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【連載】公文書管理法案を読む(補遺第1回)―公文書管理機関のあり方 [【連載】公文書管理法案を読む]

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「公文書管理法案を読む」の連載をしてから、すでに1ヶ月が過ぎました。
その間、公文書市民ネットの人達と色々と議論をする機会があり、新たな知見などをたくさん学びました。

そこで、今回より数回かけて、前回の連載では述べることができなかった点について、「補遺」という形で書いてみたいと思います。

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。

補遺第1回 公文書管理機関のあり方

前回の連載で、触れなければならないと思いつつも、判断が難しくて書けなかったことの一つが、この公文書管理機関についてである。
この問題は、下手に取り上げると、法案を全否定しなければならなくなる所でもあり、それは私の意図するところではなかったので躊躇していた。

だが、最近、公文書市民ネットの方達の意見や、消費者庁問題から、やっとどう論じればよいかが見えてきたので、それについて書いてみようと思う。

今回の公文書管理法案において、公文書管理機関は大雑把に言うと、次のように考えられている。

・公文書管理担当の司令塔  →内閣府公文書管理課
・公文書の移管先        →独立行政法人国立公文書館
・公文書管理の監視機関    →公文書管理委員会(内閣府の審議会)


これは、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の最終報告よりも明らかに後退した案である。

まず「司令塔」について
最終報告では、司令塔の機能として次のものが挙げられていた。

「公文書管理担当機関は、行政機関のみならず、立法府や司法府からの文書の移管も視野に入れた我が国全体の公文書管理に関するいわば「司令塔」として、①公文書管理に関する法令等の企画・立案・調整、②作成・保存・移管等の公文書管理に関する基準の策定・改定、③文書の延長・移管・廃棄への関与、④文書管理の実施状況の把握と不適切な実態の是正、⑤移管を受けた文書の保存・利用、⑥専門的知見を活用した各府省・地方公共団体等の支援、⑦国内・国外の関係機関との連携、⑧人材育成・研修・研究等の幅広く高度な機能を担うべきである。」(P20)

要するに、かなり多くの業務を行わなければならないということがわかってもらえればよい。例えば③の文書の延長・移管・廃棄への関与というだけでも、膨大な仕事量であることがわかる。
このことから、この「司令塔」はかなり大規模なものが考えられていたはずである。
しかし、実際には内閣府の「課」止まりである。おそらく職員は20~30人ぐらいではないか(正確な情報を求む)。

次の、国立公文書館については第2回で書くので飛ばします。

そして、監視機関である「公文書管理委員会」も、非常に権限が弱い。
ここからの説明はなかなかわかりにくいのだが、重要なので我慢して読んでほしい。

そもそも、国家が行政機関を作るときには、「国家行政組織法」という法律に基づいて設置がなされる。
その際に、第3条に基づいて作られた機関(いわゆる「3条委員会」)と、第8条に基づいて作られた機関とがある。第8条はさらに1~3まで分かれるのだが、とりあえず1が今回に関係があるので、そこだけ取り上げる。

第3条に基づいて作られた機関は、具体的には、公安調査庁、林野庁、国税庁、気象庁、海上保安庁、中央労働委員会などが挙げられる。おおよその「庁」がつくものは、ここに属すると考えて良い。「外局」とも呼ばれる。
これに対し、第8条1項によって作られる機関は「審議会等」と分類されるものであり、各省庁の下に作られる諮問機関のようなものである。具体的には、中央教育審議会、法制審議会などが挙げられる。

なお、内閣府の元に置かれた庁などは、別の法律(内閣府設置法)で定められており、前者の「外局」は設置法の第49条によって置かれており、後者の「審議会等」が第37条3項などで置かれている。
前者の代表例は公正取引委員会、後者は原子力安全委員会となる。

ちなみに、今回国会で議論になっていた消費者庁は内閣府の「外局」にあたる。
与野党で揉めていた監視機関である「消費者委員会」は、当初は消費者庁の「審議会等」にあたる位置づけだったが、妥協案として「外局」に格上げされた。つまり、消費者庁と同等の組織になるということになる。

さて、話を戻し、公文書管理委員会であるが、これは「審議会等」に分類されている。
公文書管理法案の法文だけを見ていると「内閣府に置く」(第28条)としか書かれていないのでわかりにくいのだが、法案の附則第10条に「内閣府設置法」の改正というのが書かれていて、そこでは明らかに「審議会等」の部分に併記されていることがわかる。
つまり、権威も権限も明らかに落ちるところに位置づけられていることがわかるであろう。

こうなってみると、公文書管理に関する機関は、かなり弱い立ち位置として作られていることがよくわかる。
これは、すでに以前の連載で取り上げたように、「「移管廃棄の権限」などが「行政機関の長」に残されたこと=公文書管理機関は規模が小さくてOK」という点とつながっているのである。
権限がないからこそ、小さくて構わない(もしくは小さく作るために、権限を無くしたか)という組織の作られ方をしているのである。

ではどうすれば良いか。
もちろん、アメリカのNARA(国立公文書記録管理局)のように、全ての行政機関に文書管理についての介入権限があるような強力な機関ができるのであればそれは望ましい。
だが、残念だが今の日本ではこれを作ることは非常に難しい。人材が全く足りていないからだ。
前から書いているように、アメリカのNARAの職員は約2500人、日本の国立公文書館は42人に過ぎない。文書管理を行うレコードマネージャーやアーキビストの養成も明らかに遅れている。

今現実に可能そうなのは、「公文書管理庁」を内閣府の外局として設置し、公文書管理委員会を「3条委員会」とするというところではないか。つまり、消費者庁問題と同じように考えるということである。

まずは、公文書管理の権限を各省庁から切り離して、内閣府の「公文書管理庁」に一元化する。
公文書管理庁は百人規模の大きさとする。そして、まずはじっくり人材を育成し、将来的に公文書管理庁を会計検査院のような「内閣に対し独立の地位を有する機関」として設置できるようにすればよいと思う。

アメリカですら、初めからあのような強力な公文書管理機関があったわけではない。まずは制度を定着させ、その先に理想的な制度を作るという二段階で考えた方が良いのではないかと思う。

もちろん、公文書管理庁が最初は各省庁からの出向組の寄り合いになることは間違いないであろう。そのために、各省庁の主張を庁内に持ち込んでくる可能性がある。
だからこそ、公文書管理委員会を「3条委員会」として、強力に監視できるようにしておく必要がある。

この公文書管理機関の組織をどうあるべきかという点は、この法案の全ての条項と関わってくる重要な問題である。
おそらく国会での議論でもここが大きなポイントとなるであろう。

次回は、今回の議論の積み残しである国立公文書館について述べます。→補遺第2回
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