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【連載】公文書管理法修正案の解説(第2回)第7条~最後まで [【連載】公文書管理法案を読む]

第1回→こちら

6月11日に公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)が衆議院を通過しました。
法案についての解説はすでに以前の連載(全八回+補遺三回)でやっておりますが、今回は修正された部分の解説をしたいと思います。
2回かけて修正案の解説、あと1回で附帯決議の内容について解説します。

修正案の比較表→こちら

第2回 第7条~最後まで

それでは、第7条(行政文書ファイル管理簿)について。
第1項はそのままなので省略し、第2項が付け足されました。

2 行政機関の長は、行政文書ファイル管理簿について、政令で定めるところにより、当該行政機関の事務所に備えて一般の閲覧に供するとともに、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により公表しなければならない。

この文章は附則の第5条にあったものである。つまり、情報公開法の改正案にあった文面である。
少々わかりにくいのだが、これを情報公開法から公文書管理法に持ってきた理由は、おそらく行政文書ファイル管理簿に関する業務の責任を、総務省から内閣府に持ってきたということだと思われる。
情報公開法の管轄は総務省が行っており、おそらく今回の公文書管理法ができても、そこは変わらないと思われる。ただ、その下で行われていた管理簿の内容は、ずさんきわまりない物だった。
だから、内閣府に持っていって、その改善を目指し、公文書管理の一元化を行ったということなんだろう。
ちょっとこの部分の解釈は自信がない。内閣委の議論でもあまりきちんとされていなかったので。


次に第8条(移管又は廃棄)について。第2項が第3項に移動し、第2項と4項が加わった。
加わった所だけ引用します。

2 行政機関(会計検査院を除く、以下この項、第四項、次条第三項、第十条第三項、第三十条及び第三十一条において同じ。)の長は、前項の規定により、保存期間が満了した行政文書ファイル等を廃棄しようとするときは、あらかじめ、内閣総理大臣の協議し、その同意を得なければならない。この場合において、内閣総理大臣の同意が得られないときは、当該行政機関の長は、当該行政文書ファイル等について、新たに保存期間及び保存期間の満了する日を設定しなければならない。

4 内閣総理大臣は、行政文書ファイル等について特に保存の必要があると認める場合には、当該行政文書ファイル等を保存する行政機関の長に対し、当該行政文書ファイル等について、廃棄の措置をとらないように求めることができる。


この部分は、文書作成の第4条の次に重要な修正。
法案の解説の際に書いたが、当初の文面は「行政機関の長」のみの判断によって移管廃棄ができるというものだったため、これは有識者会議の最終報告を無視した極めて不当な文面であることを指摘した。
このままでは、以前と変わらず「移管・廃棄」を行政機関の長が勝手に行えることになり、まともに歴史公文書が残らなくなる。まさにこの部分が修正されるかは、今後の公文書管理行政にとった非常に大きな点であった。

そして、今回の修正は、文書の廃棄の際には「内閣総理大臣」の同意が必要となった。これは、要するに内閣府の公文書管理課及びそこと強く結びついている国立公文書館の同意が事実上必要になるということを意味している。
また、内閣府の方から、重要な文書については廃棄しない要求をすることができるという一文も入った。これは国家的な大プロジェクト(例えばオリンピックとか先進国首脳会議(サミット)といったもの)に関して系統的に文書を残すことも可能になるということである。
これらは非常に大きな改正である。

この文面については、「まだ行政機関の長が第一義的には廃棄するか否かの判断をしているではないか」と言われる方もおられるかもしれない。
もちろん、米国のように、廃棄する判断を一から国立公文書館ができれば理想ではあろう。だが、今の国立公文書館の職員数(42人)ではそれは不可能である。

以前に、広島大学文書館の小池聖一館長が廃棄の方法について話していたことをブログに書いたが、おそらく現状では、第一義的な廃棄判断は各省庁にさせ、それをチェックする所に重点を置く以外には、廃棄業務を効率的にかつ有効的に行う方法は無いと思われる。

問題は、そのチェックがどれだけ機能するかという点、つまり「運用」の問題にかかってくる。
そのためにも、この法案が施行されることになる2011年4月までに、急速に国立公文書館の職員を増やし、判断のできる職員を各省庁にも養成しなければならない。
今すぐ取りかかれば、1年以上の時間がある。是非とも、お金の投入と人材の登用をはかる手段を考えてほしいと思う。


次に、第29条(委員会への諮問)について。
文面を引用しても何だかさっぱりわからないものなので、解説だけ付けます。

第29条は公文書管理委員会に諮問しなければならない事項が挙がっている。例えば、公文書管理法の施行令にあたる政令を作る時にその文面を諮問することなどがそれにあたる。
今回の修正で、新たに、各行政機関や独法、国立公文書館等が規則を定める際には、内閣総理大臣が公文書管理委員会に諮問した上で同意をしなければならなくなった(第10、13、27条関係)。
これまではただ「内閣総理大臣の同意」だけだったが、それだけでは各行政機関の規則の共通化は果たせないのではないかという疑問が挙がっていたので、委員会への諮問を必要とすることで、より共通化への道を開いたということになるのだろう。
細かい話ではあるが、これも紛れを減らしたということだと思う。


次に第32条と第33条として新たに加えられたものについて。
長いですが、文面を引いておきます。まずは第32条(研修)。

第三十二条
 行政機関の長及び独立行政法人等は、それぞれ、当該行政機関又は当該独立行政法人等の職員に対し、公文書等の管理を適正かつ効果的に行うために必要な知識及び技能を習得させ、及び向上させるために必要な研修を行うものとする。

2 国立公文書館は、行政機関及び独立行政法人等の職員に対し、歴史公文書等の適切な保存及び移管を確保するために必要な知識及び技能を習得させ、及び向上させるために必要な研修を行うものとする。


これは、研修をしっかりやりましょうという文章。
この法律は、結局のところどこまで「実効性」を確保できるかがカギとなる。そのため、この一文が入ることで、各省庁も研修を義務づけられるし、また予算も取りやすくなると思う。その意味では、なかなか味な条文を入れてくれたと思う。
また、重要なのは2で、「歴史公文書等」の扱い方も「行政機関・独法の職員」に教えるという点である。つまり、現役で文書を扱っている人達にも歴史公文書の研修を行うことで、どのように「残す」かの視点を入れた文書作成のやり方を学ばせるということを意図している。

是非とも、この研修の徹底化を図ってほしい。
特に「新人」の教育は重要である。新人に今回の法律に基づいた文書作成の方法を叩き込めば、次第にその文化は根付いていくはずである。新人研修には特に力を入れてほしいと思う。


次に、第33条(組織の見直しに伴う行政文書等の適正な管理のための措置)について。

第三十三条
 行政機関の長は、当該行政機関について統合、廃止等の見直しが行われる場合には、その管理する行政文書について、統合、廃止等の組織の見直しの後においてこの法律の規定に準じた適正な管理が行われることが確保されるよう必要な措置を講じなければならない。

2 独立行政法人等は、当該独立行政法人等について民営化等の組織の見直しが行われる場合には、その管理する法人文書について、民営化等の組織の見直しの後においてこの法律の規定に準じた適正な管理が行われることが確保されるよう必要な措置を講じなければならない。


この文もよくぞ入れてくれたというもの。
廃止機関(例えば国鉄(現JR)や電電公社(現NTT))の公文書は、これまで全く保存の手段を取られていなかったため、民営化と同時に、これらの機関が持っている文書は「私文書」となってしまい、公的機関時代の文書を国民が閲覧できる手段を失ってしまった。
この条文は、民営化したり廃止したりした機関も、その公的機関時代に作られた文書を、その後もきちんと管理(要するに公開・保存・移管などを行政機関に準じて行う)しなければならないというものである。

すぐに想定されるのは、民営化の可能性が強い日本郵政公社が挙げられる。
郵政公社はもちろん、明治期から現在までずっと行政機関であり、現在でも公社化しても情報公開法の対象の中にまだ入っている(当然、公文書管理法の対象の中にある)。
この条文が入ったことで、例え民営化された場合でも、それまでの文書を「私文書」扱いとして勝手に処分したり、非公開にしたりできなくなる。
非常に大きい条文が入ったと思う。


最後に、附則の第13条(検討)について。

附則 第十三条
 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況を勘案しつつ、行政文書及び法人文書の範囲その他の事項について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

2 国会及び裁判所の文書の管理の在り方については、この法律の趣旨、国会及び裁判所の地位及び権能等を踏まえ、検討が行われるものとする。


第一項は5年後に法を見直すということである。
これは重要な項目ではあるが、一方、情報公開法で起きたことをきちんと反省しなければならない。

情報公開法にも4年後の見直しという附則がきちんと入っていた。しかし、情報公開法の制定を求めていた多くの団体が、この見直しの時にはほとんど運動を起こさなかった。
そして、有識者の検討が行われた結果、問題がたくさん起きていたにも拘わらず、「まだ情報公開法の主旨が徹底されてないから問題なのだ」というように意見をすりかえられ、コピー料金が20円から10円になったという点を除いては、全く有効な改正をなしえなかった。

いまから考えてみると、情報公開法施行四年目の時に起きていた問題の多くは、公文書管理法がないが故に起きていたことだった。(例えば、文書開示が遅れるとかいったことは、行政機関の文書管理がずさんだったからである。)
あの時に、公文書管理法を作らなければダメなんだということをきちんと問題化できていれば、この法案はもっと前に提示できていたかもしれないのだ。

だから、この五年で見直しという文面が入った以上、きちんと公文書管理法が機能しているのかを見定めた上で、よりよい改正を行うような運動を行うことが必要になるだろう。そのためにも、施行後の問題もフォローする必要がある。

何度も書いているが、この法律はできたら終わりではなく、むしろできたところが「スタートライン」である。
是非とも、施行後の動きにも注目をし続けてほしいと思う。
私自身も、このブログで引き続き、この問題を取り上げ続けようと考えている。

次に第二項についてであるが、これは国会と裁判所にある公文書管理をきちんと検討しなさいということである。
この一文が入ったことで、国会と裁判所が各自で研究をすることになるだろう。

特に、私が注目しているのは国会の方である。
国会は「立法府」として、法律の作成に関わっているところである。だからこそ、ここで作られている文書もきちんと保存され公開されるべきである。

だが、ここの文書をどこまで「公文書」と呼べるかは、実は行政機関ほど簡単ではない。
例えば、「議員立法」をしたときに、その議員が立法までに作成した文書は果たして「公文書」になるのだろうか。
これが「閣法」だったら、官僚達が作成しているので間違いなく「公文書」になる。
そう考えてみると、各議員が自分の事務所で作成している文書が「公文書」となる可能性が出るということになるのだ。

これはなかなか分類することが簡単ではない。
だが、行政機関に公文書を残すことを課した以上、自らの襟を国会議員達は正してほしいと思う。是非とも議長の下にでも検討する機関を設け、地道に議論を続けてほしいと願っている。
今回の法案化に関わった議員達は、是非ともこの点も忘れずにやってほしいと願っている。

以上で修正案の解説は終わり。次回は衆議院の附帯決議の内容についてと残された課題について解説します。
第3回→こちら
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