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【連載】公文書管理法修正案の解説(第3回)附帯決議、積み残された課題 [【連載】公文書管理法案を読む]

第1回→こちら
第2回→こちら

6月11日に公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)が衆議院を通過しました。
法案についての解説はすでに以前の連載(全八回+補遺三回)でやっておりますが、今回は修正された部分の解説をしたいと思います。
2回かけて修正案の解説、あと1回で附帯決議の内容について解説します。

修正案の比較表→こちら

第3回 附帯決議、積み残された課題

まず「附帯決議」とは何かということですが、Yahoo!「みんなの政治」によれば

議決された法案や予算案の、運用上の努力目標や注意事項などを盛り込んだ決議。 政府提出法案または与党側の議員提出法案に、野党側が求める付帯決議が付く場合がある。ただし、付帯決議には法的拘束力がないため、行政に対し法律の運用面での配慮を求めるに過ぎないとされる。」

拘束力はないが、これを元にして自らの主張を正当化できるので、思ったよりも意味があると思う。

それでは附帯決議について述べていきます。


公文書等の管理に関する法律案に対する附帯決議

 政府は、本法の施行に当たっては、次の諸点について適切な措置を講ずべきである。

一 公文書管理の改革は究極の行政改革であるとの認識のもと、公文書管理の適正な運用を着実に実施していくこと。

→「行革の一環」であることを明示したもの。

二 公文書等の管理に関する施策を総合的かつ一体的に推進するための公文書管理担当機関の在り方について検討を行うこと。

→民主党が政権を取ったならば、これを根拠として公文書管理庁の設立を呼びかけることができそう。

三 行政文書の管理が適正に行われることを確保するため、一定の期間が経過した行政文書に関しその保存期間満了前に一括して保管等の管理を行う制度(いわゆる中間書庫の制度)を各行政機関に導入することについて検討を行うこと。

→「中間書庫」の制度を作るよう求めているが、「各行政機関に」という点でやや不満あり。国立公文書館が管轄する集中管理制度にはまだほど遠い。

四 国民に対する説明責任を果たすため、行政の文書主義の徹底をはかるという本法の趣旨にかんがみ、軽微性を理由とした恣意的な運用のなされることのないよう、万全を期すること。

→第4条関係。「処理に係る事案が軽微である場合を除き」との文面が残ったため、その「軽微」が恣意的な拡大解釈がなされないようにするということ。

五 公文書管理と情報公開が車の両輪関係にあるものであることを踏まえ、両者の適切な連携が確保されるよう万全を期すること。

→公文書管理は内閣府、情報公開は総務省担当でもあることも注意。万全を期してほしい。

六 公文書の適正な管理が、国民主権の観点から極めて重要であることにかんがみ、公文書管理に関する職員の意識改革及び能力向上のための研修並びに専門職員の育成を計画的に実施すること。また、必要な人員、施設及び予算を適正に確保すること。

→研修の充実は第33条が入ったので良し。重要なのは最後の「人員、施設及び予算」。これがないとこの制度は動かない。

七 既に民営化された行政機関や独立行政法人等が保有する歴史資料として重要な文書について、適切に国立公文書館等に移管されるよう積極的に対応すること。

→JRやNTT、JTなどが持っているはずの行政機関時代の文書の回収ということになる。自主的に持ってきてもらう以外には無理なので説得が必要。重要なことである。

八 国立公文書館等へ移管された特定歴史公文書等に対する利用制限については、利用制限は原則として三十年を超えないものとすべきとする「三十年原則」等の国際的動向・慣行を踏まえ、必要最小限のものとすること。

→これが入ったのは意外。「三十年原則」とはICA(国際文書館評議会)が1968年に決議した「マドリッド原則」というもので、国際的にはこのルールが適用されていることが多い。むやみやたらな長期的な利用制限はできる限り避けるべきという主張をするには都合の良い項目。

九 本法に基づく政令等の制定・改廃の過程及び公文書の管理・利活用に関して、十分に公開し、多くの専門的知見及び国民の意見が取り入れられる機会を設けること。

→この法律に関する手続きができる限り透明度の高いものになることを期待。

十 特定歴史公文書等の利用請求及びその取扱いにおける除外規定である本法第十六条に規定する「行政機関の長が認めることにつき相当の理由」の有無の判断に関しては、恣意性を拝し、客観性を担保する方策を検討すること。

→これについては、衆院では全く審議されていないので不安が大きい。「意見書」をどのように国立公文書館側が判断をするのか、また外務省外交史料館や宮内庁書陵部は内部部局からの「意見書」を鵜呑みにするのではないか、などはきちんと詰める必要がある。(詳しくは下記にて)

十一 特定歴史公文書等の適切なデジタルアーカイブ化を推進し、一般の利用を推進すること。

→アジア歴史資料センターの資料の強化を図るということだと思う。現在は国立公文書館、外交史料館、防衛省防衛研究所図書館の旧陸海軍資料に限られているが、是非宮内庁書陵部の資料もデジタルアーカイブに加えてほしいと思う。

十二 公文書の電子化の在り方を含め、電子公文書の長期保存のための十分な検討を行うこと。

→電子化は、フォーマットを何で統一するかによって、その後の見読性が問われることになる。
例えば、昔のワープロ専用機で作られた文書を現在のパソコンで読みこむには、コンバーターなどのソフトが必要になる(また、表などはそれでもうまく表示できない)。
今はWordが主流でも、マイクロソフトが永久に滅びないとは限らないわけで、どう保存し、利用可能にしておくかは、意外と難しい課題である。

十三 刑事訴訟に関する書類については、本法の規定の適用の在り方を引き続き検討すること。

→民事訴訟関係の書類は国立公文書館に移管されたが、刑事の方はまだ裁判所に残っている。有名な物としては2・26事件の時の記録とか。これらを自由に見れるようにするためには、個人情報をどうするかなど色々と検討する必要がある。

十四 一部の地方公共団体において公文書館と公立図書館との併設を行っていることを踏まえ、これを可能とするための支援を検討すること。

→地方への支援ということはよいのだが、公文書館と図書館を併設することを例に出したのはどうなんだろう?公文書館と図書館は機能が全然違うので、本来ならば一緒にするべきではないと思うのだが。まあ、公文書館を新設するのはお金がないから、まずは併設という形でということなんだろうが、文書保存の仕方とか考えても、図書の扱いとは別物だと思うのだが。

十五 宮内庁書陵部及び外務省外交史料館においても、公文書等について国立公文書館と共通のルールで適切な保存、利活用が行われるよう本法の趣旨を徹底すること。

→ちゃんと入れてくれた。書陵部と外交が置いていかれないように、是非とも国立公文書館とのルールの共通化に努めてほしい。


さて、衆議院での修正は、法案の問題の多くを解決できたと思う。また、附帯決議でもかなり重要なものが入ったので、かなり満足度の高い物になった。

だが、衆院では、官僚達による作為的な文面を変えるために、「行政文書とはそもそも何だ」というレベルから議論せざるを得なかったので、「歴史公文書」の話が全くされていない。
これについて、以下の点はきちんと詰めておく必要がある。

1.外交情報や公安情報を、移管元の行政機関が非開示にしたいときに「意見書」を提出することができることについて。(第8条第3項、第16条第1項・第2項、第18条第3項)

手続きとしては、

移管元の行政機関が意見書を提出
  ↓
国立公文書館等が「参酌」して公開非公開を決定


ということになっているわけだが、この「参酌」の手続きの内容が全く審議されていない。これが、移管元との「協議」という意味であったら大問題。移管元の非公開要求を跳ね返す論理を構築するだけでも結構大変なのに、それが「協議」ということになれば、もっと移管元の意見が強くなる。

国会では増原義剛内閣府副大臣が答弁で

「特に、外交とか犯罪とか、将来予測等の専門的、技術的な判断、こういったものが必要になってくるということになりますと、やはり現在の情報公開法と同様に、これらに知見のある行政機関の長の第一義的な判断を重視するという規定ぶりとしたところであります。」(衆院内閣委5月27日、西村智奈美議員への答弁)

と述べているように、政府官僚側は移管元の意見を「重視」すべきだとの認識があるように思う。
この手続きはきちんとしておかなければならない。また、外務省外交史料館や宮内庁書陵部では、内部から内部への「意見書」提出になるわけだから、その「意見書」に逆らえないことは必定。客観性を持たせるための外部有識者の導入などが必要だと思う。

この点は法の修正無しに十分可能なことなので、紛れのない用にきちんと国会審議で詰めてほしい。


2.外務省外交史料館と宮内庁書陵部の拡充問題

国立公文書館の拡充は衆院でも問題になっていたが、残りの2つについてはあまり配慮がされていなかったように思う。
この2つの部局は、各省庁内の一部局に過ぎないので、行政改革基本法の影響をもろにかぶる。つまり、各省庁には定数削減のノルマが課されているので、この二部局の人数を増やそうと思ったら、他部局に削減人数を押しつけるだけでなく、人員を奪ってこなければならないという困難を抱えることになる。

おそらくこれは政治判断でどうにかするしかないと思う。本来なら、やはりこの二部局を国立公文書館の分館として各省庁から切り離すべきだと思うのだが。

とりあえずは以上です。参議院の審議は、16日にお経読み(法案読み上げ)、19日に審議採決(一日しかない!)の予定らしいです。

追記 審議は23日(火)に5時間の審議を行って、そこで採決ということだそうです。

追加することがあれば、また書きます。あともう少しです。もっと良いものになることを望みます。
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コメント 2

カロン

 公文書法改正に関して、資料を探していました。
詳細は自分で詰めるつもりでしたが、きっかけに記事で勉強させていただきます。

私個人は、情報公開を民主主義のキモとしている立場で、公文書法は、主権在民のために・民主主義のために・・・重要な市民の権利維持・権力暴走の静止手段だと思っています。
 まだ勉強中ですが、今後、リンクなどお世話になるかもしれませんので、よろしくお願いします。

 ちなみに、私は、小平キャンパス組です。(謎)

by カロン (2009-06-24 19:37) 

h-sebata

> カロンさん

どうもコメントありがとうございます。私も同様に感じております。
今後ともよろしくお願いいたします。

小平キャンパス組ですか・・・。近くでお会いしてるかもしれませんね(笑)
by h-sebata (2009-06-25 14:01) 

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