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「第三者機関」について改めて考える(特定秘密保護法) [特定秘密保護法案]

特定秘密保護法が2013年12月6日に成立しました。
成立直前になって、政府からさまざまな「チェック機関」を作るとの提案がなされています。

正直、よくわからない部分もある(政府の説明が足りてない)のですが、いま分かる範囲で、どういった組織が作られそうなのか、その問題点はどうなのかをまとめておきたいと思います。

これまで第三者機関については以前に書いたことがありますので、それも合わせて参照のほどを。
修正案が出る前の記載ですが、内容的には今でも参考になると思います。

特定秘密保護法案を考える 第4回 監視・検証のしくみ
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2013-11-04

「第三者機関」のあり方が問題(特定秘密保護法案)
http://h-sebata.blog.so-net.ne.jp/2013-11-17


政府が4,5日の参院の特別委員会で設置を表明したのは以下の4つ(すべて「仮称」とのこと)。

①情報保全諮問会議
②保全監視委員会
③独立公文書管理監
④情報保全監察室


国会答弁や各紙の記事を総合すると、それぞれ以下のような組織らしい。合わせて論評もしてみる。


①情報保全諮問会議

秘密保護法第18条第2項と第3項に基づいて設置される。
この条文によると、

A:「特定秘密の指定及びその解除」「適性評価」の「基準を定める」
B:「内閣総理大臣」がAの状況を毎年「報告」し「意見を聴かなければならない」


の2点が職務となる。
Bについては、その意見を聴いた後、首相は国会に報告する義務がある(第19条)。

メンバーについては、時事通信の報道によれば「情報保全諮問会議は5人以上の有識者で構成。(1)情報保護(2)情報公開(3)公文書管理(4)報道(5)法律-の各分野から首相が選ぶ。任期は3年となる見通し」とのこと。

(論評)
まず、政府の外に置かれるということみたいだが、法的に設置内容が定めれていない機関なので、一体どういった組織の位置づけになるのかがよくわからない。
報道などから推測すると、首相の「私的諮問機関」という扱いになるように見える。
本来ならば、どこに設置されるとか、委員の数や任命方法などが法律に明記されるべきものではないか。

Aについては、おそらく、この法の担当部局である内閣情報調査室が案を作って、それを元にして諮問会議が議論するということになるだろう。

ここで重要なのは「議論をオープンにすること」。
議事を公開し、議事録もきちんと作成、配付資料も公開すること。

作成された基準自体は公開すると安倍首相は12月5日の党首討論でも明言している以上、その基準を決める過程も公開するべき。
ここを非公開にすれば、「やはり秘密を拡大しようとしている」と疑われても仕方ないだろう。

また、委員になった方には、濫用されない基準を作るための努力を期待したい。

Bについて、毎年1回、報告を首相から受けるということだが、国会へも報告するということは、指定・解除件数や適性検査に受かった人数などの報告がなされる程度ではないか。
これ自体は意味があると思うが、ただ、「公開される」ことが前提である以上、報告内容は概説的な情報しか出てこないものと思われる。

また、そもそもこの諮問会議は、直接的に各行政機関に監察をする権限は無い。
報告に対する不服があった場合に、各行政機関に調査を求める権限も無い。

これでは、あまり監視機能としては役に立たないというのが率直な感想。


②保全監視委員会

内閣官房に設置。トップは官房長官。
外務、防衛、警察などの次官級の官僚(情報コミュニティーの関係者と首相は述べていた)を集めて、各行政機関の秘密の妥当性を相互チェックする仕組み。
また、適性評価のチェックもという言い方を4日の国会答弁ではしていた(監察室が後から作られることになったのでそこは無くなった?)。

この委員会が、①のBにあった報告を作成し、首相に提出する。
首相の4日の委員会答弁によれば、米国の省庁間上訴委員会(Interagency Security Classification Appeals Panel、略称ISCAP。訳語は人によって異なる)を参考にしているとのこと。

(論評)
「チェック機関」と言われているが、正直「内部統制機関」としか見えない。
つまり、「秘密の指定漏れ」の相互チェックが目的なのではないか(例えば、外務省で特定秘密にされているのに、防衛省では指定してなかった→指定させる、みたいな)。
「その意味」では法律を動かすためには必要だろうが、これを「チェック機関」と言われても・・・という感じ。

また、米国のISCAPを参考にしているなら疑問が出てくる。
ISCAPという組織は、

・機密指定に関する重大な役割を担う行政機関の代表者(国務省、国防省、司法省、国立公文書館、国家情報長官室、国家安全保障問題担当大統領補佐官、からの代表)による合議制機関
・情報自由法(日本で言う情報公開法)に基づく請求が機密指定で不開示だったときに、請求者が機密指定への不服申立をISCAPに行い、その審査をする。
・機密の自動解除を適用しない例外を決定する、などの権限がある。
(参考資料A、Bより)

というものである。
ISCAPのウェブサイトにそのあたりは詳しく書かれている。
すべてに目を通すことができていないが、少し見るだけでも、ずいぶんと政府が述べている監視委員会とは機能が異なっているように見える。

そもそも、機密指定の解除を国民の側が請求できるというシステムは、秘密保護法には入っていない。
選定されるメンバーを真似をしたことはよくわかるのだが。

またISCAP自体も「監視機関」とは少し違うように見える。
なにをどう参考にしたのかは、色々と政府に説明してほしいところだ。


③独立公文書管理監

内閣府に置かれる審議官級の職。
国会答弁を見ていると、「勝手に廃棄されないようにチェックを行う」「スムーズに国立公文書館に移管させる」ために設置するとのこと。
報道を見ると、④の監察室はこの管理監の下部組織とするとのようだ。

(論評)
この4つの組織のうち、一番良くわからないのがこの管理監。
そもそも、「特定秘密」を解除した後には国立公文書館等(外務省外交史料館なども含む)に「すべて」移管される以上(第4条第6項)、何をチェックするんだろうか。

もし「特定秘密」指定中に廃棄されないようにチェックするのであれば、この管理監が独立性と強力な権限がないと、何も機能しないように思う。
チェックするという以上、例えば警察庁の公安部にすら査察に行けるぐらいでないと意味がない。

でも、内閣府の中の「審議官」である以上、そのような権限は望むべくもないだろう。
なので、これで「特定秘密」の間に闇に葬ることを止めることはできないと思われる。


④情報保全監察室

内閣府に設置。20人規模で外務省、防衛省、警察庁などの課長級未満の職員で構成。
③の管理監を補佐する。
「室」の予定だが、「局」への格上げも検討する。

国会での答弁によれば、これが秘密保護法附則第9条の組織にあたる。

附則第9条の該当部分は「行政機関の長による特定秘密の指定及びその解除に関する基準等が真に安全保障に資するものであるかどうかを独立した公正な立場において検証し、及び監察することのできる新たな機関」である。

機能としては、行政機関の指定・解除の監察、有効期間の適否などをチェックし、是正を勧告できるとのこと。
首相などの答弁では、米国の情報安全保障監督局(The Information Security Oversight Office、略称ISOO)を参考にしているとのこと。

(論評)
やろうとしていることは、秘密を監視するために必要不可欠。
だがこの監察室は「独立した公正な立場」なのか
これは成り立っているのだろうか。

毎日新聞の報道によれば、維新、みんなの党などとの4党実務者協議での合意文書では、「内閣府設置法第3条」に基づいた組織(内閣官房を助ける)とのことであり、事実上、次官級の②の監察委員会の補佐役になるのではないかとされている。

5日の参院の特別委員会で、維新の室井邦彦議員から「公正取引委員会などと同格にする気は」と聞かれた際に、菅官房長官はずらした回答をしたので、組織としては「局」までで止めるつもりであり、それ以上のものにする気はないのは明らかだ。

そもそも、内閣から独立してるというのは、「内閣総理大臣の言うことを聞かない」可能性が担保されている必要がある。
内閣府の官僚にそれができるだろうか。

権限的に無理だろう。
せめて人事院並みの独立性が担保されていないと、「独立」「公正」な機関とは言えないのではないか。

この独立性が無い「監察室」が、果たして特定秘密の指定・解除などを「監察」し「是正勧告」など出せるだろうか。
しかも、そこの職員は秘密指定を行っている各機関からの出向組。

どうみても無理。
これで機能するとは、どれくらいポジティブに考えてもありえない。

また、米国のISOOを参考にしているのであれば、「強制的な秘密指定解除権限」や「局長は大統領任命」に類する独立性や権限の強さが必要だろう。
ISOOは大統領直轄の国立公文書館記録管理庁(NARA)に存在しており、大統領令によって強力な監査機能を与えられている。

よって、情報保全監察室がISOOと同様の機能を果たせるとは全く思えない。


以上が、この4つの組織の紹介と論評になります。

さて、改めてまとめてみたい。
この4つの組織で「監視機能」が働くとは思えない。

内部統制機関としての監視委員会は置いておいて、問題は情報保全監察室(管理監も含める)と諮問会議の位置づけだろう。
監察室を「情報保全管理院」として人事院並の独立性を担保し、その管理院を監察する機関として諮問会議を位置づけるというのであれば、かなり「独立」「公正」は保たれる可能性が高くなる。
人事が数年で元の行政機関に帰る出向組で固められて骨抜きにされない限りは。

こういった機関を置くことは、今の秘密保護法上でも十分可能。
ここまでやって、初めて「第三者機関」と言えるのではないか。

政府には、「独立」「公正」な監視機関のあり方を再考してほしいと強く願う。


追記

今回のことを調べていて気になったことを一つ。
安倍首相は国会答弁でずっと「第三者機関」という言い方をしていた。
4日の参院の特別委員会の佐藤正久議員への答弁の時には、「第三者機関」と言ってから「第三者機関」とわざわざ言い直していることがあった。

そもそも、衆院のみんなの党との修正協議の時に、首相は「第三者な仕組み」という言い方をしている。
よって、この「的」という点に大きな意味があるのではないか?

その後、官房長官や首相がどういう言い回しをしているかはわからないが、「的」というのは「のような」みたいな意味合いだから、「第三者機関」とは意味が相当に変わってくると思うんだが。
映像を全部チェックできてないので、いまはどのような言い方をしているんだろうか。

メディアの方は、そのあたり是非とも検証してほしい。


参考資料

A: マイケル・カーツ(米国国立公文書館記録管理庁(NARA)記録サービス局局長、館長補)「米国における政府公文書へのアクセスの保証―米国国立公文書館・記録管理庁(NARA)の役割―」『沖縄県公文書館研究紀要』第10号(2008年3月)
http://www.archives.pref.okinawa.jp/press/kiyou/kiyou10/kiyou10_07.pdf
→米国の機密解除についての当事者による講演。

B: 今岡直子(国立国会図書館調査及び立法考査局行政法務課)「諸外国における国家秘密の指定と解除―特定秘密保護法案をめぐって―」『調査と情報』第806号(2013年10月31日)
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8331133_po_0806.pdff?contentNo=1
→他国の国家秘密指定、解除についてコンパクトにまとめたもの。

C: 「特定秘密保護における第三者機関の独立性」、sunaharayの日記、2013年12月4日
http://d.hatena.ne.jp/sunaharay/20131204/p1
→砂原庸介大阪市立大学准教授による「第三者機関」のあり方についての解説。非常にわかりやすい。
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コメント 2

渡邊健

みんなの党との修正協議で、「首相」を第三者的機関として位置付けたあたりからおかしな流れが固定化してきたように思います。恐らく、与党の言い分としては、米国NARAだって、大統領直轄であって必ずしも三権分立で言うところの独立機関ではない、議院内閣制の下での首相の方が余程立法機関との関連が強い、というようなことでしょう。日本の国立公文書館も内閣府管轄下ですし。
石破幹事長が国会おけるチェック機能を作るといっており、その発想は当然ですが果たしてどのようなものになるのか。
企業経営でもそうですが、チェックの回数が多ければ良いというものではないですね。保全監視委員会なんて今や全く存在意義を見いだせないと思います。
NAの館長人事や同館の機能を拡大して情報保全監察室的機能を持たせる際の人事等、国会同意を入れ込むことである程度の牽制機能を持たせることができるのではないかと思うのですが如何でしょうか。

by 渡邊健 (2013-12-09 13:58) 

瀬畑 源(せばた はじめ)

> 渡邊健さま

コメントありがとうございます。
なるほど政府の言い分はそのように解釈すればということですか。
そうなると石破さんの言っている話は結構大きな話になりますね。

国立公文書館の拡充については、いずれにしろやらないといけないでしょう。
ただ、すぐにチェック機能までということは、いまの体制からも無理ではないかと。
国会では「特定秘密」解除後に文書を引き受ける以上、拡充をきちんとしないとあかんと大臣が突っ込まれてましたし、国立公文書館の新館建設などには追い風になるかもしれません(権限の拡張は・・・)。
by 瀬畑 源(せばた はじめ) (2013-12-09 16:28) 

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