SSブログ

【連載】情報公開法改正案解説 第2回 第5条第1項~第6条 [2011年公文書管理問題]

【連載】情報公開法改正案解説
第1回 / 第2回←ココ / 第3回 / 第4回4/29更新 / 第5回4/30更新 / 第6回5/1更新

震災の影響で延期されていた情報公開法の改正案が4月22日に閣議決定され、国会に提出されました。
今国会でどこまで議論が進むかは未知数ですが、論点はきちんと提示しておいた方が良いかと思いますので、数回かけて法律案に沿って解説を行いたいと思います。

法律本文の青字にした部分が変更した部分。追加のケースと変更のケースがあります。
強調や下線は重要な部分を強調した部分です。

詳しくは、新旧対照表が一番見やすいと思います。

改正案全文は内閣官房のページ
http://www.cas.go.jp/jp/houan/index.html
から見れます。

第2回 第5条第1項~第6条

第5条→開示しない情報について定めた条文

第1項 「個人に関する情報」
→下記の部分は、開示しない情報の「例外」を定めた部分(つまり開示する情報)

ハ 当該個人が公務員〔中略〕である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分(当該氏名を公にすることにより当該公務員等の職務遂行に支障を及ぼすおそれがある場合又は当該公務員等の権利利益を保護するため当該氏名を公にしないことが必要であると認められる場合にあっては、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分)

ニ 当該個人行政機関に置かれた審議会その他の合議制の機関又は行政機関において開催された専門的知識を有する者等を構成員とする懇談会その他の会合において意見の表明又は説明を行った場合において、当該情報が当該意見表明又は説明に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該個人の氏名及び当該意見表明又は説明の内容に係る部分(当該個人の権利利益を保護するため当該氏名を公にしないことが必要であると認められる場合にあっては、当該意見表明又は説明の内容に係る部分)


個人情報に関わる部分で2点改正があった。
「ハ」については、公務員の氏名は公開しましょうということ。
ただし()のような場合(例えば暴力団対策などの業務)、職名と業務内容のみ公開(氏名は非公開)にできる。

すでに、2005年8月3日の「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」(情報公開に関する連絡会議申合せ)において、公務員の氏名は原則公開となっている。
なお、警察は警視以上のみが公開されている。上記の()の除外規定が使われていると見なしてよいだろう。
よって、現在の公開方法に法文が追いついただけである。

「ニ」は今回新設されたもの。
行政機関が主催する審議会などに出席した人の名前と発言は、原則公開するということである。
出席した人は、公務員であるか否かを一切問わない。

なお、行政機関において「開催された」会合という表現があるので、私的に専門家を大臣室に呼んで話を聞いたというレベルのことでも公開の対象となる。
公開されるのが嫌なら料亭とかで話を聞くようになるんだろうが・・・

最近では審議会の議事録の多くはネット上に上げられるようになってきたが、「公務員でないから」といって名前を隠したり、発言内容を隠したりするようなことは一部ではまだ残っている。
これを原則的に許さないということである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二 法人その他の団体〔中略〕に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。

第2項は法人情報についての不開示規定。
ここの修正は、これまで「イ」「ロ」と2つあった不開示規定のうち、「ロ」が削られて、残った「イ」を前に繋げただけである。
よって、青字の部分は新たに加わった文章ではない。

これまで、第5条第2号ロでは、行政機関が法人から「公開しないから情報下さい」と約束して貰ってきた情報は公開してはならないという規定があった。
この部分を削除するということである。

この改正は、「情報は時間が経つと劣化する」という概念を組み込んだものと言える。

つまり、これまでは「公開しませんよ」と約束してもらった情報は、たとえどのくらい時間が経過しても、約束に従って公開できなかった。
でも、本来、公開するか否かは「その情報の内容」によって決まるべきものである。
今回の改正は、まさにこの「内容」によって開示かどうかを決めるということであり、もらったときの契約は関係ないということである。

行政の政策決定には、さまざまな民間からの情報提供があって作成されている。
この根拠となるデータが非公開のままだと、政策決定過程の検証が行えないのである。
つまり、この条文の改正は、政策決定過程の公開を目的としているのだ。

なお、この条文改正によって、民間側が行政に情報提供を渋る可能性がありうる。
提供した情報を勝手に公開されるのではないかという危惧を抱くためだ。
だが、情報を隠さないと提供者に被害をもたらす可能性のある文書については、第2号の残った条文や第6号といった別の条文で非公開にすることになるので、情報が垂れ流しになるわけではない。
行政側は、こういったことをしっかりと情報提供者に伝える必要があるだろう。

また、今回の改正案の附則の第2条第2項で、情報公開法改正前に非公開の契約があった場合は、その契約は有効との記載がある。つまり、前に遡って契約を破棄しないということである。
遡及して法律は適用しないというのは法律の世界では当然なので、これは仕方がないかなと思う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき十分な理由がある情報
四 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき十分な理由がある情報

第3項は外交関係、第4項は公安関係の情報。
「相当の」となっていた部分を、「十分な」という表現に変えた。

この条文は、検討チームでものすごく議論になった部分。
現在の情報公開法は、これらの情報について、「行政機関の長」、つまり警察庁長官や外務大臣、防衛大臣が不開示にすると「決定した」ことは、ほぼ絶対であった。
また、「おそれ」という裁量が利く根拠で良かったが故に、不開示が広く適用されるケースが多く、本当は隠さなくても良い情報までも隠しているという疑いがぬぐえなかった。
また、「おそれ」を根拠としている以上、その不開示を撤回させるためには、おそれが無いことを開示請求者側が立証しなければならなくなり、裁判などで争うこと自体が困難な状況になっていた。

そこで、ここに風穴を開けるために、行政刷新相の当初の案では「行政機関の長が認めることにつき」を削除するとしていた。
つまり、行政機関の長の意見を優先するという部分を削除しようとしたのである。

そのため、この部分を削ろうとする改正には、警察庁、外務省、防衛省の強い抵抗がおきた。
7月9日の検討チームのワーキンググループ会合の議事録を見てもらえばわかるが、彼らは「公安や外交は専門的な見地が必要であり、自分たちの判断が尊重されるべきだ」と主張した。
これに対して、各委員が「裁判所だってあなたたちの説明の筋が通っていれば、あなたたちの判断を尊重しますよ」といった反論を繰り返していた。

しかし、結局押し返されて、「とりまとめ」では「「相当の理由」とあるのを、「十分な理由」に厳格化する」という記載で決着がついた(2ページ)。
そして、法文でもそれが反映された。

この部分については、国会でもう一度きちんと議論をするべきだろう。
そもそも、「相当の」を「十分な」に変えたことで、何が具体的に変わるのかをきちんと詰めておく必要がある。
「行政機関の長」が「おそれ」を理由として不開示にできるという項目が残った以上、裁量権をできる限り狭めるための方策はきちんと取る必要があるだろう。

また、インカメラ審理の部分で解説するが、外務省等の抵抗はここで済まなかった。
検討チームの「とりまとめ」の意図に反する条文を、裁判に関する部分に挿入していくことになる。それは後述する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
五 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

第5号からは「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」が削除された。
「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」を判断するのが行政側なので、それはおかしいでしょうということ。
不開示にするなら別の項目で処理できるということもあり、検討チームでもほとんど議論にならなかった。そのまま削除することに。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(部分開示)
第六条 行政機関の長は、開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されているときは、開示請求者に対し、不開示情報が記録されている部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該不開示情報が記録されている部分を区分して除くことが困難であるときは、この限りでない。

これは「情報単位論」(独立一体説)というのを否定するために書かれた部分。
法律学のマニアックな話になるのだが、情報公開訴訟の判例で、「開示されるべき情報」であるにも関わらず、他の情報と一括して考えると不開示情報が含まれていると解釈することが可能となるので、その「開示されるべき情報」すらも不開示にできるという判決が最高裁で出てしまった。
情報公開法では、本来区分けできる情報であるならば、「開示されるべき情報」は開示することが決まっている。しかし、裁判官の不勉強だったのか判決で認められてしまったらしい。

今回の改正で、この「情報単位論」の判決が二度と出ないように、誤解を生まない条文に変えようということがこの部分の主旨である。
なので、特に利用者側に不利益になるような改正ではない。

次回に続く。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。