SSブログ

【緊急連載】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の「中間報告」を読む(前編) [【連載】公文書有識者会議]

連載第一回はこちら

7月1日に、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」は、上川陽子公文書管理担当大臣に「「時を貫く記録としての公文書管理の在り方」~今、国家事業として取り組む~」と題する中間報告を提出した。

これまで、このブログでは、この有識者会議の議事録の解説を連載してきた(第5回まで)。
まだ第7回と8回の議事録が公開されていないので、とりあえずはこの「中間報告」についての具体的な解説を述べてみたい。
相変わらずだが長い文章で申し訳ない。できるかぎりわかりやすく書こうとすると長くなるもので・・・(それでもわかりにくいかもしれんが・・・)。

できれば、この報告書、全文読んでほしい。
非常に簡潔明瞭に書かれているし、何が問題で、どのような方向性で解決しようとして、具体的にどうするのかということを分けて書いてあるので、この問題に詳しくない人でも十分に理解できると思う。
はっきりいって、要約するのが難しいんだが、自分なりの視点で解説を加えてみたい。

まず、この報告書の目次を見てみたい。

目次
1.基本認識

2.公文書管理の改革目標

3.制度設計にあたっての基本的な考え方

4.公文書管理のあるべき姿(ゴールド・モデル)に向けて
 (1) 作成・整理・保存
 (2) 延長・移管・廃棄
 (3) 移管後の利用
 (4) 適正運用の確保

5.公文書管理担当機関の在り方
 (1) 機能・役割
 (2) 組織の在り方

6.最終報告に向けて引き続き検討すべき事項

7.早急に講ずべき事項
 (1) 公文書管理担当機関において取り組むべき事項
 (2) 各府省において取り組むべき事項

1から3までが理念の話。
4,5が具体的な制度設計。
6,7が今後の課題と捉えて良いと思う。

前編の今回は、1から3までの解説をしたい。

1の「基本認識」について。

まず、「公文書の意義」について書かれている。重要なところなので全文引用します。

 民主主義の根幹は、国民が正確な情報に自由にアクセスし、それに基づき正確な判断を行い、主権を行使することにある。国の活動や歴史的事実の正確な記録である「公文書」は、この根幹を支える基本的インフラであり、過去・歴史から教訓を学ぶとともに、未来に生きる国民に対する説明責任を果たすために必要不可欠な国民の貴重な共有財産である。
 こうした公文書を十全に管理・保存し、後世に伝えることは、過去・現在・未来をつなぐ国の重要な責務である。これにより、後世における歴史検証に役立てるとともに、我が国の文化等を高めることにもなる。この意味で、公文書は「知恵の宝庫」であり、国民の知的資源でもある。
 一方、公文書の管理を適正かつ効率的に行うことは、国が意思決定を適正かつ円滑に行うためにも、また、証拠的記録に基づいた施策(Evidence Based Policy)が強く求められている今日、国の説明責任を適切に果たすためにも必要不可欠であり、公文書を、作成⇒保存⇒移管⇒利用の全段階を通じて統一的に管理していくことが大きな課題となっている。
 このような公文書の意義にかんがみ、21世紀にふさわしい公文書管理システムへの道筋を示すことが、当会議に課された使命である。


ここで重要なのは、この公文書管理システム改革は「民主主義」のために絶対不可欠なものだということである。

これまで、繰り返し述べてきたが、「年金問題」はなぜ起きたのかよくよく考えてほしい。
あれだけずさんな文書管理、そしてデータ入力がまかり通ってきたのはなぜなのか。
それは、年金に関する施策が、全く過去を顧みずに行われたこと(ミスを訂正しない)、国民からの監視の目が届かなかったこと(ミスを外部から指摘されない)、などに起因するのだ。
まさしく、彼らが「過去の教訓を学ばず」「説明責任を果たさず」来たことに問題があったのだ。

国民が民主主義で主権を行使するためには、「正確な情報」が必要である。
もし、情報公開がもっと前から進んでいたらどうなっていただろうか。公文書管理がもっと早くからきちんとしていたらどうだっただろうか。
おそらく、多くの国民は年金問題をきちんと解決するという公約を掲げる政党に票を入れるのではないか。また、自分の支持政党にどうにかしてほしいと陳情をしたのではないか。

今は非常に実利的な例を挙げたが、いずれにしろ「正確な情報」無しに、「正確な判断」はあり得ない
この公文書改革は、今までの民主主義のあり方そのものを変えるものなのだということを、まずは認識してほしい。

さて、次に「我が国の歴史と諸外国の状況」があるが、ここは省略。
公文書管理の歴史が知りたければ、青山英幸『アーカイブズとアーカイバル・サイエンス―歴史的背景と課題』(岩田書院、2004年)をおすすめします(下記にamazonのリンクを貼っておきます)。
外国の状況は、第6回の会議で話がされているので後日書きます。いずれにしろ、韓国や中国などからもはるかに後れを取っているのが現状である。

その次は「新たな公文書館システムの構築に向けて」である。
ここで述べていることは要するに、「作成から利用までのライフサイクルを通じた公文書管理法制を確立し、公文書管理体制を充実強化すること」である。
これまで、「そもそも重要文書が作成されない」「ファイルの名前の付け方が部署によって違う」「勝手に廃棄する」などといった、各省庁(その部局)が勝手に文書を作成し管理し廃棄していた。
これでは、制度としてはむちゃくちゃなわけである。
それを一元化するシステムを作り上げるのが今回の目的だということなのだ。

これは、官僚文化そのものに対する挑戦にあたる。
この改革は、それまで自分たちの部局で何となく伝わってきた「慣習」みたいなものを強制的に変えさせて、ある一元化されたシステムに基づいて文書を作成管理すべしと法的に枠組みを確定させてしまうからだ。

福田康夫首相はどうも地味でオリジナリティが無いとかさんざんけなされるけど、私から見れば「消費者庁」設立問題もそうだけど、官僚文化に対して強烈な切り込みをかけているように思う。その点は、小泉元首相と似たようなことをやっているのである。
パフォーマンスに踊らされることなく、もっと「政策を見て判断」することが必要だと思う。そうでなくては「マニフェスト」など掲げるだけ無駄という話になりかねない。

話が脱線したので戻すと、次に2「公文書管理の改革目標」の説明に行きます。
これは短いので貼っておきます。

(1) 文書の誤廃棄や行方不明を防止するとともに、過去の記録の利用を容易にし、業務の効率化を図るため、随時文書の所在を特定できる文書管理システムを構築し、「文書の追跡可能性(トレーサビリティ)」を確保する。

(2) 文書作成義務の法定化、文書管理の基準の明確化、公文書管理担当機関の関与等により、文書管理サイクル全体を通して適切な管理を行う体制を整備し、「政府の文書管理に対する信用(クレディビリティ)」を確保する。

(3) 国民の共有財産、知的資源である公文書の利活用を促進するため、国民に対して、利用機会の更なる充実、利便性の更なる向上を図り、「文書の利用可能性(アクセシビリティ)」を確保する。

 以上を通して国の意思決定過程も含め公文書を体系的に整理・保存するとともに、国民の知的資源として後世に伝え、現在及び将来の国民に対する「説明責任(アカウンタビリティ)」を果たす。

ここの注目点は(2)である。
ここで明確に「法定化」と「公文書管理担当機関の関与」が書かれている。
つまり、「公文書管理法」を必ず作るということと、各省庁が勝手にやっている文書管理システムを管理できる機関を作るということがここでは明示されている。(具体的には5で書かれている。)

最後に3「制度設計にあたっての基本的な考え方」であるが、これはこれまでの内容の繰り返しになるので省略します。
この目的を実現するために、有識者会議は「ゴールド・モデル」を4で解説している。つまり「こうなったら理想」というのを書いたのである。
やはり、有識者会議は「現実的に可能な案」よりも、「あるべき理想」を掲げることを優先したということになろう。
これは、会議の流れからしても、おそらくそうなるだろうと思っていた。

この「理想論」はなかなか良くできていると思う。
これまで紹介してきた理念の部分も、国民からも政治家や官僚からも受け入れやすい形式を取っているし、理想論ではあるが相当に実現可能な案になっていると思う。

それでは続きは後編にて。

アーカイブズとアーカイバル・サイエンス―歴史的背景と課題

アーカイブズとアーカイバル・サイエンス―歴史的背景と課題

  • 作者: 青山 英幸
  • 出版社/メーカー: 岩田書院
  • 発売日: 2004/05
  • メディア: 単行本



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。