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行政文書の管理に関するガイドライン改正案の解説 [2012年公文書管理問題]

2012年5月22日から6月8日まで、内閣府が「行政文書の管理に関するガイドライン」の一部改正案のパブリックコメントを募集しています。

行政文書の管理に関するガイドラインの一部改正案についての意見の募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095120670

このガイドラインの改正案は、今年1月に問題が発覚した原子力災害対策本部などにおける「議事録未作成」問題の対応として出されている。
この間、公文書管理委員会で5回にわたって対応策が議論され、4月25日に「東日本大震災に対応するために設置された会議等の議事内容の記録の未作成事案についての原因分析及び改善策取りまとめ」が岡田克也副総理(公文書管理担当)に提出された。
その「取りまとめ」を受けて、公文書管理法を執行するための「ガイドライン」の改正を行うことになったのである。

よって、この「ガイドライン改正」が「議事録未作成問題」の「解決案」であるという位置づけができるだろう。

これまで本ブログでは、この「取りまとめ」の枠組み自体の問題について、かなり批判的に取り上げてきた。

公文書管理委員会第14回配付資料を読む
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2012-03-03

公文書管理委員会第18回傍聴記(上)
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2012-04-26

この「ガイドライン」改正案が「取りまとめ」に基づいている以上、上記の批判でおおよそは説明できるのだが、あらためて論点について簡単にまとめておきたい。
パブリックコメントを書く際の参考になればと思います。


今回の改正案は、これまでの「ガイドライン」に「歴史的緊急事態」への対応を2ヶ所に付け加えたものである。

1つめは「第3」の「作成」の所に付け足されたもの。

<歴史的緊急事態に対応する会議等における記録の作成の確保>
○ 国家・社会として記録を共有すべき歴史的に重要な政策事項であって、社会的な影響が大きく政府全体として対応し、その教訓が将来に生かされるようなもののうち、国民の生命、身体、財産に大規模かつ重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急事態(以下「歴史的緊急事態」という。)に政府全体として対応する会議その他の会合(第3及び第8の留意事項において「会議等」という。)については、将来の教訓として極めて重要であり、以下のとおり、会議等の性格に応じて記録を作成するものとする。
 なお、個別の事態が歴史的緊急事態に該当するか否かについては、公文書管理を担当する大臣が閣議等の場で了解を得て判断する。

① 政策の決定又は了解を行う会議等
 国民の生命、身体、財産に大規模かつ重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急事態に政府全体として対応するため、政策の決定又は了解を行う会議等
(作成すべき記録)
 開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記録した議事録又は議事概要、決定又は了解を記録した文書、配布資料 等

② 政策の決定又は了解を行わない会議等
 国民の生命、身体、財産に大規模かつ重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急事態に関する各行政機関の対応を円滑に行うため、政府全体として情報交換を行う会議等であり、政策の決定又は了解を行わないもの
(作成すべき記録)
 活動期間、活動場所、チームの構成員、その時々の活動の進捗状況や確認事項(共有された確認事項、確認事項に対して構成員等が具体的に採った対応等)を記載した文書、配布資料 等

○ なお、設置又は開催当初は政策の決定又は了解を行わない会議等であっても、その後、政策の決定又は了解を行うこととなった場合には、上記①の記録を作成するものとする。

○ このため、歴史的緊急事態に対応する行政機関においては、当該事態に対応する会議等について、事前にマニュアル等を整備又は改正し、作成すべき記録、事後作成の場合の方法・期限(原則3か月以内とし、3か月を超えても作成することが困難であることが想定される場合は、事後作成に支障を来さないようにするための措置を講ずることを明確にする。)、記録の作成の責任体制、記録の作成も含めた訓練等を行うことを明確化する等の措置を講ずる必要がある。なお、事後の点検等については、第8の留意事項を参照すること。


ちなみに「なお、設置~」の○の部分は「取りまとめ」に記載が無かった。
ただ、会議の形態を2つに分けた以上、こういう規定は入れておく必要はあるだろう。

2つめは「第8」の「点検・監査及び管理状況の報告等」に付け足されたもの。

○ 上記の点検・監査に加え、歴史的緊急事態が発生した場合には、当該事態に対応す る会議等の記録の作成の責任を負う行政機関においては、事後作成のための資料の保 存状況や文書の作成・保存状況を適時点検するなど、マニュアル等に沿った対応がな されているか、マニュアル等で想定されていない事態が発生した場合には、関係する 行政機関において記録の作成の責任体制を明確にした上で、当該事態に応じた必要な 文書が適切に作成・保存されているか確認する必要がある。

ポイントを整理すると

A 「歴史的緊急事態」の際に文書作成を徹底させるため、事前に対策マニュアルを作っておくこと。
B 「歴史的緊急事態」に該当するかは公文書管理担当の大臣が決める。
C 政策決定(了解)を行う会議と行わない会議とで作成する文書が異なる。
D 緊急事態対応のためにすぐに文書が作れない場合、原則3ヵ月以内に事後作成する。
E 「歴史的緊急事態」の際の文書がきちんと作成されているかの点検監査を行う。


まず大前提として「歴史的緊急事態」に話を絞っているということがある。
日常的な文書作成に関わる部分については公文書管理委員会で継続審議状態になっており、どうなるかは未定である。

補足説明としては、Aについては、このガイドラインに基づいて、各行政機関が緊急事態対応マニュアルを作る(もしくは存在するものに追加する?)必要があるだろう。
Cは、政策を決定する会議では議事録などを、決定しない会議はその時々の活動状況を記録することが求められている。

論点としては

①「歴史的緊急事態」に限った改正で良いのか?
②「歴史的緊急事態」を決めるのが公文書管理担当大臣で良いのか?
③政策決定をする会議としない会議で作成する文書を分けたのが良いのか?(そもそも分けることができるものなのか?)
④事後作成を容認して良いのか?


といった所が想定できる。

①は大前提を疑うという所になる。
もちろん、当ブログでは以前から「緊急事態の際の文書作成は、日常からきちんと文書を作成していない限りできるわけがない」と主張しており、こういった「マニュアル」をいじれば解決する問題では無いということも繰り返し述べている。

ただ一方で、緊急事態マニュアルが無くてよいとは思わない・・・

②は担当大臣が公文書管理に関心のある人であればよいのだが、関心が無かった場合、「歴史的緊急事態」をきちんと宣言してくれないケースがありうる。
その場合、文書をきちんと作らなくてよいと取られかねないのだ。

ただ、何らかの災害があったときに自動的に適用されるという規定を入れればよいのかというと、それもまた杓子定規になってしまう。
結局は、「歴史的緊急事態」と思われる事態が起きたときに、周りから「適用しろ!」と運動をするしかないということでもあるのだろう。

③は、政策決定をするか否かで会議を明確に分けられないのではないかということだ。

例えば、情報を共有する会議(政策決定を「行わない」会議)で話し合われたことが、即各大臣の政策決定につながることは、緊急事態のような状況では十分にありうる。
しかし、その会議は「政策を直接決定した会議では無い」ので、議事録は作成しなくても良いことになる。

本来、「政策決定過程」を残す必要があるという公文書管理法第4条の趣旨は、第1条にあるように「説明責任」を果たすためのものである。
そうである以上、その会議単体が「政策を決定するか否か」ではなく、総体として政策を決定するために行われている会議等の記録をきちんと残すことが重要なのではないのか。

一方、漠然とした「重要な文書は残すべき」という規範では文書がきちんと残らない可能性も高い。
こういった、会議を分類することで個別具体的にマニュアル化をする方が、文書を残すには適合しているという考え方もありうるかもしれないとは思う。

④は政策を決定する際に「緊急だから」といって、文書で証拠を残さずに対応することを容認するのかということである。

最近の国会の事故調でも問題になっている「東京電力が福島第一原発から全面撤退しようとした」という発言の真偽にまつわる話も、本来ならば緊急事態の際に全ての会話を録音しておいたり、文書を作成しておいたりすれば、「言った言わない」の水掛け論にならずに済んだはずなのである。

またこういった緊急事態だからこそ、文書をきちんと作成し、情報を共有して事態にあたるということも必要なはず。
それに結局「事後」に作ってしまえば、都合の悪い結果が出た問題については、作成しなかったり改竄したりする可能性が出てくる。
例えば、録音を全部しておいて、文字に起こすのは事後というのならば理解はできるが、この文面でそれは担保されているようには思えない。

ただ、それでも「緊急事態に文書作成を強制するのは難しい」という意見は当然あり得るだろう。
その場合、どうすれば事後にきちんとした文書を作る担保を抑えられるのかという点で、意見を書くことは可能だろう。

以上が解説になります。

私自身の書いたパブコメは後日ブログに掲載します。

この問題に「関心がある」ことを表明することも意義のあることだと思います。
どこまでパブコメが反映される余地があるのかはわかりませんが、考えたことはしっかりと送っておいた方が良いと思います。
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