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公文書管理委員会第1回資料を読む(中)施行令素案 [公文書管理委員会]

公文書管理委員会第1回資料を読む
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公文書管理委員会の第1回会合が7月15日に行われました。
その資料が公開されたので、この内容について検討してみたいと思います。

今回は資料3 公文書の管理に関する法律施行令(仮称)の検討素案の概要資料3-2 公文書の管理に関する法律施行令(仮称)の検討素案について。

この資料の性格についてはすでに前回書きましたのでそちらをみてほしいのですが、簡単に述べると公文書管理法の細則を決める施行令をどうするかということを並べたものです。
基本的には手続きを淡々と書いているものが多く、また情報公開法の規定をそのまま使っているものもあるので、読めばわかるものがほとんどだと思います。

ただ、これだけは注目しておきたいと思ったのは、8と9の部分。個別に見てみます。

第8 行政文書ファイル等(法第5条第5項に規定する行政文書ファイル等をいう。)の分類、名称、保存期間及び保存期間の満了する日(法第5条第1項及び第3項関係)

第8は行政文書ファイル管理簿の話。

まずで、能率的な事務処理のため、ファイルは「系統的に分類し、分かりやすい名称」を付けることが述べられている。
これまで、「~関係録」みたいな、何が入っているのかよくわからない名称がついていたり、複数のファイルが無理矢理一つのファイル名の中に入れられているということがあった。
そのため、管理簿自体が検索する時の役に立たないという状況が生まれていた。

この施行令では、この点についての改善を求める記述を入れようとしているようだ。
次回述べるが、各行政機関向けの文書でこの具体的な話が記載されている。

では、別表に基づく保存期間に従うことを求めている。この別表が10-20頁に長々と掲載されている。
この別表を見ると、現在の情報公開法の施行令「別表第二」(行政文書の管理に関する定め)にある文書類型と大きな違いがあることがわかる。

情報公開法施行令に掲げられている文書類型のほとんどは「決裁文書」と「帳簿」であった。
つまり、政策決定過程の文書をそもそも残そうという気が全くない類型であった。
一方、今回の公文書管理法施行令の別表を見ていると、その見出しのほとんどに「経緯」という言葉が入っており、ただの「文書」という言葉で書かれているものもたくさんある。
つまり、「決裁文書」だけではなく、その政策決定の経緯を残すことが前提となった類型になっている。

このように変化したのは、公文書管理法第4条の「文書の作成」の所に文書類型を並べたためである。
別表の構成は、第4条の5項にわたる類型と対応して作られている。
この第4条は、最初の政府案では非常に曖昧な文章だったのを、修正で具体的な事項を列記する形に変えたところである。
この修正によって、施行令で官僚がごまかす可能性をつぶしたことはやはり大きかったように思われる。

次にでは、「歴史公文書等」に該当する場合、1年未満の保存期間ではいけないと述べている。
ややわかりにくい文章だけど、要するに、歴史資料として重要な資料となりうるものを、ファイル管理簿に載せなくてよい文書として扱うこと(1年未満)を禁止するということだ。
ファイル管理簿に載せなくて良いということは、勝手に廃棄可能というものになる。
そういったごまかしは認めませんという釘をさしたものだと考えて良いだろう。

4、5は保存期間の数え方の問題なので省略。

この第8で述べていることは、「いま作られる文書の管理がきちんとなされていないと何も残らないよ」ということである。
この項目の実効性がどこまで担保されるか、それが公文書管理法の最もカギになる部分だと思う。


次に、9の話。

第9 保存期間及び保存期間の満了する日の延長(法第5条第4項関係)

これは、保存期間の延長の話。
情報公開法では、30、10、5、3、1、1年未満という分類があり、「永久保存」という期間は設定できなくなっている。
しかし、保存期間の延長が簡単にできてしまうため、各行政機関で事実上の「永久保存」になっている文書がかなりの量存在することがわかっている。
例えば、宮内庁では明治時代の文書までが「現在使用している文書」として庁内に留め置かれている。

まずでは「延長しなければならない」場合を列挙してある。これは情報公開法施行令第16条第6項に書かれているものをそのまま写してあるだけ。
要するに係争中(裁判とか)である文書は延長して保管せよということである。

そしてでは延長するための手続きを書いている。この部分が今回の施行令で一番驚いた部分。

「保存期間が満了した行政文書ファイル等について、職務の遂行上必要があると認めるときには、一定の期間を定めて当該保存期間を延長することができる。この場合において、行政機関の長は、当該延長後の期間及び当該延長の理由を、法第9条第1項の規定に基づき、内閣総理大臣に報告しなければならない。

さらに3では「第9-2の期間は、その必要性を検討し、必要最小限のものとすること。とクギが刺さっている。

公文書管理法第5条第4項では「延長することができる」というだけが書いてあって、特にその延長に「内閣総理大臣の報告が必要」とは書かれていない。
だが、廃棄には内閣総理大臣の同意が必要になった(第8条第2項)ため、「廃棄」と「延長」の手続きの整合性を取る必要が出たのだろう。
そのため、施行令で「延長」も「内閣総理大臣への報告義務」を課されることになった。

これは歴史研究者にとって非常に大きい。
なぜなら、情報公開法で現役の文書を請求する時と、公文書館に移管されて歴史資料になった文書とでは公開基準が違うからだ。
情報公開法での情報不開示の基準は、歴史資料における不開示の基準よりも遙かに厳しい。特に公安・外交関係の情報の開示基準には相当に差がある。
そのため、公文書館に移管すれば全面開示されるようなものも、情報公開では開示されないケースがある。

今回のこの条文は、延長するためには相応の理由を第3者に説明する義務を課すことになる。つまり安直な延長は認められなくなるということである。
これによって、古い文書の公文書館への移管が進むかもしれない。

また、各行政機関への説明資料である資料4の別表2には次のような文面が含まれている。

「昭和27年度までに作成・取得された文書については、日本国との平和条約(昭和27年条約第6号。いわゆる「サンフランシスコ平和条約」)公布までに作成・取得された文書であることから〔中略〕原則として移管するものとする。」(資料4別表2、69頁)

つまりこれによって、1952年(昭和27年)以前の文書は原則移管とすることとなる。
これは、永久保存文書化を防ぐと同時に、「廃棄」を止めるためのものであると思われる。
現在各行政機関で保管されている1952年以前の文書は全て重要文書と見なすというものであり、各行政機関が都合が悪いからといって機関内に隠してきた文書であったとしても、それを勝手に捨てることは許されないということである。


上記してきた8と9は、今回の施行令の中核の部分にあたるところである。
私見では、この部分で何か骨抜きにされるようなことはなされていないようなので、今のところ内閣府公文書管理課は頑張って仕事をしていると評価できるように思う。

なお、もし他の部分で施行令について不明点などありましたら、コメント欄でもツイッターでも質問してくだされば、できるかぎりお答えいたします。

次回は各行政機関に出されたガイドラインについて書いてみます。

追記(7/26)
施行令の全文解説については、施行令の原案が出たときに改めて解説しようかと思います。
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コメント 2

hirajimukann

ツイッターでの紹介ありがとうございます。おかげさまでアクセスが伸びております。ガイドライン連載は一応書き終わりましたので(下)をお待ちしております。
歴史公文書の部分については現役公務員としてはあまり関心のない部分で拙ブログでは全く触れていませんが、管理上の取り扱いが異なるとなると、扱っている文書が歴史公文書に該当するかもしれないという問題意識を個々の職員が持つ(多くの公務員はそんな大それたことをやっていると思っていないので、そうでないと検討もされずに通常文書となる)とともに、どんな文書が歴史公文書に該当するのかが誰が判断しても同じ答えが出るようなレベルで基準が設けられる必要があると思います。
by hirajimukann (2010-07-24 01:20) 

瀬畑 源(せばた はじめ)

> hirajimukann さま

いつもありがとうございます。(下)の方は週末にでも書く予定です。

「どんな文書が歴史公文書に該当するのかが誰が判断しても同じ答えが出るようなレベルで基準が設けられる必要がある」というのが、実はものすごく難しいんですよね。
後世になっていきなり重要な意味をもつ文書もあったりするので(年金台帳がまさしく典型例だと思いますが)。

さしあたりは資料4別表2の移管するか否かを類型化した表は意味があるのかなと思っています。
最終的には、廃棄するか移管するかの権限を専門的なアーキビストが受け持つという体制になっていくということが望ましいとは思うのですが・・・
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2010-07-24 01:38) 

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