
昭和天皇や現天皇の専攻分野から考えると、天皇の立場が変わったということも言えるのでしょうね。

もし公文書管理法について何かありましたら、遠慮無く御書き込みください。
よろしくお願いします。
by h-sebata (2009-08-02 12:54) 

ダグラスリーフ

実物大ガンダム、かっこいいですね。
by ダグラスリーフ (2011-06-04 02:10) 

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