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特定秘密保護法関連のパブコメについて(6)内部通報制度 [2014年公文書管理問題]

特定秘密保護法の施行令案などについてのパブコメが現在行われている。
今回が6回目。7回目はパブコメ本文なので、解説はこれがラスト。

特定秘密保護法関連のパブコメについて(1)募集内容〔修正版)
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-07-28
特定秘密保護法関連のパブコメについて(2)施行令案、特定秘密廃棄問題
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-03
特定秘密保護法関連のパブコメについて(3)運用基準案
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-05
特定秘密保護法関連のパブコメについて(4)特定秘密指定管理簿
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-07
特定秘密保護法関連のパブコメについて(5)監視機関
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-13

最後に解説をするのは内部通報制度について。
資料はこちら。引用はページ数のみ記載する。

特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000115916

特定秘密保護法の適正な運用を確保するためには、内部から告発する制度が必要不可欠である。
当たり前だが、特定秘密は適性評価を受けた限られた人しか見ることはできない。
よって、不適切な情報を特定秘密に指定していることなどは、実際にその文書を見ている内部の人しか不正を告発することはできない。

よって、この内部通報制度をどのように充実させるかが、適正運用のキーポイントになる。

なお、この通報制度は各行政機関を叩くために存在するのではない。
むしろ、適正に運用されているということを国民にアピールすることこそ、制度の信用を担保することに繋がるのだ。
もし、特定秘密制度を安定的に運用したいと政府が考えているなら、内部通報制度が「機能するように」整備することが、制度の信用に直結することを意識すべきである。

さて、今回提案された内部通報制度。果たして機能しうるものなのだろうか。
はっきり言おう。これは機能しない。

仕組みを紹介しながら解説してみる。

もし、特定秘密を扱っている人が、「特定秘密の指定及びその解除又は特定行政文書ファイル等の管理が特定秘密保護法等に従って行われていないと思料する場合」に訴えることができる(30頁)。
なお、法令違反のみが対象であり、かなり幅が狭い。

情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は、会員向けニュース(7月18日)において、「失敗を隠ぺいしたり、能力不足を隠すためなど、秘密とすることにより特定秘密を保有するものが得る可能性のある不当な利益の想定は、もっと広く想定すべき」と主張されているが、私も同感である。
法令違反以外にも、たとえ特定秘密に指定可能な情報であったとしても、特定秘密に指定することで官僚達が不当に利益になるような情報については、訴えることを可能にすべきではないか。

訴えることができる窓口は2つある。
1つは、自分の機関の通報窓口
もう1つは、独立公文書管理監に設置された通報窓口

ただし、基本は自分の機関の窓口に連絡しなければならない。
管理監に通報するためには、次のいずれかの条件をクリアする必要がある(30-31頁)。

・自分の機関の長が、通報者に「調査を行わない」通知をした後
・自分の機関の長が、調査結果を通報者に報告した後(つまり通報を却下された時)。
・自分の機関の窓口に通報すると、「不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合」
・自分の機関の窓口に通報すると、「当該通報に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当な理由がある場合」
「個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合」


相当にハードルが高い。
「信ずるに足りる相当な理由」なのだから、漠然と不安ではダメである。
訴えたら自分が危ないということを通報者が証明する必要があるのだ。

さらに、訴える時の方法は、「特定秘密である情報を特定秘密として取り扱うことを要しないよう要約して通報するなどし、特定秘密を漏らしてはならない」とある(同30頁)。
特定秘密の内容を伝えずに特定秘密の指定に問題があるって、どうやれば伝えられるのか私には想像もつかない。

さて、その通報によって、行政機関の長が調査を行い、問題があれば解除することになる。
「処理」した時には独立公文書管理監に報告する必要がある(「受理」ではないので、結果だけの報告か)。

独立公文書管理監に訴えることができた時は、管理監が当該行政機関への実地調査などが可能である。
しかし、やはり前回解説したのと同様に、「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」を理由に、特定秘密の提供を拒否できる。

つまり、管理監に訴えても十全に調査をできる可能性は閉ざされている。
もし不当に指定をされていたとしても、拒否すれば調査されない。

なお、通報窓口の職員は、通報者の特定に繋がる情報を漏らした場合は処分の対象になる。
ただ、そもそも特定秘密を扱える人は相当に限定されるはずなので、訴えた場合の人物特定は容易である可能性がある。
また、特定が容易である部局の職員が通報するのはかなり難しい。

また、通報したことを理由とした不利益な取扱いを行った者も処分の対象となる。
これについては、一般企業では「能力が無い」とか別の理由を付けて左遷するなどは良くある話なので、歯止めになるかは疑問である。

つまり、この仕組みを見ると「自分の行政機関内でもみ消せ」と言わんばかりである。
これで機能するとはとてもではないが思えない。

なお、内部の通報窓口を第一に報告する理由だが、私がある方を経由して聞いた話だと、「通報者が勘違いをして、適正なものを管理監に通報してしまった場合、不当に特定秘密を漏えいさせたことになって処分の対象になりうる。よって、内部でまずは適正な訴えかどうかを確認するのが筋であるということだそうだ。

そんなアホな、である。
管理監は何のために存在しているのか。
管理監は適性評価も受けている。そこに特定秘密を伝えて何が問題があるのか。
管理監やその下の情報保全監察室での情報取り扱いを厳密にすれば良いのではないのか。

結局は自分たちの機関内でもみ消そうとしているだけじゃないのか。
内部通報を内部で抑え込み、管理監には結果だけ報告する。
管理監に万一訴えられたとしても、文書を見せることを拒否する。

これで、どうやって内部通報者は安心して通報できるというのか。

内部通報制度を設けたこと自体は評価はする。
だが、これでは「アリバイ」に作ったとしか言えないしろものであり、機能するとは思えない。

少なくともこれを機能させるのであれば、

独立公文書管理監への通報をどのような状況でも可能にする。
通報された対象文書を独立公文書管理監は原則閲覧可能とする(※)。
・通報する際には特定秘密の内容を含めて窓口担当者に伝えることを可能にする。たとえ勘違いでも処分の対象にしない。
・通報できる条件は、法令違反だけではなく、指定によって不当な利益を得ようとしているようなものまで広く取る。


(※)余りにも重大な情報で見せられないというのであれば、例えば官房副長官が閲覧して首相に判断をあおぐなど、政治責任を明確にすべきでは。
(米国では、情報保全監督局(ISOO)の監査を行政機関が拒否しようとする場合、国家安全保障問題担当大統領補佐官を通して大統領が判断する→内閣官房作成資料参照)。

といったようなことは必要なのではないか。
もちろん、前回書いたように、独立公文書管理監がどこまできちんと機能するのかが問われるわけだが・・・


冒頭にも書いたように、適正な運用のためには、内部通報制度は重要な意味を持つ。

これが機能しなければ、特定秘密は無尽蔵に増えていく可能性が高くなる。
それは、国民の知る権利への侵害に繋がるだけでなく、秘密が多くなりすぎて、現在の米国のように秘密が過剰になって、かえって本当に重要な情報がわからなくなるという事態になりかねない。

この制度の充実化は、今回の運用基準案の最も問題とされるべきところである。
是非ともこの点の改善は強く主張したいと思う。

施行令案や運用基準案の解説はここまで。
次回は私の作ったパブコメを公表して最後にします。
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