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理研映画「日本の象徴」を見る [天皇関係雑感]

ある方から、国立近代美術館フィルムセンターで、天皇の昔の映画をやるという情報を得たので、見に行ってきた。

フィルムセンターは、映画の修復保全などを専門に行っている機関で、おそらく日本で古い映画フィルムを一番保管している所であろう。
収集された古い映画の上映会もよく行っている。

今回は「発掘された映画たち2008」という企画が行われており、この中の「戦後記録映画選集」の回の中に天皇関連の映画が含まれていた。→リンク(たぶんしばらくしたら切れるのではと思うが)
この「選集」で放映されたのは以下の5本。

①国立近代美術舘 記録 第1集(1953年)
②美の誕生 (1948年)
③貿易まつり (1949年)
④日本の象徴(1950年)
⑤さばん丸完成 (1950年)

①は国立近代美術館が開館した時に作られた映画。皇后と皇太子が訪問した(1953年3月12日)様子が冒頭に登場する。
②はデンマーク体操の映像。藤沢高等女学校の女学生がひたすら演技をしているもの。
③は横浜で開かれた日本貿易博覧会の映像。「復興」のイメージがものすごく強調されている。
⑤は戦時中に沈んだ船を引き揚げて、タンカーに改造するまでの話。汽船会社の依頼で作られたっぽい記録映画。

さて、もちろん私が見たかったのは④である。
この「日本の象徴」は1950年に理研映画が作成したものである。
理研は科学映画を中心に作っていた会社であり、この映画は「理研文化ニュース」と「読売国際ニュース」の映像を使って作られた(冒頭にそのキャプションがあった)。
読売とどういう提携関係があったかはよくわからない。

なお同じ時期(1951年)に、「日本ニュース」を作っていた日本映画社が「国民の中の天皇」という映画を作成している。
これは、現在でもビデオで販売されている。こちらは見たことがあったので、理研の方がどのような映像を作っているのかは興味があった。

ナレーターは徳川夢声。
初めに皇居の映像が流れている中で、説明が入る。
天皇制が2000年以上にわたって続いており、天皇と国民とは美しい感情でつながっていた。
しかし、幕末の思想家が天皇を神とし、明治以降に軍が中心となって天皇を神格化した。
そして、天皇と国民の感情交流が一片も無くなった。
それが国民主権に変わり、天皇自らが神格を否定した。そして天皇は人間として国民の中へ入っていった。

そして「巡幸」の映像が延々と流れる。群衆に囲まれる、広島での演説、炭坑に入る、孤児院や盲聾学校、引揚者への慰問・・・。
ナレーターは言う。「美しい感情の交流」がここにはあると。
その後も、生物学に取り組む天皇の映像などが流れ、最後に天皇一家の写真が映され、天皇は日本人の美点を集めた象徴であるとし、天皇と日の丸の旗と共に平和へと邁進しようというところで終わる。

映像論を専門にしているわけではないので、どうしても何を「説明」しているのかの方に関心が向いてしまう。
この映画のナレーションは、近代の大日本帝国下の天皇のあり方を全面否定することで現在の天皇制のあり方を「伝統」と見るということで一貫している。
そして、「天皇の仁慈」を強調し、それが実際にさまざまな国民のもとにたどり着いている様子が映し出されるのだ。

もしこの映像を文脈無しで見れば、まさに徳川が言うように「美しい」姿がそこにはある。
あの巡幸の群衆に囲まれる天皇の姿を見れば、そこには「国民の圧倒的多数から支持されている天皇」像を否定できない。
そこは映像の強さでもあり、また問題でもある。
もし天皇の戦争責任を漠然とでも感じている人がこの映画を見たら、沈黙するしかないだろう。自分が「少数派」であることを実感させられるのだから。

映像はあくまでも監督の意思でもって編集されている。そこにあるものは「事実」ではあるが「真実」ではないと思うのだ。
切り取り方によって映像は意味を変える。もちろん見る人によっても。
歴史研究をしていると、この「映像」をどう扱うのかという問題に直面することは多い。(ニュース映画の研究会の末席にもこっそり入っているし。)

象徴天皇制の支持基盤を考えるときに、こういった映画の持つ意味は何だろうと考えるが、どうしても「現在の自分の視点」が強く出過ぎて、分析に自信がなくなる。
でも、今までの歴史研究は、こういった映画を「無かった」ことにして研究をしている
たぶん、天皇制を支持する意識というのは、こういう映画を見る所から作られている側面があるんじゃないかと考えざるを得ないのだ。

今回、この映画を見て、やはり映像はインパクトがあるなあと再認識せざるをえなかった。
何と言っても、昭和天皇は巡幸中「楽しそう」なのだ。あの笑顔は作り笑いではできない。
あの笑顔は強い。昭和天皇の「笑顔」が持った意味ということはもっと考えなくてはならないなと思った。

さて、今回フィルムセンターで初めて映画を見たのだが、なかなか席の座り心地が良い。
それに安い。学生で300円だった。さすがに国立(独法だけど)。
しかし、多摩から東京駅まで出て行くのは遠い。都心に住んでいる人が少しうらやましくなった。
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コメント 2

so

soです。ご指摘興味深く拝見しました。
某研究会でも議論したいことですね。
「天皇映画」とでも呼べるようなグルーピングをして、その諸類型を立てて、分析を進めても面白いかもしれません。
ところでこの映画はどのくらいの観客動員があったのでしょうか。また、どういう上映形態をとったのでしょうか。
by so (2008-05-30 18:09) 

h-sebata

コメントありがとうございます。
天皇映画については、岩本憲児編『映画のなかの天皇』森話社、が昨年出ていて(この前の歴研大会で見つけたのですが)、色々と興味深い分析をしています。
「日本ニュース」の空襲報道と天皇の映像の関係を論じている方がおられて、私には参考になりました。図像論+実証史料という組み合わせでの研究をなんとか作り上げられればと思いますが。

この映画の背景は私にはよくわからないです。
ただ、1951年の関西巡幸の時の新聞を見ていたときに、三重県で「巡幸記念巡回映画会」として、主な都市での上映が行われていたとの記事はありました。伊勢新聞社主催で無料でやっていました。
こういった使われ方はしている映画なのかもしれません。

まだ理研は企業自体が残っているので、わかることがあるかもしれませんね。
by h-sebata (2008-05-30 20:03) 

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