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【連載】公文書管理法案を読む(第4回)―問題点(2) 延長・移管・廃棄の権限 [【連載】公文書管理法案を読む]

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公文書管理法案を読むの第4回です。
公文書管理法案の問題点についての続きです。

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。

第4回 問題点(2) 延長・移管・廃棄の権限

今回は、公文書管理法案の第5条第4項~5項と第8条第1項の問題点について取り上げます。これらの条文は、行政文書の整理(保管、期限延長、移管、廃棄)に関わる部分です。
まずは条文を引用します。(第5条は前がないとわからないと思うので、全部載せておきます。)

(整理)
第五条 行政機関の職員が行政文書を作成し、又は取得したときは、当該行政機関の長は、政令で定めるところにより、当該行政文書について分類し、名称を付するとともに、保存期間及び保存期間の満了する日を設定しなければならない。

2 行政機関の長は、能率的な事務又は事業の処理及び行政文書の適切な保存に資するよう、単独で管理することが適当であると認める行政文書を除き、適時に、相互に密接な関連を有する行政文書(保存期間を同じくすることが適当であるものに限る。)を一の集合物(以下「行政文書ファイル」という。)にまとめなければならない。

3 前項の場合において、行政機関の長は、政令で定めるところにより、当該行政文書ファイルについて分類し、名称を付するとともに、保存期間及び保存期間の満了する日を設定しなければならない。

4 行政機関の長は、第一項及び前項の規定により設定した保存期間及び保存期間の満了する日を、政令で定めるところにより、延長することができる

5 行政機関の長は、行政文書ファイル及び単独で管理している行政文書(以下「行政文書ファイル等」という。)について、保存期間(延長された場合にあっては、延長後の保存期間。以下同じ。)の満了前にあらかじめ、保存期間が満了したときの措置として、歴史公文書等に該当するものにあっては政令で定めるところにより国立公文書館等への移管の措置を、それ以外のものにあっては廃棄の措置をとるべきことを定めなければならない。

(移管又は廃棄)
第八条 行政機関の長は、保存期間が満了した行政文書ファイル等について、第五条第五項の規定による定めに基づき、国立公文書館等に移管し、又は廃棄しなければならない。


さて、今回引用した部分は、はっきり言って今回の法案の最大の問題点と言っても過言ではない。
というか、有識者会議の議論、最終報告書をここまでコケにした法文も無いだろうという点で、怒りを通り越して呆れている。

今回の公文書管理法の作成で大きな問題となっていた一つに、「国立公文書館への公文書の移管が進まない」「公文書を勝手に各省庁が廃棄している」「移管したくないが故に勝手に保存年限を延長している」ということが挙げられていた。
そしてその原因は、「移管・廃棄・延長の権限を各省庁が握っているために起こっている」ことは明白であった。

この問題の解決のために、公文書管理担当機関をどのような形態にするか、国立公文書館の権限をどう拡大するかということが有識者会議の中でずっと議論されてきた。
まさしく、この問題は有識者会議の議論の核となってきた部分であった。
そして、管理担当機関のあり方として、事務を内閣府に集中させ、国立公文書館を「特別な法人」として権限を強化することが最終報告書に盛り込まれた。

有識者会議の最終報告書には、「延長・移管・廃棄」の部分に次のような文言がある。(P9~10)

〔延長に関しての具体的方策〕
○ 保存期間の延長や延長期間の適正性を確保するため、公文書管理担当機関が定める基準に基づき、各府省の文書管理担当課がチェックする仕組みとする。
○ 各府省において基準に基づき適切な判断が行われているかについて、公文書管理担当機関がチェックする仕組みとする。
※ 基準において、延長期間の上限を設けることも考えられる。


〔移管・廃棄に関しての具体的方策〕
○ 移管・廃棄の是非について、より適切かつ効率的に判断できるよう、移管・廃棄基準の具体化・明確化を図り、移管基準に適合するものについては、原則移管とするとともに、公文書管理担当機関の判断を優先する仕組みを確立する。
○ 具体的には、①各府省において、ファイル管理簿にファイルを登録する際、保存期間満了時の移管・廃棄の扱いについて、公文書管理担当機関が定める統一的基準に基づき一次的な評価・選別を行う、②各府省の一次的な評価・選別の結果について、公文書管理担当機関がチェックする、③各府省及び公文書管理担当機関の評価・選別の判断について、文書管理に関する専門家(レコードマネージャー、アーキビスト等)が適切にサポートする仕組みとする。
※ このような仕組みを採る場合、ファイル登録時に判断できないものについては、その後の適切な段階(例:中間書庫(集中書庫)への引継ぎ時やその後の保存時)において判断することも可能とすべき。


これを見た後に法案を見てみると、その理念の違いがよくわかる。

有識者会議の最終報告では、主語のほとんどに「公文書管理担当機関」が入っている。担当機関がチェックする、基準を作る、ということが明確に描かれている。
特に、移管・廃棄については「原則移管とするとともに、公文書管理担当機関の判断を優先する」と、どう読んでも公文書管理担当機関の判断に基づいて移管・廃棄がなされるべきであるということが明確になっている。

これに対し、公文書管理法案は、主語が全て「行政機関の長」、つまり自分の省庁の大臣となっている。
そこに公文書管理担当機関の影は形すら見えない。
つまり、延長・移管・廃棄の権限は全て各省庁が握ったままで、公文書管理担当機関にそこに踏み込む権限は一切無いのである。

この法文で、これまで問題になってきた移管・廃棄の問題は解決されるだろうか。

100%ありえない。

むしろ、延長、廃棄、移管は完全に各省庁の権限であることに法的根拠を与えてしまう。
これによって、今まで問題になってきた文書隠しや廃棄が多発することは明白だ。

さらに、この問題に関連して、有識者会議の最終報告に載っていて、法案から抜け落ちたものがある。
それは、国立公文書館の権限の強化の問題である。

有識者会議の最終報告では、国立公文書館の権限を強めるために、現在の独立行政法人のままではあるけれども「特別の法人」とすること、公文書管理担当大臣を設けること、そして国立公文書館長をアメリカのNARA(国立公文書記録管理局)長官の地位(大統領による指名)を参考にしつつ、より格の高い存在として位置づけることも考えられる、との記載があった。(P20-22)

しかし今回の公文書管理法案の中には、国立公文書館の機能についての記載は文書の移管・公開・保存以外のことはほとんど書かれていない。
また、公文書管理法案には国立公文書館法の改正案がセットになっているが、これを読んでも、正直言って、「特別の法人」となったようには全く思えないのだ。。→こちら参照

つまり、これは明らかに「意図的に」権限の強化を見送られているのである。
延長・移管・廃棄に公文書管理担当機関が絡めなくなっているということは、官僚側はその権限を手放さないことを宣言したと同然である。
そのために、国立公文書館の権限の強化もあいまいに処理されているのである。

なんでこんなことになったのだろうか。
もちろん、官僚達がただ権限を手放したくなかったということもあるだろう。
でも、それ以上に、「現状のシステムの延長上として公文書管理法を捉えようとした結果」がこうなったのではないかと思うのだ。

つまり、官僚達は、今現在のやり方が変わることへの不安から、自分たちにとって使いやすい公文書管理法を目指した。
そして、国立公文書館の体制は貧弱であり、今は「移管廃棄を指揮するのは不可能」という「現状認識」から、こういった「実効性のある」(もちろん皮肉)法案を出したということなのではないのか。

でも、そもそもこの公文書管理法の原点は、官僚の仕事そのもののあり方を変えようという意図があったはずである。
それを忘れて作られた法案がザル法になるのは当然である。

しかし、官僚の抵抗がここまでとは私にも予想がつかなかった。
たぶん、非公開部分の拡大などには色々と注文が付くだろうというのは予想していたが、根本的なところをひっくり返してくるとは思わなかった。

よって、私は、公文書管理法案の第5条及び第8条の条文は、公文書管理担当機関の移管・廃棄に関する「優先的な」権限をきちんと書き加えた上で、原則的に保存期限が切れた文書は移管することを明記するべきだと考える。

以上で第4回は終わり。次回は文書の非公開問題についてです。→第5回


追記(3/9 16:00)
なお、公文書管理法第9条に、行政機関の長は文書管理について内閣総理大臣に報告義務を負っていること、また内閣総理大臣は、問題があるときには各省庁に資料の提出を求め、実地調査が行えること、また第10条に管理規則を決める場合には総理大臣の許可が必要という2つの条文から、各省庁が恣意的に移管や廃棄を行えないという解釈を導いている方もおられるかもしれない。

だが、私はそれこそ官僚の思うつぼだと思う。
あくまでも「報告」というのは、「事後」である。つまり、「廃棄してしまった後」にいくら調査をしても、捨てたものは返ってこないのだ。
もし、この2つの条文だけで制度を有効にしたいのであれば、誤って廃棄した際には罪に問えるという条文ぐらいがないと抑止力にはならないと思う。

追記2
上記の移管廃棄の問題については修正された。詳しくは下記の記事へ。
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2009-06-13
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【連載】公文書管理法案を読む(第3回)―問題点(1) 公文書の定義 [【連載】公文書管理法案を読む]

第1回はこちら
第2回はこちら

公文書管理法案を読むの第3回です。
今回から数回かけて、公文書管理法案の問題点について述べていきたいと思います。

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。

第3回 問題点(1) 公文書の定義

公文書管理法案の第2条には、この法律で使用される用語の定義がなされている。
この中で一番重要なものは、「行政文書」の定義をしている第4項の部分である。(「法人文書」も同様だが内容がダブるので省略。)
長いが重要なので引用してみよう。

4 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。第十九条を除き、以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
 一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
 二 特定歴史公文書等
 三 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)


先に「ただし」以降だけ説明すると、「一」はすでに公刊されているので図書館等の別の所で見てくれということ、「二」は国立公文書館に移管された文書、「三」は国立公文書館以外で保管されている行政文書(国立博物館など)のこと。この3点は特に問題ない。

問題なのは前半である。
特に、「当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして」の部分はものすごく注意しなければならない。

さて、この何が問題であるのか。
実はこれは情報公開法の行政文書の定義と同じである。
情報公開法を引用してみよう。(第2条)

2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
 一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
 二 政令で定める公文書館その他の機関において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの


ちなみに、この情報公開法の条文は、今度の公文書管理法の制定と合わせて改正される。もちろん、公文書管理法の第2条第4項と同じ文面になる。

さて、このことからわかるように、公文書管理法における行政文書の定義は、情報公開法を引き継いでいることは間違いない。

では、情報公開法と同じで何が問題であるのか。
実は有識者会議の最終報告が出たときの私の解説に、すでにこのことは一度記載してある。→こちら
その時に書いた文章を引用してみる。

この文章(引用注:上記した情報公開法第2条第2項)で最も重要なのは、行政文書は「組織的に用いるもの」のみという限定がついていることだ。
これだと、政策立案した時の文書などを「私的なメモ」と分類して勝手に破棄することができるようになってしまう。また、「共有」ということだから、結果的に「決裁文書」のみしか残らずに、なぜそのような政策が行われたのかについては追跡できないのである。

有識者会議の第3回の時に、高橋滋委員が情報公開法の組織共用文書の定義を公文書管理法に適用することに明確に反対していた。
高橋氏はこの時に、「記録保存型文書管理」の視点から文書管理を行うべきだと主張した。
つまり、その「適切な管理保存」とは、「当該意思決定の存在、過程、経緯を後に合理的に跡付けることができるために最低限度必要となる資料を残す」ということである。→詳しくは私の解説


「組織共用文書」という概念は、要するに「組織として共同利用した文書」ということである。
こうすると、例えば、最初に案を作って、色々な部署に根回しなどをしているときの文書は、「組織共用文書」といえるかは実はグレーゾーンである。

では、そもそも情報公開法の担当部署である総務省が、この「組織共用文書」をどのようなものだと考えているのかを、情報公開法の施行令第16条別表第二にある「30年保存しなければならない文書」として挙げているものから見てみる。


イ 法律又は政令の制定、改正又は廃止その他の案件を閣議にかけるための決裁文書
ロ 特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人(以下「認可法人」という。)の新設又は廃止に係る意思決定を行うための決裁文書
ハ イ又はロに掲げるもののほか、国政上の重要な事項に係る意思決定を行うための決裁文書
ニ 内閣府令、省令その他の規則の制定、改正又は廃止のための決裁文書
ホ 行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等(以下単に「許認可等」という。)をするための決裁文書であって、当該許認可等の効果が三十年間存続するもの
ヘ 国又は行政機関を当事者とする訴訟の判決書
ト 国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)第三十二条に規定する台帳
チ 決裁文書の管理を行うための帳簿
リ 第十六条第一項第十号の帳簿
ヌ 公印の制定、改正又は廃止を行うための決裁文書
ル イからヌまでに掲げるもののほか、行政機関の長がこれらの行政文書と同程度の保存期間が必要であると認めるもの


わかりにくいと思うが、要するに「決裁文書」と帳簿だけが並んでいることだけわかってもらえればよい。
つまり、「決裁文書」だけ残っていれば問題ないというのが、官僚側の総意なのである。
そうなれば、当然途中の「政策過程」の文書は残ってこないのである。

そして問題なのは、これはおそらく「悪意」があってのことではない。
官僚の意識として「決裁文書を残せば説明責任に足る」と思っているところに、この問題の根深さがあるのだ。

今回の公文書管理法案には、第4条として次の文章が入った。

行政機関の職員は、当該行政機関の意思決定並びに当該行政機関の事務及び事業の実績について、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、政令で定めるところにより、文書を作成しなければならない。

これは、意思決定についてきちんと文書を作らなければならないという条文で、非常に評価できる。
ただ、この条文をあえて前回、評価点に入れなかった理由は上記してきたとおりである。
つまり、この第4条が入ったとしても、その「意思決定過程」=「決裁文書だけでOK」という認識がそのまま引き継がれるのであれば、結局は骨抜きになるのではないかという危惧が私にはぬぐえなかったのだ。

現在、そして未来に対する説明責任とは、「何をやったか」だけでは果たせない。
「なぜやったのか」「どのような手続きを踏んでやったのか」ということがわからなければ、説明を果たしたことにはならないのである。

よって、公文書管理法第2条第4項は、行政文書の定義を拡大し「記録保存型文書管理」に近い文章に直すべきだと考える。

以上で第3回は終わり。次回は、問題点の(2)として、文書の移管廃棄問題を取り上げます。→第4回


補足
昨年制定された「国家公務員制度改革基本法」の第5条には、以下の文面が記載されている。

3  政府は、政官関係の透明化を含め、政策の立案、決定及び実施の各段階における国家公務員としての責任の所在をより明確なものとし、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
一  職員が国会議員と接触した場合における当該接触に関する記録の作成、保存その他の管理をし、及びその情報を適切に公開するために必要な措置を講ずるものとすること。この場合において、当該接触が個別の事務又は事業の決定又は執行に係るものであるときは、当該接触に関する記録の適正な管理及びその情報の公開の徹底に特に留意するものとすること。
二  前号の措置のほか、各般の行政過程に係る記録の作成、保存その他の管理が適切に行われるようにするための措置その他の措置を講ずるものとすること。


有識者会議最終報告もこの点を配慮した上で、文書の作成等について考えるべきだと記載していた(P5)んだが、どうやら官僚達には無視されたみたいだ・・・

追記
第4条の文書作成の部分は大幅に修正された。詳しくはこちら。
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2009-06-12
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【連載】公文書管理法案を読む(第2回)―公文書管理法案の内容 [【連載】公文書管理法案を読む]

第1回はこちら

公文書管理法案を読むの第2回です。
今回は公文書管理法案の内容を紹介していきたいと思います。

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。

第2回 公文書管理法案の内容
・公文書管理法案の簡単な説明

第一章 総則(第一条―第三条)
第二章 行政文書の管理(第四条―第十条)
第三章 法人文書の管理(第十一条―第十三条)
第四章 歴史公文書等の保存、利用等(第十四条―第二十七条)
第五章 公文書管理委員会(第二十八条―第三十条)
第六章 雑則(第三十一条・第三十二条)
附則

公文書管理法案は上記のような6章32条で構成されている。箇条書きで説明を付けます。
なお、青字にした部分は私から見て評価できる点。赤字にした所は問題点です。青字の所は今回解説します。赤字の部分は次回以降解説します。
なお、逐条解釈については、最終回の時に、表にして配布する予定です。

第一章は総論部分。
・法案の理念(1条)
言葉の定義(2条)
・公文書管理についてはこの法律が基本法であること(3条)

第二章では、行政機関における公文書管理について書いてある。
・意思決定文書の作成義務(4条)
整理管理規則(5条)
・保存義務(6条)
・ファイル管理簿への記載義務(7条)
移管廃棄規則(8条)
・管理状況の報告義務(9条)
・管理規則作成(10条)

第三章は、独立行政法人における公文書管理について。第二章の独法バージョンなので省略。

第四章は、国立公文書館等(「等」には宮内庁書陵部、外務省外交史料館が入っていると思われる)における文書管理のあり方について。
「国の機関(行政機関を除く)」(国会や裁判所)からの国立公文書館への文書移管を可能とする条文(14条)
・文書保存の方法(15条)
不開示にできる場合の規程(16条)
・情報対象の本人が請求してきたときの対応(17条)
請求された文書に自分に関連する情報が記載されている第三者からの公開への反論権(18条)
・文書の利用方法(19条)
・資料複写料(20条)
異議申し立て(21条)
・異議申し立て手続き(22条)
・資料の利用促進(23条)
・移管元機関からの利用に不開示無し(24条)
・資料の廃棄手続き(25条)
・管理状況の報告義務(26条)
・利用規則作成(27条)

第五章は、内閣府に作られる公文書管理委員会について。
・委員会の定義(28条)
・委員会へ諮問しなければならないこと(29条)
・委員会からの各行政機関・公文書館への資料等請求権(30条)

第六章は、その他。
・首相による行政機関への改善勧告権(31条)
地方公共団体への文書管理施策の要請(32条)

附則は、関係法の改正や施行日など。情報公開法や国立公文書館法の改正が書かれている。


・公文書管理法の理念の説明(1条)

まず、理念の話だけは先に。1条の法文は以下の通り。第1回の連載も参照。

この法律は、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。

私は基本的にはこれで良いのかなと思う。「現在及び将来の国民に説明する責務」も入ったので。
ただ、以前にブログに記載した、私も呼びかけ人に入っている、「市民のための公文書管理法の制定を求めるネットワーク」の設立趣意書にあるように、「公文書が公共財であり、市民の共有財産である」という記述が欠けている。
有識者会議の最終報告書でも公文書は「国民の貴重な共有財産」との記載がある(P1)ので、官僚が法案作成時に意図的に落とした可能性もある。

大きくはいじる必要がないとは思うが、付け足すべき条項がまだあるような感じがする。またここについては追記するかもしれません。


・青字の評価点について

青字で書いた部分は特に評価できる点です。簡単に説明します。

14条の国会や裁判所からの文書移管に道を開いたことについては重要。
これまで、国会や裁判所の文書は例外的なものを除いては全く移管されていない。しかも、あまり公開されてすらいない。情報公開法の対象外でもある。
しかし、このいずれも歴史的には重要な機関である。政策決定に関わってきた国会や、重要な判決をいくつも出してきた裁判所の資料は、歴史的価値も非常に高い。
この条文を入れることで、将来的な移管の可能性を作ったのは良いと思う。

次に21条の異議申し立てについて。
もし不開示部分があったときに、公文書管理委員会に対して異議申し立てができる。
これまでは、国立公文書館では館長に対してしか申し立てができなかった。また外交史料館や書陵部は、全く不服申し立てができなかった。
この法律で、第三者である委員会に対して異議申し立てできるのは大きい。特に今まで無かった外交史料館と書陵部は大きい。私にとっては特に。

最後に32条の地方への波及について。
都道府県レベルでも公文書館があるのは30にとどまる。残りの17県には存在していない。
この条文が入ることで、公文書管理の進展と、公文書館の設立が各地で進む可能性が高くなる。
ただ、できることならば、公文書館法にある附則「2 当分の間、地方公共団体が設置する公文書館には、第四条第二項の専門職員を置かないことができる。」の廃止もセットで行ってほしい。

この附則はアーカイブズ関係者から悪評の高い条文である。
この「専門職員」というのはアーキビストのことである。
専門職員がいなければ、文書の選別や保存などにも大きな影響を及ぼす。
専門職員の配置義務の記載された公文書館法第四条の2「公文書館には、館長、歴史資料として重要な公文書等についての調査研究を行う専門職員その他必要な職員を置くものとする。」を全館の義務にさせなければならないと思う。

ここで第2回は終わり。次回は赤字で記載した問題点のうち、第2条の公文書の定義の問題について書いてみたいと思います。→第3回
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【連載】公文書管理法案を読む(第1回)―公文書管理法とは何か? [【連載】公文書管理法案を読む]

既報のとおり、3月3日に公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)案が閣議決定されました。

そこで、本日より数回かけて、公文書管理法案の要点、問題点について書いていきたいと思います。
今後は、左の柱のカテゴリーに「2009年公文書管理法問題」を新設して、そちらに記事をまとめていきます。

まず第1回。今回は公文書管理法案がなぜ必要なのかという説明からしていきます。

公文書管理法案はこちらなので、法案を参照しながら見ていただければと思います。


第1回 公文書管理法がなぜ必要なのか。
・「国民に対する説明責任」

 この説明をするためには、「国民主権」ということから考える必要がある。
 国民が主権者であるということは、政府は国民から政治を委託されているという関係になる。
 そのため、政府の側は国民に対して、行った施策に対して説明責任を有することになる。

 この「説明責任」という概念が、日本では非常に弱いことが長年言われてきた。
 2001年に施行された情報公開法は、国民が政府の施策に対して情報の開示を求めることができるようにした法律であった。
 この法律は、政府、官僚側に対して「説明責任」を果たさなければならないという意識を植えつける意味でも重要な意味を持った。

 ただ、一方で大きな問題が持ち上がってきた。
 それは、「情報そのものが作られない」「情報を勝手に捨てて無かったことにする」という問題である。
 情報公開法はあくまでも「存在する公文書」に対する情報開示を求めるものである。つまり、実際の公文書がなければ、開示請求は意味をなさなくなるのだ。

 これが起きた理由は、「公文書管理法」がなかったためである。
 つまり、「施策を行う際には説明責任を果たす文書を作成・保存しなければならない」「廃棄は勝手にしてはいけない」ということを規制する法律がなかったのである。
 諸外国の事例を見ると、ほとんどの国では、むしろ「公文書管理法」が先にできて、「情報公開法」が後にできるという方が普通である。この二つの法律は国民への説明責任の核となるものとしてセットで考えられているのである。


・「未来に対する説明責任」

 次に、上記してきた「説明責任」について補足しておきたい。それは「未来の国民に対する説明責任」である。
 今までの説明は「現在の国民に対する説明責任」という話で進めてきた。
 だが公文書管理法の理念はそこに留まらない。

 現在政府が行っている施策は、その後数十年、場合によっては数百年後の未来にも影響を及ぼす可能性がある。
 例えば、現在の日本の政治システムが作られたのは、1945年の敗戦直後の改革の時である。
 この時の改革は、現在でも良かれ悪しかれ、我々の社会を規定している。
 もし現在を分析しようと思った場合、過去にさかのぼって、どうして今のような状況が作り上げられたのかを調べる必要が出てくる。その際に、きちんと「何をしたのか」がわかるような公文書が保存されている必要がある。

 つまり、公文書をきちんと作成し、それを保存するということは、「未来の国民に対する説明責任」を果たすことにつながるのである。
 だが残念ながら、明治以降の日本の官僚制は、きちんと説明責任を果たせるような系統立てた資料をほとんど残してこなかった。
 そのため、連合国占領期の改革を知るためには、アメリカの資料を使う以外に研究できなくなっている。これは占領期に限ったことではなく、日本戦後史を描くためにはアメリカに行かないと研究できないのが現状である。
 
 これまで、この「未来に対する説明責任」ということは、「現在に対する説明責任」以上に忘れ去られてきた。
 今回のこの法律は、その「未来に対する説明責任」が明記されている。
 この法律自体は、自分たちの子どもたちへ、現在の自分たちの政府が何をしたのかの記録を残させるものであるということは、頭の片隅においてほしいと思う。


・行政の効率化にも役立つ

 これまでの公文書管理のあり方は、官僚個人レベルに任されてきたと言っても過言ではない。
 一応、どの時にどのような文書を作らなければならないかという規則はあるのだが、どこまで守られているのかはよくわからない。
 そのため、関連文書を探すのも「だいたいこのへん」という担当者の勘で行われている。ファイル管理もきちんとなされていないし、情報管理自体も杜撰である。→有識者会議第5回資料6にそのあたりの実態は記載。
 また、担当者が変わってしまえば、文書の引継もきちんと行われないことも良くあり、以前にやっていた作業や施策が滞ることもありがちである。

 この公文書管理のあり方は、非常に作業効率を低下させている。また過去の経験を個人レベルでしか消化しておらず、組織としての経験に昇華できていない。
 そしてこのことが政策作成力の弱さにつながっている。→私が過去に書いた記事を参照
 公文書管理法は公文書の作成から保存まで、きちんとカバーする法律である。これがまともに機能すれば、過去の蓄積をもっと効率的に政策に生かすことができるようになる。つまり、「説明責任を果たす」というのは、同じ官僚仲間(将来の後輩)に対する説明責任でもあったりするのだ。
 
よく、この法案が官僚叩きだと勘違いしている人もいるようだが、そうではない。
これは官僚達にとっても、自分たちの業務が効率化され、政策作成能力が向上し、そして自分たちの仕事が「歴史」としてきちんと保存されるという、プラスの要素が多い法案なのである。


・なぜこの時期に公文書管理法案が出てきたのか。

 今回の、この公文書管理法の法案作成には、いくつかの偶然が重なった。

 最も大きかったのは、この問題に長年取り組んできた福田康夫衆議院議員が首相になったということである。→福田議員のこの問題への関わりについてはこちら
 福田元首相は、小泉内閣の官房長官時代から、公文書管理についての私的な懇談会を立ち上げており、首相になってからすぐにこの問題に取り組み、「公文書管理担当大臣」を任命し(現在は小渕優子氏)、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」を作り、法案作成を強力に推し進めていった。→会議の内容については私の連載参照
 有識者会議は最終報告書を11月に提出しており、今回の法律はその最終報告に基づいて作られたものである。→最終報告についての私の解説はこちら
 
 もう一つの追い風は、社保庁の年金問題や厚労省のC型肝炎資料放置問題、防衛省の「とわだ」航海日誌破棄問題といった、まさに公文書管理のずさんさから起きた事件が社会問題化したことであった。
 この一連の事件は、公文書管理法自体が絶対に必要であるということを、政治家や官僚も含めて認識せざるをえない状況に追い込む働きがあった。
 そのために、公文書管理法はこの通常国会に提出されることになったのである。

 なお、この公文書管理法は、野党の民主党にとっても重要法案と位置づけられており、党内にこの法案に対する作業チームが組まれている。前にこのブログで紹介した逢坂誠二議員などもこのメンバーに入っている。
 5月ぐらいに、国会でこの法案についての審議が行われる予定らしい。その時には、与党野党ともに熱の入った議論になることが予想される。

 ただ、解散になってしまうと、法案自体が廃案になってしまうので予断を許さないが、麻生首相が任期切れまで粘るのであれば、おそらく重要法案として国会で取り上げられることになると思われる。

以上で第1回は終わり。次回は、この法案の内容についての紹介をする予定。→第2回

追記(3/8)
以下に紹介する二つの記事は、この公文書管理法をわかりやすく説明していると思います。

・上川陽子議員(元公文書管理担当大臣)と尾崎護有識者会議座長の対談(上川議員のサイトに記載)
http://www.kamikawayoko.net/media/2003/2008102301.html

・政府公報「日本の過去・現在・未来をつなぐ公文書管理」(有識者会議の委員であった尾崎護、宇賀克也、加藤陽子、野口貴公美各氏の座談会)
http://www.gov-online.go.jp/pr/media/magazine/ad/images/ph224b.pdf
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