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【連載第10回】(下)「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

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「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録の解説の続きです。
今回は第10回目(9月4日)の議事録を取り上げます。すでに(上)で一般から募集した意見についての話題は書いたので、それ以外のことを書きます。

第10回の会議の主題は「電子公文書」の管理問題である。
最近の文書は、どこでもそうだと思うが、パソコンでほとんどが作成される。
そこで、電子情報のまま公文書を保存し、これを利用することが検討されることになった。

電子情報のまま国立公文書館に移されて公開された場合どうなるか。
メリットとしては、文書を文字検索できるようになることがまず挙げられる。さらに、紙と異なりスペースはあまり取らなくて済むようになる。移管もデータのコピーだけでできるようになる。

しかしデメリットも色々とある。
一つは、作成した文書が読めなくなる可能性があるということだ。
例えば、今、一太郎を使って文書を作っている人はまだそれなりにいると思われるが、もしジャストシステムが一太郎を作らなくなってしまった場合、30年後にその文書が読めなくなっている可能性がある。
現在でもMS-DOSで作られた文書は、特殊なソフトが必要となっている。
また、CD-ROMなどは劣化が紙よりも圧倒的に早い。そのため、定期的にデータを新たな媒体に移し替える必要が出てくる。

国立公文書館の電子公文書保存の取り組みによれば、福田康夫氏が官房長官時代に作った「公文書等の適切な管理,保存及び利用に関する懇談会」において作成された「中間段階における集中管理及び電子媒体による管理・移管・保存に関する報告書」(2006年6月22日)で報告されたものを元にして、実証実験を2007年度から行っていたという。
福田が官房長官を辞めたために消えていたのかと思っていた試みが、どうやら水面下ではきちんと行われていたらしい。
今回の有識者会議の資料4ではその取り組みについての要旨が書かれており、2011年度より電子公文書の移管保存が開始されるということである。

この電子公文書を保存する際に、最大の問題は「メタデータ」の問題である。
「メタデータ」というのは、なかなか日本語に直しにくい言葉なのだが、簡単に言うと「ファイルの内容がわかるようなキーワードなどを打ちこまれたデータ」というところだろうか。

例えば、普通、ファイルを作るとき、背表紙にファイルの中身がわかるようにラベルを貼りますよね。「人事関係書類」とか。
でも、それだけでは、実際に何が入っているかは中身を開いてみないとわからないわけです。
そこで、その中身がわかるようなキーワードをそのファイルに付けておくわけです。例えば表紙に「人事課 2008年 人事異動 給与表 出勤簿」とかいうように。こうすると、表紙を見れば何が入っているかわかりますよね。
この「メタデータ」を検索できるようにしておけば、すぐに目的の書類を見つけることができるようになるわけです。

現在ではこの「メタデータ」は背表紙のラベルしか登録されていない。しかも、以前にも私は書いたことがあるが、行政文書ファイル名(つまり背表紙のラベル)の付け方が非常に漠然としている(例:庶務関係録)ので、現在では検索システムはあってないようなものと化している。
これは、ゲストとして呼ばれていた杉本重雄筑波大学教授も話していたが(議事録P7-8)、現在の行政文書管理ファイルはおそらくあまり官僚達にも役に立っていないと思われる。

もし、この「メタデータ」をきちんと作っておかなければ、データ検索は非常に困難になるだろう。電子データを全文検索した場合、おそらくヒットしすぎで逆に役に立たない。メタデータである程度あたりを付けるということが絶対に必要となるはず。
そして、このメタデータは国立公文書館に移管されてから作成するのは非常に困難をともなう。なぜならば、全部読んだ上で、どのキーワードが重要なのかを判断する必要があるからだ。
だから、メタデータの作成は、実際に各部署で使用している際に付けてもらわなければならない。

これは面倒だと思われる可能性が高いが、付けておけば、あとで自分たちが文書を探すときに時間の無駄を省くことができるようになるのだから、実際にはメリットの方が大きい。

以前、NHKアーカイブズに見学に行ったときに聞いた話だが、NHKでは映像のデータを後で使いやすくするため、著作権や出演者の肖像権の問題などがどのように処理されたのか、またドキュメンタリーで撮影した場所がどこであるのか、取材対象者の連絡先はどこであるのかといったデータを、各番組に付けることを義務化しているようである。
初めはなかなかメタデータを付けてくれなくて苦労したようだが、付けない人達を説得していって、おおよその番組では付けてくれるようになったらしい。

一回、付けることが習慣化してしまえば、メリットが生きてくるはずである。
メタデータを付けることは法律で決めるようなことではないので、おそらく施行令か通達ということになるのだろうが、この徹底化はある程度の強制力が必要になるはずであるので、この点は最終報告にきっちりと書いてほしいと思う。

しかし、一方で歴史研究者としては、この電子公文書保存の動きには少し留保を置きたいと思う。

加藤陽子氏が会議で、「本当に大事な政治、歴史を後世に見る場合の文書管理・保存というのは、通常の業務や電子媒体の話とは違ってくると思うんですね。歴史的に重要な公文書というのは、だいたい、3%から8%と言われています。この、残されるべき、電子媒体にしろ、文書というものをどうやって管理するかという考え方は、IT化という問題を扱う考え方とは別の枠組みが必要なのではないか。」(P37)ということを言っていたがこれは私も同感である。
ただ、この発言からだと真意がわかりにくいように感じる。

これを理解するには、小池聖一広島大学公文書館長の近著『近代日本文書学研究序説』(現代史料出版、2008年)に記載されている「行政文書管理と電子文書化」(第12章)が参考になる。
小池氏は電子公文書保存にやや否定的な立場であり、紙で文書を保存すべきであると主張している。
特に小池氏が一番強調しているのは「原議」(起案文書)の重要性である。
つまり、実際に政策の作成過程を見る場合は、どのように修正されていったのかが重要になる。だから、原議に書き込みをされている加筆訂正こそが歴史研究としては意味があるのだ。

でも、電子文書は訂正したら上書きされてしまう。
また、履歴が残っていたとしても、それは誰の意見で訂正されたかはわからない。手書きで色々な書き込みをされた文書こそ、歴史研究では重要視されるのである。
もし、電子公文書の移管に際し、この作成過程の保存という観点がなかったら、結局は現在と同じような「決裁文書だけが残っていて、なぜその政策がなされたのかが全くわからない」ものしか保存されなくなってしまうのではないか。→参考:第3回の有識者会議の高橋滋氏の発言への解説

ただ、保管スペースの問題など、紙での保存にも色々な制約があることは事実ではある。その意味では、全て紙で保存せよというのはやはり難しいようにも思う。
でも、政策過程がわかる文書の保存をどうするかだけは、未来に対する説明責任という観点からも重要であると考える。場合によっては手書きの文書をスキャンすることもありではないかと思うが。
このあたりが最終報告案でどうなるかは注目していきたい。

今回の解説は、会議内容の一部分に集中的に行うことになってしまった。
これは、ひとえに総務省などがやっている電子文書のシステム最適化の話がいまいちよくわからなかったためでもある。このあたりは専門的な情報学をやっている人でないと解説は難しいように思う。さすがに私には無理であった。

以上です。
第11回
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