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【連載第9回】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

第1回はこちら
「中間報告」まとめ前編はこちら/後編はこちら

「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録の解説の続きです。
今回は、中間報告後初の会議の第9回目(8月1日)の議事録を取り上げます。

今回の議題は、中間報告に対する各省庁の反応ということであった。事前に提出された意見にプラスして、外務省、財務省、厚生労働省、国土交通省の担当者からヒヤリングを行った。

外務を除く三省は、具体的な意見と言うよりはむしろ「人員と予算に配慮してほしい」といった感覚的なレベルの意見が非常に多かった。
それに対する委員の意見は、各省庁の具体的な状況がどうなっているかを求めるものが多かった。
特に、以前、上川陽子公文書管理担当相(当時)から強烈なだめ出しをされていた国交省は、質問で具体的に自分の省ではどうなっているのかという話をつっこまれてはボロボロな答弁になっていて、ほぼサンドバック状態であった。

今回の議論で考えなければならない点は2点あるように思う。
一つめは、外務省外交史料館の位置づけ。
二つめは、警察庁、法務省、防衛省、財務省などによる「公安情報」の扱いへの憂慮。

第一点の外交史料館について。

まずは前提の話であるが、各省庁から公文書を移管する先は国立公文書館である。
ただし、例外を認められている機関が2つある。
外務省と宮内庁である。
外務省は外交史料館、宮内庁は書陵部への文書移管が認められている。
これは過去の色々な経緯というのもあるのだが、いずれにしろこの二つの省庁だけが特別扱いを許されている。

今回、外務省の担当官は、この外交史料館が国立公文書館から独立していることの正当性を訴えていた。
その理由は以下の通りである。

外交文書は、他省庁の公文書とは異なり、国際関係に関わる文書であるという特殊性がある。
内部での廃棄・移管手続きは厳密に行われている。歴史学等のバックグラウンドを持つ専門家が関わっており、原課の廃棄判断が覆されるケースもある(平成18年は200件。専門家の意見が覆されたことはない)。
不開示部分に対する再審査要求手続きも完備している。(ただし今まで不服申し立ては1件もない。)
他機関との協力も行われている。アジア歴史資料センターでのデジタルアーカイブで全体の3分の1がすでに閲覧可能になっている。
『日本外交文書』の編纂を専門家を招いて行っている(現在201冊刊行)。

これを見ると、わからなくはない部分もある。
でも、私は自分で意見書に書いたとおり、外交史料館は外務省から切り離して、国立公文書館と統合すべきだと考えている。
それは、上記のうちの「廃棄移管手続きは厳密に行われている」という部分への疑念をぬぐい去れないからである。

私の周りの研究者の中には、「外交史料館は本当に全ての関係文書を公開しているのか?」という疑問を持っている人が非常に多い。
それに、以前外交に勤めていた人が「隠しているよ」ということを話していたのを聞いたこともある。

確かに、外交文書には、どのぐらい年月が経過したとしても、政治的に開示できない文書が含まれていることは間違いない。
例えば、今裁判になっている日韓条約文書も、今後の対北朝鮮外交を考えたとき、全てを開示することは困難だろうと思う。
しかし、それならば、「この部分は開示しません」ということを明示すればよいと思う。全てを不開示にする必要はないはずだ。
どこを隠したかを示さないからこそ問題になるのだ。
こういう状況では、やはり「信じろ」と言われても信用しきれない。

(なお、情報公開での公開は、不開示部分を黒塗りにするという方法になっているので、開示方法としては正当である。外交史料館にある史料は、実際には「編纂」し直しているので、まずい文書は「外して」いるのではと思われる。
→ちなみにこう書くと全ての不開示を容認しているように見えるかもしれないが、私は「過剰に」隠されていたり、開示までに「時間をかけすぎ」ていることを問題にしているのだ。また、国立公文書館等に移管して全てを原則公開するのがもっとも適切だということもずっと強調してきている。)


また、他の理由となっている、「外交文書の特殊性」という点も、他国で外務省だけが独立して文書館を持っている所がほとんどないことから考えても理由にはならない。
『日本外交文書』の編纂もまた同じである。国立公文書館に統合されたとしても、事業そのものは継続できるはず。

おそらく、外務省内の手続きは、他省庁と比べれば厳密であることは疑いない。小池聖一氏が外交文書の編纂過程について論文を書かれているが(『日本歴史』1997年1月号)、ここの持つノウハウは突出しているように思える。
しかし、そうであっても、やはり外部の目を入れなければ、証拠隠滅の疑念を払拭できることはないのである。
外交史料館の能力を生かしながら、国立公文書館に統合するというのが、一番の良策だと思うのだが。


次に二点目の警察庁、法務省、防衛省、財務省(国税庁)などによる「公安情報」の扱いへの憂慮について。

これは、情報公開法第5条とその施行令第3条における、「開示範囲の差」の問題である。
情報公開法第5条では6項目にわたって不開示にできる情報が列挙されている(個人情報など)。
一方、公文書館に移管されてから適用される施行令第3条の規程によれば、3項目しか不開示にできない。

そしてこの3項目の中に「公安情報」が入っていないのである。
警察などはそこを問題にしている。つまり、移管すると、捜査手法なども含めた情報が公開されるのではないかというおそれである。

たしかに、そのおそれはわからなくはないと思う。
しかし、問題としたいのは、「移管元の行政機関の専門的な判断が反映されるべき」という主張である。
つまり、事実上、移管するか否かは自分たちで決めさせてほしいという主張である。

これでは、今までと全く変わらない。
今回の改革の最も重要な点は、移管するか否かの判断を各省庁が握っている状況を打破し、独立の公文書管理機関がその権限を握るべきだということにある。
この警察などの主張している点は、この流れに逆行するものである。

もちろん、「専門家の意見」が判断材料になるのは言うまでもない。
でも、絶対に必要なのは、あくまでも「原則移管」「原則公開」の方が先にあり、もし不開示にしたいのであれば、それが正当な理由であることを各省庁が公文書管理機関に対して説明責任を負うという仕組みにしなければならない。

私の書いていることが、警察の主張と何が違うのかとひょっとすると思われるかもしれない。
ここで言いたいのは、警察などはあくまでも「不開示前提」で可能な物を公開するという主張であり、私の主張は「原則開示」でどうしてもダメなものを非公開にするというものである。
これは、「鶏と卵」という話とは全く違うのである。


さて、今回の各省庁からのヒアリングを見ていて、警察等の上記の部分を除いては、各省庁も基本的には賛成という感じが強かった。
もっと反発するものかと思っていたので、これは少々意外であった。(ただ反発した部分は核心に関わる問題であることに注意が必要。)
ただ、どの省庁も「案はいいけど、人と予算がないとね」という意見だったので、結局この二つがまわってこないと中途半端に終わることになるのだなということもまた強く感じた。
やはり制度ができればよいという問題ではない。長期的な視点からのこの問題への取り組みが求められていると思う。

今回はこれでおしまい。
第10回(上)はこちら

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