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著作権法改正案と公文書管理法 [2012年公文書管理問題]

2012年3月9日に著作権法の改正案が閣議決定されました。
案文が公表されたので、公文書管理法関係の部分だけ解説をしておきます。
はっきりいって著作権法はまだ勉強中なので間違った解釈をしていたら申し訳ありません。
アウトプットすることで自分の頭を整理してみたいと思います。

改正案や概要は↓から。

著作権法の一部を改正する法律案
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/1318798.htm

まず著作権法と公文書との関わりだが、公文書には基本的には著作権は存在しない。
著作権のある著作物は、著作権法第2条第1項第1号で「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とあるためだ。

だが、著作物が公文書に混ざっているケースがある。
例えば、委員会で配布された論文のコピーやポスターコンクールで応募した絵などがこれにあたる。
また、レコードの音声や映画の映像といったものも。

そういうものが混ざっていた場合、著作権法が適用され、公文書館などが著作権者に無断で公開したりすることができない。
よって、公文書管理法の制定と合わせて著作権法の改正が図られることになったのが今回の改正案である。
ただし、他の改正案も抱き合わせになっているため、公文書管理法施行に間に合わなかった。

公文書管理法と合わせて改正される部分は「公表権」「氏名表示権」「複製権」の3点が主である(これと合わせるために、他にも数条変わっている)。

1.公表権(第18条)

まず第1項の部分を。

(公表権)
第十八条 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。


未公表の著作物を公表する権利、二次利用する権利は著作者が持つという規定。
この権利のうち「公衆に提供し、又は提示する権利」を制限する。(第3項の改正)

第3項の改正案に提示されているのは、簡単に述べると公文書管理法で言うところの「特定歴史公文書等」(国立公文書等で保存されている文書)の公表に関わることである。
つまり、特定歴史公文書等に含まれている未公表の著作物(例:ポスターコンクールで応募した絵)を国立公文書館等は著作者に断りなしに公表・提示することができるということだ。

この改正案で注目したいのは第3項の第3号。
地方公共団体(独法含)の公文書館に、国立公文書館等と同様の権利を与えるための条文。

三 その著作物でまだ公表されていないものを地方公共団体又は地方独立行政法人に提供した場合(開示する旨の決定の時までに別段の意思表示をした場合を除く。) 情報公開条例(地方公共団体又は地方独立行政法人の保有する情報の公開を請求する住民等の権利について定める当該地方公共団体の条例をいう。以下同じ。)の規定により当該地方公共団体の機関又は地方独立行政法人が当該著作物を公衆に提供し、又は提示すること[引用者注:ここまではすでにある条文。以下が今回付け足される改正案]
当該著作物に係る歴史公文書等が当該地方公共団体又は地方独立行政法人から公文書管理条例(地方公共団体又は地方独立行政法人の保有する歴史公文書等の適切な保存及び利用について定める当該地方公共団体の条例をいう。以下同じ。)に基づき地方公文書館等(歴史公文書等の適切な保存及び利用を図る施設として公文書管理条例が定める施設をいう。以下同じ。)に移管された場合(公文書管理条例の規定(公文書管理法第十六条第一項の規定に相当する規定に限る。以下この条において同じ。)による利用をさせる旨の決定の時までに当該著作物の著作者が別段の意思表示をした場合を除く。)にあつては、公文書管理条例の規定により地方公文書館等の長(地方公文書館等が地方公共団体の施設である場合にあつてはその属する地方公共団体の長をいい、地方公文書館等が地方独立行政法人の施設である場合にあつてはその施設を設置した地方独立行政法人をいう。以下同じ。)が当該著作物を公衆に提供し、又は提示することを含む。)。

カッコが多いので、地の部分に下線を引いておいたので、そこだけを追ってもらえると読みやすいです。
注目は、この条文が地方公文書館に適用されるためには「公文書管理条例」が必要であるということである。
また、該当する地方公文書館等も「公文書管理条例が定める施設」と書かれている。

なお、「地方公文書館等」の定義がここで決まっているので、その後の公文書管理法に関わる部分の改正は全て「国立公文書館等又は地方公文書館等」という並びで使われている。
つまり、公文書管理条例(それに類するもの)が無いと、今回の著作権法の改正は地方公文書館には適用されないということになるのだ。

ちなみにこの第18条は第4項も改正されるが、これは国立公文書館等での不開示基準にあたる情報については、公表権は及ばないという規定である(つまり、他の情報と同様に不開示できるということ)。

2.氏名表示権(第19条、第90条)

(氏名表示権)
第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。


著作物を公表するときに、それに自分の名前を表示するかどうかは著作権者が決めることができるという規定である。

今回の改正案では、特定歴史公文書等については、著作物に著作者名が一緒に記載されている時はそのまま表示するということが定められている(第19条第4項第3号)。
つまり、著作者に載せる許可を取らなくてよいということである。

なお、情報公開法での請求の場合は、「省略」することもできる(個人情報保護のために不開示にできる)。
だが、公文書管理法による請求の場合は「省略」の規定がないので、そのまま表示するということになるのだろう。

3.複製権(第42条の三)

これは新設された条文なので引用します。

(公文書管理法等による保存等のための利用)
第四十二条の三 国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長は、公文書管理法第十五条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により歴史公文書等を保存することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、当該歴史公文書等に係る著作物を複製することができる。
2 国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長は、公文書管理法第十六条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により著作物を公衆に提供し、又は提示することを目的とする場合には、それぞれ公文書管理法第十九条(同条の規定に基づく政令の規定を含む。以下この項において同じ。)に規定する方法又は公文書管理条例で定める方法(同条に規定する方法以外のものを除く。)により利用をさせるために必要と認められる限度において、当該著作物を利用することができる。


まず第1項は、保存を目的とするのであれば著作物を複製をすることができるという規定である。
つまり、古い文書などを保護するために複本(マイクロフィルムなど)を作ることができる。

第2項は公文書管理法第19条と関係がある。
第19条は「利用の方法」を決めた条文であり、特定歴史公文書等を「閲覧又は写しの交付(電磁的記録は媒体に応じて)」によって利用者に提供できるというものである。
つまり、利用者が著作物を閲覧したりコピーしたりすることができるという規定だ。

この二つは無いと特に困る条文。
逆に言えば、この条文がない状態で公文書管理法が運用されているというのは結構危ういことなのだ。

4.その他

他に関わる改正は、第49条の「目的外利用での複製禁止」と第86条の「出版社が出版権を持っていても複製できる」という部分である。

以上が解説。

この法律が情報公開法の改正案のように棚晒しにならないかが心配。
特に、この改正案には著作権の制限規定を緩めたり、国立国会図書館による図書館資料の自動公衆送信に関わる規定の整備など、色々と揉めそうなものが含まれている。
公文書管理法に関わる部分はおそらく批判を受けることがない部分だと思うが、他の部分に足を引っ張られて成立しない可能性は十分にありうるだろう。

なお、途中でも述べたが、この改正案が成立したとしても、地方公文書館は公文書管理条例がなければ著作権法改正の恩恵にあずかれない。
特に「複製権」に関わる部分が適用を受けられないのはいろいろと支障があるだろう。

この改正案が成立すれば、公文書管理条例制定の追い風になる可能性は高いと見ている。なんとか国会を通ってほしいと思う。

参考
今回の改正案は、文化庁の委員会の結果をほぼ踏襲しています。
上記の説明でわかりにくかった場合、こちらの議事録や参考資料を参考にすると、その意図がわかりやすいかと思います。

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第5回)議事録
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/housei/h22_shiho_05/gijiyoshi.html

追記 3/17

なぜ公文書管理条例が必要だということになったのかという理由をきちんと書いていなかったので追記。
これは、上記の文化審議会の参考資料「資料2-1 「公文書等の管理に関する法律」に関する権利制限について」を見るとよくわかる。

これによれば、すでに情報公開法の主旨を徹底させるために、上記に挙げた公表権・氏名表示権・複製権については、すでに著作権法が改正されて権利が制限されている。
そして、各地で制定されていた情報公開条例にも、この著作権法が適用できるようになっている。

今回の公文書管理法に合わせた改正案は、この情報公開法の時の権利制限をほぼ踏襲したものになっている。
その理由は、著作権が制限されなかったならば、公文書が現用の時は著作物であっても情報公開請求によって閲覧・複写などができたのにも関わらず、非現用となって国立公文書館等に移管された場合には閲覧すらできなくなるためである。
そのため、特定歴史公文書等になったときも、現用時と同様に著作権を制限できるという規定が必要になったのである。

これを地方に当てはめると同様のことが言える。
文化審議会の資料2-1では次のように書かれている。

④ 地方公共団体の公文書管理法に相当する条例への対応
○ 現行著作権法では、行政機関情報公開法等に基づく文書開示に係る権利調整と併せて、地方公共団体の情報公開条例に基づく文書開示についても同様の規定を設けている(著作権法第18条第3項第3号及び第4項第3号、第19条第4項、第42条の2)。
○ これを踏まえ、仮に公文書管理法第16条による利用に関し、著作権等との調整を著作権法において行うこととする場合は、公文書管理法の利用請求権に相当する権利について規定する条例(以下「公文書管理条例」という。)についても同様の調整を行うかが問題となる。
○ この点、国立公文書館の行った調査によると、公文書管理条例は、数は少ないものの現状でも存在するとのことである。加えて、公文書管理法の成立により、今後、条例の整備が進むことも想定されることから、仮に著作権法において公文書管理法について著作権等の調整を行う場合は、同様の対応を行うことが適当ではないかと考えられるが、どうか。


法理上は情報公開条例で権利を制限しているので、非現用になった時の権利制限の際に公文書管理条例が必要なのは確か。
ただ、「公文書管理条例」を書き込んだのは、「たぶん条例化が進むはずだ」という「予想」(願望?)によって加えられている
おそらく、この改正をてこにして条例化の動きを加速させようという意図もあるのではないかと思われる。

以上が解説。資料2-1を見た方がわかりやすいかもしれませんので、そちらを是非。
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