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特定秘密以外の秘密文書の統一基準問題 (1)現在の制度 [2014年公文書管理問題]

2014年12月17日、政府は「行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について」のパブリックコメントを開始した。
締切は翌年1月6日である。

今回のガイドライン改定の主な狙いは、特定秘密「以外」の各行政機関に存在する秘密文書の統一基準の作成である。

特定秘密保護法でよく勘違いをされるのだが、「特定秘密」はあくまでも外交や防衛、テロ対策などに該当する秘密文書を指定して罰則を強化したものであり、それ以外にも秘密文書は腐るほど存在する。
特定秘密はむしろ「氷山の一角」に過ぎない。

これまで、秘密文書の取扱いは各行政機関に丸投げされてきた。そのため、指定も管理もずさんきわまりない状態が続いている。
この制度に詳しい情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんからうかがった話だと、おそらく各行政機関は秘密文書をどのくらい持っているのか自分達で把握できていないとのことだ。
なので、統一基準ができること自体には私は賛成である。

また、統一基準を作ることは、政府の側にとっても必要なことだったと思われる。
特定秘密以外の秘密文書をきちんとコントロールすることは、秘密漏洩の防止などに繋がるので、基準を作らないとさすがにまずいと考えたのだろう。

さて、この統一基準だが、当然無条件で政府案に賛同できるものでないことは確かである。
特定秘密保護法案の審議を見るだけでもわかるとおり、官僚の側はできるかぎり秘密を広げようとする傾向がある。

よって、この機会に、過剰に秘密が設定されないような仕組みを構築し、重要な文書はきちんと保存されて公開されるような仕組みをきちんと整備する必要があるだろう。

今回の連載では、まず現在の制度の解説から始め、次にガイドラインの改正案の解説、最後に自分のパブコメを公開するという流れで書いていきたい。


(1)現在の制度

特定秘密以外の秘密指定は、そもそも何を根拠にして行われているのか。
実は、今からほぼ50年近く前に出された、1965年4月15日の「秘密文書等の取扱いについて」(事務次官等会議申合せ)に基づいて行われている。

「秘密文書等の取扱いについて」(1965年4月15日事務次官等会議申合せ)
http://www8.cao.go.jp/koubuniinkai/iinkaisai/2014/20140801/20140801haifu3-1.pdf

この規定は、1965年に自衛隊で行われていた有事想定演習(いわゆる「三矢研究」)が社会党の議員によって暴露されて大問題となった事件をきっかけに、各行政機関の事務次官等による申合せによって整備されたものである(1953年に元になった申合せがあり、それを改訂したもの)。

これによれば、

2 秘密文書は、原則として次の種類に区分すること。
 極秘 秘密保全の必要が高く、その漏えいが国の安全、利益に損害を与えるおそれのあるもの。
     ただし、「極秘」のうちその秘密保全の必要度がきわめて高度のものを「機密」とすることが
     できるものとすること。
 秘   極秘につぐ程度の秘密であって、関係者以外には知らせてならないもの。


とされ、「機密」「極秘」「秘」という分け方がされているということがわかる。他に管理の仕方などが書かれている。

なお、この文書には、「不要の秘密文書は、必ず焼却する等復元できない方法により処分すること」という規定があり、政府全体の方針として秘密文書を廃棄処分して後世に残さないことが決められている。
「防衛秘密」が粛々と廃棄されていたのは、防衛省の体質という問題だけではなく、こういった日本の行政機関全体に存在する「秘密は捨てる」という文化に影響されているということだろう。

ただ、この申合せは原文を見てもらえればわかるが、かなりザックリとしたことしか書かれていない。
その理由は、私が色々なところで書いてきたが、公文書管理が各行政機関に任されてきたからである。

つまり、ザックリとルールは作るから、あとは各機関できちんとやってねということである。
これで50年間もこの申合せは使われてきたのである。

ただ、いくらなんでも、このザックリとした基準では、秘密文書の管理はきちんと行えなかった。
特に2000年代に入って、ネットからの情報漏洩などが本格化する中で、「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」(2005年から。最新は2014年版)や「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年作成、2009年から施行)などを作成し、上からかぶせるようにセキュリティーを強化する方針を取ってきた。

内閣府が作った現在の「秘密情報等を記録する行政文書の相互関係」の図が下記のリンクにある(「情報の管理の在り方に関する検討チーム」第2回資料1、2014年7月18日)。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/joho_kanri/dai2/siryou1.pdf
無題.jpg
(注はリンク先で)

この図の記述は

「機密性1、2、3情報」・・・「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」
「機密」「極秘」「秘」・・・「秘密文書等の取扱いについて」
「特別管理秘密」・・・「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」
「特定秘密」・・・特定秘密保護法


で根拠が分かれている。
また、「機密性2」より内側の情報は、情報公開法上の「不開示情報」と書かれており、この内側は請求しても墨塗りされて公開されない部分だと言える。

具体的に説明は省略するが、要するに「複層化していてなんだかよくわからない」ということだけ分かってもらえれば良いと思う。
しかも、この図は最も単純な分け方であり、秘密文書の区分けは、各行政機関独自のものが他にも様々な形で存在している。

ただ、根本的な管理方法自体にメスを入れずに、上から色々なものをかぶせても限界はある。

なお、「特定秘密」制度は、管理方法にメスを入れられないから、罰則を強化することで漏洩を防ごうとする発想で作られている(だから、秘密指定の範囲の限定が甘くなっている)。
本来ならば、特定秘密保護法を作る前に、この統一基準を整備して秘密文書の管理を徹底し、その上で、必要ならば特定秘密保護法を作るというのが筋論だったはずである。

脱線したので戻す。

そこで、この相互関係をスッキリさせようというのが、今回の統一基準の作成ということになるのだろう。
ただ、すでに「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」はそのまま運用すると官僚側は決定しており(情報管理の在り方に関する検討チーム第2回会合議事概要、2014年7月18日)、これ(機密性1,2,3情報)と特定秘密以外の秘密指定に関する部分をできる限り統一化しようということのようだ。

次回からは、では政府はどういう提案をしてきているのかについて解説してみたい。


なお、今回の記事の参考として次の二つを挙げておく。

一つは、私が書いたものだが、「日本における秘密保護法制の歴史」『歴史評論』2014年11月号で、戦後の秘密保護制度の変遷については簡単に述べておいた。興味がある方はぜひ。


もう一つは、情報公開クリアリングハウスが作成した「政府の秘密指定・保護制度に関する調査結果」(2014年11月7日)。
各行政機関における秘密指定に関係する規則を片っ端から情報公開請求して公開させた調査結果。
これを見ると、「秘密文書等の取扱いについて」にあるような「機密」「極秘」「秘」だけでなく、別のカテゴリーの秘密指定文書が様々な行政機関に存在することがよくわかる。
非常に参考になるので、是非とも御覧いただければと思う。
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