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立法府(国会など)と公文書管理・情報公開制度 [2016年公文書管理問題]

先日某所で立法府(国会など)の公文書管理制度や情報公開制度について話す機会がありました。
せっかくなので、覚えているうちにまとめておきます。

「立法府では「公文書管理法」や「情報公開法」がない!」

こういう書き方をすると、「議事録は整備されて公開されてるよね?」と返されることがあります。

確かに、立法府が作る公文書には、作成や公開されることが義務づけられているものもあります。
代表的なものとしては、憲法57条で定められている本会議の議事録が挙げられるでしょう。
他にも慣例で、委員会の議事録や議事日程、法律案、質問主意書・答弁書などが公開されています。

特にインターネットが普及し始めてから、これらの情報へのアクセスはしやすくなりました。
私が院生になった頃には、国会のインターネットでの会議録検索が無かったため、委員会の議事録は国会図書館の議会官庁資料室に行かないと見ることができなくて苦労した思い出があります(都道府県図書館に部分的には入っていたりしたが)。
その時代から比べると隔世の感です。

ただ、これらは立法府側が自発的に提供している「広報」の類です。
立法府が所有している「公文書」=立法文書は当然これに止まりません。

立法府の公文書は大きく分けると、①補佐・附属機関の文書②会派・議員事務所の文書、の2つに分けることができます。
後者については、情報公開などになかなか馴染みにくい話ですので、とりあえず今回は脇に置いておきます(議員活動の自由があるので)。

①についてですが、以下のように分類できます。

1.事務局文書
 A:議院行政文書(参議院は「事務局文書」)→情報公開対象
 B:立法及び調査に係る文書(立法調査文書)
 C:その他(衆議院憲政記念館、参議院議会史料室にある歴史文書)→公開?

2.法制局文書

3.国立国会図書館文書
 A:事務文書→情報公開対象
 B:図書館資料(憲政資料なども含む)→公開
 C:立法及び立法に関する調査文書(国会図書館法第15条第1~3号)

4.裁判所訴追委員会文書

5.裁判官弾劾裁判所文書


1,2は衆議院と参議院とそれぞれに存在します。
2,4,5については、情報公開制度が無いので、内部でどのように文書を分類しているかわかりません。
1,3については、それぞれのAに情報公開制度が作られていますので、文書管理の規程を見ました。

1の事務局文書を説明すればおおよそ残りも説明がつくので、ここを中心に説明します。
4,5については私もよくわからないので飛ばします(判例は公開されているようですが)。

事務局の事務に関する文書(A)は、情報公開請求の対象となっています。

衆議院事務局
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/osirase/jyouhoukoukai.htm
参議院事務局
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/johokoukai/seido.html

ただし、立法府には情報公開法が存在しませんので、行政に対する情報公開請求と違って法的拘束力がありません。
そのため、行政の方では義務化されているファイル管理簿の公開がウェブにアップされていません。事務局に出向けば見ることはできます(国会図書館も同じく管理簿がアップされていない)。
5年ほど前に両院の事務局で管理簿のウェブ上公開をなぜしないのかを聞いたことがあるのですが、「予定はない」との答えでした。

事務局文書で大きいのは、Bの「立法調査文書」が公開されていないことです。
2の法制局文書、3のCの国会図書館が議員から依頼されて調査しているものも非公開となっており、議員が調査を求めた文書については一切公開されないこととなっています。

この「立法調査文書」は、国会における政策決定過程を解明するためには非常に重要な資料です。
また、普段から国会議員がどのような活動をしているのかを明らかにすることにも繋がります。
特に、行政の側に資料が残りにくい議員立法の政策立案関連の文書は、法制局などに残っている可能性は十分にありえます。

しかし、これらの文書は、情報公開の対象でないどころか、何年経っても公開されない(廃棄されている可能性も十分にありうる)文書となっています。
関係者から聞いた話だと、「議員活動の自由を侵害することを事務局が勝手に公開することはできない」という論理のようです。政治的中立性が問われる立場ですので、そのようにしか運用できないのでしょう。

確かに、例えば原発反対についての法律などの調査を法制局や国会図書館に依頼していたことが、情報公開請求で公開されてしまえば、原発賛成派からの圧力をかけられることも十分にありえます。
また、根回し中の政策の情報収集を依頼している可能性もあり、公開に慎重になるのはわからなくはないです。

ただ、依頼した本人が国会議員で無くなってから10年経過した後、とか、本人が亡くなった後、などに公開をするなど、本人の議員活動に影響が出ない形での公開方法を整備することは可能に思います。
このあたりは事務局の一存ではどうしようも無い部分ですので、国会議員が自ら法制度を作らないと公開されることはないでしょう。

では、この「立法調査文書」が非公開になっている状況はこれで良いのかということです。

おそらく国会議員がこの公開制度を整備しないというのは、関心が無いこともあるけれども、「作りたくない」というところもあるのでしょう。
何を調べていたのかを知られたくない、知られたときに批判されるかもと怖れているかもしれません。

私はここまでの文面を見てわかるように、「公開制度を整備すべき」という立場です。
そのために「立法公文書管理法」「立法情報公開法」を制定する必要があると考えています。

すでに行政府には公文書管理法と情報公開法が存在しており、公文書をどのように作成し、保存するか、公開の基準はどうするかなどの制度が法制化されています。
これは、現在だけでなく未来の国民に対する「説明責任」のためだと規定されています(公文書管理法第1条)。

立法府の「説明責任」を果たすために、どのような文書を作成しなければならないか、公開制度をどうするか、など、ルールをきちんと作る必要があると思います。
上記の立法調査文書だけでなく、法案の修正の経緯がわかる文書を作成することを義務化する(現在は密室の政党間協議で行われるから理由が分からない)とか、公開されていない委員会の理事会の記録作成なども必要でしょう。
すぐには公開できなくても、いずれは公開して検証の対象とすることで説明責任を果たすことができます。

そして、歴史的に重要な文書を永久保存して公開する仕組み(公文書館)を作ることも大切です。
歴史的に重要な文書を保存・公開する機関として、上記の1のCに衆議院憲政記念館などが位置づけられていますが、実際にはほとんど文書は移管されていません。
また、参議院議会史料室にある貴族院時代の文書も、目録が未整備でなかなか公開されないという話も聞きます。
国立公文書館に文書を移管することは法的には可能ですが、一切なされていません。

日本近代史の第一人者である加藤陽子東京大学大学院教授は、「国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」の第10回(2015年10月19日)において、建設予定の新しい「国立公文書館」構想への提言をされているなかで、次のようなことを話されています。

○ 国民の目に映ずる国の文書
 国民にとって国の文書といった場合、立法、司法、行政のそれぞれが作成した記録といった目では見ていないはず。国家として一体的になされた政策決定過程を、現在及び将来の国民にしっかりと残し、「この国のかたち」として見て貰う施設。


つまり、「国の文書」というのは、立法、司法、行政のすべての文書が一括して管理・保存される必要があるということです。

今現在、行政は法律ができました。司法は最高裁によって一定のルールが作られています。

立法だけが何も対応していないのです。

この状況は変えていく必要があるのではないでしょうか。

行政の公文書管理法の附則第13条第2項には、「国会及び裁判所の文書の管理の在り方については、この法律の趣旨、国会及び裁判所の地位及び権能等を踏まえ、検討が行われるものとする」と書かれています。
自分達で決めた法律に書かれているのですから、そこは検討してほしいと思っています。

最後に、この立法府の公文書管理や情報公開問題は、2001年の情報公開法施行前あたりには、法学者などが活発に議論をしていたのですが、その後はあまりされていないようです。
自由人権協会が2001年に国会の情報公開法案を作っていますが、その後はあまり要求も出ていないように思います。

立法府の公文書管理や情報公開を考えることは、国会議員の活動を国民により「見える」ようにする仕組みを考えることでもあると思います。
「何をやっているかよくわからない」から「税金の無駄だから減らせ」と言われがちな議員達が、どのような仕事をしているのかを、もっと国民の目に見えるようにしていくための制度として、これらを位置づけてはどうでしょうか。

もっと国民の側から必要性を訴えていかなければならないと考えます。


○参考文献

山田敏之「国会の情報公開と欧米の議会文書館制度」『調査と情報』319号、1999年6月
→国会の情報公開制度をコンパクトにまとめたもの。やや古くなったが、今でも参照にされる。

・大山礼子「国会情報」、浦田一郎・只野雅人編『議会の役割と憲法原理』信山社、2008年
→大山先生は国会制度の第一人者。岩波新書の『日本の国会――審議する立法府へ』もおすすめ。

大蔵綾子「わが国の立法府における情報公開の新展開」『レコード・マネジメント』57号、2009年5月
→大蔵さんは当時筑波の院生。その後、国立公文書館にも勤務されていた。アーキビストからの立法文書問題への切り口は非常にユニーク。私が本で立法文書問題を取り上げた際は、彼女の論文を手がかりにして調査をしました。

・奈良岡聰智・上田健介「イギリス議会文書館・図書館の概要」『RESEARCH BUREAU論究』11号、2014年12月、30-40頁
曽雌裕一「ドイツ連邦議会における議会公文書の管理状況―ドイツ連邦議会公文書館と公文書館規則を中心に」『レファレンス』66巻1号、2016年1月
→この2本は、近年の他国の議会文書館を紹介したもの。こういった事例紹介がもっと積み重なっていくと、日本がどうするべきかを考える手がかりになると思います。

瀬畑源『公文書をつかう―公文書管理制度と歴史研究』青弓社、2011年
→拙稿。立法文書問題については、今後の課題という所で詳しくまとめています。

立法府の情報公開の現状(2011年5月7日)
→上記の本を書くときの調査記録をブログに書いたもの。この頃から何も変わっていない・・・

・「衆議院事務局文書取扱規程」「参議院事務局文書管理規程」
http://www008.upp.so-net.ne.jp/h-sebata/report.html
ウェブに上がっていなかったので。2011年に情報公開請求で入手したもの。リンク先の一番下の所に貼りました。
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