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【連載】公文書管理法案を読む(第7回)―問題点(5) 入らなかった論点 [【連載】公文書管理法案を読む]

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公文書管理法案を読むの第7回です。
公文書管理法案の問題点についての続きです。今回は問題点の指摘というよりも、法文に入らなかったけれども、重要だと考えられる点について指摘しておこうと思います。

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。

第7回 問題点(5) 入らなかった論点

・請求されてから開示されるまでの期間の限定

これは、有識者会議でも論じられていなかったのでしょうがないのだが、国立公文書館等において閲覧者が不開示部分のある文書の開示請求を行ったとき、その開示期限を設定するべきだと思う。

これについては、以前に指摘したこともあるのだが、国立公文書館や宮内庁書陵部では、移管された文書を管理簿にリストアップするのを優先している。
そのため、不開示部分が含まれている可能性のある文書(国立公文書館では「要審査」と分類されているもの)は、開示請求があった時点で不開示審査を行うことにしている。

このシステム自体は効率がよいので全く問題ない。移管されてから一度も利用されない文書もあるだろうから、時間の無駄も省けるだろう。
また、「時の経過」によって開示に転じる部分も出てくるわけだから、請求があった時点でチェックをすることは無駄な不開示を無くすこともできる。

だが、この審査がえらく時間がかかるのだ。場合によっては数ヶ月単位で待たされる(書陵部では数年単位で待たされているものもある)。
もちろん、審査の慎重さは求められるのだろうが、請求があったらせめて30日以内ぐらいでは見せてほしいと利用者の側からは思う。

これについては、法案に入れると言うよりも、国立公文書館等が利用規則を法に合わせて改訂するときに、是非とも自主的に入れて欲しいと強く願っている。

・施行日とそれまでの「間」

法案の附則の第1条に、この法律は公布後2年を超えない範囲で施行と書かれている。
想定としては、今国会で成立させて、平成23年(2011年)度から始めるということらしい。

この施行日については異存はない。国立公文書館の体制を整える必要もあるだろうし、多少時間は必要だろう。
問題は、その間に、各省庁にある文書が大量に破棄されないかという危惧である。

情報公開法が公布されてから施行までの1年数ヶ月の間に、大量の文書廃棄が各省庁で行われたことはよく知られている。→情報公開クリアリングハウスの調査を参照
今回は、有識者会議が作られたときに、当時の上川陽子公文書管理担当大臣が各省庁に文書廃棄を一時停止するように要望を出した。
どこまで守られているかはわからないが、この要望の内容にもっと具体的な法的裏付けを付ける必要があるのではないか。

もし、2年も文書を溜めていたら、置き場所が無くなって困ると言われたら、その時は「中間書庫」(保管期限切れ前だけども、利用していない文書を移しておく書庫)の利用を勧めればよいのだ。
せっかく、実験を行っているのだから、法が施行されるまでに中間書庫の運営実績を積めばよい。→実験の話についてはこれを参照
とにかく、あの情報公開法前の駆け込み廃棄のような事態だけは避けなければならない。

・罰則規定

この公文書管理法には、違反した際の罰則規定がない。
おそらく、これまでと同様に国家公務員法の規程を使うということになるのだろう。→Wikipedia「懲戒処分」参照

ただ、例えば、第6回で紹介した厚労省のC型肝炎問題での処分は「厳重注意」だけだったように、公文書管理の違反行為に対しては厳罰に処されたのを見たことがない。
防衛省の補給艦「とわだ」の航海日誌の廃棄問題でも、処分するとは言われていたが、減俸にすらなったという話も聞かないから、おそらくたいした処分はされなかったのだろう。
懲戒処分を行うのは任命権者である自省庁の大臣であるのだから、処分が甘くなるのも当然であると思う。

そのために、是非とも公文書管理法には、独自の罰則規定の条文を加えた方が良いと思う。
私案としては、「悪質」「故意」の場合には公文書管理委員会で審査を行って処分できるということにすべきである。
国家公務員法との関係などをどのように調整するのかは法律の専門家でないのでわからないが、十分可能なのではないかと思っている。

罰則規定を入れるだけで、公文書管理をしっかりやらないと罰せられる可能性があるという緊張感を持たせることができ、公務員の意識改革につながる可能性がある。
罰則の適用を行うケースに厳しい制限がつけられても構わない。要するに「入れておく」こと自体に意味があると思う。
官僚達がもっとも嫌がる部分だと思うが、そもそも「公務員の意識変革」を目指すための公文書制度改革なのだから、この規程はあったほうが効果が上がると思われる。

・専門家の育成

この公文書管理法のシステムの中核を担う人材を、早急に大量育成する必要がある。
具体的には、「レコードマネージャ」「アーキビスト」である。
簡単に分類すると、前者は、現役の文書の作成や管理を行う。
後者は、非現役の文書の保存や公開を行う。
いずれにしろ、文書を専門に取り扱うことができる人のことである。

このためには、例えば国家資格を作るとか、大学院を作って育成プログラムを組むとかなどが考えられる。
現在は学習院大学大学院人文科学研究科のアーカイブズ学専攻が、大学院として初めて専門家の養成に携わっている。
また、日本のアーカイブズ学の総本山とも言える、国文学研究資料館史料館では、毎年アーカイブズカレッジという季節限定のアーキビスト養成講座を設けている。
国立公文書館でも、各地の公文書館員の研修を行っており、こういった機関が連携しながら、大量の専門家の育成に着手する必要があるだろう。

そして、何よりも必要なのは、「お金」である。
是非とも、この専門家の育成に国家が長期的に金銭的な支援を行うような仕組みを作ってほしいと思う。
この専門家の養成に勤めるというようなことが附則に入れられるのであれば、それが法案に入ると、政策の推進力を増すと思われる。

以上で問題点の指摘は終わります。次回最終回は、公文書管理法案についての総合評価を行いたいと思います。→第8回
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