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陵墓問題と情報公開法 [天皇関係雑感]

先日、ある学会の大会に参加していた所、突然ある女性から「瀬畑さんですよね」と声をかけられた。
その方は1月の歴研総合部会で私の話を聞いていたらしく、一度話がしたいと思っていたとのこと。
近現代史の方かなと思っていたのだが、自己紹介をされて「おっ」と思った。
その方の名前は牧飛鳥さんという「日本古代史」の方だったのだ。

古代史と情報公開法がどう絡むのか。
それは「陵墓問題」=天皇のお墓の問題である。
日本にある多くの古墳は、「陵墓」(天皇・皇族の墓。もしくはその可能性がある=陵墓参考地)とされたものは、発掘調査だけでなく、立ち入り調査のレベルですら、すべて宮内庁によって制限されてきた。
世界最大級の古墳とされる大山古墳(仁徳天皇陵)なども、まともに学術調査すらされていない。
この宮内庁が抱えている陵墓の数は約900件にものぼる。

そのため、1970年代から、歴史学や考古学の各学会の代表者が「陵墓に関する連絡調整会議」を作って、毎年一回、宮内庁の書陵部長(陵墓の担当部局)らとねばり強い交渉を続けてきた。
しかも、頭ごなしに「発掘させろ」と言っても無駄なので、「とにかく立ち入り調査だけでもさせてほしい。皇室の尊厳は冒さないようにするから。」という、宮内庁のプライドを尊重する態度で交渉してきた。
宮内庁側も無下に断れなかったのか、陵墓の補修を行う時に立ち入りを認めたりと、本当に少しずつだが立ち入りを認めてきている。
専門家の域に達すると、立ち入って表面を見るだけでも、色々とわかることがあるらしい。
また、陵墓によっては、明らかに間違った指定をしている所すらあると言われている

まさに、この「亀のような歩み」の相手に対して、ずっと古代史の人達はもどかしい思いを抱えながら、前進を勝ち得てきた。
牧さんは、この「陵墓に関する連絡調整会議」に歴研の代表の一人として参加されていた人だった。

その後、牧さんとやりとりをするうちに、牧さんの夫である後藤真さんという方が、情報公開法で宮内庁の陵墓政策についての請求を行っており、そのことについて文章を書かれているという話を教えてもらった。
そして、わざわざ私に送ってくださった。

その文章とは、後藤真「現用文書よりみた陵墓―情報公開請求による文書の分析を中心に」(『奈良歴史研究』第66号、2006年9月)である。
陵墓問題には興味はあったけれども、あまり実態はよく知らなかったので、非常に面白かった。

後藤氏によれば、宮内庁の陵墓は「書陵部陵墓課」が管理・調査をしている。→宮内庁組織図
そして、具体的な管理は「書陵部」の「陵墓監区事務所」(現地事務所)が行っている。
問題は、そこで行われる「祭祀」は、「式部職」ないし「掌典職」が行っていて、陵墓課はあまり関係していないようなのだ。
「式部職」は儀式を担当する部局で、「掌典職」は実際の儀式を行う部局(憲法の政教分離規程のため天皇の「私的な使用人」という立場になっている)である。
そして、現地で儀式の準備をしているのは「陵墓監区事務所」である。

「陵墓」になぜ考古学者等の立ち入りが許されないのか。
宮内庁の論理によれば、そこが「生きた墓」として、未だに祭祀が行われているからである。
しかし、実際にその「陵墓の本義」である儀式は、式部職・掌典職・監区事務所というラインで行われていて、「陵墓課」は蚊帳の外に置かれている。
だから、「陵墓課」は考古学的な調査を行ってそれを公表しているが、陵墓そのものの「歴史的評価」が下せない。

つまり、考古学上「間違っている」とは言えない。(おそらく「間違っている」所は調査してないということか?←これは私の感想)
だから、陵墓を「守る」こと以外に動けなくなってしまっているのだ。

この後藤氏の解説は、なるほどなと感じるものがある。
宮内庁は典型的な「縦割り組織」であり、またそれぞれの部署のプライドが異様に高い。
これは、現在の雅子妃をめぐる、「長官官房・侍従職VS東宮職」という対立を見ればよくわかることだ。
陵墓問題すらも、この宮内庁の組織的弊害のワリを食っているということみたいなのだ。

本当ならば、実際に埋葬されている人が間違っているなら、それを正すのが筋である。(墓の中の人だって浮かばれない)
でも宮内庁は「儀式をやっている所に魂がある」と言い張って、陵墓の指定の変更をしようとはしない。
その態度は歴代天皇に対して「誠実」であるのだろうか。

結局この陵墓問題を進ませるには、ある程度の発掘調査は必要なはずである。
論争になっている邪馬台国がどこにあるかという話などは、陵墓の発掘でケリが付くんじゃないかと思う。
「生きた墓」の尊厳を守りながら、発掘できる方法は、学者や宮内庁、神社関係者が知恵を出し合えば何とかなるんじゃないかと思う(一時的に墓を移すとか)。

さて、こういった宮内庁内の論理を、情報公開法で引き出したというのは画期的だと思う。
私としては、「こんなところに仲間がいたのか」と感激した。

やはり情報公開法は、近現代史の問題だけではない。他の時代の研究をやっている人にも関係しているのだと感じる。
なかなか手に入りにくい雑誌ではあるのだが、是非ともお手にとって読んでもらいたい文章である。
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コメント 2

前方後円墳

陵墓の問題について質問主意書を2つ提出しました。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/171611.htm
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/171657.htm


by 前方後円墳 (2009-07-12 14:12) 

h-sebata

> 前方後円墳さん

情報提供ありがとうございました。
by h-sebata (2009-07-12 16:13) 

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