『歴史と戦略の本質』 [雑感]
翻訳をした友人から「是非ともこの本をブログで紹介してくれ!」と頼まれ、本をいただいたので紹介をしてみる。
ウィリアムソン・マーレー、リチャード・ハート・シンレイチ編著、今村伸哉監訳、小堤盾・蔵原大訳『歴史と戦略の本質―歴史の英知に学ぶ軍事文化―』上下、原書房、2011年。
出版元である原書房による解説。
現代人の教養としての「軍事文化」を学び、その歴史研究との真のコラボレーションの重要性を踏まえて探究に取り組むためのスキルを身につける基本テキスト。 急速に変化する、グローバル化世界における国内外の課題を「戦略的」に考えようとする者すべてに必読。 マイケル・ハワードをはじめ、英米の第一線<軍事・歴史>研究者が、第1部で歴史と軍事専門職の関係を再検証して解説。 第2部で歴史上の主要な事例に添って考え方を判りやすく展開する。
原書はCambridge University Pressから2006年に発行されたもの。
著者の経歴を見ると、民間の軍事史研究者及び軍人によって構成されている。
まだ全部を読み通していないのだが、本の煽り文句と読んだ時の感じが思った以上に「違う」という印象。
序論などを見ていると、軍隊における専門知識偏重の動きに対する批判がまず根底にある。
その上で、軍事史(人文学と言っても良いような)による幅広い教養・知見を身につけることが軍人(将校)に必要なスキルであるという論理構造になっているように思う。
これは、専門分化が激しくなった現在、さまざまな分野で言われていることと共通性がある。
よって、「歴史をどう軍隊に利用するか」というよりもむしろ、「軍隊において歴史を踏まえた視野の広さを持った将校をどう育てるか」といった視点が強いように思う。
ただ、前半(特に第1部)を読んでいる際の感想なので、各論にあたる第2部を読むと印象は変わるのかもしれない。
なお、「付録」として下巻に収録されているマイケル・ハワードの「軍事史の利用と濫用」がこの本の内容をコンパクトにあらわしているように思う。
なお、これは原書に無い部分。どこから翻訳されたか書かれていないのは不親切だが、本文中の他の論文の注からみると1962年に書かれたものだと思われる。
だが、原書を補完する意味では翻訳して良かったのではないか。
この本が気になる方は、まずこのハワードの論文を読んでみたら良いのでは。
非常にオーソドックスな歴史研究の注意点を指摘している一方、軍事史と軍隊の関係を考える上でも「ひっかかる」話が含まれている。
目次は以下の通り。気になる方はお手にとって下さいませ。
(上巻)
1 序論……ウイリアムソン・マーレー、リチャード・ハート・シンレイチ
2 軍事史と戦争史……マイケル・ハワード
第1部 軍事専門職に及ぼす歴史の影響
3 歴史と軍事専門職との関連性~あるイギリス人の見解……ジョン・P・キズレー
4 歴史と軍事専門職との関連性~あるアメリカ人の見解……ポール・ヴァン・ライパー
5 仲の悪い相棒――軍事史とアメリカ軍の教育制度……リチャード・ハート・シンレイチ
6 軍事史と軍事専門職についての考察……ウイリアムソン・マーレー
第2部 歴史の英知に学ぶ軍事文化
7 教育者トゥキディデス……ポール・A・ラーエ
8 クラウゼヴィッツと歴史、そして将来の戦略的世界……コリン・S・グレイ
9 歴史と戦略の本質……ジョン・グーチ
(下巻)
第2部
10 長い平和な時代における軍事の変遷~ヴィクトリア朝時代のイギリス海軍について……アンドリュー・ゴードン
11 軍事史と学ばれた教訓の病理学~事例研究としての日露戦争……ジョナサン・B・A・ベイリー
12 技術革新と即応体制への障害~イギリス陸軍の経験 1918年―1939年……J・ポール・ハリス
13 歴史はテロリズムとその未来について何を提示するか……クリストファー・C・ハーモン
14 政軍関係の歴史と未来~ギャップの解消……フランシス・G・ホフマン
[付録]軍事史の利用と濫用……マイケル・ハワード
解説……今村伸哉
ウィリアムソン・マーレー、リチャード・ハート・シンレイチ編著、今村伸哉監訳、小堤盾・蔵原大訳『歴史と戦略の本質―歴史の英知に学ぶ軍事文化―』上下、原書房、2011年。
出版元である原書房による解説。
現代人の教養としての「軍事文化」を学び、その歴史研究との真のコラボレーションの重要性を踏まえて探究に取り組むためのスキルを身につける基本テキスト。 急速に変化する、グローバル化世界における国内外の課題を「戦略的」に考えようとする者すべてに必読。 マイケル・ハワードをはじめ、英米の第一線<軍事・歴史>研究者が、第1部で歴史と軍事専門職の関係を再検証して解説。 第2部で歴史上の主要な事例に添って考え方を判りやすく展開する。
原書はCambridge University Pressから2006年に発行されたもの。
著者の経歴を見ると、民間の軍事史研究者及び軍人によって構成されている。
まだ全部を読み通していないのだが、本の煽り文句と読んだ時の感じが思った以上に「違う」という印象。
序論などを見ていると、軍隊における専門知識偏重の動きに対する批判がまず根底にある。
その上で、軍事史(人文学と言っても良いような)による幅広い教養・知見を身につけることが軍人(将校)に必要なスキルであるという論理構造になっているように思う。
これは、専門分化が激しくなった現在、さまざまな分野で言われていることと共通性がある。
よって、「歴史をどう軍隊に利用するか」というよりもむしろ、「軍隊において歴史を踏まえた視野の広さを持った将校をどう育てるか」といった視点が強いように思う。
ただ、前半(特に第1部)を読んでいる際の感想なので、各論にあたる第2部を読むと印象は変わるのかもしれない。
なお、「付録」として下巻に収録されているマイケル・ハワードの「軍事史の利用と濫用」がこの本の内容をコンパクトにあらわしているように思う。
なお、これは原書に無い部分。どこから翻訳されたか書かれていないのは不親切だが、本文中の他の論文の注からみると1962年に書かれたものだと思われる。
だが、原書を補完する意味では翻訳して良かったのではないか。
この本が気になる方は、まずこのハワードの論文を読んでみたら良いのでは。
非常にオーソドックスな歴史研究の注意点を指摘している一方、軍事史と軍隊の関係を考える上でも「ひっかかる」話が含まれている。
目次は以下の通り。気になる方はお手にとって下さいませ。
(上巻)
1 序論……ウイリアムソン・マーレー、リチャード・ハート・シンレイチ
2 軍事史と戦争史……マイケル・ハワード
第1部 軍事専門職に及ぼす歴史の影響
3 歴史と軍事専門職との関連性~あるイギリス人の見解……ジョン・P・キズレー
4 歴史と軍事専門職との関連性~あるアメリカ人の見解……ポール・ヴァン・ライパー
5 仲の悪い相棒――軍事史とアメリカ軍の教育制度……リチャード・ハート・シンレイチ
6 軍事史と軍事専門職についての考察……ウイリアムソン・マーレー
第2部 歴史の英知に学ぶ軍事文化
7 教育者トゥキディデス……ポール・A・ラーエ
8 クラウゼヴィッツと歴史、そして将来の戦略的世界……コリン・S・グレイ
9 歴史と戦略の本質……ジョン・グーチ
(下巻)
第2部
10 長い平和な時代における軍事の変遷~ヴィクトリア朝時代のイギリス海軍について……アンドリュー・ゴードン
11 軍事史と学ばれた教訓の病理学~事例研究としての日露戦争……ジョナサン・B・A・ベイリー
12 技術革新と即応体制への障害~イギリス陸軍の経験 1918年―1939年……J・ポール・ハリス
13 歴史はテロリズムとその未来について何を提示するか……クリストファー・C・ハーモン
14 政軍関係の歴史と未来~ギャップの解消……フランシス・G・ホフマン
[付録]軍事史の利用と濫用……マイケル・ハワード
解説……今村伸哉
soです。
>10 長い平和な時代における軍事の変遷~ヴィクトリア朝時代のイギリス海軍について……アンドリュー・ゴードン
この方、ハーバードの日本史家とは別人ですよね。
by so (2011-04-18 16:32)
> soさん
別人です。
私も「?」と思って経歴を見たら、英国統合軍幕僚大学教授でした。
よくありそうな名前ではあるので、同姓同名なんでしょうね・・・
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2011-04-18 18:29)
読みたい本が,また増えてしまいました(苦笑
戦略関連では,
『戦略の格言 戦略家のための40の議論』(コリン・グレイ著,芙蓉書房出版,2009.8)
『戦略論の原点』(J. C. ワイリー著,芙蓉書房,2007.4)
もお勧めします.
by 消印所沢 (2011-04-22 04:13)
> 消印所沢 さま
お勧めいただきましてありがとうございました。
色々と関連書籍は出ているのですね。あまりこの分野には疎いので・・・
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2011-04-22 13:22)
原書がCambridge University Pressから出版なんですね。
検討してみます。
by ダグラスリーフ (2011-06-15 21:02)
『歴史と戦略の本質』、購入しました。
by ダグラスリーフ (2011-06-19 22:36)
ようやく読了しました。
最高でした。
翻訳者の皆さまに感謝します。
by ダグラスリーフ (2011-07-16 09:30)
翻訳された瀬畑さんの友人様に深く感謝します。
by ダグラスリーフ (2011-07-16 09:47)