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議事録未作成問題と「行政文書の範囲」 [2012年公文書管理問題]

原子力災害対策本部議事録未作成問題の続報。前のブログ記事も参照してください。
引用します。

東日本大震災:震災議事録、「被災者支援」も未作成 議事録・概要なし、計3会議に

 岡田克也副総理は27日午前、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故に対応するため政府が設置した計15の会議などの議事録に関する調査結果を公表した。緊急災害対策本部の下部組織「被災者生活支援チーム」が議事録と議事概要をいずれも作成していなかったことが新たに判明。議事録だけでなく、議事概要の記録も残していなかったのは原子力災害対策本部と緊急災害対策本部に生活支援チームを加えた3会議となった。

 このほか、政府・東京電力統合対策室と電力需給に関する検討会合の2会議は議事録がなく、議事概要も一部しか作成していなかった。岡田氏は記者団に「計5会議で一部または全部の記録がなかった」と語った。

 残る10会議のうち、復興構想会議など4会議は議事録・議事概要の両方を作成、各府省連絡会議など5会議は議事概要のみ、復興対策本部は議事録のみを残していた。

 公文書管理法は、重要な会議の意思決定過程などを検証できる文書作成を義務づけている。

 岡田氏は同日の閣議後の閣僚懇談会で、不備があった会議を担当する各閣僚に2月中をめどに議事概要を作成するよう要請し、同法の趣旨を踏まえ指導を徹底するよう求めた。【中島和哉、中井正裕】

毎日新聞 2012年1月27日 東京夕刊
(引用終)

もっとも詳しいのは日経の方ですが、日経はすぐにウェブ上で見れなくなるので、毎日の方を引っ張っておきます。

さて、この話をする際に前提として考えておかなければならないことがある。
それは「議事録がない」=「記録が何も残っていないことを意味しない」ということだ。

ではなぜ「議事録」や「議事概要」がないのか。
それは、官僚が考えている「議事録」や「議事概要」は「行政文書」として「認定された」ものだけを指しているからである。

よって、この問題を理解するにはまず「行政文書」とはどのような定義であるのかを理解する必要がある。

「行政文書」とは、公文書管理法第2条第4項で次のように定義されている。

4  この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。(以下略)

この定義によれば、「行政文書」とは

①職務上作成、取得したもの
②組織的に用いるもの
③保有しているもの


の3点を満たさない限り「行政文書」としては扱われない。
これは情報公開法でも同じ定義である(第2条第2項)。

くせ者なのは、このうち②の「組織的に用いるもの」である。
この「組織的」というのは、官僚の中では「決裁を経たもの」として認識されている可能性が極めて高い。
つまり、自分の手元で作っている決裁前に作られた文書は、全て「私的メモ」扱いされているということである。
情報公開法施行以来、この「組織的」ということを盾に取り、官僚が取ったメモ(会議などで取ったものも含む)を「私的メモ」として扱い、情報公開の請求対象外とするケースが各所で起こっていた。

そこで公文書管理法では第4条に次の条文を設定することで、この逃げ道を塞ごうとした。
公文書管理法第4条は次のような文章である。

第四条  行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
一  法令の制定又は改廃及びその経緯
二  前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
三  複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対して示す基準の設定及びその経緯
四  個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯
五  職員の人事に関する事項


つまり、行政文書として政策決定過程がわかる文書を作成しなければならないと定めたのである。
もちろん今回の問題が、第4条の第2号と第3号に関わることは一目瞭然である。

今回の問題は、この公文書管理法第4条が官僚に全く意識されておらず、公文書管理法施行以前の対応をそのまま続けていたということに他ならない。

当然、ここまで重大な問題である以上、担当者がメモを取っていないとは思えない。
そして、部内で回覧できるような「参考資料」として、最低限の「議事概要」は作っていたはずである。
だが、彼らにとってはそれは決裁を受けていない「参考資料」でしかなく、それは「私的メモ」だという判断なのである。

そして多忙であったため、「行政文書」として認識されるような「議事録」や「議事概要」を作成しなかった。
彼らには共有している「参考資料」があったので、「議事録」を「作る」必要がなかったのだ。
おそらくそれが今回の「議事録未作成」の真相というところではないのだろうか。

そして前回のブログに書いたように、対外的には作る必要のある「議事録」が、作成責任を担う部局が不明確ななかで、「業務に支障がない」ので作成されなかったのだろう。
ちなみに、録音をしている会議も当然あるだろうが、おそらくその録音自体も、官僚からすれば「組織的に共有していない」ものなので「行政文書」ではないという認識なんだろう。

上記の記事で、岡田克也副総理が「2月中をめどに議事概要を作成するよう要請し、同法の趣旨を踏まえ指導を徹底するよう求めた」と述べているのは、おそらく「概要」は「参考資料」としてそもそも持っているはずだろうということを想定した発言のようにも思う。
もちろん、録音があればそれを元にして復元せよということも含んでもいるだろう。

なお、当然後から作った議事録や概要は「信頼性」を問われるわけだから、その元となった「参考資料」は「行政文書」として認定し、それも含めて公開するべきだと思う。
というか、そもそも公文書管理法第4条の主旨からすれば、「参考資料」となっていると思われるものは当然行政文書として保管されるべき文書である。

今回の問題で、公文書管理法が現場できちんと運用されていないということが浮き彫りになった。

おそらくこれは氷山の一角にすぎないと思う。
他の部局でも同じようなことが続いている可能性は極めて高い。
公文書管理法の徹底化のためには良い機会でもあるので、是非とも各省庁で徹底した公文書管理法運用に尽力してほしいと思う。

あと余談ではあるが、前回も書いたように、この議事録未作成問題は昨年3月末からすでに問題になっていた。
今回これだけ事態が進んだのは、明らかに「公文書管理を担当する大臣」の熱意があったからに他ならない。

これまでの担当大臣であった蓮舫前行政刷新相は、この問題を解決しようとはしてくれなかった。情報公開法の改正も棚上げにしたし、正直残念でならない。
それに引き替え、岡田克也副総理(公文書管理の担当としては「行政刷新相」か)がいかにこの問題に真摯に取り組んでくれたか。
NHKが報じてから数日でここまでのことが明らかになったのだから、岡田副総理がこの問題を重要視して解決にあたろうとしてくれたことが非常に良くわかる。

こういう政治家が要所に何人もいればなと感じざるを得ない。

追記
「政府・東京電力統合対策室」については、東電が「民間企業」であるので、上の問題に加えてさらに「民間企業の情報を公開するか否か」という話が関わってくるので、もう一段状況は複雑になる。
この点は情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんがずっと追っているはずですので、そちらのブログを参照してください。
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yuko matsuzaki

追記に「政府・東京電力統合対策室」が言及されておりますが、「政府与党三役会議」とその議事録に関しても注目しています。
by yuko matsuzaki (2012-01-28 14:21) 

瀬畑 源(せばた はじめ)

> yuko matsuzakiさま

コメントありがとうございます。
30日付で樽床幹事長代行の発言が問題になっていましたね。

今のところ政党側の文書はブラックボックスです。(自民党も公開したことはない。)
政府側が文書をきちんと残しているかどうかが重要ですね。
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2012-01-30 16:33) 

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