SSブログ

【連載】公文書管理法案を読む(第6回)―問題点(4) ファイル管理簿問題 [【連載】公文書管理法案を読む]

第1回はこちら
第2回はこちら
第3回はこちら
第4回はこちら
第5回はこちら

民主党の逢坂誠二議員がメルマガ(880号、3月10日)で紹介してくださいました。またmixiでもどなたか紹介してくださったようです(アカウントがないのでわかりませんが)。どうもありがとうございます。

公文書管理法案を読むの第6回です。
公文書管理法案の問題点についての続きです。細かい話を並べようと思ったのですが、ファイル管理簿問題だけで長くなってしまったので、とりあえずそれだけを書きます。何だかえらく長期連載化してきました・・・。

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。

第6回 ファイル管理簿問題

有識者会議の第5回の際に、各省庁の行政文書ファイル管理簿の状況についての報告があった。
「行政文書ファイル管理簿」とは、情報公開法が制定されるときに、省内にある行政文書のタイトルを公開させるためにつくられたものである。
詳しくは私の解説をみてほしいのだが、以前から、このファイル管理簿の杜撰さは問題になっていた。→この記事も

一度、興味がある人は検索してみれば良いと思うのだが、とにかくタイトルの付け方は杜撰だし、抽象的で、これで自分の探している行政文書を探し出せる人はすごいと思う。→検索システム

例えば、厚生労働省が、C型肝炎の調査を2002年に行ったときに判明した名簿を放置して2007年10月に発覚して問題になった話がある。→Wikipedia「薬害肝炎」参照
この2002年の報告書「フィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウイルス感染に関する調査報告書」で厚生労働省は次のようなことを書いている。

はじめに
 〔中略〕
(2)調査の方法
 〔中略〕
 (3) 文書調査

○医薬局及び関係部局等(健康局、国立病院部、雇用均等・児童家庭局、感染研)が保管している文書のうち、以下のものについて収集・精査を行った。
1)「フィブリノゲン製剤」の用語が含まれる医薬局の文書(平成10年度分まで)
2)フィブリノゲン製剤の安全性に関する記述が含まれる関係部局等の文書(昭和52年~62年度分)
○なお、いわゆる血液凝固第VIII因子製剤によるHIV感染問題に関連して東京地方検察庁に押収された旧薬務局等の文書(以下「地検資料」という。)についても、上記の基準に照らし調査の対象とし、同庁と協議の上、本報告書の公表に併せて公表した。


つまり、厚労省は、「フィブリノゲン製剤」の用語が含まれる文書を調べたと言っている。
さて、ではファイル管理簿で「フィブリノゲン」という用語を検索してみよう。

検索結果・・・5件
1. 2009年04月01日  医薬食品局血液対策課
平成19年11月7日付け事務連絡に対する都道府県等回答(2008年度)
2. 2009年04月01日  医薬食品局血液対策課
平成19年11月7日付け文書に対する7,000医療機関回答(2008年度)
3. 2008年04月01日 医薬食品局血液対策課
フィブリノゲン製剤等関係事務連絡(2007年度)
4. 2007年04月01日 医薬食品局安全対策課
【薬安36】乾燥人フィブリノゲン製剤再評価追加臨床試験資料関係(平成6年9月14日)(1996年度)
5. 1997年04月01日  医薬食品局安全対策課
【薬安36】乾燥人フィブリノゲン製剤再評価追加臨床試験資料関係(平成6年9月14日)(1996年度)

まず、4は5を延長手続きしただけなので計算から外して良い。
1から3までは、まさにその隠していたことが発覚した後に作られた文書である。
はてさて、一体厚労省は、医薬局の何を調べたのだろうか?全部文書をひっくり返して、用語を必死に探したのだろうか。
ちなみに、「C型肝炎」で調べると52件出てくるが、うち35件は高知労働局のC型肝炎調査。10件は特許申請書類。残りの7件は実質3件で4件が延長手続き分。

これがどういうことかわかるだろうか。
ファイル管理簿だけ見ると、「フィブリノゲン」というファイル名はほぼ存在していなかったと言える。
でも調査はできていた。(内部資料を使わずに報告書は作ってないだろう。)

ということは、次のようなことが考えられないだろうか。

厚生労働省には「フィブリノゲン」という名前の付いたファイルは「存在する」
だけど、「フィブリノゲン」という名の付いた「ファイル管理簿上のファイル」が「存在しない」

ただし、もちろん「フィブリノゲン」という名前のファイルがなかった可能性も十分にある。
その場合、行政文書ファイル管理簿はこの調査に何の役にも立たなかったのだけは確実である。

ファイル管理簿に記載されている名前がファイル名と一致していない。だから放置されたり、間違って廃棄されたりということが起きているのではあるまいか。
そして、そのために、内部の人ですら使い物にならない管理簿を作ってしまったのではないのか。

さて、今回の公文書管理法案ではファイル管理簿について次のような条文がある。

(行政文書ファイル管理簿)
第七条 行政機関の長は、行政文書ファイル等の管理を適切に行うため、政令で定めるところにより、行政文書ファイル等の分類、名称、保存期間、保存期間の満了する日、保存期間が満了したときの措置及び保存場所その他の必要な事項(行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成十一年法律第四十二号。以下「行政機関情報公開法」という。)第五条に規定する不開示情報に該当するものを除く。)を帳簿(以下「行政文書ファイル管理簿」という。)に記載しなければならない。ただし、政令で定める期間未満の保存期間が設定された行政文書ファイル等については、この限りでない。


つまり、ファイル管理簿を作ることは義務化されている。これは情報公開法でもすでにあったので問題はない。
ただ、問題は「政令で定めるところにより」である。

残念ながら、官僚達には、このファイル管理簿の不備が重要な問題であると全く認識されていない。
このようなめちゃめちゃなファイル管理簿が作られた原因は、情報公開法施行前の2000年2月25日に行われた各省庁事務連絡会議申合せの「行政文書の管理方策に関するガイドラインについて」の次の文章にある。

第1 行政文書の分類
(2) 「行政文書ファイル」とは、施行令第13条第2項第1号で定義されているとおり、「能率的な事務又は事業の処理及び行政文書の適切な保存の目的を達成するためにまとめられた、相互に密接な関連を有する行政文書(保存期間が1年以上のものであって、当該保存期間を同じくすることが適当であるものに限る。)の集合物」であり、小分類の下で保存及び廃棄について同じ取扱いをすることが適当であるものである。
 「行政文書ファイル」は、いわゆる「簿冊」と同義ではなく、複数の簿冊が1ファイルである場合、一つの簿冊の中に複数のファイルが存在する場合等種々の態様が想定されるが、的確な管理ができるよう各行政機関において適切に設定される必要がある。


前半の部分の行政文書の定義は、それ単体では実は問題はない。
問題は後半の「行政文書ファイル」が「簿冊」と同義ではないという点にあるのだ。
これによって、抽象的なファイル名を付けて、「関係のある」という名目で大量の簿冊を入れてしまうということが可能になってしまったのである。つまり、後半の部分を基礎として、前半部分の「関連」という仕組みを悪用したのである。

普通、目録というものは、ファイルに付いている名前と目録に載っている名前は一致するのが当たり前である。そうでないと資料が探せるわけがない。
ところが、行政ファイル管理簿を作るときに、その規制を外してしまったのである。
そのために、上記のような事態が起きてしまったのである。

そして、この「申合せ」は未だに使用されている。
2007年12月から開かれている「行政文書・公文書等の管理・保存に関する関係省庁連絡会議」の第1回の会議において、この「申合せ」は参考資料としてそのまま配布されている。

また、今回の公文書管理法案の第5条第2項には次のような文章が入っている。

2 行政機関の長は、能率的な事務又は事業の処理及び行政文書の適切な保存に資するよう、単独で管理することが適当であると認める行政文書を除き、適時に、相互に密接な関連を有する行政文書(保存期間を同じくすることが適当であるものに限る。)を一の集合物(以下「行政文書ファイル」という。)にまとめなければならない。

つまり、「申合せ」の前半の部分がほぼそのまま文章として入っていることがわかる。
これでファイル管理簿の名前の付け方に規制がかからないと、情報公開法の時と全く同じ事がおそらく起きるだろう。

私は第5条第2項に「管理簿記載のファイル名と簿冊名を一致させる」ということを入れるべきだと思う。
ただこの点については、法律の文章に入れるのはむずかしいかもしれない。ファイル名自体が不開示情報である可能性もあるからだ。
だからといって、このまま官僚任せに政令を作らせたら、同じ事が起きてしまう。そう考えるとやはり法文に入れるという主張をする方が良いように思っている。

第6回は終わり。長くなってしまったので、細かい話は次回に持ち越します。→第7回

追記(4/23)
たまたま、上記の厚生労働省の「フィブリノゲン資料問題及びその背景に関する調査プロジェクトチーム」の報告書をネットで見つけた。
その24~25頁に次のようなことが書かれていた。

・課室毎に書棚を確認したが、例えば図書館のように、「どの書棚にどの書類がある」と系統立てて整理されていないため、文書ファイルが実際どこにあるかは、一つ一つ書棚を探さないと分からない状態となっており、 各文書ファイルの重要度や優先度も分からない状態であった。

・保管されている個々の文書ファイルについて確認すると、文書ファイルの背表紙に件名が記載されていなかったり、通路から文書ファイルの背表紙が見えない状態で置かれたものも多々あり、通路から一見して文書ファイルの内容が判別できるような状況ではないところがあった。なお、これは、そもそも書棚の入れるスペースがB5版に合わせた高さのままとなっているため、そこにA4版の文書ファイルが立てて入らないため、横にして詰めているものと思われた。

・また、スペース不足のためか、書棚の隙間に斜めに突め込まれた文書ファイルや、文書がまとめて段ボール箱に入れられて通路脇に置かれているものがあった

・その他、「ハイキ」と書かれた段ボール箱が通路脇に置かれたままとなっていたり、30年以上前の日付の書類が書棚にそのまま置かれたものがあった。加えて、殆どの文書ファイルは、背表紙などに保存年限が記載されておらず、廃棄の時期が分からなかった。

ひどすぎる。どうも想定していたよりもさらにひどかったようだ・・・。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。