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公文書管理法施行1年 [2012年公文書管理問題]

公文書管理法が施行されて今日で1年が経ちました。
施行直前に起こった東日本大震災のために全く目立つことが無く施行され、議事録未作成問題で注目されるというある意味「不幸」な目立ち方をしてしまったようにも思います。
1年経ってみて、良かった点、悪かった点について簡単にまとめてみようかと思います。

○良かった点

1.「議事録未作成」が「問題」となったこと。

あえて「良かった」点として挙げます。
おそらくこの問題は公文書管理法が存在していなければ発覚しなかっただろうし、発覚したとしても「昔からこんなものだった」という話でうやむやで終わっていたはず。
法律に違反しているか否かという点が問われ、曲がりなりにもどう対応するかを公文書管理委員会で話し合うという時点まで至っているのは、公文書管理法があったからこそだと思います。

参考
原子力災害対策本部の議事録未作成問題
議事録未作成問題と「行政文書の範囲」
議事録未作成問題を改めて考える
公文書管理委員会第14回配付資料を読む

2.宮内公文書館などでの公開手続きが明確になったこと

私は宮内公文書館のヘビーユーザーなので、そこを基準として。
これまで開示基準もはっきりとせず、開示までの時間も非常に長くかかっていたが、基準が明確になり(開示箇所が明らかに増えた)、開示までの期日もかなり短縮された。
デジタルカメラでの撮影も許されるようになり、調査が非常に楽になった。

ものすごく私的な理由だが、これだけでも「公文書管理法できて良かった!」と思っている。
ただ、一方で外交史料館などで問題が起きているというのは後記。

参考
宮内公文書館の現状

3.国立公文書館等に対する不服申立が可能となったこと

これまで、国立公文書館等に移管された上で不開示になっている文書についての不服申立は簡単にはいかなかった。
だが、第三者機関の公文書管理委員会に訴えることが可能となった。
どうやら、まだ私と情報公開クリアリングハウスの三木さんしか使っていないようだが・・・

もし不服を申し立てるのであれば、施行時の状況がわかっている委員が残っている今のうちに判例を積み重ねておいた方が良いと思われる。
情報公開法における不服審査機関である情報公開・個人情報保護審査会のメンバーが次第に官僚OBで占められるようになり、保守的な答申しか出さなくなったようなことが、公文書管理委員会でおきないとは限らない。

4.地方自治体での公文書管理条例制定の動き

公文書管理法公布以後、熊本県・鳥取県・島根県・安芸高田市で公文書管理条例ができ、札幌市や志木市、秋田県などでも制定の動きが進んでいる。
また、この3月に福岡県や佐賀県で公文書館条例が制定された。
少しずつではあるが、条例化が進んできていることがわかる。

なお、「条例を作るよりも、まずは文書管理の中身をしっかりすべき」ということをおっしゃる方がおられるが、私はそうではないと声を大にして言いたい。
公文書管理は何のためにやるのか。それはそこに生きる住民のためである。
内部統制の論理だけならば条例化よりも管理の中身をという論理も成り立とうが、「住民のため」であるという定義を行うのであれば条例化は必須のはずである。

「理念」は決して軽視されるべきものではないと思うのだ。


○悪かった点

1.法人文書、法人等での国立公文書館等設置問題

おそらく公文書管理法が施行されてみて、もっとも大きな問題を抱えることになったのは独立行政法人等における法人文書の取扱いであろう。
独法等の文書は、独自に公文書館を持っていたケース(日銀、京大など)を除き、これまで公文書館に移管することができなかった。
ただし、保存年限の延長措置は簡単にできたため、それを使うことで事実上の永年保存とし、重要な文書が保存されてきた。

しかし、今回の公文書管理法では、保存期間の延長には理由の説明が必要な一方、廃棄には特に歯止めがかからなかった(行政機関のように内閣総理大臣の許可がいらない)。
そのため、文書廃棄がこの法律で加速された可能性が高い。

また、独法等の重要な歴史的文書を引き受けるための独自の「国立公文書館等」の設置については、「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン」で設置に必要な施設要件などが、ほとんどの独法等に用意できるはずのない高いハードルを課されてしまったが故に、設置したくても設置できないという状況に追い込まれた。
さらに、独法等の文書の受け入れが可能である国立公文書館自体が、暗に受け取りを拒否している(スペースがない)。
よって、「この法律は文書を「捨てる」ためのものですよね?」と職員から聞かれたという噂すら流れてくるありさまだ。

しかも問題なのは、内閣府の公文書管理課がこのガイドラインについて全く見直す姿勢を見せていないということだ。
このままでは歴史的に重要な法人文書はどんどんと捨てられてしまう。
現実に合わせて設置のための施設的な要件などを緩和しないと、事実上廃棄に手を貸すことになっていると批判されても仕方のない状況になっている。
この点は早急に手を打たないと取り返しのつかないことになるかもしれない。
(すでに京大文書館の西山伸さんをはじめとして、何人もの方がこの問題については論文を書かれている。興味のある方は是非検索してみて下さい。)

なお、この件については私自身、大きな反省をせざるをえない。
公文書管理法制定運動に関わっておきながら、全くこの問題に気づきもしなかった。
気づいたのは2010年の冬になってからで、そこからブログで連載記事をまとめ、上記したような事態が起きうることを書き連ねた。
正直遅かったと思っている。もちろん自分が気づけばどうにかなったという問題ではないが・・・

当時書いたブログ
【連載】法人文書と公文書管理法 第1回 行政文書と法人文書の管理の違い
→以下全5回

2.外交史料館での公開の後退

公文書管理法の施行によって、これまで公開があまり行われていなかった公文書館では明らかに文書の公開が進んだ。
その一方、請求冊数や開示までの日数も、以前よりも時間がかかるようになったようである。

また、これはコメント欄で御指摘いただいたことだが、公文書管理法施行時に現用文書への情報公開における個人情報の開示基準が厳しくなった可能性があるという。
ただしこれについては、私は体験者ではないので断言はできない。

基準が明確化することで、かえって自由にやっていたところが後退するという残念な結果が生まれている可能性がある。
なんとも評価しがたいところでもある。どこかで上手くいくと、どこかでマイナス点も出るということか・・・

参考
公文書管理法と外交記録公開

3.立法文書、司法文書の公文書管理法への動き・・・

今のところ表面化した動きは全くない。
特に、議事録未作成が問題となったとき、政府の政務三役会議(官僚を入れていない)の記録がないという話も取り上げられていた。
こういった文書をおさえるには、立法府の公文書管理法が必要不可欠だろう。

今回の議事録未作成問題は、官僚の公文書管理法への理解が無かっただけでなく、政治家もまたきちんと法の趣旨を理解していなかったということにも原因がある(理解していればもっと前の段階で手を打てたはずだ)。
なので、早急に立法府の公文書管理法の制定が考えられてよいはずだ。

司法については、裁判所にある重要な文書は国立公文書館へ移管されることになったが、刑事事件関係(検察が所有)の文書などをどうするのかといった問題など、まだ多くの課題が残っており、やはり公文書管理法は必要だろう。

水面下で話が進んでいればそれに越したことはないのだが・・・

他にブログで取り上げたものとして、行政文書管理ファイル簿から廃棄された文書の記録が即削除される問題(これまでは5年間はファイル簿に残っていた)なども悪いことの部類にはいるだろう。

参考
移管・廃棄簿について考える

全体を通して考えると、法律を動かしてみるとやはりいろいろな不備が目立つようになってきたなと思う。
それに、公文書管理法の認知度の低さをどう克服するのかが、当然と言えば当然の如く大きな問題として立ちはだかってきたなというのが実感だ。

議事録未作成問題によって、少なくとも「公文書管理法」という法律が存在するという点については認知度がかなり上がったものと思われる。
よって次は、この法律の内容を理解してもらい、これに従って職務を行ってもらえるかどうかという段階に入る。
そして、これがおそらく最も難しい。

とにかく研修を重ねていくこと、そして不祥事が起きたときに繰り返しそれがダメであると指摘をし続けること。
そういった積み重ねしかない。そうやって情報公開法も次第に定着してきたのだから。

他にも書く必要がありそうだが、とりあえず今回はここまで。
今後、公文書管理委員会において施行状況の報告があるはずなので、その際にまた記事を書くことにします。
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コメント 5

jshiratori

いつもお世話になっております。「2.外交史料館での公開の後退」の部分で「これまで緩めに出ていた個人情報などが墨塗りされることが多くなった」というのは不正確なのでコメントを簡単に残しておきます。個人情報の黒塗りという問題があるのは、公文書管理法に基づく利用ではなく情報公開請求の開示文書の方です。情報公開についてWeb上に出ているルールではこの部分の変化はありませんので、多くの利用者の「実感」ですが、公文書管理法施行に際して内部の基準が変わったようです。以上、ご参考までに。
by jshiratori (2012-04-01 21:30) 

瀬畑 源(せばた はじめ)

> jshiratoriさま

いつもありがとうございます。
御指摘の通り訂正いたしました。
またよろしく御願いいたします。
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2012-04-01 23:11) 

oua_kan

法人文書についての記載で、一点気になるところがあります。

>「しかし、今回の公文書管理法では、保存期間の延長には理由の説明が必要な一方、廃棄には特に歯止めがかからなかった(行政機関のように内閣総理大臣の許可がいらない)。」

法人文書は、保存期間延長についても、理由の説明の必要はなかったと思います(行政機関のように内閣総理大臣への報告はいらない)。


by oua_kan (2012-04-02 09:39) 

oua_kan

法人文書についても、保存期間延長の理由は必要でした。
(2012-04-02 09:39) のコメントを訂正します。
すみませんでした。
by oua_kan (2012-04-03 08:47) 

瀬畑 源(せばた はじめ)

> oua_kanさま

いつもありがとうございます。
了解いたしました。
ただ、この点、私も解釈を誤っている可能性があるので現在専門家に問い合わせ中です。
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2012-04-04 08:35) 

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