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天皇皇后結婚50周年 [天皇関係雑感]

今日、2009年4月10日で天皇と皇后の結婚50周年になる。
昔ある人が「50年経ったら歴史学の研究対象」と言った人がいたが、そのぐらい昔の話なのだといまさらながら考えるところがある。

本来なら、この50年をどう考えるかという記事を書きたいところなのだが、公文書問題で手一杯なので、今日思ったことを簡単に書いておきたい。

まず、今回の記者会見を見て、あらためて天皇はなかなか考えた発言をしてると感じた。
特に、下記の部分。

 時代にふさわしい新たな皇室のありようについての質問ですが,私は即位以来,昭和天皇を始め,過去の天皇の歩んできた道に度々に思いを致し,また,日本国憲法にある「天皇は,日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」であるという規定に心を致しつつ,国民の期待にこたえられるよう願ってきました。象徴とはどうあるべきかということはいつも私の念頭を離れず,その望ましい在り方を求めて今日に至っています。なお大日本帝国憲法下の天皇の在り方と日本国憲法下の天皇の在り方を比べれば,日本国憲法下の天皇の在り方の方が天皇の長い歴史で見た場合,伝統的な天皇の在り方に沿うものと思います。

 守ってきた皇室の伝統についての質問ですが,私は昭和天皇から伝わってきたものはほとんど受け継ぎ,これを守ってきました。この中には新嘗祭のように古くから伝えられてきた伝統的祭祀もありますが,田植えのように昭和天皇から始められた行事もあります。新嘗祭のように古い伝統のあるものはそのままの形を残していくことが大切と考えますが,田植えのように新しく始められた行事は,形よりはそれを行う意義を重視していくことが望ましいと考えます。
(引用終)
→全文はこちら

前段の部分は私もそうだろうなと感じている。
天皇は、戦争直後に疎開先から帰ってきたときに、東京の焼け跡を見てショックを受けたことを以前から語っている。今回の記者会見でも「戦争」に触れた発言が多いのも、そこへのこだわりが強いことを改めて感じさせる。
その天皇にとっては、日本国憲法というのは、自らの立場が変わったという以上の重いものとして考えられているということなんだと思う。

後段の伝統の部分は、天皇は良質な保守主義者であるということを感じさせる。
ようするに、伝統とは形を守るものではなく、精神を守るものである。さらに、それは時代に応じて変化をするものであり、固定したものとして考えられるべきではないということを述べているのだと思う。
こういった考え方は、小泉信三の影響を受けているのだろうか。「伝統=固定したもの」として考えがちな保守系の人達にとっては、頭の痛い発言なのではと思う。
また、このような言い方をすることで、皇太子への負担を軽減しようとしているようにも見える。

私は研究の関係で、天皇の皇太子時代からの発言やマスコミの記事などをかなり見ているが、この人ほど日本国憲法を自分の問題として捉え、そして考え抜いてきた人もいないのではないかと思っている。
その答えが、現在の公務のあり方など、さまざまな場所に現れている。そして皇后はその伴走者として常に天皇の考え方を支えてきたのだと思う。

また、マスコミとの50年に及ぶ(天皇だけなら報道の検閲が無くなる1945年から64年に及ぶ)駆け引きによって、この夫妻はマスコミ対応に非常に長けている。
だからこそ、天皇の記者会見での発言は、非常に精査された政治的発言であることはもっと考えられてよい。
これは、その政治的発言が悪いとかそういうレベルの話ではなく、「象徴天皇制とは何か」ということを考える材料を、天皇皇后は常に与え続けているということなのだと思う。そして国民の側にも「天皇制をどう考えるのか」を問うているような気がするのだ。

私自身、いつかはきちんとそのあたりを文章で書きたいと思っているが、まだうまくまとまる感じではない。でも、今でもこの夫妻には興味が尽きない。
歴史研究者として、改めてこの天皇皇后についてきちんと研究したいと考えた次第。

本文はここまでだが、あと、宮内庁のHPに天皇皇后の50年の特集があります。
http://www.kunaicho.go.jp/50years/50yearsph.html
宮内庁らしいなと思うのは、せっかく映像を上げているのに、天皇皇后の肉声が一切出てこないということだ。
1980年代初めぐらいまでは、あの「皇室アルバム」ですら音声をテレビで流すことが禁じられていたので、そこまでは音声データがない可能性もあるが、平成になってからの映像も音声を無くして、全て環境音楽みたいなのを流しているのはどうなんだ。
やはりこういうところは、頭が固いなあと感じる。私が言うのもなんだが、もうちょっとメディア戦略を考えた方がよいのではと思うんだが・・・。
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ダグラスリーフ

『「象徴天皇」の戦後史』(著者:河西秀哉,出版社:講談社)を買って読んでいます。
瀬畑源ウェブサイトのリンクで、河西さんのホームページを見ました。
そこで初めて本の存在を知りました。
あわてて本屋に行って買いました。
素晴らしい本だと思いました。
瀬畑さん有難うございます。

by ダグラスリーフ (2011-04-28 22:37) 

瀬畑 源(せばた はじめ)

> ダグラスリーフさま

いえいえ。色々と参考にしていただいているようで幸いです。
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2011-04-30 16:45) 

ダグラスリーフ

「天皇制とは何か」特に「象徴天皇制とは何か」を考えていたら、一冊の本を思い出しました。
『改訂版 詳説日本史研究』(山川出版社)です。
件名索引で象徴天皇制を探してみたところ474ページにありました。
見てみると印象深い言葉がありました。
「・・・主健在民に基づく象徴天皇制と戦争放棄・・・」
今上天皇および皇后は、「天皇制をどう考えるか」と一緒に「主権在民をどう考えるか」等を国民に問うているのではと、一人考えているところです。
「天皇制をどう考えるのか」について、自分も色々考えてみたいと思います。
by ダグラスリーフ (2011-06-04 01:58) 

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