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【緊急連載】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の「中間報告」を読む(後編) [【連載】公文書有識者会議]

前編はこちら
第1回はこちら

後編です。
7月1日に、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」は、上川陽子公文書管理担当大臣に「「時を貫く記録としての公文書管理の在り方」~今、国家事業として取り組む~」と題する中間報告を提出した。
今回はこの解説を行っています。詳しくは前編や有識者会議の第1回からの解説を参照してください。

前編に引き続き、「中間報告」の解説です。今回は4以降。

4では「公文書管理のあるべき姿(ゴールド・モデル)に向けて」と題して、理想とされる公文書管理のあり方を書いている。
「主な問題点」「方向性」「具体的方策」とわけて書かれているので、本文を見てもらえれば何が問題なのかは良く判ると思う。
全部を説明するのは煩雑になるので、要点のみを書きます。

ここで問題とされているのは、前編でも書いたが「公文書の作成から公開までを一元的に管理するシステムを構築すること」にある。
現在の各省庁が勝手に作って、勝手に廃棄しているシステムは、問題がありすぎるのである。
だから、そこに強力な公文書管理機関を設立して、作成から廃棄・公開までの判断を全てそこに移すという案である。

ここは制度の肝である。
つまり、各省庁が公文書に対する権限を持っている限り、絶対に今の制度はよくならない。
公文書管理機関に強力な権限を与えるような制度が作られて、そこからやっと官僚文化の変革が起きるのである。
おそらく、制度ができても定着までには時間がかかるであろうが、法制化されれば官僚は従わざるを得なくなる。そこが重要だと思うのだ。

さて、この「中間報告」のこの部分を見ればよくわかるが、はっきり言って「何でこのレベルのことが行われていないんだ」ということばかりである。
ファイルの背表紙表示を統一するとか、何というか「小学生かよ!」ってレベルの話があって、本当に公文書管理がどうでもよいものと思われていたことがすごくよくわかる。

次に5「公文書管理担当機関の在り方」であるが、その冒頭に「機能・役割」があるので、そこを引用しておきます。

公文書管理担当機関は、公文書管理に関するいわば「司令塔」として、
①公文書管理に関する法令等の企画・立案・調整、
②作成・保存・移管等の公文書管理に関する基準の策定・改定、
③文書の延長・移管・廃棄への関与、
④文書管理の実施状況の把握と不適切な実態の是正、
⑤移管を受けた文書の保存・利用、
⑥専門的知見を活用した各府省・地方公共団体等の支援、
⑦国内・国外の関係機関との連携、
等の機能を担うべきである。


これを行うためには、権限が必要となる。

現在、公文書管理に関する職務は、内閣府と総務省に分かれて行われている。
さらに、公文書を公開する機関としての国立公文書館は「独立行政法人」である。→第2回の解説参照
この「中間報告」では、総務省の仕事を内閣府に移して一元化することと、国立公文書館の国家機関に戻す(あるいは「特別な法人」として、強力な権限を与える)ことが、案として示されている。
いずれにしろ、強力な機関を作ることは目的として譲れない一線として表明されている。(公文書管理担当大臣の常設化も述べられている。)
本当にこれは重要!ここが入らなければ制度改革を行う意味がないというぐらい重要。

次に、6「最終報告に向けて引き続き検討すべき事項」であるが、ここで注目すべき点は、「外務省外交史料館」と「宮内庁書陵部」の扱いである。
現在、省庁で国立公文書館以外の所に文書を移管することを許されているのが、外務省と宮内庁である。
この二つの省庁だけが、特例が認められている。
もし、国立公文書館の権限が強まったとしても、この二つが置いて行かれるようなことがあると、公文書管理体制が一元化されないことになる。
宮内庁と情報公開でやりあってきた私にとっては、ここは切実な問題である。
この点については、今後も特に注目していきたいと思う。

最後に7「早急に講ずべき事項」である。
ここでは、制度は当然作るけど、官僚の意識そのものの変革を求めることが特に強調されている。
また、公文書管理体制を担うことのできる専門家(アーキビストやレコードマネージャー)の育成の必要性が重要視されている。

福田内閣がつぶれなければ、今回の通常国会で「制度」は作られるであろう。
しかし、それに魂を入れるのは「人」である。
情報公開法の時のように、制度はできたが、そこに人員も金も全く割かないようにして、きちんと機能させないようなことがまかり通ってはならない。
その教訓は生かさなければならない。

今回の「中間報告」をまとめてみると、「理想論」をきっちりと出したことに意味があると思う。
内閣府が推進の側にまわっているのも大きいが、やはり「福田首相のお墨付き」という印籠は大きい。
福田内閣が来年まで持てば、相当に期待できる結果になりそうだ。

しかし、マスコミはもうちょっとこの「中間報告」をしっかり取り上げてほしいなあと思う。
後期高齢者制度などの話は重要なんだろうけど、この話は明治時代からの官僚制度の大改革なんだ。
福田首相ももっとパフォーマンスをするべきだ。「嫌い」という問題ではなく、自らの政策を国民に訴えることも政治には必要なはず。首相自らがこの改革の意義をもっと語ってほしい。
もっと大きく取り上げてほしいと、切に願うところだ。

以上で解説おしまい。少しでもこの問題に関心を持ってくれれば幸いです。
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【緊急連載】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の「中間報告」を読む(前編) [【連載】公文書有識者会議]

連載第一回はこちら

7月1日に、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」は、上川陽子公文書管理担当大臣に「「時を貫く記録としての公文書管理の在り方」~今、国家事業として取り組む~」と題する中間報告を提出した。

これまで、このブログでは、この有識者会議の議事録の解説を連載してきた(第5回まで)。
まだ第7回と8回の議事録が公開されていないので、とりあえずはこの「中間報告」についての具体的な解説を述べてみたい。
相変わらずだが長い文章で申し訳ない。できるかぎりわかりやすく書こうとすると長くなるもので・・・(それでもわかりにくいかもしれんが・・・)。

できれば、この報告書、全文読んでほしい。
非常に簡潔明瞭に書かれているし、何が問題で、どのような方向性で解決しようとして、具体的にどうするのかということを分けて書いてあるので、この問題に詳しくない人でも十分に理解できると思う。
はっきりいって、要約するのが難しいんだが、自分なりの視点で解説を加えてみたい。

まず、この報告書の目次を見てみたい。

目次
1.基本認識

2.公文書管理の改革目標

3.制度設計にあたっての基本的な考え方

4.公文書管理のあるべき姿(ゴールド・モデル)に向けて
 (1) 作成・整理・保存
 (2) 延長・移管・廃棄
 (3) 移管後の利用
 (4) 適正運用の確保

5.公文書管理担当機関の在り方
 (1) 機能・役割
 (2) 組織の在り方

6.最終報告に向けて引き続き検討すべき事項

7.早急に講ずべき事項
 (1) 公文書管理担当機関において取り組むべき事項
 (2) 各府省において取り組むべき事項

1から3までが理念の話。
4,5が具体的な制度設計。
6,7が今後の課題と捉えて良いと思う。

前編の今回は、1から3までの解説をしたい。

1の「基本認識」について。

まず、「公文書の意義」について書かれている。重要なところなので全文引用します。

 民主主義の根幹は、国民が正確な情報に自由にアクセスし、それに基づき正確な判断を行い、主権を行使することにある。国の活動や歴史的事実の正確な記録である「公文書」は、この根幹を支える基本的インフラであり、過去・歴史から教訓を学ぶとともに、未来に生きる国民に対する説明責任を果たすために必要不可欠な国民の貴重な共有財産である。
 こうした公文書を十全に管理・保存し、後世に伝えることは、過去・現在・未来をつなぐ国の重要な責務である。これにより、後世における歴史検証に役立てるとともに、我が国の文化等を高めることにもなる。この意味で、公文書は「知恵の宝庫」であり、国民の知的資源でもある。
 一方、公文書の管理を適正かつ効率的に行うことは、国が意思決定を適正かつ円滑に行うためにも、また、証拠的記録に基づいた施策(Evidence Based Policy)が強く求められている今日、国の説明責任を適切に果たすためにも必要不可欠であり、公文書を、作成⇒保存⇒移管⇒利用の全段階を通じて統一的に管理していくことが大きな課題となっている。
 このような公文書の意義にかんがみ、21世紀にふさわしい公文書管理システムへの道筋を示すことが、当会議に課された使命である。


ここで重要なのは、この公文書管理システム改革は「民主主義」のために絶対不可欠なものだということである。

これまで、繰り返し述べてきたが、「年金問題」はなぜ起きたのかよくよく考えてほしい。
あれだけずさんな文書管理、そしてデータ入力がまかり通ってきたのはなぜなのか。
それは、年金に関する施策が、全く過去を顧みずに行われたこと(ミスを訂正しない)、国民からの監視の目が届かなかったこと(ミスを外部から指摘されない)、などに起因するのだ。
まさしく、彼らが「過去の教訓を学ばず」「説明責任を果たさず」来たことに問題があったのだ。

国民が民主主義で主権を行使するためには、「正確な情報」が必要である。
もし、情報公開がもっと前から進んでいたらどうなっていただろうか。公文書管理がもっと早くからきちんとしていたらどうだっただろうか。
おそらく、多くの国民は年金問題をきちんと解決するという公約を掲げる政党に票を入れるのではないか。また、自分の支持政党にどうにかしてほしいと陳情をしたのではないか。

今は非常に実利的な例を挙げたが、いずれにしろ「正確な情報」無しに、「正確な判断」はあり得ない
この公文書改革は、今までの民主主義のあり方そのものを変えるものなのだということを、まずは認識してほしい。

さて、次に「我が国の歴史と諸外国の状況」があるが、ここは省略。
公文書管理の歴史が知りたければ、青山英幸『アーカイブズとアーカイバル・サイエンス―歴史的背景と課題』(岩田書院、2004年)をおすすめします(下記にamazonのリンクを貼っておきます)。
外国の状況は、第6回の会議で話がされているので後日書きます。いずれにしろ、韓国や中国などからもはるかに後れを取っているのが現状である。

その次は「新たな公文書館システムの構築に向けて」である。
ここで述べていることは要するに、「作成から利用までのライフサイクルを通じた公文書管理法制を確立し、公文書管理体制を充実強化すること」である。
これまで、「そもそも重要文書が作成されない」「ファイルの名前の付け方が部署によって違う」「勝手に廃棄する」などといった、各省庁(その部局)が勝手に文書を作成し管理し廃棄していた。
これでは、制度としてはむちゃくちゃなわけである。
それを一元化するシステムを作り上げるのが今回の目的だということなのだ。

これは、官僚文化そのものに対する挑戦にあたる。
この改革は、それまで自分たちの部局で何となく伝わってきた「慣習」みたいなものを強制的に変えさせて、ある一元化されたシステムに基づいて文書を作成管理すべしと法的に枠組みを確定させてしまうからだ。

福田康夫首相はどうも地味でオリジナリティが無いとかさんざんけなされるけど、私から見れば「消費者庁」設立問題もそうだけど、官僚文化に対して強烈な切り込みをかけているように思う。その点は、小泉元首相と似たようなことをやっているのである。
パフォーマンスに踊らされることなく、もっと「政策を見て判断」することが必要だと思う。そうでなくては「マニフェスト」など掲げるだけ無駄という話になりかねない。

話が脱線したので戻すと、次に2「公文書管理の改革目標」の説明に行きます。
これは短いので貼っておきます。

(1) 文書の誤廃棄や行方不明を防止するとともに、過去の記録の利用を容易にし、業務の効率化を図るため、随時文書の所在を特定できる文書管理システムを構築し、「文書の追跡可能性(トレーサビリティ)」を確保する。

(2) 文書作成義務の法定化、文書管理の基準の明確化、公文書管理担当機関の関与等により、文書管理サイクル全体を通して適切な管理を行う体制を整備し、「政府の文書管理に対する信用(クレディビリティ)」を確保する。

(3) 国民の共有財産、知的資源である公文書の利活用を促進するため、国民に対して、利用機会の更なる充実、利便性の更なる向上を図り、「文書の利用可能性(アクセシビリティ)」を確保する。

 以上を通して国の意思決定過程も含め公文書を体系的に整理・保存するとともに、国民の知的資源として後世に伝え、現在及び将来の国民に対する「説明責任(アカウンタビリティ)」を果たす。

ここの注目点は(2)である。
ここで明確に「法定化」と「公文書管理担当機関の関与」が書かれている。
つまり、「公文書管理法」を必ず作るということと、各省庁が勝手にやっている文書管理システムを管理できる機関を作るということがここでは明示されている。(具体的には5で書かれている。)

最後に3「制度設計にあたっての基本的な考え方」であるが、これはこれまでの内容の繰り返しになるので省略します。
この目的を実現するために、有識者会議は「ゴールド・モデル」を4で解説している。つまり「こうなったら理想」というのを書いたのである。
やはり、有識者会議は「現実的に可能な案」よりも、「あるべき理想」を掲げることを優先したということになろう。
これは、会議の流れからしても、おそらくそうなるだろうと思っていた。

この「理想論」はなかなか良くできていると思う。
これまで紹介してきた理念の部分も、国民からも政治家や官僚からも受け入れやすい形式を取っているし、理想論ではあるが相当に実現可能な案になっていると思う。

それでは続きは後編にて。

アーカイブズとアーカイバル・サイエンス―歴史的背景と課題

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  • 作者: 青山 英幸
  • 出版社/メーカー: 岩田書院
  • 発売日: 2004/05
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【連載第5回】(下)「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

第1回はこちら
第2回はこちら
第3回はこちら
第4回はこちら

第5回(上)はこちら

「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録の解説の第5回の後編です。
前編では、上川大臣の各省庁視察などの話を中心に書きました。
後編は、「中間書庫」の話を中心に書きます。

さて、この「中間書庫」とはなにか軽くおさらいをしておきます。詳しくは過去のブログ参照

文書には保存年限がある。30年とか10年とか。
でも、大体5年経つと使わなくなるケースが多い。
それでも30年保存の場合は保存しなければならない。でも、25年も置いておけば、紛失したりすることも多い。
だから、こういった文書を特定の場所に移動し、そこできちんと保存するシステムが「中間書庫」である。
これは公文書館側にもメリットがあって、「中間書庫」に入る段階でファイルをきちんと作っておけば、期限が切れて移管するときに、スムーズな手続きを取ることが可能になる。また、途中で紛失することもないのである。

この中間書庫システムの最先端を行っているのが神奈川県である。
そのため、有識者会議に、神奈川県立公文書館の石原一則氏が招かれて話をしたのである。

・・・・。
また1月の歴研総合部会で話したスピーカーの名前が登場したことになる。
高橋滋氏は委員。石原氏はゲストスピーカー。
私は凄いメンバーの中で話をしていたのだなと、改めて感じ入った次第。

さて、石原氏の話は相変わらず非常に簡明であり、資料7と議事録を見れば完全に内容は理解できる。
総合部会の時にもおっしゃっておられたが、神奈川県の文書の移管システムの良さは、「強制的に移管される」というところである。
つまり、廃棄権限は公文書館のみに置かれているのだ。「中間書庫」への移管も「義務」である。
総合部会の時、石原氏はこの仕組みができたのは「知事の理解」が大きかったという話をされていた。

やはり、今回もこの仕組みを機能させるためには、首相の決断力にかかっている。
移管の権限を公文書館に置くか、それとも各省庁に据え置くか。
ここは一番の論点となるであろうし、ここが骨抜きにされたら、おそらくこの改革は意味をなさないだろう。

前編で少し書いたように、各省庁は文書管理に「苦労」している。
議事録を見ると、野口貴公美氏も各省庁の論理を逆手にとって、「中間書庫」を設置することで行政の効率化を図れるということを主張している(P21-22)。

どうやら、中間報告の段階で、この「中間書庫」導入は相当に強く押し出される可能性が高まった。
ただ、この書庫を「散逸防止」のためだけに使っては困る。やはり、「移管をスムーズに行うための機関」としなければならない。
そのためにも、繰り返しになるが、移管の権限を各省庁から取り上げることが絶対不可欠である。
この点だけは、絶対に妥協してはならない部分だと思う。

以上今回はここまで。今月中に中間報告が出る予定なので、次回はこの報告が出たときに集中連載することになると思います。ここまでお読みいただきありがとうございました。

第6回アップしました。
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【連載第5回】(上)「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

第1回はこちら
第2回はこちら
第3回はこちら
第4回はこちら

「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録の解説の第5回です。

今回は、第5回目(5月15日)の解説をします。
当日配布資料が多く、かつ重要なので、2回に分けます。
前編の今回は、内閣府による各省庁の文書管理の実態調査と、上川陽子公文書担当相の省庁視察の結果についてを取り上げます。
資料の紹介を主にして、時おり議事録の話を混ぜます。

まず、内閣府による実態調査について。(資料3
この資料は中央の19省庁の文書管理への取り組みについて調査したものである。
全てを紹介するのは無理なので、私が興味を持ったところのみをピックアップします。

1 行政文書の作成保存
―(2)文書作成・保存に対する考え方―イ.行政文書の作成・保存レベル
行政文書ファイルに保存しているのは、課長への説明で使用したものから作成保存しているとの回答が11省庁と最も多い。
問題は次で、決済案件についてどの段階から文書を保存しているかという質問に対し、「部局外発出」が3省庁、「決裁文書のみ」が3省庁あることだ。
外に出した時にやっと残す省庁は問題あると思うが、内部検討文書を全く残していない省庁すら3つも存在するのである。
これでどうやって国民への説明責任が果たせるのか。「決裁文書しか残らない」という話は以前から問題になっていたが、未だに意識が変わらない省庁がかなりあるということに驚かされた。

―(4)行政文書の保存の状況
文書管理担当課が集中して管理をしている省庁が7省庁、残りは各部局が分散管理している。
集中管理が当然望ましいのだが、集中管理をしている省庁でも、移管する時期などがバラバラである。

2 行政文書の延長・廃棄・移管
―(1)延長・廃棄・移管状況
保存期間が満了した文書は計104万件。そのうち、延長が8.5%(約9万)、廃棄が90.8%(約95万)、移管が0.7%(約8千)である。
この点については、すでに西日本新聞が報じていることをブログで紹介したのでそちらを参照。
移管率の悪さと同時に、延長率の高さも気になるところだ。

3 管理体制
―(3)管理台帳―イ.行政文書ファイル名の設定方法
記載方法の統一を図っているのはわずか2省庁。見直しなどを行っているのもわずか3省庁。
ファイル名の不備の話は相当以前からこのブログで話題にしているが、何とかならないものか。
ファイル名が内容と適合していなければ検索しようがない。それに、省庁内でファイル名を統一されていないと、内部の人だって困るだろうに・・・。

―(4)監査・点検―オ.申合せに基づく点検の状況
行政文書の管理状況について点検したところ、行政文書ファイル管理簿に登載された行政文書ファイルの記載事項に漏れや誤りがあった省庁が16。他にもミスが多いようである。
もちろん、そのミスが一省庁当たり「何件」あったのかが重要なのだが。そのデータはここからはわからなかった。


以上であるが、これを見ていると、やはり各省庁の取り組みは「ぬるい」という印象を抱かざるを得ない。
そしてこの状況への言い訳が、資料5につながる。

次に資料4から6までの話。
資料4は上川公文書担当相が各省庁を視察した結果報告書。
資料5はその時に聴取した各府省の意見。
資料6は各省庁に派遣されている民間人の意見。

細かく紹介すると大変なので大まかに。

まず、全体から見て取れるのは、各省庁の文書管理のあり方はバラバラであるということだ。
そして、例えば「ファイルの色の統一」というレベルのテクニックすら、各省庁で意識が共有されていない。
たしか、公文書管理の意見を調整するための連絡会議が置かれていたはずだが、そういったものはただの「通達」機関と化していて、こういった知の共有という所には全く利用されていないということが良くわかる。

次に、各省庁は文書管理のための人手が足りないことを盛んに強調する。そして、文書の移管基準や保存基準が曖昧でよくわからないとか、移管協議に時間がかかるのが大変などと言うのだ。
そのくせ、移管して公開されると困ると言って、文書を移管しないことを正当化する


何というか「ぬるい」。
だけど、この官僚達の回答はある意味有識者会議にとっては有利に働くと思う。
つまり、ここまで言っているからには、「では専門の職員を入れて、その人に管理をさせればいいではないか」という意見を当然受け入れなければならなくなるはず。

議事録でも、尾崎護座長(元大蔵次官)が「恐らく各省庁の仕事にアーキビストから口を出されたくないというのが各省庁の感覚じゃないかと思っていたんですが、紙に書いたものを与えられても、幾ら詳しく書いてもらっても判断つかないということが心配であれば、むしろ相談する人がいれば、相談した結果こうですと、移管しますとか中間書庫へ持っていきますとか言えますから、恐らく各省庁の担当者もそのほうが気が楽じゃないかなという気がしてきましたね。(P23)と官僚の論理を逆手に取った公文書館の権限拡大論を挙げている。

この意見に対して、各省庁が抵抗したら矛盾したことになるはずだ。
でも抵抗するだろうが。

もう一つ、議事録の加藤陽子氏の発言も引いておきたい。

「廃棄がやはり9割に達するというのは、私にはかなりやはり衝撃でした。あるいは、情報公開法第5条の4から6にかかわる事項への懸念、公文書館に移管すると公開されてしまうというような懸念ですよね。つまり、すでに今から30年も前の、1978年につくった文書に関しても、なお懸念を持つ方々が、ある意味、廃棄に関してはこれだけ大胆になれるというのは、私は逆に衝撃でした。つまり移管した後、何かこの時代に熱心な学者が見に行って何か暴かれてしまったら困る。しかし、逆に廃棄という点では9割の決断がこれだけきれいになされてしまうというのも、逆に衝撃ですね。」

これは本当にいいところを突いた指摘だと思う。
つまり、官僚達は移管基準がどうのとか言い訳をするけど、「文書を捨てる」ことは全くためらわない。これでは「移管がどうの」という以前の話だろう。
でも、官僚達は「忙しい」のだから、国立公文書館が「代わりにやってあげれば」よいのだ。これは後編で書くことになる「中間書庫」の設置への追い風にもなるだろう。

少し脱線したが、民間人に官僚の文書管理についてコメントさせている資料6についても少し。
民間人から見ると、官僚の情報管理のあり方は「ザル」みたいらしい。
文書を机に積み上げておくということ自体、情報管理の不徹底さを表しているなんていう指摘もあり、非常に辛辣な意見が多い。
特に強調されているのは、文書管理自体が人事評価の対象となっているから、これをうまくこなすことに対するモチベーションが必然的に高くなるということだ。
これは官僚組織でも導入されて良いことだと思われる。

さて、もうすでに相当に長いのでこの辺りで切ります。本当はもう少し議事録から引用したかったのだが。委員達のコメントは官僚の言い訳の論理を逆手に取って「中間書庫の設置」や「国立公文書館の権限拡大」を述べている人が多く、官僚に丸め込まれていないことがわかる。
是非このまま突き進んで行ってほしいと思う。

後編へ続く。
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【連載第4回】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

第1回はこちら
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カテゴリーに「【連載】公文書有識者会議」を作りました。連載だけ読めるようになります。

5月初めに集中連載した「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録の解説の続きです。
今回の連載は議事録が公開されている第4回と5回を連続して行おうと思います。

それでは第4回(4月28日)です。
今回は、行政学者からのヒヤリングということで、行政学の大家、村松岐夫氏(京大名誉教授、学習院大教授)の話を中心にして進められた。

村松氏の話であるが、何というか「漫談」的なノリで、やや実証に欠ける感があった。ただ、要点を押さえているところはさすがというかなんというか。

内容はこれまでも議論になったことが多い。主に挙げると

・国家や民族が記録を残すのは本能。いいことも悪いことも含めて歴史を残すことに関心があるはず。また、意思決定過程を残すのも国民の利益に沿う。
→一方、人には情報を隠したい本能がある。だけど公文書は国民の財産だから、その本能は抑えるべき。
公文書担当大臣は常設しておくべき。そうでないと、閣議や国会に直結せず、公文書管理の新たな政策を打ち出すのが難しくなる。公文書館の権限を強くする必要。
・無断廃棄には制裁措置が必要。
・人を増やすことが必要。ヒューマンリソースが不足しているなら、特定作業に特化した(文書の目利きとか)形で対応する組織化もありではないか。

他にも、そもそも「設置法」の様な形で組織が作られていること自体にも問題がということも話されていたが、この話はやや脱線と思われる。

そして最後の一言

「私から言うと、外国の資料で歴史を書くのは不愉快である。日米行政協定とかいろいろあって、なかなか出せないものもあるでしょうけれども、アメリカ側から資料が出てくる、韓国側から資料が出てきて昭和20年代を書くのは嫌であり、日本の資料をもっと利用したいという感じがあります。感情的な表現をしましたが、日本の歴史や政党決定の現状分析は、外国の文書だけを利用に書くのは、バランスを欠く結果になるということを申し上げたいわけです。(議事録P8)

これは、村松氏が言うことに価値があるセリフだと思う。
もちろん、誰もがそういうことは思っているわけで、これを長年戦後政治の分析をしてきた村松氏が言ってくれることは大きい。

この村松氏をめぐる議論は、あまり新味がないので省略。

次に、これまで3回の議論をまとめたもの(資料2資料3)を元にして、さらに議論がなされた。
ちなみに、この資料2と3は、これまで私が紹介してきた議事録をまとめたものなので、見ておくと頭の整理にはなるかもしれない。この後の議論もまとめ直しの議論なので略。

最後に、菊池光興国立公文書館長が、韓国が新たに建設したNARA記録館(国立公文書館)の開館式に出席したことを報告した。(規模拡大のために、ソウル市郊外に新たな施設を作った。)
韓国は金大中政権のころから、ずっと情報公開に積極的に取り組んできた。
これは、自らが主導した民主化運動の仕上げという形でなされている。もちろん、暗部を晒すことによって、民主化運動の正当化を図ろうとしたとも言えると思う。
ただ、この動きによって、韓国はものすごい勢いで、公文書管理体制を強化していった。
また、菊池館長によれば、記録管理手法そのものの強化によって、ビジネス経営にも活用されることも想定されていて、ビジネス界からもお金を出させているんだという。

そこにある理念の一つには、「記録の重要性が、単に証拠的記録を保存する道具としてだけではなくて、韓国をさらに一段高い国家として発展させるための知的社会を構築する、知的資源として認識されるべきこと」とある。
つまり、韓国は「国益」のため、民主化運動の「誇り」のため、そして情報化社会に合わせた知的社会の構築までもアーカイブズに託したのである。
これは、ナショナルアーカイブズを作る時の国家戦略としては、真っ当なやり方である。

この開館式には、李明博大統領を初め、政府高官そろい踏みだったらしい。
すでに、日韓条約文書が韓国側で公開されており、これから先、日本との関係の文書が次々に公開される可能性が高い。
まさに、村松氏が述べたように、日本の歴史は韓国の史料を使って書かなくてはいけない時代がくるかもしれないのだ。
この問題は、もっと深刻に捉えられてよいように思う。特に保守系の歴史を重視される方々には。

以上です。次回の更新は数日内に行います。
第5回(上)へ続く
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【連載第3回】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

第1回はこちら
第2回はこちら

連続更新も3日目。
「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録の解説の第3回です。

今回は、第3回目(4月9日)の解説をします。
第3回目は、委員である高橋滋氏と宇賀克也氏の二人の行政法学者の報告を中心にして議論がなされた。

資料1が高橋滋氏の報告レジュメ。
資料2が宇賀克也氏の報告レジュメである。

まずは高橋滋氏の話から。全部は紹介しきれないので、要点のみ。(レジュメ自体が文章化されているので読んでもわかりやすい。)
高橋氏は、1月に行われた歴史学研究会総合部会で私と一緒に報告をされた方である。
その時は、2006年に行われていた「公文書管理法研究会」の政策提言の話をされていた(一番下にAmazonのリンク)。
これは、福田官房長官時の公文書の有識者懇談会の答申を受けて、実際に文書管理法を作ったらどのようになるかということを、NIRA(総合研究開発機構)の委託事業として行われたものである。
高橋氏は、この研究会の座長をされていた。
今回のレジュメのP1の「はじめに」の③で「「公文書管理法研究会」の作業からは、積極的な方向に一歩進んだ段階にあるものと認識している」と高橋氏が述べているということは、研究会案よりももっと厳格な公文書管理法の制定を想定しているということが伺える。

さて、高橋氏のレジュメの中で一番重要だと思うのは、「2 定義に関すること」の④「組織共用文書」の概念の拡大の問題である。
情報公開法は、その公開対象となる文書を「組織共用文書」に限っている。
つまり、個人が作ったメモとかは公開対象にならない。あくまでも、「組織」が「共用」している文書のみである。
そのため、どうしても「決裁文書」(最終的に政策が決まった時の文書)しか残らないのである。

だが、これだけでは残す意味が非常に低下する。
普通、公文書の公開を要求する人は、「どのような経緯でその政策が決まったのか」に興味があるはずである。
でも、現在はそのような「経緯」の文書については、「組織共用文書」の枠外に置かれているケースがほとんどである。
しかし、個人のメモのレベルまで残せと言われた場合、その管理やファイリングの仕方などが煩雑になりすぎる。

そこで高橋氏は「記録保存型文書管理」の視点から文書管理を行うべきだとする。
そして、その「適切な管理保存」とは、、「当該意思決定の存在、過程、経緯を後に合理的に跡付けることができるために最低限度必要となる資料を残す」ということであると明確に定義した(P5)。
言われてみれば当たり前のことなんだが、要するに「個人のメモ」か「組織共用文書」かという問題ではなく、「その政策がどうやって決定された(決定されなかった)のかがわかるように文書を残す」ということである。

それ以外にも、高橋氏は、公文書担当官庁に公文書の作成保管を評価監視する権限を与えるべきだと主張されており、これは前回の資料1の1案(アメリカ型)の構想に非常に近いものだと思う。
また、最後に公務員の文書管理に関する技能習熟の必要性について強調されていたのが印象的である。
これは後の議論の中で出てきていたのだが、ドイツでは、公務員の職に就くために行政専門の学校に3年間通わなければならず、そこで行政文書の作成から保存までのやり方を徹底して学ばせるという。そのぐらい、文書管理の重要性を公務員にたたき込んでいるのは素晴らしいと思う。


次に、宇賀克也氏の話であるが、3回前のブログで書いた講演会の話と内容が完全に重複するので、4月24日のブログを参照してほしい。

1点だけ繰り返しを承知で述べておくと、文書管理の「司令塔」となる官庁(部局)の必要性を強調しているので、やはり高橋氏と同様、前回の資料1の1案(アメリカ型)の導入を強く主張しているというのが印象的である。

これに基づいて討論がなされたわけだが、気になる発言をいくつか拾ってみたい。

・アメリカのNARA(連邦記録管理庁)の権限についての質問。
→NARAは、長官が大統領によって任命されるために非常に地位が高い。また、文書を捨てるか残すかも全てNARAが権限を握っていて、勝手に捨てると罰則がある。つまり、文書の作成から破棄保存までの、全ての文書のライフサイクルを管理する権限を有している。

・国民、公務員、国立公文書館のそれぞれにメリットが生まれることをアピールするべきである。
→これは最近のアーカイブズ学者や公文書館関係者の方が強調されることでもある。つまり、国民にとっては情報公開、公務員にとっては情報の整理、公文書館にとっては公文書のライフサイクルの掌握、という三者にとってメリットがあるということ。
これは、抵抗勢力である官僚向けによく使われる言説である。

官庁として設置する法律は、結局政治の判断の問題である。(前回も書いたように公務員の人数を増やすことには、行革推進法のために、全体的に消極的になっている。)
→朝倉敏夫委員が「超党派議連という形でなぜできない」(P26)と主張しているのは全くもって同感。今回の公文書管理問題は、自民党と公明党だけでなく、民主党や社民党、ひょっとすると共産党ですら乗ることができる話のはず。そうすれば、抵抗勢力たる官僚に対して、相当なプレッシャーになるはずだ。

やはり全体としては、「公文書管理庁」設立の方向へ向かっているような感じではある。
ただ、やはり最後まで残るのは、公務員の定数の問題となる可能性が高い。つまり、高度な政治判断が必要ということである。
福田康夫政権が次の通常国会まで命脈を保っていれば、たぶん首相判断で行けると思うがどうやら可能性は微妙な感じ。
さて変わった場合、麻生政権?でも民主党政権でもいいけど、首相がその「決断」をしてくれる力を持てるかどうか。

以上で3回目おしまい。
4回目以降は、6月上旬に、また今回のようにまとめて集中連載をする予定。
こんなに長い文章を3回分お読みいただき感謝します。少しでも、この問題に興味を持っていただけたら幸いです。

第4回をアップロードしました。

政策提言-公文書管理の法整備に向けて

政策提言-公文書管理の法整備に向けて

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 商事法務
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 単行本



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【連載第2回】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

第1回はこちら

「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録の解説の第2回です。

前回説明し忘れていましたが、連載1回=議事録1回分という考えでやっています。
なので、前回は第1回目(3月12日)の分の解説だったわけです。
ちなみに、議事録や参考資料は、上記の有識者会議のリンク先ですべて公開されています。

今回は、第2回目(3月31日)の解説をします。

第2回で話し合われたのは、主に「国立公文書館のありかたをどうするか」という点である。
前回説明したように、国立公文書館は「独立行政法人」になっており、「国家機関」ではない。
そのため、文書管理に関与しようとした場合、国家機関でない国立公文書館に権限が賦与されることは考えにくいのである。


さて、本論に入る前に、今回の重要な裏事情(裏ってほどではないが)を先に説明。

国家公務員は定数が法令で決まっている。
例えば、宮内庁ならば、侍従は何人までとか、どの部署に定員が何人までとかいったように、人数が厳しく統制されている。
そのため、ある部署で足りないから配置を換えるという企業ではあたりまえのことが、簡単にはできないシステムになっている。

さらに、行政改革推進法の影響で、国家公務員の定数削減が義務づけられている。→詳しいことを知りたい人はこちら
そのため、どの省庁も定数削減ノルマを一律に課されている。
だから、どこかを増やそうとした場合、どこかの部署を減らさなくてはならない。

法で決まっているわけだから、これを変えようとするには国会での議決が必要になる。
しかし、どこの省庁も自分たちの所が減らされているわけだから、特例でどこかの省庁の定員を増やすということには、横並び体質から反発が起きやすい。
つまり、定数を増やす場合には政治的判断(政治的突破力と言ってもよい)が求められるのである。

これが前提の話。


さてそれでは今回の解説。
まず今回の重要資料の紹介。

資料1 文書管理行政と国立公文書館について(案)〔PDF〕
資料2 文書のライフサイクルにおける課題(例)〔PDF〕

資料1は、文書の作成から廃棄(保存)までの管理を行う場合、官庁と国立公文書館の関係をどう変えればよいかという案を4点出している。
今回の話の肝なので、詳しく説明する。(○はメリット、×はデメリット)

1.内閣府に公文書管理庁を置く。(アメリカ型) 
 ○文書管理サイクルを通じた一括管理が可能となる(アメリカのNARA(連邦文書管理庁)がモデル)。
 ×官僚組織の組み替えの困難さ。組織・定員の問題。

2.現在の体制を維持したままで、機能の強化を図る。
 ○現行制度をベースとするので、スムーズに強化に乗り出せる。
 ×独法である以上、権限拡大には疑問符。

3.国立公文書館を「特別な法人」として、関係省庁と強力に調整ができる権限を与える。(英国型)
 ○法人の独立性と権限強化を両立できる。
 ×そのような法人は存在していないので、新たな概念を作る必要。また結局は独法であることは変わらないので権限強化に限界。

4.独法化以前のように、内閣府の一部局として国家機関に戻す。
 ○国家機関としての位置づけが明確になる。
 ×国家公務員制度の中に入るため、定数や予算の縛りがきつくなる。元に戻るだけでは内閣府の一部局になるにすぎない。

また、2頁目に外国の国立公文書館が、政府内でどのような位置づけがされているのかを一覧表にしたものがある。

資料2は、現在の文書のライフサイクルにおける課題をわかりやすく表にしたものである。
例えば、「そもそも重要文書が作成されない」「ファイル管理簿とファイルの保存状況が一致しない」「重要文書が勝手に廃棄されたり、保存延長されたりする」などがある。
非常にわかりやすくまとめてあると思う。

さて、それでは議事録を見てみる。
今回は、内閣府の方から、資料の説明があり、具体的に文書のライフサイクルを管理するにはどうすればよいのかについて、特に管理機関をどのように位置づけるかということが話し合われた。

委員の意見の圧倒的多数が、資料1の1案の支持者である。
これは結構意外ではある。
どうしてもこういった会議では、現実的な落としどころへと誘導されるという傾向が強いように感じるが、この中では一番困難な道である(と同時に、実行できれば一番効果が高い)1案を推す意見が圧倒的に多い。
前回最後に紹介した戸井田みのる政務官が、「公務員の定員数がどうのというのは気にせず、どれが理想なのかを打ち出して欲しい」と主張しているように、政治家の側もある程度理想主義的なものが出てきて構わないという感じも見受けられる。
ただ、官僚の答弁者は、定数の変更の困難性については強く主張していたが。

今回は個々の委員の発言を取り上げて解説しないが、大まかに次のような意見が主流だったように思う。
・公文書管理庁設置が理想。国立公文書館も国家機関へ。ただし、人事や定数の自由(専門家を雇い入れるなど)の確保を法律の文章に入れる必要がある。
・実際に、公文書の作成から廃棄保存までの全てに関わる機関を作ろうとした場合、1案以外には考えにくい。

そして、4案を支持する人も一部いたのだが、その発言に対して、オブザーバー参加の菊池光興国立公文書館長が、「ただ昔の立場に戻るだけなら、保管・保存業務だけをやっていれば良いという話になりかねないし、それは世界の主流に反している」とやんわりとではあるが、かなり強力に反対をしていたのが印象的であった。
国立公文書館としても、できれば1案で行きたいと思っているのかなと感じた。

いずれにしろ、議論の流れは、明らかに文書管理業務を担当する部門に、強力な管理権を与えるべきというのが、官僚・政治家も含めての流れのように感じる。
この流れで行くなら、中間報告は「公文書管理庁」設立案として出てくる可能性が強いのではないだろうか。
こういった流れを止める傾向のある官僚が、強い抵抗をしているようにも見えないので、やや期待している。

以上第2回はおしまい。
会議で議論になっていた「どのような種類の文書まで残すのか」という話は、次回の高橋滋氏の報告と絡めて書きます。

あと、ちょっとうれしかったこと。
高橋伸子氏と尾崎護座長のやりとり。少し長いけど引用。(P15~16)

○高橋委員 
ただ、各省庁の中で気になる点が幾つかあるんですけれども、1つは宮内庁ですが、これはどうなるんでしょうか。私も学生時代に宮内庁の書陵部には入れていただいたことがあるんですが、今も歴史的なものは一般閲覧をしているようですが、文化的とか学術的研究の部分というのをどこまで公開してくれるのかというあたりをどうするのかという問題が気になります。
それともう一つは、外交、防衛ということで、外務省とか防衛省の持っているものに関しては(中略)外務省とか防衛省のほうは国家機密とかセキュリティーの問題でいろんなことの公開に関してかなり独自の判断がおありのようなんですね。ですので、そういったものがどうなるのかということに関しても国民的に関心を持っておりますので、御検討いただけたらと思っています。
○尾崎座長
宮内庁のことは余り考えてみたことがなかったんですけれども、なるほど、そうですね。外交資料、防衛資料についてはちょっと特殊性はあると思いますけれども、今はだからちょっと考えが分かれていますね。それをどうするかですね。諸外国の話を聞くときに一度そこを聞かせていただきたいと思います。

よくぞ、宮内庁、外務省、防衛省のことを取り上げてくれた!
この点は重要な話なので、ぜひ忘れないでほしい。

次回へつづく→第3回
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【連載第1回】「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の議事録を読む [【連載】公文書有識者会議]

「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」が設置されてから2ヶ月近くが経過した。
年金問題や厚生労働省の書類放置問題、防衛省の航海日誌破棄問題と、公文書管理のずさんさが実際に国民に影響を与えていることが浮き彫りになったこともあり、追い風が吹いていることを実感する。
また、福田首相肝入りの会議であるせいか、非常に活発な議論が展開されており、私としても非常に期待をして見ている。

今回より、この会議の議事録の紹介と解説をしていきたいと思う。
できるかぎり、前提となる知識無しで読めるように努力したい。それなので、一回一回がえらく長くなります。申し訳ないです。
とりあえず前提として、以下の私の記事を参考にして下さい。

公文書管理問題って何?
福田氏と公文書管理問題
公文書管理問題がなぜ今問題になるのか?
もっと具体的に(防衛省の航海日誌破棄問題に関して)
有識者会議って何?

さて、そうは言っても、内容が説明と合致している訳ではないから、少し経緯から話を始めます。


そもそも、公文書とは行政機関等が事務の遂行のために作成する文書のことである。
もちろん、作ったからには、最終的には専門機関で保存するか、廃棄するかを決めなければならない。
日本ではこの保存機関として「国立公文書館」が置かれている。
しかし、この国立公文書館は全くといってよいほど権力がない。

公文書とは、そもそも国民の税金で賄われている行政が何をしたのかを説明するための文書でもある。
だから本来ならば、国民への説明責任として、これらの文書をきちんと残す必要があるのだ。
だが、現在のシステムは、各省庁側に公文書を残すか破棄するかの権限を持たせている。
そのため、そもそも説明責任を果たすべき文書が作られなかったり、勝手に破棄されたり、省庁の中で隠されたりということが今でも行われている。
これが原因となって、年金問題などが起きているということは、みなさんもご存じではないだろうか。

そこで現れるのが福田康夫氏である。
福田氏は昔、地元の支援者から、前橋市の第二次大戦直後の写真をほしいので探してほしいと依頼されたことがある。
その時に、役所などに問い合わせても全く見つけることができなかった。ところが、アメリカの国立公文書館に行ったときにその資料を探したら、わずか10分で該当する写真が出てきたのだ。
福田氏はその時に公文書問題に関心を持ったらしい。
その後、小泉政権の官房長官時代に、有識者会議を設置して様々な制度の検討を行ったのである。(この会議については、上記の「福田氏と公文書管理問題」参照。)

そして福田氏は首相になって、この問題に積極的に取り組み始めた。
そこで設置されたのが、始めに書いた「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」である。
またこの時に同時に、公文書管理担当相が設置され、上川陽子少子化担当相が兼任することになった。
今回の有識者会議は、官房長官時代の会議の延長で置かれており、メンバーも相当に重複している。(そのあたりは、上記の「有識者会議って何?」に解説。)

この有識者会議のメンバーを少し分類して見ると(敬称略)

官僚出身・・・尾崎護(座長)
行政法学者・・・宇賀克也、高橋滋、後藤仁、野口貴公美
歴史学者・・・加藤陽子
その他・・・朝倉敏夫(マスコミ)、加藤丈夫(財界)、高橋伸子(ジャーナリスト)


1回目の会議の自己紹介(議事録P3~5)を見ていると、高橋伸子氏以外は、この問題についてそれなりの知識がある人がそろっているようである。

第1回目の会議では、まず基本的な制度についての解説があった。
見ておくべき資料は、とりあえずは
資料4 現在の公文書管理の仕組みについて〔PDF〕
資料7 我が国の公文書館制度について〔PDF〕
の2つである。

資料4は、現在の公文書管理の仕組みを図示したものである。
見てもらえれば良くわかるが、情報公開法やその施行令で色々な文書管理の規則があるのだが、それは各府省の管理規則によって実行されており、国立公文書館が蚊帳の外に置かれていることがわかるであろう。

資料7は、国立公文書館の解説である。
注目すべき点は、国の公文書を管理する機関なのに「独立行政法人」であること。そして、職員がたったの42人しかいないことである。

この資料を基に、会議でフリートーキングが行われた。いくつか興味深い発言を拾ってみよう。

まず冒頭で上川大臣から、この会議での主な論点を5点挙げた。

1.公文書管理を行う意義・目的とはなにか。
2.歴史的文書の保存という観点から、民間の貴重な文書等も含めた文書管理のありかたとは。
3.公文書の作成・移管・保存(廃棄)までの文書のライフサイクルの確立方法は。
4.デジタルアーカイブズをどうするか。
5.国立公文書館の権限強化をどうするか。(公文書館推進議員懇談会の緊急提言も参照→詳しくは私の解説

そして、各省庁の大臣に、当分の間、文書廃棄の中止をお願いしたと発言した。
これは非常に重要なことである。情報公開法ができたときに、施行直前に省庁にとって都合の悪い文書が大量に破棄されたということがあったように、制度ができる直前に、むりやり文書を破棄することなどがまた行われてはたまらない。
守られるかは別として、このお願いにはそれなりに実効性があるだろう。

そして、山崎日出男内閣官房公文書管理検討室長(最近設置された)が、簡単な制度解説を行った。
その際に、山崎氏は、有識者会議の中心議題として、「法制度の検討」「国立公文書館の体制整備」を明確に打ち上げた。
内閣府はかなり本格的に制度に手を付ける覚悟はあるようである。

その後、ざっくばらんに色々と話があったのだが、注目した発言は以下の通り。

・加藤陽子氏
「一番時間がかかりそうなのは、検討項目3の、恐らく文書管理の3つ目の黒丸でしょうか〔注:上川大臣の発言の3点目〕、制度の適正運用を確保する仕組みの在り方、ここではないかと。つまり、日本は戦前と戦後というのはやはり45年でくっきり分かれているところでありますし、例えば外務省、例えば防衛省、それぞれ資料館のようなものを持ってきていると。それ以外も今さまざまに各省でも記録管理がなされている。ですから、それをどうやって統合し、例えば今上川大臣が廃棄をしばらくやめてくれと閣僚懇談会でおっしゃられたというのは非常にいいことだと思いまして。すべての閣僚の方が大事だ、大事だ、捨てるな、もったいないということを言う方向と、1つは非常にしっかりとした制度をつくって、各省割拠というんでしょうか、これを理念上でも統合し、例えば廃棄についてその処罰規定というんでしょうか、そういうところを法できっちり押さえるぐらいまでをカバーできたら非常に各省割拠の統合というモデルがこの文書管理を通じて実は1つできるんじゃないかなぐらい思っています」(P14-15)

→この話の前提にあるのは、現在、国立公文書館に全ての官庁が移管されているわけではないということである。
つまり、外務省外交史料館や防衛省防衛研究所、宮内庁書陵部がこれにあたる。(防研は戦前の軍の資料のみ)
各省庁の文書管理制度の統一化だけでなく、出口の公文書館の統一化も視野に入れた発言だと思われる。

・尾崎護座長
「国立大学でも国立病院でも相当の収入があるわけです。しかし公文書館は何も収入がないんですよね。何も収入がないということはまさに税金でやる国の仕事なんですね。それを独立させて、一体そこから何が生まれてくるのかということを考えてみると、やはり真面目に考えれば国の機関に戻すべきだというこの提言のような考え方に行き着くんじゃないかと思うんですが。」

→国立公文書館を独法化したことがそもそも間違いだということである。座長が国立公文書館の国家機関への復帰を明言しており、この後の議論も、この流れで続いている。

・他には、中間書庫問題も話し合われているが、これは今後の話で出てくるので省略。それと、加藤陽子氏が、文書管理学をきちんと学んだ人材を育てるべきだということも話されていた。
加藤氏は自己紹介の所から、アーカイブズの視点からも発言するというようなことを述べており、歴史学+アーカイブズ学の立場を鮮明にしているのは心強い。

とりあえず1回目の会議は、ざっくばらんな話でおしまい。次回以後に細かい話に入ることになった。

最後に注目したいのは、内閣府政務官の戸井田とおる衆院議員である。
この方は完全な右派的な政治家なのだが、以前から「国益からの公文書館強化論」をぶちあげている。
例えば、戸井田氏のブログの2007年10月4日の記事や、10月18日の記事など。

さすがにここまでの国益論は、逆に「国益に反する文書は隠す」という議論にもつながりかねない(実際に戸井田氏も、有識者会議の議事録P25で、学習院大学の教授からその点を指摘されたらしい。高埜利彦さんかな?)ので、正直どうかと思うが、でも右派の人からこういった「ナショナル・アーカイブズ」を建てる際の真っ当な意見が出るのはいいことだと思う。
そもそも国立公文書館とは、「国家の記憶」を保管するものである。だから、設置理念はナショナリズム全開で全く構わない。
ただし、そこに移管されるものは、イデオロギーにとらわれずになされなければならない。
時代が変われば歴史観も変わる。資料の読み方も変わるのだ。

さて、そろそろ長いし、論点もずれつつあるので、今回はこれまで。第2回は数日中にアップする予定。

第2回へ続く
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