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立法府(国会など)と公文書管理・情報公開制度 [2016年公文書管理問題]

先日某所で立法府(国会など)の公文書管理制度や情報公開制度について話す機会がありました。
せっかくなので、覚えているうちにまとめておきます。

「立法府では「公文書管理法」や「情報公開法」がない!」

こういう書き方をすると、「議事録は整備されて公開されてるよね?」と返されることがあります。

確かに、立法府が作る公文書には、作成や公開されることが義務づけられているものもあります。
代表的なものとしては、憲法57条で定められている本会議の議事録が挙げられるでしょう。
他にも慣例で、委員会の議事録や議事日程、法律案、質問主意書・答弁書などが公開されています。

特にインターネットが普及し始めてから、これらの情報へのアクセスはしやすくなりました。
私が院生になった頃には、国会のインターネットでの会議録検索が無かったため、委員会の議事録は国会図書館の議会官庁資料室に行かないと見ることができなくて苦労した思い出があります(都道府県図書館に部分的には入っていたりしたが)。
その時代から比べると隔世の感です。

ただ、これらは立法府側が自発的に提供している「広報」の類です。
立法府が所有している「公文書」=立法文書は当然これに止まりません。

立法府の公文書は大きく分けると、①補佐・附属機関の文書②会派・議員事務所の文書、の2つに分けることができます。
後者については、情報公開などになかなか馴染みにくい話ですので、とりあえず今回は脇に置いておきます(議員活動の自由があるので)。

①についてですが、以下のように分類できます。

1.事務局文書
 A:議院行政文書(参議院は「事務局文書」)→情報公開対象
 B:立法及び調査に係る文書(立法調査文書)
 C:その他(衆議院憲政記念館、参議院議会史料室にある歴史文書)→公開?

2.法制局文書

3.国立国会図書館文書
 A:事務文書→情報公開対象
 B:図書館資料(憲政資料なども含む)→公開
 C:立法及び立法に関する調査文書(国会図書館法第15条第1~3号)

4.裁判所訴追委員会文書

5.裁判官弾劾裁判所文書


1,2は衆議院と参議院とそれぞれに存在します。
2,4,5については、情報公開制度が無いので、内部でどのように文書を分類しているかわかりません。
1,3については、それぞれのAに情報公開制度が作られていますので、文書管理の規程を見ました。

1の事務局文書を説明すればおおよそ残りも説明がつくので、ここを中心に説明します。
4,5については私もよくわからないので飛ばします(判例は公開されているようですが)。

事務局の事務に関する文書(A)は、情報公開請求の対象となっています。

衆議院事務局
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/osirase/jyouhoukoukai.htm
参議院事務局
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/johokoukai/seido.html

ただし、立法府には情報公開法が存在しませんので、行政に対する情報公開請求と違って法的拘束力がありません。
そのため、行政の方では義務化されているファイル管理簿の公開がウェブにアップされていません。事務局に出向けば見ることはできます(国会図書館も同じく管理簿がアップされていない)。
5年ほど前に両院の事務局で管理簿のウェブ上公開をなぜしないのかを聞いたことがあるのですが、「予定はない」との答えでした。

事務局文書で大きいのは、Bの「立法調査文書」が公開されていないことです。
2の法制局文書、3のCの国会図書館が議員から依頼されて調査しているものも非公開となっており、議員が調査を求めた文書については一切公開されないこととなっています。

この「立法調査文書」は、国会における政策決定過程を解明するためには非常に重要な資料です。
また、普段から国会議員がどのような活動をしているのかを明らかにすることにも繋がります。
特に、行政の側に資料が残りにくい議員立法の政策立案関連の文書は、法制局などに残っている可能性は十分にありえます。

しかし、これらの文書は、情報公開の対象でないどころか、何年経っても公開されない(廃棄されている可能性も十分にありうる)文書となっています。
関係者から聞いた話だと、「議員活動の自由を侵害することを事務局が勝手に公開することはできない」という論理のようです。政治的中立性が問われる立場ですので、そのようにしか運用できないのでしょう。

確かに、例えば原発反対についての法律などの調査を法制局や国会図書館に依頼していたことが、情報公開請求で公開されてしまえば、原発賛成派からの圧力をかけられることも十分にありえます。
また、根回し中の政策の情報収集を依頼している可能性もあり、公開に慎重になるのはわからなくはないです。

ただ、依頼した本人が国会議員で無くなってから10年経過した後、とか、本人が亡くなった後、などに公開をするなど、本人の議員活動に影響が出ない形での公開方法を整備することは可能に思います。
このあたりは事務局の一存ではどうしようも無い部分ですので、国会議員が自ら法制度を作らないと公開されることはないでしょう。

では、この「立法調査文書」が非公開になっている状況はこれで良いのかということです。

おそらく国会議員がこの公開制度を整備しないというのは、関心が無いこともあるけれども、「作りたくない」というところもあるのでしょう。
何を調べていたのかを知られたくない、知られたときに批判されるかもと怖れているかもしれません。

私はここまでの文面を見てわかるように、「公開制度を整備すべき」という立場です。
そのために「立法公文書管理法」「立法情報公開法」を制定する必要があると考えています。

すでに行政府には公文書管理法と情報公開法が存在しており、公文書をどのように作成し、保存するか、公開の基準はどうするかなどの制度が法制化されています。
これは、現在だけでなく未来の国民に対する「説明責任」のためだと規定されています(公文書管理法第1条)。

立法府の「説明責任」を果たすために、どのような文書を作成しなければならないか、公開制度をどうするか、など、ルールをきちんと作る必要があると思います。
上記の立法調査文書だけでなく、法案の修正の経緯がわかる文書を作成することを義務化する(現在は密室の政党間協議で行われるから理由が分からない)とか、公開されていない委員会の理事会の記録作成なども必要でしょう。
すぐには公開できなくても、いずれは公開して検証の対象とすることで説明責任を果たすことができます。

そして、歴史的に重要な文書を永久保存して公開する仕組み(公文書館)を作ることも大切です。
歴史的に重要な文書を保存・公開する機関として、上記の1のCに衆議院憲政記念館などが位置づけられていますが、実際にはほとんど文書は移管されていません。
また、参議院議会史料室にある貴族院時代の文書も、目録が未整備でなかなか公開されないという話も聞きます。
国立公文書館に文書を移管することは法的には可能ですが、一切なされていません。

日本近代史の第一人者である加藤陽子東京大学大学院教授は、「国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」の第10回(2015年10月19日)において、建設予定の新しい「国立公文書館」構想への提言をされているなかで、次のようなことを話されています。

○ 国民の目に映ずる国の文書
 国民にとって国の文書といった場合、立法、司法、行政のそれぞれが作成した記録といった目では見ていないはず。国家として一体的になされた政策決定過程を、現在及び将来の国民にしっかりと残し、「この国のかたち」として見て貰う施設。


つまり、「国の文書」というのは、立法、司法、行政のすべての文書が一括して管理・保存される必要があるということです。

今現在、行政は法律ができました。司法は最高裁によって一定のルールが作られています。

立法だけが何も対応していないのです。

この状況は変えていく必要があるのではないでしょうか。

行政の公文書管理法の附則第13条第2項には、「国会及び裁判所の文書の管理の在り方については、この法律の趣旨、国会及び裁判所の地位及び権能等を踏まえ、検討が行われるものとする」と書かれています。
自分達で決めた法律に書かれているのですから、そこは検討してほしいと思っています。

最後に、この立法府の公文書管理や情報公開問題は、2001年の情報公開法施行前あたりには、法学者などが活発に議論をしていたのですが、その後はあまりされていないようです。
自由人権協会が2001年に国会の情報公開法案を作っていますが、その後はあまり要求も出ていないように思います。

立法府の公文書管理や情報公開を考えることは、国会議員の活動を国民により「見える」ようにする仕組みを考えることでもあると思います。
「何をやっているかよくわからない」から「税金の無駄だから減らせ」と言われがちな議員達が、どのような仕事をしているのかを、もっと国民の目に見えるようにしていくための制度として、これらを位置づけてはどうでしょうか。

もっと国民の側から必要性を訴えていかなければならないと考えます。


○参考文献

山田敏之「国会の情報公開と欧米の議会文書館制度」『調査と情報』319号、1999年6月
→国会の情報公開制度をコンパクトにまとめたもの。やや古くなったが、今でも参照にされる。

・大山礼子「国会情報」、浦田一郎・只野雅人編『議会の役割と憲法原理』信山社、2008年
→大山先生は国会制度の第一人者。岩波新書の『日本の国会――審議する立法府へ』もおすすめ。

大蔵綾子「わが国の立法府における情報公開の新展開」『レコード・マネジメント』57号、2009年5月
→大蔵さんは当時筑波の院生。その後、国立公文書館にも勤務されていた。アーキビストからの立法文書問題への切り口は非常にユニーク。私が本で立法文書問題を取り上げた際は、彼女の論文を手がかりにして調査をしました。

・奈良岡聰智・上田健介「イギリス議会文書館・図書館の概要」『RESEARCH BUREAU論究』11号、2014年12月、30-40頁
曽雌裕一「ドイツ連邦議会における議会公文書の管理状況―ドイツ連邦議会公文書館と公文書館規則を中心に」『レファレンス』66巻1号、2016年1月
→この2本は、近年の他国の議会文書館を紹介したもの。こういった事例紹介がもっと積み重なっていくと、日本がどうするべきかを考える手がかりになると思います。

瀬畑源『公文書をつかう―公文書管理制度と歴史研究』青弓社、2011年
→拙稿。立法文書問題については、今後の課題という所で詳しくまとめています。

立法府の情報公開の現状(2011年5月7日)
→上記の本を書くときの調査記録をブログに書いたもの。この頃から何も変わっていない・・・

・「衆議院事務局文書取扱規程」「参議院事務局文書管理規程」
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/report.html
ウェブに上がっていなかったので。2011年に情報公開請求で入手したもの。リンク先の一番下の所に貼りました。
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特定秘密が会計検査院の検査に提出されない可能性について [2015年公文書管理問題]

ずいぶんと時間が空いてしまいましたが、この問題は自分なりにきちんと考えたいと思ったので取り上げてみます。
毎日新聞の2015年12月8日のスクープ。

特定秘密保護法 会計検査院「憲法上、問題」指摘
毎日新聞 2015年12月8日 08時30分
http://mainichi.jp/articles/20151208/k00/00m/040/176000c

「すべてを検査とする憲法の規定上、問題」

 特定秘密保護法案の閣議決定を控えた2013年9月、法が成立すれば秘密指定書類が会計検査に提出されない恐れがあるとして、会計検査院が「すべてを検査するとしている憲法の規定上、問題」と内閣官房に指摘していたことが分かった。検査院は条文修正を求めたが、受け入れられないまま特定秘密保護法は成立。内閣官房は修正しない代わりに、施行後も従来通り会計検査に応じるよう各省庁に通達すると約束したが、法成立後2年たっても通達を出していない。【青島顕】

 毎日新聞が情報公開請求で内閣官房や検査院から入手した法案検討過程の文書で判明した。10日で施行1年を迎える特定秘密保護法の10条1項は、秘密を指定した行政機関が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある」と判断すれば、国会などから求められても秘密の提示を拒むことができるとしている。

 開示された文書によると13年9月、同法の政府原案の提示を受けた検査院は、「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」がある場合、特定秘密を含む文書の提供を検査対象の省庁から受けられない事態がありうるとして、内閣官房に配慮を求めた。憲法90条は、国の収入支出の決算をすべて毎年、検査院が検査すると定めているためだ。

 ところが、内閣官房は「検査院と行政機関で調整すれば(文書の)提供を受けることは可能」などと修正に応じなかった。検査院側も譲らず、同年10月上旬まで少なくともさらに2回、憲法上問題だと法案の修正を文書で繰り返し求めた。

 結局、検査院と内閣官房の幹部同士の話し合いを経て同年10月10日、条文の修正をしない代わりに「秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた場合、提供する取り扱いに変更を加えない」とする文書を内閣官房が各省庁に通達することで合意した。約2週間後の10月25日に法案は閣議決定され、国会に提出されて同年12月に成立した。

 それから2年たつが7日までに通達は出ていない。会計検査院法規課は取材に「今のところ、特定秘密を含む文書が検査対象になったという報告は受けていない」とした上で「我々は憲法に基づいてやっており、情報が確実に取れることが重要。内閣官房には通達を出してもらわないといけない。(条文の修正を求めるかどうかは)運用状況を見てのことになる」と話した。

 内閣官房内閣情報調査室は取材に「憲法上の問題があるとは認識していない。会計検査において特段の問題が生じているとは承知していない」と答えた。通達については「適切な時期に出すことを考えている」としている。

〔中略〕

情報隠し 危険はらむ

 会計検査院にとって、大日本帝国憲法下では軍事関係予算の検査に限界があった。政府・軍の機密費が会計検査の対象外だったため、膨れ上がった軍関係予算の多くがブラックボックスに入った。「会計検査院百年史」は、軍事上の秘密漏えいを処罰する軍機保護法(1937年改正)によって「会計検査はかなり制約を受けた」と記す。

 現行憲法90条はこうした反省から「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院が検査する」と規定する。検査院は内閣から独立している。これまでも自衛隊法の規定する防衛秘密について検査院への提供を制限する規定はなかった。

 特定秘密には防衛や外交などの予算措置に関する文書が含まれる。

 秘密保護法10条1項について、元会計検査院局長の有川博・日本大教授(公共政策)は「検査を受ける側が(提出文書を)選別できるなら、憲法90条に抵触すると言わざるを得ない」と指摘する。

 国の重要な秘密の漏えいや不正な取得に重罰を科す秘密保護法は、運用次第で深刻な情報隠しにつながりかねない危険をはらむ。疑念を解消する努力が政府に求められる。【青島顕】
(引用終)

『毎日新聞』社会部の情報公開制度を利用した調査報道は群を抜いている。
先日の内閣法制局が集団的自衛権を認める閣議決定に関する文書を持っていなかった件も『毎日新聞』のスクープであった。

さて、内容について分析したい。
会計検査院は憲法90条に基づいて置かれる機関である。

憲法90条1項を見てみると

国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

とある。
キーワードは「すべて」「毎年」「次の年度」「国会に提出」である。

予算は必ず「毎年」締めて、会計検査を受けなければならない(「すべて」であり例外は無い)。
そして内閣はそれを翌年度内に国会に報告する義務を負っている。

「すべて」とある以上、特定秘密に指定されている予算もその対象となる。
当然だが、その検査を行うためには特定秘密を見る必要も出てくる可能性が高い。
それが行えなくなる可能性があるということが、この記事の指摘した点である。

これは非常に大きな問題である。
ただ、この問題を理解するためには、戦前からの会計検査院の歴史について考える必要がある。
会計検査院が作成した『会計検査院百年史』(1980年)を参考にすると、以下の通りである。


戦前の会計検査院は、天皇の下に置かれていたため、帝国議会との関係が無かった。
また、軍などの検査に、大きな制約を科されていた。

帝国憲法に基づいて会計検査院法が制定されたのは1889年であるが、この23条には、「機密費」は「検査ヲ行フ限リニ在ラス」とされており、軍だけでなく、外務省なども含めた「機密費」について、会計検査院は一切手を出せなかった。
また、翌年に「陸海軍出師準備ニ属スル物品検査ノ件」が法制化され、軍の「出師」(出兵)の準備のための物品費用については、検査を受けなくても良くなった。
そして「出師準備品」に何を指定するかは陸海軍に任された。

陸軍は当初から、さまざまな物品を「出師準備品」として会計検査を受けないようにし(海軍は1941年から拡大)、会計検査院の検査から逃れようとした。
会計検査院は何度も抗議をしたようだが、全く相手にされなかったらしい。

また、1899年には軍機保護法が制定され、軍の機密に関わる文書を入手しづらくなり、会計検査がさらにやりづらくなった。
特に1937年の大改正の後には、たとえ検査のために軍事機密を見せてもらえたとしても、その報告をする際に情報を利用することができず、会社名はA社とかいった形で、ぼかして報告せざるをえなかった。

さらに、日清戦争の際に「臨時軍事費特別会計」が置かれることになった。
これは、作戦行動に必要な経費を、細目を付けずにざっくりと陸海軍に渡し、戦争が終わって会計を閉じるときに検査を受けさせるという仕組みである。
予算が足りないときには追加予算を申請するが、その細目も議会で説明する必要が無い。

この会計は軍に重宝された。この「特別会計」は、戦争が終わるまでを一つの年度と考え、途中に検査が行われない。
また、検査には制約もあったので、軍はかなり自由にこの予算を使っていた。

この「臨時軍事費特別会計」は、のちに日露戦争、第一次世界大戦、アジア・太平洋戦争において設置された。

第一次世界大戦の臨時軍事費は、シベリア出兵にまで流用された。
のちに田中義一陸軍大将が持参金300万を持って立憲政友会総裁になった際の資金の出所として、この臨時軍事費の流用が疑われたこともある(陸軍機密費事件)。

アジア・太平洋戦争時の臨時軍事費は、元々「支那事変」対象のものだったが、陸海軍が対英米戦の準備に大量に流用し、そのまま「大東亜戦争」対象へと繋がっていった。
また、選挙対策などにも流用されたとされており、検査が戦争終結まで来ないことをいいことに、目的外利用が繁雑に行われていた。

この「臨時軍事費特別会計」は、敗戦後の1946年に停止になるが、会計検査院の検査の結果、全体で約1554億円の支出のうち、陸軍は約64億、海軍は約62億が「戦災などによる証明書類消失」のため、「検査したことにする」として処理された(当時の物価は今よりかなり安いので、相当な額だと思われる)。
もちろん、本当に消失したものもあっただろうが、使途不明金などがまとめて処理されたということだろう。

ちなみに会計検査院によれば、1945年の国家予算は7割近くが臨時軍事費で占めていたとのことであり、その金額の大きさがうかがえる。

戦後の会計検査院は、この反省を活かして作られた。
軍が「暴走」できたのは、当然「予算」の裏付けがあったからこそである。
臨時軍事費は打ち出の小槌のように予算を吐き出すシステムだったのだ(歳入のほとんどは公債)。
だからこそ、きちんとチェックをする体制を作らなければならなかったのだ。

そこで、臨時軍事費特別会計のような複数年度にわたって検査を受けない予算は作れなくした。
国家機密であろうとも、それを検査できるようにした。防衛省や自衛隊の予算でも例外は無い。

ここまでを踏まえると、今回の記事の何が論点になっているかがわかるだろう。
つまり、特定秘密に関する予算がきちんと検査できなくなれば、戦前の軍機保護法の下での検査に類似する状況になるという恐れである。

特定秘密に関わる予算であろうと、憲法90条を考えれば会計検査の対象となる。
適切な使用法かを判断するには特定秘密を見なければならない可能性もある。
報告書にはぼかして書かざるをえないかもしれないが、少なくともチェックする会計検査院側の仕事に制限がつくようなことがあってはならない。

少なくとも法律を作る際に、会計検査院と「秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた場合、提供する取り扱いに変更を加えない」とする文書を出すと決めたのであれば、それは速やかに実行されるべきであろう。


追記、というより、むしろこっちも重要。

なお、この問題を考える際に、もう一つ考えなければならないのは、「内閣官房機密費」(報償費)の問題である。
本来この機密費は会計検査院の検査対象であるが、どうも「別のやり方」でスルーしているらしい。

この件は情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんが、この報道を受けてのブログで書かれているが、どうやら「原則として国の機関は会計検査院には支出証拠の原本を提出することになっているが、内閣官房機密費、外務省機密費、警察庁機密費などは例外的に別の方法で支出の証明をすればよいことになっている」とのことである。

おそらく、特定秘密に関する予算については、この機密費と同様の検査で済ませたいというのが、内閣官房の方にはあるのではないだろうか。
だから、会計検査院との約束を無かったことにしようとしているのではないか。

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【連載】公文書管理法5年見直しにむけて 第2回 文書作成義務 [2015年公文書管理問題]

公文書管理法が附則に決められた5年見直しの年度に入っている。
そこで、この問題について考えを述べておきたい。

第1回は前提となる話をしたので、ここからは具体論に入る。
まずは公文書管理法施行後、注目され続けた文書の作成義務問題。

公文書管理法第4条では、次のように文書の作成義務が課されている。

第四条  行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
 一  法令の制定又は改廃及びその経緯
 二  前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
 三  複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対して示す基準の設定及びその経緯
 四  個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯
 五  職員の人事に関する事項


具体的な文書作成の注意が、内閣総理大臣決定として出された「行政文書の管理に関するガイドライン」に記載されている(第3 作成の部分)。
これに基づいて、各行政機関の文書管理ルールが定められており、事実上ここに書かれていることを職員は守らなければならない。

ガイドラインの説明は、細かい話なのでここではしないが、まず気になるのは、このガイドラインが果たして守られているのかどうかだ。
「外部から事後的に検証できる」ことが法律の主旨である以上、検証できるように文書は作成されなければならない。
なので、文書の作成状況について、実態調査をきちんと行って欲しいところだ。

現場からの声を踏まえ、ルールが形骸化していないか、形骸化しているのであればどのように改善するかを考える必要がある。
この点は外部の人間ではなかなかわからないところがあるので、是非とも行政側がきちんと検証をして欲しい。

その上で、私が求める改正案は2つ。
1.閣僚など行政機関の長が主催する会議(審議会、懇談会など)の議事録の作成義務の明記
2.「意思決定」に関わる文書の作成の注意事項を更に詳細にする


1については、民主党が、2013年に出した公文書管理法の改正案の第4条第2項に、次の文章を入れることを提案していた。

2 前項第二号に規定するもののほか、閣議及び関係行政機関の長で構成される会議(これに準ずるものを含む。)の議事については、議事録を作成しなければならない

これが法律に組み込まれれば、審議会の議事録の有無をめぐる不毛な論争を止めることができるだろう。
この主張をすると、「逐語の議事録を残すと、自由闊達な議論ができなくなるから、発言者がわからないように議事概要にする」という反論が必ず政府関係からは出てくる。
しかし、すぐには公開できないとしても、いずれ公開されて検証するためには、逐語の議事録が必要なのは言うまでもない。

議事録が残るから意見が言えないという「専門家」は審議会の委員になるべきでない。
専門家として責任を持って堂々と発言すれば良いだけの話である。
「記録を残す」ことと「公開する」ことは別に考えれば良いのだ。

ただ、法改正が難しい状況なので、その場合はガイドラインの「第3 作成」の所にある、「審議会等や懇談会等」の「議事の記録」を作成するという部分を「議事録」を作成するに改正することでも構わない。
議事概要で済ませられるように、抜け道として「議事の記録」としてある部分を塞げばよい。それだけでも効果があるだろう。

※この問題は過去にブログを書いたことがある。

「議事の記録」と「議事録」は同じではない
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-06-03


2については、「意思決定に関する文書作成」という公文書管理法の主旨を、決裁文書だけ残せば良いとか、他省庁に意見を聞かれた場合は「意志決定者ではない」から作らなくてよい、と考えている人が未だに後を絶たないことへの対応が必要ということだ。

「外部から事後的に検証できる」ために、必要な文書は職員の役職問わず作る必要があることや、公式非公式の会議を問わないことも具体的に書き込む必要がある。

すでにそのような主旨については書かれている部分もあるのだが、「作る必要があるとは思わなかった」という言い訳の可能性をできる限り潰しておくために、より明確な記述をすることが重要である。
もちろん、書けば書くほどまた抜け道ができる可能性はあるが、その都度抜け道を塞げばよいだけの話である。

「作成義務」については、ガイドラインの見直しを重点的に行うべきだと思う。
特定秘密関連については後でまとめて論じます。

次回は国立公文書館等の特定歴史公文書問題。
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【連載】公文書管理法5年見直しにむけて 第1回 総論 [2015年公文書管理問題]

公文書管理法が2011年4月に施行されてから今年度で5年目に入っている。
公文書管理法の附則第13条第1項には以下の文面がある。

政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況を勘案しつつ、行政文書及び法人文書の範囲その他の事項について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

そのため、2015年9月28日の公文書管理委員会において、この見直しの手続きに入ることが表明され、年度内に報告書をまとめることとなった。

公文書管理法は重要な法律ではあるが地味であるため、あまり普段は意識されることがない。
公文書管理法は、公文書の作成から保存・廃棄に至るまでの「文書のライフサイクル」全てのルールを定めたものである。

現在までに、公文書の作成義務(第4条)に違反する行為がたびたび表面化したため、法律自体の認知度は徐々に上がってはきている(原子力災害対策本部の議事録未作成から、最近の内閣法制局の集団的自衛権容認に至る過程の文書をほぼ未作成だった件まで)。
特定秘密保護法も、秘密文書をどう管理するかという点では公文書管理制度の一つである。

そのため、この5年見直しで、少しでも公文書管理制度が改善されることが、政府にとっても国民にとっても望ましいと言えるだろう。

委員会の資料に基づけば、見直しの流れは以下の通り。

● 9月28日 第44回公文書管理委員会
● 10月~ 公文書管理委員会を複数回開催
 ・各検討事項(「資料 1-2」参照)についての議論
 ・海外事例調査
 ・行政機関からのヒアリング 等を実施
● 2月~ 取りまとめに向けた作業を開始


資料1-2を見る限り、見直すのはあくまでも公文書管理法の範囲に留まる。
個人的には情報公開法も含めた、公文書管理制度全体を考え直して欲しいのだが、主旨も管轄も(情報公開法は総務省、公文書管理法は内閣府)違うのでそうはいかないだろう。

なお、海外事例調査やヒアリングと書いてあるが、2013年~14年度に行政管理研究センターに委託事業で調査をさせているので、それを使うのではないかと推測される(2013年度2014年度)。

見直しの報告書が出ても、今の安倍政権の姿勢を考えると、国会を通さなければならない法改正のハードルはかなり高そうである(担当大臣が河野太郎氏と思われるので、安倍政権の中では一番理解はありそうだが・・・)。

ただ、そうであったとしても、この段階できちんと問題点を洗い出し、法改正の必要無い施行令やガイドラインはきちんと見直すなどは十分可能だと思われる。
そのためにも、公文書管理法のルールが現場でどこまできちんと守られているのかをきちんと調査し、現場からの改善案もすくい上げられるようにしてほしいと思う。

ここから何回かに分けて、私なりの分析を重ねていきたい。

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内閣法制局の公文書管理法理解のおかしさ [2015年公文書管理問題]

内閣法制局が、2014年の集団的自衛権行使容認の閣議決定に関する内部での検討過程文書をほとんど残していなかったことが問題となっている。
毎日新聞が9月28日にスクープしてから、どんどんと問題の掘り下げが進んでいる。
私もこの件については、ブログの記事として取り上げた。

内閣法制局が憲法解釈変更の公文書を残さないこと
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2015-09-30

10月16日の毎日新聞の報道によれば、当時の担当参事官であった黒川淳一氏(現農林水産省官房参事官)が取材に応じ、その経緯について弁明を行っている。

<法制局>記録は決裁文書1枚 憲法解釈変更で
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151016-00000006-mai-soci
<法制局>黒川淳一・前内閣法制局参事官との主なやりとり
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151016-00000000-maiall-soci

公文書管理法との関係で黒川氏の発言内容に注目したい。引用します。

--どうして検討の過程を記録に残さないのか。

 成案があって、それに意見を述べるという形ではなかったので、従来の国会答弁をおさらいするようなことが多かった。記録を取るような性質の議論では、そもそもなかった。「頭の整理」というのが正直なところだ。結局、法制局は「何をどこまでやるか」という議論をするわけではなく、ある意味受け身でしかない。「大丈夫でしょうか」という問い合わせに「その考え方なら、憲法はじめ各種の法律に基づいて、まあ大丈夫じゃないか」と言うだけなので。

--普通の意見事務(法解釈について意見を述べる業務)では、意見を求めてきた省庁側の担当者と時間をかけて文書でのやり取りを積み上げると聞いたが。

 ケース・バイ・ケースとしか言いようがない。紙でやり取りする時もあれば、そうでない時もある。方針が固まってから持ち込んで来られるケースもある。

--公文書管理法はあまり意識しなかったのか。

 当然、意識はしていた。公文書管理法は意思決定過程をしっかり残せという趣旨だが、今回は特に我々のほうで意思を決定するという作業をしたわけではないので、特に文書を残す性格のものではなかった。ただ、今回は重要な案件なので、起案をして、うかがいを立てた形でしっかり残した。まあ、逆に「これしかないのか」となってしまうのは分かるのだが。

(引用終)

黒川氏の発言の中で、公文書管理法に関連して指摘しておきたいことは次の3点。

1.検討過程を「頭の整理」として、「私的メモ=行政文書ではない」という判断で記録を残していない。
2.意見事務の際に、文書を作らないケースがある。
3.法制局が「意思決定の主体」で無い場合は、「意思決定過程」の文書を残さなくて良い。


1は、情報公開法制定時から今までずっと問題視されている「抜け道」を使っている。
公文書管理法によれば、「行政文書」は以下の3つを満たすもののみが該当する。

①職員が職務上作成・取得したもの
②組織的に用いるもの
③その機関が保有しているもの


「職務上作成・取得」とは、仕事のために作ったり、他から受け取ること。
「組織的に用いる」は、部局内で共有されていること(回覧されたり、会議で使われたりしたもの)
「保有」はその機関内に保存されていること。

黒川氏は「頭の整理」なので、②に該当しないから行政文書ではないと主張したいのだろう。
黒川氏はインタビューの中で、次のように話している。

--誰が検討していたのか。

 主に私、そして第1部長と次長、長官ということになるが、一堂に会して会議をするという感じではなかった。例えば、過去の国会で「こんな答弁があったはずだ」とか、第1部長との間で議論したりとか。幹部は幹部でいろいろやっていたと思う。

(引用終)

第一部長や次長、長官と「公式に集まって」議論していないので②に該当しない。
実際にそうであるならば、公文書管理法を理解した上で、「途中過程の行政文書を作らなくて済むように仕事をしている」可能性がある。

「幹部は幹部でいろいろやっていた」と話しており、「いろいろ」の中身が長官などの「意見交換」であったならば②は満たされる。
ただ、あえてその時に文書を持っていかないで話せば、「作成していない」ので①を満たさないと言える余地が残る。

次に2であるが、「意見交換」を「非公式」なものとみなし「私的な会合」と称して文書を作成していないか、その場で取った記録は自分用に取った「私的なメモ」であり、②に該当しないから行政文書ではないというどちらかの解釈を取っている可能性がある。

1,2から透けて見えるのは、公文書管理法の主旨を理解していないということだ。
公文書管理法は政策決定過程の検証をするための文書を、きちんと作成し保存しなければならないという法律である。
なので、「非公式だから」とか「私的なメモだから」ではなく、「政策決定過程の文書は行政文書として作成しなければならない」のが筋なのだ。

そこで3の話になるが、「意思決定過程の主体」でないから文書を残さなくてよいという解釈も、公文書管理法の主旨を理解していないということの証左になる。

意思決定をする部署であるかどうかは関係が無い。
「検証」のために文書を残すのであるから、参考意見を話したということであっても文書を作らなければならないのだ。

もし「意思決定機関でないから文書は作らない」が許されるのであれば、複数の省庁で意見交換を行った際、「意思決定を行う機関」以外の省庁は一切文書を残さなくて良いということになる。
それで、どのようにして政策の「検証」を行うことが可能となるのだろうか。

行政文書の定義にあてはまらないから文書を残さないのではなく、「あてはまるように文書を作らなければならない」というのが公文書管理法の主旨である。

今回の問題は、黒川氏個人の問題ということではなく、法制局自体の体質の問題に見える。
なぜこのようなことになったのか、さらなる検証が必要だと思う。
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