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祖父の死 [雑感]

私的なことはあまり書かないことにしているが書き残しておきたくなった。

昨日、父方の祖父が死去したという連絡が実家から入った。88才。数年前からほとんど寝たきりになっていたので、大往生だったと思う。

祖父は北関東のある町で個人経営の眼鏡屋をしていた。戦前に中学校まで出たのだが、八人兄弟の長男なので実家を継ぐことになり、その先の進学を断念し、以来長い間ひたすらに職人として働き続けてきた。

(追記 あとから聞いてみたところ、高等小学校卒だったけど、どうしても勉強したかったから、図書館とかで独学で勉強して「専門学校入学者検定」(中学卒業と同等と認定される試験)を通ったということだったらしい。
でもこの「専検」も簡単には受からなかったらしいから、丁稚奉公しながら取得するのはものすごい努力が必要だっただろう。)

私は博士課程に上がった頃だったと思うが、自分の研究している天皇制について、祖父母が同時代的に何を考えていたのかを聞きたいと思って話を聞きに行ったことがある。だが、これについては何を話したか正直言ってあまり内容を覚えていない。
むしろ覚えているのは、祖父がどのような人生を歩んできたのかという話だった。
それからまもなくして祖父は倒れてしまい、あまり自由には話せなくなってしまった。まさに最後のタイミングだったと思う。録音しておけば良かったと後悔している。

祖父の実家は、元々宝石の飾り職人をしている店だった。なぜそれを始めたのかまでは聞いていない。
祖父は実家を継ぐことになった時に、丁稚奉公として銀座の服部時計店に修行に出されたらしい。(正確には、最初は叔父が働いていた浅草の飾り職人の家で修行したらしい。その後に服部に行ったということか?)
しかし、修行しているうちに日中戦争が始まり、次第に「贅沢禁止」という流れができあがっていた。
祖父はしばらくは飾り職人の修行をしていたらしいが、それでは食えなくなると思い、眼鏡を作る技術を学んだ。そして、飾り職人兼眼鏡屋となった。

その後、祖父は戦争に召集された。いつされたのかは具体的には聞いていない。
ただ、外地にはいかなかったらしい。「教官」をしていたというから、可能性としては「工兵」だったのかなと思う。
具体的に軍隊の話はあまり聞かなかったが、ただ興味深い話を一つだけしていた。
それは、終戦の年の1945年の春に、召集解除になって帰ってきたという話だ。

当時祖父は土浦あたりの基地にいたらしい(土浦か霞ヶ浦の航空隊か?)。そして、召集の期限がたまたま1945年の春に来たらしい。
普通はそのまま延長になるものなのだが、そこの隊長が「君は長男だろう。だから帰りなさい。」といって解除してくれたというのだ。
ひょっとするともう負けるということを知っていたのかもしれんなあという話をしていたのを思い出す。

その後帰ってきてから、祖父はがむしゃらに働き続けた。二人の子供を育て、孫が五人いる。
私の幼い頃の記憶に残っている祖父は、ずっと研磨機の前に座って黙々と眼鏡を直したりしている後ろ姿だ。
田舎の小さな町の職人であったが、商売上手の祖母に支えられ、地に足をつけた人生をずっと送ってきた。
その長い人生の間にはもちろん苦労もたくさんあっただろう。そのあたりは全く話を聞かなかった。あまり弱音を吐くような人でもなかった。

祖父は特に何か歴史に名が残るようなことをした人ではなかった。でも尊敬に値する人だった。
歴史研究者はどうしても、歴史的に何か重要なことをやった人を取り上げる傾向がある。もちろんそれは天皇研究をしている私も例外ではない。

祖父が私の研究について何かを話していた記憶はない。ただ頑張れと言われていただけだ。
このような研究をしている私を祖父はどう感じていたのだろう。もっと地に足をつけて生活しろと思っていただろうか。
今となってはわからない。
ただ、私の理詰めで物を考える性格は、間違いなく父方の血を引いたのかなと思っている。

今年の正月に祖父に会ったとき、祖父は妹が結婚するという話を聞いて泣いた。
人前で泣くような人では全くなかったから、そろそろ危ないのかもしれないとは思っていた。

こういう文章をブログという媒体で書くこと自体、祖父は笑うかもしれないと思う。
ただ、孫の一人として、何かを書いておきたかった。
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ダグラスリーフ

御冥福を祈ります。
by ダグラスリーフ (2011-06-16 07:18) 

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