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民主党の秘密保護法案対案を考える(下) 情報適正管理3法案 [特定秘密保護法案]

政府の特定秘密保護法案がみんなの党や維新と修正されていく中で、11月19日に民主党が対抗するために公文書管理法の改正案と情報適正管理3法案をぶつけています。
民主党はそれ以前にも情報公開法改正案を国会に提出しているので、これで5つの法案が提出されたことになります。(情報公開法改正案についてはすでに分析した。)

衆議院を特定秘密保護法案が通ったのですっかり忘れられてますが、秘密保護制度を考えるためにも分析だけは続けてしておこうかと思います。
ウェブ上に上がっているPDFが文字認識できずコピーできないので、要約で話を進めます。
(ささいなことだが、こういう配慮ができないのはどうかと思う。)

(上)で公文書管理法改正案を分析したので、残りの情報適正管理3法案について書きます。
長文なので分割しようとも考えましたが、切るのが難しいのでそのまま行きます。読みにくい方は要約部分を別のウィンドウに出すか、印刷して読むかしていただければ。


民主党が「情報適正管理3法案」として出しているのは以下の3つ。

A 特別安全保障秘密適正管理法案(以下「管理法案」と略する)
  →政府の「特定秘密保護法案」をベースに修正を行ったもの
B 情報適正管理委員会設置法案(以下「委法案」と略する)
C 国会法改正案


具体的な内容は以下のように要約できる。

「目的」に「知る権利」などが記載(管理法案1条)

②政府案の「特別秘密」を「特別安全保障秘密」(外交及び国際テロ)に限定
 (管理法案3条1項、別表)。
 a)これまで別法で存在していた「防衛秘密」「特別防衛秘密」は除外
  公文書管理法を適用して、そちらで管理
(自衛隊法、MDA秘密保護法改正)。
 b)「適格性確認」(政府案の「適正検査」)は、「特別安全保障秘密」と「防衛秘密」
  「特別防衛秘密」で共通化
(管理法案附則4,5条)。

監視機関として「情報適正管理委員会」を設置(委法案2条)
 a) 内閣府設置法第49条による行政委員会(公正取引委員会や国家公安委員会と同じ。
  いわゆる「三条委員会」にあたる)
(委法案2条)
 b)委員は6名(常勤は最大3名)。事務局も置かれる(年間予算約5億)(委法案6条1、2項、
  17条、末尾の「本案施行に要する経費」)
 c)委員は国会が指名して、内閣総理大臣が任命(委法案7条1項)
 d)「特別安全保障秘密」の指定・解除や適格性確認の基準を定める(管理法案19条)
 e)「特別安全保障秘密」の解除申請、または内部告発による異議申立の際に、
  調査して勧告。勧告に対する措置も報告させる
(管理法案5条)
 f)「特別安全保障秘密」の指定を30年以上行う場合の審査(承認がないと延長不可)
  (管理法案4条4項)
 g)「適格性確認」に不服があったときにその申立を審査(管理法案15条)

④「特別安全保障秘密」に指定できない情報を列挙(不祥事、すでに公表、公正競争阻害目的、
  国・国民の安全確保に必要ない情報)
(管理法案3条2項)

国会に対して管理状況報告、報告の公表義務(管理法案21条)
 a)国会への「特別安全保障秘密」提供は議長が最終決定権限
  (インカメラ審査も可能)
(国会法改正案)

罰則は内部からの漏えいのみ(管理法案23,24条)
 a)未遂、取得(故意に唆した場合などは罰則あり)には特別な罰則は無し
 b)最高刑は政府案の半分の懲役5年

⑦裁判所におけるインカメラ審理を可能に(管理法案11条1項3、4号)

一つ一つ分析してみる。

①について
管理法案1条の「目的」に、「国の保有する情報は本来国民のものであるとの国民主権の理念にのっとり国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由を十分に尊重しつつ、恣意的な情報の秘匿が行われないよう、当該情報の適正な管理に関し・・・」という言葉が挿入された。

政府案に落ちている視点。
これを挿入することは、もし裁判などで秘密指定を争うような事態になったときに、こういった理念が法律に書いてあるのは重要になると思う。

②について
情報を「外国政府又は国際機関との情報共有」に絞った民主党案概要)。
政府案の別表にあった、「防衛に関する事項」と「特定有害活動の防止に関する事項」を全て削除。「テロリズム」については「国際的な」との限定を付けた。

防衛を外したのは「防衛秘密」を外したことによる措置。
特定有害活動を外したのは「公安」関係の条項を削除したということ。この法案が公安警察の強化であるとみなして、ここを外したものと思われる。
「テロリズム」も「国際的」に限定し、国民への恣意的な適用を防いだというもの。

公安を外したのは賛成。
テロリズムを「国際的」に限定することに、実効面で意味があるのかは正直なんとも言い難い。

だが、「特別安全保障秘密」と「防衛秘密」「特別防衛秘密」を分けたのは疑問。
公文書管理法で管理をするということのようだが、その場合は公文書管理委員会が秘密を監視するということになる。
別に情報適正管理委員会を作ることになっているのに、重複して職務をさせるのだろうか。

制度設計上この2つを分けるのはすっきりしない印象。
この3つに公文書管理法を適用した上で、アクセス制限などを秘密管理条項として付けるというのならすっきりすると思うんだが。

③について
民主党案の胆の部分。
第三者機関である「情報適正管理委員会」を作り、委員は国会が選ぶ。
秘密基準を定めたり、解除・延長審査を行う。

・・・うーん。
監視機能を考えたことは評価する。だが不十分にすぎる。

機能面からすると、d~gの機能はすべて重要なので、この点は良いと思う。

問題点としては、「解除・延長以外の審査機能が無い」ということ。
各行政機関から「解除」や「延長」の申請があって初めて審査ができる。

よって、自発的に秘密管理を調査する機能がない。
これでは、「特定秘密」が指定されている間はブラックボックスのままであることは何も変わらない。
「内部告発待ち」みたいな状態になっているのだ。

少なくとも、毎年報告を提出させ、各機関を抜き打ちで調査する権限(秘密管理が徹底されているかの確認も兼ねて)がなければ、監視機能としては不十分だろう。

組織面からすると、公取などと一緒の権限は、「首相が第三者」とか言うレベルよりはマシだが不十分。
(私は最低限人事院と同格であるべきという主張。)

それより問題は「組織が小さすぎる」こと。
年間予算5億なら、委員6名+事務局数人という体制なのでは?

おそらくこういった組織で大丈夫だと考えているのは、「待ち」の組織であるからということなのだろう。
あるいは、公務員を削減しているさなかだから、あまり大きな組織は作れないという配慮か。

国会が主導して委員を指名するかどうかという点が自民から批判を浴びていたが、正直その議論以前に、組織と機能の貧弱さを感じる。
また国会が主導して人選するというのも、どうやるのかイメージがわかない。
国対委員長が集まって、政党バランス考えて委員を推薦するということなのだろうか?

監視機関をろくに検討しようとしない自民党よりははるかにマシだが、残念だがこちらも付け焼き刃で作ったという評価をせざるをえない。

④について
いわゆる「ネガティブリスト」(これに当てはまる情報は秘密指定不可)を定めたもの。
この発想は良いと思う。ここは文句なし。

⑤について
国会に管理状況を報告させるのはいいのだが、このままだと件数ぐらいしか出ないかも。
また、報告内容に対して、国会の側が何か行えると一切書いていないので、ただ単に報告書を受け取るだけになってしまうように思う。

もし監査を機能させることを考えれば「秘密会を開いて監査できる」という条文が必要かもしれない。
また、最低限、「報告内容に異議がある場合は、情報適正管理委員会に調査を要請できる・調査結果を国会に報告させる」ぐらいは入れておくべきではないか。

aの特別安全保障秘密の国会への提供について、議長が最終権限を握るというのは賛成。
前回のブログでも書いたが、今のままだとまだ行政機関側の判断で国会に提出しないことが可能なので。

⑥について
未遂や取得に罰則が無くなったことで、報道関係者などへの適用ということは無くなった。
不正に入手した場合は、普通に刑法(窃盗罪など)が適用されるのだろう。
ただ、漏えいさせた側が厳罰に処されることは変わってはいないので、公務員の側に萎縮効果はあるだろうなとは思う。

私は現在の政府案の厳罰化には反対。あのままでは拡大解釈がし放題になりかねない。
民主党案については、この案にプラスして、監査が機能している(特別安全保障秘密が本当に国や国民の安全などに限定できている)ことと、公益通報制度(不正告発)が整備されていることがあれば賛成する。
この2つが保証されていない時点では、言論弾圧に利用される可能性が高いので断固として反対。

民主党案では、「特別安全保障秘密」の不正適用についての内部告発制度は③eで整備しているが、例えば金銭面などでの不正行為などがあった際の告発制度は整備されていない(この案のままだと、告発した側が漏えいで罪に問われる)。
もう少しきちんと詰める必要のある部分だろう。

⑦について
今の政府案だと、特定秘密の指定をめぐる裁判(行政訴訟)になった場合、その特定秘密文書を裁判官は見ることができない。
それを裁判官が見れるようにするということ。

これは必要な条文だと思われる。


以上が具体的な分析。

総合的な評価としては、「政府案よりははるかに良い」が「まだまだ不十分(特に監視機能)」というところだろうか。
評価できる部分も多いが、根本的には「特別安全保障秘密」である間に監視ができないので、闇に葬られる可能性は残り続けるだろう。
だが、今の政府案を少しはマシにするためのアイデアは含まれていると思う。

では、批判している私はどういう制度を考えているのかだが、すでにブログでは色々と書いてきたし、もう長いので簡単に書くと次のようになる。

公文書管理制度全体を管理・監査する公文書管理庁(院)の設置(100人規模、人事院と同格)
管理庁を監視、または諮問を受ける公文書管理委員会の強化。国会からの監視も可能にするシステムも保証。
秘密文書もすべて公文書管理法の指定下に入れる。その上で、秘密を統一的に管理(アクセス制限など)するための条項を管理法に加える(ないしは別法を作る)。


秘密は統一的な基準で管理し、監査機能を働かせてできる限り最低限の指定に絞る。
文書をきちんと作成させ、勝手に捨てさせず、いつかは国立公文書館等で公開させる。

以上で分析を終わりにします。

追記 BLOGOSに転載されたものを御覧になった方へ

BLOGOSに過去の記事がどこまで転載されるのかわかりませんが、自分のブログで特定秘密保護法案の話は、かなりの本数の記事を書いています。その文脈でこの記事は書かれています。
よろしければご参照のほどを。(転載されるようになったのはここ数日なので。)
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