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歴研総合部会「公文書管理法と歴史学」の感想 [情報公開・文書管理]

9月21日に東大本郷で、歴史学研究会総合部会「公文書管理法と歴史学―有識者会議中間報告の射程と課題」が行われた。
もちろん、関係者ということなので、私も参加してきた。

今回の報告者は、有識者会議の委員でもある加藤陽子氏と、アーカイブズから安藤正人氏、歴史研究者から吉田裕氏であったわけだが、後者二人が「自分はコメンテーターだ」と発言していたように、実際には加藤さんが「主役」というシンポジウムであった。
内容を全部紹介するのはさすがに骨が折れるので、気づいたところをピックアップして書いておきます。

加藤さんの話でまず興味深かったのは、福田内閣において公文書管理問題は消費者庁の問題とセットになっていたということである。
これは私も以前、「骨太の方針08」で消費者庁と並んで併記されていることを指摘したことがあるが、加藤さんによると、どうやら福田が官房長官だったときに公文書管理問題に取り組んでいた官僚が、消費者庁問題の中心メンバーになっているそうである。
つまり、福田は官房長官時代からの公文書管理問題の延長上として消費者庁の問題も捉えていたということなのである。

次に、有識者会議の他のメンバーに対する評価が高かったことである。
座長の尾崎護氏や行政法学者の宇賀克也氏や高橋滋氏なども、公文書を残すことを現在からの視点ではなく、歴史として残す必要をよくわかってくれているようである。
特に、行政法の二人が、意思決定過程の文書を残させることの重要性を強調し続けていたことを、加藤さんは心強く感じていたと話されていた。
確かに、今回の中間報告で、文書の作成部分からきちんと管理をしようという方向まで踏み込んだのは、この二人の意見が強く反映されているという印象は、私にもある。
こういった、歴史やアーカイブズに関心のある行政法学者の存在は貴重であると改めて感じた。

そして、今回の中間報告は作成段階で上川陽子前大臣のコミットと内閣官房公文書管理検討室の共同作業となっており、理想論よりも実現可能な案を追求したものだという話だった。
私としては、これでも十分理想論ではないかと考えていたのだが、これが「実現可能な案」として作られていたところに、官僚側も含めたこの改革への意識の高さを感じた。

全体的に、加藤さんの話を聞いていて、不遜な言い方になるけど、私と基本認識や問題意識がほぼ重なることが良くわかった。その点は結構嬉しかった。

他には、安藤氏や吉田氏のコメントと議論の中で問題になっていたことを二つほど。

一つは、情報公開制度との関わりについて。
現在の情報公開法による文書請求は、不開示部分の決定などの手続きが煩雑であり、かつ文書を専門的に読める人が官僚側に不足しているということもあって、それが開示の遅れの原因になっている。
加藤さんは、この点について、アーカイブズを専門としている担当官を外部から入れるなどすれば、情報公開に官僚側がかかっている時間の短縮が図れるのではないかという話をされていた。

私もこの点は同感である。
私が以前、東宮職日誌の開示が遅延していることに対して裁判を起こしたときに、宮内庁側は「昔の文書を読むのが大変なんだ」ということを反対理由として挙げていた。
そもそも、情報公開に関わる人員配置の少なさもあって、担当職員に対する負担は増大する一方である。また慣れてきたと思うと、人事異動になって元に戻るということも良くあることである。
こういう状況を変えるには、文書管理・読解の専門官を早急に各省庁が雇うべきであると思う。

二点目は、アーキビストの養成の問題である。
加藤さんは、具体的な近現代の政府機構(行政司法立法)の公文書を扱うアーキビスト養成のプロセスと具体像がわかりにくいということを指摘されていた。
確かに、私もこういう問題に発言をするようになってから色々と勉強したのだが、理念的にはわかるのだが具体的にはどうすれば良いのかという点はどうもよくわからない。
日本近世史などでは、集団で村の調査とかに行って、そこで資料整理をしたりして実地で学ぶみたいだが、近代史にはそういうことがほとんどない。
ほとんど、個人の「職人芸」の世界に留まっていて、個々の研究者の持つ「技術力」が下の代に伝わっていっていないような感じがするのだ。

安藤さんが所属されている学習院大学の大学院にアーカイブズ学専攻ができたことは一つの成果ではあるが、もちろんこれだけでは不十分である。
この学習院の取り組みが「業界標準」となるのかどうかはわからないが、現在唯一のアーカイブズ学専攻である以上、学習院の教育課程を原型とした教育モデルを作成して、それを広げていくことが求められるのではないかと思う。

一方で、歴史学の側は、「史料整理はどれが重要かを判断できる目が必要である」という考え方がどうしても残る。
そのため、アーカイブズ学だけを習得するアーキビストの存在に対して、やや懐疑の目を持っている人が少なからず存在している(特に近世史の人にその傾向が強い)。
しかし、近世文書はよくわからないけど、近現代の公文書については、これから電子公文書の問題なども入ってくるため、近世史の感覚でアーカイブズ学をやることはおそらく不可能だろう。

私は会場で、もっとアーカイブズ学を史学科できちんと教えるようにならなければならないのではないかという発言をした。
この質問の意図としては、史学科の学生がアーカイブズにきちんと理解を示すことが必要だという点と、将来アーカイブズ学に進む人の中心に、史学を専攻した人がなってほしいということも含めている。
少なくとも、情報学の人だけでアーカイブズ学が担われるような事態になった場合、下手をすると「官僚に都合の良い資料の整理の仕方」をするようなアーキビストが大量に養成されかねないように思うのだ。
歴史学専攻者からの特権的な言い方なのかもしれないけど、やはりアーカイブズ学をする人には「歴史学的素養」があってほしいと私は願っている。歴史研究者が危惧するように、「史料の価値を歴史的に判断する」にはその素養が必要であると思う。

歴史学の側の危惧もわかる一方で、アーカイブズ学が独自の技術を身につける必要を重視していることもわかる。
この両方のどちらが間違っていて正しいということはない。両方がどう並立できるのかを模索する必要があるのだ。
そのためには、両者の対話の窓口をきちんと作っておく必要があるように思う。


さすがにそろそろ長くなってきたので、感想はここまでにします。ダラダラしていた読みにくくて申し訳ない(書きたいことが次から次へと出てきてまとまらない)。

最後に、このブログを加藤さんがものすごく良く見ていることがわかって驚いた。非常に好意的に紹介していただき、本当にありがとうございました。

あと、やはり福田首相退任で、この改革は遅れそうだということもわかった。でもこれであきらめてはいけない。福田首相がここまで引いてくれたレールを、もっと伸ばしていかなければならない。
このブログでもまだまだこの問題はあきらめずに取り上げていきたいと思います。
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コメント 2

sen2002611

 私も参加しましたが、100人を超える人達が集まり、大盛況だったと思います。ただ、残念ながら、1時間遅れた為に加藤氏のご報告が伺えなかったことがとても残念でした。こういう問題を議論する場をもっと作れば政治を動かせる力になるのではないかと思われます。また、瀬畑氏や佐藤氏のような若手の研究者の公文書問題の研究の蓄積があったからこそ、問題がより鮮明になっていったのかなと感じました。今後も研究者の人達がこういう問題に関心をもってほしいですよね。
 私もできることはしたいと思います。
by sen2002611 (2008-09-23 22:28) 

h-sebata

どうもsenさん。お疲れさまです。
この問題はとにかく継続して取り組まないといけないと思います。歴史研究者を初めとした底上げと、新たな公文書管理のあり方を訴えかけていくことと。
こんな場末のブログですが、あきらめずにこの問題を取り上げていきます。これからもどうぞ読んでくださいませ<(_ _)>
by h-sebata (2008-09-23 22:47) 

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