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国立公文書館新館建設に向けて [2014年公文書管理問題]

2014年5月16日に、「国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」が発足して初の会合が開かれた。
国立公文書館は歴史的に重要な公文書を保存して公開する施設であるが、すでに書架は満杯になりかかっており、2016年度までしかもたないと言われている。

国立公文書館は歴史研究にも重要な施設ではあるが、国民に対する説明責任を果たすという意味でも重要な意味を持つ。
昨年末の秘密保護法をめぐる議論でも、「特定秘密」はいずれは国立公文書館に移管されて公開されるということが大きな焦点となっていたことを記憶されている方もおられるだろう。

だが、なかなかに存在が地味で、予算を回してもらえなかったり、人員が増えなかったりと、軽く扱われている傾向がある。
しょっちゅう言われることであるが、人員数だけを見ても、米国の2720人に対して日本は47人。隣の韓国は340人と考えると、いかに日本で国立公文書館が軽く見られているかというのが良くわかる(資料3)。

ただ、自民党の福田康夫元首相が国立公文書館にはずっと関心を持っており、その意図を汲んで上川陽子衆議院議員が色々と尽力されている。
民主党にもこの問題に関心のある議員は何名かいたが、そのほとんどが先日の選挙で落選してしまったのは残念であるが・・・(ちなみに上川議員も前の民主圧勝の際に落選していた)。

上川議員を中心として、国立公文書館の新館建設に向けた動きが自民・公明の議員の間から起き、昨年6月に「国会・霞ヶ関周辺への新たな公文書館建設に関する要請書」が安倍首相に提出された。
この件についてはすでに以前にブログで記事を書いているのでそちらを参照していただきたい。

国立公文書館の新館建設問題
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2013-08-19
公文書管理推進議員懇話会
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2013-08-30

また、今年2月には「世界に誇る国民本位の新たな国立公文書館の建設を実現する議員連盟」という、ネーミングセンスは「?」と思われるが、自公議員を中心とした議員連盟が作られている。

その後、調査検討費として今年度3400万円の予算が付いた。
今回設置された調査検討会議は、この予算を用いて、本年度に今後の国立公文書館のあり方も含めた検討を行って、新館建設への道筋を付けるということのようである。

2017年度初めに開館したいと考えれば、少なくとも今年度中には建設地を決め、来年度には建設を始めるぐらいのペースで無いと間に合わないように思える。
ただ、予算の原案を作っているのは今頃のはずなので、さすがにそのペースでは無理だろうか。

この会議の基本的検討事項として取り上げられているのは以下の通り(資料4)。

① 国立公文書館が果たすべき機能は何か
⇒例:研究者や一般国民等それぞれの利用者が、公文書館に対してどのような機能を求めているか
② ①の機能を公文書館が現在どの程度果たしているか、十分に果たし得ていない部分がある場合には、どのようにして当該機能を補うか
③ ①の機能と各施設(地域)との関係をどう設定するか
⇒例:歴史公文書の保存、閲覧、展示等の機能は、それぞれ東京都心や地方など、どのような場所においてどのように果たすことが適切か


その上で、検討課題として、17にわたってさまざまな項目が挙げられている(詳しくは資料4の2頁目参照)。

やや気にかかるのは、「利用」の点が前面に出すぎているということ。

もちろん、どうやって利用するかという面を検討するのは悪くない。
ただ、展示機能や教育機能、デジタルアーカイブズの方に余りにも目が行きすぎてしまうと、保存・保管や整理などの内部できちんとやらなければならないこと(特に専門職の養成、採用)が疎かにされてしまわないかが気になる。

そしてなぜこの点を殊更に言うのかというと、国立公文書館が資料として掲げている2013年度の行政事業レビューの中身が気になるからだ。
資料3の⑩(6頁目)に、そのレビューの「外部有識者のコメント」が紹介がされているのだが、例えば

(デジタルアーカイブ閲覧の)サービス提供について、有料化(利用者負担)が合理的なものを識別する必要があるのではないか。
とか
文書利用の有料化について再度前向きに検討すべき
とか
本来、アウトカム指標としては閲覧者数、デジタルアーカイブアクセス数が成果目標として掲げられるべきであり、現在の活動指標はアウトプット指標に過ぎず、評価方法の改善が必要である。閲覧によるデジカメ利用についても手数料を取って事業収入を得ることが出来る様、働きかけをしてゆくべきである。閲覧回数の多い資料を選択して東京におき、他の資料は他の地域へ移転することが全体のコストを圧縮することができる。事業そのものを否定するわけではないが、コスト圧縮努力は必要である。

といったようなことが書かれていることが、ものすごく気になるのだ。
つまり、「閲覧者を増やすのが第一」であり、少しでも「儲けろ」と、今の国立公文書館は言われているのではということだ。

これははっきり言ってお門違いな要求としか私には思えない。
利用者が「歴史研究者」だけだから「利用料を取れ」みたいな発想になってないか。
また、図書館や美術館を想定して、閲覧者数を増やすことが施設の価値であると考えていないか(本来はその二つも、そういった発想で運営するのは間違っていると思うけど)。
また「デジタルアーカイブズは便利」だから、その費用を閲覧者が払えということにならないか。

国立公文書館の機能は、最初にも書いたが、あくまでも国民に対する「説明責任」が第一である。
なので、閲覧者の数自体は二次的な意味合いでしかない。
また、その閲覧に利用料をかけるとかいう発想自体がそもそもとしておかしいのだ。

もちろん、これは国立公文書館のことをあまり理解していない「外部有識者」の一部のコメントにすぎないとは思う。
ただ、複数出ているということは、一人がひたすらこういった意見を述べたということとは違うだろう。

だが、利用の便を良くすることだけに重点が置かれたり、「それに見合う人員や予算が配分されない=その分の費用を利用者から徴収すれば良い」みたいな発想にならないかが不安である。
委員のメンツを見ても、そういう流れになれば止めてくれる方がいると思うので、さすがにそうはならないとは思うが。

国立公文書館でまずは必要なのは、きちんと重要な公文書が遺漏なく移管されること、それを早急に整理して公開すること、それが大事である。
そこの強化を疎かにして、見せることだけに重点を置いてしまえば本末転倒になりかねない。

いずれにしろ、国立公文書館の充実化のためには、権限自体を強めたり、予算や人員を今のせめて倍は増やすとかいったきちんとしたバックアップが必要である。
いまの安倍政権はしばらく続きそうである以上、この調査検討会議で示された方向性へ向けて、自公の政治家が決断すれば前に進むはずである。

ただ単に新しい建物ができたというだけではなく、国立公文書館の「機能」を充実化させる方向へ向かうことを期待したい。

附記
なお、この書類の中にこっそりと「※別途、公文書管理法施行後5年(平成27年度末)を目途とした見直しに向けた公文書管理制度の在り方についての調査検討を実施(平成26年度予算額:13百万円)。」という記述がある(資料4の1頁目)。
ついに、公文書管理法施行5年での再検討が始まるわけである。

どのように改善をする必要があるのか、各団体でしっかり検討して、公文書管理委員会や内閣府公文書管理課にきちんと伝える必要があるのではないか。
私も時間がある時に、あらためてこの点についてはまとめて記事を書きたいと思う。

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