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「議事の記録」と「議事録」は同じではない [2014年公文書管理問題]

日経新聞の記事。引用します。

閣僚会議の議事録作成義務化へ 公文書管理委が指針改正案
2014/5/29 20:38
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2902E_Z20C14A5PP8000/

 政府の公文書管理委員会(委員長・御厨貴東大名誉教授)は29日、行政文書の管理に関する指針の改正案をまとめた。政策テーマごとに開く閣僚会議の議事録作成を義務付けることを明記。議事録には開催日時や場所、発言者名や内容など6項目を盛り込むよう求めた。公開の可否は各府省庁に委ね、7月1日から施行する。閣僚会議は現在、172ある。
(引用終)

この問題は、2012年の原子力災害対策本部議事録未作成問題に端を発し、閣僚が参加している会議の内容をどのように記録するのかが焦点となった。
これまでは、会議によって議事録を作っていたり、概要は作っていたり、両方作っていなかったりとバラバラであり、公文書管理法第4条における、政策の意思決定を跡づける文書をきちんと作成するという義務、を果たしていないという批判があった。
民主党から自民党に政権が代わって放置されていたが、秘密保護法のバーターで公明党が閣議の議事録の作成を求め、あわせて閣僚が参加する他の会議の記録についても検討が続いていたものである。

4月から閣議とそれと同時に行われる閣僚懇談会の議事録が公表された。
これについては、すでに以前に記事を書いている。

閣議議事録公開と閣僚会議の議事録問題
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2014-04-22

さて、「閣僚会議の議事録作成」が決まったと各紙で報じられたが、その問題となる「行政文書の管理に関するガイドライン」の改訂案をよくよく見てみると、どうも違和感がある。

「行政文書の管理に関するガイドライン」は公文書管理法の施行規則のようなものであり、これに基づいて各行政機関の公文書を管理する規則が定められている。

今回の改正の主な部分を見ると、

 なお、審議会等や懇談会等については、法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成するものとする。

となっている(赤字が修正部分)。

では修正前がどうなっていたかというと

 なお、審議会等や懇談会等の議事録については、法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、発言者名を記載した議事録を作成する必要がある。

比較してみると、

1.「発言者名」→「開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容」と具体的になった。
2.「議事録」→「議事の記録」となった。
3.「必要がある」→「ものとする」として、義務的な表現へと変わった。


1と3は問題ないだろう。

問題は2である。
なぜ「議事録」が「議事の記録」に置き換えられているのだろうか。

そもそも「議事の記録」という言い方が出てくるのは、閣議等の議事録公開の時である。
この時の「閣議等の議事の記録の作成及び公表について」(2014年3月28日閣議決定)の中で、「閣議及び閣議後の閣僚懇談会(以下「閣議等」という。)の議事の記録(以下単に「記録」という。)の作成及び公表・・・」として使われたのが最初である。

さて、この「議事の記録」。メディアでは「議事録」だと思われている。
ただ、すでに情報公開クリアリングハウスが指摘をしているように、閣議等の「議事の記録」では、「公表時点で情報公開法第5条の定める不開示事由に該当する内容については記録しない」こととなっている。
つまり、すぐに公表できない情報については「記録しない=文書に書かない」となっているのだ。

(なお、情報公開クリアリングハウスの会員向けのメルマガ(2014年6月2日付)では、「閣議等の議事録の記録の作成手順」という内閣官房の内部文書にこの点が記載されており、内閣官房は「情報公開請求されると非公開該当性について争われる可能性が出てくるため〔引用者注:墨塗りにして隠してある部分が、本当に隠すべき情報なのかを裁判で争われるということ〕、それを回避するための対応である」と認めているとのことである。)

つまり、「議事の記録」と官僚達が呼んでいるものは、実は「逐語ですべてを記録した議事録ではない」のである。
よって、恣意的に情報を落とすことが担保されている。

またもう一つ気になるのは、上記の部分のもう少し後に、「議事概要又は議事録」と書いてあった部分を「議事の記録」と書き換えている部分があるのだ。

こうなってくると、「発言者名及び発言内容」を記した「議事概要」も「議事の記録」に入る可能性があるという疑いが生じてくる。
つまり、「○○さんは××のような発言を述べていた」という形で、細かいニュアンスや具体的な内容を避ける形での「議事の記録」が作られる可能性も排除されていないのである。

よって、報道機関が報じた「これで議事録がきちんと作られます」というのは、本質を見れてないのではという気がしてならないのだ。

なお、すべての会議で議事録を作成した場合、当然現場の仕事負担は増えるはずである。
また、これまで意図的に議事録を作ることを避けてきた防衛関係の会議でも記録を作る必要が出てくる。

それなのに、なぜ全く抵抗された気配もなく、この「議事の記録」の話がサックリ出てくるのか。
これは、官僚側が、このガイドラインの改定を「逐語の議事録の作成義務」であるとみなしていない証拠なのではないか。

彼らが「議事録」を「議事の記録」と置き換えたのは、当然ながら「ただの語句の訂正」というレベルの話ではないだろう。

なお、このガイドラインの改定については、パブリックコメントが募集中である。
期日は6月11日(水)まで。

私が書こうとするのは以下の点である。
この3つをガイドラインに追加することを求めたい。

①閣僚会議のすべてにおいて録音を義務づけること。
②録音データは行政文書として取り扱い、保存期間は議事録と同じ期間に設定し、期間満了後の移管処置も同様に行うこと。
③議事録については、出席者への回覧をできる限り省略し、「担当官による文字起こし」という記載を明示すること。


まず①について。
録音をきちんと行い、それを残しておけば、何か議事録をごまかそうとしてもバレる。
これは正確な議事録を取らせる抑止力になるだろう。
また、文字では伝わらないニュアンスも記録されることになり、のちの検証にも役立つはずである。

もし、流出すると国民を危険にさらすような国家機密に関わる重要な録音については、首相官邸で集中管理するような仕組みを作るなど、対策をきちんと講じれば良いと思われる。
また、データの改竄の可能性もありうるので、閣僚会議のデータの集中管理の徹底化(セキュリティー強化と元データの保存)を図ることが必要だと思われる。

②について。
録音は現在では「私的メモ」と称して、行政文書扱いせずに「担当官個人がメモ代わりに録音したので行政文書ではない」という形で、情報公開対象から外すことがなされている。
議事録の正確性を期するためにも、録音データも情報公開請求の対象とするべきである(もちろん公開するか否かは、情報公開法に基づいて適切に判断すればよい)。

③について。
現在、議事録を作成したがらない理由の大きなものとしては、議事録作成の面倒くささというものがある。
逐語訳をした上で、出席者に回覧してそのOKを取る必要があるのだ(各審議会などでの議事録の公表が1ヵ月とかかかるのはそういった理由)。

これの省略を積極的に提唱して、仕事量増加への対処とするべきである。
録音が残っている以上、「私はそんなことを言ってない!」みたいな人が出たら、録音を聞かせれば(公開すれば)いいだけの話である。


今回の議事録作成の目的が、「検証」のためであることを決して忘れてはならない。
「議事の記録」としてしまったことで、現在議事録をきちんと作成しているところすら、不都合な部分の削除や議事概要への変更となりかねないことを危惧している。

おそらくパブコメは形式的なものにすぎないだろうから、このままガイドラインの改定は通るだろう。
その後、実際に「議事の記録」がどのような形で作られているのか、情報公開請求などを用いて監視する必要があるかもしれないと思う次第だ。
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