SSブログ

公文書管理法制定にともなうセミナー [2010年公文書管理問題]

2月5日に全史料協が行った「公文書管理法制定にともなうセミナー」に参加してきました。
最近博論ばっかりでしたので、久々にきちんと公文書管理問題の勉強をした気がします。

演題は以下の3つ。

「地方公文書館設置に向けた現状と課題―全国調査から見えてくるもの―」
富田健司氏(芳賀町総合情報館、全史料協調査・研究委員会委員)

「公文書管理法の制定と地方自治体の公文書管理」
益田宏明氏(『行政文書管理』編集者)

「公文書管理条例と公文書館設置条例」
早川和宏氏(大宮法科大学院大学准教授、全史料協調査・研究委員会委員)



富田さんは、全史料協が各地方自治体に行った、公文書管理法制定後の対応の調査結果について報告された。
この報告はデータを提示しないと感想が書きにくいので、気になったものを少しだけ挙げておきます(要約)。

・文書管理例規の中に、保存期間満了文書から重要な公文書等を保存する何らかの規定はありますか。
 市町村 ある 386(39.8%)  ない 577(59.5%)
 都道府県 ある 27(73%)  ない 10(27%)

→この数字を多いと考えるべきか、少ないと考えるべきか、何とも言いにくい。ただ、都道府県レベルで10県が重要な公文書を保存する規定がないというのはいかがなものかと思う。

・公文書管理法が成立したことを庁内関係部署に周知していますか。
 市町村 している 154(15.9%)  していない 811(83.6%)
 都道府県 している 10(27.0%)  していない 27(73.0%)

→やはりまだ「自分たちの問題」として認識されていないということなんだなあと思う。

・公文書館機能を整備することについて検討していますか。
 市町村 既に整備 31(3.2%)  検討している 76(7.8%)  検討していない 857(88.4%)
 都道府県 既に整備 26(70.3%)  検討している 6(16.2%)  検討していない 5(13.5%)

都道府県でまだ検討していない県が5県あるのはどうなんだろう・・・。

他にも非常に興味深いデータが多くあった。
富田さんはアンケート結果を年度内に全史料協のHP上に上げると話されていたが、これは貴重なデータなので一日でも早くネットに上げていただければと思う。


益田さんは、これまでの地方公共団体での文書管理の簡単な歴史と現況、適正な文書管理への提言を報告された。
一番初めに衝撃だったのが、文書を体系的に整理保管廃棄する「ファイリング・システム」が昭和の大合併の後から全国の自治体に導入されていったが、結局はシステムが各地で崩壊して使い物にならなくなっていたということである。
自治省の調査によると、1969年に全国で924の自治体がファイリングシステムを実施していたが、1982年に346までその数が減っていたとのことである。
これから得られる教訓は、やはりいくら公文書管理の新しいシステムを入れても、機能させる努力をし続けなければ制度が空洞化するということである。

これ以外には、私の問題意識と関係するのだが、「ファイル名の付け方」に力点を置いて話されていたことが印象に残った。
益田さんの言葉を借りると、「検索するのは「文書」であり「ファイル」ではない」ということである。
そのため、実際に「文書」を探すのであれば、そもそも目録をファイル単位ではなく「文書単位」で作らなければならない。
これが煩雑で厳しいというのであれば、ファイル名を「具体的・限定的・明確」に付けなければ、結局は目録自体が意味をなさないのである。

これらは全くもって同感である。
他にも、管理表の作り方など、現場を知らない私には色々と参考になる点が多かった。


早川さんは公文書管理条例の制定の必要性についての報告をされた。
現在、地方自治体で条例を持っているのは、熊本県宇土市、北海道ニセコ町、大阪市の3つのみである。他は、公文書管理については規則などの行政内部での規定にとどまっている。

ではなぜ「条例」にしなければならないか。
それは、「公文書は国民・住民のものである」ということを明確にするために必要だという。

行政内の規則では、あくまでも公文書管理は行政の事務の効率化などにしか対応していない。つまり、「内向き」の論理でしか公文書管理がなされていないのである。
一方、現在まで作られた3つの条例には、目的に市(町)が保有する情報は「市民(町民)の財産」と明記されている(公文書管理法にも「国民共有の知的資源」という言い方で、同様の規定がされている)。
つまり、公文書は「市民のもの」であることを、行政官にきちんと認識させることができるようになるのである。

もちろん、条例の制定は、行政官の心構えへの影響という問題だけではない。
条例に公文書の一元管理などを組み込んでいけば、作成や廃棄がずさんであった場合に違法性を問うことも可能になる。
内規はあくまでも「決まり事」のレベルでしかなく、それを守らないことがただちに違法になるわけではない。一方条例はそれを破れば明確に「違法」である。

内規であれば、住民からの監視を受けずに済む。
でも「条例」になればそうはいかない。だからこそ「条例」の制定は必要なのだ。

これらの話を聞いていて、条例の必要性が非常によくわかった。
要するに、国の公文書管理が各省庁の内規だけではまともに機能しなかったために公文書管理法という「義務」が必要になったように、地方でも同様のことが必要だということなのだ。

今回のシンポの話を聞いていて、これからどのように公文書管理法の効力を地方に波及させていけば良いのかというヒントを色々と得たように思う。

その後の懇親会では、これまで名前だけは知っていたがお会いしたことがなかった方と色々とご挨拶をすることができた。
シンポの最後で私に話が振られたので、思わず以前にブログで書いた「既存の公文書館が自分たちの情報を発信できていないのではないか」ということを各地の公文書館関係者がいる前でぶちまけてしまったところ、かなり衝撃を与えたようで、懇親会の席で色々な方から事情をうかがった。

私の勝手な願いなのだが、「既存の公文書館には模範になってほしい」のだ。
できるかぎり多くのモデルケースをネットなりに上げて、各地の心ある自治体の職員の方の模範になってほしいのだ。


大変なのは重々承知ではあるのですが、公文書管理法が施行される今こそ、公文書館の地位を向上させるための努力が求められていると思います。
私もこのブログを通じて、微力ながら支援していきたいと考えています。
nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 2

まっちゃん

大阪市も条例こそありますが、歴史的公文書にそくした公開基準が定められていませんので、市民の財産としての活用が進んでいません。また、公文書館運営事業が昨年市の実施した事業仕分けの対象となるように、市がきちんと公文書館機能の意義を認めているか疑わしいと思っていたら、つい先日次年度の配置職員削減方針も発表されたところです。
さて、大阪の公文書館問題を発信しようとした際に、ブログがよいのかwikiがよいのか、少し迷いました。さしあたって時系列よりテーマにそって記事をまとめることが多いかなと、wikiを選んだ次第です。ただ、wikiはゲームの攻略など、相当程度関心のある作成者・閲覧者層が互いに頻繁な更新を了解した仕組みのようで、ブログほど懇切な更新の配信機能が備わってません。弊サイトも少しずつ更新してますが、各ブログで取り上げられた日でもなければ、閲覧者は伸びにくいというところでしょうか。というわけで、本サイト更新部分への誘導や速報配信などを目的としてtwitterを始めてみました。@archives_osk(本コメントのURL部分)です。これとて一瞬でタイムラインの彼方に押し流される可能性もありますが、RSSもちゃんとあるので補完できないものかとビギナーなりに試行錯誤中です。少々宣伝じみて恐縮ですが、情報発信に関わる問題との関係もあってコメントさせていただきました。
瀬畑さん。博論で大変な時期かと存じます。ご健闘を祈りつつ、ご自愛のほどお祈り申しあげます。
by まっちゃん (2010-02-08 01:49) 

h-sebata

> まっちゃんさま

お世話になっております。
大阪市は確かに条例はあるけれども・・・というところですね。
私自身、まだ条例比較とかをきちんとやっていないので、どこかできちんと分析して取り上げなければとは思っているのですが。

twitter設置など色々と試行錯誤されているご様子。
ブログは時系列に書くことには適していますが、過去の記事は結局埋もれていってしまうことが多いので、この問題に関してはwikiを選んで正解なように思います。

なにごとも立ち上げたときは大変ですが、継続して行くことが結局はアクセスをのばすことにもつながると思っています。
是非とも頑張っていただければと思います。
by h-sebata (2010-02-08 19:49) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。