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【連載】公文書管理法案を読む(第5回)―問題点(3) 不開示範囲の拡大 [【連載】公文書管理法案を読む]

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公文書管理法案を読むの第5回です。
公文書管理法案の問題点についての続きです。

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。

第5回 不開示範囲の拡大

今回は、公文書管理法の第16条第1項の一と、それに関係する第8条第2項、第18条第3項について述べていきます。これらは、国立公文書館等での歴史文書の開示の際に「不開示」にできる情報を書いたものです。

まずは条文を。

(特定歴史公文書等の利用請求及びその取扱い)
第十六条 国立公文書館等の長は、当該国立公文書館等において保存されている特定歴史公文書等について前条第四項の目録の記載に従い利用の請求があった場合には、次に掲げる場合を除き、これを利用させなければならない。
 一 当該特定歴史公文書等が行政機関の長から移管されたものであって、当該特定歴史公文書等に次に掲げる情報が記録されている場合
  イ 行政機関情報公開法第五条第一号に掲げる情報
  ロ 行政機関情報公開法第五条第二号又は第六号イ若しくはホに掲げる情報
  ハ 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると当該特定歴史公文書等を移管した行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
  ニ 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると当該特定歴史公文書等を移管した行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報


まずは条文の解説を。
「特定歴史公文書等」というのは、国立公文書館等(「等」には外務省外交史料館、宮内庁書陵部などが入ると思われる)に移管された文書である。簡単に言えば、国立公文書館に保存されている公文書と考えてもらえれば良いと思う。(もちろん、国立公文書館にある江戸時代の文書などは対象外。)
この「一」では、国立公文書館にある文書でも不開示にできる場合を列記したものである。「二」から「五」もあるのだが、これは取り上げる必要がないと考えたので略。

まず「イ」にあたる部分は、個人情報。
「ロ」は前半は法人情報。後半は監査情報とか公共団体の企業活動の情報。
「ハ」は書いていないけど、情報公開法の第5条第3項にあたる部分。外交情報。
「二」も同様に、情報公開法の第5条第4項にあたる部分。公安情報。

なお、この第16条第2項では、不開示に該当するかは「時の経過を考慮」するとの一文が入ったので、国立公文書館の規則(別表)に合わせた開示が行われるものと思われる。
国立公文書館の判断で個人情報の開示不開示が決まるのは大きい。これまでは各省庁で過剰な個人情報隠しが行われていたわけであるから、この点は評価したい。

問題は「ハ」や「ニ」の「当該特定歴史公文書等を移管した行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という一文。
これに対応するのが、第8条第2項である。
引用します。

2 行政機関の長は、前項の規定により国立公文書館等に移管する行政文書ファイル等について、第十六条第一項第一号に掲げる場合に該当するものとして国立公文書館等において利用の制限を行うことが適切であると認める場合には、その旨の意見を付さなければならない。

原則として移管した後は公開(イ、ロを除き)で、不開示にしたい場合は「意見書」を提出しなければならなくなった。
この「原則公開」という点は評価できるのだが、問題はこの「意見書」の効力についてがどうもあいまいなのである。

引用した第16条の第1項一のハの「当該特定歴史公文書等を移管した行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」のその「相当の理由がある」を誰がどのように判断するかが、この法律には書かれていない。
また、第2項の「時の経過」で不開示を考えるという条文にも、この「意見書」が付いている場合は、国立公文書館は「当該意見を参酌しなければならない」と書かれている。
この具体的な取扱については、政令(施行令)で決めるということになるのだろうが、どうも法文だけを読んでいると「意見書の提出=必ず不開示」というようになる可能性が高いように読めるのだ。

この条項が入った理由は、明らかに警察庁などの要請だったと思われる。
有識者会議の第9回の議事録の解説でも述べたが、中間報告が出た段階で、一番不開示規程に噛みついてきたのは警察庁であった。
警察は、「公安情報」の開示は、捜査手法等が公になると業務に支障が出るとして大きな反発をしていた。
しかし、これを無条件で認めてしまえば、「昔の捜査手法は全て現在につながる」という理由をつければ、何でもかんでも不開示にすることができてしまう。

もちろん、私も不開示に慎重にならざるを得ない情報が、外交情報や公安情報にあることは否定しない。
そして、その不開示にするべきかの判断に、元の省庁の参考意見の提出はあっても良いと思うのだ。
ただ、問題はあくまでもそれは「参考」だけに留めなければならないと思う。

元の省庁の判断では必ず不開示部分の拡大解釈が行われることは必定。
そこは、国立公文書館側が意見を聞きながら、自分の判断で不開示にするかどうかを決めるべきである。
あくまでも移管された以上、歴史的な視野を持った専門家が開示するかどうかを判断するべきである。

それと関連して、第18条第3項を引用しておく。

3 国立公文書館等の長は、特定歴史公文書等であって第十六条第一項第一号ハ又はニに該当するものとして第八条第二項の規定により意見を付されたものを利用させる旨の決定をする場合には、あらかじめ、当該特定歴史公文書等を移管した行政機関の長に対し、利用請求に係る特定歴史公文書等の名称その他政令で定める事項を書面により通知して、意見書を提出する機会を与えなければならない。

これは、意見書を聞いて不開示にした部分を、後に開示に転じるときには、元の省庁に通知して意見書を出す機会を与えなければならないという内容である。

これは、一見すると、入っていてあたりまえのように見えるだろう。時の経過によって省庁側の意見も変わる可能性があるからである。
だが、私はこの条文については、「開示する際に通知する義務」は良いとして、最後の「意見書」の部分は、「国立公文書館側が意見を聞くことができる」という文面にするべきだと思う。
つまり、開示するかどうかはあくまでも始めに提出された意見書に基づいて、国立公文書館側が「時の経過」を見て独自に判断をするということにしなければならない。あくまでも、再度意見を聞くのは、公文書館側が慎重を期したいときのみに限定すべきである。

私は、一度移管された文書については、国立公文書館側が自らの判断で開示するか不開示にするかを決めることができるようにする必要があると考えている。
あくまでも、公文書館に移管された以上、それは「歴史文書」なのである。現役ではないのだ。
その「歴史文書」には、現役の文書とは異なる判断が要求されて然るべきである。それは元の省庁では判断ができないはずなのだ。

なお、この条項が入ったのは、おそらく移管を渋る省庁に対して「保険をかけられますよ」という「配慮」のためであると思われる。
つまり、前回述べたように、移管・廃棄の権限を各省庁に持たせたままにしておいたために、移管を進めるためにこのような条項を入れざるを得なかったのだろう。
なので、この部分の改正をもし行うのであれば、前回書いた移管・廃棄の問題とセットで考えられなければならないことは強調しておきたい。

なお、私がこのように主張するのには、もう一つ大きな理由がある。
それは、外務省外交史料館と宮内庁書陵部の問題である。
この二つの省庁は、内部にある公文書館に自分の行政文書を移管できることが許されている。
よって、まず間違いなく、この二省庁は「意見書提出=即不開示」が確定することになるだろう。

これはこれで問題なのだが、その後、時の経過によって開示に転じる可能性が出たときに、内局に聞いていたらいつまでも「不開示」が続くことになるだろう。
そのため、外交史料館や書陵部が独自の判断で開示不開示を決めることが可能なようにしておくべきである。

もちろん、所詮は省庁内の一部局であることは承知である。ただ、書陵部で資料を閲覧していたりしてなんとなく感じるのは、書陵部自体はあまり不開示に積極的でないように見えるのだ。
公文書館や史料館に勤めている人達は、基本的には自分の所にある資料を使って欲しいというように考えることが多い。書陵部とてそのあたりは同じ感覚があるような気がするのだ。(もちろん限界があるだろうが。)

また、私は最終的には、書陵部と外交史料館は、国立公文書館の分館として位置づけられるべきだと考えているので、そこまで見通した上で、公文書館自体に開示不開示の判断の責任を持たせた方が良いと思う。
同じ「意見を聞く」でも「聞かなければならない」と「聞くことができる」では、全然法的な意味づけが変わってくるのだ。

よって、私は、この第16条と第18条を、国立公文書館側があくまでも判断の主体であるような文章に書き換えるべきだと考える。

これにて第5回は終わり。次回は細かい問題点を列記したいと思います。→第6回
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