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秘密保全法案(特定秘密保護法案)と公文書管理法(仮説) [特定秘密保護法案]

安倍内閣は、2013年9月3日から「特定秘密の保護に関する法律案(秘密保全法案、特定秘密保護法案)の概要」(以下「概要」と略す)に対するパブリックコメントを始めた。
「概要」に対するパブコメということで、いまいち意図がつかめないところではある。
だが、公文書管理の視点からすると気になることがかなりあるので、とりあえず現状の考え方をまとめてみたい。
法案の具体的な内容などが出てくれば、意見が変わるかもしれません。

まずは「概要」の説明から。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000103648

秘密保全法案は、機密情報の保全を目的とするもの。
簡単に説明すると、重要な機密文書は「特定秘密」の指定をし、扱う人は適性評価(自分や家族の個人情報を調査される)をクリアした人のみとし、情報の漏洩に対しては漏洩した側だけでなくさせた側も厳罰(懲役刑もある)に処するというもの。

この法案の元となったのは、民主党政権下で行われていた「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」最終報告書(2011年8月8日)。
この報告書が出た当初から、適性評価が人権侵害である、特定秘密を広範囲にかけて国民から情報を隠蔽するために利用される、などといった激しい批判にさらされ、民主党は法案化を断念していた。

ではなぜこのタイミングで自民党が法案を出してきたのか。
これは、前記の最終報告書と今回の概要の違いから推測できる。

最終報告では「秘密とすべき事項の範囲」を「国の安全」「外交」「公共の安全及び秩序の維持」として3つ掲げていた。
このうちの「公共・・・」の部分が強烈な批判を浴びたことは言うまでもない。

今回の「概要」を見ると「国の安全」に絞っており、「外交」の部分についても、安全保障関係の情報にのみ網がかけられているだけである。
これから推測すれば、これが日本版NSC(国家安全保障会議)の設置や集団的自衛権の容認のためであることは想像がつくだろう。
米軍との共同作戦などを行うために必要不可欠という判断だと思われる。
またその観点から見れば、米国から法制化を要請されているのではないか。

この「概要」については、今後多くの新聞や有識者が憲法や人権などの問題から批判をするだろう。
なので、そういったことはそちらをお読みいただくことにして、このブログでは公文書管理法との関係についてのみを書いてみたい。

この「概要」は法案ではないので、細かい部分が分からない。
ただ、もし秘密保全法がこの「概要」の通りに制定されれば、セットで公文書管理法の改正が行われる可能性が高いだろう。
公文書管理法では管理のプロセスを透明化することが重視されているため、秘密保全法にとって邪魔になる条項が出てくるためである。

まず気になるのは、公文書管理法第7条の「行政文書ファイル管理簿」の作成について。
行政文書はすべて管理簿に記載する義務がある。
そうすると、特定秘密を指定された文書も載せる必要が出てくる。

もちろん、表題自体が不開示情報である場合には、一般の利用者に対しては表題自体を隠すことは可能。
しかし、管理簿に載せていないわけではなく、「載せているけれど機関外には見せない」という意味である。
つまり、管理簿自体には「載せる」必要はあるのだ。

もし特定秘密文書の存在自体を、適性評価を通った人にしか教えないということであれば、機関内の職員が誰でも見れる管理簿に情報を載せないということになる。
そうなると、この第7条は秘密保全法とバッティングすることになるだろう。

また、第8条の「移管・廃棄」についても問題が残る。
「概要」によれば、特定秘密の指定は「上限5年で更新可能」(更新制限が無い)となっている。
その指定は「行政機関の長」が行うので、事実上機関内の論理でいくらでも更新可能となる。

その場合、レコードスケジュールとの関係が問題となる。
例えば、公文書管理法第5条(整理)では、文書作成時に保存期間の設定や期間経過後に移管するか廃棄するかを指定(レコードスケジュール)しなければならない。

最長で30年しか保存期間は設定できないが、特定秘密は更新し続ければ、この上限を上回ることができる。つまり、事実上、保存期間の自動延長ということになる。
しかも、「特定秘密」に指定してしまえば、機関内の少数の職員しか見れないわけであり、その判断の客観性は担保されない。
よって、移管されるべき文書が機関内に留められ続けることになりかねない。

また、移管・廃棄の判断はどうするのか。
第8条では廃棄の際には「内閣総理大臣の同意」が必要とされている。
事実上は内閣府の公文書管理課と国立公文書館がそのチェックに関わっている。

もし特定秘密の指定を解除せずに「廃棄」を求められた場合、このチェックは不可能になりかねない。
もちろん本来移管・廃棄ということになれば、機関で不要になった以上、特定秘密を解除してからその判断をあおぐということになると思うが。

特に気になるのは、特定秘密の移管・廃棄については行政機関の長のみの判断で可能になるという法改正が行われる危険性があるかなということ。
今現在でも防衛省からは機密文書であった文書が、国立公文書館に移管されずに廃棄されている(「重要だから破棄する」という理由)とも聞く。
この状況が追認される法改正がなされる可能性には注意を払う必要があるだろう。

機密文書であろうとも、将来的には国民への説明責任を果たすために公開されるべき文書のはず。
実際に米国ではそのようにしているわけだし。
また特定秘密指定を受けていた文書の移管後の保管方法については、法改正とはまた別問題で国立公文書館の側がどのように管理するのかを想定する必要が出てくるだろう。

また、公文書管理法第9条の「管理状況の報告」も関わってくる。
公文書の管理状況の報告が各機関には義務づけられているわけだが、特定秘密指定を受けた文書はどう扱うのか。

ノーチェックにする方向での法改正は極めて危険。
公文書管理制度の歴史的経緯から考えて、チェックする者がいない状況での公文書管理はずさんになる可能性が高い。

特定秘密という重要な文書だからといって、きちんと扱われるとは限らないのが公文書管理の世界だ。
作成から長期間経過後の「特定秘密」文書を、のちの時代の職員が丁寧に扱ってくれるとは限らない。

そうなると何らかの文書管理のチェックは必要なはずだが、それをどうやって担保するのか。
「行政文書の管理に関するガイドライン」の改定で済む問題なのかはわからないところだ。


さしあたり思いついたところだけでも、秘密保全法案を実際に策定した場合、公文書管理法とのバッティングは相当に起きる可能性は高いだろう。
よって、法案化されたときにどういうものが出てくるのかは注視する必要があるだろう。
また場合によっては、情報公開法の請求権の制限(特定秘密文書への請求を制限する)といった改正も付いてくる可能性すらもありうるので。

なにぶん「概要」を元に書いているので、推測を重ねざるをえない。
法案化がされたときに、あらためて内容を精査する必要がある。
その際には上記の内容を踏まえて、再度考え方を整理してみたい。

追記9/22

情報公開クリアリングハウスの三木由希子さんによると、すでに防衛省の「防衛秘密」文書には公文書管理法が適用されていないそうです。

「いちからわかる特定秘密保護法案~特定秘密保護法案は秘密のブラックホール?」
http://clearinghouse.main.jp/wp/?p=785

つまり、上記したような問題は、「特定秘密」でも当然起きることは間違いないということでしょう。
やはい大きな問題を抱えた法案だと思わざるをえません。
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