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【連載】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の「最終報告」を読む(下) [【連載】公文書有識者会議]

第1回はこちら
「中間報告」まとめ前編はこちら/後編はこちら

「最終報告」を読む(上)はこちら
「最終報告」を読む(中)はこちら

「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」「最終報告」の解説の(下)です。この有識者会議の連載の最終回(のはず)となります。

今回は、「最終報告」に基づいた法制化が行われる際に注意しておく点を、私なりに記載しておきたいと思います。
なお、私は法律の専門家では全くないので、筋違いなことを書くかもしれませんが、そのあたりはどうかご容赦下さいませ。

中編と同様に箇条書きの項目を立てます。

1.公文書の定義について

「公文書」の定義については、実は「最終報告」ではあまりきちんと書かれていない。
有識者会議の初めの頃には結構議論されていたのだが、あまり後半に出てこなくなって少し気になっていた。
現在の情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)の第2条第2項には次のように「行政文書」が定義されている。

2  この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
 一  官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
 二  政令で定める公文書館その他の機関において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの


この文章で最も重要なのは、行政文書は「組織的に用いるもの」のみという限定がついていることだ。
これだと、政策立案した時の文書などを「私的なメモ」と分類して勝手に破棄することができるようになってしまう。また、「共有」ということだから、結果的に「決裁文書」のみしか残らずに、なぜそのような政策が行われたのかについては追跡できないのである。

有識者会議の第3回の時に、高橋滋委員が情報公開法の組織共用文書の定義を公文書管理法に適用することに明確に反対していた。
高橋氏はこの時に、「記録保存型文書管理」の視点から文書管理を行うべきだと主張した。
つまり、その「適切な管理保存」とは、、「当該意思決定の存在、過程、経緯を後に合理的に跡付けることができるために最低限度必要となる資料を残す」ということである。→詳しくは私の解説

今回の「最終報告」では、現用の行政文書と公文書館に移管された歴史文書を統一的に管理するということが書かれている。
そのため、情報公開法の定義とは違うものになると期待される。
しかし、もし情報公開法に合わせて公文書管理法ができた場合、この改革は間違いなく骨抜きになる。政策決定過程の文書は残らず、結果的に説明責任を果たすような資料は「公文書」として残らなくなるだろう。この点は最も注意すべき点だと思われる。

2.公文書管理担当機関の権限

今回の改革の中心は、何度も繰り返しになるけど、公文書の移管や廃棄だけでなく、文書作成、保存といった根本の所から公文書管理担当機関が監視・介入できるシステムを作り上げるということに主眼がある。
逆に言うと、この権限が不十分なものになれば、各省庁が都合の良いように文書を作り、改変し、廃棄することができてしまう。

特に重要なのは、「監視」「介入」に法的根拠を定めること、文書移管に強制力を持たせること(場合によっては強制的に押収する権限)、そしてもし違反した場合に罰則を設けることである。
意図的に文書を隠したり廃棄したりするようなことは今後十分に起きうることである。
その際に、きちんと法的な処罰が下されるようでないと抑止効果は生まれない。

会計検査院が各省庁と「なあなあ」な関係になっているような事態が公文書管理担当機関に起きてはならない。公文書管理担当機関と各省庁の間には適度な緊張関係があったほうが良いと思う。
もちろん、対立されると移管が進まなくなるから困るけど、公文書管理担当機関の方が法的に優位である状況は作っておかないと、各省庁は文書移管をサボタージュする可能性はありうるだろう。

3.利用者が不服申し立てが行えるような第三者機関の設立

実際には現行の情報公開・個人情報保護審査会の改変ということになるのかもしれないが、特に国立公文書館や外交史料館、宮内庁書陵部に所蔵されている歴史的公文書の不開示部分に対する不服申し立てができるような制度が必要である。
すでに、前回の中編でも書いているように、各省庁の恣意的な不開示を防ぐためにも、第三者機関で不開示の妥当性を争える場が必要である。

特に、外交や書陵部への不服申し立ても、第三者機関にできるような仕組みは絶対に必要である。
外交と書陵部を国立公文書館と「共通ルール」で運用する仕組みを作り上げることは、「最終報告」の「公文書管理法制に盛り込むことを検討すべき事項について」の中にも記載されている(P25)
是非とも、第三者機関の設立を期待したい。もちろん、外交や書陵部も国立公文書館と同じ扱いをするようにする法的な縛りが必要であることは言うまでもない。

4.国立公文書館等での開示までの期日の限定

これは、有識者会議で議論されていなかったから法的には入ってこない可能性が高いが、個人的には重要だと思っているので書いておきます。
一つめは、国立公文書館が文書移管を受けてから、それをリストに載せて一般公開するまでの期間を法的に限定すること(例えば移管されてから1年以内とか)。
二つめは、要審査(つまり不開示部分が含まれる可能性がある文書)の場合、利用者が請求を出してから開示するまでの期日を法的に限定すること(30日以内に決定を出さなければならないなど)。

一つめは、おそらく法律ができれば国立公文書館への文書移管件数は増えると思われるので、現在のようなリスト掲載のペースを守ってくれるのかに不安があるからである。また、これが法的に書いてあれば、人員の増員などもしやすいだろうという意図もある。
二つめはこちらが最も重要なんだが、私は宮内庁書陵部に請求したある文書が2年経っても出てきていない(審査中と言われて)。また、私の後輩が国立公文書館で「要審査」扱いになっている文書を請求したが、数ヶ月単位で待たされている。
もちろん、すんなり出てくる文書もあるのだが、こういった長期にわたって公開されない文書が出てきている。
そこで、できれば情報公開法の30日ルールのように、原則的に一定の期日内に開示決定をしなければならないような法的規制が必要であると思う。長期にわたる審査は、実質的な不開示に等しいのだ(だいたい研究に関係があるから請求するわけであり、それが1年かからないと出てこないなら研究にならない)。

また、もし不服申し立てを第三者機関にできるようにするのであれば、不服申し立てから答申が出るまでの期間も早くできるような法的規制が必要なように思う。
現行の情報公開法は、不服申し立てを諮問庁(私の場合宮内庁)に行った後、諮問庁が情報公開審査会に案件を持ち込むまでの期間に制限がないため、そこで1年かけたとしても法的には問題なくなっている(私は最長で11ヶ月かけられたことがある)。
不服申し立てを有効に機能させるためにも、是非とも細かい期日設定を法的に組みこむべきだと思う。

5.アーキビスト等の法的位置

これも前回の中編で取り上げた。ただ、公文書管理法の中に位置づけるべきなのかはわからない。
むしろ並行して別の法律(アーキビスト法)みたいなものが必要なのかもしれない。
何れにしろ、公文書管理を担う人材をどう育てるかが今後の制度運用の鍵を握るので、是非とも何らかの支援策は検討されて良いと思う。

6.予算と人員

これは法制化とは関係がない。というよりもむしろその後の話。でも通常国会は予算審議の場なので、公文書管理法案と並行して、国立公文書館などへの予算と人員の配分が行われるのかに注目したい。前年度と同予算であったならば、せっかく法制度ができたとしても、それを運用する人と金がなくて意味が無くなってしまう。
このブログでも繰り返し書いているが、法ができて終わりではない。むしろそこが「始まり」である。お金と人材が今後30年ぐらいのスパンを見て投入される必要性がある。(だからこそ福田は首相であってほしかったわけだが・・・。)

とりあえず、今のところ私が気にしているのは以上の点である。もっと出てくるかもしれないので、その時には追記します。


「公文書の在り方等に関する有識者会議」の動向を追ってすでに半年以上経ちました。
とりあえず、今回でこの連載は終了です。
今後は具体的に国会に法案が上がってから、その審議内容を追っていくということになるのでしょう。
ただ、どこまでリアルタイムで情報が入手できるかは未知数です(私にそこまで情報収集のノウハウがあるか微妙)。

できうる限り、新聞や国立公文書館のHPなどはこまめに見ていくつもりですが、もし法案が提出されたなどという情報があれば、お寄せいただければ幸いです。その際はまたブログで紹介していきたいと思います。

有識者会議が始まったときに、この会議についてネットで発言している人がほとんどいなかったので、自分の頭の整理がてらずっと記事を書いてきました。
そのためか、この会議をググる人が私のブログにたどり着く可能性は高いみたいです。どう書いてもやはり学者の文章になってしまって、読みにくいことしきりだったと思います。辛抱強くここまでお読みいただけたことに感謝いたします。

まだこれで終わりではありません。引き続きこの問題を追い続けていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。
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コメント 2

連載読み終わりました

ご苦労様でした。福田元首相にはこの件についてもうちょっと頑張って欲しかったですね。

連載第11回から、それ以降へのリンクが抜けていますので、加えておくといいのでは?
by 連載読み終わりました (2008-11-22 11:09) 

h-sebata

最後までお読みいただきありがとうございました。
ご指摘ありがとうございました。早速貼っておきました。時々貼り忘れてしまうんですよね・・・
by h-sebata (2008-11-22 15:21) 

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