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特定秘密保護法関連のパブコメについて(5)監視機関 [2014年公文書管理問題]

特定秘密保護法の施行令案などについてのパブコメが現在行われている。
今回が5回目。

特定秘密保護法関連のパブコメについて(1)募集内容〔修正版)
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-07-28
特定秘密保護法関連のパブコメについて(2)施行令案、特定秘密廃棄問題
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-03
特定秘密保護法関連のパブコメについて(3)運用基準案
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-05
特定秘密保護法関連のパブコメについて(4)特定秘密指定管理簿
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-08-07

特定秘密保護法が「適正」に機能するためには、監視機関がどれだけ有効に機能するかが重要である。
基準の厳密化などは、いくら規則を決めても限界がある。
だからこそ、濫用されないような仕組みを制度の中に組み込む必要がある。

では、今回の特定秘密保護法における監視機関は、有効に機能するであろうか。

これは多くの人が批判していると思うが、「どうも有効に機能しなさそう」である。
監視機関の話は、特定秘密保護法案の審議の最後の最後で突然現れて、首相答弁などで形が決まってしまったものである。
そのため、その首相の発言に縛られていることもあり、なんとも微妙な組織が提案されている。

まず、政府案の仕組みを紹介してみる。
内閣官房が作った図と運用基準案を見ていただきたい。

特定秘密保護法 適正確保の仕組み(案) 説明資料
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000115918
特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000115916

まず、内閣に「内閣保全監視委員会」が作られる。
設置は閣議決定による。
メンバーは官房長官をヘッドにして、事務次官級で構成される。

機能としては、法第18条第4項で書かれているように、内閣総理大臣が行政各部を「指揮監督」することを補佐する機関である。
年一回の報告があった時に、その精査などを行う。

この「適正確保」の「適正」は、要するに行政内部にとっての「適正」である。
ある機関で特定秘密にされているのに、別の機関ではされていないのをチェックするなどといった、管理の徹底化が目的としては考えられる。
また、ある省が特定秘密に指定してしまったために、情報の共有化がやりにくくなって仕事に支障が出る時に、それを外す協議をするといったことも想定されているかもしれない。

こういった組織自体は必要ではある。
ただ、これは国民の側が想定している「監視機関」ではない。
恣意的な指定を止めるようなことは難しいだろう。

そもそも集まっているのが事務次官であり、特定秘密を各行政機関で指定するのは、形式的ではあるが大臣である。
事務次官が大臣の決定したことに異議を唱えるということが、官僚組織で果たしてできうるものなのか。
かなり厳しいのではと思わざるをえない。


次に、内閣府に「独立公文書管理監」とその事務を担う「情報保全監察室」が置かれる。
秘密保護法の附則第9条の「独立した公正な立場において検証し、及び監察することのできる新たな機関」がこれにあたる。

このために内閣府の訓令の改正が行われる。
ちなみにこのパブコメも募集されている(これについてはそれほど突っ込むところもないが)。

運用基準案から、その仕事を見てみると、

・法律や運用基準に則って行われているかを検証・監察
・必要がある時は資料の提出・説明・実地調査が可能
・適正に行われていないと認定した場合、強制的な特定秘密の指定もしくは解除(各行政機関の長へ是正を要請することも可能)
・各行政機関の長は、管理監に特定秘密指定管理簿が更新された時に、情報の写しを提出する義務。また1年1回は保存場所などの報告義務も。


内部通報者制度は次の記事で論じるのでここでは記載しない。

ここで問題となるのは

・果たしてまともに監視機能が働くのか
・監視機能を働かせようとしても、その条件があるのか。


である。

まず、こういった監視機関を官僚組織ではない所に置くというのは、なかなか難しいだろう。
米国の制度を見ても、こういった監視機関自体は官僚組織の一部ではある。
ただ、米国は大統領直轄の国立公文書館の一部局(情報保全監督局(ISOO))であり、人事の独立性も高い(関係機関から出向してくるが、元の機関に戻らない)。

日本の場合はどうなるだろうか。
まず置かれているのが内閣府である。
よって、独立性は高いとは言えない。

また、秘密保護法制定時の話だと、事務を担う情報保全監察室には各機関の課長未満級が出向してくるということだった。
これだと、出向元に戻ることが前提になるので、厳しい審査は行わなくなるだろう。

ただ、各機関の文書構造や情報類型などは、働いた経験が無いとなかなかわかりにくい。
となると、出向元に戻らない職員を配置することが必要となるだろう。
例えば、定年が近い職員を連れてくるとか。

また、民間から弁護士などを職員として雇用して配置するなども、適正な運用のためには考えても良いだろう。
こういった人事慣行が、監視が機能するためにはかなり重要な意味を持つと思われる。

このあたりは運用基準案には入っていない。
また人事の問題は入れるのも難しいかもしれないとは思う。

仕事の内容を見ると、特定秘密の強制解除権(運用基準案28頁、Ⅴ3(1)ウ)があるのはいい。
問題がある時の実地調査の権限があることも良い。

問題は「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」がある場合は、各行政機関が管理監への文書提供を拒否できることである(同29頁、(2)ウ)。

つまり、国会だけではなく監視機関に対してすら、文書提出の拒否権が行政機関に存在しているのだ。

これは話にならない。
もし、管理監が頑張って国民からの期待に応えようとしても、それを機能させる前提条件が確保されていない。
監視をする以上、当然すべての文書へのアクセス権を管理監には保証するべきである。


監視委員会と管理監を見ていると、米国を参考にしつつも、重要なものが欠落していることに気づく。

例えば、監視委員会は米国の省庁間上訴委員会(ISCAP)を参考にした形跡があるが、米国には存在する国民からの秘密指定解除の訴えを受けつけることはしない。
8月初めにやっていたNHKスペシャル「特定秘密保護法を問う~"施行"まで4か月~」で、米国の情報保全監督局(ISOO)の局長は、自分たちが報告書を出すと、国民からガンガンと問い合わせが来るということを述べており、国民が秘密指定への異議申立てができるといったような監視機関自体を国民が監視するしくみがあることが、彼らへのプレッシャーになっていることがうかがえる。

こういった国民との回路が存在しないのも、日本の監視機関の特徴でもある。
この点はパブリックコメントで問題にしなければならないと思う。

全体の評価としては、機能する可能性は運用次第でゼロとは言わないが、全く機能しない可能性も極めて濃厚という、なんとも言い難いものができあがったとしか言いようがない。

次回は残った内部通報者制度について。むしろ一番問題なのはこちらである。


追記

ちなみに内閣官房は、今回の運用基準案のパブコメのページに、米国の監視機関の紹介を付けている。
なのに、米国と日本の違いがどこにあるのかの説明が一切無い。
他の部分には、他国との違いを説明して「他国にも同じ制度はありますよ!」というアピールをしているのに。

意図的に比較していないようにしてるとしか思えないのだが・・・


追記2

すでに存在している有識者会議である情報保全諮問会議であるが、運用基準案を見ると、年1回の報告のまとめたものを首相から報告されて意見を述べる、ということ以外の権限は存在しない(運用基準案33頁、(2))。

結局、運用基準を作った後は有名無実になりそうである。

参考
法案成立直後に書いた記事も合わせて参照のこと。

「第三者機関」について改めて考える(特定秘密保護法)
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2013-12-09
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